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Bump of Belgianeso  ◆m8iVFhkTec




額から、背中から、全身から滝のように汗が流れ落ちる。
動悸は破裂しそうなほど大きな音を立てて鳴り響いている。
ベルジャネーゾは息を荒げながら少しづつ走る速度を緩めた。

「ぜぇ…ぜぇ…も、もう疲れたってレベルじゃねぇぞ…」

汗が頬を伝ってアスファルトにポタポタと落ちていく。
一部の汗は眉を越えて目の中に入ってしまい、視界がぼやけてろくに前を見ていられない状態。
十数分、はたまた数十分か定かではないが、彼は妙なイカレ貴族から相当な距離を逃げてきた。
ただでさえ運動不足で少ない体力は、もう既に限界に達していた。
そして彼は、咳き込みながらも近くの寂れたアパートの階段に腰をかけることにした。

…ここまで逃げれば多分あの野郎も追ってこないだろう。
階段の段差に倒れこむような体勢で空を仰ぎ、ハーハーと大きく深呼吸をした。
ある程度息が整うまで呼吸を続けたあと、袖口で顔の汗をぬぐい、思い切り息を吐く。

心臓は未だに速い鼓動を繰り返している。
全身の血液が、まるで沸騰しているかのように熱い。
こんな感覚はいつ以来だろう?
確か、学生時代の体育か何かで行われた持久走か何かがこんな感じだった気がする…
…いや、当時はもう少し走り終えたあとに爽快感だとか、達成感だとかをもっと感じられたっけな?
それとも、そんなのはいわゆる思い出補正で、実際には今と同じようにひたすら苦しいだけだったかもしれない。

そんなことをぼーっと考えていた。

「…確か…水が入ってたか…」

彼はデイバックから水を取り出して一気に飲み干す。
火照った体に冷たく染み渡り、体内から癒されていくのが感じられる。
心ゆくまで飲み干すと、最後にプハァッ! と大きく息をついた。
出来ることなら学生の頃のように、頭から水を浴びたい気分に駆られたが、流石に勿体無いためその衝動は抑えた。

長時間に渡って走り続けたせいで、ベルジャネーゾの体は痺れるほどに疲労していた。
服はびっしょりと汗で濡れ、肺は痛いほど苦しく、頭はフラフラとしている。

…でも、俺は今、まだ確かに生き延びているんだ。
この疲労こそが『生』の実感。
こんな、狂ってるってレベルじゃねぇ世界で、なんとか殺されずに済んでいる。
俺はこんな場所で、理不尽なことで、死ぬのは絶対に御免だ。
生きて、家に帰って、PS3を買って…やりたいことはたくさん残ってる。
とりあえず俺は、猫男と、イカレ貴族から逃げきれたんだ。まだまだ簡単に殺られるわけにはいかないな…。

「クラウド…アイツも無事かな…?」

助かった安心感から少しだけ余裕が出来て、クラウドのことが頭をよぎった。
あの危険な猫男にやられたりしてないだろうか…。いや、アイツならきっと大丈夫だ。
まずは早くクラウドと合流しないとな…。俺ひとりで逃げるのもそろそろキツイし。
…だが、さっきの場所からだいぶ離れてしまった…。
もしもこのまま会えなかったら、マズイってレベルじゃねぇぞコレ…。

すぐにでもクラウドを探そう。もう少し休憩したい気持ちを抑えてベルジャネーゾは体を起こした。

















          「;:丶、:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:|
            ト、;:;:;:丶、:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:|
          {::ト、:;:;:;:;:;:` '' ー―――;:;: '|
           l::l . 丶、:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:|
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            || ヾ三)       ,ィ三ミヲ  |
            lj         ゙' ― '′ .|
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           | fr‐t-、ヽ.  .:.:. '",二ニ、、|
           l 丶‐三' ノ   :ヾイ、弋::ノ|
           ', ゙'ー-‐' イ:   :..丶三-‐'"|
            ',    /.:   .      |
            ',  ,ィ/ :   .:'^ヽ、..  |
             ',.:/.:.,{、:   .: ,ノ 丶::. |
            ヽ .i:, ヽ、__, イ    _`゙.|
              ,.ゝ、ト=、ェェェェ=テアヽ|
           _r/ /:.`i ヽヾェェシ/   |
     _,,. -‐ '' " ´l. { {:.:.:.:', `.':==:'."    |
一 '' "´        ',ヽ丶:.:.:ヽ、 ⌒      ,|
             ヽ丶丶、:.:.ゝ、 ___,. イ |
              `丶、 ``"二ユ、_,.____|





「うわああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

呼吸が止まり、体温が一瞬で凍りつき、心臓を素手で握られたような感覚が襲いかかった。

一条三位はベルジャネーゾの姿を確認して、ニヤニヤと笑みを浮かべながら一歩一歩近づいてくる。
その手に握られているのは、先ほどゲームキューブを叩き壊した、…鈍い輝きを放つ日本刀。

「ほぉ~っ、これはこれは…また、会えて嬉しいぞよ」
「やめろ…やめろっ来るなあああぁぁぁ!!!」

ベルジャネーゾは絶叫する。
殺される…! 今度こそ殺される…! 嫌だ、嫌だ…!
慌てて四つん這いの体勢で必死にアパートの階段をかけ上がった。
それに合わせて一条三位も後を追ってくる。

「逃げても無駄でおじゃる!!」

アパートは二階建ての、非常に簡素な作りになっている。
階段に近い部屋から順に一号室、二号室…と振られており、五号室の前で廊下が突き当たっている。

すなわち、階段を上った先は行き止まり。
ベルジャネーゾはすぐにその痛恨の判断ミスに気が付き、心底焦った。
目が大きく見開かれ、息は荒くなり、「ヒ、ヒィ…!」と悲鳴を漏らす。
そして彼は、咄嗟にすぐそばにあった三号室のドアノブを引っ張った。
この中に逃げれば…なんとか助か…

ガギンッ! ガギンッ!

鍵がぶつかる無慈悲な音が虚しく響いた。
全力を込めて引っ張るも、扉はビクともしない。
何度も何度も、ドアノブを引っ張る。蹴飛ばす。しかし、その扉が口を開くことは無かった。
一条三位はこの瞬間にも目の前に迫ってくる。不気味な表情を浮かべながら。

「がああああぁぁぁぁぁぁ!!! 来るんじゃねええええぇぇぇ!!」

逃げる。突き当たりまで走り、五号室のドアに手をかける。
…先ほどと同じ。鍵のかけられた頑丈な扉は、彼の願いをあっさりと打ち砕いてしまった。

「追いかけっこは終わりでおじゃるよ。御主はここで大人しく死ねばよい」
「クソッ…クソッ!!」

逃げなくては…なんとしても逃げなくては…!
すぐさまベルジャネーゾは柵に足をかけ、その上に立った。
ここから降りる以外に逃げ道は残されていない。
地面までは3m程度、地面は土…とは言え、うまく着地をしなければ足に大きな負担がかかってしまう。
(危ないよこれ…だが、やるしかねぇ…!)
手すりを蹴って、空(くう)へと飛び出す。

その瞬間、足首に生暖かい感触が走り、ガクッっと浮遊感が失われ、体勢が大きく崩れた。
一条三位の手が、ベルジャネーゾの足首を思い切り掴んでいたのだ。
だが、そのままベルジャネーゾの肉体を引き上げる力なんてあるはずもなく、手は離されてそのまま胸部から落下していく…

ベルジャネーゾの悲鳴、それはドサッ…と言う重く鈍い音と共に途切れた。
腹部から地面に激突、そしてその反動で顎を打ち付けてしまう。

「ごっ…おごおぉぉぉ…っ!!」

肋骨全体にかけられた激しい衝撃によって、内蔵を押しつぶされたような痛みが走る。
激痛のあまり、肺にうまく酸素が取り込めない。呼吸困難に陥りかけている。
顎は出血し大きく腫れ上がっている。さらに口内を切ってしまった。
苦痛に表情を歪ませ、涙をこぼしながらうめき声をあげた。

「だから言ったであろう? 大人しくせよとな」

一条三位はそう言いながら、柵を掴みつつ下へと降りてくる。
無理やり息を吸い込み、ありったけの力で叫び声を上げた。

「グ、グラウドオオォォォ!!!! だふけへぐれえええぇぇぇ!!!」
「だまりゃ!!」

悲鳴をあげるベルジャネーゾを思い切り蹴り付ける。
がっ…と呻いた。

「ええい、どこまでも醜態を晒すでない! 恥を知れ平民が!」
「…やえてぐれ…だすけてぐれ…」

…彼は命乞いをする。
それしか彼に出来ることは残されていなかった。
彼の口調は顎を強く打ち付けたせいで呂律がうまく回らず、非常にたどたどしいものとなってた。

「…俺はまら…死にだぐないんだ…!」
「ほう? その方はまだ死ぬことに未練があると申すのじゃな?」
「…あぁ…」








―――ザクッ


問答無用とばかりに鈍い刃物の音が響く… それと共にベルジャネーゾの腹部から赤黒い血が滴り落ちる。
日本刀の刃は、皮から、筋肉、そして内蔵に至るまでをやすやすと切り裂いた。
呻き声を上げながら、ベルジャネーゾは仰向けに倒れ込んだ。

「笑わせるでない! その方の未練なぞ、帝の臣である麿の望みに比べればくだらぬ物ぞ。
 どちらにせよこの首輪がある限り、戦いを勝ち残る以外に生きれる術なぞ無いのじゃ!
 麿はそれをわきまえ、その覚悟を決めた上で殺し合いに乗っておる!
 死が怖くて逃げ回るその方の命なぞ、zip桃源郷建設のための犠牲になった方がマシでおじゃる!」

一条三位はそう言い放った。

彼は、自分のエゴのためなら、他人の命などどうでもいいと考えている。
しかし、それでも彼の瞳には、ただならぬ程の強い信念が宿っているように見えた。
そう、麻呂にとってzipと言う物は、狂信的なまでにかけがえのない物なのである。

「では、今すぐ楽にしてやるぞよ…」

刀を持ち直し、ベルジャネーゾの首へと狙いを定めた…その時だった。



         ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
         {::{/≧===≦V:/
        >:´:::::::::::::::::::::::::`ヽ
       γ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
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     、ヾ|:::::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::: / /
      ヾ:::::::::|V≧z !V z≦/:::: / /
       ∧::::ト “        “ ノ::::ノ /  「そこまでだよ!」
       /:::::\ト ,  'ー'  ィ::/:: ,/
       /__          /´
      (___)        /
          |        :::|
          i     \ :::/
          \     |::/
            |\_//
            \_/


突如響いた勇ましくも可愛らしい第三者の声
そして聞こえるキュムキュムと言う特徴的な足音…
その生き物はベルジャネーゾと一条三位の間に立ち塞がった。

「その方、なんじゃ!?」
「モッピー知ってるよ! あなたみたいな悪党に名乗る名前なんて無いってことを!」

モッピーはそう宣言するとその手に握られたグングニルの矛先を一条三位へと向けた。
…なお、うっかり名乗ってしまっている点に突っ込んではいけない。

「モッピー知ってるよ! そんな悪党をみんな殺せば、この戦いを終わらせられるってことを!
 さぁ、早くそのおっちゃんから離れなさい!」
「この無礼な…! 切り捨ててくれるわぁーっ!」

一条三位は身を引いて刀を構えた。
モッピーはグングニルを持ち直し、しっかりと柄を握る。
両者の間に数刻の静寂が訪れた。

―――大丈夫、グングニルがあるんだ…負けたりはしないよ…!
そう自分に信じ込ませる。
…モッピーは内心で抱いている、緊張と恐怖をなんとか抑え込んでいた。
みんなを救うためには、こんなことで怯えていちゃいけないんだ…!

人を殺す、と言う重大な行為に、今まさに直面しているのだ。
例え目の前の男が平気で人を殺す悪党だとしても、やはり怖くて仕方がなかった。
ここで殺さなければ、罪のない人がもっと殺されてしまうんだ…
そうだ、わたしには最強の槍が付いているんだよ。それで一突きするだけでいいんだ…!



やがて、どちらともなく大地を蹴った瞬間、戦いの火蓋が切って落とされた。

接近してくる一条三位を妨げるため、モッピーは槍を水平に薙ぎ払った。
一条三位は足を止め、即座にバックステップで下がる。
すかさず前方に飛びつきながら、その心臓目掛けてグングニルを引き、素早く突きを放つ。
…だがそれは、ギリギリのところで届かなかった…!
モッピーは続けて何度も突きを繰り出す。

不思議なことに、その槍を振り回すのに掛かる負担は非常に軽いものだった。
それは決してグングニルが軽い槍だから、という理由ではない。
力の掛かけられた勢いが非常に繊細にコントロールされるがゆえに、武器の重量に振り回されてしまうと言った事が起きないのだ。
無論、そのスピーディに放たれる一撃は全て非常に重いものとなっている。
さすが最強の武器だと呼ばれる所以だね…とモッピーは戦いながら関心していた。

…だが、そんな武器のアドバンテージを自身の肉体が殺していることに、いらだちが隠せなかった。
一条三位とモッピーの体格の差は非常に大きい。
というよりも、モッピーがあまりにも小さすぎた。
彼女が踏み出す一歩の距離は、一条三位の半歩にしか満たないのだから。
…どれだけ前進しようとも、刃の切っ先はいつになっても届かない…

「見切った!!」

一条三位の心臓を狙う金色(こんじき)に輝く槍。
その軌道を読まれ、刀身で受け止められてしまった。
ギリギリ…と互いに押し合い、一条三位は体を横に傾けながら槍の切っ先を右側へと反らす。
槍と言う武器の使用上、サイドへ反らされることでモッピーに大きな隙が生じる。
彼女がグングニルを構えなおす前に、その体格差を活かした蹴りが放たれる。

「がっ!?」

蹴りはモッピーの頬に思いきり食い込んだ。
い、痛いよ! そしてちょっとマズイ!
ヨロヨロキュムキュムと顔を押さえながら数歩後ろに下がり次の攻撃に備えようとした…が…

一条三位は日本刀の鞘を腰から取ると、モッピーの顔へと投げつけた。
予期せぬ攻撃に対応が遅れ、カツンと音を立てて顔面にクリーンヒットしてしまう。

「ふぎぃっ!」

その痛みに耐えかねて、思わずモッピーは顔を押さえた。

…切り伏せるだけの、決定的な隙を作ってしまった。
すかさず、ここで刀を振り上げると一条三位は思いきり足を踏み出す。

「隙有り!!」

その刃がモッピーの頭へと迫る、その時だった。



一条三位のすぐそばの宙に、小さな光が浮き上がったかと思うと、その光は一瞬で巨大な閃光となり、…そして大爆発を起こした。




 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 




 時間はほんの少し巻き戻る


…感じるのはドロドロと流れ出る熱い血の感覚… 苦しめるのは焼けるような激しい痛み…
体が…鉛のように重くなった… そして吐きそうなほど、頭が痛い…

これ…危ないよこれ… このままじゃ死んでしまう…!
嫌だ…死にたくねぇぞ… 助けてくれ…誰か…

―――彼の目の前には刀を振り下ろさんとする貴族

虚ろな目をしたまま、ベルジャネーゾは「死」の恐怖に震えていた。
怖くて仕方がない…。死んだらどうなるんだ? 何も考えられなくなるのか?
嫌だ、嫌だ、嫌だ…! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!!

そんな、死を目前にして苦痛と恐怖に絶望するベルジャネーゾの耳に、ある声が聞こえた…


『そこまでだよ!』


来てくれたのかクラウド…! …いや、この声は違う…。
クラウドじゃなければ、いったい誰が…?

負傷した体に鞭を打って首を動かし、その声の主をぼやけた視界が見た。
…それは見ず知らずの生き物だった。クラウドよりも等身は多いが、イカレ貴族よりも圧倒的に小柄な女性(?)…


『モッピー知ってるよ! そんな悪党をみんな殺せば、この戦いを終わらせられるってことを!
 さぁ、早くそのおっちゃんから離れなさい!』


…アイツは、俺を助けようとしているのだ。この殺し合いを強いられた空間で、見ず知らずである俺を助けようとしている…
あんな子供みたいな図体で、たった一人で日本刀を振り回すイカレ貴族に立ち向かってるのだ…
それどころか、アイツは悪党を全員倒してこの殺し合いを終わらせる、だなんて抜かしてやがる。

ほら、今だってイカレ貴族相手に苦戦しているじゃないか…
だいたい悪党はあの貴族だけじゃない、あのMSKKを殺した猫男がいて、他にもそれ以上の奴がいるかもしれないんだぞ…? それなのに…だ

もう、無謀ってレベルじゃねぇぞ…!?

その姿は、あまりにも滑稽だった。
彼女がどれだけ必死に攻撃をしても、貴族が一歩後ろに下がるだけでもうその槍は届かない。
その様子はもはやコントのような、学芸会の演技のような、そんな安っぽいシーンにしか見えなかった。
…だが、それは彼女にとって、それは勇気を振り絞った上での命懸けの闘いなのだ。
笑わない。笑うわけがない。誰がその姿を勇姿を見て笑うというのだろうか?

一番滑稽なのは…、笑われるべきなのは、おそらく俺の方じゃねぇか。
俺の意志は、この女の子どころか、あのイカレ貴族の足元にも及ばねぇだろう。
…死に直面することを恐れて逃げ回る、ただの臆病者だった。
首輪を爆破された3人や、MSKKみたいに殺されるのが恐くて、死にたくなくて…

『どちらにせよこの首輪がある限り、戦いを勝ち残る以外に生きれる術なぞ無いのじゃ!』

全くその通りだというのに、俺はその現実に直視出来ずに、それに立ち向かうことを放棄したんだ。
死に際になってそんなことに気づくとか、バカ野郎ってレベルじゃねぇぞ…

耐え難い程の苦痛が自身の体を蝕んでいる中、気がつけばベルジャネーゾの思考は不思議と冷静なものになっていた。


あぁ、あの……モッピーとか言ったな…アイツが今、まさに殺されそうになっている…
このまま何もしなければ、きっとモッピーは殺られ、俺もあの貴族に止めを刺されてそれで終わりだろう…
………それでいいのか? 俺はよぉ…。

何もせずに、ただここでブッ倒れて、その最後を黙ってみるしか出来ないのか?
結局クラウドにも会えずに、モッピーを救えず…
…俺のために命を張った奴らに何の礼も言えないまま、死ぬのか?
―――嫌だ。
俺に、何か出来ないのか? こんな俺に、何でもいいからやれることはないのか…!? 誰か、教えてくれ…!



ふと、彼の目に浮かんだ映像。
涙を流しながらMSKKが見せた、その、5文字の言葉


あぁ、それか…
…こんなのは奇跡…いや、もう夢物語ってレベルじゃねぇぞ…
やったところで、普通に考えたら無駄なことでしかないだろう…

―――それでも、彼は賭けることにした

肺に走る激痛を抑えながら息を吸い込む。

「…イ………オ…………」

一文字、一文字を、はっきりと、その『呪文』を紡いでいく。
何故だろうか? この瞬間、彼はこの馬鹿げた行為が必ず成功すると確信したのだった。





「………ナ………」




「…ズ、ン…!」







彼のデイバックに入っていた「お守り」が強い輝きを放ち、気がつけば彼の横には凛とした男の姿が立っていた。

やがて、お守りが粉々に砕け散っていく… それと共に金色の光の粒子が一条三位の方へと集まっていく…。

そして、男は両手を前方にかざすと、力強い声で叫んだ


―――波ぁ!!








                              ヽ`
                              ´
                               ´.
                           __,,:::========:::,,__
                        ...‐''゙ .  ` ´ ´、 ゝ   ''‐...
                      ..‐´      ゙          `‐..
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  ;;;;;;゙゙゙゙゙            /                           ゙:                ゙゙゙゙゙;;;;;;
  ゙゙゙゙゙;;;;;;;;............        ;゙                              ゙;       .............;;;;;;;;゙゙゙゙゙
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          ――――――――――― イ オ ナ ズ ン ―――――――――――













偶然にも、その奇跡が起きるだけの条件は整っていた




 ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○







「う、うぅん…」

モッピーは呻き声をあげて目を開いた。
キーンと、耳鳴りが酷い…。視界も朧気、頭がやけにクラクラとする…。

「…あれ…何が起きたの…?」

グングニルを杖のようにして立ち上がる。
どうしたことだろう。直前まで戦っていたはずの一条三位が黒焦げで仰向け倒れているではないか。
自分の体もところどころ焼け爛れていて、さらにススで全身真っ黒に汚れていた。

…そうだ、あの時突然視界が強い光で真っ白になって、同時に爆音が聞こえて…
う~ん…何かがすぐ近くで爆発したのかなぁ…たぶんそうだろうな…でもなんでだろう…?

「お、おい…」

不意に男の弱々しい声が耳に入った。
振り向くとそこには刀で斬られた男がいた。
男は倒れたままに、ゆっくりと腕を挙げて親指を立てた。

あぁ…なるほど…。
彼の仕草から、何が起きたのかがおおよそ予測が出来た。
そこでモッピーは、いつものように威勢良く声を上げる。

「モッピー知ってるよ! あなたがモッピーの代わりにこの悪党を倒してくれたってことを!」

あぁ、やっぱり、この人を助けようとして良かった。
わたしの判断は間違ってなかったんだ!
心の中にあった不安が一掃されるような気分。
誰かに認められることはこんなにも嬉しいのね!

「…おっと、こうしてはいられないよ!
 早くこの人に応急措置してあげないとね!」

モッピーはキュムキュムと独特な足音を立てて、ベルジャネーゾに駆け寄った。













「あれ…?」

プス と、刺さる果物を切り分けるような子気味のいい音がした。

      それは
            頭 の 中 か ら

その瞬間には既に、街灯の光も、風の音も、何もかもが消えていた。












「…あ……………あぁ……………あああぁ……………」

ベルジャネーゾは今、目の前で起きた光景を信じることが出来なかった。
こちらに笑顔で駆け寄ろうとした、モッピーの顔面から、スッと真っ赤な刃が飛び出してきたのだから…

カシャン…と音を立ててグングニルが落ちる。
それと共に眼球がくるりと裏返り、力が抜けたモッピーの体はまるでボロボロの人形のようになっていた。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!!!!」
「ふふ…ふほほほっ…無様なものよ…!」

一条三位はモッピーの顔から刀を抜いた。
フシュッと血が噴き出し、モッピーの体がコトリと転がる。
彼の全身は黒焦げなんかではなかった。
モッピーと同じように真っ黒にスス汚れているだけだったのだ。
ただ、彼の左腕の肘より先の部位は、一部骨が露出した状態で力なくぶら下がっている。
爆発の衝撃によって犠牲になったことを表していた。

だがしかし、確かな事は彼は依然として生きていて、動き回れるだけの力が残っているという事だ。

…何故、一条三位が生きているのか?
普通に考えれば、イオナズンなんて大技をまともに食らえば並の人間なんて軽く消し飛ぶのはわかるだろう。
考えられる要因は二つ、「並の人間ではなかった」のか「まともに食らっていなかった」のどちらかである。

―――まともに食らっていなかった。

ベルジャネーゾは呪文を唱えた瞬間に、あることに気が付いた。
もしこのまま一条三位にぶつければ、同時にすぐそばにいるモッピーも共に吹っ飛んでしまうと…
そこで、彼は意識の中で、どうにかインパクトの位置をどうにか逸らそうと試みたのである。


結果、その試みは成功した。モッピーの肉体に致命的なダメージを負わせずに済ませることができた。
…結果、一条三位を殺すことが出来ずに、モッピーの命を奪うことになってしまった。



「クゾッ!グゾッ!グッゾオオオオオォォォォォ!!!うざげやがってえええええぇぇぇぇ!!!」

何度も叫び声を上げた彼の声帯はついに壊れ、喉に、肺に、ビリビリと焼けるような強い痛みが走る。
それでも彼は叫んだ。ボロボロに濁った声で、自分の誤ちを悔やみ、嗚咽と罵声を上げ続けた。

「麿の腕を奪ったその方には、たっぷりと礼をくれてやろうぞ。心しておじゃれ…」

一条三位は刀をひと振りすると、ゆらゆらと歩み寄って来る。
クソッ…クソッ…! …モッピー…MSKK…クラウド…どうしてこうなっちまったんだよ…
俺はもう、コイツに殺される運命なのか… ふざけるな、ふざけるな…!



――――へぇ、それじゃあその運命を変えてあげるよ



 え?


刹那、ベルジャネーゾの視界が ぐるり と大きく回転した。
何が起きたのかわからないまま、眼球を動かして必死に把握しようとする。

蛍光灯のごとく光る赤い刃を構えた、あの時のあの猫の姿があった。
そして、その足元には何かが倒れていた。

…それは彼にとって見慣れた服装をしていて、何より首がついていなかった。



                     _       ,/' ̄''ヽ、
                     { r `ー-=´ ̄      `ヽ
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                           〉iiiiiiiii/
                                ゝ==ノ

それが、首の無い自分の体だとは信じる事が出来なかった。

呆然としたまま、ベルジャネーノの意識は二度と戻らない闇の中へと堕ちていった。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



いやぁ、あの金髪チビの連れの、中年男がこんなとこで倒れてギャーギャー騒いでるとはね。
どうせ百貨店に篭っててもしょうがないと思って歩いてたら、とんだラッキーに出くわしたものだ。
見た感じ瀕死状態だったし、一瞬でザクーリと楽にしてあげた。いやぁ俺って優しいね。

「な、何をするぞ!」

突然近くの屋根の上から化け猫が現れて、飛び降りざまに麿が殺ろうとした男の首を跳ねやがったでおじゃる。
一条三位の抗議でモララーは始めて存在に気がついたようで「うわっ」と素の声で反応した。

「な、なんだよいたのかアンタ…」
「化け猫の分際でこの麿の獲物を横取りするとは言語道断! その方の罪、死で償ってもらうぞ!」
「は!? いや、アンタがさっさと殺さないのが悪いんだからな!」
「だまりゃ! 選ぶが良い! この刀で首を撥ねられたいか? …それとも…」

一条三位はさっと踵を返してグングニルを拾い上げ…ることが出来ないため、槍の柄を足で踏みつけながら言った。

「それとも、この南蛮風の槍で突き殺されたいでおじゃるか? ほれ、答えてみぃ!」

怒り心頭の一条三位は威勢良く啖呵を切る。
もちろん、勝機があって言っている訳ではなく、勢いだけである。
それでも、モララーとしてはあまりにも異様な相手に見えた。
目はギラギラと本気だし、全身ブラックでなんか得体が知れないし、挙句武器を二本も所持しているのだ。

モララーはその異形の男の姿をじっと見回すと、彼は赤い刃をスゥ…と消して…



とりあえず逃げることにした。

  ≡  ∧_∧
≡   (・∀・ )
  ≡ /  つ_つ
≡  人   Y
  ≡し'ー(_)

まだ夜が明けてないというのに、こんな変なのと戦うのはよろしくない。

「おのれ、待てーい!」
「次に会った時、相手してやるからな!」

いかにもな捨て台詞を吐いて、大地を思い切り蹴る。
人間では到底敵わぬ高い跳躍力で、あっという間に路地の闇へと消えていった。
逃げることに屈辱? そんなものは別に感じない。
何故なら、これこそが慎重な考え方であり、賢明な判断であると本人は信じているからである。




今度は、一条三位は逃げるモララーを追いかけなかった。
彼は死体の方へ向き直し、彼らのデイバックから支給品を抜き取る。
手に入れた物は10本のきゅうり、イオナズンの巻物、グングニル、そしてライター。
戦う上で使えそうな道具がほとんど無かったことに舌打ちをする。

「片腕が使えぬ状況では積極的に動くことが出来ぬな… どこかに籠城するのが最善か…?」

そう呟きつつも、彼の本心はもっと歩き回ることを望んでいた。
それは参加者を全員殺害し自らの願いを叶えると言う目的、それだけではなかった。
周囲にそびえ立つ住宅の群れ、そして小石の敷き詰められた道、暗闇を照らす炎とは違った白い灯り…
その全てが、彼のこれまでの人生で一度も見たことのなかった新鮮な光景であったからである。
この非常に珍しい世界を、もっともっと目の当たりにしたいと内心で思っていたのであった。



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寂れたアパートの前には、平和を望んでいた二人の亡骸が横たわる。
人を救うために勇敢にも 悪に立ち向かった者と、人を救うために誤ちと向き合い 奇跡を起こした者…

その努力や信念も虚しく、彼らは無残にも敗北した。
そして、残念なことに彼らのその武勇伝を語り継ぐ者はここにはいない。

いつの世にも、思想とは関係なく理不尽な運命を辿る者は存在する。
清く美しい心を持つ誰もが、必ず救われるなんて虫のいい話は存在しないのだから。



平穏な住宅が立ち並ぶ町並みの一帯は、強烈な血の匂いが漂うようになっていく。
蛍光灯の真っ白な光は、真っ赤に色染められた死体が少しずつ黒く固まっていく様を冷たく照らし続ける。
冷たい星々が点々と散りばめられた漆黒の夜空は、やがて地平線に向けて徐々に群青色、白色へと変化していく…。

…もうすぐ、夜が明け始める……



【レベル男@ゲームサロン 死亡】
【モッピー@アニメサロン 死亡】
【残り 57人】




【B-3・市街地/1日目・黎明】

【一条三位@AA】
[状態]:全身にダメージ(大)、左腕機能停止、ススだらけ
[装備]:日本刀@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)グングニル@FLASH「グングニル」 、きゅうり×10@なんJ、イオナズンの巻物@FLASH「イオナズン」 、ライター@現実、不明支給品×0~2
[思考・状況]
基本:優勝して、全てのzipが手に入る桃源郷を創る
1:ある程度回復するまでどこかに身を隠す
2:見た事のないこの町に興味
3:やっぱりzipが欲しい
【備考】
※イオナズンを習得しました


【モララー@AA(FLASH「Nightmare City」)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=02】)、ランダム支給品0~2、モシン・ナガンM28(4/5)@現実
[思考・状況]
基本:優勝狙い
1:さっきの気持ち悪い奴、何だったんだ?
2:殺し合いに乗る、強者はなるべく後回し
【備考】
※出典元により、自在に赤い刃を作り出す能力を持っています
※日本鬼子、鬼女の姿のみ覚えました。一条三位に関しては正確な姿を覚えられませんでした。


※イオナズンの爆発によって、少なくとも周囲一マス分に閃光と爆音が響きました。人が集まってくるかもしれません。


《支給品紹介》
【ライター@現実】
火をつけるための道具。いわゆる、使い捨てライター。
回して火花を起こすアレ(フリントと言うらしい)で着火するタイプなので、麻呂には使い方がわからない。


No.37:僕らはいずれ誰かを疑っちまうから 時系列順 No.39:汚いなさすがひろゆききたない
No.37:僕らはいずれ誰かを疑っちまうから 投下順 No.39:汚いなさすがひろゆききたない
No.21:命も賭けずに殺し合いとな!? レベル男 死亡
No.21:命も賭けずに殺し合いとな!? 一条三位 No.79:涙の中にかすかな灯りがともったら
No.14:モッピー知ってるよ。モッピー達がバトルロワイアルでも大暴れするって!! モッピー 死亡
No.30:Nightmare、そして現実へ モララー No.66:Moral Hazard