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僕らはいずれ誰かを疑っちまうから

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匿名ユーザー

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僕らはいずれ誰かを疑っちまうから  ◆shCEdpbZWw




俺がゆっくり達と出会い、そして八頭身モナーを見送ってから数時間が経った。
俺は何をしていたかと言うと……。

「ゆっくりしているね!」
「そうだね! ゆっくりしているね!」

そう、俺の足下で騒ぎながらピョンピョン飛び跳ねるゆっくり2体が言っている通りだ。
まさに文字通りの意味で俺は最初にいる廃ホテルとやらの一室でゆっくりと留まっていたんだ。



8頭身モナーが叫びながら飛び出すのを窓から見届けてから、俺はどうしようかと思い悩んだ。
どうやら殺し合いをさせられているのは確からしい――が、俺は自分の手で誰かを殺すだなんてのは真っ平御免だった。
かと言って、その代わりに自分が死ぬ事だってもちろん嫌だ。
それで――結局俺は半ば籠城を決め込んだのだった。

PDAによると、今俺がいる位置はA-6という北東の端にあるエリアらしい。
ただでさえ廃墟に近いようなこの場所が、舞台の隅っこに用意されている……ということはだ。
少なくとも誰かを殺したくて仕方ないような連中がわざわざこんなところに来るとは思えなかったからだ。

地図によれば、今回の戦いの舞台には俺のいる廃ホテルをはじめとして様々な施設が点在している。
とりわけ、その中心部には百貨店や病院、工場に大きな公園といったスポットが集中していた。
普通に考えれば、そういう使えるものがありそうな場所や、あるいは誰かと落ち合うのに分かりやすい場所を目指すだろう。
人が集まればそこが激戦の舞台になる可能性は大……そんなところにわざわざ突っ込んで行くなんてやってられるか。

……もちろん、ここに誰も来ないと決まったわけじゃない。
もし、殺人鬼があらかた他の連中を手にかけた後でまだゲームが終わらないと分かれば、しらみ潰しに生き残りを探すだろう。
それだけじゃない、24時間にわたって誰も死ななかったら俺の首にも嵌められたこの首輪だって爆発するらしいんだ。
つまり、今俺のしていることはただの現実逃避だ、このまま過ごしていても先にあるのは袋小路。
さらに言えば、今どこかで誰かが殺されてしまうかもしれないのに、強力な銃を持っているのに止めにいかない俺はただの臆病者だ。
そんなことは重々分かっている、分かっているんだ……。



俺は小さく一つため息をついた。
数時間前までは月の光が射し込んでいたが、月が傾いたのかさっきと比べると部屋の中はさらに暗くなっていた。
ランタンの火を灯そうかとも考えたが、そんなことをしたらここに俺がいるってことは丸分かりだ。
……で、手元にあるPDAが放つ僅かな光だけがこの部屋を照らしている……そんな状態だった。

俺はPDAを片手に煤けたベッドにゴロリと横になっていた。
このPDA、ご丁寧にも2ちゃんの専ブラがインストールされていた。
確かロム専で書き込みは出来ないとか、ひろゆきが言ってたかな……。
適当なスレを見つけて試してみたが、やっぱりダメだった。
助けを呼ぶことが出来れば、と思ったがそんな美味い話は無いってことだ。
仮に書き込めたとして、「バトルロワイヤルさせられてます」なんて言ったところでまず相手にされないだろうけどな。

結局、手持ち無沙汰な俺はPDAでボーっと2ちゃんのあちこちの板を巡っていた、ってわけだ。
いつも俺が常駐している板から、普段は見に行かないような板もチラッと覗いてみたりした。
たとえば、野球に興味のない俺からすれば何言ってんだか分からない野球chや、なんJ……。
煽り合いをしているとしかイメージのなかったゲハや、ニュー速……。
果ては釣りで飛ばされる以外に行ったことの無いようなダム板までじっくり眺めてみた。
……さすがに鬼女板や801板に飛び込んでみようという気にはなれなかったが。

冷静に考えれば、なんとも無駄な時間を過ごしたのかもしれない。
PDAのバッテリーだって無尽蔵じゃないんだから、こんなことしてたら肝心な時に使えなくなってしまうのかもしれない。
それでも、2ちゃんのスレを眺めているこの時間は……。
殺し合いとかそんな事を忘れて、日常へと戻ることが出来ていたんだ。



「ゆっ!」「ゆっ、ゆっ!」

ベッドの下からゆっくり達が俺を呼ぶ声がして、一度PDAから目を離した。

「……なんだよ、麦茶ならさっきあげただろ?」

ゆっくりしていたいくせに、こっちが黙っていると妙に騒がしいこいつら。
俺が持ってた麦茶をちょっと飲ませてやると、その間は満足しているのかしばらく黙ってくれるんだが。

「さっきから見ているそれ、面白そう!」
「私たちにもゆっくり見させてね!」

どうやら俺が持っているPDAに興味を持ったらしい。
お前らも持ってるだろ、と言いそうになったがこいつらじゃそもそも操作が出来ないか。
無視してもよかったが、それでまたうるさくされる方がよっぽど面倒だった。
俺はベッドから降りてコンクリートがむき出しの床に腰掛ける。
そして俺の両脇から2体のゆっくりがその体を俺に押し付けるようにしてPDAをのぞき込む。

「……で、見たいったって、何を見る気なんだよ」
「ゆっくり考えさせてね!」

そう言うと、板一覧をじっくりと凝視し始めた。
さっき見ていた時も思ったが、2ちゃんにこんなに板があるなんてちょっとビックリだ。
俺が行かないような板にもそれぞれに住人がいて、そこにもまた掃き溜めがあるんだろうな。
もしかしたら……その中のどっかにカーチャンがいたり……
……んなわけねぇか、機械にかけては疎いなんてレベルじゃないんだからいるわけねえっての。
ケータイでメール送ろうとして、変換の仕方が分からないもんだから全部ひらがなでのメール送りつけやがって。
読みづらいっつーんだよ、ちくしょう。

……俺は何を考えてるんだよ、こんな時に。
別に……別にカーチャンがどうなろうが……俺の知ったことじゃないだろ……。

「ここがいいよ!」
「そうだね! ここをゆっくり見ようよ!」

俺の心中を知ってか知らずか、暢気な声でゆっくりが叫ぶ。
ここ、と言われてもこいつらにはそこを指し示す指なんて持ち合わせちゃいないんだが。

「……どこだよ」

話すだけで正直疲れるんだが、いい加減諦めることにした。
俺がタッチパネルをどうしようか指を彷徨わせていると、ゆっくりが「そこ!」「そこだよ!」と言ってくる。
奴らが行きたいところは……ガ板? なんでまた……

「ゆっくり、初めてだからよく分からないよ!」
「だから、ゆっくりガイドラインから読んで勉強するよ!」

……ということらしい。
まぁ、確かにガイドライン板なんて書いてあると、何も知らない奴は初心者用の板だって思うかもな。
……現実はそんな板じゃなくて、いわゆるコピペ改変をやってることが多いんだけど。

ひとまず、俺は「はいはい」と気だるそうに相槌を打ってガ板を開いた。
懐かしいな、昔は「この点は出ねぇよ! のガイドライン」とか「トンファーキックのガイドライン」とか見たもんだ。
スレッド一覧を見ると案の定、「○○のガイドライン」なんてスレがずらっと並んでる。
そのうちの1つにゆっくりが目をつけた。

「ゆっ!?」「これ! これ! これゆっくりみせて!」

ゆっくり達が興奮気味にピョンピョン飛び跳ねる。
その度に俺の肩や背中に体当たりをするような感じになるので、正直やめてくれと思う。
そんなことも露知らずにゆっくりが見たがっていたスレってのが……




1 :水先案名無い人:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:tAKeitEaSY

   _,,....,,_  _人人人人人人人人人人人人人人人_
-''":::::::::::::`''>   ゆっくりしていってね!!!  <
ヽ::::::::::::::::::::: ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
 |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ     __   _____   ______
 |::::ノ   ヽ、ヽr-r'"´  (.__    ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
_,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7   'r ´          ヽ、ン、
::::::rー''7コ-‐'"´    ;  ', `ヽ/`7 ,'==─-      -─==', i
r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  !  iヾ_ノ i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |
!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' ,ゝ レリイi (ヒ_]     ヒ_ン ).| .|、i .||
`!  !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ'i ノ   !Y!""  ,___,   "" 「 !ノ i |
,'  ノ   !'"    ,___,  "' i .レ'    L.',.   ヽ _ン    L」 ノ| .|
 (  ,ハ    ヽ _ン   人!      | ||ヽ、       ,イ| ||イ| /
,.ヘ,)、  )>,、 _____, ,.イ  ハ    レ ル` ー--─ ´ルレ レ´
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「私たちだよ!」「私たちだね!」

自分で自分達のスレをみて狂喜乱舞するゆっくりたち。
なんというか、これはシュール以外の何者でもないだろ。

しかし、改めて見るとすごいもんだな。
すでにスレは200スレ目を超えてるじゃねえか。
いつ頃こいつらが出てきたのか俺は知らねえけど、200スレ超えるってのは立派なもんだよな。

よくよく見てみれば、ゆっくり霊夢やゆっくり魔理沙以外のゆっくりAAも貼られていたりする。
こいつらが出てるゲーム……東方だっけか、俺はやってねえからそのAAがどんなキャラかも知らねえけど。
ただ、俺の横で飛び跳ねるこいつらはそれらがしっかり分かるらしい。
仲間を見つけたとでも思っているのか、嬉しさ余ってさらに元気に跳ねている。

「だーかーら……そんなに暴れるなっての」

俺はついつい舌打ちしてしまった。
普通の人間がもしその音を聞いていたら多少なりとも場が気まずくなるんだろう。
ただ、こいつらには人の心が分からないのか、それでも気にせずに跳ね回りながらこんなことを言ってきた。

「これ何?」「なーにー?」

さらにPDAの中身に興味津々になったゆっくりたちが指し示すのはあるレスに記載されたURLだ。
どうやらどっかのアップローダーに投稿した画像か何かのアドレスだろう。
ただなぁ……確かこのPDAって2ちゃんのロム専にしか使えなくて、他所にはアクセスできないんじゃなかったっけか。

「あー、それはな……」

見られない、無理だ、そう俺が言おうとしたその時だ。
URLにカーソルを当てると、小さい画像がフッとPDAの画面に映し出されたんだ。
これは……サムネイル表示……か?

ただでさえ小さいPDAの画面の中に、さらに小さく表示された画像のサムネイル。
ただ、それがなにであるのかはハッキリと理解できた。
この世のどこかで誰かが描いた、"ゆっくり"たちのイラストだった。
思わずPDAを弄る手を止めてしまった俺とは対照的に、ゆっくりたちの興奮はいよいよ頂点に達していた。

「すごーい!」
「私たちにそっくりー!!」

ゆっくりたちが前よりいっそう激しく跳ね回り始めた。
まぁ、無理もないとは思うが、誰か来たらどうするってんだよ……

とはいえ、俺もこれを見て正直少しホッとしたんだ。
殺し合いをさせられている現実はあるけれど、今でも世界のどこかではこんな絵を描いて投下するような人がいるんだと。
今までの日常に触れるために弄ってきたPDAだけど、その現実をくっきりと浮き彫りにしてくれたのが画面の中のゆっくりの絵だ。

……だから、俺もついつい気を良くしてしまった。
少し下に画面をスクロールしてみると、まとめて6つも7つもURLを貼っているレスがあることに気づいたんだ。
もちろん、俺だけじゃなくてゆっくりたちも気づいたらしい。

「見せてー!」「見たーい!」
「ハイハイ、分かったよ……」

呆れ笑いを浮かべながら、俺はそのURLにカーソルを合わせたんだ。



出てきたのは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
サムネに映し出されたのは、またしてもゆっくりたちだった。
だけど、溢れんばかりの笑みを浮かべていたさっきのイラストとは全然違う代物だ。



あるものは血を流していた。
あるものはその顔の一部がちぎれて転がっていた。
あるものは黒焦げに焼かれていた。



俺は思わず息を飲んでしまった。

「な、なんだよ……これ……」

問題のレスの後には、そいつを叩くレスがズラリと並んでいた。

「ふざけんなカス」
「死ね 氏ねじゃなくて死ね」
「スレチ消えろ」
「わざわざゆ虐持ってくるってなんなの? ばかなの? 死ぬの?」

一方で、そいつを持ち込んだ奴は開き直ってやがった。

「こんな首だけの奇形可愛がるなんてお前らキチガイだろwww」
「こいつらなんて虐めてなんぼの奴らだろwww」
「信者必死すぎwwwwwwwwww」

そこから後はもう収拾がつかなくなっていた。
煽りあい、罵りあい……スレは機能停止状態だった。



俺だって何年も2ちゃんを見てきたから、似たようなことになっているスレに出くわす事だって珍しくなかった。
今までの俺だったら、「またやってやがるよw」と傍観者に徹するか、どっちかの陣営に加わって煽り合ってたかもしれない。
ただ……今だけはどうにも胸糞悪くて仕方なかった。

「どうじで……」
「どうじでごんなごどずるのぉ……」

俺の両脇で、ゆっくりたちがむせび泣いていた。
こいつらにとっちゃ、自分の仲間たちがいじめられているのを見せつけられたようなもんだ。
立場を俺に置き換えて考えてみたら、俺の写真がどっかで加工されて首を飛ばされたり、血だらけで倒れてるのを見たようなもんだ。
いや、それが俺とは限らない、あるいはカーチャンも……いや、だから何を考えてんだよ俺は……。

とにかく、一つ分かったことがある。
この世の人間なんて、皆が皆いい奴ばっかりじゃないって事だ。
この世にはニヤニヤしながらあんな残酷な絵を描ける奴がいる……だったら、今俺がいるここじゃどうだ?
ニヤニヤしながら誰かを殺すことなんて、躊躇いもしない奴がいるに決まってる……ってことだ。
さすがに俺の足下にいるゆっくりはそんなことないだろうが……武器も満足に握れやしないんだからな……
ただ、他の誰かをこいつらみたいに無条件で信じることなんて出来やしない……俺はそれを改めて思い知らされた。



俺はいたたまれない気分になって、PDAのモニターを消した。
ゆっくりたちはまだ涙が収まらずにしゃくり上げている。
こんな時、何をしていいんだか分からねえよ、チクショウ……
と、とりあえず頭でもポンポンと撫でときゃいいのか……?

自分で言うのもなんだが、ぎこちない手つきでゆっくりたちを撫でてやったら、目に涙を浮かべながら俺をジッと見あげてきた。
面と向かってこんな涙目を見るのなんてなかなかないから、思わず目を逸らしそうになる。

「……なぁ」

沈黙が耐えられなくなって、俺から切り出す。

「ちょっと……探検してみるか? この建物の中……気分転換に」

嘘じゃなかった。
どこに殺し合いに乗った奴がいるか分からない……だから基本的に俺はここから出るつもりはない。
ただ、あの八頭身がここを飛び出してから何時間も経っているけど、その間ここに来た奴はいないはずだ。
だったら、気分転換にこの建物を調べてみたっていいんじゃないか。
このまま何もしないでこの部屋にいるのも、とてもじゃないけど出来る雰囲気じゃない。
それに、もし今後誰か怪しい奴がここに来た時のために逃げ道を探しておくのだって悪くないはずだ。

探検、というフレーズにゆっくりたちは敏感に反応してきた。

「探検……面白そう!」
「やろう、やろう! ゆっくり探検しよう!」

こいつらもきっと、ここでジッとしている気分じゃなかったんだろう。
まだ涙を浮かべたままだけど、俺の提案に乗ってきた。

よいしょ、と一声あげて俺は立ち上がって、ズボンに付いた埃をパンパン、と払い落とした。
そして、ランタンを点けると部屋の出口へと歩き出し、そしてゆっくりたちの方へ振り返る。

「……行くぞ。言っとくけど……あんまり騒ぐなよ」
「分かったー!」
「分かったよ!!」

さっきまで落ち込んでたのはどうしたんだよ……とため息をつきたくなった。
……けど、今の俺にはこいつらの元気が少し羨ましかった。

「……ったく」

そして俺たちは部屋の外へと踏み出していったのだった。





 *     *     *





かつてはホテルとして使われていたこの建物。
それなりに由緒正しかったのか、ここの地下にはある部屋があった。
そして、そこには一人の男がジッと息を潜めていた。

その部屋にはあちこちとワインが並んでいる――いわゆるワインセラーだ。
……もっとも、決して保存状態は良好とは言えず、割れてしまっているボトルだって少なくはない。
ブドウの臭いに満たされたワインセラー、その中心にランタンが灯っている。

ランタンの灯りを頼りに座り込んでいた男は、PDAを叩きつけてしまいたくなるのをなんとかこらえていた。
画面には男の忍法帖の画面が映し出されていた。
そこに記されていた男の名前は、自分がかつて使っていた名前であった。



彼は漫画家である。
誰もが知る超一流の雑誌に連載を持っていたことだってある。
……ただ、残念なことにそれは長続きすることはなかったのだが。

どんな漫画家だって、打ち切りの憂き目には合いたくない。
自分の構想したストーリーを、自分の生み出したキャラクターで、思うがままに描けることが出来たらどれだけ幸せだろうか。
現実には、そんな理想的な仕事が出来る漫画家はほんの一握りだ。
大抵は、作品の人気という指標によって志半ばで道を絶たれてしまう。

絵を描く才能と、ストーリーを作る才能とは本来全く別物である。
漫画家の場合、それが双方ある程度のレベルに無ければヒットを生み出すことは難しい。
彼は画力に関しては一定の評価を得てはいた。問題はストーリーテラーとしての評価であった。
いくら見た目のいいキャラクターがいたとしても、内面や周囲の環境が伴っていなければ愛されることはない。
「※ただイケ」がこと漫画の世界においては無条件で通用するわけではないのだ。

幾度かの手痛い失敗を経て、彼は原作者を別に迎え、ペンネームも変え、ターゲットも上の年齢層へと変えて新たな作品を発表した。
こちらは過去の彼の作品とは打って変わって数年に及ぶ連載となった。
過去に打ち切り作家の代表格として語られた彼ではあるが、その名誉のために言っておこう。
自分の単行本を、名の通った一流の出版社から二十数冊も出した彼は、漫画家として一定の成功を収めたと言えるのだ。



さて、手がけた連載もいよいよ大団円へと近づいて行ったその最中に彼はこの死亡遊戯の舞台へと落された。
勿論、自分にそんなことをさせられるだけの心当たりなどなかっただけに、彼は戸惑った。
誰かを殺すだなんてことは真っ平御免だが、もし誰かに襲われでもしたら……?
いつ何時、自分の命が危険に晒されてもおかしくない状況に、彼は疑心暗鬼に陥っていたのだ。

「1さーん! 君は僕が絶対に護るよぉぉぉぉぉ!!」

突如として上の階から聞こえてきた大きな声に一瞬たじろぎはしたが、どうやら声の主は外へと向かったようだった。
彼は胸をなでおろし、まずは自分の命を守る為に何か役に立つ物はないか、そう考えて荷物を漁り始めたのだった。

「……なんだ、これ?」

デイバッグに手を突っ込んで、彼が最初に触れたのは何やら大きな金属質の物体だった。
取り出してみると、それはドーナツ状の物体に、水晶のような形をした金属が付いている。数えてみると全部で18個。
彼は付属の説明書を手に取った。

「なになに……? ガーレ、だって?」

読み進めてみると、そこには神の叡智だのという胡散臭い言葉も並べられてはいたが、相当に強力なものであるらしいことは分かった。
銃なら、一度弾を撃ってしまえばそれまでだが、このガーレという武器は発射した弾がブーメランのように戻ってくるというのだ。
しかも、その軌道は使い手の意のままに操ることが出来るというのだから、彼は驚くばかりだった。

「なんなんだいったい……ここはファンタジーの世界か何かか?」

漫画家とはいえ、彼が手がけてきたのとは毛色の違うものが手の内にあるだけに、依然として戸惑いは深まるばかりだ。
とはいえ、使い方を間違えなければ強力な武器であるのは間違いないと彼は確信した。
懐に収められるほどの大きさでないのが彼にとっては不満だったのだが。

「出来れば、他にも何かがあってほしいんだけどな……」

そう思った彼だったが、その期待は儚くも崩れ去る。
PDAや、ランタン、水に食料という、恐らくは全員に行き渡っているであろうものを除けばただ一つ。

「靴墨……かよ」

ため息をつきながらも、男は一応説明書に目を通す。
顔に塗りたくれば暗闇に紛れて多少は目立たなくなるようだが、とてもじゃないが臭いがキツくて耐えられそうになかった。

「ま、もう片方がまともなだけよしとするかな……」

そう自分に言い聞かせたものの、彼の不安は拭い去れなかった。
自分にもこれだけ良い武器が与えられたのなら、他の人間にも強力な武器があると考えるのは自然な流れだ。
あるいは銃か? バズーカか? 銘刀の類か? はたまた自分のようにファンタジーな世界の代物か?
考えれば考えるほど、彼は気が重くなるのだった。

「冗談じゃない、これでホイホイさっきの誰かみたいに飛び出して行って、それで殺られちゃったらどうしようもないだろ……」

結局、彼はその結論に達し、廃ホテル地下の朽ちたワインセラーでの籠城を決め込んだのだ。
誰かが来れば、いつでもガーレを手に抵抗できるように準備は怠らずに。

彼は知る由も無かった。
同じように籠城を決め込んだ参加者が、よりにもよって同じ建物にいることなど。



……それから数時間。
手持無沙汰になった彼は、奇しくも上階の男と同じようにPDAを弄ってみることにしたのだった。
そして、手元の忍法帖に記された自らの名前に憤慨しそうになっていたのだ。

若気の至りと言ってしまえばそれまでかもしれない。
だが、この名前は彼にとっては苦い記憶しか残っていないものなのだ。

彼を怒らせたのは、それが彼のいわば黒歴史を掘り起こしたから、ということだけではなかった。
打ち切りの憂き目に遭い、立ち直るきっかけを探していたその頃のことだ。
人づてに彼は自分のことがネット上で話題になっていると聞いたのだった。

(なんだ、世間には分かってくれる人がいるのか……?)

などという淡い期待は呆気なく打ち砕かれた。
話題になっていたのは、彼が精魂込めて送り出した作品ではなく、毎週発売される雑誌の巻末に寄せたコメントであった。
しかも、その反応のほとんどは好意的なものではなく、自らを茶化したものである。
ただでさえ打ち切りで傷ついた彼のプライドは、さらにズタズタに引き裂かれたのだった。



「ふ、ふざけやがって……! 無理やり人殺しさせるだけじゃなくて、人の嫌な思い出まで引っ張り出してきやがって……!」

忍法帖に燦然と記された自らを表すその名前――"キユ"という過去の名前に彼の怒りと不信は大きくなるばかりであった。

「チクショウ……絶対に死んでたまるかよ……! 殺られる前にこっちから殺ってやる……!」

主催者が登録した自らの名前によって、キユは最早他人を信じることが出来ないほどに冷静さを欠いていた。
わざわざ飛び出していく気は無いが、自分に近づくものは徹底的に拒むつもりでいた。
グッと、傍らに置いたガーレを握りしめる。



その時だった。
微かではあるが、何かが話す声がキユの耳に入ってきた。

「……! 誰か……来るのか!?」

キユは耳をそばだててみる。

「探検♪ 探検♪」
「ゆっくり探そうね!」
「だから……少しは静かにしろっつーの……」

どうやら3人組であるらしいことが分かった。
もし、無口な奴が混じっていればそれ以上か、とキユは思う。

(どこの誰だか知らないけどな……こっちに近づいてくるんじゃねえぞ……)

ワインの棚を背に、キユがガーレを構える。
そしてジッと息を潜めて、何者かの来襲に備えた。





ネット上に潜む悪意に触れてきた2人の参加者が肉薄する。
果たして、彼らは望まぬ出会いを果たしてしまうのか……
それとも、この場は平和に収まるのか……

不気味なほどに輝きを放つ月は、答えを知っているのだろうか。



【A-6・廃ホテル内/1日目・黎明】
【タケシ@ニュー速VIP】
[状態]:健康、不安
[装備]:イングラムM10(32/32)@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、麦茶(残り3/4)@ニュー速VIP
[思考・状況]
基本:殺し合う気は無い。死にたくもない
1:気分転換に廃ホテルを探索する
2:死にたくはないが、どうすりゃいいんだろうな……
3:カーチャン……べ、別に心配なんか……

※2chに関する記憶があるようですが、あまりはっきりしていないようです


【ゆっくりしていってね!!@AA】
[状態]:健康、ゆっくり
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品×0~2
[思考・状況]
共通:ゆっくりしていってね!!!
1:ゆっくり探検するよ!!!
2:内心、虐待画像を目の当たりにして気分が落ち込んでいる

※ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙、2体で1人扱いのようです
※片方が死亡したらどうなるかは、後続の書き手さんにお任せします



【A-6・廃ホテル内地下ワインセラー/1日目・黎明】
【キユ@週刊少年漫画】
[状態]:健康、人間不信
[装備]:ガーレ@エルシャダイ
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、靴墨@現実
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗る気は無いが、誰も信じられない
1:近づく奴には全力で抵抗する



※タケシのPDAが2chの閲覧で酷使されました 電池の残量(どれくらいまで使えるか)は他の書き手の方にお任せします
※PDAに内蔵された2chの専ブラでは、URLの先にある画像をサムネイルで見ることだけは出来ます リンク先にジャンプは出来ません



<支給品紹介>

【ガーレ@エルシャダイ】
エルシャダイに登場する武器の1つ。
ドーナツ状の制御装置には使い手の脳波を探知する宝石のようなものが付いている。
使用の際は自動的に背中に装着され、背負うような格好で使うことになる。
これを中心に18発の弾を自由自在に発射し、発射した弾はブーメランのように帰ってくる。
遠距離からの攻撃に特化しているばかりでなく、所持者の機動力までも向上させるという性能。
エルシャダイの主人公・イーノックは3発1組の6セットで使用していた。
18発全てを自分の前面に展開して盾として使用することも可能。
斬撃や突進を主にするアーチという武器には相性がいいが、高い防御力を誇るベイルという武器には火力が足りず苦戦する。
上述した2つの武器に比べると、見た目は華麗だが少々癖のある武器という位置づけ。


【靴墨@現実】
田代まさしが所属していたドゥーワップ(音楽のジャンルの1つ)グループ、ラッツ&スターの外見は黒く塗りたくったその顔であった。
これは、ステージ上でより目立つために田代が見ていた映画に登場した黒塗りパンチパーマの詐欺師からヒントを得た。
レコードデビューしてからはブラックミュージックのイメージとも合ったことから大評判となる。

……が、実際には靴墨は使っておらず、デビュー直後は白髪染めで、それ以後は黒色のファンデーションの厚塗りを行っていたという。
靴墨を塗っているという噂が立ち、ラッツ&スターのファンはこぞって靴墨を塗っていたこともあり、自分たちも使っていると答えたとか。

なお、顔を黒塗りしているのは田代を含むメインボーカルの4人だけ。
クワマンこと桑野信義は黒塗りをしていなかったが、彼が白人であるという設定があったというこぼれ話も。



No.36:ちはやぶる たらちねの 時系列順 No.38:Bump of Belgianeso
No.36:ちはやぶる たらちねの 投下順 No.38:Bump of Belgianeso
キユ No.62:見えない敵と戦う漫画家
No.13:殺し合い中?でもゆっくりしていってね!!! タケシ No.62:見えない敵と戦う漫画家
No.13:殺し合い中?でもゆっくりしていってね!!! ゆっくりしていってね!! No.62:見えない敵と戦う漫画家

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