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人間の証明 ~ A place in the sun~  ◆shCEdpbZWw




――二度と、ここに戻ってくることは無いと思っていた。



謎の野蛮人の襲撃を切り抜け、身体を休めながら自分が踏み込んだ建物の散策としゃれ込んでいた田代まさしはそんなことを考えていた。
そこは、道を踏み外す前の自分が輝いていた仕事場――テレビ局であったのだから。

田代にとって、何もかもが懐かしかった。
出番を待つための楽屋、様々な衣装が納められた衣装室、多くのモニターと機器に彩られた調整室……
大小ありとあらゆる道具が保管された道具室、整然とセットが組み上げられたスタジオ……
どれもこれも、数年前までの田代が闊歩していた頃のままであった……が。

「……違う違う。そうじゃ……そうじゃない」

かつての仲間が歌う歌のフレーズに乗せて田代は一人ごちた。
本来、テレビ局というものは昼夜の別を問わず誰かしらがそこで働いているものだ。
だが、今のテレビ局には朝のニュースの準備をするスタッフやアナウンサーもいない。
夜の建物を護る守衛もいなければ、仕事に疲れて泥のように眠る社員だっていない。

「……なるほど、紛い物か」

ポツリと呟いた田代は、しばらくの後にククク、と笑い出した。
こんな大層なものを用意したひろゆきの力に感服したというわけではない。
そんな行為を下らない、と断じたというわけでもない。

「自分を偽って名声を得ていた私からすれば……なるほど、こんな虚飾に彩られた建物はお似合いというわけだ」

在りし日の田代はミュージシャンとしても一世を風靡し、お笑いタレントとしても確固たる地位を築いていた。
だが、常に新しい才能が掘り返され、消費されていく芸能界において、その地位を守り続けることは築き上げることと同じかそれ以上に難しい。
日々の仕事に、そして自分の才覚に行き詰まりを感じていた田代は――逃げ道を薬物に求め、そして破滅したのだった。

超人気タレントのまさかの失脚は、その言動も相まって一部では"神"と持て囃された。
だが、世間一般における彼の信用がその程度で保てるはずもなく、その名声は地へと堕ちていった。
自分を見出した恩人やスタッフからも縁を切られるような形となり、彼は自業自得とはいえますます孤独へとなっていった。
それでもなお田代に手を差し伸べる者はいたのだが……最早人と人との繋がりだけでは彼の孤独を癒すことは出来なかった。
そして彼は過ちを繰り返すこととなって現在に至るのである。



しばし懐かしさに浸りながらも、田代の足はフラフラと地下の駐車場へと向かっていた。
本来であれば、スタッフの車に混じって一流芸能人が乗りこなす高級車がズラリと並んでいるはずだった。
だが、テレビ局内の他の場所と同じようにこの駐車場も人気が無くガランとしていた。
ただただ無機質でひんやりとしたコンクリートの柱があちこちに並んでおり、どこか空虚な感じを田代に抱かせた。

「やはり、ここも……ん?」

ため息交じりに辺りを見回した田代が、駐車場の隅に何かが置いてあるのを見つけた。
すぐさまそれに近づく田代のコツ、コツという足音が駐車場にやたら大きく響き渡った。



                 ┌─┐
                 |も.|
                 |う |
                 │来│
                 │ね│
                 │え .|
                 │よ .|
                 │ !!.│
                 └─┤
                     │
    | ̄ ̄ ̄|─| ̄ ̄ ̄|─| ̄ ̄ ̄|─□⊃  ┐
      ̄◎ ̄  . ̄◎ ̄   ̄◎ ̄   ◎-ロ┘◎


駐車場の片隅には2台の乗り物が並んでいた。
もっとも、1台は自転車に荷車が数台並んでいるだけという程度のものだ。
何やら意味不明の幟が立っているが、田代は気にしないことにした。

「自分の足で歩くよりはマシかもしれないが……これじゃあなぁ……」

苦々しげな表情を見せながら田代が吐き捨てた。
自転車はかなり小さいサイズであり、田代が乗るのならばかなり体を縮めなければならないほどであった。
台車の方にデイバックに入りきらないような物を乗せられそうに思えたが、田代はそこにそれほど魅力は感じなかった。
自転車の方は無理だと悟った田代がもう1台の乗り物に目を遣る。



           /二二二/
  ____  /⌒ヽ_⌒ヽ-==||_
 (;;;((=二==(;;;◎)--(;;;◎)


一見してそれは遊園地に置いてあるようなゴーカートに見えた。
だが、田代が目を凝らしてそれを見れば、計器類やアクセル、ブレーキなどあちこちに子供だましではない確かな技術を見てとれた。
郊外で時折見かける少々本格的なカートのようなものだろう、と田代は推測した。
テレビのロケでも若手の芸人やアイドルが乗せられていたっけなぁ、と田代は再び過去を振り返った。

少しばかり窮屈かもしれないが、田代の身体でもその中には収められそうに思えた。
燃料計を見るとしっかりとガソリンは積まれているのが分かり、使う分には問題が無かった……が。

「でもなぁ……」

カートもまた、田代のお眼鏡にかなうことは無かった。
なにせ、自転車とカートに共通している構造が田代にとってはあまりにも致命的だったからだ。



「今の私は、名実ともにお天道様の下を歩けるような身分じゃないからな……」



田代は自嘲気味に呟いた。
カートも自転車も、日の光を遮る為のものが無かったからだ。
自らに割り当てられた支給品を、田代はおもむろにデイバックから取り出す。
石造りの武骨な形状の仮面は、田代にとってはある意味で打ってつけのアイテムであった。
ヒトであることを捨てて吸血鬼としての身体能力を得るためには、捨てなければならないことも多かった。
その一つが、日光を浴び続けるとやがて灰と化してしまう弱点を背負わされるということだった。
田代とて、そのことを知らずに石仮面を着けたわけではなかった。

そもそも、田代は度重なる逮捕により、もう自らに手を差し伸べる者はいないだろうと考えていた。
今の刑を満期で終えて出所したとしても、もうすぐそこに還暦も迫っているのが田代だ。
芸能界での信頼を自ら投げ捨てた田代も、出所後に居場所は得られないし与えられないであろうことは自覚していた。
自分が蒔いた種とはいえ、後ろ指を指されながらの暮らししか待っていない。
ともすれば、それで再びクスリに逃げ道を求めてしまうことだって大いにありうるのだ。

だが、今の田代には一種の破滅願望のようなものがあった。
多くの人の信頼を裏切ることになったとしてもクスリとの縁を切ることが出来なかった自分。
いつしか孤独になってしまった田代には、いっそ堕ちるのならばどこまでも、という思いが少なくなかった。
だからこそ、妙な仮面を付けることによって、人の生き血を啜る人外に堕ちるとしても吸血鬼になることに迷いはしなかった。
直後に現れた妙な髪形の男にだって躊躇いもせずに襲いかかったし、先刻の野蛮人の血を吸うことだって厭わなかった。



「……そういえば、こんなCMがあったっけなぁ」

誰にともなく、田代が自らに言い聞かせるように呟く。

「『覚せい剤やめますか? それとも、人間やめますか?』……だっけか」

そこまで呟いた田代は、再びクククと歪んだ笑みをその顔に貼り付けた。
そのまま腹を抱えて笑い転げてしまいたくなる衝動をなんとかして抑えたのだった。

「覚せい剤をとうとうやめられなかった私が、いよいよもって人間までやめてしまったわけか……!
 まさにCMの通り、こりゃあ傑作だ……『ミニにタコ』だなんてネタよりもずっと滑稽じゃないか!」

最早、田代自身が真っ当な人間であることを自分で説明することは不可能であった。
文字通り人としての道を踏み外した彼は、残りの一生を日陰者として生きていくということを甘んじて受け入れたのである。



「……さて」

ひとしきり自嘲したところで田代が思い直したかのように顔を上げた。
テレビ局のロビーへと戻ってみると、外が漆黒の闇からはだいぶ色を変えてきているのが分かった。
田代自身が大手を振って外を歩けなくなるのも、最早時間の問題であった。
今から外に出てもそう遠くへは行けないであろうことは容易に想像できた。

「……若い女の血が吸えなかったのは残念だが……仕方あるまい」

残念そうに顔をしかめた田代はそのまま踵を返し、主の無い守衛室へと足を向けた。
警備を担当する部署であるだけあって、そこにはスタジオの調整室に負けず劣らずの数のモニターが鎮座していた。
田代が足を踏み入れた地下駐車場も、無残に窓が割られた1階ロビーも、監視カメラが捉えた映像が守衛室には届けられている。

「さっきの野蛮人みたいに逃げられてはかなわないからな……
 ここで人の出入りを見守ることにしよう……血をいただくのは逃げ道を塞いでからじっくりとでも構わないだろう」

PDAの地図を見れば、テレビ局をはじめとして各地にはそれなりに大きな施設が点在していた。
そのうちのどこかを目指そうとする者も少なからずいるだろうというのが田代の推測だった。
ならば、それを待ち伏せて仕留めよう、というのが田代の方針であった。
……もっとも、外を出歩けない体である以上、その手段しかとれないというのもまた事実ではあったが。

今後の方針を定めた田代は、おもむろにデイバックから1本の瓶を取り出した。
石仮面と一緒に支給された田代の残る1つの支給品である。

「吸血鬼なら血の代わりに赤ワインが相応しいのだろうが……この際贅沢は言えないな」

田代の手に握られたのは日本酒の一升瓶であった。
田代がクスリに逃げることになったのは、彼が酒でストレスを発散できなかったほどの下戸であったことも大きかった。
だが、クスリが手元になく、誰かの血を吸うこともままならない現状では、飲めない酒でもあおることでしか衝動を抑えられなかった。

「思えば、昔突っ張っていた頃に酒に手を出したこともあったが……」

守衛室にあった紙コップに酒を注ぎながら、田代はしみじみと呟く。

「あの時は大人はなんでこんな不味いもの飲んでやがるんだ、とか思ったっけな。
 そして、そんな大人が飲んでいる酒を飲むことで大人ぶってた……背伸びしてたってわけだ」

田代にとってはもう遠い昔の記憶を掘り起し、しばし感慨に耽った。
そして、何十年ぶりかの酒を一気に流し込んだ。

「……ふぅっ、これも吸血鬼化したからかな……さほど不快感を感じない……ような気がする」

身体が受け付けなかったものを受け付けられるようになったことを、田代はそんな形で改めて思い知ることになった。
そして、田代はまた一つ自嘲気味にククク、と笑って見せる。



人であることを投げ出した哀れな男の孤独な酒盛りはしばらく続きそうだった。



【E-2 テレビ局・守衛室/1日目・早朝】
【田代まさし@ニュー速VIP】
[状態]:吸血鬼化、打撲多数(完治寸前)、ほろ酔い状態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、石仮面@ジョジョの奇妙な冒険、米酒@FLASH(1/4ほど消費)
[思考・状況]
基本:獲物を探す。
1:外に出られなくなったので、テレビ局で得物を待ち伏せる
2:外に出られるようになり次第、獲物を探しにいく
※再生力や不死性が制限されています。
※人をゾンビにする能力も制限されています。

※守衛室では監視カメラでテレビ局内部の動向を見ることが出来ます。



【支給品・現地調達品紹介】

【米酒@FLASH】
2006年頃に一大ブームを巻き起こしたFLASHムービー「マイヤヒー」より。
サビの部分が空耳で『米だ、米酒さ! 飲ま飲まイェイ!』と聞こえる。
色々と権利をめぐって一悶着あったFLASHであったことも記憶に新しい……けどもう7年前か……
米酒としてはごく普通の純米酒であろうと思われる。


【もう来ねえよ!@AA】
テレビ局の地下駐車場に放置されている。
自転車に3台の台車が接続されているので、無理をすれば荷物を積んだり人を乗せられるかもしれない。
ちなみに、このAAを用いたあるFLASH動画には「田代!田代!田代!田代!」と聞こえる空耳部分もある。


【カート@ロケットでつきぬけろ!】
作者・キユの巻末コメントが有名になりすぎて内容がほとんど語られない『ロケットでつきぬけろ!』。
レースものの漫画で、主人公が当初(といっても連載期間のほとんどで)乗っていたのがカートである。
F-1程のスピードは出せないが、レンタルのカートでも70km/hくらいは出るので徒歩や自転車よりはずっと速い。
ただし、当然ながら一人乗りだし、トランクなどの荷物を詰めるようなスペースも無い。


No.64:ブロントさんの小冒険 時系列順 No.66:Moral Hazard
No.64:ブロントさんの小冒険 投下順 No.66:Moral Hazard
No.44:グンマーの大冒険 VS吸血鬼編 田代まさし No.85:茶鬼