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Knight of Nights  ◆shCEdpbZWw




――夢を見た。



随分と昔のことのように思えた。
なにせ、俺が道を行けばその不吉な体に罵詈雑言を浴びせられていた頃だ。
罵詈雑言だけならまだよかった、ガキどもが悪魔退治ごっこでもしているかのように石を投げつける時だってあった。

俺の身体は生まれつきこんな真っ黒なものだった。
まだガキだった頃は、どうして俺がこんな目に遭わなきゃいけないのかが分からなかったな。
俺は成長するにつれて、俺をこんな目に遭わせた人間どもを、俺をこんな体に生んだ親を、境遇を呪ったりもした。
だが、呪っていたところで状況はまるで変わりゃしなかった。
矛先を向ける先を見失った俺は、次第に何もかもがどうでもよく思えるようになった。

俺の一生は、生きとし生けるもの全てに疎まれ、憎まれ、蔑まれ……そう定められているのだと、諦めた。
孤独なその環境こそが俺にとっての楽園であり、その方が気楽なんだ、そう思っていた。
自分以外の誰かのことを思いやることなんて、面倒で仕方が無かったし、考えたことさえなかったかもしれない。



夢の中で一本の手が差し伸べられた。
この手は……忘れるものか。
街の片隅で傷ついていた俺を抱き寄せようとする、その男の腕を。
俺に石を投げつけた奴らと比べると、妙に頭身が大きなその男の腕を。

アイツは売れない絵描きだった。
誰にも相手にされず、それでもなお自分の描きたいものを一心に描き続けた男だ。
僕らは似た者同士だな、そんなことも言っていたっけな。

冗談じゃなかった。
アイツの境遇がどうだか知った事じゃないが、俺の楽園にずかずかと足を踏み入れてきた侵略者、最初はそう思っていた。
だから、俺を抱きかかえようとするをアイツの腕の中で暴れ、その手を跳ね除け、爪を立てたりもした。
今にして思えば、アイツの商売道具に傷をつけたわけなんだよな……ちょっと悪いことしたな、と思う。

そんな俺の抵抗などお構いなしに、アイツは何度も何度も俺の前に現れては懲りずにその手を差し伸べて来た。
いったい何を考えていやがる、ってのが率直な印象だった。
俺の皮でも剥いで三味線でも作る気か、あるいは保健所から送り込まれた刺客なのか。
はたまた魔除けのグッズにでもして商標登録でも取るつもりか、そういう穿った見方しか出来なかった。

最後はもう根負けだったのかもしれない。
俺を抱き寄せて頬ずりしてくるアイツのことを正直キモいとは思いながらも、観念したんだ。
もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ、って感じだった。
優しさだとか温もりだとか、そんなものの存在を信じられなかった俺が、初めてそれらを身に受けた瞬間だった。



人々が忌み嫌う俺の黒い毛並みを、アイツはこよなく愛してくれた。
「ホーリーナイト」なんて大層な名前まで俺によこしてくれた。
意味はなんだと聞いたら「黒き幸」だってよ、不吉だと蔑まれた俺に随分と皮肉めいた名前じゃないか、気に入ったぜ。

アイツは俺のことを何度も何度もキャンバスに描き続けた。
それ自体は悪い気分じゃなかったが、元々大して売れてもいないアイツの絵はますます世間に相手にされなくなっていった。
その日暮らしという言葉がまさにピッタリだったが、まぁそんなことは俺にとっちゃ慣れっこだったんだけどな。
でも、ただでさえデカい図体のアイツの身体は見るも無残にやせ細っていった。
食っていくためには別の絵を描くことだって出来たはずだった……が、アイツはそれをしなかった。

アイツが今わの際に俺に託してくれたことがある。
故郷でアイツの帰りを待つ恋人に手紙を届けてくれないか、と。
冷たくなって、二度とその目を開けなくなったのを看取ってから、俺は飛び出したんだ。



そして――





 *      *      *




「アピャーッ!?」

腹を貫くような激しい痛みに襲われて俺は飛び起きた。
また痛みで意識が飛んでしまいそうになるのを何とかこらえる。

「ぐっ……俺は……いったい……?」

首を動かすのも億劫な状態だったが、今の状況を確認しなきゃならない。
視界に入ったのはメガネをかけたオッサンと、その後ろでなんだか所在なさげにボンヤリとしている猫だった。

「おや、気が付きましたか。今、手当てをしますからね」

そう言うとオッサンは「マキ○ン」と書かれた容器を俺に押し当てる。
中身は消毒液なんだろう、またさっきと同じ突き抜けるような痛みが俺の腹を走り抜けた。

「ぎゃおおおん!?」

思わず情けない叫び声をあげてしまった。
耐え切れない痛みに、思わずジタバタと身をよじろうとする俺を、オッサンががっちりと押さえつける。

「動かないでください、ちゃんとした手当てが出来ませんから」

そう言いながらまた「マ○ロン」を持った手を俺の方に伸ばして来る。
ふざけるな、誰がそんなこと頼んだって言うんだ……と口にする前に三度痛みが走る。

「ぶるぅぅあぁっ!?」

もういっそこのまま殺してくれ、と思うほどの痛みだ。
恐る恐る腹の方に視線を向けてみると、何をどうやったらこんな風な傷が出来るのかと思うほどに俺の腹はただれていた。
切り傷でも、刺し傷でもない、じわじわと広範囲にわたって感じる痛みの下からは、ジワジワと血が染み出してきている。

「君を見つけたのが襲われてすぐで良かった。少しでも遅れてたら危なかったかもしれませんよ」

オッサンがそう言うのを聞き、俺はようやく何があったのかを思い出すことが出来た。
スーツを着込んだ、目の前のオッサンとは別の男に出会ったことを。
殺し合いに勝ち抜いて世界を美しくするという願いを叶えるんだという世迷言を聞かされたことを。
そして、そいつが妙なバケモノを繰り出してきて、抵抗空しく変な攻撃を受けたことを。

(クソッ、つーことは、俺はあのバケモノにやられた、ってわけか……!)

痛みに耐えるのも兼ねながら、俺はギリッと歯ぎしりする。
それでもなお俺が生きてる、ってことは……殺されそうになったところにこいつらがやって来た、ってことか……?

「心配いりませんよ、あの生き物を操っていた男はもうここにはいませんから」

俺の心を読んだかのように、オッサンが話す。
そして、口を動かしながらも、手にしたガーゼで俺の腹を丁寧に処置し、最後にクルクルと包帯を巻きつけていった。

「これでよし……と。これで命の心配をすることは無くなったと見ていいでしょう」

ふぅっ、とオッサンが自分の額の汗を拭った。
為すがままにならざるを得なかった俺の身体にはその黒い毛の中にいっそう目立つ白い帯が巻かれていた。
これじゃ、闇夜に溶け込むことも出来ない、目立って仕方ないじゃないか、と俺は内心毒づいた。

「……ホントに? ホントにもう大丈夫ナノ?」
「ええ。しっかり消毒もしましたから、破傷風にかかることもないでしょう」

今までずっと黙りこくっていた猫が、不安そうにオッサンに問いかけた。
声のトーンからすると、コイツは雌猫か。
そんな不安を鎮めるかのように、オッサンは優しく返した。

「……ヨカッタ、ヨカッタよぉ!」
「ぬぅおわっ!?」

次の瞬間、雌猫が駆け寄って俺に抱きついてきた。
衝撃でまた腹に痛みが走るが、そんなのはお構いなしと言わんばかりにギュウギュウと俺を抱きしめてきやがる。

「ヒドイ……こんな黒コゲになっちゃって……」

俺にしがみつきながら雌猫は涙を流し続ける。
……ってちょっと待てゴルァ、誰の身体が黒コゲだっつーんだよ!
こちとら、この黒い毛並みを少なからず誇りに思っているっつーの!

「まったくです。これほどの大ヤケドを負って命があること自体が奇跡と思っていいでしょう」

うおーい!! オッサンもかゴルァ!!
大ヤケドだと思ってんなら、全身に包帯巻きつけてみろってんだよ!!
だいたい、全身真っ黒コゲになって生きている生き物がいるわけないだろ、常識的に考えて!
チクショウ、こいつら俺の毛並みをバカにしてやがるのか……?

「ワタシ……ワタシ……ギコ君が死んじゃうかと……」

そんな俺の心中など知る由もなく、雌猫がおいおいと泣き続ける。
……ん? なんでコイツは俺の種族を知っていやがるんだ……?
そう思った瞬間に雌猫がまた俺にしがみつく手にギュッと力を籠めたらしく、俺の身体に何度目か分からない激痛が走る。

「はっ、離せゴルァ!!」

痛みに耐えかねて、というのもあったし、知らない奴に抱きつかれて訳が分からない、というのもあった。
俺は痛む体をおして、その雌猫を思いっきりドン、と突き飛ばした。
キャッ、と小さな悲鳴を上げてその雌猫が地面を転がった。

「ゴ、ゴメンね……? その……い、痛かった……ヨネ?」

その瞳を涙で潤ませながら、雌猫が上目づかいで俺を見つめる。
雌猫の一点の澱みもないその目と俺の目が合い、思わず俺は舌打ち交じりに視線を逸らしてしまった。

「気持ちは分かりますが、ダメですよ、しぃさん。あんまり傷に障るようなことをしては」
「……ウン」

オッサンが雌猫を宥めるように語りかけた。
……ん? しぃ……? どっかで聞いたような……うっ、頭が……

「……なんなんだよ、アンタらは」
「おっと、これは失礼。申し遅れてしまいました、ギコさん」

このオッサンもか。
何だって俺の種族を知ってやがるんだ? それも、さも俺の名前であるかのように扱いやがって……

世の中にゃ、俺以外にも山ほどギコ猫ってやつがいるらしい。
それらに共通しているのは、口が悪いことと、反骨精神を持ち合わせているということ。
とりわけ、黒く生まれちまった俺は、周りの環境も手伝ってか人一倍反骨精神が強いという自負はあるんだがな。

「私はいわっちと申します……まぁ、しがないゲーム屋でして」

俺が向ける警戒の視線などどこ吹く風、いわっちと名乗るオッサンがしぃを抱きかかえながら自己紹介する。
……ゲーム屋? そういやさっき俺を襲った奴もゲームがどうとか言ってやがったな……

「こちらはしぃさん、君のお知り合いでしょ……」
「……オイ」

いわっちとやらの話を遮るように俺は凄んで見せた。
警戒、というよりももう敵意を籠めた視線をぶつけてやったが、オッサンは怯む様子もない。
抱きかかえられたしぃって雌猫が、意外な物を見るような目で俺のことを見つめていやがる。

「ゲーム屋、っつったな……もしかしてオッサン、アンタは俺をこんな風にした奴の知り合いじゃねえのか? え?」
「それは……」

図星だったのか、いわっちの顔が少しばかり歪む。
……だけど、それも一瞬のことだった。
すぐに平静さを取り戻したのか、さっきまでと変わらない落ち着いた口調に俺に話す。

「確かに、あの男は知らない仲ではありません」
「いわっちサン……」
「えぇ、大丈夫ですよ、しぃさんが心配するようなことではありませんから」

不安げな表情で見上げるしぃの頭を、いわっちがそっと撫でるのを俺は冷ややかな目で見ていた。

「彼との関係は……なんと言えばいいでしょうかね。
 まぁ、一番シンプルに表現するとしたら……そう、ライバル、とでも呼ぶのが近いでしょうか」
「ライバル……ねぇ」
「そうです。時に切磋琢磨し、時に手を取り合い、互いを高め合ってそれを世に還元する……それが私と彼の関係です」
「するとアンタもアレか、あいつと同じように世界を美しくするために俺に死ね、ってか」

俺がピシャリと言い放つが、いわっちは首を軽く横に振るだけだった。

「……いえ、そんなことは。どうやら彼とは道を違えてしまったようですし」
「……へっ、どうだか。口じゃいくらでも言えるからな」
「そんな……ギコ君……!」

まただ。
しぃって奴があたかも俺とは旧知の仲であるかのように話しかけてきやがる。
反発するかのように俺がキッと睨んでやったら、すぐにしぃは視線を逸らして俯いた。

「……言葉だけじゃ信じてもらえるか分かりませんが……
 少なくとも、私たちがそのまま放っておいたら君の命は危なかったでしょう。それは分かりますね?」
「それはまぁ……そうだけどよ」

確かにこのオッサンが居合わせていなかったら、俺は今頃惨めにのたれ死んでいたかもしれないわけだ。
それを思えば、少なくともこのいわっちとやらがさっきの奴と違って殺し合いには乗っていないのかもしれない。

……だけど、それを額面通りに信じていいのか?
俺をしつこく追い回して保護してきたアイツ以外の奴は、皆が皆俺を忌み嫌っていたんだぞ?
そんな俺にアイツと同じような優しさだとか温もりだとかをくれるやつなんてそうそういるわけないじゃねえか。
それこそ、今後は体のいい駒として使われる可能性だって無くは無いんだからな。

「……ともかくギコさん。私たちは殺し合いに乗るつもりはありません。
 むしろ、彼のような者たちに対抗し、殺し合いを停めたいと願っているのです。
 その為に仲間を集め、時期が来たら……」
「お断りだゴルァ」

俺の言葉に、いわっちがキョトンと目を丸くした。

「大体、さっきから人のことギコだギコだ、ってなぁ……
 間違っちゃいねえが、俺にはちゃんとホーリーナイトって名前が……」
「ギ、ギコ君……? なに言ってるノ……?」
「うるせえっ! ちゃんと名前で呼びやがれ!!」

……ったく、一体なんなんだよ。
なんで俺はアイツにギコって呼ばれるだけでこんなにイラついてんだ……?
俺の言葉を受けて、またさめざめと泣くその姿がさらに俺の苛立ちを増していきやがる。

ダメだダメだ、助けてもらったのはありがたいが、このままコイツらといても精神的に保たねえ。
俺はスッと立ち上がって、まだ痛む腹に手を当てながらゆっくりと二人に背を向けて歩き出した。

「待っテ! そんな……そんなケガしているのに歩き回ったら……ギコ君、死んじゃうヨ!?」
「だからそうやって呼ぶなっつってるだろーが!!」

振り向いて俺が怒鳴ると、もう雌猫の口から言葉が発せられることは無かった。
呆然自失、といった具合の表情を見せている。

「……俺だって殺し合いなんてさらさらゴメンだ。
 だけどな、俺にゃやらなきゃいけねえことがあるんだよ……だから邪魔するんじゃねえ」

口から出まかせだった。
俺としては独りでいる方がよっぽど楽なんだ、今までそうだったし、これからもそのつもりだ。
だけど、それをそのまま口に出しても、はいそうですか、と納得する連中には見えなかった。
アイツならまだしも、それ以外の奴にあれこれと付き纏われるなんて想像したくもねえ。
だから、適当にやらなきゃいけないこと、なんてことをデッチ上げてみた。

いわっちって奴が、俺の決意がもう揺るがない、ということを悟ったような、そんな表情に変わった。
もうこれで俺に構ってくることもねえだろう、そう思い、もう一度奴らに背を向けて歩き出す。

「……助けてくれたのには感謝するぜ。だけど、もう俺には構うな……分かったな?」

そこまで吐き捨てて、一歩二歩と足を進め始めたその時だった。



「……ギコさん!」

背後からいわっちの声が聞こえる。
もう振り向いて怒鳴るのも面倒になってきたぞ、チクショウ。
一瞬足を止めてしまった俺だが、その声を無視して再び歩き始めようとした。

「……君の言うことは分かりました。
 君が何を為さねばならないのか、それを聞くのは無粋というものでしょう」

分かってるじゃねえか。だったら、さっさと行かせてくれや。

          ホーリーナイト
「ですが、君が『聖なる騎士』の名に違わぬ気骨を持っているのでしたらこれだけは聞いてください!」

俺は動かそうとした足を再び止めた。

「私たちは12時までにテレビを使ってこの殺し合いを停めるよう呼びかけるつもりです!
 その際に力を結集する為にここ、森林公園に時間を決めて集うことも併せて呼びかけます!」

そこまで言われれば、その後に何が続くかぐらいは俺でも読めた。

「君のやらなければならないことが済んでからでも構いません……!
 その力をどうか私たちにも貸してほしいのです!」





   ∧∧
   /⌒ヽ)  「……勝手にしやがれ」
  i三 ∪
 ¬三 |
  (/~∪
  三三
 三三




そう吐き捨て、俺は森林公園を後にした。





 *      *      *





再びいわっちに抱きかかえられたしぃは、しばらくの間泣き続けた。
大好きなギコが助かったのは嬉しかった……が、その後に自分を拒絶するかのような言葉を浴びせられたことがこの上ないショックだったのだ。

「ドウシテ、ドウシテ……?」

泣きじゃくるしぃを抱え、いわっちはただ優しくその頭をポン、ポンと撫で続けていた。

「……しぃさん」
「……ナァニ?」

依然としてしゃくりあげながら、しぃがいわっちを見上げる。

「……パラレル・ワールドという言葉をご存知ですか?」
「……」

知らない、という言葉の代わりに、しぃはただ黙って首を横に振った。
そうですか、と一つ呟いたいわっちが言葉を並べる。

「簡単に言ってしまえば、色んな世界が同時に存在している、ということでしょうか。
 たとえば、恐竜という動物はこの世から滅んでしまいましたが、どこかに恐竜が今でも覇権を握っている世界があるかもしれない。
 あるいは、私のような人間ではなく、別の生物がこうして文明を築き上げている世界があるかもしれない。
 もっと単純に言えば、私が今ここでコインを投げたとして表が出た時の世界と、裏が出た時の世界が別々に存在するかもしれない、ということです」
「……どういうこと?」

少しばかり落ち着いたしぃが、いわっちに尋ねる。

「……ギコさんは、もしかするとしぃさんの知っているギコさんとは別の世界から来たギコさんかもしれない、ということです」
「……エ?」
「そうでなければ、あそこまで彼がしぃさんに対してあのような応対をするとは思えないのです。
 しぃさんから聞いたギコさんは、口は悪いですけれども貴女に対してはあのように邪険に扱うようなことは無かったはず」

そこまで言ってから一呼吸置き、さらにいわっちが続ける。

「……もっとも、しぃさん。恐らくは貴女も私とは別の世界の住人ではないでしょうか?」
「……しぃが?」
「ええ。少なくとも、私の身の回りには貴女のように言葉を話す猫というものは存在しませんから。
 ですが、どこかに猫が言葉を使い、文明を築き上げている世界があるとして、そこからしぃさんがやって来たとすれば理屈は合います」

想像だにしなかったことを聞かされ、しぃは思わず黙りこくってしまう。

「それに、クタタンが使役していたあのような生物も……私の住む世界には存在はしていませんでした。
 支給品の一つなのでしょうが、それも様々な世界から集められたのだとすれば合点がいきます」
「じゃ、じゃあ……あのギコ君の世界にはしぃが存在していないかもしれない……ってコト?」
「その可能性はあります。見ず知らずの娘にいきなり抱きつかれればああいう反応も無理なからぬことかもしれませんねえ」

しぃは寂しさに囚われていた。
黒コゲになってしまったけれども、あのギコ猫が自分の知るギコ猫とは全く別の存在であること。
そして、あのギコ猫には自分にまつわる思い出などそもそもが存在しないということ。
見た目は同じなのに、そんなことが本当にあるのだろうかという思いを抱いていた。
いわっちの言うことも推測でしかないが……さっき見かけた怪物もしぃは見たことが無かったのだ。
とするならば、やはりさまざまな世界から参加者のみならず武器が集められているということを意味する、しぃはそう思った。
それはつまり、パラレルワールドの存在を認めることでもあり、あのギコ猫が自分とは何の繋がりもない赤の他人であることも認めざるを得ないことだった。

(デモ……)

しぃは心優しい。
たとえ自分のことを知らなくても、たとえ先刻のような扱いを受けたとしても。
黒いことを除けば自分のよく知るギコ猫を放っておくことが出来なかった。
出来ることならば、いわっちを置いてでもギコ猫の下へと駆け寄りたかった。
そこでどんなに邪険に扱われようとも、連れ添って歩いていきたかったのだ。
だが、それは自分をここまで守ってくれたいわっちとの決別を意味しかねないことをしぃは承知していた。
その選択を取れないのもまた、しぃが心優しい所以である。

「……大丈夫ですよ、しぃさん。ギコさんを信じましょう」

しぃの心中を知ってか知らずか、いわっちがしぃを励ますように声をかける。

「ギコさんには私たちの方針もお教えしました、テレビを使って停戦を呼びかけることもです。
 それならば、私たちがすべきことはなんでしょうか?」
「……それまでに仲間と情報を集めて……テレビ局に行くコト?」
「その通りです。ギコさんにやらなきゃいけないことがあるのと同じように、私たちもやらなきゃいけないことが多いのですから」

そう言ったいわっちが辺りを見回す。
漆黒の闇に包まれた森林公園の空に、ほんの僅かであるが光が射してくるのをいわっちは感じ取った。

「朝も近いですね。今しばらく仲間と情報を集め、テレビ局へと向かうことにしましょう。
 随分寄り道も長くなってしまいましたしね」
「ウン、分かったヨ」

小さな手でしぃが涙を拭う。
そして、ギコ猫が向かった方角にもう一度視線を向け、その後で今出来る精いっぱいの笑顔を作っていわっちに向ける。
いわっちもまた、それに応えるように笑顔を作る。
それから二人はギコ猫とは逆の方向へと足を進め始めたのだった。



【C-2/森林公園/早朝/一日目】

【しぃ@AA】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品(1~3)
[思考・状況]
基本:皆死んじゃうのはイヤ
1.ギコ君が心配だけど頑張らないと……
2.カイブツ(ネメア)がコワイ……
3.パラレルワールドってなんだろう?


【いわっち@ゲームハード】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、モデルガン@サバゲ、不明支給品(0~2・本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いをやめさせる
1.色々な人に情報を訊きたい
2.反抗の手はずが整ったらテレビ局からダイレクトを行う(遅くとも12時までに)
3.様々な異世界から人や物が集められているのでは……?

※12時までにテレビ局で仲間集めを行うことをギコ猫に宣言しました。その際の集合場所は森林公園になります。





 *      *      *





俺は森林公園を出た。
これといって行く宛てはない。
今は闇夜を駆けるだけの体力も残っていない。
ただトボトボと彷徨うことしか出来なかった。

俺は不器用だ。
優しさだとか温もりを与えられても、それを素直に受け取ることが出来ない。
自分の考えを力でねじ伏せられたとしても、それであっさりと生き方を変えることだって出来ない。



(そんなケガしているのに歩き回ったら……ギコ君、死んじゃうヨ!?)



脳裏にさっきの雌猫の声がリフレインする。
あのしぃって奴はなんだって俺にこうまで構おうとするんだ……?



……俺は何か大事なことを忘れているような気がする。
そもそも、俺はどうして最初に会った麻呂のような奴を知っていたんだ……?
次に出会ったお断り野郎は……どんな名前だったっけか……?
そして、あのしぃって雌猫は……?

頭が痛くなってきた。
殺し合い以外にも、今の俺には訳の分からないことだらけだ。



「勘弁してくれよ……休ませてくれ……」

今は頭も、身体もどこかでゆっくりと一人で休めたかった。
昔のように、誰にも邪魔されない寝場所を求め、少しだけ明るくなった街を俺は歩き続けた。



【C-2/森林公園付近/早朝/一日目】

【ギコ猫@AA(FLASH「K」)】
[状態]:打撲(小)脇腹のダメージ(中、治療済)、疲労(大)
[装備]:サバイバルナイフ@現実
[道具]:基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本:生存優先
1:とりあえず休ませろ
2:本能に従って生き残る…のを否定されたがどうしろってんだよ……
3:仲間なんて煩わしいので作るつもりはない……が、いわっちの言うことは一応覚えといてやるか
4:しぃ……? うっ、頭が……
5:磨呂、お断りします(名前未確認)、モッピー(名前未確認?)クタタン(名前未確認)を警戒
6:ひろゆきはマジで逝ってよし


※ギコ猫と特に関係が深いAAの記憶(とりわけ「K」に出演していないAA)が抜け落ちています。
  しぃ以外の記憶については次以降の書き手の方にお任せします。
※いわっちがテレビを使って停戦の意思を呼びかけることを知りました。集合場所が森林公園になることも把握しました。

※コロちゃん@家族が増えるよやったねたえちゃん が破損しました。壊れたまま森林公園に落ちています


No.54:夢で逢えたら 時系列順 No.58:地面に寝そべる獅子を見た
No.56:調査未だ足りず 投下順 No.58:地面に寝そべる獅子を見た
No.36:すべては、セカイ動かすために。 いわっち No.75:アクシデントは突然に
No.36:すべては、セカイ動かすために。 しぃ No.75:アクシデントは突然に
No.36:すべては、セカイ動かすために。 ギコ猫 No.81:迷える心