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孔明「これがチハちゃんですか」

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孔明「これがチハちゃんですか」  ◆m8iVFhkTec





キュラキュラキュラキュラキュラキュラ……

              ________
              ` 、==',=; ii,,_/_"
               ,'  ̄  :`:i:r:-_'-_o
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       '、_ソ:' /  (● ●`::' .`::' .`::' .`: /三/ 二/‐' /三/
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          `ー ′ .|)
              し'   J
迷彩色が施された巨大な鉄の塊が、歯車の軋んだような音を立てながら石畳を踏みしめ行く。
傍らに付き従うのは小太りの男。前のめりになった姿勢からは疲労の色が伺える。

「ふむ、兵士にしてはだらしなさ過ぎる体型だが……。
 とりあえずあの顔つきからして、日本人なのは間違いあるまい。
 加えて殺し合いにおいて戦車を走らせるなど、参加者にしてはあまりにも異色」
「うむ、いささか不自然にもほどがある。
 スターリン殿、やはりあの者たちはファシストの一員なのでしょうか」
「あぁ、私はそう見ている」

物陰に身を潜めつつ、軍服と道服の二人の男が尾行していた。
数刻前にライオンを生捕る事に成功した、スターリンと孔明である。

まず、彼らは『学校を本拠地に据えて反逆を行う』事を行動方針と決めた。
それに際し、周辺の地理を把握する必要があるとして、散歩を行っていたのだ。

また散歩を兼ねて、スターリンは孔明に現代に関する知識を教えていた。
そりゃあ、パルチザンの参謀が現代的知識ゼロでは非常に都合が悪い。
そんなわけで「わからない物があれば全て聞け」とスターリンが言った所、孔明はひっきりなしに尋ねまくっている。


そんなこんなで殺し合いが開始されてから10時間が経った、今。
ようやく敵と思わしき日本人を発見したのである。

「ところで……スターリン殿、あの『戦車』とは一体どのような物なのでしょうか」

孔明にとっては未知の物体であるソレを指さして尋ねた。
彼の居た時代には当然、そのようなカラクリ兵器は存在しない。
三国時代における戦車と言えば、俗に言うチャリオットの事を指す。
説明を求められ、スターリンは快く応える。

「我が時代における陸上の主力兵器よ。
 簡単に言えば、鎧を被った動く大砲だ。
 中に乗り込んで操作すればいい、力は要らない」
「ほう」
「大砲の破壊力もおそらく貴様の想像以上だろう。
 引き金を小指でちょいと動かせば、建物一つが木端微塵だ」
「素晴らしい……」

深く関心した孔明は、撫でまわすように車体を観察していた。
全方位へと可動する砲塔、不整地に強いキャタピラ、攻撃が飛ぶであろう前面を重視された装甲。
戦車には一切の無駄な要素は無い。その形状は、どこまでも洗練されている。
孔明はそんな戦車に強い魅力を感じていたのである。

「おいおい戦車も知らねーのかよ。サバンナですら常識だぞ」

そこへ水を差してきたのは、言葉を話すライオンである。
学校へ置いておくのには若干危険だと考えたため、連れて来たのだ。

「そんなんじゃ真っ先に狩られるぞ?
 これ王からのアドバイスね」
「…………」

誰も反応を返す事は無く、忠告は黙殺される。
下手に返答を返しても、人間側が不快になるかライオンが逆上するか、となるからである。

学校から移動している間に、ライオンは度々このような皮肉を投げていた。
まるで手錠のように縄で前足を縛られ、しかも拳銃を突きつけられたまま先頭を歩く状態。
自由奔放を好む彼には相当不快な状況なのだ。
ライオンを手駒として使う事を企むスターリンだが、捕虜としては手に余る存在である。

(今は放置しておくに限る。学校へ戻ったらキッチリと躾けてやろう)

というのがスターリンの考えである。



「あの戦車を手中に収めれば、さぞかし大きな力となるでしょうな」

孔明の一言。

決して、何気なく羨んで発言したわけでは無い。
彼は『望むならば、手中に収めてみせよう』と宣言している。
スターリンはその意図を汲み取った。

「まぁあれは戦車の中でも弱小なモノだが、拳銃よりはまともな威力は出せる。
 孔明、あれをファシストから奪う事が可能と言うのか?」
「その前に戦車の構造や機能について幾つか質問をしてもいいですかな?」
「構わん」
「乗組員からの視覚はどうなっておられるのでしょう」
「上部のハッチから頭を出す、もしくは前方及び側面に付けられた視察口から見る事が出来る」
「視野は相当狭いみたいですね」
「その分装甲を減らすならば、360度パノラマビューも可能だがな!」
「ははは、お戯れを」
「だが、さっき言った通り、あの戦車は相当弱小な品だ。
 前方の装甲はともかく、サイドの装甲なんぞもはや段ボールだ。
 威力のある小銃ならば容易に打ち抜けるくらいにな」
「なるほど。ではもう幾つかの質問を……」


「コイツらよぉ、百獣の王を居ない物扱いとか、クーデターだからね?
 つーか暇なんだけど。一狩りしてぇ……」

蚊帳の外に居るサバンナは、ダラダラと数歩先を歩く。
退屈そうにハァーとため息をつき、その後振りむいて憎々しげにスターリンを睨んだ。


           ,、,, ,、,, ,, ,,
         _,,;' '" '' ゛''" ゛' ';;,,
        (rヽ,;''"""''゛゛゛'';, ノr)     自らの支配下に置くにしたって
        ,;'゛ i  ノ  ー  iヽ゛';,.     暴力による弾圧は逆効果だろ
        ,;'" ''| (・) (・) |゙゛ `';,     法によって規制するのが
        ,;'' "|   ▼   |゙゛ `';,    __現代に相応しいやり方、これ常識
        ,;''  ヽ_人_ /  ,;'  ̄ フ(__ )、
       /シ、  ヽ `´ /   リ こ´ヽ (__ )、
     /   "r,, `"'''゙´  ,,ミ゛   `ヽ __(__)
    /       リ、    ,リ   r  ̄ ´
   /    ,イ   ゛r、ノ,,r"    |
  /    / |            |
  〈    <  |            |
おおよそ動物とは思えぬ批判をぼやいた。
流石百獣の王だ、他の動物とは一線を画している。

だが、当然解答は返ってこない。
ましてや話している最中なのだから、構ってもらえるはずもない。

「……くそう、この紐だって牙を使えばカツンカツンって一発よ?
 武力の象徴である拳銃がこっち向いてなければ余裕なんだがなー。
 やめて欲しいわ全く。マジ拳銃に頼るとか、そんなん本当の強さじゃねーから」

王は己の無力さを憂いた。
所詮は弱肉強食。丸腰な自分は、武力の前に惨めに跪くしかない。
とりあえず、どうにか逃げれられる術は無いかと考えた。

(そうだ、あいつらが戦車を奪い取ろうとしている隙なら行けるんじゃね?
 流石にずっと俺ばっかり見てられるわけが無いし……)

うん、それだ。今がまさにビッグチャンス到来。
スターリンと孔明がよそ見している間に紐を噛みちぎる。
そしてさっさと逃走、もしくは背後から噛み殺す……行ける!
ふふ、一流のバンナー(サバンナマニア)を舐めきった事を後悔させてやんよ。

「おい、ライオンよ」

唐突に名前を呼ばれ、サバンナは呆気にとられた。
どうやら話し終えたらしい。

「今更話しかけてき、何さ?」
「我々が動いている間、食事を済ませておけ」
「はぁ?」

そういって孔明はデイパックからラップされた食肉を取り出した。
ぞぬの肉である。
軍鶏に似ていて美味とされる、ぞぬの肉――

「はい喜んでーッ!」

疑いもせずサバンナはホイホイと釣られた。
ダッシュで近づくサバンナに対し、孔明は振りかぶって投げた!
もうお肉しか見えていないサバンナはそれを追っかける。

「あぁ……しっかり食え」

肉が着地したのは、戦車の進行するちょうど目の前であった。



 ◆



「うげええええええええぇぇぇぇぇぇ何故かライオンがあああぁぁぁぁ!!」

そりゃあ驚くよ。
街中で突然ライオンが現れたとか、驚くに決まってるだろ。
特に外に居るやる夫はパニック全開。
このままだと食べられてしまう!

「やる夫、早く登ってきなさい!」
「あばばばばばば……こ、腰が、腰が抜けた」
(やる夫が早く登らないと、逃げられないよ)
「じゃあチハも何とかしなさいよ!」
(何とかって言われても……このまま進んだら轢いちゃうし……)
「J( 'ー`)し 関係ない、行け」
(アグレッシブ過ぎるよ!)

        ____
     ; /ノ|||| ヽ\;
   ; /( ○)  (○)\ ;
  , /::::::\(__人__)/::::: \;  「中に入れてぇぇぇ!」
  ; |    | |r┬-| |    |,,
  ′\      `ー'ォ    /´
    ./  ⌒ ̄ ̄`r:´> ) :
    (_ニニ>-‐'´/' (/ ;
    ; |     | ;
    ' \ ヽ/ / :
    , / /\\ .
    ; し’ ' `| | ;
          ⌒
気力を振り絞って体を起こし、チハにしがみ付いた。
ハッチが開き、そこからマッマは顔を出す。

「だらしない! もたもた登ってるんじゃないの!」
「いや、だから、恐怖で力が入らな……」

一方、サバンナはその様子を何だか満足そうに眺めている。

「俺が登場するだけでキャーキャー騒ぐとは、やっぱ百獣の王たるゆえんだね。
 普通のケモノとはオーラが違うからね、オーラが」

肉をバリバリと噛み千切りながら、自らの偉大さを噛み締めていた。

――さて。
孔明が動き出していた。
脇差を構え、戦車をよじ登るやる夫へと迫る。
スターリンはUZIを、愚かにも頭を丸出しにしている操縦主へと向けた。

(待って!誰か近づいてる!!)
「お?」
(お姉さんも頭を引っ込めて!)
「え?」

いち早く気付いてやる夫に警告を出したのはチハだった。
まさか戦車本体が意志を持っているなど、孔明やスターリンには想像も出来ない。

「やや、気付かれたか」
「これは……襲撃だったのね……」

すぐさまマッマは頭を引っ込めた。

一足遅く上へと登ったやる夫はハッチをゴンゴンと叩いた。

「ちょっと開けておおおぉぉぉぉ!」
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い! やる夫さんもどこか隠れて)
「遅いっ」

既に孔明は戦車に飛び乗ろうという状況であった。
このままやる夫を捕え、交渉の材料及び捕虜とする算段だ。

(乗っちゃダメェェェェ!)

咄嗟の判断で、チハが後方へと急発進する。

「わわ」
「ウワアアアァァァァァ!!」

体勢を崩した孔明は左側部へと、やる夫は前方へと転げ落ちた。
やる夫はその際に戦車の主砲にズボンが引っかかってしまった。

「チハ、覚悟を決めるわ! 襲撃者を撃つのよ――!」
(あー、でもやる夫がそこに居たら撃てないよ!)
「ひえぇぇええぇええ」
「さっさと降りなさい!! さもなきゃ一緒に発射するわよ!」
「はああぁぁぁ!?」

抗議しつつもやる夫は手足をバタバタさせて逃れようとする。
ついでに、マッマは遠心力で振り落すために砲塔が右側へブンッと回転させた。

宙ぶらりんになった状態から、(もがいた弾みで)ズボンが脱げてしまい
車体で顔とお腹を強打しつつ下半身丸出しでアスファルトに投げ出さた。
落ちた時に体の側面を強く打ってしまい、ブッ!と屁をこきながら失禁してしまった。
痛くて意識が朦朧としているようだ。

(ああぁ……、やる夫さんが悲惨な状況に……)
「でも横に落ちたおかげで、うっかり轢く心配はないわ。
 さぁ、さっきの刀持った男はどこ!?」

そう言ってマッマはチハの一式四十七耗戦車砲のトリガーに手をかける。

(あの民家の塀の裏に行ったよ!)
「わかったわ!」

チハが車体を動かして、銃口をそちらへと向ける。
マッマが視察口を覗き込み、そしてトリガーを引いた――!






――その頃、サバンナはぞぬの肉を食べていた。

「うめ うめ うめ」

その頃、スターリンはサバンナの背後に回り込んでいた。

「!?」

その手にあるのは黒の教科書の薬物を染み込ませた布。
完全に油断しきったサバンナの鼻に被せる。

ちょwwwwwwwまたスかwwwwwwwwwwwwwエンッ!!!

鼻血で布が赤く染まる。かわいそう。
これは孔明の指示、ライオンを気絶させておく事で逃亡を防ぐ。

(本来の戦略としては混乱に乗じて無防備な男を人質に取り、交渉もしくは強奪を行う。
 相手が交渉に応じない、もしくは攻撃の意志を見せればこのように私が登場し、UZIで不意打ちを放つ。
 これが孔明の策……、全く、少々彼への期待が過ぎたかもしれんな……)

続けてUZIを構え、こちらに一切注意の向いていない戦車へと向けた。

(……やれる事の限られてる現状では、別段問題がある策では無い。
 だがこの策は言うなれば、山賊と同等。歴史に名を残す軍師と言えども、実際はこの程度か)

人数も道具も少ない中で戦車を奪うとなると、ある程度のリスクを負うのは仕方ないだろう。
そのリスクの大半も全て孔明が引き受けてるため、スターリンは別に構わないと考えた。
……そしてその結果として、隠れた位置へと銃口が向けられている。
接近に気付かれると言う不慮の事態があったとは言え、己の命を危機に晒す軍師は実に哀れだ。

(このまま砲弾の餌食となるならば、その程度の男と言う事だ)

その前にUZIは、戦車の操縦席目掛けて火を噴いた。




鼓膜に叩きつけられる断続的な銃声――

飛び散った薬莢は、コンクリートへ降り注ぐ。

空気中を音速で貫いた銃弾は、チハの装甲に突き刺さる。

勢いを止め切れない鉄板は破けて、内部へ向けて口を開く。

一つ、二つ、三つ、四つ。凶弾が次々に侵入する。




(痛―――ッ!!)
「あぐッ……」

最初に感じたのは、体を思い切り引っ張られたかような衝撃だった。
間もなく胸元から内側を通って背中へと、凄まじい激痛が何本もの線となって襲った。
肺が損傷したことで反射的にむせ込み、そして血を吐き出す。

(そんな……嘘、嘘だよこんな……)
「…………」

動揺した声色でチハが話す。
苦痛に苛まれるマッマは、口元を抑えたままチハに意識を向ける。

(……弾が、入っていないだなんて……)

主砲のトリガーは確かに引かれた。
しかし、銃口から飛び出す物は何もなかった。
チハは知った。今、自分に弾が入っていないのだと。

どうして気付かなかったんだ。
一発でも試射すれば、簡単に気付いたはずなのに……。

(知らなかったんだ! ここに来る前はきちんと入ってたんだもん!
 嫌だ! どうしよう……このままじゃ僕たち殺されちゃう!)

抗争が怖くて、そこからずっと目を背けた結果がこれだ。
自分には当然のように兵装があると勘違いして、この危機的状況になってから事実を知る……。
愚かすぎる。情けなさ過ぎる。
このままじゃお姉さんも僕も、成す術もなく殺されて……。



――ゴンッ!
鉄板を思い切り蹴り上げられて、鈍い音が車内に響いた。

(ちょっ……)
「私が、撃たれてッ……ゲホッ、第一声がそれェ!?
 先に……、心ッ、配、しなさいィッ!!」
(ご、ごめんなさい!)

彼女は今、まともに呼吸する事も許されないような激痛が襲っているはずなのに。
どうしてこんなにしっかり話せるんだろう。
苦痛に顔を歪ませながらも、僕を蹴飛ばせるだけの気力がある。
そしてしっかりとハンドルを握っている。
……凄く、強い人だ。
かつて僕と一緒に兵隊さんたちに、負けないくらい強い……。

「撃てない、ならッ……とっ……特攻するッ!!」
(えっ)

蹴飛ばしたのと同等の脚力で、アクセルを思い切り踏み込まれる。
ディーゼルエンジンがガラガラと雄叫びを上げる。

(怖い――ッ!)

強いというより、暴走してないこの人!?
あぁダメ激突する! 車体が爆ぜてももう知らない!!

続く轟音。
ブロック塀と木造平屋を押し倒し、キャタピラで踏みつけながら方向転換。
狙うのは刀で襲撃を掛けて来た男じゃない。
あの機関銃の男を先に、潰す――。

もはや己の命は助からないだろう。
だが、マッマは『一矢報いてやる』という執念に突き動かされていた。
彼女はカッとなりやすく、アグレッシブであり、負けず嫌いであった。

チハの15トンの重量が、猛獣の如く迫りくる――。

スターリンは即座に側方へと飛んで避ける。
だが、気絶していたサバンナは別だ。

「くそっ……」

それに気付いたスターリンに出来る事は何もない。
止める術など、もうどこにも存在しない。



まるで水風船の如く、野生の王者の肉体は飛散した。
その凄惨な最期を遂げるにあたり、意識が無かったのは彼にとって幸いに違いない。



戦車の後方からUZIの銃弾が撃ち込まれる。

鉄の塊が一つ、また一つと体を突き抜ける。
数秒の猶予も与えられず、彼女の気力も限界を迎えた。

スッ、とアクセルから脚が離れる。
ハンドルへと上半身がもたれかかる。

(お姉さんッ!)

家屋への激突を避けるために、チハは自力で車体を停止させた。

(お姉さん……ダメな戦車で本当にごめんなさい……。
 僕じゃなかったら、きっと銃弾から完璧に守れたかもしれなかったのに……)

マッマは薄れていく意識の中、何故か冷静な気持ちで状況について考えていた。

――あぁ、視界が赤く染まっていく。
醤油のほのかな香りが漂っていた車内は、今や操縦者の血と焼けた鉄の嫌な臭いに溢れている。
きっとこれが、『戦死』なんだろうな。
戦争で命を失う者って、きっとこういう光景の中で最期を迎えるんだろうな。

……最後に言っておきたい事くらい、言わないと……。

「チ……は……ゲホッ! ゲホッ!」
(……お姉さん)

喉に絡んだ血で声が上手く出せず、ほとんど息が漏れるようなか細い言葉が紡がれる。

「……息、子に……ゲホッ!! つ、伝え……」
(うんっ……、わかってる……!
 何て伝えればいいの……!?)
「……ほ……」

マッマは苦痛に顔を醜く歪めながらも、スゥッと息を吸い込み……。






「J( 'ー`)し 保険掛けて無いから餓死したくなきゃ働けよ」





(……え)

……容赦の無い辞世の言葉。
彼女はそれを想像も出来ないほど、ハッキリとした口調で言い切った。
そして、咳き込みながら多量の血を吐き散らす。

(………………わかった、必ず伝えるから……)

チハの返答を聞いてから――マッマは、静かになった。




 ◆




「最悪だお……最悪だお……!」

脇腹を抑えながらヨタヨタとやる夫は逃げた。
本来なら悶絶レベルの痛みを泣くレベルにまで我慢して、とにかく逃げた。

「どうしていちいちこんな悲惨な目に遭わなくちゃいけないんだお!
 世の中はあまりにも理不尽だお!」

幸いなことに、自分は襲撃者の意識から離れてたのだろう。
振り返る先に追っ手はない。一安心した。

幾らか歩いた先に大きなスーパーマーケットがあった。
電気は消えているが、扉が開いている。
そこへと駆け込み、トイレに入って鍵を掛けた。

「危機一髪だったお……」

一先ず安心出来る空間へ逃げ込み、安堵の息を吐く。
そして先ほどの恐怖を思い返し、ブルルっと身震いをした。

運が悪ければあのまま刀でザックリとやられていたかもしれない。
きっとあの厳しいおばさんは、自分が殺される寸前になっても入れてくれないだろうし……。

そうだ、やっぱりアレについていくのは間違いだったに違いない!
最初からもっと別の道を取るべきだったんだ。

「でもやる夫一人じゃ正直希望の光なんて見えないお……。
 きっと成す術もなく殺されてしまう気がするお……」

まだ殺されたくない。
せめて、悔いを残したまま死にたくない。

――今、自分は一人になった。一体何をしたい?

さて、ここはトイレという密室的な空間。
さらに逃げる際にズボンが脱げて下半身丸出しの自分。
この時点で彼の思考が性的な方面に傾くのは無理はない。
というか、本来彼が求めていたのはソレだったはずなのだから……。

             /)
           ///)
          /,.=゙''"/              人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人
   /     i f ,.r='"-‐'つ____      <                                        >
  /      /   _,.-‐'~/⌒  ⌒\    < 死ぬ前にせめて童貞を捨ててやるお!!!!!!!!!!! >
    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\   <                                        >
   /    ノ    il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \   YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー'´     /


賢者モードから解き放たれた彼は外道へと身を落とす……。



【B-2/スーパーマーケット/一日目・午前】

【やる夫@ニュー速VIP】
[状態]:負傷(中程度)、血が付着、下半身丸出し
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0~2(確認済み)、しょうゆ一㍑(1/4消費)@現実
[思考・状況]
基本:性欲を満たす
1:死ぬ前に童貞を捨てる
2:チハとマッマから離れて非常に心細い、怖い、死にたくない
3:やらない夫が心配


※やる夫を駆り立てたのは、保存本能。
 かつて体験したことの無いほどの殺気を一身に浴びたやる夫の本能は、即座に生命の危機を認識した。
 追い詰められた本能は可及的速やかに種の保存を選択。
 結果、生殖行為を求める事になるが――男が己が行動に原因を知る術はない。



 ◆



チハの内部から妙齢の女性の亡骸を取り去る。他には誰も居ない。
無数の弾丸が装甲に弾痕を作りまくっていたが、コックピットばかりを狙ったおかげで機動に支障はないようだ。
操縦席は大量の血で染められているため、学校へ戻ったら清掃をする必要があるだろう。
支給品のデイパックを取得、死体はすぐそばの住宅の庭に捨てておいた。

スターリンは少し苛立った様子で、孔明に話しかける。

「ひとまずは戦車を手にする事は出来たようだが……。
 想定していた策とはずいぶんと外れたようだな、孔明」
「いいえ、このような結果となるのは何かの間違いです。
 私はスターリン殿のおっしゃった視察口の位置を参考に、死角を選んで接近したのですから」
「ほほう、私に問題があると言うのか」
「別に責任を転嫁するつもりはありません。
 ファシストたちの勘がよほど鋭かったのかもしれませんしね」

少し不穏な空気が漂うのを、孔明は上手く丸める。
別段、喧嘩を売るつもりは毛頭ない。ただ、自分の正当性だけは証明したかったのだ。

「まぁいい」

と、スターリンは咎めるのを止めた。
彼もここで仲違いに発展させるのは悪手であると考えたからだ。

「ただ、言葉を話すライオンが犠牲になったのは少々惜しかったな……。
 貴様としても手駒が減った事はマイナスであろう」

でもライオンの犠牲は、多少残念という気持ちはあった。
言葉を話せる動物とはさながら神話のようではないか。

しかし、孔明の返答は冷徹である。

「いいえ、私はあのライオンを抱えるのは反対でございます。
 いやむしろ事故死した事は幸いだったと思います」

その言葉にスターリンは怪訝な目を向ける。
孔明はしれっと語り続けた。

「殺し合いを強いられている現状、ライオンを手懐ける余裕は無いでしょう。
 特にあのライオンは我々に反発を抱いており、協力する意志は感じられませんでした。
 ゆえにあの場で踏み殺されたのは決して悪い事では無かったのです」
「……まさか、狙っていたのか」

先ほどの策――てっきりリスクの大きさは【孔明>ライオン>スターリン】かと思っていた。
だが違うのだ。私がUZIにて狙撃を行なった時点で、それぞれの危険度は入れ替わっていたのだ。

脇差による人質取り……それだけであれば孔明が最も危険なのは間違いない。
ただし機関銃を持つ者が居れば当然、戦車側としてはそちらを最優先で潰しにかかる必要が出てくる。
弾丸が撃ち込まれた方向に居る気絶したライオン、そして機関銃を構えた私。
もう、刃物を武器としていて退避し始めている孔明なぞ、後回しで良くなるのだ。

リスクの度合いは【ライオン>スターリン>孔明】へと変わる。
しかし、彼らが起こすアクション――主砲を向ける、もしくは特攻をかける――この間には、5秒ほどのタイムラグが生じる。
5秒もあれば私は退避出来る……が、ライオンはどうしようもない。

結果としてライオンは特攻を受けて轢死した。
足手まといであると判断されていた存在が処理されたのだ。

「なるほど、これは一杯食わされたようだな」
「スターリン殿に危害が及ばぬよう配慮した結果、そのしわ寄せが来てしまっただけですとも」

問いかけを有耶無耶にしつつ、さらに正当性を主張。
この立ち回り、やはり狡猾な男だ。

「お怒りですか?」
「……いや、構わん。むしろ面白いと思うほどだ!
 その知力は間違いなく、パルチザンにおいて強力な武器となりうるだろう。
 うむ、これは私も寝首をかかれないようにせねばな」
「お褒めに預かり光栄です、スターリン殿。
 ですが私はこの状況で、意志の一致する者を討ったりはしませんのでご安心を」
「ははは、『意志の一致する者は』か、食えぬ男だ。
 だが次からはその趣旨を私に伝えるんだな。良好な関係を築くためにな」

孔明は了承する。



「では周辺の散策は中断だ。一度学校へ戻り、準備を整えるとしよう」

そう言ってチハへと乗り込もうとするスターリン。
だがその時、二人の脳内に幼い少年の声が響いた。



(あ、あの……僕はこれからどうなるんでしょうか……)



戦車がここでようやく言葉を発し、二人の男は驚いた。



【サバンナ@AA 死亡】
【畜生マッマ@なんでも実況J 死亡】



【B-2/路上/一日目・午前】

【孔明@三国志・戦国】
[状態]:健康
[装備]:脇差@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、黒の教科書の毒物@コピペ(現地調達)、ビニール紐@現地調達
    ぞぬの肉@AA、マッマの支給品
[思考・状況]
基本:蜀に帰る
1:スターリンに従い、対主催の策を練る。
※共産主義の素晴らしさを刷り込まれつつあります。
※マッマの支給品(基本支給品×2、PDA(忍法帖【Lv=01】)、ぬるぽハンマー、ハイヒール一足@現実)を入手。
 また、マッマのランダム支給品0~1は、0でした。


【スターリン@軍事】
[状態]:健康
[装備]:UZI@現実(12/32)、iPod@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)、ランダム支給品1~2、トカレフTT-33(7/8)、UZIの予備マガジン
[思考・状況]
基本:ファシストを倒す集団のトップに立つ
1:疑わしきものは粛清する。
2:孔明の狡猾さを理解。同時に警戒しておく。
3:喋るライオンの死は個人的に惜しい
※1942年初めあたりの参戦です。日本人はファシストとみなされる可能性があります。
※図書室で三国志@現実を読みました。孔明の出自をある程度把握しましたが、誇張もあるかもしれないと考えています。
※死んだはずの人間が生きている事に疑念を抱いているようです。

※サバンナの鞄(基本支給品、サバンナのPDA)が、学校の給食室に放置されています


【チハ@軍事】
[状態]:損傷(中:装甲と操縦席に多数の弾痕)、燃料残り70%、内部は血だらけ
[装備]:一式四十七耗戦車砲(残弾無し)、九七式車載重機関銃(7.7mm口径)×2(0/20)
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1~3(治療に使えそうなものは無いようです)
[思考・状況]
基本:死にたくない
1:おじさん二人に、何をされるのか不安
2:殺し合いに乗った人には会いたくない
3:やきう兄とグンマーを警戒。だが、やきう兄にマッマの辞世の言葉を伝える。
※チハは大戦中に改良が施された、所謂「新砲塔チハ」での参戦です。
※マッマの死体は撤去されたが、内部は非常に汚れている。

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