00207-01:結城由羅

イラスト:優羽カヲリ

歴史家たちは頭を悩ませていた。
目の前にある本は第一級史料。深い赤色の装丁の本。
『6月21日。夏至。今年はお日柄のよい日、ということでJune brideの言い伝えも相まって純白の花嫁さんがたくさん。マーガレットも咲いているし、6月の宝石は真珠。まるでロイさんの月ですね、と言ったら「分かった。ロイ像に花嫁衣装を着せてやろう」そういう意味じゃない!「ちゃんとミニスカで生足は見えるデザインにしてあげるねう」…違う!』
その名も『藩王さま観察日記』である。


建国の頃から藩王に付き従っていた一人の第7世界人が書いた記録。当然、これを読めば結城由羅初代世界忍者国藩王について理解が深められる筈だった。
曰く、美しい黒い髪と知性の宿る翠色の瞳をした、とても頭が良く面倒見のいい姐御肌だったことまでは伝承の通りである。
当時の第7世界人の例に漏れず、綺麗な女性だったらしい。
『4月8日。第7世界人同士でぷち会議を兼ねたお花見。「俺の結城藩王を返せ!」と複数の男性が叫んでました。後ろ姿は本当に綺麗なんですけどねぇ』
この部分の解釈を巡っては今も意見が割れている。
「後ろ姿が美しいなら、正面からはさほど」「いや容姿は美しかったとの伝承が」「事前に顔見知りだったならば、やはり酒の席での失態を意味した記録ではないか」「だが、以後の日記でもそのような記述はない」
現在での有力な仮説は、『宴席で男性が思わず青褪めるような“や”ばくて“お”ぞましくて“意”味深なことを口にした』が有力である。

結城藩王は謎が多い。
建国についても、以後の政治についても、一貫して『ロイのため』となっている。
猫士の女王から預けられた、後に王猫となる子猫にも『あある・えす』とロイの別名をつけているし、建国に反対する長老を説得する際もどこかの世界から持ってきた銀のロイ像を片時も離さなかった。国中をロイの像のレプリカで埋め尽くしたこともある。
ここまでしておいて、やっと国に滞在したロイと最初に婚姻関係にあったのは別の人物なのである。
「姐御肌が行き過ぎて身を引いてしまったのではないか」「当時の政治問題が多すぎたのではないか」「サブ的な立場を好んでいたのではないか」と言う主流派や新しい仮説が出る中、「実は心は乙女で奥手であった」という意見が昔ながら廃れずに続いている。
くろじゃーから貰った1輪の薔薇手裏剣を挿し木で増やし、現在も世界忍者国の王城に広大な薔薇園が残っていることからの推測である。
この薔薇園には、薔薇手裏剣の薔薇から品種改良された、色の違う一角がある。
竜胆によく似た花を咲かせるこの花の名前は『BLack Perl / 黒にして真珠』といい、くろじゃーなる人物の為に作られたという。
花言葉は竜胆と同じく『貴方の悲しみに寄り添う』である。

尚、冒頭の記述だが、歴史家の中でも「ただの冗談」「著者がからかわれているだけ」「本気だった」と意見が分かれているが、実際に藩国の黒歴史を調べようとする勇気のあるものはまだいない。
文章:桂林怜夜


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最終更新:2014年05月25日 19:40