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絶望ダディ/壊れた救世主

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匿名ユーザー

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絶望ダディ/壊れた救世主  ◆m8iVFhkTec




(現時点で見つけた道具……さっきの牛刀に、ブラックジャック、ガスバーナー、そして妙な杖か……
 A-10神が使用するような弾薬の類は見当たらなかったが、何せコンテナの数が多過ぎるからな……流石にこの短時間で全て確認するのは難しい)

ダディクールが気絶してから、約30分が経過していた。
夜神月はコンテナを探るのを中断し、調達した凶器を懐に仕舞う。
そしてPDAの電源を入れてバトルロワイヤル板へ接続した。

この六時間の間における死亡者の名前を見て、彼は怪訝な表情を浮かべた。

(なんだこのふざけた名前の羅列は……。馬鹿にしているのか?)

思わずそんな感想を抱いた。
MSKKに、ショボーンに、オエー? 明らかにまともな名前とは思えない。
国籍や文化の違いだとか、そんなレベルではない。擬音、コードネーム、それに近いものじゃないか。
そう思いながら画面に目を通していると、一つだけ実名と思わしきものを見つける。
『川越達也』
一つだけあった、まともな日本人男性の名前。

日本で生活する月にとっては、とても馴染みのある苗字と名前。
殺害者欄の方に載っていたそれは、他のものに比べて一際浮いているように思えた。

(どうしてコイツだけが普通の名前として載っているんだ……)

おかしいじゃないか。実名と思わしきものが一つしか無いなんて。
……そう考えたとき、月の脳裏にとある仮説が浮かび上がった。

「……まさか名前を擬装する手段が存在するのか……?」

僕の知らない方法によって、自分の名前を擬装することが可能なのではないか?
多くの殺害者と犠牲者がそれを知っていて、たまたま知らなかった川越達也だけが実名を晒された……そうとは考えられないだろうか。
何のためにそんなことをする必要があるのか?
……まさか、デスノートによる死の対策か……?
名前を晒される最も大きなリスクとして考えられるのはそれだろう。
つまり、この会場の参加者たちはデスノートを知っているということか……?

「僕がこの6時間のうちに関わった参加者はダディとA-10だけだ……。他にどのような参加者がいるのか検討が付かない……。
 だから、他の場所ではデスノートを知る人物が数多くの者と『有力な情報交換』が行なった……。
 その結果としてこんな偽名だらけの定時更新になっているのではないだろうか……?」

可能性としては十分に存在する……。
が、他者と接する機会が少ないがゆえに、断定出来たものではない。
あくまで仮説の一つとして頭の片隅に置いておくとしよう。

(ただ、『実名の擬装』に関してはその場で調べられるな。PDAをくまなく見ればいいのだから)

最も関係がありそうな、オーナー情報を表示する。
そこにはしっかりと『夜神月』と正しく表記されている。
ここに書かれているのは実名で間違いない。
このPDAのオーナー情報がバトルロワイヤル板に反映されているのであれば、これを書き換えることで偽名を使えるかもしれない。

次に忍法帖プログラムを開き、その恩恵の種類、システムを頭に叩き込んでいく。
あいにく、『オーナー情報の名前を変更する』手段にはどこにも触れられていなかった。
最も近いものに『プロキシ』と呼ばれる機能。どうやら名前を伏せることが可能らしい。
あくまで『伏せる』であって『偽名に変える』ことは出来ないようだが……。

「簡単には見つからない……。よほど特殊な情報が参加者間で出回っているのか、それとも他に理由が存在するのか……」

暗闇の中を模索するような、非常にもどかしい感覚。他者との圧倒的な情報格差。
最初にこの馬鹿と、あの脳筋戦闘機と出会わなければ、もっと多くの状況を掴めていたかもしれない。
あぁ、腹立たしい。この僕が、どうしてあんな馬鹿どもに縛られなくてはいけないんだ……!

彼はいらいらとしながらバトルロワイヤル板に戻り、『禁止エリア』についてを確認する。
9時に禁止エリアとなる区域、D-5。この砂糖工場の一部の区画が含まれている。
何故こんな中途半端な位置を? 常識的に考えれば、端の方から消していくべきじゃないのか?
周囲を囲うことで、参加者同士の遭遇を促すはずなのだから。
そこから推測出来ることは一つ。

「主催者が参加者に見られたくない物が、その区域のどこかにあるという事だ……」

砂糖工場、もといそれに見せかけた非合法組織の建物。
主催者に不都合な物が隠されていても何らおかしくはない。
エリアを封鎖される残り3時間弱の間にそこを探索するのも悪くはない。
……さて、その前に一つだけやらねばならない事がある。

「ダディクールはここで殺すべきだろう。ただの足でまといならともかく、今のコイツは薬物に捕らわれた危険人物。
 気絶している今こそが最大限リスク無く始末出来るチャンスだ……。殺るしかない……!」

床でのびているダディクールへと歩み寄る。

    /\___/\
  / ⌒   ⌒ ::: \
  l( ;:;:;:;:;:;ノ  、( ;:;:;:;) l
  |  ,,ノ(、_, )ヽ、,,   |
  |   ト‐=‐ァ' ( ;:;:;:;)
  (;:;:;:;:; `ニニ´  .:/
  /`ー‐--‐‐―´´\

先程の闘争で打撲した顔が面白いくらいに腫れ上がっている。
すやすや寝息を立てて、腹の立つ笑顔を浮かべてるのが非常に気持ち悪い。

こいつを始末するうえで問題となること、それは眉間を銃で撃ち抜かれても死なないほどの生命力。
とはいえ、この場合は生命力以前に根本的に生物としておかしい。
脳に穴を開けられて、それでも思考をつづけられるというのは通常の生物では有り得ないのだから。
所謂"通常の生物"という枠組みから外して考える必要がある。
例えばプラナリアという水生生物。この生き物は肉体の再生能力が異常に発達しており、切断されても死なない、という特徴がある。
プラナリアの場合、脳を切断されても問題なく生存する。
何故なら、肉体のあちこちに脳の代わりを果たす器官を持っているからだ。
つまりダディクールも、頭蓋骨の中以外に脳を持つ可能性も……

……あくまで仮説。おかしいのは知っている。流石にダディクールがプラナリア系の生物と考えるのは無茶苦茶だ。
現実的な思考に捕らわれず、もっと柔軟に考えてみようではないか。
常識ではあり得ない生物……そう、ダディクールが吸血鬼やゾンビの類いならば不死身性があってもおかしくない。
とはいえ、殺し合いを強いられている現状、不死身の生物なんて流石に呼ばないとは思うが……。

……………………。

どんどん意味不明なことになってきた。ダディクールが吸血鬼……わけがわからない。
もうギャグ補正的なものとして考えればいいや。存在自体が冗談みたいなものだし……。
なんにせよ、直接的な絶命よりも無力化を狙うのが効果的だろう。
気絶している時点で確実に一ヶ所を破壊することが可能なのだから。

では、どこを破壊すればいい?
『手』、『足』、『首』……いや、切断するのに時間がかかりすぎる。
ならば、全身に血液を送る『心臓』か、酸素を供給する『肺』 か……
しかし、『脳』を破壊されてもなお生存出来るコイツがそれだけで死ぬはずが……

……『目』だ。眼球ならば一瞬で破壊出来る上、ほぼ確実に無力化を狙えるじゃないか。
それこそ、聴覚や嗅覚が発達した生物でない限りは、視覚を奪われれば何も出来なくなる。
その後、どうにか急所と思える箇所を破壊しにかかれば問題ない。

月は右手に持った牛刀をダディクールの右目に、左手のスタンガンを首にあてがった。
刃物で片目を潰し、暴れる前にスタンガンで一時的に沈静化して左目を潰す。実に簡単なこと。
念のためにロープで縛り上げる……といった事が出来ればいいが、残念ながら周囲に手頃な紐は見当たらなかったから仕方が無い。
どちらにせよ、視界を奪われた丸腰の相手に不足を取ったりはしない。
落ち着いて、冷静に対処すれば問題なく殺せるだろう。
さぁ、さっさとこいつの右目を…………

………………。

なんとも嫌な気分がした。
心臓がドクドクと波打ち、冷や汗が流れる。
ここでやめられるならやめておきたい、引き返したい。そんな事を考えた。



……どうしたんだ僕は。邪魔な虫を消す事に怯えているのだろうか。
まるで心にブレーキが掛けられているような気分だ。
何を戸惑っているんだろうか、これまでにも何千人と殺してきたはずなのに……。

両手に凶器を構えたまま、1分程その動きは止まっていた。

―――静寂。













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「ダー エイロー ウータイ」
「うわっ!?」

その時しばらく大人しかったファービーが、唐突に朝の挨拶をした。
緊張状態にあったことも相まって月は飛び上がるほど驚く。
さらに眠っているダディクールがピクリと反応を見せた。

急がなくてはいけない。このチャンスを失えば始末することが出来なくなってしまう。
それどころかまた暴れだすダディクールに返り討ちに合う可能性も……。

ここで動かなければ自分が終わる。
理性の枷を外すんだ。右手を振り下ろすんだ……ッ!

―――ツプリッ、と実に呆気なく、小さく音がした。
牛刀の刃は狙い通り、目蓋の上から真っ直ぐに突き刺さる。
硬い眼球の外膜を容易く貫き、奥深くの視神経にまで刃の先端が沈む。

「オグウウゥゥッ!!」

大きく形相を歪め、呻き声が上がる。
パニックで暴れだす前に月はスタンガンのスイッチを押す。
バチバチッと殺虫蛍光灯のような音がして、ビクンッとダディクールの肉体が痙攣した。
すかさず牛刀の刃を引き抜き、今度は左目へと振り下ろした。
刃先はあっさりと飲み込まれ、隙間からドプリと血液が吹き出した。

(や、やった……!)
「ホホフリャ! ウェヒヒヒヒホホホ!」

眼球がくりくりと動いてる感覚が手を伝わる。
追い撃ちをかけるように、月は少し捻りを入れながら牛刀を引き抜いた。
血の混じった透明なゼラチン状の物が飛び出す。ダディクールは両目を抑えながらのたうち回っている。
上手く行ったはずだ……あとは銃や牛刀を使ってどうにか始末すればいい……。

……ああ、一体何なんだ、この体の震えは……。
この息苦しさはなんなのか。この焦燥感はなんなのか。この不快感はなんなのか。
この程度のグロい光景くらいなら耐えられるはずなのに……。
無論、デスノートさえあれば、こんな光景を目にする必要は無かったのだが。

「目の前が真っ暗だ。そして目がとても痛い。どうなってるんだ」

ダディクールが唐突に口を開く。
その口調があまりに落ち着いていたために一瞬呆気にとられる。

「……あぁ、目が潰れている……。そうか、どうやら私は殺されようとしているのか……」

麻薬による幻覚は切れていたようだ……が……。どうしてそこまで理性的でいられるんだ?
殺される危機なんだぞ? 目が潰されたんだぞ? 何故そんな冷静でいられる?
月は56式自動歩槍を構え、フラフラと立ち上がろうとするダディクールへと放つ。

タタタタタタタタ と次々に発射される音が工場内に木霊し、ダディクールの胴に幾つもの穴を穿つ。
次々と銃弾が肉体を通り抜け、その都度ダディクールの体は痙攣したように跳ねる。

「私を殺すにはそれでは足りないよ。何故なら私は妖怪の血を受け継いでいるからね……」

スーツはあっという間に黒く染まり、腹部は蜂の巣のように抉られていく。
それでも彼はクールな笑みを浮かべながら、銃弾が飛んでくる方向へ振り向いた。
閉じた両目から血を流しながら微笑む様子は実に気味の悪いものであった。

「私は妖怪とその他のハーフなんだ。だから普通の人よりも生命力が高いんだよ」

妖怪とのハーフ……。常識的に考えれば信じがたい話である。
しかし、夜神月の場合は『死神』という非科学的な存在を知る者である。
ゆえにダディクールの話をあっさりと納得をする。
その他……に関しては今気にしている場合ではない。

「\ブッ/オナラシチャッタ、ウホホヒヒヒハハハ!!」

銃声が止み、ファービーの声がはっきりと聞こえる。
充填された30発の弾は、瞬く間に全て撃ち果たした。
訪れた静けさの中、ダディクールは語り続ける。


      / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
/⌒ヽ  / ''''''     ''''''   ヽ
|  /   | (●),   、(●)   |
| |   |    ,,ノ(、_, )ヽ、,,     |  私のダディは油すましという立派な妖怪でね
| |   |    `-=ニ=- '      |  何をする妖怪かはよくわからないが、とにかく立派な妖怪だったんだ
| |   !     `ニニ´      .!  でも、そんなダディに対して世間の目は冷たかった
| /    \ _______ /     ついにある時、村はとある坊主にダディを退治するように頼んだんだ
| |    ////W\ヽヽヽヽ\    それでダディは自分が犠牲になる代わりに、私を坊主の魔の手から逃がしてくれたんだ
| |   ////WWWヽヽヽヽヽヽヽ
| |  ////WWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E⊂////WWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E////WWWWWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
| |  //WWWWWWWヽヽヽヽヽヽヽ


「コワイコワイコワイコワイコワイ アッ!!アッオ゛ーーーーーーーーーー!!」
「そんなダディが最後に残した言葉、『クールな男になれ』……私はその意思を受け継ぐことを決意したんだ。」

どこか懐かしそうな、それでいて寂しそうな口調でそう言う。
『ダディ「クールな男になれ」』
―――そして彼は、自らをダディクールと名乗るようになった。

(くだらない戯言を……)
……月はその間にゆっくりとダディクールの後ろに歩み寄り、後頭部をブラックジャックで力一杯に殴り付ける。

「私の生き様を見てくれてどうだった? ダディのようにクールなスーパーマンになれたかな」

後頭部は頭蓋骨の中でも柔らかい箇所。鈍い音が走り、ダディクールが倒れる。
耳から、鼻から滝のように血液が流れ出していく。
しかし、気絶には至らなかったダディクールは、続けて言葉を綴る。

「ねぅ、どう思う? 聞かせてくれよ、ライト君」



―――ライト君。



「僕の名を軽々しく呼ぶな。死にぞこないの化物……!」

名前を呼ばれたことで月は険悪感を露わにして言った。
自分を殺そうとしている相手に対して、それほど呑気に話を持ちかけられる精神が理解できなかった。
お前にとっては裏切りじゃないか。普通であれば怒りを覚えたり、パニックに陥ったりするはずだ。
それなのに、やっているのが僕だと知っているのに、馴れ馴れしく「自分はクールだったか」と問いかける。
あぁ、意味がわからない。どこまでも不気味だ。そんな存在に名前を呼ばれることに、虫酸が走る……!

「……いいか、ダディクール。君は邪魔なのさ。
 君はあのA-10神とか言う脳筋に協力するつもりなんだろう? ひろゆきに楯突くつもりなんだろう?」
「だって、ライト君も言っていたじゃないか。A-10神に協力して、主催者を倒すって」
「ダードゥー ドゥービリラリーラッ♪ バードゥー ディーリリラディ♪」
「あぁ、悪いが僕にはそのつもりはない。下手に怒りを買って首輪を爆破されるリスクを追うのはごめんだからな。
 あの時だってA-10に協力すると言わなければ、僕が撃たれていた。まぁ、せいぜい僕を信用した馬鹿な自分自身を恨むんだな……!」」
「そうか……、私はバカなのか……」
「ゲプッ」

ダディクールは残念そうな顔を浮かべる。

「確かに私はバカかもしれない。クールな男は皆、時としてバカになるからね。そこが悩みさ。
 だから君が"バカを治す薬"を交換してくれた時はとても感謝したよ。私が一番欲しかったものだ。だから君に協力しようと思った。
 私の目的じゃない、君自身の目的に協力しようと思ったんだ。でも君は私の事を信じてくれなかったようだね」
「……耳障りだ。もうお前の御託など聞きたくない!」
「オ ナ カ ス イ ター、フオオオォォォ」

ふざけるなよ。こんな状況でコイツはなんて事を言いやがるんだ。
僕は間違っていたのか? A-10神に大人しく従うようなアホだと判断したのは間違いだったのか?
僕の判断は軽率だったのか? 本当は殺すべきじゃなかったのか?

だが、もうどうしようもないじゃないか……!

「いい加減に死ね! 不気味なんだよ! これ以上僕にグロテスクな姿を見せるな!」

吐き捨てるようにそう叫び、月は牛刀を握り、地面に伏せるダディクールの頚動脈のあたりに振り下ろす。
ゴリリッと硬い感覚が手を伝わる。吹き出た血を浴びる。あぁ、なんだこの気分は。大きな過ちを犯した時の焦燥感。
吐き気がするような生肉の臭い、コンクリートの床に溜まる赤い液体、手に残る『人を殺している』感触。
いつまでこの空間にいなくてはいけないんだ? 僕はいつまでこの苦痛な時間を味わわなくてはいけないんだ?
どうしてコイツは最後までキチガイで居てくれなかったんだ。トチ狂ってくれれば、僕はこんな気分を味わう事はなかったのに……。

くそっ、早く終われ。早く終われ。早く終われ。早く終わってくれ……!

「ナデデシテー! アーメイコーコー!! ファー、ブルスコ、ファー、ブルs」
「五 月 蝿 い ん だ よ さっきから!!」

あまりの鬱陶しさに我慢が出来なくなり、月は怒りに任せてファービーを思い切り蹴り飛ばした。
「モルスァ」みたいなこと言いながらすごい勢いで飛んでいき、壁に思い切り叩きつけられ、その後声を出すことは無かった。

「どいつもこいつも僕の計画の邪魔ばかりしやがって……!!! どうして思い通りに行かない……!!」
「私は最後までクールに馬鹿を貫くつもりさ。でもライト君も私に負けず劣らずバカなところがあるみたいだ。
 それでいてNot Coolだよ、ライト君。そんな君に、私からCoolな言葉を残そうじゃないか」

ダディクールはおもむろに、右腕を天へと突き上げて拳を握る。



      _,,../⌒i
     /   {_ソ'_ヲ,
    /   `'(_t_,__〕  I'll be ...
   /     {_i_,__〕
  /    ノ  {_i__〉
/      _,..-'"
      /



       /j^i
      ./  ;!
     /  /__,,..
    /  `(_t_,__〕
    /    '(_t_,__〕  back!
   /    {_i_,__〕
  /    ノ  {_i__〉
/      _,..-'"
      /




「黙れええええぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」

直後、牛刀の刃がダディクールの喉を切り裂く。
声帯を破壊され、彼はそれを最後にもう言葉を発することは無かった。

抵抗を見せないダディクールの両手、両足を切り裂く。さらに露出した骨をへし折る。
肉だるまとなった男の頭蓋骨を叩き壊し、そこに詰められた脳みそをグチャグチャにぶちまける。

【ダディクール@AA 死亡】
【残り 50人】

さらに首を完全に切断する。耳を引き裂き、そこに思い切り刃を突き刺して鼓膜を破る。
肋骨の隙間に刃を差し込み、心臓の辺りを重点的に何度も突き刺す。
……月はそれでもまだ、コイツが生きているような気がしてならなかった。
I'll be back……アイツの最後の言葉は冗談に思えなかった。この姿で蘇り、僕の寝首をかきにくる気がした。
だから完全に安心出来るまで、この行為を止めることが出来ない。

彼はバーナーを取り出して散らばったパーツを焼いていく。
内臓や肉が焦げる臭いが工場の一角に充満していった。

やがて、ダディクールだったものは、黒く炭化した肉塊となって辺りに散らばっていた。



 ◆



「ハァ……ハァ……」

汗と返り血が混じった液体が、頬を伝って滴り落ちていく。
完全に生き物では無くなった物体を眺めて、湧き上がる感覚に酔いしれる。
やっとだ、やっとこいつを始末できたんだ。やった……やった……!
そうだ、ついに死んだんだ。クソッタレの邪魔者を排除出来たんだ。僕自身の力で……!

「ハ、……ハハ……!」

        .〃:.:.:.l/:.:/:.:.:.;':.:.:.:.:.:.:|:.!:.:.:.ヽ.:.:..:.:.::\|:.!.:.:..:.ヾ:..:. l:.:..:`.
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      .,'.:/:.l:.l∧:V:.:|:/l:./ Vヘ\|:!:\:.|`丶、ー=:ミl:!.:.:.:.\!..:.l..:.:..:.:..:.',
      .,':.:'.:.:.!:.V∧V://!:'_  .Vヘ l:ト、:.:.:ト、:..:/≧.、l|ヽ、:.:.:!:.:.l.:.:.:.!:|.:.:.',
    .,::.;.:.:.:.|、:.V∧∨ l;仁≧ミ ヽ|lハヽ:.lヾX >==<、:.\:.|:.:.l\ l.:!:.:.:.',
     .l:.:!:.:.:.:l∧:.V:.ゝミ,《 (:い:)ヾゝl!=メ{{、イ,イ{ (:い:) .》`メ、Y、:l:.:.:.:.!:|、:.:.:l
     .|:.l:.:.:.:.l':∧:.\ :.ヽミ≡彡 .,イ 、  ヾ  `ミ≡彡'" //:!:.ハ:.:.:.:l:l.、:.、:!
     .| ト:.:.:.:l:.: ∧:.:.:ヽ「     人: : ` .        /;ハ!:.l:.}:.:.:.!:l:.:.:.、ヽ
     .|:l.!:.:.:.:!:.:.l、.:\:.:.ヽ.     (::ノ::): :ヽ :)        / .|:/ノ.:.:.:.}:l:.:.:.:.ハ}
    .l八:.:.:.!:.:.|.:、:,人⌒        ヽ  ´          lハ:.:.:. ハl.:.:.:.:|
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         !ヽ:.:\!.   ヽー'´:::::::::::::::::::::::`丶く|      リ/ィ:.:.: !.,′
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              |:.  :. \         ,ィ.:.:.:.:.:.:'   :.:l!ハ!
             」:.:.. :.   ` ー = イ:.:.:.:.:.:.:.:,'   :.:.r 、|
             _, イ7 ! :.:.:. :.:.   :.::.:.:.:.:..: ' " .:.:.:,'    >  ト ._
        ._, イ:::::::::::〉 `ゝ、 :.::.:.  ´" "´  .:.:.,:´ _. <     |:::::::>..、
   _ , イ::::::::::::::::::::/    ` <:.:..     .:.:.,' イ´         !:::::::::::::::::`ヽ、

「アハハハハハハッ、アーーーーッハッハッハッハッハハハハハハハハ!!!!! アハ……」



………………。



……月は込み上げてきた嘔吐感を耐えられず、その場で吐き出した。
周囲に漂う死臭、焦げた肉の臭い、そして地獄のような惨状。
只でさえ常人には耐えられない光景……しかし、月を苦しめる要因はそれだけでは無かった。

まるで心臓を握り潰される ような感触、息が苦しく、それでいて頭を掻き毟りたいような衝動。
取り返しの付かない事をしてしまったという『罪悪感』。
数年前、最初にデスノートを手にして、渋井丸拓郎を殺した時以来、一度も抱かなかった感覚。
それが今、自分の精神を蝕んでいる事が、彼には信じられなかった。

自分はこれまでに、いったい何人の犯罪者を殺してきたのか。
今更、人を殺すことに罪悪感を抱くなど、普通では考えられない。


……月は思考する。
自分を苦しめている原因を。
普段の裁きと何が違うのかを。

「…………」

決定的に違うのは殺し方である。
これまでの月はデスノートを使って殺人を行なってきた。


ノートに対象の名前を書く。
するとその人物は心臓麻痺で死ぬ。
死因を書けばその通りに死ぬ。
どんな殺し方を望もうとも、自分がやる事はペンを走らせるだけ。

今回のように凶器を持ち、直接攻撃する必要なんて一切無い。
心臓麻痺や病死、事故死によって殺すことが、キラが犯罪者に裁きを下す方法なのだから。


「……あぁ、そうか。みんな"キラ"が殺していたからか……」


そして月は気が付いた。
自分自身が人を殺したと痛感したのはこれが初めてなのだと。
自らの手で『人を殺す』行為の重さをまだ知らなかったのだと。

たとえ、どれだけ世界にとって不要な、腐った悪党の命であろうと、その十字架を一人の人間が背負いきれるはずがない。
僕だけがその重荷を背負えると、精神を犠牲にしてでも裁きを行えると過信していたが、それは違ったんだ。
いつの間にか、僕はその十字架を"キラ"と言う"夜神月"とは違う別の存在に押し付けていたんだ。
ノートに名前を書く、たったそれだけの行為で『自分が命を奪っている』感覚を実感出来るはずが無い。

だから、"夜神月"自身が殺人を犯し、その行為の重みをまともの背負わされたのは初めてなんだ。


さらに、ダディクールは真の意味での『悪』では無かった。
ただの愚か者であり、邪魔者。しかしこういう状況とは言え、そういった人物を殺すことに罪悪感を覚えないはずがない。
彼は冷静に語った、肉を断たれる苦痛を、裏切りに対する悲哀を、そして生きている間は自らを貫こうという意思を……。
『神の裁き』であれば、『それも神の意思であり、運命だった』と割り切ることが出来ただろう。
だが、手を下しているのが月自身なのだ。その姿は月の心を大きく揺るがせた。

しかし、眼球を潰した時点から引き返せる状況は既に過ぎていた。
それがすぐに終わってしまえば、まだ受ける精神的ストレスは少なくて済んだ。
だが、ダディクールの妖怪譲りの高い生命力は長時間、月に鬼畜の所業を強いる結果となった。
ゆえに月は『自らの手で殺人を犯している』という意識を長時間味わう事となり、その映像ははっきりと、いや、それ以上に脳内に焼き付けられる事となる。

それじゃあ、自分は何だったのだろうか。
僕は神を目指すつもりが、神を別の存在としt……

その時、彼の精神的ストレスが限界に達した。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ
 ああああぁぁあぁあぁあぁあ あぁあぁああぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああぁぁあぁあぁああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああぁぁぁぁあぁあぁああああああああああああああああああああああああ
 あああぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁあぁあぁあああああああああぁあぁあぁあ あぁあぁああぁあああああああ
 ぁぁぁあぁあぁあ あぁあぁああぁあああああああああああああああああああぁぁぁぁあぁあぁあああああああああああぁぁ
 あああああああぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁあぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁあぁあぁああぁぁぁぁ
 ぁぁあぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

血塗れとなった自分の両手を見て、月は絶叫する。
ダディクールの気色の悪い顔がぐちゃぐちゃに潰されていく光景が浮かぶ。
そして、そんな非道な行為を行なう自分の姿が……。

「ふざけるなぁあああぁぁぁぁぁ!!! 何故僕がこんな……こんな事をッ!!! こんな無様な真似を!!!
 僕は新世界の神だ!!! キラだッ!! 僕がこんな狂った世界にいるなんておかしいじゃないか!!!
 帰らせろよッ!!! こんな場所にいてたまるかッ!!! 絶対に殺してやるからなひろゆきいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!
 デスノートを寄こせッ!! リューク、早く出てこい!!! デスノートを、デスノートをさっさと渡すんだああああァァァァ!!!!」

彼は叫ぶ。
神の発言とは思えないような、人間の本音をぶちまける。
その姿はどこまでも無様で、滑稽で、哀れなものであった。
しかし、ただ一つの救いは、それを見るものが誰もいなかった事だろうか。
砂糖工場の中心で、たった一人で彼は狂気を曝け出していた。



 ◇



数十分が経過する。
時間と共に徐々に冷静さを取り戻した彼は、自分とダディクールのデイパックを拾い上げる。
その場から離れて、彼はロッカールームを探し出して入っていく。
血濡れとなったスーツを脱ぎ捨て、備え付けの洗面所の蛇口をひねり、自分の体に付いた血を洗い流す。
ロッカーを次々に開けていき、作業着を見つけ出してそれに着替える。
無表情で、機械的な動作でそれらを行なった。

「これでいい……。早く忘れるんだ……」

あれは仕方の無い犠牲だった。
全ては殺し合いが生んだ犠牲であり、恨まれるべきは主催者のひろゆきなのだ。
僕が殺したのはトチ狂った化物。襲われたので返り討ちにした。正当防衛だ。

「これでいい……。僕は間違いを犯していない……」

砂糖工場を出ると、朝の日差しが視界を強烈に照らした。
先ほどの地獄のような時間は全て、悪夢だったように思えた。

早く殺し合いに乗っていない参加者を探そう。情報を集める必要がある。
それに、今の自分には十分な武器がある。銃こそ使い果たしたものの、闇討ちにさえ気を付ければ対処出来る。

「これでいい……。何事もなかった様に、最初に決めた目的を果たせばいい……」

そう言って彼は顔を上げた。
その顔は、本当に何事も無かったかのように、凛としたいつもの表情であった。
少なくとも表向きには、普段通りの夜神月でいられる。それだけのスキルは持ち合わせていた。

ただし、極度のストレスによって一度砕けた心は完全に元通りには戻らない。
どれだけ体裁を保とうとしても、知覚出来ない部分では綻びが起きているのかもしれない。
その傷が今後もう一度開いてしまう時が来るかどうか……、それは神ですらもわかり得ないことである。



【D-4・砂糖工場周辺/一日目・朝】

【夜神月@AA(DEATH NOTE)】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、あちこちに打撲
[装備]:牛刀@現実、スタンガン@現実
[道具]:基本支給品×2、PDA(忍法帖【Lv=01】)、ダディクールのPDA(忍法帖【Lv=00】)、zip画像ファイル@画像も張らずにスレ立てとな、56式自動歩槍(0/30)@現実、ブラックジャック@現実、ガスバーナー@現実、毒霧の杖@斬撃のレギンレイヴ
[思考・状況]
基本:殺し合いからの脱出
1:脱出目的を持つ参加者か、A-10神を倒せる善良な参加者を探す。
2:バトルロワイヤル板に乗る名前の大半が偽名だと予想。自分の名も偽名表示にする方法を探る。

※工場作業着に着替えました。
※ファービーは昇天しました。ダディクールの死体の側に放置されています。

※3時間後に禁止エリアになる箇所の探索については、現時点では忘れています。


《支給品紹介》
【ブラックジャック@現実】
砂糖工場内の調達品。
殴打用の武器。袋状の革の中に鉄の塊が入っており、振り回した遠心力で殺傷する。

【ガスバーナー@現実】
砂糖工場内の調達品。
携帯式のガスバーナー。高熱の炎で物体を焼けるが、距離が短いため武器としては難しい。

【毒霧の杖@斬撃のレギンレイヴ】
1行目で「妙な杖」と呼ばれた調達品。
王笏に分類されている杖。杖先から毒霧が噴射されるが、見た目は酸に近い。
威力もほかの武器と比べて高いわけではない。ネタに分類されてる模様。

80話時点 現在位置地図


No.79:涙の中にかすかな灯りがともったら 時系列順 No.81:迷える心
No.79:涙の中にかすかな灯りがともったら 投下順 No.81:迷える心
No.61:最高に『廃!』ってヤツだ! 夜神月 No.90:神は死んだ/俺が殺した
No.61:最高に『廃!』ってヤツだ! ダディクール 死亡

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