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最高に『廃!』ってヤツだ!

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匿名ユーザー

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最高に『廃!』ってヤツだ!  ◆shCEdpbZWw




カン、カンと工場特有の鉄製の階段がリズムを刻む。
意気揚々と先頭に立ってダディクールが階段を登る。
その後ろを、少しばかり気怠そうな表情を浮かべながら、夜神月が続いていた。
二人の顔をランタンの光がうっすらと照らしていた。

(ったく、こいつは……いくらなんでも不用心すぎやしないか)

月が心の内で毒づく。
何せ、月は他の参加者が潜んでいることも考えて足音も極力殺し、周囲にもキョロキョロと視線を配っているのだ。
それだというのに、前を行くダディは足音を殺す素振りもしなければ、周囲を探る素振りもない。

そもそも、先だってこの砂糖工場に潜入し、まずは1階を調べようという時もそうだった。
ダディはその稼働を停止させている工場のラインにぶつかって大きな音を立てたりもした。
あまつさえ機械についているボタンを見つけておもむろに押そうともした。
その度に必死になって周囲を警戒したり、ボタンを押すのを慌てて諌めるのが月の役目だった。

(こいつには、いくらなんでも緊張感が無さすぎるっ……!)

だが、月の言うことに対してもダディはどこ吹く風であった。
まるで動じる素振りなど見せないのである。

「ライト君は何をそんなに慌てているんだい? ダメじゃないか、もっとクールにならないと」

ダディがこんなことを口走った時には、さすがの月も怒りを爆発させる寸前にまでなった。
今はまだ波風を立てる状況ではないと月が理解していなければ、ここで何らかの争いが起きていただろう。

(何が"クール"だ! お前のせいでこっちが"クール"でいられないんじゃないか!)

結局、1階のラインにはこれといった収穫が無かったのも月の苛立ちを加速させた。
A-10神の使えそうな武装が無かったのは月を安心させたが、自分が使える武器もないのは心もとなかった。

(武器さえ……武器さえあればこんなバカなどすぐにどうにかできるんだけどな)

なし崩し的にダディと行動を共にすることになって数時間、月の心労はピークに達しようとしていた。
月のように頭の切れる人間にとって、常に予想外の行動を取る人間は厄介なものだ。
策を弄し、そのレールにのっとった行動を取ろうとしても、勝手に脱線させてあらぬ方向に暴走されてしまうのだ。
相手もまた頭が切れるのならば、将棋やチェスのように相手が打つであろう最善の手を読んでいくことが出来る。
が、なまじ"バカ"であると、想定の範囲外の行動を躊躇いなく選択してくるわけで、頭のいい人間相手とは別の意味で神経を使うことになる。
Lのような切れ者との対決を繰り広げてきた月にとっては、ある意味で今までにない相手と言えるわけである。



「さて、2階に着いたね……ここには何かいいのがあればいいんだけど」

そう言いながら、ダディがおもむろに手にしたランタンを高く掲げる。
窓から光が漏れて誰か中にいるのが外からバレたらどうする……と月は声を荒げそうになるのをこらえる。
もう何を言っても無駄だろうということを薄々感じつつあったからだ。

ランタンの光に照らされてぼぅっと浮かび上がる大きな物体がいくつかあった。
お、と小さな声を漏らしてダディは目を細める。

「これは……コンテナじゃないか」
「……みたいですね」

1メートルほどの大きさの立方体がそこかしこに積まれているのを見て、月もまた目を細めた。
中身が出荷を待つ砂糖ならば、わざわざ2階に置いておく必要性は薄い。
手間を考えれば1階にまとめておくのが自然である……そう考えたからだ。
つまり、コンテナの中身は砂糖以外の何か……状況を考えれば武器である可能性もある……月はそう結論付けた。

「どうだい? 中を調べようじゃないか」
「……そうしますか」

月の予想通り、ダディはコンテナに食いついた。
そしてすぐさま近くのコンテナに駆け寄ると、ストッパーを外そうとし始める。

(……ここで武器が手に入れば……もうこいつは用済み……かな)

そんなダディを横目に見ながら、月もまた別のコンテナに手を伸ばす。
側面のストッパーを外し、次いで天板を外すと中には袋詰めされた砂糖と思しき物体がギッシリと敷き詰められていた。

(ん……? 当てが外れたか……?)

袋を手に月が小首を傾げたその時だった。



「ライト君! あった、あったよ!」

慌てて月が声のする方へと振り向くと、そこには左手に牛刀を、右手に自動小銃を握るダディが満面の笑みを浮かべていた。

「いやぁ、中身は砂糖だけかと思ったけど、掘り返してみれば中に埋まっていたよ!」
「……そ、それはよかったです……」

呆然としながら月がダディに手に握られた小銃を見つめる。

(見た目はソビエトのカラシニコフによく似ている……が、よく見れば細部のデザインが違っている……)

そして月はしばらく自らの脳内にあるデータベースから、目の前の銃の情報を引っ張り出そうとする。

(……恐らくはカラシニコフ――AK-47をベースに中国で作られた56式自動歩槍ってところか。
 使えない武器じゃないが、本家本元に比べれば性能はガクッと落ちるのが悩みどころだな……それよりも)

性能云々以前に、月の悩みの種としては、どうやって小銃をダディから奪い取るか、というところだった。
同じものが何丁もあれば平等に分け与えられるかもしれないが、その保証は無かった。

「しかし弱ったね。俺たちが使える武器はありそうだが……あのA-10さんが使えそうなものは見つからないな」

月の苦心も露知らず、ダディはA-10神に搭載できそうな大型の武装が無いことを嘆く。

(……冗談じゃない、ここでそんなものを見つけられちゃたまったもんじゃないぞ)

月の背中を冷や汗が伝う。
恐らくダディは、それなりの武装が見つかればすぐさまA-10神の下へと持っていこうとするだろう。
それはつまり、自分が排除しなければならない相手をみすみす強化させてしまうことに繋がる。

(……やはり、ここでこいつは消すべきか?)

月が小さく歯ぎしりする。
武器さえあればこの男を消すのは確かに容易いことではあった。
それでもその行為をギリギリで思いとどまらせていたのは単に武器が無かっただけではない。

(あのひろゆきが言っていたこと……そう、殺害者の名前が公表される、ということが引っかかる……)

月の行っている"裁き"は、今でこそその手口から"キラ"のものとして万人に周知されていることではある。
そして、その"キラ"の正体が割れていない以上は、月自身の経歴には何も傷がつくことは無い。
だが、この場においてはそういうわけにはいかない。
もしここで月がダディを直接手にかければ、自らの悪名が本来手を組みたい善良で"使える"参加者にまで知れ渡ってしまうのだ。
それは出来ることならば月にとっても避けたいことであった。

(とはいえ、A-10神をどうにかする段までにはその点はクリアしなければならないわけで)

砂糖袋を掻き分けながら、月は一人ごちた。
だが、それは"使える"仲間にやらせればいいことである……月の周りで言うなら、弥海砂のようなキラ信奉者がそれにあたる。
そして少なくともダディはそれには相応しくない人物であることも月は痛いほど理解していた。

(とにかく、こいつと別行動を取るにしても丸腰というわけにはいかないんだ……
 何とか僕も武器を見つけて、そのうえで別行動を取れるようにしないと……?)

そこまで思考を深めたところで、コンテナを探る月の手が何か別のものを探り当てた。

(何だ……?)

急いで取り出したそれには……



『東京タワー×エッフェル塔』



月が手にしていたのはそう書かれた妙に薄っぺらい本だった。

(これは……観光ガイドか何かか?)

訝しげに思いながらも月はおもむろにその本をめくり……すぐさまその行為を後悔することとなった。
それは、いわば開けてはならぬパンドラの箱。
新世界の神を目指す月が、見てはならぬ新しい世界であった。

東京タワーとエッフェル塔、似通った外見の二つの塔が擬人化で表現されていた。
ほんの僅かに背の高い東京タワーに対し、兄貴分であるエッフェル塔が感じていたコンプレックス……
しかし、そんなエッフェル塔のコンプレックスを東京タワーは心から受け止め、そして……





                 _ ,;--、_ , 、-;: 、       ヽ、
        |      _/ ,-'::;:/:::lj:::::::<;::::::::::ヾ;ヽ,、_      |
        {     ノ _,-'´_,-‐''<j::/;;'/l:::l::、:ヽ、;;:、ミ-‐    |.    く
        |  , -'´//:::/;イ:::l:::,:::::ゝ;::::ヽ、::ヽ;::::、j:::l:::::iヘ,___ .|
  何     | ./ / /:::::k::l::|l::::|::|::::::k;:::-:、ヾ;::::::、:::l::|:,;;:l ヾ; { |    そ
         |/ ./ /::/::/i::|::l::|l:::l::|::::l::ヾ;:::::Y::ー;:::ゝ::l;;l:::;リ lj ,/´`>
  な     .|  /:/:i::/::l::l'、<;:::l::|l:::i::::|::::ゞ;::::|l:::、;:ヾ;:!リi/ヽl /  /    っ
         lーr'/:/l;|:::l::l:|::ヽ;;;、;lヾ;::、l::,::::::ノ:l|,:::!,|:::::}ヽ、 j'  /l
  ん     | j:/:l|::l::!::|::l::::i|:::l:、'ハ;、:ヾ;:_\_'jヽ;:l::iミ::リjヾ、  /{´    !!
         l /|:li::|l::l::|l:::}:::|l:::}l:ゞ;::ヾ;;ト、;;:ゝ:ト;;;;ゝlj,;::ヾ、   /Tヽ、
  だ     |  レi:|:|;lヾl/i:、:ゞ;ヽ;:\:_;ゞ;,ミl;j王トlj:l:l/!」j\   j  \
         |   |:l|:l::|::!:|;::i,_ !\//r(:_)_X /-ゞ>‐‐‐'ア\   ./    ヽ、_/\
  こ      !   レ'i_l,|lレ'((:)_,ゞ=` '-='"´ u /  /   \_/
         〉   |::::::ヾ;li|l``'f  ,      / /  __    \
  れ     /   l:::::::::`ヽi、 !___-   _`ヽ l/  / /      \
         |   /⌒ヾ、ル'\ーt-‐_´二ヽ,/ / /      /
  は     |   i  \ヾ、_  \ヾ:_,..!ノシ' / /      /
        .|   |_   ヾ:、\ヽ.`ヾ、 //  /       /
  !!    l   l `ヽ、  l| l ヘ、 _ソ/ /     / /
         |   | l   / ,>  / //        /
         L,   |    /ゝ--tr'´ ./        //
     ,-- 、__/  /ヾ、 :/ ´   /    .      / /ヾ
⌒\/      ./ ノ/     /         / /
   \        /      ./        ./  ./   ./
     \     /       ./        /   lj  / /
      \  /       ./                /




月は思わず頭を抱えた。
何の気なしに開いた本が、観光ガイドとは似ても似つかない、いわゆる"801本"だったのだから。

(武器はっ……! 武器は無いのかっ……!!)

怒りに身を任せて中身を全て引っ張り出すが、出てくるものはどれも同じ薄い本ばかり。
『スターリン×レーニン』、『やらない夫×やる夫』、『孔明×司馬懿』、『ケイン×照英』……
月にとっては見るもおぞましい本が、次から次へと出てくるのであった。
ただでさえダディというストレスの源があるところへ、トドメとばかりに押し寄せてくる801本の山は月の精神を破壊する寸前までになった。
こういう趣味を持つ者がいることは頭で分かっていても、興味の無い者からすれば唾棄すべき代物である。

(くそっ……! くそっ……!)

半ば自棄になりながら、それでももしかしたら武器があるかもしれないという思いに駆られ、月はコンテナを漁り続けた。
そうしているうちに、ふと掴んだ一冊の薄い本に思わず月はその手を止めた。
そして、その表紙に思わずその目を丸くすることとなる。

(何故だ……何故……)

その表紙には、月が未来永劫忘れることの無いであろう、かつての宿敵が月自身と共に描かれていたのだから。

(僕とLが一緒に描かれているんだ……!?)

本来ならば、その本だってすぐに放り出して武器探しを再開するところだった。
だが、どこからどう見ても月とL本人にしか見えないそれを前にし、月は中身を確認せずにはいられなかった。
内容自体は月にとって見るに堪えないものであった。
どういうわけかは知らぬが、Lに性交渉を迫られてそれを断りきれずに甘んじて受ける月が描かれている。
終始月がLを受け入れるだけの形で話は進み、最後に二人は幸せなキスをして終了……という具合だった。

(へ……反吐が出るっ……!)

目を背けられるものなら背けていたかったが、そう言うわけにもいかなかった。
なにせ、Lは世界最高の探偵と称され、その姿をはじめ本名などのデータは最高機密とされていたのだ。
実際に月自身もLを抹殺するために本名を知ることを試みたものの、最後までそれを知ることは出来なかったのだ。

(だが……この忌々しい本を描いた奴はLの風貌を知っているということだ……!)

偶然にしては出来すぎとも思うほどに本に描かれたLは月の知る本人と瓜二つなのだ。
そればかりではない、かつてLから向けられた疑いを晴らすために月はLと手錠に繋がれた生活を送ったこともある。
まるでそれを目の当たりにしたかのように、本の中でも二人が手錠に繋がれていたところからストーリーが展開されていたのだ。

(こんなものを描くのはいったい誰だ……?)

月とLの二人が共に行動していたことを知る人間は決して多くない。
最初は、わずかな期間学友として過ごした東応大学のそういう趣味のサークルが描いたのかと考えたが、月はその可能性をすぐに捨てる。
当時のLはあくまで外向きには"流河旱樹 "として学生生活を過ごしていたからである。
だが、本の中でははっきりと"L"として描かれていたからだ。

次に月は共に捜査にあたっていた父・総一郎をはじめとした捜査本部の人間を思い浮かべ……その可能性もすぐに捨てた。
いい年をした男が、自分とLをそのような目で見ていただけでなく、妄想を具現化するなど考えただけでも吐き気がしたからだった。
真面目に理由を挙げるなら、作中で月は明確に"キラ"として描かれていたという点がある。
捜査本部の人間は月をキラと疑うLに反発していたほどであり、それに矛盾するということを月は考えた。

(東応大学の人間でも、捜査本部の人間でもないとするなら……まさかミサか……?)

月の中に残った選択肢は自らの恋人を自称するアイドルであった。
彼女ならLの風貌も知っているし、自分とLが手錠に繋がれたことも知っている。

(なんてことだ……アイツは"腐女子"ってやつだったのか……?)

もう一度頭を抱えてしまいそうになるのを月はどうにかこらえた。
現状、自分の身の回りで思い浮かぶ犯人が一人しかいないが、そこから月は新たな推理を組み立てようとする。
それはつまり……

(ミサの方にひろゆきから何らかの接触があったのかもしれない、ということか……?)

自分への愛に半ば狂ったあの女が自分を裏切ることはない……そう踏んでいたはずの月に焦りが募り始める。



……だが、そこで月の思考は一旦遮られた。
月の背後から奇声が上がったのだ。





           /\___/ヽ
          /ノヽ      ヽ、
         / ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ
         | ン(○),ン <、(○)<::|  |`ヽ、
         |  `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l  |::::ヽl
.        ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/  .|:::::i |
        /ヽ  !l |,r-r-| l!   /ヽ  |:::::l |
       /  |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:「 ̄
       /   | .|           | .| ,U(ニ 、)ヽ
      /    | .|           | .|人(_(ニ、ノノ

┌┴┐┌┴┐┌┴┐ -┼-  ̄Tフ ̄Tフ __ / /
  _ノ   _ノ   _ノ ヽ/|    ノ    ノ       。。




月が思わず振り返ると、そこには牛刀を振り上げ、目をカッと見開いたダディの姿があった。
眼前の思わぬ光景に一瞬月は思考が混乱するが、振り下ろされてくる牛刀を前に反射的に体が動いた。

「うわっ!?」

瞬時に身を屈め、身体をひねり、転がるようにして牛刀を躱す。
ターゲットを見失った牛刀がドスッと、コンテナの砂糖袋に突き刺さった。
すぐに後ずさりしてダディとの距離を取った月が、とうとう声を荒げる。

「お、おいっ!? いったいなんのつもりで……」

そこまで言いかけて月は絶句した。
こちらを見るダディの目は血走り、荒い息遣いが数メートル離れた月のところまで聞こえてくるほどだったからだ。
何があったのかは分からないが、何らかの異変がダディに起こったと理解するのに時間はかからなかった。

「ウオオオオオオオッ!!」

獣のような雄叫びを上げ、ダディが再び月に襲いかかる。

「くそっ!」

月には懐のスタンガンを出す余裕も無かった。
それほどにまで全力でダディは突っ込んできたのだ。
この突進を食い止めることは難しい、と月は即断する。

ガキィン、と牛刀が階段から伸びる手すりに当たって音を立てる。
月が再びダディの繰り出す牛刀を躱したのだった。
冷静になれば、直線的な動きのダディの攻撃を避けるだけならさほど難しいことではなかった。

「こいつっ……!」

ダディの動きが止まったところですかさず月が掴みかかる。
牛刀を持つダディの手首を抑え、もう片方の手首も掴んで攻撃を封じる。

「グオオアアッ!!」
「くっ……このっ……!!」

そのまま二人はもみ合うような格好になる。
月を振りほどこうと、ダディが蹴りを出そうとするが、月が機先を制して先に膝を蹴り上げる。
グッ、とダディが小さく呻くが、なおも月に対して牙をむいてくる。
あたかも、リミッターが外れたかのような豹変ぶりであった。

「そいつを……離せっ!!」

とにかくまずは手にした牛刀をどうにかせねば、と月は考える。
牛刀を持つ手首をより一層強い力で締め上げると、それを手すりにガンガンと何度も何度も叩きつける。

「グアァッ!!」

ダディの顔が僅かに歪み、手にした牛刀が落ちてカラン、と音を立てた。
すぐさま月は拾い上げられないように足元の牛刀の柄を蹴り飛ばす。
牛刀はクルクルと床を滑り、コンテナに当たって止まった。

「よし、これで……ぐっ!」

牛刀が転がっていったのを確認して月が一息ついたその時だった。
両手を封じられたダディが、月の顔面へと頭突きを放った。
鼻先に鈍い痛みを感じ、月が両手に籠めた力が僅かに緩む。
怯んだ隙をダディは見逃さなかった。

「ウオオッ!!」

再び吠えるとがら空きの月の腹へと前蹴りを放った。
ドスッ、という鈍い音と共に、月の表情が苦悶に満ちたものへと変わる。
堪らずにダディの手首をつかんでいた手を放してしまうと、そこにさらにダディが追撃をかける。

「ウウウ、オアアーッ!!」

強引に月を押し倒すと、そのままマウントポジションを取る。
そして、組み伏した月の首を両手でグッと絞め始めた。

「ぐ……おぉ……」

月は首にかけられたダディの手を振りほどこうとするが、あまりに強力なためにそれが叶わない。
少しずつ意識が薄れる中で、月は直接手を振りほどくことを諦め、懐に忍ばせたスタンガンへと手を伸ばす。

バチィッ!!

震える手でどうにか動かしたスタンガンをダディの脇腹へと押し当てると、ダディがギャッ、と小さく悲鳴を上げた。
護身具として知られるスタンガンだが、すぐさま相手を昏倒させられるほどの威力は無い。
そんなものを持ち歩いていては逆に罪に問われてしまうからだ。
だが、襲いかかってくる相手を怯ませるだけならそれで十分だった。
首を絞めるダディの手が緩んだその一瞬、月はその拳骨をダディの顔面へとぶち込んだ。

「ゴアァッ!?」

鼻を押さえてダディがよろめいた拍子に、月はどうにかマウントポジションから脱け出す。
月は頭突きを受け、ダディはパンチを受け、共に鼻からは血が滴り落ちていた。
間髪入れずに今度は月がダディへと飛びかかる。
普段の彼がやるようなスマートさとはかけ離れた、血生臭い殴り合いである。

ダディも簡単に制圧はされない。
両者ともに相手をどうにかして押さえつけようと床を転がり合い……

「オォッ!?」
「うわぁっ!?」

先程二人が一緒に昇って来た階段を、今度は一緒に転がり落ちることとなった。

ガラガラガラガラ……ドスン!

掴み合ったまま、上へ下へと目まぐるしく位置を変えて転がった二人が1階の床まで転げ落ちた。
運悪くその際に下になっていたダディが、ガツンと床にしたたかに後頭部を打ち付け……そのまま意識を失った。





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:::::::::::::::::::::::::::::::::::: 〉一::〈|! i:::::::::::::::ムヘ 'ノ  ,xツ.ハ:.ルイ/   い……痛つつ……
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:::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ヤ ./:::リ::::::::::::_:」       |/イイ/./
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あちこちを打ち付け、フラフラになりながらも月が立ち上がった。
目の前には一緒に転がり落ちたダディがその両目を固く閉じて横たわっている。

「まさか……死んだ……のか……?」

慌てて月がダディの首元に手を当てる。
……が、脈は正常に打っているようだった。

「気を失っているだけ……か」

命があることを確認し、思わず月は胸をなでおろした。
こんな事故のような形で命を奪っても、明確な意思を持って命を奪ったのと同じようにその名が明かされてしまうのだ。
自分の目的を鑑みるに、それではどうしたって動きづらくなることを思えば、今はダディの無事を喜ぶしかなかった。

「……考えてみれば、マシンガンで頭を撃ち抜かれても死ななかったからな」

眉間に銃弾を受けてもピンピンしていた奴が、この程度で命を落とすこともないだろう、と改めて思い直し、月はふぅっ、と一息ついた。

「……しかし、何だってこいつはいきなりこんな風になったんだ……?」

バカの考えることは分からないとはいえ、このダディの豹変ぶりは月にとって不自然さしか感じないものであった。
今まで行動してきたダディクールという男には、このような獰猛な攻撃性など微塵も感じて来なかったからだ。

「……まさか」

ふと月が思い立つ。
先程のコンテナに入っていた銃器の類。
あれが密輸されたものだとしたら、と仮説を立てたのだった。

「銃が密輸されたものだとしたら、あの中に入っていたアレももしかすると……!」

痛む体を押さえながら、月は再び階段を上る。
何度かよろめきつつも、2階に戻った月はダディが調べていたコンテナへと足を向ける。
一包の砂糖袋が裂かれていて、その中身が半分ほどぶち撒けられていた。
月は床に屈むと、床に散らばったその中身をそっと指に付けてみる。

「……よくよく見れば、砂糖に比べて随分と粒子が細かい……」

そして、慎重にその指先に付いた粉をペロッと舐め……すぐにプッと吐き出す。

「これは……麻薬!!」

銃の密輸があるのなら、麻薬の密輸もあるかもしれない……月の推理は的中した。
袋からこぼれた分の粉の量から月はさらに状況を推測し……そして頭を抱えた。



~~~ ↓ 以下、月の推測であり、現実に起こった事 ~~~



    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
.   |(●),   、(●)、.:| +
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|     それにしても、こんなに砂糖があるなんてね……
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::| +
   \  `ニニ´  .:::::/     +
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||



           /\___/ヽ
          / ''''''    '''''' \
       │:::::::(ー),  、(ー) l
       │/')   ,,ノ(、_, )ヽ、,,, │ +   やはりこれから動くうえでも脳に糖分を送ってあげないとね!
        /‐:::  `-=ニ=- ' /       少しくらいなら拝借して舐めても構わないかな!
      _,,,l ;! |:::______/     +
   , -‐'゙゛ i::..  | .ヽ/;ヽj! `‐-、_  +
   l     ノ::. .:|、 .ヽ,:ヽ|   <゛~ヽ、
  ,:''`` ''"゙.|;;:‐''゙|.ヽ、 ヽ;::|   /  .|゙l
  ,:     ヽ::il;;!  ヽ、ヽ|  /   | :|



    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
.   |(○),   、(○)、.:|
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|   ペロペロ……んん……? なんだか知らないがハイな気分になって来たぞぉ……?
.   |   `‐=ニ=‐ ' .:::::::|
   \  `ニニ´  .:::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


~~~ 以上、事の顛末 ~~~



「あのバカ……砂糖と間違えて大量に麻薬を口にしたからか……!」

大方、少しくらいなら砂糖を舐めても構わないだろう、とこっそり開封したのだろう。
その結果、麻薬の過剰摂取により、精神がトリップし、ハイになったダディが幻覚でも見たのだろうと月は結論付けた。

「クソッ……僕の足を引っ張りやがって……!」

そう吐き捨てると、ズルズルとずり落ちるように月はその背中をコンテナへと預けてその場にへたり込んだ。
いつの間にか鼻血は止まっていた。
顔を上げてみると、壁にかけられた時計が5時30分を指そうとしていた。

「あと30分で……最初の定時書き込みがある、ってことか……」

それはつまり、この6時間でどれだけの参加者が犠牲になったかを表し、
同時にどれほどの参加者がこの殺し合いに乗ったのかを表すということになる。
殺し合いからの脱出を目指す月にとっては絶対に必要な情報である。

「もしあのバカを排除するにしても、まずはその情報を手にしてからだ……!」

今ここで慌ててダディを排除したとして、その罪を隠せるのはたったの30分しかない。
仮にやむなく自分の手を汚す選択をしたとして、その罪が露見するまでの時間は長ければ長いほどいい。
それに、銃で撃たれても死ななかった男をどう排除するかを考えるのにも月には時間が必要だった。

「……それに、ここにはまだコンテナが山ほどある……!
 役に立つものがあればそれを拝借しよう……持ちきれなかったとして、それを知っているのは僕だけでいい……!」

この工場に武器が隠されているのを知るのは現状では月とダディだけだ。
もしかしたら、A-10神の武装もここに隠されているのかもしれない……が、それは何としても使わせないようにしなければならない。

「幸い、ここは海にも近い……最悪、海にでも捨ててしまえばいいだろう。
 武器弾薬など、すぐ使い物にならなくなるさ……ハハッ」

月としては、今後を立ち回っていくうえで武器の隠し場所というカードを手にしたと言える。
あとは、秘密を知る厄介者さえどうにか排除出来ればそれでいい……そう考えていた。

月はダディが落とした56式自動歩槍を拾い上げた。
これ以外にも何かあればそれに越したことはないし、なくともスタンガンよりはまともな護身が出来る武器だと確信する。

「……待ってろ、ひろゆきめ……お前は新世界の神であるこの僕が裁きを下してやる……!」

そう呟き、月はグッと拳に力を籠めるのだった。





【D-4・砂糖工場・倉庫/一日目・早朝】
【夜神月@AA(DEATH NOTE)】
[状態]:疲労(中)、あちこちに打撲
[装備]:56式自動歩槍(30/30)@現実、スタンガン@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、zip画像ファイル@画像も張らずにスレ立てとな
[思考・状況]
基本:殺し合いからの脱出
1:早いうちにダディクールを排除したい……が、まずは定時書き込みを待とうじゃないか
2:残るコンテナを探索し、どれほど使える物があるか探ってみよう
3:脱出目的を持つ参加者か、A-10神を倒せる善良な参加者を探す


【ダディクール@AA】
[状態]:気絶、あちこちに打撲、眉間に銃痕(絆創膏で処置)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0~2、ファービー@現実
[思考・状況]
基本:クールに行くぜ
1:砂糖工場を探索して、A-10神が装備できる兵器を見つける
2:常にクールなダディを貫く
※バカに付ける薬@コピペを消費しました
※何故か生命力が異常に高いです。決して不死身ではありません

※牛刀@現実が砂糖工場2階の床に落ちています
※大量の801本@801板が入ったコンテナが砂糖工場の2階にあります
※砂糖工場の2階にあるコンテナには麻薬@現実が隠されています うち1袋は破れて中身が散らばっています
※砂糖工場の2階には他にも色々なコンテナがあります 中身はあるかもしれませんし、無いかもしれません


<現地支給品紹介>
【56式自動歩槍@現実】
ソビエトのアサルトライフル・AK-47(いわゆるカラシニコフ)をベースに中国で製造されたアサルトライフル。
外見がほとんどAK-47と同じであることから、映画などではAK-47の代用品として敵方の武器になることも。
模造品であるため、性能は本家本元と比べると落ちる。
特に廉価版では連射をすると銃身が熱くなり陽炎が出来るため照準を合わせづらくなるという声も。
使用弾薬は7.62mm×39。


【牛刀@現実】
家庭で使われる万能包丁よりも刃が大きく反った包丁。
筋の多い固い食材を切るのに適している。


【大量の801本@801板】
801の姐さん秘蔵のコレクション。
参加者が描かれているものが妙に多いような……?
801板では東京タワーとエッフェル塔のどちらが受けでどちらが攻めかで論争が起こるらしい。訳が分からないよ。


【麻薬@現実】
麻薬と一口に言っても様々な種類がある。
例えば、田代まさしが止めることのできなかった覚せい剤をはじめ、大麻やコカインなど種類は多岐にわたる。
とにかく、大人も子供もダメ、絶対。


No.60:うーんこの球場微妙や! 時系列順 No.62:見えない敵と戦う漫画家
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No.33:馬鹿と天才は…… 夜神月 No.80:絶望ダディ/壊れた救世主
No.33:馬鹿と天才は…… ダディクール No.80:絶望ダディ/壊れた救世主

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