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それでも人ですか?

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

それでも人ですか?  ◆shCEdpbZWw




「ねぇ、落ち着いて話を聞いてよ」
「うるせえーっ! てめえのようなイカレ野郎の話なんて聞いてられっかーっ!!」

悲鳴を聞いて私が駆けつけてみるとこれだ。
見るに堪えない姿になってしまった女の傍らに、チェーンソーを持ったガキがいる。
そいつの服も、そして手にしたチェーンソーも、どちらも真っ赤な血に濡れていた。
これは誰がどう見たって、このガキが女をチェーンソーでバラした、そう思うしかないだろ……。

許せねえ、同じ女としてそこで死んでる女の無念は晴らしてやりたい、そう思った。
……だけど、今の私に何が出来る?
不思議なシールで物を増やすことは出来るし、デイバッグの中に入っている"アレ"を使えば目の前のガキを殺すことだって出来る。
だけど、悲鳴を聞いて慌てて駆け付けたもんだから、デイバッグの武器はまだ入れっぱなしだ。
シールで物を増やすにしても、あれはしっかり考えて仕込まないと役に立つようなもんじゃない。
頭に血が上って、ロクに考えもせずに行動に移ったことを、私は少しばかり後悔した。

「だから僕は……」
「口答えするんじゃねえーっ!!」

私の考えがまとまらないうちに、目の前のガキがまた言葉を発するもんだから、思わず怒鳴り声を上げてしまった。
だってそうじゃないか、あのガキは私のことを口封じに殺しに来るかもしれないんだから。
まさか、僕はやってない、とでも言うつもりか? 冗談じゃない。
そんなのみんなやってない、って言うに決まってるじゃないか。
これだけ状況証拠が揃っているのに、言い逃れをしようだなんていうそのひねくれた根性に、私はまた腹が立ってきた。

「いいか……! まずは武器を捨てな……! 妙なマネしたらどうなるか分かってるよね……!」

私はデイバッグの中へと手を伸ばす。
決して視線はガキから離さないように努めているから、デイバッグの中を見ることが出来ない。
手探りだから、なかなか目当ての武器を掴むことが出来ない……チクショウ!

「……分かったよ」

その声と共にガシャン、と音を立ててチェーンソーがアスファルトに転がった。
こっちが焦りを募らせる中、ガキは思いのほかあっさりと武器を捨てやがったんだ。
何だ……? いったい、何を考えているんだ……?

「よぉし……、それじゃ次はその場にゆっくりとひざまずくんだ……両手は頭の後ろで合わせな……」

私は、昔警官が私に言い放ったのと同じことをガキに向けて口走った。
とにかく、ちょっとやそっとじゃ反撃できない状態にしないことには安心出来ない……!
こんな小さなガキでもあのチェーンソーや私の持つ"アレ"みたいないい武器があれば人を殺せるんだからね……

いかにも渋々、といった表情を見せながらゆっくりとガキが両手を頭の後ろに回す。
そして右膝からひざまずいていくのを私は凝視する。

(あった……!)

そしてようやく私は目当ての武器を探し当て、それをグッと握りしめる。
今のところはやけに従順なガキだけど、何を考えているかは知らねえがこれでもう私の勝ちだ。
どこの誰か分からない女だけど、待っててくれよ、今敵は取ってやるからな……

「動くんじゃねえぞ……動いたら……」

目の前のガキが少しでも妙な動きをしたらすぐさま攻撃態勢に移れるように私は意識を集中させる。

その時だった。





パン、と乾いた炸裂音が聞こえたのは。



 *      *      *



(弱ったなあ……)

僕は心の中でそう呟いた。
どうやら目の前のお姉ちゃんは完全に僕がこの死体を生み出した張本人だと勘違いしているみたいだ。
お兄ちゃん達ならまだしも、僕にはそんな度胸も腕力もないのにね。

「ねぇ、落ち着いて話を聞いてよ」
「うるせえーっ! てめえのようなイカレ野郎の話なんて聞いてられっかーっ!!」

僕が口を開くと、すぐさま怒鳴られた。
あーあ、どうやら話の通じないタイプの人みたいだね。
本当に面倒なことになっちゃったなぁ……

支給品が入っているデイバッグは今背中に背負っている。
だから、すぐに中身を取り出してどうこうしようっていうのはちょっと難しい。
それに……

「だから僕は……」
「口答えするんじゃねえーっ!!
 いいか……! まずは武器を捨てな……! 妙なマネしたらどうなるか分かってるよね……!」

あのお姉ちゃんはこの調子だ。
完全に僕が犯人だと信じて疑わない、そんな感じだ。
もし僕が背中のデイバッグに手を伸ばしたらどうなっちゃうかってのは……言われなくたって分かるよ。

あーあ、僕もさっきの太ったお兄ちゃんみたいに、さっさと逃げちゃえばよかったのかなぁ……
でも無理だよね、見た感じあのお姉ちゃんの方がずっと大きいし、たぶん僕よりも足が速いんだろうなぁ。
よほどのことが無い限り追いつかれちゃうかもしれないし、そうしたら状況はさらに悪化しそうだしなぁ。
そのお姉ちゃんはさっきからこっちから全然目を離さずに自分のデイバッグをガサゴソと漁っている。
少しでも視線を外してくれたら、その隙に逃げても良かったのかもしれないけど……
そしたら、僕が殺人犯だって自白しちゃうよんなもんだよね。

「……分かったよ」

とりあえず今は諦めることにした僕は、足元にチェーンソーを放り出した。
一瞬、お姉ちゃんが驚いたような表情を見せたけど、その顔はまたすぐに険しいものへと戻っていった。
でも、お姉ちゃんに僕を殺すつもりがあるんなら、警告なんかしないでさっさとかかってくるだろうし……
ちょっと酷い目に遭うかもしれないけど、いつもお兄ちゃん達にされていることを思えば……大丈夫かな、たぶん。
もし捕まるだけで済むのなら、いつか誤解が解けるのを待った方がいいよね。

ここに連れて来られる前に、あのひろゆきっていう唇のお兄ちゃんが言ってた。
6時間ごとに流される定期的な情報で、殺されちゃった人の名前と、誰が殺したかっていうものが公開されるって。
その時に僕がやったんじゃない、って説明できれば、あのお姉ちゃんでも納得してくれるんじゃないかな。
それまであと3時間弱あるけれど……その間だけでも何とか生かしてもらえるように言いくるめないとね。

「よぉし……、それじゃ次はその場にゆっくりとひざまずくんだ……両手は頭の後ろで合わせな……」

逃げの一手が打てないんだったら、今はとにかくあのお姉ちゃんの言うことを大人しく聞いてた方がいい、そうしよう。
なんだか刑事ドラマを見ているようなそんな気分になってきたよ。
僕は言われるがままにゆっくりと頭の後ろに両手を回して、片膝を地面に着いた。
お姉ちゃんは手探りしていたデイバッグの中から目当ての武器を見つけたみたいだ。
ちょっとだけニヤッとした表情に変わったんだ。

(何とか殺されないようにしないとなぁ……)

そんなことをぼんやりと考えていた、その時だった。





パン、という乾いた炸裂音が聞こえたのは。



 *      *      *



「いざゆっけ~♪ むてきっの~♪ wktkぐん~だん~♪」

ワイは景気づけに12球団応援歌メドレーを口ずさみながら、一路北にある球場に向かって歩いていた。
特に球場に行ったところで何をするでもないが……やっぱり野球がワイの日常やからね。
ちょっとでも安心できる、落ち着けるところに行こう、というのを本能的に選んでたんやろうな。
もちろん、右手にはさっき会ったお人よしのおっさんからありがたく頂戴した銃を握っている。
とりあえず、コレがあればそうそう怖いものなんてないはずやね。

それからしばらくの間は誰にも会うことなく、街中を歩いていたんや。

「らっくてん♪ らっくてん♪ イーグr……」

応援歌メドレーは2周目に入っていた。
殺し合いをしているなんていう緊張感なんか危うく忘れそうになる……そんな時や。

「口答えするんじゃねえーっ!!」

交差点の角の向こうから、なにやら怒り狂った女の声が聞こえてきたのは。
驚いたワイは一瞬ビクッと体を竦めてもうたわ。

「……なんやなんや、揉め事とか勘弁してほしいわ」

そうボヤきながら、ワイは交差点の角から顔を出して声のする方を覗いてみたんや。
そしたら、なんか妙ちくりんな髪形をした、デカい姉ちゃんが脇に抱えたデイバッグに手を突っ込んで凄んでいたんや。
姉ちゃんの背中に隠れているせいで、誰に向かって怒鳴っているのかは分からんが……

「よぉし……、それじゃ次はその場にゆっくりとひざまずくんだ……両手は頭の後ろで合わせな……」

そんな声が微かにワイのところまで聞こえてきたんや。

(アカン)

どうやら、あの姉ちゃんは誰かをぶち殺すつもりらしいで。
まぁ、確かに今は殺し合いらしいからそれは当然っちゃ当然なんやが……
自分が殺すならまだしも、誰かが誰かを殺すのを黙って見とるのも寝覚めが悪いわ。
……しゃーないな、何が何やら状況はさっぱり掴めんが、ここは颯爽と助けに現れて恩でも売っとこか。
幸い、姉ちゃんは前方に集中しているせいか、背後のワイのことなんて気づく素振りさえ見せへん。
……これはチャンスやな。

ワイは、さっきおっさんに教えてもらったことを反芻しながら銃を構え、ゆっくりと姉ちゃんに後ろから忍び寄る。
安全装置を外して、しっかりとした姿勢で照準を合わせる。
ここまでくればもう当たるやろ……そう思ったところで静かに一息ついて引き金を引いた。





そして……パン、という乾いた炸裂音が辺りに響いた。



 *      *      *



炸裂音が鳴った瞬間、後ろから蹴られたかのようにエルメェスの身体が前につんのめる。
着ている服はその脇腹のあたりを中心にしてみるみるうちに紅色に染まろうとしていた。
そして、後ろから撃った何者かの姿を確認するかのように振り返りながら……その場にドサッと倒れ込んだ。

「え……?」

原住民が呆気に取られる。
目の前の大きな女の陰に隠れて、様子をうかがうことが出来なかったが、その後ろから誰かが銃で撃ったらしい……
混乱しかかった頭でそうした結論を導いたまではよかった。

だが、崩れ落ちたエルメェスの向こうに見知った人影を認めた時……原住民は驚きと怒りでその眼をカッと見開いた。

「お、お……お兄ちゃん……!?」
「……なんや、誰かと思ったら原住民やないか」

やきうのお兄ちゃんが崩れ落ちたエルメェスの向こうに見えた人影を見て呟く。
そして、原住民の足元に転がる死体とチェーンソー、そして血に塗れた原住民の姿を確認すると、ははぁん、と得心したような声を出す。

「いやー、やってしもたわ。誰か言い争いしとるから止めなきゃアカン、と思ったら……悪いのは原住民、お前の方やったんか」

やきうのお兄ちゃんは、この状況を原住民が誰かを殺害した現場を目撃した女性を誤って自分が撃ってしまった、そう推測した。
つまるところ、この女性は単に正義感からあんなことを口走っていたのだ、と結論付けた。
あんな粗暴な口聞くから誤解されるんや、とまるで自分の責任を棚上げするかのようなことを、やきうのお兄ちゃんは内心思っていた。

「この姉ちゃんには悪いことしてしもたわ。堪忍、堪忍な」

そうは言いながらも、その表情は決して申し訳なさを感じさせるものではない。
むしろその逆、また一人始末出来たという達成感すら滲み出てくるものであった。

やきうのお兄ちゃんの足元ではエルメェスが呻いている。
目は霞み、意識も失われそうになっているその中で、必死に思考を巡らせる。

(ク……クソッ……! な、なんなんだ……よ……いったい……!)

自分の近くまで歩いてきた見知らぬ誰かが、さっきまで自分が制圧しようとしていた少年となにやら言葉を交わすのが聞こえる。

(まさか……こいつらはグル……だったってこと……?)

ガキを囮にして誰かを誘い出し、注意を引き付けたところで仲間が後ろから仕留める……そんなことをエルメェスは考える。
嵌められたのか、と感じたエルメェスはギリ、と歯ぎしりする。
その力さえもほとんど込めることが出来ないことに、エルメェスは自分の命が長くないことを悟った。

(クソッ……クソッ……! こ、こうなったら……し、死ぬ前に……な、何とか一人でも道連れに……)

だが、撃たれた時の衝撃で脇に抱えていたデイバッグは落としてしまい、その中で握りしめていた"アレ"も手放してしまった。
手を伸ばして届く範囲にどうにか出来るような武器が無いことを理解したエルメェスが何とか手を広げる。

「シ……シールだ……! このシールさえ……使えれば……なんとか……!」

人の身体に貼り付けてもその部分を増やすことが出来る不思議なシール。
動揺を誘うことも可能だが、それを剥がすことで少なからず損傷を与えることだって出来るのだ。
この不思議な能力に目覚めてまだ日は浅かったエルメェスだが、なんとか持てる限りの力を出そうと歯を食いしばる。
掌のシールをなんとか剥がそうと、顔を上げたその時だった。
黄色い色をした妙な生物が、何やらニヤニヤしながらエルメェスを見下ろす……その視線とエルメェスの視線がぶつかる。

「おっ、まだ生きとったか……」

まるで自分を憐れむような、バカにするようなその視線に、エルメェスはこの上ない敵意を持って睨み返す。

「可哀想にな……こりゃもう助からんやろ……だったら」

そう言いながらもう一度銃を構える。
この後何が起こるかが予想できた原住民が声を上げようとする。

「や、やめ……」
「ワイが早いとこ楽にしたるわ」

やきうのお兄ちゃんがグッと引き金に力を籠めるのが、エルメェスの視界に入った最後の景色となった。

「チ、チクショウ……!」



パン、パンと立て続けに2発の銃声が鳴り響き……街道に新たな骸が築かれた。



「済まんなぁ……あんたの分までワイが生きてやるから、な」

微塵も心の籠っていないお悔やみの言葉を、やきうのお兄ちゃんはいけしゃあしゃあと口にした。
そして、そのセリフを耳にして原住民は我を失った。
目の前の男は自分たちの楽園を踏みにじり、仲間を虐めぬき、まるで最初から楽園が我がものであったかのように振る舞う……
原住民からすれば、心の奥底では憎しみを決して忘れない……たとえこのところは表面上仲良くしていたとしても……そんな相手だ。
人一人を殺めておきながら、決して謝罪の意思を見せないやきうのお兄ちゃんに、原住民の怒りは頂点に達しようとしていた。
個人的な私怨だけではない、目の前の男がした畜生のごとき所業は、一人の人間として到底許せるものではなかった。

そんな原住民の心など露知らず、やきうのお兄ちゃんが原住民の方へと向き直る。
そして、改めて血に塗れた原住民の姿と、足元に転がる死体とを交互に見て、感慨深そうに呟く。

「しかし、原住民にこんな度胸があるとは思わなかったわ。そんな重たそうなチェーンソーなんてよう振り回せたなー」

他人事のようにしみじみと語るやきうのお兄ちゃんの声……しかしそれは最早原住民には届かない。
エルメェス相手には諦めたとはいえ、当初は少しでも弁解をしようという気持ちが残っていた。
だが、この相手にはそんな悠長なことを考えることなど、原住民にはとても出来なかった。
原住民は先ほど置いたチェーンソーを再び手に取った。

「……返してよ」

原住民が睨みつけながら小さく呟くが、その声もまたやきうのお兄ちゃんには届かない。
やきうのお兄ちゃんにはせせら笑って言葉を並べ続ける、まるで自分の子分に語りかけるガキ大将のように。
自分の立場と相手の立場が未来永劫変わらないことを、無条件に信じていた。

「原住民もそんな重たいもの背負って殺し続けるのも大変やろ……どや?」

そう言って手にした銃を見せびらかすように前に突き出す。
そしてヘラヘラと笑いながら挑発的に言葉を並べた。

「この銃ほしい? ん?」

原住民は思う。
自分たちの秘密基地を取り戻すために。
これ以上の殺し合いを止めさせるために。
目の前にいる、この人ならざるこのぐう畜は始末しなければならない、と。

「僕たちの秘密基地、返してよぉっ!!!!!」

生涯最大の声を張り上げ、生涯最大に力を籠めてチェーンソーを振り上げ、原住民はまっすぐやきうのお兄ちゃんへと迫る。
既にそこからは冷静さや判断力といったものは失われていた。
自分に宛がわれた支給品を使う、という考えも。
愚直に突進するではなく、もっと効果的な攻撃方法を探る、ということも。
あるいはその場から逃げだしたり、怒りをグッとこらえて獅子身中の虫として行動を共にし、寝首を掻こう、ということも。
怒りが頂点に達した原住民にはそんな選択肢を取ることが出来なかった。




彡(^)(^) 「あーげないwwwwwwwwww」



歪んだ笑みを浮かべ、やきうのお兄ちゃんが原住民へとまっすぐ銃を構えた。
パン、と再び銃声が鳴り響き、原住民の額に風穴が開く。
走ったそのままの勢いで崩れ落ち、さながらヘッドスライディングのような格好で倒れこむ。
9回2アウト、平凡な内野ゴロを放ってしまった高校球児の如く、そのヘッドスライディングのもたらす結果はゲームセットでしかない。
血の跡がまっすぐ走り……原住民は二度と立ち上がることが無かった。



【エルメェス@少年漫画 死亡】
【原住民@なんでも実況J 死亡】

【残り 55人】



 *      *      *



「悪いな原住民……お前にはこんな素敵なもん与えられねーわ」

銃口から微かに煙を上げる銃を惚れ惚れとした目で見つめながら、やきうのお兄ちゃんは呟いた。
そして、足元に転がる2つの死体を見渡すとしみじみと声を漏らす。

「それにしても、二人もまとめて仕留められるとは思わんかったわ。併殺、ゲッツーってやつやな」

高笑いをしそうになるのをなんとかこらえながら、やきうのお兄ちゃんはしゃがみこんだ。
何せ、不穏な動きをしていた女と、チェーンソーを振りかざしてきた知人が相手だ。
これを自衛のためと言わずして何と言おう、やきうのお兄ちゃんはそう開き直っていた。
やきうのお兄ちゃんは一息つくと、エルメェスと原住民の持っていた支給品の中身を検めようとする。

「なんかええ武器でも欲しいもんやな。この銃だけで最後まで行けるとも思えんし」

手元にある銃は確かに強力な武器だが、銃である以上弾薬というものには限界がある。
自分にこの銃を渡したお人よしのデイバッグには予備の銃弾が入っていなかったところからやきうのお兄ちゃんは推測する。
同じ規格の弾薬を用いた銃を奪うか、あるいは他の誰かに予備の銃弾が支給されていることを願い、それを奪うか。
そうでもしない限りはいずれは手元の銃もただの鉄くず同然となるということを理解した。

何かいいのは無いか、とやきうのお兄ちゃんはブツブツ呟きながら2つのデイバッグを回収した。
そして、チラッと原住民が最期まで握りしめていたチェーンソーへと目を遣る。

「いくらなんでもあんなもんずーっと持ち歩くわけにはいかんよなぁ……」

殺し合いはまだまだ始まったばかりだ。
あの場に何人いたのかは定かではないが、少なくとも10人とか20人とかそんな人数ではなかったはず、とやきうのお兄ちゃんは思い出す。
これから何時間かかるか分からないだけに、重たいものを持ち歩いて徒に体力を消耗することを避けようと考えたのだ。

かと言って、そのまま放ったらかしにして、誰か別の参加者に拾われるのも癪だ、とやきうのお兄ちゃんは思った。
自分でも持ち歩きたくない、かといって他人にも渡したくない……となればやることは一つしかなかった。
やきうのお兄ちゃんは小さく舌打ちをしながら立ち上がると、よいしょ、と声を出しながらチェーンソーを持ち上げる。

「どっ……せいっ!!」

そして持ち上げたチェーンソーを刃の部分からアスファルトに叩きつけた。
バキッ、と鈍い音がしてチェーンソーの刃は折れ、細かな破片が辺りに散らばった。
続けて二度三度と同じ作業をやきうのお兄ちゃんが繰り返す頃には、刃はもちろんのことエンジン部分も壊れて部品がばら撒かれた。

「これでよし……やな」

一仕事やり遂げたようなそんな充実感を覚えながら、やきうのお兄ちゃんは改めて2つのデイバッグの下へと戻る。
今ある銃以外の役に立ちそうな武器が欲しい……その願いは叶ったようだ。
エルメェスの持っていたデイバッグをひっくり返し、中身をぶち撒けたやきうのお兄ちゃんの顔に……

「これは……」

再び笑顔が貼り付けられた。

「ええの獲ったわ!」



【D-1/一日目・黎明】

【やきうのお兄ちゃん@なんJ】
[状態]:健康
[装備]:H&K USP@現実(11/16)
[道具]:基本支給品一式×3、PDA(忍法帖【Lv=03】)、きのこの山@現実、たけのこの山@現実、PSP@現実
     木製のバット@現実、ひかりのこな@ポケットモンスター、ランダム支給品2~6(確認済み)
[思考・状況]
基本:生き残り最優先
1:またやったぜ
2:改めて野球場へ向かう
3:マッマは流石におらんよな…?

※エルメェスから奪った支給品の中にはやきうのお兄ちゃんにとって「ええの」があったようです。
※チェーンソー@現実が刃が折れ、壊れた状態でD-1にある三体の死体の傍に転がっています。



 *      *      *



新たに手に入れた2つのデイバッグ、その支給品を調べるのにやきうのお兄ちゃんは夢中になっていた。




……だから気付かなかった。










 |___
 |   \ ;
 | ヽ、_  \ :
 |  ⌒゚o  \ ;  (……な、なんなんだお、アイツは……、何の躊躇いもなく二人も殺したお……!)
 |人__)    | ;
 |⌒´    / ;
(⌒ー─' ) :



自分の凶行を目撃したもう一人の参加者がいたことに。










原住民にあらぬ疑いをかけられ、その場を逃げ去ったやる夫。
だが、その直後である。

「嘘だ! だったらお前が手に持ってるソイツはなんだ!?」

自分が立ち去った方角……つまり、やる夫の背後から、女性の声を聴いたのは。

「い、今のは……まさかおんにゃのこ?」

慌てて足を止めたやる夫の心中で葛藤が始まる。
今戻ってしまえば、まださっきの少年がいるかもしれない、あの凄惨な死体をまた見ることになるかもしれない。
だが、そうした懸念よりも、この声の主に会いたい、そうした純粋な欲望が最終的には勝ったのだった。
どんな顔をしているのか、どんな肉付きをしているのか、どんな性格なのか……瞬く間にやる夫の脳内は煩悩で満たされる。

それでも、さっきの少年に見つかってしまうかもしれないし、体にべっとりと付いた血だってまだ落ちていない。
理性をかなぐり捨ててルパンダイブしようものなら、その女性にも誤解を生みかねないことぐらいはやる夫も承知していた。
だからやる夫はゆっくりと慎重に現場へと引き返したのだった。



 |___
 |   \
 |  ,ノ  \
 | ( ●)u \   (そーっと、そーっと……)
 |人__)    |
 |⌒´    /
(⌒ー─' )



角の塀に隠れて現場をのぞいてみると、さっきの少年と別にスパゲティヘアの女性が立っていた。
そして、何やら言い争いをしている姿が目に入った。

「さっきの声はあの人かお……?」

少年の向こうに見える女性をジーッやる夫は見つめる。
身長は175センチくらい、口調から察するにかなり強気な性格……そうやる夫は推測した。

(うひょーっ! ああいう強気なおんにゃのこをあの手この手で屈服させる、というのも一つの醍醐味だお!)

先ほどまでの警戒心に満ちたやる夫はどこへやら。
最早、その精神は視線の先の女性をどう料理するかという一点にのみ向けられていた。
幾多のエロゲーを攻略してきたやる夫は、女性の扱いにかけては自信があったのだ。
それは、フィクションの世界で通じることが現実でもそのまま通じるはず、という甘々な見通しがあってのことだが。

「とにかく、あのおんにゃのこがさっきの人さえ追っ払ってくれれば助かるお。
 そうすれば、大手を振って近づくことが出来るお!」

自分の体がまだ血に汚れていることもすっかり忘れ、幸せな妄想に浸るやる夫……
出会いの挨拶はどんな風にしようか、そこからどうやってフラグを立てていこうか……



だが、そんな妄想は1発の乾いた炸裂音によってあっという間にかき消されることとなった。



| |
| |  ______
| | /   u   \
| |_  (○ ) (○ )\   (なっ……なんだお!)
| |_)::::: (__人__)::U::::|
| |(⌒ヽ U |  |   ノ
| |:::ヽ  、 `⌒´  <
| |:::  ヽ __    ノ



我に返ったやる夫が音のする方を見ると……スパゲティヘアの女性が倒れていた。
そして、その倒れ込んだ女性の向こうに黄色い姿をした謎の男が立っているのが見えた。
謎の男は、先ほどやる夫を疑った少年と何やら言葉をいくつか交わした後、手にした銃らしきものを足元に横たわる女性に向けたのだった。

(だっ……ダメだお! あのおんにゃのこが……こ、殺されちゃうお……!)



勇気があれば飛び出して、颯爽と助太刀に現れることが出来たのかもしれない。
……だが、やる夫にはそこまでの勇気が無かった。
恐怖から膝から下はガクガクと震え、壁に手を付いていなければその場にへたり込んでしまうほどだった。
悲鳴をあげることさえ出来ないくらいに、奥歯をガチガチと鳴らしながら震えていた。

そうこうしている間に、さらに2発の銃声が鳴り響き、倒れた女性の身体が僅かに跳ねる。
そして、それを見た少年が怒りに身を任せのか、やる夫が落としたチェーンソーを振り上げて黄色い男へと突進し……
その体に無慈悲に弾丸が撃ち込まれるところまでの全てをやる夫は目にしたのだった。



先ほど死体と化したものを目の当たりにしたのとは違う。
目の前で人が殺される瞬間を見たのは……やる夫にとってはもちろん初めてのことだった。



(……な、なんなんだお、アイツは……、何の躊躇いもなく二人も殺したお……!)

呆然とするやる夫にはまるで気づく素振りも見せずに、黄色い男はチェーンソーを地面に叩きつけて壊し始めたのだった。
さらにひとしきりその作業をつづけた後で、二人のデイバッグを回収して中身を確認し始めた。

(も……もし見つかったら……やる夫も殺される……!?)

しばらく立ち尽くすことしか出来なかったやる夫がハッとその考えに至る。
口封じに殺されてしまってはかなわない……そう思ったやる夫は腰が抜けそうになりながらゆっくりとその場を離れようとする。



         / ̄ ̄ ̄\
         //   \ \
      /((●)) ((●))゚o ヽ
      |::o'゚~(_人__)~o° |   (も……もうイヤだお……! このままモタモタしてたら殺されちゃうお……!)
  ミ.,ィTl'ヽ\   `⌒´  ゚ /
   kヒヒど,           {⌒⊃
     `´ ̄ヽ      ハヽ
         ヽ   ` /  '}
          >   /ごノ
       __,∠     /
      〈、    / 彡
       \、__ノ  彡

瞳に涙をいっぱいに浮かべながら現場に背を向ける。
死にたくない、その思いに突き動かされて……だが、それだけではない。



      メ ,, -──- 、._\
    メ/ u    ゚ 。 \\
  / /    ノ  ヽ、   \\
   ! |  o゚((●)) ((●))゚o  |    (だいたい……まだおんにゃのことキャッキャウフフしてないんだお!)
  \\    (__人__)   /く<
   ノ メ/   ` ⌒´   ヽヽヾ



生物は自分の命が危機に晒されると、子孫を残そうという本能が強く働くものらしい。
人の生き死にを前にしてもなお、やる夫があくまで女性を求めようとするのもまた一種の本能……なのかもしれない。
本能の赴くままに生命の危機を回避し、本能の赴くままに異性を求める一人の男が、夜の闇へと姿を消していった。



【D-1 /1日目・黎明】

【やる夫@ニュー速VIP】
[状態]:負傷(中程度)、陰部丸出し、血が付着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0~2(未確認)、ハイヒール一足@現実
[思考・状況]
基本:性欲のまま行動する
1:みんな怖いお!
2:一刻も早くおんにゃのこを探しだしてキャッキャウフフする
※やきうのお兄ちゃんを危険人物だと認識しました(名前は把握していません)





 *      *      *





「いやー、これだけ当たり武器を集められて、ワイ将ウッキウキや!
 ……あかん優勝してまう」



新たに手にした武器を前に、やきうのお兄ちゃんは歓喜を抑えることが出来ずにいた。





……だから気付かなかった。










           ¶










自分の身体が、得体の知れない何かに蝕まれ始めたことに。



【D-1/一日目・黎明】

【やきうのお兄ちゃん@なんJ】
[状態]:健康、だが……
[装備]:H&K USP@現実(11/16)
[道具]:基本支給品一式×3、PDA(忍法帖【Lv=03】)、きのこの山@現実、たけのこの山@現実、PSP@現実
     木製のバット@現実、ひかりのこな@ポケットモンスター、ランダム支給品2~6(確認済み)
[思考・状況]
基本:生き残り最優先
1:またやったぜ
2:改めて野球場へ向かう
3:マッマは流石におらんよな…?

※二人から奪った支給品の中にはやきうのお兄ちゃんにとって「ええの」があったようです。
※チェーンソー@現実が刃が折れ、壊れた状態でD-1にある三体の死体の傍に転がっています。

※エルメェス菌に感染しました ←New!

No.40:If you were here 時系列順 No.42:探し物はなんですか~?
No.40:If you were here 投下順 No.42:探し物はなんですか~?
No.32:やる夫のドキドキパニック エルメェス 死亡
No.32:やる夫のドキドキパニック 原住民 死亡
No.07:街道上のぐう畜 やきうのお兄ちゃん No.60:うーんこの球場微妙や!
No.32:やる夫のドキドキパニック やる夫 No.52:おっぱいなんて、ただの脂肪の塊だろ

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