古森さん「歴史ロンダリング」。(その2)


「歴史ロンダリング」。(その1) のつづきです。


(1)5.14付けブログ
「米軍も日本側の慰安婦は民間調達と認めていた。」
(5月12日付記事の再現) 

に続く記事は 

(2)5・18付け記事
「慰安婦「契約の下で雇用」 米陸軍報告書、大戦時に作成」

です。全文はリンク先でお読みください。問題点を挙げます。

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>当時の朝鮮のソウルで金銭と引き換えに徴募され、ビルマ北部のミッチナ(当時の日本側呼称ミイトキーナ)地区の「キョウエイ」という名の慰安所で日本軍将兵に性を提供していた 朝鮮人女性 20人と同慰安所経営者の41歳の日本人男性が米軍の捕虜となった
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とありますから、古森さんが「再フレームアップ」した資料は、記事(1)と同じもので、記事(2)はその続きのようです。ビルマ移送時22人居た朝鮮人慰安婦は20人に減っています。

 

この記事に該当する英文原文がないので、古森さんの翻訳を信用する以外にありませんが、翻訳文とその解釈との間にすら、飛躍というよりも反転があるようです。

 
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>同報告書は「すべての『慰安婦』は以下のような契約条件の下に雇用されていた」と明記し、女性たちが基本的には商業ベースで「契約」に基づき、「雇われて」いたという認識を示している。
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どうやら記事は、「契約」「雇用」という言葉を使っているから「性奴隷」ではないといいたいらしいようです。しかし、古代奴隷制ローマにおいてすら「契約」「雇用」があったことに留意してください。 問題は、その契約、雇用に、どのような自由があったかということです。移動とか職業選択、退職の自由などです。では、内容をみてみましょう。

 

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>1、 「個々の慰安婦はその総売り上げの50%を受け取り、無料の移動、食糧、医療を与えられた。移動と医療は軍から供与され、食糧は慰安所経営者が軍の支援を得て、購入していた」
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これを、軍による好待遇の証、とでも読ませたいのでしょうか? 軍の駐屯地に付属した慰安所に拘束され、部隊とともに移動したことを示し、まさに「従軍」慰安婦であったことを物語ってるではありませんか。

 

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>2 「経営者たちは衣類、日常必需品、さらにはぜいたく品を法外な値段で慰安婦たちに売りつけ、利益をあげていた」
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つまりこれは、「総売り上げの50%を受け取り」が建前でしかなく、実際は売上の多くが経営者の懐に入ったということです。つまり、歩合制なんてあってなきがごとし。古森さんがアメリカのテレビに出演して「軍慰安婦は高給取りだった」と発言したことを覆す内容でもあります。

 

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>3 「慰安婦の女性がその家族に支払われた金額を利子付きで返済できるようになれば、朝鮮への無料の帰還の便宜を与えられ、自由の身になったとみなされることになっていた。だが戦争の状況のために、このグループの女性はだれも帰国を許されなかった」
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(この部分はとくに原文検証したい部分です)

さあて、ここではっきり書かれていることは、彼女たちが買われた時に支払われたのは、『代金』ではなくて『前借金』だったということです。

それが高額であればあるほど、その返済は容易ではないし、2項のような搾取があればなおさら返済は困難だったのでしょう。
 

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>4 「この日本人が経営した慰安所では女性1人の2カ月1ヶ月の総売り上げは最大1500円、最小300円程度だった。個々の女性は経営者に毎月、最低150円は払わねばならなかった」
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※ 「2カ月の総売り上げは 」は、明らかな古森氏の誤訳です。わたしも見過ごしてしまいました。
http://pr3-at-iza.iza.ne.jp/blog/entry/177019/

したがって、以下の文章も直さなくてはなりません。 

2ヶ月の売上が300~1500。ということは、1ヶ月で150~750.経営者に毎月、最低150円ですから、収入は単純計算で、0~650円以下です。水揚げの多い女性ほど、服や調度の高いものを買わされていたはずですから、0~300円ぐらいとしても多過ぎるはずです

1ヶ月の総売上が、300~1500ということは、彼女たちの取り分が、150~750.食費などで最低150の天引きですから、残るは 0~600.水揚げの多い女性ほど、服や調度の高いものを買わされていたはずですから、いったいどれだけの額を蓄えられたのでしょうか。


さらに、ビルマ前線での軍票の円は、いったい朝鮮銀行券の円とはどのようなレートで交換されたのでしょうか? 10:1ぐらいでしょうか? それとも交換不能だったでしょうか? いずれにしても経営者が、「前借金は朝鮮銀行券の円で返せ」といったら、返すことは絶望的です。

 

以上をまとめますと、次のような古森さんのまとめは、言語道断です。

 

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> 以上のように、この報告書は慰安婦の「雇用」や「契約条件」を明記するとともに、慰安婦だった女性は一定の借金を返せば、自由の身になれるという仕組みも存在したことを記し、「軍の強制徴用」とか「性的奴隷化」とは異なる認識を当時の米軍当局が有していたことを証している。
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このようなことを、実態をなにも検証せず述べることは、恥ずべきことといわざるを得ません。

 

確かに、前借金と借金で娼婦たちを縛る。それは日本人娼婦の世界でも同じでした。しかし、日本人従軍慰安婦と朝鮮人従軍慰安婦との違いは、前者の多くが既に娼婦であって戦地へは志願でいったものが多かった、しかも花代が圧倒的に高かったことです。

 

古森記者が実証しなくてはならないのは、彼女たちに職業選択の自由があったのか、帰国の自由がどれだけあったのか、実態的な検証です。ビルマから帰国できた朝鮮女性を探し出して、ジャーナリストとしての根性を示してみてはいかがでしょうか?

 

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いずれにしても、古森記者が2回に分けて記事にした、米軍による尋問調書は、

1、軍の内示計画にもとづく人身売買

2、売買代金は「前借金」

3、軍の完全お膳立てによるビルマ移送

4、慰安婦は「捕虜」という形の財産

5、慰安婦は部隊に付属し部隊に従軍した

6、借金はいつまでたっても減らない仕組み

7、完済して帰国できた慰安婦はひとりもいなかった 

ということを示しています。

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※古森さんは後に、重ねて言及するブログをアップしましたので以下、それにも検討をくわえてみます。


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>慰安婦は日本の民間業者と女性たちの間の「契約」に基づく「雇用」であるーーという認識が米陸軍の調査報告書にありました。英語の原文を書いておきましょう。

Every "comfort girl"  was employed on the following contract conditions.

カギは「employed」と「contract」という言葉です。「雇われていた」「雇用されていた」 そして「契約」に基づいて、というわけです。
そのあとに「契約条件」の説明として以下のような記述があります。

She received 50% of her own gross takings, and was provided with free passage, free food and free medical treatment.

ここには「強制徴用」とか「奴隷化」という言葉はまったく出てきません。

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「雇用」とか「契約」はギリシャの奴隷にもありました。職業選択の自由、移動の自由がどれだけあったでしょうか?前借金で縛られて、部隊に従軍して国に帰れない女性たちは、職業婦人として自立してたとでもいうのでしょうか?


※ しかも、この20人の慰安婦の証言(別資料)を参照すると、彼女たちは売春を行うものとの説明はうけず、詐術よって変われた経過が証言されています。



古森さん
>She received 50% of her own gross takings, and was provided with free passage, free food and free medical treatment.


これをあたかも、有利な雇用条件であるかのように誇らしげに宣伝するに至っては、産経新聞の有力記者さんであるだけに、開いた口がふさがりません。(理由は前述)

まさか、free passage を 自由乗車券だと前途有為の若者たちに思わせようというのではありますまいね? 

(追)街中を買い物に出かける自由はあったみたいですけど。 







最終更新:2017年03月30日 19:09