8年たっての復刻です。リンクアウトご容赦ください。可能なものから順次つなげていく所存です。

4月6日 『海のカナリア』についての流言飛語


 

コウナゴ(小女子)

 


春を知らせるコウナゴ漁。
そのコウナゴが、私たちに危険をしらせてくれる
『海のカナリア』になってしまいました。

 

 

目次
1、海のカナリア
2、流言飛語
3、内部被曝の量
4、年少者ほど大きい影響
5、甲状腺に集積する

6、おわりに

 


1、海のカナリア

 

むかし炭鉱夫は、
地下深い採炭現場にカナリアを連れて行きました。
人間が一酸化炭素中毒でたおれるまえに、
小さな命であるカナリアが倒れて、
その命と引き換えに「逃げろ!」と報せてくれるからです。

 

近くは1995年、
地下鉄サリン事件を起こしたオウムのサテアンに
警察が強制捜査に入ったとき、
機動隊員が鳥かごに入ったカナリアを手にしていたことを、
皆さんも覚えているでしょうか?

 

どんな化学物質か正体がわからない毒物は、
どんなに猛毒でも、
電子的なセンサー、計器で検知することはできません。
ですから、カナリアを連れて行ったのです。

 

北茨城市漁協が捕ったコウナゴは、
海岸から30キロメートルも離れたところにいる、
海上保安庁? の公式モニタリング船では、
決して測ることができない、
沿岸の放射能を検知しました。

 

コウナゴはイカナゴの稚魚だとか・・・。
おそらく、エサを求め、
群れをなして沿岸を遊泳していたのでしょう。

 

福島第一原発からの高濃度放射線汚染水は、
おそらくは私たちよりは敏感であろう魚たちの五感によっても、
それが危険な水だとはわかりません。

むしろ原発からの汚染水が、温度が高い水ならば、
プランクトンが繁殖しやすくなります。
そうすれば小魚が食べに集まって来ます。

海のカナリアとなってくれたコウナゴも
そうして集まってきたのでしょうか?

 

コウナゴは、
公式モニタリング船では察知できなかった危険を、
私たちに報せてくれたのです。

 

1キログラムあたり4080ベクレルの
放射線を体から発する体内被曝者となって

 


 

2、流言飛語 ~間違った情報に惑わされないようにしよう~

 

ところがこの『海のカナリア』コウナゴに対して、
流言飛語を垂れ流すメディアがあるのです。
 

テレ朝系列のテレビ局です。


私は、きょう午前8時からの「モーニングバード」をみました。
「モーニングバード」は、4月4日から「スーパーモーニング」に替わる新番組として始まったそうです。司会は、日テレから転属した羽鳥慎一氏と、「スーパーモーニング」 から継続の赤江珠緒氏です。

 

そこに「専門家」と称する“先生”が収録インタビューとして現れ、
次のようなことを言ってのけたのです。

このコウナゴの、
放射性ヨウ素4080ベクレルという値は、
毎日1キログラム1年間食べ続けたとしても、
レントゲン1枚の放射線量にすら満たない!

言ってのけたのは、東京水産大学の石丸隆教授という方でした。お写真がないのは大変残念です。羽鳥、赤江、おふたりのMCも、これを専門家の意見として繰り返し、強調しました。

 

この石丸教授の意見は、果たして正しいのでしょうか?
もしこの話がウソであったとしたら、
金 輪 際、
テレ朝日の報道は信頼できないということになります。

 


 
3、体内被曝の量

 

体内被曝による放射線の人体影響は、そのメカニズムにおいても疫学調査の解釈においても対立した学説があります(※)

 

政府の原子力安全委員会は、原子力発電や核燃料サイクルを推進する立場から、国際放射線防護委員会ICRPの勧告にそって、内部被曝による身体影響を外部被曝のそれに換算するしかたを定めています。

 

(※)原子力安全委員会の考え方だと広島原爆の時、肉親を探しに後から市内に入った人の被曝や、爆心地から2キロ以上はなれた人の原爆後遺症を殆ど切り捨てることになりますが。

 

では、内部被曝量を
原子力安全委員会の指針にそって計算してみましょう。

 

「環境放射線モニタリング指針」平成 20年 3月 原子力安全委員会という公式文書には次のように記されています。

2.内部被ばくによる預託線量

ある放射性核種の一年間の経口摂取又は呼吸による預託実効線量は、〔表I-1〕の実効線量係数を用いて次式により計算することができる。

預託実効線量(mSv)

=実効線量係数・表I-1の値(mSv/Bq)×年間の核種摂取量(Bq)

市場希釈補正、調理等による減少補正は必要があれば行う(※)

(※)コウナゴは、生で食べても一夜干しで食べても、できるだけ鮮度の良いうちに食べますから、半減期が過ぎて放射線が減少するという補正は必要ないでしょう。

 

 

ヨウ素131に対する実効線量係数・表I-1の値とは以下のとおりです。

成人の実効線量係数(mSv/Bq)
I-131 経口摂取  1.6×10-5 

これによって、成人の預託実効線量(mSv)(※)というものが計算できます。

 

(※)実効線量というのは、内部被曝で体全体が受けた影響を、一定の理論モデルに従って、外部被曝の線量と同じ単位に便宜的に換算しようとするものです。預託というのは、体に取り込まれた放射性元素が半減期や代謝で減る(減衰する)もののゼロにはならないことを考えて、一生受ける放射線影響に換算(積分)したものです。胸のレントゲンは一瞬の被曝影響ですが、内部被曝は厳密には一生涯ゼロにならない影響だからです。

 

これは、「その日に食べた食物の一生涯にわたる放射線影響」のことで、「一生食べ続けたときの放射線影響」ではありません。似て非なるものを言葉の綾で、手品のようにゴマかす「専門家先生」がいますから、騙されないで下さい。

 

 

成人が問題のコウナゴ1kgを食べたときの預託実効線量
XmSv
=1.6×10-5 mSv /Bq×4080Bq/kg×1kg
=6.53×10-2 mSv=65.3μSv

 

成人が問題のコウナゴ1kgを1年間毎日食べ続けたときの預託実効線量
YmSv
=1.6×10-5 mSv /Bq×4080Bq/kg×365kg
=6.53×10-2×3.65×10+2
=23.8mSv・・・・・・(1)

 

これは、体全体で23.8mSvの影響を受けたという放射線量です。
なるほど、胸のレントゲン撮影での線量が50mSvだとすれば、その約半分ですから、

レントゲン1枚の放射線量にすら満たない!

と仰る石丸隆教授が、一見正しいかに見えます。

 

ところが、
胸のレントゲン撮影1回分は、50mSvではなくて、50μSvです。

 

石丸隆教授は、マイクロをミリに、1000倍も数値を間違えていたのです!
あきれました!!

 

それを後生大事に報道する、

テレ朝「モーニング・バード」にも呆れましたが。

 

 

本当は、1キログラムを食べてだけで、胸のレントゲン撮影1回分以上の65.3μSvになるのです。 

1年間食べつづけたとき23.8mSvは、胸のレントゲン撮影の460倍です。

 

 


4、年少者ほど大きい影響

 

あきれた教授の流言蜚語は、単位を間違えて1000分の1にでっち上げただけではありません。ヨウ素131における大きな問題は2つあります。

 

その1つは、幼児、乳児への影響と成人への影響とでは桁違いに違うことです。石丸教授の頭にはそのことは微塵もないようです。
 
「環境放射線モニタリング指針」には次のように書かれています。

また、放射性ヨウ素については、〔表I-2〕より、年齢に応じた適切な実効線量係数を用いる。

〔表I-2〕には、

幼児及び乳児の実効線量係数*(mSv/Bq)の値
I-131 経口摂取  幼児(4歳まで)7.5×10-5  乳児(1歳まで)1.4×10-4

とあります。
これを用いて、式(1)を計算し直しますと、
 
幼児(4歳まで)が問題のコウナゴ1kgを1年間毎日食べ続けたときの預託実効線量は

 

YmSv=112mSv
となり、

非常事態の原子力施設作業者の年間リミットを超えてしまいます。

 

幼児はコウナゴ1kgを食べることは先ず有りませんから、確かにこれは非現実な仮定計算ではありますが、成人との影響の差を見てください。幼児には成人の5倍の影響があるということです。

 

因みに乳児は、
YmSv=208mSv
となりますから、乳児に対する影響は成人の約8倍です。

 

以上は、ヨウ素131による内部被曝の影響が、体全体に平均して現れると仮定したときの換算式です。

 



5、甲状腺に集積する

 

実際には、ヨウ素131による内部被曝の影響は、体全体に平均して現れるのでは無くて、影響の殆どが甲状腺という喉(のど)にある小さな内分泌腺に集中します。

 

誤解の無いように申し添えますと、根拠は反原発学者の理論ではなく、原発推進の原子力安全委員会の見解です。

 

原子力安全委員会は、体内に放射性ヨウ素131が取り込まれても、その80%はまもなく体外に出て、20%が甲状腺に集まって健康影響を与える、というモデルで計算しています。

 

「環境放射線モニタリング指針」はこのことを次のように記しています。

なお、原則として甲状腺等の預託等価線量は平常時のモニタリングにおいては算定の必要性はないが、原子力施設からの予期しない放射性物質の放出があった場合等において放射性ヨウ素による甲状腺の預託等価線量が相当に上昇する可能性があって算定の必要が生じた場合には、〔表I-3〕の線量係数を用いて、上記と同様な方法で計算できる。なお、計算に用いる呼吸率は〔表I-4〕に示した。

ここに、甲状腺の預託等価線量という新しい言葉が現れています。これはどういうことかというと、私の理解では、

 

「内部被曝が甲状腺に与えた影響を、もし外部からの放射線被曝で与えるとしたら、全身にどのくらいの放射線を与えると等価になるか?」、それを示した数値が甲状腺の預託等価線量です。

 

等価線量は、体内の器官や組織ごとに考える時に使う数値です。それに対して実効線量というときは、体全体で考えるときにいう数値です。

 

〔表I-3〕の線量係数は

I-131 経口摂取で
成人3.2×10-4mSv /Bq
幼児1.5×10-3
乳児2.8×10-3

です。

これを用いて(1)の計算をしなおしますと、


成人が1kgを365日続けて食べたときの甲状腺の預託等価線量ZmSv
=3.2×10-4 mSv /Bq×4080Bq/kg×365kg
=3.2×10-4×1.49×10+6
=476mSv

 

これはなんと、胸部レントゲン9万回分となります。胸部レントゲン9万回分を全身に当てたときに、こうむる甲状腺の被害といってよいでしょう。

 

甲状腺が取り入れた放射性ヨウ素131による被曝影響は、23.8mSvなのですが、甲状腺という小さな組織に影響が集中したことを考えなければなりません。これは、全身に外部放射線を476mSv浴びたときに受ける甲状腺の被害に等しい、ということを意味します。

 

以下幼児と乳児の計算もしてみますが、成人との比率だけを重視してください。


幼児(~4歳)が1kgを365日続けて食べたときの甲状腺の預託等価線量

ZmSv
=1.5×10-3 mSv /Bq×4080Bq/kg×365kg
=1.5×10-3×1.49×10+6
=2235mSv

 

幼児(~4歳)は成人の5倍弱のダメージです

 

乳児(~1歳)が1kgを365日続けて食べたときの甲状腺の預託等価線量ZmSv
=2.8×10-3 mSv /Bq×4080Bq/kg×365kg
=2.8×10-3×1.49×10+6
=4172mSv

 

幼児(~1歳)は成人の8倍近いダメージです

 

原子力安全委員会は、飲食物の規制においては、この一番評価のきつい、「乳児(~1歳)の甲状腺の預託等価線量」という計算式を用いています。飲食物全体で、乳児(~1歳)の甲状腺の預託等価線量50mSvを超えないよう基準値を設定(※)しているのです。

 

(※)「原子力施設の防災対策について」原子力委員会 平成22年10月改訂

http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/2961.html

5-3 防護対策のための指標 

http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/2982.html#id_6ca9a528

「原子力施設の防災対策について」p108 付属資料14参照

 

ちなみに、
50mSvのうちの2/3を「飲料水」「牛乳・乳製品」「葉物野菜」の3つのカテゴリーに1/3づつ振り分け、50mSvのうちの1/3を「その他の食物」に振り分け、暫定基準値を定めています。

 

 

 

原子力安全委員会は、安定化ヨウ素の服用に関しても、この乳児(~1歳)の甲状腺の預託等価線量を使って、服用規準を決めています。その際には線量係数は、吸入摂取の係数を用います。

 

本来ならばコンピュータシステムSPEEDIを使って、それぞれの地点での環境中の放射性ヨウ素131濃度の時間変化を予測し、それによって安定化ヨウ素を予防的に服用することになっていました。しかしSPEEDIの結果は2週間近く隠され、住民への安定化ヨウ素の服用指示は適切には行われなかったのです。予防のチャンスは失われてしまいました。

 


 

6、おわりに

 

水産大学の石丸隆教授の言動と、それを撒き散らすテレ朝が、流言飛語の元になって居るか、これでお分かりになったと思います。 

 

なお、

私は高校で物理を学んだものの惨憺たる成績でした。そんな私が、様々な「先生」が発する流言飛語と原子力安全委員会の文書から、内部被曝に関する概念と計算を学ばせていただきました。

 

福島第一原発のシビア(過酷)な現状に目がいってしまって、勉強は不充分です。しかしここに記して、みなさんのご批判、点検を仰ぐこととしました。

 
 

以上

(4/5 14:50 脱稿)

 

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最終更新:2019年02月08日 08:16