追記、加筆あり
訂正あり2/8
大阪大学サイバーメディアセンター教授(統計物理学専攻)の菊池誠さんが、毎日新聞の記事を推薦しました。
https://twitter.com/#!/kikumaco/status/149447900445933569
@kikumaco菊池誠
「日本の基準が諸外国よりも緩いとか、子どもに配慮していないといった誤解が一部にありますが、そうではないことが小島記者の解説記事によって示されています」
「食品安全審議会」の今までの経緯を振りかえると、記事は、見出しから懐疑的なものでした。
読み進めるうちに、トホホ、
怪しげな記述が重なっていることに驚きました。
菊池教授は記事の内容をきちんと吟味して皆に勧めたのでしょうか?
どうやら、そうではないらしいのです。
http://mainichi.jp/life/food/archive/news/2011/12/20111219ddm013100039000c.html
食品の放射能規制:新基準、海外より厳しく 現行の値「緩い」は誤解 改定後はより子供に配慮
食品に含まれる放射性物質の規制値について、厚生労働省は年内に新たな基準を設ける。日本の規制値は海外とどう異なるのか。規制値をつくる際の条件や基本的な考え方を、解説した。【小島正美】
Q 日本の暫定規制値は緩いのですか。
A 決して緩いわけではありません。いま問題になっている放射性セシウムの暫定規制値は、野菜や穀類などの食品で1キロあたり500ベクレルなのに対し、欧州連合(EU)は1250ベクレル、米国は1200ベクレル、国際機関のコーデックス委員会は1000ベクレルです。
記事は、小島記者の自問自答形式です。
で、
と比較されていますが、
これ、とんでもない比較です。
米国の規制値の記述は、こちらのFDAのページです。
Table 1には輸入産品 「国内産および輸入の食品 for Food in Domestic Commerce and Food Offered for
Import 」の基準の規制値が書いてあります。
Cesium-134 + Cesium-137は、乳児食品、その他とも370Bq/kgです。
Table2には食品の10%が汚染されていると仮定した時の規制値が書いてあります。
つまり、
DILs (Bq/kg) = [PAG (mSv)] / [f x FI (kg) x DC (mSv/Bq)]
という式の市場希釈率 f=0.1の場合が書かれています。
それがCesium-134 + Cesium-137では1200Bq/kgです。
事故が起きた時は局地的な汚染地には、30%の食品が汚染されたと仮定すべきであるとも書かれており、その場合は400Bq/kgとなります。
日本のセシウムは50%の汚染ですから、10%~30%だというアメリカは、50州からなる広大な国土と、カナダやメキシコからの食料供給も考慮されているのでしょう。
また、3か月から1歳の乳児の牛乳・乳製品に対しては、100%が汚染されていると仮定すべきとも書いてあります。その場合は120Bq/kgとなります。
つまり、Table2は、市場希釈率 fを状況に応じて変えて読みなさい
といってるのです。
(FDAページの
(d) Fractions of Food Intake Assumed to be Contaminated
の項参照 )
したがって、1200Bq/kgだけを較べるのは適切ではないようです。
EUの数字やコーデックス委員会の数字も、前提条件を確認する必要があるでしょう。
Q でも、日本は子供に配慮していないのでは?
A 誤解です。暫定規制値は乳幼児への影響も考慮されています。日本は年間被ばく限度を5ミリシーベルトとし、五つの食品群に1ミリシーベルトを割り当て、各食品群で乳幼児がセシウムで汚染された食品を食べ続けても、内部被ばく線量が年間1ミリシーベルト以下になるよう設定されています。たとえば乳製品の場合、乳児は1キロあたり270ベクレルの規制値でも1ミリシーベルト以下になりますが、実際はより安全になるように、200ベクレルとされています。
「各食品群で乳幼児がセシウムで汚染された食品を食べ続けても、内部被ばく線量が年間1ミリシーベルト以下になるよう設定される」
このこと自体は、別に乳幼児の特別配慮でもなんでもありません。従来からそのように計算しているのです。
小島記事、提灯記事とは言え、なんでもかんでも宣伝キャッチコピーに結びつけるのは、広告文としては出来がわるいのです。私も昔そうした仕事をしたことがありますが、
「なんでもかんでもクライアントを褒めればいい、というものじゃないぜ!」
と上司に叱られたものです。
また、計算値が270でも、200に切り捨てをする。四捨五入ではなく端数は切り捨てる、端数切り捨ては「安全側」に数値を決める上で当たり前のことです。
こんなことまで恩を着せられるいわれはありません。「乳幼児特別配慮」だとはとても言えません。
乳幼児の放射性感受性を配慮するというなら、大人より4~5倍厳しい条件で数値をはじき出す必要があります。
Q でも、コーデックスの一般食品の規制値は日本より高い。なぜですか。
A そこは大事なポイントです。汚染食品の割合をどう見積もるかが、違うのです。チェルノブイリ事故後に基準を作ったコーデックスは、食品の10%が汚染されているという仮定です。EUも同じ考え方です。米国は被ばく限度を年5ミリシーベルトとしながら、食品の30%が汚染されているとして1200ベクレルとしました。日本の暫定規制値は、汚染食品の割合を50%と仮定しています。新規制値作りにあたっては、厚労省が汚染割合をどう仮定するかで大きく変わります。
あ、やっぱり、コーデックスもEUも、市場希釈率(汚染された食品の割合)を10%とした数字だったのですね。
この段落には、
「米国は被ばく限度を年5ミリシーベルトとしながら、食品の30%が汚染されているとして1200ベクレルとしました。」という記述がありますが、
これは、先に紹介したFDA(食品医薬品規制局)のページを見る限り、真っ赤な誤りです。米国の1200ベクレルも、市場希釈率(汚染された食品の割合)を10%としたときの比率です。
「米国は被ばく限度を年5ミリシーベルトとしながら、食品の10%が汚染されているとして1200ベクレルとしました。」
としなくてはなりません。
あるいは、
「米国は被ばく限度を年5ミリシーベルトとしながら、食品の30%が汚染されているとして400ベクレルとしました。」
でなくてはなりません。
日本の暫定基準では、Cs(セシウム)のばあい、市場希釈率(汚染された食品の割合)は50%として計算されています。したがって、米国の値は日本と同じ市場希釈率50%で計算すると、1200ベクレルは240ベクレルとなります。
結論、
「日本の基準が諸外国よりも緩い」
これは、誤解でもなんでもなかったようです。
Q 新たな規制値の特徴は?
A 規制対象の食品区分が▽飲料水▽牛乳▽一般食品▽乳児用食品の四つになります。被ばく限度の評価にあたっては、年齢層を「1歳未満」「1~6歳」「7~12歳」「13~18歳」「19歳以上」の五つに分け、その最も厳しい数値を全年齢に適用して新規制値とする方針です。さらに、乳児用食品は大人とは別の規制値を設けます。食品安全委員会の「子供はより影響を受けやすい」という答申に従ったものです。新規制値が今の5分の1~10分の1ほどになれば、世界でも相当に厳しい規制値となります。
世界でも相当に厳しい規制値だと、無理やり言いたいがために、小島記者はチマチマと小細工を重ねたようです。
乳幼児食品jが、一般食品の基準の半分でしかない、ということは、何かのアピールなのかもしれませんが、前にも申し上げましたように、
とても、
「乳児用食品は大人とは別の規制値を設けます。食品安全委員会の「子供はより影響を受けやすい」という答申に従ったものです。 」
とは、とても言えない不十分なものです。
乳幼児が影響を受ける「牛乳・乳製品」は従来の1/4で、低減率はむしろ低いのです。
Q チェルノブイリ事故にあったベラルーシの規制値は厳しいと聞いていますが……。
A 確かにパンや野菜の基準値は1キロあたり40ベクレルです。しかし、ベラルーシは事故のあった1年目(86年)は被ばく限度を年間100ミリシーベルトとし、92年に1ミリシーベルトに引き下げたのです。最初から厳しかったのではありません。
食品の規制は、できるだけ厳しくすることが急がれます。
小島記者のこのような代理釈明は、
「これ以上厳しくすると商品の供給ができなくなる」
ということを意味しているのでしょうか?
それとも、
「これから先々、もっともっと厳しくしていく」
ということを意味しているのでしょうか?
苦し紛れに近い提灯記事を、読めば読むほど、日本の汚染がベラルーシに引けを取らないもの凄さだ、ということを実感してしまいます。
「日本の基準が諸外国よりも緩いとか、子どもに配慮していないといった誤解が一部にありますが、そうではないことが小島記者の解説記事によって示されています」
菊池誠教授のこの推薦文を、記事はどうやら、完全に裏切ってしまったようです。
菊池誠教授はおそらく、記事の見出ししか読まずに、呟いて(Tweetして)しまったのでしょう。
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追記
では、今回の案では一体何がどうかわるのでしょうか?
放射性セシウムのみ
飲料水 200Bq/l ⇒ 10Bq/l (1/20)
(乳児に対する規定はヨウ素131のみ)
牛乳・乳製品 200Bq/l ⇒ 50Bq/l (1/4)
乳児用品 (新設) ⇒ 50Bq/kg
野菜 500Bq/kg ⇒ 100Bq/kg (1/5)
穀物 500Bq/kg ⇒ 100Bq/kg (1/5)
肉・魚・卵・その他 500Bq/kg ⇒ 100Bq/kg (1/5)
(この3つを新分類では「一般食品」とする)
「改定後はより子供に配慮」
なぁ~んて、言えないじゃないですか!
これを見て、子どもたちのことを大人よりいっそう配慮した、といえるでしょうか?
むしろ、一般食品を1/5にして牛乳・乳製品、乳児用品が1/4の50Bq/l。をなぜ1/5の40Bq/lにできなかったのが、非常に気になります。
・・・弱点を長所のごとく居直る。小島記者の筆のトリックに仰天しました。
(またこれを素早く推薦する国立大学教授にも)
放射能規制:新基準、海外より厳しく 現行の値「緩い」は誤解 改定後はより子供に配慮
毎日新聞2011年12月19日東京朝刊
食品に含まれる放射性物質の規制値について、厚生労働省は年内に新たな基準を設ける。日本の規制値は海外とどう異なるのか。規制値をつくる際の条件や基本的な考え方を、解説した。【小島正美】
Q 日本の暫定規制値は緩いのですか。
A 決して緩いわけではありません。いま問題になっている放射性セシウムの暫定規制値は、野菜や穀類などの食品で1キロあたり500ベクレルなのに対し、欧州連合(EU)は1250ベクレル、米国は1200ベクレル、国際機関のコーデックス委員会は1000ベクレルです。
Q でも、日本は子供に配慮していないのでは?
A 誤解です。暫定規制値は乳幼児への影響も考慮されています。日本は年間被ばく限度を5ミリシーベルトとし、五つの食品群に1ミリシーベルトを割り当て、各食品群で乳幼児がセシウムで汚染された食品を食べ続けても、内部被ばく線量が年間1ミリシーベルト以下になるよう設定されています。たとえば乳製品の場合、乳児は1キロあたり270ベクレルの規制値でも1ミリシーベルト以下になりますが、実際はより安全になるように、200ベクレルとされています。
Q 新しい規制値はどうなるのですか。
A 年間被ばく限度が5ミリシーベルトではなく、1ミリシーベルトに決められます。その根拠として、小宮山洋子厚労相はコーデックス委員会の1ミリシーベルトを挙げています。規制値は間違いなく、いま以上に厳しくなります。
Q でも、コーデックスの一般食品の規制値は日本より高い。なぜですか。
A そこは大事なポイントです。汚染食品の割合をどう見積もるかが、違うのです。チェルノブイリ事故後に基準を作ったコーデックスは、食品の10%が汚染されているという仮定です。EUも同じ考え方です。米国は被ばく限度を年5ミリシーベルトとしながら、食品の30%が汚染されているとして1200ベクレルとしました。日本の暫定規制値は、汚染食品の割合を50%と仮定しています。新規制値作りにあたっては、厚労省が汚染割合をどう仮定するかで大きく変わります。
Q 新たな規制値の特徴は?
A 規制対象の食品区分が▽飲料水▽牛乳▽一般食品▽乳児用食品の四つになります。被ばく限度の評価にあたっては、年齢層を「1歳未満」「1~6歳」「7~12歳」「13~18歳」「19歳以上」の五つに分け、その最も厳しい数値を全年齢に適用して新規制値とする方針です。さらに、乳児用食品は大人とは別の規制値を設けます。食品安全委員会の「子供はより影響を受けやすい」という答申に従ったものです。新規制値が今の5分の1~10分の1ほどになれば、世界でも相当に厳しい規制値となります。
Q チェルノブイリ事故にあったベラルーシの規制値は厳しいと聞いていますが……。
A 確かにパンや野菜の基準値は1キロあたり40ベクレルです。しかし、ベラルーシは事故のあった1年目(86年)は被ばく限度を年間100ミリシーベルトとし、92年に1ミリシーベルトに引き下げたのです。最初から厳しかったのではありません。