絹を裂く音

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絹を裂く音」(2014/08/08 (金) 22:19:30) の最新版変更点

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<p>絹恵「おねーちゃん、京太郎君と遊んだんやって?」</p> <p> </p> <p>洋榎「おー! USJのハリポタ行ってなー。一日かかったわー」</p> <p> </p> <p>クシャリと二つ、チケットが折れる。大事に大事に見つめていたはずのソレを、握りしめて。</p> <p>妹の表情をうかがい知ることは、背後に立つ姉にはできず、妹も激情に歪む顔を見せることは無い。</p> <p> </p> <p>洋榎「あのアホなーんも調べとらんから、結局ウチが引っ張ってな? 絹とデートに行く時にはきちんと調べなアカンって釘さしといたわ!」</p> <p> </p> <p>絹恵「……そう。おねーちゃん、うちらが今度、それ行くって知っとった?」</p> <p> </p> <p>祈るように、耐えるような色を滲ませた言葉。</p> <p>けれどそれに気付くにはあまりにも、姉は色恋を知らず。</p> <p> </p> <p>洋榎「へっ!? そーやったんか…いやー、ごめんっ! 堪忍な…でも今度行く時は須賀がリードするさかい、楽しめると思うで?」</p> <p> </p> <p>絹恵「…………うん」</p> <p> </p> <p>洋榎「お! そうそう、こないだ須賀と飯食いに行った時な。嫌いなもん分かったで! あのアホ――」</p> <p> </p> <p>絹恵「おねーちゃん」</p> <p> </p> <p>洋榎「え? あ、どしたん?」</p> <p> </p> <p>強く、強く。赤色が滲む手の平と、四本の爪のあと。</p> <p>立ち上がろうと床を踏みしめる足を押さえつけ、振りかぶろうとする腕を押さえつけ。</p> <p>出てきた言葉は。</p> <p> </p> <p>絹恵「――アホやなー、おねーちゃんは。彼女のうちより二人っきりで行ってどうすんねん! あはは…」</p> <p> </p> <p>洋榎「あー! しまった! ほんま堪忍な、絹…きっちりウチみたいにガサツやない絹の良さを教えとくさかい、安心してや!」</p> <p> </p> <p>絹恵「そーゆー問題ちゃうんやけどなー……あ、お風呂わいとるし入ってきてな」</p> <p> </p> <p>洋榎「おお、ほんま? そんなら入ってくるわ! おっふろー、おっふろー」</p> <p> </p> <p>姉の姿は消え、音は消え。代わりに水を打つシャワーの音がリビングまで響く。</p> <p>妹の指は白く固く、手の平を抉るように。二枚のチケットは引き裂かれ、ゴミとなって床へと叩きつけられる。</p> <p> </p> <p>絹恵「……」</p> <p> </p> <p>絹恵「ふっざ、けんなや!」</p> <p> </p> <p>絹恵「なんで! うちに言わんと二人っきりで行くんや! おかしいやろ!?」</p> <p> </p> <p>絹恵「ああ…クソッ! くそ、あのアマ…ふざけんなやぁ!」</p> <p> </p> <p>冷たいガラスの割れる音。熱いシャワーの叩く音。</p> <p>二人の心の温度の差が、音となって響きあう。</p> <p>ギシリギシリと軋みながら。崩れ、割れて、傷つけ合う時を待ちながら。</p>

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