追記あり 4/5 06:55
文部科学省は、3号機が大規模な水素爆発をした直後の3月15日から、福島第一原発から20km以上はなれた場所での放射線モニタリング調査をはじめました。飯舘村や浪江町津島で、とても高い放射能値をしめしました。17日には、浪江町津島で1時間当たり150~170マイクロシーベルトを記録していました。
私は、文部科学省のWEBサイトを見てそのことを知ったのですが、このような重要な情報を、新聞もテレビも一切報道しないのです。テレビの「放射線観測マップ」には、福島市がもっとも高い場所として示されたものの、飯舘村や浪江町の名は消されていたのです。そのころのテレビの大合唱は、「健康には一切影響がない」「風評被害に気をつけよう」の大合唱でした。
私は、ささやかな警鐘を鳴らそうと、3月21日までのデータを要約して、WEBにアップしました。
この時期が一番高いデータを示していたのですが、未だに報道からはこの情報が漏れているのです。放射性物質の汚染は今後、陸上の農業問題、海上の漁業問題、幼児、乳児、胎児の健康問題として、長期の問題となるでしょう。そのときに、この「忘れられた中濃度被曝」を無視すると、とんでもないことになるでしょう。
飯舘村は、さすがに水道水の汚染やIAEAの土壌データが出ましたから、その名が報道されるようになりました。しかし、今も最高値をしめす浪江町島津津島の名は殆ど登場しません。
これは太平洋戦争の間、どんなに負け戦でも「敵に大打撃!味方の被害軽微」との発表を繰り返してきた『大本営』と、それに追随した報道機関のありようと、まったく同じです。
下記のNHK記事は、放射性物質の流出予測SPEEDIの発表が遅れた裏の、内部事情を報じたものです。SPEEDI予測とは、国の原子力安全委員会(委員長:班目春樹東大教授)が大綱文書「原子力施設等の防災対策について」で、防災対策実施の重要な判断材料として、早急に公表することを自ら義務付けています。そもそも、これがなければ、総理大臣の下にある「緊急対策本部」の施策も適正には動かないはずのものです。
そもそも3月15日中か翌日の16日に「予測」として発表されなくてはならないものでした。それが観測データがどうしても覆せないことを知って、3月24日になって周回遅れの「結果」として、ようやく発表されたのです。
NHK記事の文章は婉曲ですが、「遅れた原因はシステムの不具合ではなかった、都合の悪いデータは伏せておきたい」、というまさに『大本営』的なものであることを示唆しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110404/t10015080851000.html
国 放射性物質の予測公表せず
4月4日 4時15分
福島第一原子力発電所の事故で、国は、爆発が起きた翌日の先月16日、原発の北西にある福島県飯舘村などに 放射性物質が多く流れると予測したコンピューターシミュレーションの報告を受けましたが、「データが正確でない」として公表を見送っていました。こうした 予測データの公表の在り方を巡ってはさまざまな意見があり、今後検討の対象になりそうです。
この予測は、先月14日から15日にかけて、福島第一原発で爆発などが相次いだことを受け、国の委 託を受けた分析機関が翌日の16日に「SPEEDI」というコンピューターシステムを使い、計算されました。このシステムは、原子炉の温度や圧力などさま ざまなデータを基に、原発から放出された放射性物質の量を見積もり、気象データなどから放射性物質の広がりを予測するものです。
分析機関では、震災で原子 炉のデータが十分に得られないため、その時点で公表されているデータなどを基に、放射性物質の放出量を仮定し、15日の午前0時から24時間にわたって放 出されたと想定しました。
その結果、放射性物質は南西の方向に加えて飯舘村など北西の方向にも帯状に流れ、こうした地域では屋外で24時間過ごした場合 に、乳幼児が受ける甲状腺の内部被ばくの量が人体に影響が出る可能性があるとされる100ミリシーベルトを超える所があるとしていました。SPEEDI は、原子力事故が起きた際に放射性物質の広がりを予測し、政府が避難や屋内退避の指示などを決める際の判断材料にするために作られたものですが、この予測 は公表が見送られました。
これについて国の原子力安全委員会は「その時点では、放射性物質が放出された場所や量などが特定できておらず、データが正確では ないため公表しなかった」(※0)としています。
一方、被ばく医療に詳しい長崎大学の長瀧重信名誉教授は「国は、どれぐらいの被ばくが予想され、どれぐらいの危険 があるかをもっと公表し、住民と共に避難などの対策を決めるべきだ」と話すなど、今回のような予測データの公表の在り方を巡ってはさまざまな意見があり、 今後検討の対象になりそうです。
※0 これは詭弁です。文部科学省のモニタリングデータが一応出揃うのを待ったとしても、17日には公表できたはずですから。 事実はたぶん、安全委員会は16日に動画データを得たが、報道管制をしてしばらく秘匿することにしたと思われます。「原子力施設等の防災対策について」に目を通したことが、あるごく一部の記者だけが、SPEEDI公表遅れを問題にしたのでしょう。
都合の悪い情報は隠し、情報を統制する、という『大本営』的な動きは、次の記事からも裏付けられます。
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY201104020166.html
放射性物質予測、公表自粛を 気象学会要請に戸惑う会員
2011年4月2日
福島第一原発の事故を受け、日本気象学会が会員の研究者らに、大気中に拡散する放射性物質の影響を予測した研究成果の公表を自粛するよう求める通知を出していたことが分かった。自由な研究活動や、重要な防災情報の発信を妨げる恐れがあり、波紋が広がっている。
文書は3月18日付で、学会ホームページに掲載した。新野宏理事長(東京大教授)名で「学会の関係者が不確実性を伴う情報を提供することは、徒(いたず ら)に国の防災対策に関する情報を混乱させる」「防災対策の基本は、信頼できる単一の情報に基づいて行動すること」などと書かれている。
新野さんによると、事故発生後、大気中の放射性物質の広がりをコンピューターで解析して予測しようとする動きが会員の間で広まったことを危惧し、文書を出した。
情報公開を抑える文書には不満も広まり、ネット上では「学者の言葉ではない」「時代錯誤」などとする批判が相次いだ。「研究をやめないといけないのか」 など、会員からの問い合わせを受けた新野さんは「研究は大切だが、放射性物質の拡散に特化して作った予測方法ではない。社会的影響もあるので、政府が出す べきだと思う」と話す。
だが、今回の原発事故では、原子力安全委員会によるSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測)の試算の発表は遅すぎた。震災発生から10日以上たった23日に発表したときには、国民に不安が広まっていた。
気象学会員でもある山形俊男東京大理学部長は「学問は自由なもの。文書を見たときは、少し怖い感じがした」と話す。「ただ、国民の不安をあおるのもよくない。英知を集めて研究し、政府に対しても適切に助言をするべきだ」
火山防災に携わってきた小山真人静岡大教授は、かつて雲仙岳の噴火で火砕流の危険を伝えることに失敗した経験をふまえ、「通知は『パニック神話』に侵さ れている。住民は複数の情報を得て、初めて安心したり、避難行動をしたりする。トップが情報統制を命じるのは、学会の自殺宣言に等しい」と話してい る。(鈴木彩子、木村俊介)
【参考】新野メッセージ抜粋
http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj/others/News/message_110318.pdf
2011年3月18日
日本気象学会会員各位
日本気象学会理事長
新野 宏
(略)
一方、この地震に伴い福島第一原子力発電所の事故が発生し、放射性物質の拡散が懸念されています。大気拡散は、気象学・大気科学の1つの重要な研究課題であり、当学会にもこの課題に関する業務や研究をされている会員が多数所属されています。しかしながら、放射性物質の拡散は、防災対策と密接に関わる問題であり、適切な気象観測・予測データの使用はもとより、放射性物質特有の複雑な物理・化学過程、とりわけ拡散源の正確な情報を考慮しなければ信頼できる予測は容易ではありません。今回の未曾有の原子力災害に関しては、政府の災害対策本部の指揮・命令のもと、国を挙げてその対策に当たっているところであり、当学会の気象学・大気科学の関係者が不確実性を伴う情報を提供、あるいは不用意に一般に伝わりかねない手段で交換することは、徒に国の防災対策に関する情報等を混乱させることになりかねません(※1)。放射線の影響予測については、国の原子力防災対策の中で、文部科学省等が信頼できる予測システムを整備しており、その予測に基づいて適切な防災情報が提供されることになっています(※2)。防災対策の基本は、信頼できる単一の情報を提供し、その情報に基づいて行動することです(※3)。会員の皆様はこの点を念頭において適切に対応されるようにお願いしたいと思います。
※1 まさに「大本営」そのものです。
※2 SPEEDIは、「適切な防災情報を提供する」機能を果たしていません。
※3 学問をなすものはすべからく政府の情報エージェントになれ、と? それとも「気象学」は学問ではない、と?
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『大本営』的なるものには、いずれも東京大学教授が関わっていることに、注目せずにはいられません。
今朝のNHK7:00のニュースを聞いたかぎりでは、原子炉の冷却安定化体制ができるまでには数ヶ月もかかるという。原子炉の密封には、さらに何年もかかるかもしれません。
そうした今、
1、避難地域の拡大
2、避難者の一時帰宅
3、農作業、学校の再開は可能か
こうした重大な判断が迫られています。汚染状況の確かな情報とそれに基づく緻密な予測は欠かせません。住民の冷静な判断をうながすためにも、『大本営』的な隠蔽を排して、情報公開が求められます。
すべては、住民の命と健康を守るために。
追記 4/5 06:55
以下は、上記SPEEDIのことではありません。気象庁が観測した風向風速のデータから、汚染物質がどのように拡散し、濃度のパーセンテージが変化していったかを、動画MAPとしてシミュレーションするものだそうです。
これを気象庁が隠しつづけてきたということは、上記の気象学会新野理事長メッセージと、セットで読む必要があるでしょう。
気象庁拡散予測「公表すべきだった」…官房長官
読売新聞 - 04月04日 16:46)
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、気象庁が放射性物質の拡散予測を連日行いながら、公開していなかったことに関し、枝野官房長官は4日午後の記者会見で、「少なくとも隠す必要のない情報。誤解を生まない説明を付けて、公表すべきだった」と述べた。
気象庁の予測は、国際原子力機関(IAEA)の要請に基づくもの。国境を越える放射性物質汚染が心配されるときに、各国の気象機関が協力して拡散予測を行う。
同庁では、東日本大震災当日の3月11日から毎日1~2回、拡散予測を計算している。