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寺生まれはスゴかった ◆i7XcZU0oTM





 あの変な生物を破ァ!!してから、どれだけ経っただろうか。
 未だ残る邪気の発生源と、ついでに何か役に立つ物がないか、探し回ったものの、収穫はゼロだった。
 役に立つ物も見つからず、邪気の発生源も、はっきりしないまま。
 結局、時間を消費しただけだった。
 今も、一軒の民家の中を探し回っていたが、特に役に立つようなものは、見当たらなかった。

「……」

 その民家の中。
 リビングのソファーに腰かけ、考えを巡らせる。

「……そう言えば、お前、名前は何と言うんだ」
「ぽぽぽ、ぽ、ぽっぽ……」
「…………むむ」

 何て言っているのか、良く分からない。
 だが、この声はどこかで聞いたことがある。
 一体、どこだったか……。
 確かに、聞いたことがあるんだが。

「……とりあえず、座ったらどうだ? 立ったままじゃあ、何だしな」
「ぽぽぽ……」

 言われるがまま、相手は地面に座る。
 ……まあ、とりあえずこいつの事は後回しだ。
 今は、他に考える事がある。
 ――――ひろゆきと名乗った、あの男。
 あいつからは……今まで出会った霊とはまた違う、邪気を感じた。
 そうだな……"吐き気を催す邪気"とでも言おうか……。
 そんな、ドス黒い邪気を、俺は確かに感じた。
 あの時、確実に破ァ!!できていれば、こんなことにはならなかったってのに……。
 初めて味わう"邪気"に、(情けない事だが)俺は気圧されて何もできなかった。
 我ながら、情けない……。
 しかし、俺がここでいくら悔やんだ所で、あの3人の命が戻って来る訳じゃない。
 自分で自分が憎い。あれほどの邪気を前に、動けなくなるような自分が……。

「クソッ……」
「ぽぽぽ、ぽぽ……」
「何だ、慰めてくれるのか……?」

 結構、優しい面もあるのか?
 ……やっぱり、こいつは良く分からないな。

「悪いな、気を遣わせて」
「ぽぽ、ぽっぽぽ……」

 ……そうだ、くよくよしてばかリじゃいけない。
 いつまでもウジウジ腐ったままなんて、俺らしくないな。
 失われた命の分も、生きなきゃならない。
 悪霊を祓い、邪気を浄化する、寺生まれとして。

「…………そう言えば。今、何時だ?」

 ふと、疑問が浮かぶ。
 そういえば、今までの民家で、時計を見かけた事がない。
 一体、何故だろうか?壁掛け時計くらいなら、どこの家にでもありそうな物だが。
 だが、現に俺が見て回った民家(だいたい5~6軒か)には、見当たらなかった。
 何か理由でもあるのか、それとも特に意味はなく、たまたまなのか。
 ……時間を確認するなら、俺に支給されている時計を見ればいいだけなのだが。
 時計が置かれてないのは、もしかしたら、全員が時計を持たされているからなのかもしれないな。

「……暗くて良く分からんな。済まないが、電気をつけてくれ」
「ぽ」
「ありがとう」

 はっきりと、時計が見えるようになった。
 ――――2時を、少し過ぎている。
 そうか、もう2時間も経っているのか。
 だとしたら……中には、殺された人も、いるかもしれないな……。
 できれば、その命が失われる前に、助けたかったよ。
 だが、これほど広い街の中で、探し出せるとは、思えない……。
 時間を確認したこと。
 それで、俺はまた己の無力さをひしひしと痛感させられる。

「…………」

 心が乱れる。
 これほど動揺していては、思考もまとまらない。
 落ち付け、落ち着くんだ……。
 バッグから水を取り出し、一口。
 冷たい水の感触が、俺に落ち着きを取り戻させてくれる……。

「ふぅ……」

 少し、落ち着いたか。
 だが、まだ心は少し乱れている。
 ……このままでは、何かあった時に危険だな。

「ぽっぽぽ、ぽっぽっぽ……」

 妙な奴は、ずっと窓を見つめている。
 邪気や気配を感じないから、誰かがいる訳じゃなさそうだが。
 俺も外を覗いてみるが、特に誰もいない。

「誰もいないな……何か見つけたのか?」
「ぽぽ、ぽっぽ」
「せめて、意思疎通ができればな……何か方法は無い物か……俺の言ってる事は、理解出来てるのか?」

 ぽ、と短く呟いてから頷く。
 どうやら、言葉は理解できているようだ。
 さて、どうやって意思疎通を図った物か。

「そうだ、書くものがあったな……文字は、書けるのか? 書けるんなら、筆談で話せるが」

 今度は何処と無く悲しげに、ぽっ、と呟いた。
 ……駄目か。

「……まあ、俺の言葉が分かるだけでもいいさ。それが出来れば、身振り手振りで答えられるしな」

 そうだろ?……そう呼びかけると、奴は親指を立てて答えた。
 やっぱ、悪い奴じゃなさそうだな。








(ハァハァ……こ、ここまで逃げれば、もう大丈夫なはずだお)

 ずっと全力だったせいか、息が上がって息苦しい。
 そのまま、ぺたりと地面に座り込む。
 ……散々だ。
 まさか、一番最初に出会ったのが、あんな熊なんて……。
 もしあの時逃げ切れなかったら、自分も頭からバリバリと……。

「……そ、そんなの嫌すぎるお! あんなのに喰われて、死にたくないお!!」

 もしかしたら、他にも危ない奴はいるかもしれない。
 ……今度は、逃げられるかどうか分からない。
 身を守ろうとしても、今、自分は何も持ってない……!
 さっき、逃げる時に落として行ったんだった!
 こんな状況で丸腰とか……とてつもなく、ヤバい。

「も、もうダメだお……お先真っ暗だお……」

 もうだめだぁ……。
 がっくりと地面に手をついて泣く。
 こんな所で死んじゃうなんて、そんなの考慮してないよ……。

(死にたくないお……)

 完全に諦めそうになった時。

「……お?」

 涙で歪む視界が、光を捉えた。
 沢山の家の中の、1つに、明かりが灯っている。
 ……誰か、いるんだ。

(一体、誰がいるんだお……?)

 気が付けば、立ち上がって歩き出していた。
 あの光に釣られるように。
 もしかしたら……自分を、助けてくれるかもしれない。
 根拠も確信も無いけど、そんな気がした。

「と、とにかく行ってみるお……」

 何か、あるかもしれない。
 それだけでも、行く理由にはなるはずだ。
 とぼとぼと、おぼつかない足取りで、歩き出した。




 呼び鈴を、グッと押す。
 ピンポーン……と、電子音が家の中に響いて行く。

「……だ、誰かいるのかお」

 震える声で、呼びかける。
 それとほぼ同時に、奥から歩いてくる音が聞こえる。

「誰だ?」
「あ、あの……近くを通ったら、ここの明かりが見えたんだお。だから、思わず……」
「そうか、入っていいぞ。今、開けてやる」

 カラカラっ、と扉を開ける音が、小さく響く。
 その向こうに立っていたのは……ナイスガイの、いい男が立っていた。

「ここじゃ何だから、こっちに来てくれ」
「わ、分かったお」

 促されるがまま、民家に入っていく。
 ……良かった、危ない人じゃなかったんだ。
 心底、ホッとする。
 何だか、急に希望が見えて来た気がするよ……。

「適当な所に座ってくれ」
「…………この大きい人は誰なんだお」

 部屋の一方に目をやると……身長が軽く2mを超えそうな人が、座っていた!
 ……何で、こんな所に。

「ああ、こいつは……名前は良く分からんが、敵じゃないから安心していいぞ」
「そ、そうなのかお?」
「そうだろ?」
「ぽ」

 ……良く分からないけれど、敵意は感じないから、別にいいや。

「さて……ちょっと、知ってる事を教えてくれないか?」
「分かったお――――」








「そうか……そんな奴までいるのか」
「……すごく、恐ろしかったお……目の前で、女の人が、食べられちゃったんだお……」

 まさか、熊までいるとは。話を聞く限り、とんでもなく獰猛なヤツのようだ。
 その上、人喰い熊とは……放ってはおけないな。
 他に被害が出る前に、何とか倒しておかなければ……。
 だが、何処にいるのか良く分からない以上、今は何の対処もできない。

「それで、無我夢中でこの辺りまで走って逃げたんだお……その時、ここを見つけたんだお」
「そいつは災難だったな……ほれ、これでも飲んで落ち付け。この家にあったお茶だ」
「ありがとうだお……」

 コップを持つ手が、震えている。
 よほど、恐ろしかったのだろう。まあ、無理もない。
 いきなり目の前で人が食い殺されたら、当然、心の底から恐怖するだろう。

「荷物はどうした。俺と同じようなバッグを、持っているはずだが」
「逃げるのに夢中で、落として来ちゃったお……拾って行く余裕なんて、なかったお」
「まあ、無理もないな……仕方無い。俺に支給されていた物だが、使ってくれ」

 そう言って、俺はバッグから俺の支給品だった武器……木刀を取り出す。
 役に立つかは分からないが、何もないよりはマシだろう。

「え……いいのかお!?」
「ああ。丸腰じゃ、危険すぎるからな」
「でも、そうすると、Tさんが危ないお」
「俺の心配より、自分の心配をするべきだぜ」

 なにせ、今の今まで丸腰だったんだからな。
 そんな状態でも、命は助かってるんだから、案外運はいいのかもな……。

「さて……これからどうするか……」
「もう、怖いのは嫌だお……」

 出来れば、こいつをなるべく安全な所に隠しておきたいが、何処か無いものか。
 ……流石に、連れて歩くのは危険だろうしな。
 これほどビビっていては、戦う訳にもいかないし。
 どうすれば、一番いいのか……。
 常に、一番いい選択肢があるとは限らないことくらい、理解している。
 だが、それでも、一番いい選択を求めたくなるのが、人間ってもんだ……。
 そんな事を、少し考えていた時。

「……どうするかな――――!?」




 少しばかりの静寂を、けたたましい音が打ち消した。








「な、何だお!?」
「玄関の方だ! ちょっと見てくるから、ここから動くなよ!!」

 返事も聞かず、俺は玄関に走る。
 ……狭い民家だ、すぐに到着した。
 そこには、半ば予想通りの光景が広がっていた。

「クマー」
「……こりゃ、マズい事になったな」

 あいつの話通り、獰猛そうな熊が玄関をブチ破って、玄関前に仁王立ちしている!
 まさか、こんなところで出会うとはな。
 しかし、何故ここが分かったんだ?
 ……少し考えた所で、俺は、ようやく自分のしていたことの愚かさを悟った。



 ――――リビングの電気を、点けたままだったんだ……!



 俺としたことが、こんな初歩的なミスを犯すとは。
 暗い中、明かりが付いてれば嫌でも目立つ……。
 こんな、下らないミスをするとはな。

(……ここじゃマズい。何とかして、奴を誘導しないと)

 とは言え、どうしたものか。
 この巨体では、横をすり抜けて誘導……はできそうにない。
 ならば、どうするか?

「……破ァ!!」

 ――――相手に、無理矢理移動させる!!
 少々力を込めて、光弾を腹にブチ込むッ!!
 ……流石にこれは効いたのか、今まで仁王立ちだった熊も、表情を崩して後ろに吹き飛ぶ。
 いかんせん体重が重いのか、あまり吹き飛びはしなかったが。

「お前ら、裏から出ろ! 出たら、一目散に逃げるんだ!!」

 大声で呼びかけた後、外に飛び出す。
 ……やはり、暗いな。

「クマァァ――――!」
「うおおっ!!」

 熊の鋭利な爪を間一髪でかわした後、体勢を整える。
 ……どうやら、あの光弾が予想以上に効いたようだな。
 さっきまでの表情とは打って変って、怒りを剥き出しにしている。
 その表情からは、野生の獣特有の殺気が漲り、今にも溢れそうだ。

「痛みに懲りて、大人しく引き下がる……気はなさそうだな」
「……クマー」
「こいつとは、意思疎通は図れ無さそうだな!――――破ァ!!」

 再び、光弾をブチ込むッ!
 ……流石に奴も学習したか、回避を図る。
 だが、予想以上のスピードに体が追いつかないのか、脇腹あたりにブチ当たる。
 それと同時に……苦悶の表情を浮かべる。
 やはり、効いている。このまま行けば倒せるか……?
 しかし……何か、おかしい。
 何だか調子が悪いせいで、前からずっといつもの力が発揮出来ていない。
 一発目も二発目も、いつもに比べれば、かなり弱かった。
 これはどういうことなんだ?
 この騒動で、少し体力は消費してはいるが、この程度の疲労で光弾の威力は落ちない。
 なら、何が原因なのか?

「クマー!!」
「うぐっ……!?」

 ――――思考に、意識を集中させ過ぎたか。
 強い衝撃を受け、今度は俺が吹き飛ばされていた。
 勢いのまま、ブロック塀に叩き付けられる。
 ……それと同時に、みしり、と体の軋む厭な音も聞こえて来てしまった。
 思わず、呻き声が口から漏れてしまう。
 ……痛みからして、折れたのは腕か。折れたのが、一本だけで良かった。

「……やはり野生の力ってのは恐ろしいな。恐ろしくなるほど強い……だが……」

 埃を払い、立ち上がる。

「――――負ける訳には、いかねぇな」
「……クマ――――!!」

 襲い掛かる熊をかわし、渾身の蹴りをブチ込む。
 しかし、奴の肉体にはあまり効果が無い。
 大きく体勢を崩した隙を、奴は見逃さなかった。
 ……ガシッ、と胸倉を掴まれ、地面に叩き付けられる。
 しかし、俺もただでやられる訳にはいかない。

「ガッ……! 破ァ!!」

 体に掌を密着させ、そのまま光弾を放つ!!
 ……怒りの籠った、一撃だ。
 こいつは、効くぜ。

「ク……クマー……」

 流石に痛い一撃だったのか、苦しそうな表情を浮かべて倒れこむ。
 その隙に、何とか立ち上がって間合いを開ける。
 ……下手に近づけば、さっきの様に引き倒されるか、爪でやられる。
 俺の読みが正しいなら、奴も体力をかなり消費しているはずだ。
 あれだけ激しく動き回って、なおかつ俺の攻撃も食らっている。
 消耗しない、はずがない……。いくら野生で鍛えられているとは言え、無限に体力がある訳じゃない。

「ハァ……ハァ……くっ、腕が……」

 折れた状態で動き回ったせいか、骨の折れた部分は、熱を帯びてきている。
 …………下手に気を抜けば、このままぶっ倒れそうだ。
 ここで気を失えば、間違い無く、奴に殺られる。
 ……負ける訳には、いかねえ!

「……クマー……」

 予想通り、奴もかなり消耗している。
 ……それは、俺も同じだ。
 もう、何度も攻撃する余裕なんてない。

「……クマー!!」

 雄叫びを上げて、熊が襲い掛かってくる。
 ……腕が痛まない訳じゃない。間違い無く、重度の骨折だろう。
 気の狂いそうな痛みと吐き気が、俺の頭を何度も刺激している。
 まるで、頭の中で得体の知れない化け物が暴れているように。
 だが、俺は引き下がるわけにはいかない。
 こいつは、必ず、倒さなきゃならねえ!!
 誰かのために。
 寺生まれの誇りにかけて、"斃"す!!

「おら、どうした!! お前の力はこの程度か!? 俺はまだやれるぜ!?」

 俺に、襲い掛かる爪。……もう、避けきれないだろう。
 それでも、必死にかわす努力はした。が、努力は報われない。
 爪は、俺の服を軽く通り抜け、その下の肉体に直接当たる。
 ――――肉を裂く感覚と共に、右肩に鋭い痛み。
 クソッ、骨折の痛みだけでもキツいってのに、その上こんな痛みまで来ちゃあ……。
 ――――やってらんねえよな!!

「オラっ!!」

 渾身の右ストレート。
 拳が当たるとともに、稲妻のような痛みが傷口と脳を刺激する……!
 そんな状態の攻撃が大して効く訳もなく、熊は更に俺に攻撃を仕掛けて来る。
 この爪の動きからすると、狙いは――――!
 俺の……目か!!

「――――クマー!!」
「……!」

 ……今までの疲労が仇になったようだ。
 ギリギリ、かわしきれなかった。
 目を、やられた。軽く、切り裂かれた。
 血やら、何やら分からん体液やらが、だらだらと溢れてくる。
 ……このままじゃあ、マジで……。

「……うおらぁぁッ!!」

 勢いをつけて、腹に蹴りを食らわせる。
 その反動を利用して、一気に間合いを広げる。

(……くそっ、このままじゃ、俺は……なら、何もしないで死ぬよりは……)

 ……まだ動かせる右腕で、構える。
 もう、これしかない。
 俺が死ぬか、奴が倒れるか。
 ……俺の全てを、これに賭ける!!




「…………破ァ――――――ッ!!!」








「お前ら、裏から出ろ! 出たら、一目散に逃げるんだ!!」

 勝手に、体が縮みあがる。
 ……有無を言わせない強さが、それにはあった。

「は……早く逃げるお!」
「ぽぽぽ、ぽっぽぽぽ……!」
「ぽぽぽ言ってる場合じゃないお、逃げなきゃヤバいお!」

 きっと、あの熊が来たんだ!
 自分を追ってきたのか、それとも別の方法でここを見つけたのか。
 どっちかなんて分からないし、どっちなのか確認する余裕もない。

「ぽぽぽ、ぽっぽぽ……!」
「さあ、早く逃げるお!!」

 無我夢中で家の中を走り、裏口から転がるように飛び出す。
 また、こうやって逃げる事になるなんて、思ってなかったよ……。
 でも、逃げなきゃ殺されるかもしれない。
 その怖さが、自分の足を、勝手に動かして行く。
 ……もう、怖いのはこりごりだ。恐ろしいのも、もう嫌だ。
 今度逃げる先は……危なくない、場所だといいな。

「……まだまだ、死にたくないお――――ッ!!」

 疲れていたはずなのに、スピードは増して行く。
 これが、火事場のバカ力?
 とにかく、速く走れているのは、間違い無い!
 ……けど、やっぱり体は正直。
 疲れた体で走っても、そんなに長く走れる訳がない……。
 でも、走らなきゃ……。
 走って、逃げなきゃ……。




「……結構走ったお……ここまで来れば、きっと大丈夫だお……」
「ぽぽぽ……」
「あれだけ走って、息切れ1つしてないのかお……? 一体、何なんだお……」

 ……とにかく、少し休まないと……。
 いくら何でも、もう走れそうにない。
 少し、少し休むだけ。
 そんな気の緩みが、睡魔を呼び寄せる。
 …………いけない、眠たくなってきた。
 こんな所で、眠る訳にはいかない。
 と言うか、いつ襲われるか分からないのに、眠れる訳がない……。
 そんな自分の意思とはお構い無しに、眠気は襲って来る。
 せ、せめて身を隠せる場所にいかないと……。

「だ、駄目だお……体が、言う事、聞かない、お……」

 その場にバタリと倒れると、自分の意識はスウッと遠のいた。





 突然倒れたこの人を、私が背負ってから少し経った。
 いきなりその場に倒れたかと思ったら、すぐに寝息を立てたんだから、驚きました。
 でも、仕方無いですよね……。
 あれだけ怯えて、あれだけ走っていたんですから。
 相当、疲れていたんでしょう。
 今は、そっとしておきましょう。
 ……それにしても、Tさんは大丈夫なのだろうか?
 あの時、返事をする間もなく飛び出して行ってしまったから……。
 でも、きっと大丈夫ですよね。
 Tさんが、簡単に負けるはずがありませんから。
 あれほどスゴい人が、そんな簡単に、負けるはずがありませんよ。

「…………まだまだだお…………」

 そう言えば、この人の名前を、聞いてなかったですね。
 でも、別に問題はありません。目が覚めたときに、聞けばいいんですから。
 今は、ゆっくり、眠らせてあげましょう。
 ……せめて、夢の中では。
 幸せな事に、出会えるといいですね。
 そんな事を、考えていた時でした。




「破ァ――――――ッ!!!」




 Tさんの大声が、突然聞こえてきました。
 きっと、襲ってきた人と戦っているんですね。
 Tさんの事は心配だけど、ここで戻っては、好意をムダにしてしまう……。
 ……結局、私は、この人と共に、ここから離れることにしました。
 Tさんの身を、案じながら――――。



【D-1路上/一日目・黎明】
【内藤ホライゾン@AA】
[状態]:健康、クマーに対する強い恐怖、疲労(大)、睡眠中
[装備]:木刀@現実
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:死にたくない
1:……(睡眠中)
※数多くのSSに参加した経験が有ります
※荷物を全て落としました


【八尺様@オカルト】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本: ぽっぽぽ……
1:今はこの人(内藤ホライゾン)を眠らせてあげる
2:Tさんが心配、だけれど逃げる……
※2人がどこに逃げたかは後の書き手さんに任せます








 ヒビの入ったブロック塀。
 辺りに残る血痕。
 それらは全て、ここで行われた激戦の証だ。
 寺生まれの力と、野生の力……お互いに、常軌を逸脱した、力だ。
 それらがぶつかり合った。
 お互い、一歩も引けを取らない程の、激戦だった。
 そして、最後に放たれた、至高の一撃。
 ――――万全の状態であれば、このバトルロワイアル中でも、参加者を葬りかねない程の威力。
 だが、今は違った。
 骨折、右肩負傷、片目損傷、その他細かなダメージと、そんな状態では……。
 当然、出せる力も限られる。
 それでも……絶大な威力があったのは、事実だ。

「ク…………マー…………」

 クマーが、がくりと項垂れる。
 光弾が直撃し、吹き飛ばされた勢いで、ブロック塀に叩き付けられたのだ。
 だが……Tさんの予想とは違い、完全に倒せはしなかった。
 それでも、光弾のダメージ+壁に叩き付けられたダメージが合わさり、結果的に大ダメージを与える結果となった。
 おそらく、骨の1本や2本は軽く折れているだろう。
 いくら自然と言う厳しい環境で鍛えられたからと言って、無敵では、ない。
 攻撃を食らえばダメージは、当然負う。手痛い打撃を食らえば、骨も折れるだろう。
 Tさんとの交戦で受けたダメージ。
 その途中で、消費した体力。鍛え抜かれた肉体も、限界だった。
 かくして、Tさんはクマーに、大打撃を与える事が出来たのだ。



【D-2・市街地/一日目・黎明】
【クマー@AA】
[状態]:気絶中、全身にダメージ(中)、右腕骨折
[装備]:鍛えぬかれた肉体
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:野生の本能に従うクマー
1:気
2:絶
3:中
※D-2市街地のブロック塀のいくつかに、ヒビが入っています
※クマーがどれほど経てば目覚めるかは、後の書き手さんに任せますが、少なくとも30分は目覚めないでしょう






 だが、その代償は……あまりにも、大きかった。




 地面に倒れ、身動き1つしない、Tさん、
 肩の傷口から、夥しい量の出血をしている。
 身動きも取れない程の疲労と、出血多量の危険な状態が、同時に体に襲い掛かっている。
 もう、意識はない。もう、手の施しようがない。
 しかし、顔は……何故か、笑みを、浮かべていた。
 ――――俺のやったことは、無駄じゃなかった。そう言いたげな、笑顔だった――――。




【寺生まれのTさん@オカルト 死亡】
【残り 60人】
※Tさんの支給品(基本支給品一式、PDA、不明支給品×1~2)は、遺体近くの民家内に放置されています
※辺りにTさんの「破ァ――――――!!!」の声が響きました





≪支給品紹介≫
【木刀@現実】
刀の形を模した、木製の物。斬ると言うより、殴る物か。
また、何故かおみやげ屋に多く置いてある。



No.25:かなりやばい資料見つけました 時系列順 No.29:葛藤は時として人を毒蛇に変えてゆく
No.25:かなりやばい資料見つけました 投下順 No.27:【髪は】バトロワ内でした悪行を懺悔する絵師【言っている…】
No.02:バトロワでも寺生まれはスゴイ! 八尺様 No.43:希望的観測
No.02:バトロワでも寺生まれはスゴイ! 寺生まれのTさん 死亡
No.20:( ^ω^)と嵐を呼ぶクマーのようです 内藤ホライゾン No.43:希望的観測
No.20:( ^ω^)と嵐を呼ぶクマーのようです クマー No.43:希望的観測