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一つ星シェフ

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一つ星シェフ  ◆shCEdpbZWw




夜の闇に紛れ、住宅地を彷徨う一人の男がいた。
ブロック塀伝いに慎重に周囲を窺いながら歩を進めるその姿は、平時であれば住民の奇異の目に晒され、警察に通報されてもおかしくなかっただろう。

「クソッ……! いったいなんだってこんなことに……!」

月灯りに照らされた銀髪が妖しく輝く。
デイバッグを肩にかけたポルナレフは、先刻吸血鬼と化した東洋人の襲撃を逃れてここ、D-3のエリアにやって来た。

「とりあえずは朝だ……! 朝になって太陽さえ昇ってしまえばこっちのもの……!」

古来より吸血鬼の弱点は太陽の光だ。
それは、ポルナレフの知るDIOとて例外ではないだろうと考えていた。
現に、ここに招かれる直前に対峙した強敵、ヴァニラ・アイスは太陽の光に焼かれて再起不能となっていたのだ。
そうした経験をふまえていたからこそ、ポルナレフはまずは日の出を待つことにした。
弱点が分かっていてノコノコと出てくる吸血鬼もいないだろうが、引きずり出すことさえ出来れば圧倒的優位に立てるのだ。

「しかし……いったいなんだってんだよ、この街は……人の気配が無さすぎるじゃねえか……?」

ポルナレフが彷徨う住宅街は、いくら深夜ということを踏まえたとしても人の気配が無さすぎた。
街灯に照らされた道路にはただポルナレフ自身の足音が響くだけである。
光が漏れるような家は一つもなく、人間どころか他の生物の気配すらポルナレフはほとんど感じられなかった。

「人だらけのインドも面食らったが、こんなに静かな街ってのも逆にブキミだな、オイ……」

不自然すぎるゴーストタウンの中にあって、ポルナレフの脳裏にこれまでの旅で巡った国の一つがよぎった。
妹の仇であるJ・ガイルを討ち果たした思い出深い国である。

J・ガイルばかりではない。
ものの2ヶ月にも満たぬ短い期間に、ポルナレフは数多くの強敵と戦ってきた。
しかし、決して彼は孤独ではなかった。
ジョセフ・ジョースターと空条承太郎の親子、花京院典明、モハメド・アヴドゥル、イギー……
DIOを討つという志を同じくする仲間たちがポルナレフの周りにはいた。

だが……

「アヴドゥル、イギー……」

そこまで思い出したところでポルナレフは唇を噛む。
アヴドゥルとイギーの一人と一匹は、自分が倒したヴァニラ・アイスによってその命を奪われたばかりだった。
そして、二人ともがポルナレフをヴァニラ・アイスの攻撃から守ることによって命を散らしたのだった。

それでも、ポルナレフには仲間の死をゆっくりと悼んでいる時間が無かった。
新手の吸血鬼という存在が、彼をより強く突き動かす原動力となっている。

「とにかく、朝になるまでに承太郎、ジョースターさん、花京院と合流してえな……
 日光さえ出ていれば吸血鬼もどうにかなるが、太陽の下に引っ張り出すには一人でも仲間がいた方がいいからな……!」

自分に言い聞かせるかのように呟いたポルナレフは、自らを鼓舞するかのように自分の胸を小さくドン、と叩いた。
ふと、ポルナレフが辺りを見回すと、周囲の景色は住宅から商店が立ち並ぶものへと変わっていた。
依然として周囲を警戒しながら進むポルナレフであったが、ふとその嗅覚があるものを捉えた。

「なんだぁ……? この匂いは……?」

ポルナレフが匂いのする方へと足を進めると、角を曲がった先の建物からうっすらと灯りが漏れているのが目に入る。
より一層警戒の度を深めながらポルナレフは問題の建物に接近する。

「クロスのかけられたテーブルに椅子、それがいくつも……なるほど、ここはレストランか……?」

こっそりと窓から建物を覗いてみた時にポルナレフの目に映ったのはそんな光景だった。

「灯りが点いている、ってことは誰かいるのか……?」

敵か味方かも分からないが、仲間を求めるポルナレフとしては未知の誰かとの接触は避けられない。
その先にいるのは自分の仲間か、それとも新手のスタンド使いか、はたまた無垢の一般市民か……

「……ここまでひっそりしてるんだ、逃げ遅れた市民がいるってことは無いだろうが……」

3つ目の可能性を切り捨てたポルナレフは、意を決して表の玄関からレストランへと足を踏み入れる。
ドアに付けられた鈴が、カラン、と乾いた音を立てた。

その音を聞きつけてか、奥から物音と共に足音がするのをポルナレフは聞いた。

(さぁて……鬼が出るか、蛇が出るか……)

誰が姿を現すのか、ポルナレフは身構えた。





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    彡  彡∠●ゝ/  ミ  丶-´    ミ            ミ
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      彡    ( ● ● ) ヽ         ミ   ミ   丿  ミ   おや? バイク君ですか?
      彡    丿       ヽ        ミ    ミ /    ミ
       彡  ノ ´¨¨``\   ヽ  )     ミ   ミミ/    ミ
       彡   ノイエエエゝ)  丿        ミ   ミ   ミ
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           彡 ``ヽ                     ミ ミ




奥の厨房からひょっこりと姿を現したのは東洋人の男だった。
白地の衣装に身を包んだその姿は、このレストランという場に相応しいコックの姿である。
ここまでの非日常から、いきなり日常へと引き戻されたような格好になり、ポルナレフは少しばかり戸惑った。

(また日本人か……)

先刻のような出来事があったばかりなだけに、ポルナレフは内心毒づきながら男を観察する。
首元には首輪が嵌められているのが確認できる。

(このオッサンも、どうやら俺と同じように殺し合いに巻き込まれたってことか……)

ここまで鏡を見ておらず、自分の首輪をハッキリとは見ていないポルナレフだが、恐らくは自分と同じものだろう、と推測する。

「誰だ、アンタ……?」

いつでもチャリオッツを発動できるようにポルナレフは精神を研ぎ澄ます。
そんなポルナレフと同じように、東洋人もまた自分の知らぬ人間が足を踏み入れたことに戸惑いの色を隠せない。

「誰だ、と言われましても……先に名乗るのが筋じゃないですか?」

それでも視線は決して逸らさずに東洋人はポルナレフに問いかける。
箒のような頭、その服装からは想像しづらいが、ポルナレフは騎士道を重んじる男だ。
なるほど、確かに目の前の男の言うとおりだ、と気づく。

「……ポルナレフ。ジャン=ピエール・ポルナレフだ」
「……ふむ、ポルナレフさん、ですか。僕は川越達也といいます。見ての通り、シェフをやっていましてね」

川越も幾分警戒を解いたか、ポルナレフに対して自己紹介をした。
その間もポルナレフは川越の一挙手一投足に対して目を光らせる。

(妙だな……スタンド使いにしては殺気が無さすぎる……DIOの手の者じゃない、ってことか……?)

吸血鬼と交戦をした直後のポルナレフは、自分を含め招かれたのは全員スタンド使いという考えを捨てきれずにいた。
恐らくは承太郎をはじめとした仲間もいるのだろうと、根拠こそないが信じ切っていたのだ。
そこに現れた謎のシェフ、ポルナレフはこの男もスタンド使いと考えていたのだった。

「……ところで、川越サン、だったか?
 さっき、アンタが言ってた……バイク君ってのはなんなんだ?」

川越がスタンド使いかどうかを確かめる術は無いために、ポルナレフは先に他の疑問を解消することにした。
厨房からやって来た川越が開口一番に発した何者かの名前である。

「あぁ、いや、バイク君、ってのは僕の仲間でしてね。
 さっきまで一緒に図書館に行っていたんですが、まだ帰ってこないんですよ」
「図書館……?」
「ええ、少し歩いたところにありましてね。
 キバヤシという胡散臭い男が、何やら調べものに精を上げていましたよ」

バイクに続き、キバヤシという名前もポルナレフは記憶に刻んだ。
川越の言っていることがすべて正しいかどうかは分からないが、情報として頭に入れておくに越したことは無いという判断だった。

「なんだか訳の分からないことを並べ立てていましてね……
 どうやらこの殺し合いをどうにかして打開しようということは諦めていたようですよ。
 僕も呆れてしまいましてね、最初にいたこのレストランへと戻って来たんですよ」

キバヤシとのやり取りを思い出した川越が思わず毒づく。

「……それで? 一緒にいたバイクって奴はどうした?」
「さぁ? もうとっくに戻ってきていいはずなんですがねぇ……
 僕がさっさと帰っちゃったもんですから、あの男に必死に引き止められているのかもしれませんね」
「おいおい、そのキバヤシって奴がもしかしたらそのバイクを襲っているんじゃねえのか?」

もっともな疑問を矢継ぎ早にポルナレフが投げかける。

「……なるほど、言われてみればそれはあるかもしれません……が。
 あの男は隠れて様子を伺っていたところから、わざわざ僕たちに接触してきましたからねぇ……
 最初からその気だとしたら、声などかけずにだまし討ちでもすればいいのでは?
 それは、同時にいきなり襲いかからなかった貴方にも言えることでもありますけどね」
「……確かに、アンタの言うことも一理あるな。
 ……で、アンタはこんなレストランで何をしているんだ?」

続いてポルナレフが投げかけた質問に対して、川越の顔つきが変わる。
それは、何を言っているんだ、と言わんばかりの呆れ交じりの表情だった。

「何を、って……僕はシェフですよ? この匂いで分かりませんかね……?
 料理ですよ、料理。僕は最高の料理でもって、この殺し合いを止めてみせますよ」

川越の自信に満ちた返答に対し、今度はポルナレフが先ほどの川越が見せたのと同じような表情を見せる。

「料理、ってアンタ正気か……? こんな時に何を暢気な……」

だが、ポルナレフの言わんとすることは、既に数時間前に聞いていたことであった。
どいつもこいつも、と言いたげに顔を歪めた川越が、思わず口調を強める。

「やれやれ、皆さん同じような事おっしゃるんですね……!
 そう言うのでしたら、是非とも僕の料理を味わって確かめていただきたいですね、僕の言うことが戯言じゃないってことを」
「……あのな、俺はそんなことしている暇は……」

ポルナレフがそこまで言いかけた時だった。



      グゥ~……



ポルナレフの腹の虫が騒ぎ出した。
思えば、ヴァニラ・アイスとの激闘、そしてDIOから受けた謎の能力、そこから飛ばされて殺し合いを命じられ、極めつけは謎の東洋人吸血鬼。
ポルナレフの精神をすり減らすような出来事が立て続けに起こっていたのだった。
その腹の虫が鳴くのを聞きつけた川越が、思わずクスッと笑みを浮かべる。

「ホラ、ご覧なさい。口ではそんなこと言っていても、身体の方は正直みたいですね?」
「い、いや俺は……」
「『腹が減っては戦は出来ぬ』、とも言いますよ。とにもかくにも、そこに座って待っていてください、いいですね?」

慌てて取り繕おうとするポルナレフを一蹴して、川越が踵を返して厨房へと戻っていった。
結局、押し切られる格好となったポルナレフは手近な椅子へと腰かける。
腹が減っているというのも事実だったし、ここで川越の申し出を無碍にしていらぬ怒りを買うのは得策でない、そう判断したのだった。



 *      *      *



「今はメインの仕込みの最中でしてね。繋ぎにこちらをどうぞ」

程なくして戻ってきた川越の手には一枚の皿が握られていた。

「トマトと……この匂いはブルーチーズか……?」

皿には薄くスライスされたトマトと、同じく薄くスライスされたブルーチーズが交互に並べられていた。
皿の上をしげしげと眺めるポルナレフに、川越が料理の説明を施す。

「えぇ、ゴルゴンゾーラを挟んでサラダにしてみました。普通ならモッツァレラを使うところでしょうが……
 他所に行けばどこでも食べられるような代物を作っても面白くありませんからね」
「ふぅん、さながらアンタは創作イタリアンのシェフってとこか。
 言っとくが俺はフランス人だぜ? 味には五月蝿いんだがな」
「ほぉ、フランスの方でしたか。懐かしいですね……私も最初に修行したのはフレンチでしたよ。
 癖のあるブルーチーズとトマトが合うように、厨房にあった調味料を適当に使ってソースをかけてあります。
 貴方の舌を唸らせることが出来ればいいのですがね……」

そうは言いながらも、川越の表情からは自信の色がありありと見てとれた。
そんな川越を横目に、ポルナレフは少しばかり警戒しながらトマトとブルーチーズのサラダを口へと運んだ。
そして、ゆっくりとトマトとチーズを咀嚼する。

(……)

ポルナレフは思わず言葉を失ってしまった。
テーブルの横で川越がニコニコとポルナレフの反応をうかがっていた。

(美味い、じゃねえか……!)

無言のまま、ポルナレフは二口目を口に運ぶ。

(クセのあるブルーチーズと、サッパリしたトマト……そしてそれをつなぎ合わせるのがこのソースだっ……!)

口の中で奏でられる味のハーモニーを前に、ポルナレフのフォークを持つ手は止まらない。
空腹であったことも手伝い、みるみるうちにサラダはポルナレフの胃袋へと収まっていく。
そして、空になった皿にフォークがカチャン、と置く音が鳴り響き、続いてポルナレフがふぅっ、と一息つく音も響いた。

「……お気に召したようですね?」

無我夢中でサラダを食べる反応を見れば、返答は待つまでもなかった。
川越が笑顔を崩さずにポルナレフへと語りかける。

「……なるほど、確かに言うだけのことはあるみたいだな。
 こんなに美味いサラダを食ったのも久しぶりだぜ……」

口角を少しばかりソースで汚したまま、ポルナレフが傍らに立つ川越を見上げた。
そうでしょうそうでしょう、と言いたげな笑顔を見せ、川越が再び厨房へと歩を進める。

「もう間もなくメインディッシュも出来上がりますよ。
 これを食べればもう殺し合いなんてしたくなくなるんじゃないですかね?」

自信を漂わせた背中を、ポルナレフはただ黙って見送るしかなかった。
一瞬、今自分がいるのは殺し合いの渦中であることも、川越がスタンド使い、あるいは敵かもしれないということを忘れかけるほどだった。
コップの中の水を喉へと流し込んで、再びポルナレフは一息ついた。

(どうやら俺の取り越し苦労、ってヤツか……? あのオッサン、料理は確かに美味いが殺気をちっとも感じねぇ……)

料理そのものがスタンド攻撃ではないか、と一瞬考えたポルナレフだったがすぐにそれは捨てた。
料理や水を口にしても、涙が止まらなくなったり、虫歯が取れたり、体中の垢が落ちたり、腹の痛みが治まったり……
とにもかくにも、ポルナレフの身体には何の異常も今のところ見られないのだ。
毒を含ませるにしても、速効性のある物なら妙な味がしてすぐに気づくはずなのだ。

(まぁ、アレコレ考えても仕方ねえか。今はしっかり栄養をつけるとするか……なんだったら吸血鬼をおびき出す料理でも……)

そこまで思考を巡らせたところで、再び厨房から川越が姿を現した。
今度はサラダのような平たい皿ではなく、少しばかり深めの皿を手にしていた。
その皿から漂うトマトの香りがたちまちフロアーを満たしていく。

「やはりイタリアンと言えばトマトは欠かせませんからね。トマトが被ってしまいますがご容赦ください」

少しばかり申し訳なさそうな顔を見せて、川越がポルナレフの前にメインディッシュを並べた。
何らかの肉を、トマトをふんだんに使って煮込んだような料理だった。

「バイク君には時間が無くてソテーを食べていただきましたがね。
 そこから煮込んでおいたお肉をメインに召し上がっていただこうかと」
「これは何の肉だ?」

ポルナレフの問いかけに、川越が悪戯っぽい笑顔を見せながら返す。

「さて、何でしょうね? ぜひ食べてから当ててみてください」
「なるほどね、上等だ。当ててやろうじゃねえか」

そう意気込んでポルナレフがナイフとフォークを手に取る。
そして皿に盛られた肉と野菜を切り分け、丁寧に口へと運び……再び言葉を失った。

(!! さすがに自信を持つだけのことはある……! 火の通し具合、塩加減、油の具合……どれも文句無しじゃねえか!)

ポルナレフの両手が皿の上と口の間を忙しなく往復する。

(野菜はズッキーニと玉ねぎか……? それにすりおろしたニンニクもありそうだな……トマトの酸味と相まって絶妙な味になってやがる!)

ポルナレフも、そして川越も何も言葉を発することは無かった。
ただ、ナイフとフォークが皿に当たってカチカチと音を立てる以外は沈黙がレストランを支配していた。
そしてその沈黙こそが料理の味を雄弁に物語っていた。

(だが、何よりも一番不思議なのはこの肉だ……! 何だこれは、今まで食べたことのない肉だ……!)

そう思いながら、ポルナレフは肉を一切れフォークで刺し、しげしげと眺めてから口へと放り込んだ。
ポルナレフは自らの記憶の糸を辿り、なんとかこの肉の正体を掴もうとする。
この瞬間だけは殺し合いの渦中にいることなど完全に忘れ、ただただ純粋に知的好奇心に突き動かされていた。

(肉質としては鶏肉に近い淡白な感じを受ける……が、その味わいは明らかにチキンとは別物……それなら鴨か……?)

そして小さく首をひねる。

(いや、鴨ほど脂が濃いわけでもない……じゃあ、最近珍味として重宝されているダチョウや香港で食べ損ねたアヒルか……? それとも……)

そこまで考え、いや、と小さくポルナレフは呟いた。

(どこかで聞いたことがある……確かカエルの肉って言うのは鶏に似たような味わいがする、と……いや、しかし……)

しばらくの間むむむ、と唸り続けたポルナレフはパッと顔を上げる。
視線の先ではポルナレフの導き出す回答を心待ちにしているのか、柔和な笑顔を浮かべた川越がいた。

「どうです? 何の肉なのかお分かりになりましたか?」

またしても悪戯っぽく笑う川越の問いかけに対して、ポルナレフが見せたのは苦笑いだった。

「いやぁダメだ、降参降参。世界中を巡って色んなもんを食ってきたが、コイツは初体験だぜ」

そう言うとポルナレフはお手上げ、とばかりに両手をヒラヒラとさせてみた。
それを見た川越が勝ち誇ったような顔を見せる。

「そうでしょう、そうでしょう。……実はですね、私も初めて調理するものでして」
「なんだって? オイオイ、それじゃクイズが成立しねえじゃねえか?」

憮然とした表情に変わるポルナレフを尻目に、川越が念を押すかのように付け加える。

「……でも、美味しかったでしょう?」
「そりゃ……まぁ……そうだけどよ」
「だったら、細かいことは気にしない方がいいのでは? 美味いは正義ですよ」

そうは言われたものの、一度肉の正体についてあれこれと思いを巡らせたポルナレフはそれでは納得がいかない。

「だけどよォ、そこまで言われちゃ気になって眠れやしねえよ」
「仕方ありませんねぇ。まぁ、もしかしたら見れば分かるかもしれませんしね」

そして、川越は身体を厨房の方へと向けた。

「調理する前のものを持ってきましょう」

言うが早いが、つかつかと歩き出した川越が厨房の奥へと姿を消した。
その後ろ姿を見送ったポルナレフがナプキンで口の周りのトマトソースを拭う。

(ったく、勿体つけやがって……しかし、一体何の肉なんだろうな)

表面上は毒づきながらも、ポルナレフは内心どんな肉が運ばれてくるのかが楽しみで仕方が無かった。

「お待たせしました」

そう言いながら川越が何やら大きな皿に乗せられた肉の塊を運んでくる。





――そして、運ばれてきた肉の正体を見たその時、ポルナレフは思わず言葉を失ってしまった。





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「こちらが、今回の料理に使った鳥ですよ。どうです? 初めて見る鳥でしょう?」

ポルナレフには川越の説明が耳に入らない。
ポルナレフの視線は、テーブルの上に置かれた哀れな鳥の首へと注がれている。
目の前で嬉々として講釈を続ける男に着けられているものと同じ、金属の首輪が。

「こんな見たことのない鳥を目にしては、僕の中の創作意欲が疼きましてね。一にも二にもなく捌かせてもら……」

そこまで川越が言いかけた時だった。



椅子が倒れんばかりの勢いでポルナレフが立ち上がり、その両の手をテーブルにドン、と叩きつけた。
思いもしなかった反応を見せられ、川越の身体が一瞬ビクッと硬直する。



「……ろした!!」
「はい……?」
「何故殺しやがったっ!!」

わなわなと怒りに体を震わせ、ポルナレフが一喝した。
突如として怒りをぶつけられた川越は戸惑うことしか出来なかった。



もちろんポルナレフはベジタリアンというわけではない。
肉を食う行為そのものに関しては特にタブー視してはいない。

だが、その肉の主が"戦士"であれば話は別だ。
エジプトに待ち構えるDIOの下に向かうまでに、ポルナレフたちは数多くのスタンド使いからの妨害を受けてきた。
そのスタンド使いは皆が皆人間というわけではなかった。
敵では、南シナ海を漂流しているときに巨大な船のスタンドで立ちはだかったオランウータンの"力(ストレングス)"がいた。
そしてなによりも、生意気ではあったがポルナレフを庇い誇り高き死を選んだイギーという仲間の犬がポルナレフの脳裏をよぎった。

イギーがヴァニラ・アイスとの戦いで命を落とし、ほとんど時間が空くこともなくポルナレフはバトル・ロワイアルへと招かれた。
その最期の瞬間がまだポルナレフの中に強く刻まれていた、そんな時だったのである。
加えて、動物でも戦士たり得るという経験が、戦士を悼むという騎士道精神までも突き動かしていた。



「な、何を言ってるんです……? だって、これはただの鳥で……」
「うるせぇっ!! テメーにはこの首輪が見えてねえのかっ!!」
「首……輪……?」

そこまで言われてようやく川越はオエーに嵌められた首輪を認識したのだった。
鶏を絞めるのと同じ時の要領で真っ先に首を落としてその後は放っておいたのだから仕方ないと言えば仕方ないが。

「あー……確かについてますねぇ」
「何を暢気な事抜かしてやがるんだテメーはよぉ!?」

そう言うとポルナレフが川越の胸ぐらを掴みにかかる。
咄嗟の出来事であったが、川越が何とかポルナレフの腕を振りほどく。

「何を、何をするんですか!?」
「黙れっ!! 気付きませんでしたなんてマヌケな言い訳が通じる訳ねえだろうがっ!!
 コイツだってこの殺し合いの参加者だってことくらい見りゃ分かるだろうがよっ!!」
「そうは言われましてもねぇ……」

川越の表情は徐々に険しさを増していく。

「だいたい、鳥が参加者だなんて言われても分かるわけないじゃないですか。
 鳥に包丁が握れますか? 銃が構えられますか? 無理に決まってますよねぇ?
 どうせ狩られるのならば、その命を美味しくいただくのが人間としての務めだとも思いますがねぇ」
「やかましいっ!! そんな屁理屈並べたところでテメーが参加者を殺したことには変わりねえんだよっ!!」

あくまでオエーを戦士の一員として尊重しようとするポルナレフ。
所詮鳥は鳥、食材の範疇であるという考えを崩さない川越。
両者の志向は決して交わることのない平行線をなぞるばかりだった。

「チッ、気分悪くなったぜ、こんな店……」

そう吐き捨ててポルナレフが店を出ようとしたその時だった。

「気分悪い……ですって?」

これまで口にしたどの言葉よりも怒りの籠った声を川越が発する。
チラ、とポルナレフが川越の方を振り向くと、その右手には包丁が握られていた。

「……なんだよ、やるってのか?」

再びポルナレフが川越の方へと向き直る。

「僕の料理をバカにする人は許しませんよ……殺しはしませんが、少しばかり痛い目に遭ってもらいますよ」
「面白ぇ、やってみろよ。返り討ちにしてやるぜ、二度と料理が出来なくなっても知らねえぞ?」

間合いは数m、川越が一歩、二歩と踏み込めばその包丁で攻撃できるだけの距離だ。
だが、あくまで殺し合いそのものには反対の川越からはそれほどの殺気が漏れているわけでもない。
そもそもが一介のコックであるだけに、一流のスタンド戦士であるポルナレフからすればスキだらけなのだ。
これまで対峙してきたスタンド使いと比べれば戦闘能力は数段落ちる、ポルナレフはそう判断した。

(こんな奴ぶっ殺しても寝覚めが悪いだけだ……聞き手の指を一本か二本落としてやりゃそれでいいだろ)

睨み合いから先に動いたのは川越の方だった。
あまりにも不用意に足を前に出して間合いを詰めようとした、その瞬間だった。

「シルバーチャリオッツ!!」

甲冑を纏った戦士がポルナレフの背後に現れる。
狙いは包丁を持つ川越の右手、その親指。
その一本を切り落とすだけで、ポルナレフには十分だった。
チャリオッツの精密性を考えれば、その程度は容易に出来る。



……はずだった。



次の瞬間、目をカッと見開いた川越がチャリオッツのレイピアを躱そうとして横に飛んで床を転げる。
レイピアは川越のコック服の脇腹の辺りを僅かに切り裂いただけに終わる。
川越が横に飛んだ拍子に、先ほどまでポルナレフが使っていたテーブルが倒れる。
皿とコップが床に落ちてガシャン、と割れる音と、テーブルがドスン、と倒れる重厚な音が同時に響いた。
さらに、先ほど川越が持ってきたオエーの首もその拍子に床へと転がる。
トマトソースがぶち撒けられた辺りに転がり、まるでその場が惨劇の現場であったかのように変わる。



ポルナレフは驚きの色を隠せなかった。
先刻やり合った吸血鬼も自分のスタンド攻撃を気付いているような節があった。
スタンドで反撃してこなかったのは不審に思ったが、そういうタイプのスタンドである可能性だってあるのだ。
DIOの手によって吸血鬼にされたのならば、スタンドが見えていてもまだおかしくはない、そう思っていたのだ。

だが、目の前の男はどう考えても戦い慣れしていないただのコックに過ぎない。
オランウータンの"力(ストレングス)"のようなごく僅かな例外を除けば、ただの人間がスタンドを視認することなど出来ない。
それがこれまでのポルナレフの持つ常識であったのだ。

今の川越の動きは明らかにチャリオッツのレイピアの存在を視認し、それを躱そうとしていたのだ。
確かに殺すほどの危害を加えるつもりはなく、手心の籠った攻撃だ、スピードも踏み込みも甘々なものであったのは確かだ。
だが、スタンド攻撃を避けられたという現実がポルナレフにある考えを抱かせた。

(クソッ……それじゃあやっぱりコイツもスタンド使い……だってのか……?)

スタンドの性質を知られるということは、自分の手を丸見えにしてポーカーを戦うのと似ている。
自分は相手のスタンドを把握できておらず、逆に相手は自分のスタンドを把握している、ポルナレフはそう認識している。
自分以外の仲間が招かれているのではないか、そういった先入観から抜け出せずにいた。

(落ち着け……ヤツもスタンド使いだっていうならもう容赦はしねえってことだ……)

再び精神を研ぎ澄ます。
未知のスタンドがどんな攻撃を繰り出してくるか……それを警戒しながらポルナレフは攻撃の隙をうかがっていた。





川越もまた驚きの色を隠せなかった。
何せ、ホウキ頭のフランス人の背後にいきなり甲冑を着けた何者かが現れ、自分をレイピアで攻撃してきたのだ。
慌てて避けたことでこれといった怪我を負わずには済んだものの、こんな体験は川越にとってもちろん初めてのことだ。

(な……なんなんですアレは……?)

川越がポルナレフの見立て通りのスタンド使いであれば、そこから対策を立てて攻撃に移れたであろう。
だが、川越達也という男はそんな戦いの資質を持ち合わせているような男ではなかった。
これがまだ銃や刃物のようなよく知るような武器で攻撃されたのならばよかったのかもしれない。
だが、未知の手段で攻撃されたことで、川越は状況を冷静に考えることが出来なかった。

ポルナレフが自分の隙をうかがうかのように、ジッと睨みつけているのが川越の目に入った。
今の自分は包丁一本を手に持つだけ、デイバッグは厨房に置きっぱなしである。
普通であれば降参してもいいような、そんな場面だった。
だが、自分の料理を貶されたという事実が川越にその選択肢を選ばせなかった。
ここで退くことはシェフとしてのプライドにかけて決して許されることではない、川越はそう考えていた。

(とはいえ……この状況……どうしましょうか……)

ジッと睨むポルナレフに負けじと、その体を起こしながら川越もまたジッと睨み返したのだった。



【D-3 レストラン/一日目 黎明】

【川越達也@ニュー速VIP】
[状態]:健康
[装備]:包丁@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=01】)、不明支給品×1~3
[思考・状況]
基本:僕の料理の力で、殺し合いを止める
1:何とかしてポルナレフを撃退する(殺す気は無い)
2:もっともっと料理を作る
3:キバヤシはあまり気に食わない


【ポルナレフ@AA】
[状態]:疲労(小)、首元に血を吸われた跡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品(1~3)
[思考・状況]
1:川越をどうにかする(一般人なら殺す気は無いが、スタンド使いなら……?)
2:太陽が昇るまでに仲間を集めて吸血鬼(田代)を倒す
3:承太郎達を探す。
4:DIOも居るようなら倒す。
5:なんでスタンドがスタンド使い以外にも見えたのか疑問。

※制限でスタンド使い以外にもスタンドが見えます。






 *      *      *





マウンテンバイクは図書館を後にしていた。
やはり一度は川越に何かしらの了解を得た方がいいのではないか、そう思ったからだ。
キバヤシにその旨を伝え、理解を得て戻ってくることを約束したマウンテンバイクは一路レストランへと……

向かっていなかった。

商店街まで戻って来ていたマウンテンバイクがふと目にした建物があった。

「……薬局?」

緑色の十字が闇の中に浮かび上がるのを確認してマウンテンバイクは逡巡する。

「万一のことに備えて……何か持ってった方がいいのかな……?」

そう呟いてマウンテンバイクは辺りをキョロキョロと見回した。
相変わらず、街灯の灯りが煌々と灯る以外には何の存在も感じられない、無機質な街並み。
普段であれば不法侵入になるところであったが、今はそれを咎める者もいない。

「じゃ、じゃあ……失礼しまーす……」

グイ、とドアを押してマウンテンバイクは薬局へと足を踏み入れた。
店員の類がいないことを除けば、品揃えは自分が知る薬局のそれと大差はないものであった。

「防犯装置でも鳴ったらどうしようかとおもったけど……そんなことはないみたいだね」

安堵のため息をつきながら、マウンテンバイクはしばらく薬局を物色した。
もし今後怪我をした時に備えて、目につくものを片っ端からデイバッグに放り込んでいった。
暗闇に目が慣れるまでは多少難儀したものの、少しずつ作業のテンポも上がっていく。

「……このぐらいでいいかな。普段だったら万引きになっちゃうんだけど……。
 でも、川越さんだってレストランの調味料とか勝手に使ってるんだろうし……」

そんなことを呟いたところで、マウンテンバイクはハッと思い出す。

「そうだ! 川越さん! すっかり忘れてた! どうしよう……まだレストランで待っててくれてるかな……」

マウンテンバイクは慌ててデイバッグを肩にかけ、薬局を飛び出した。
そして、図書館に行く時に使った道を逆に辿り、程なくしてレストランから煌々と漏れる灯りが目に入った。

「よかった、まだ待っててくれて……」



次の瞬間だった。

レストランから皿の割れる音が聞こえた。
ほとんど間を置くことなく、何かが倒れるような重たい物音もするのもマウンテンバイクは聞いた。
マウンテンバイクは思わず怯んでしまい、一瞬その足を止めてしまった。

「な、何……? だ、誰かいるの……?」

マウンテンバイクが最悪の場合を想像する。
誰か殺し合いに乗った人がレストランの灯りに気づき、川越さんに襲いかかっているのでは、と。
何せ、川越は殺し合いを料理で解決する、というズレた考えの持ち主だ。
何の抵抗も出来ないまま殺されてしまうかもしれない……そう考えたマウンテンバイクの背中を冷や汗が伝った。

「い、今助けに行きますっ!!」

言うが早いが、マウンテンバイクは夜の商店街を駆け出した。



レストランに戻った時、マウンテンバイクの目に入るのは果たしてどんな光景なのか。
それをまだ、彼は知る由もなかった。



【D-3 商店街道中/一日目 黎明】

【マウンテンバイク@オカルト】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品×1~3、治療用具一式@現実
[思考・状況]
基本:殺し合う気はない
1:川越さんを助けに行こう!
2:キバヤシのことに関して川越さんの了解を取ろう
3:鮫島事件との関係は…あくまで仮説だよね?


No.47:同志スターリンと語らい合う軍師孔明 時系列順 No.49:銭闘民族の特徴でおまんがな
No.47:同志スターリンと語らい合う軍師孔明 投下順 No.49:銭闘民族の特徴でおまんがな
No.25:かなりやばい資料見つけました 川越達也 No.71:知らない方が幸せだった
No.19:ありのままに今起こった事を書くぜ…… ポルナレフ No.71:知らない方が幸せだった
No.25:かなりやばい資料見つけました マウンテンバイク No.71:知らない方が幸せだった

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