ホットライン。over18

電話越しの声。聞き慣れた声が向こうから響く。

 

『おーい、聞こえてるか?』

 

私を促す声。早く、早く答えないと。

 

「っ、大丈夫。ちゃんと聞こえてるから」

 

うん、ちゃんと聞いてる。けれど聞いてるのは他の女の子の事で盛り上がる話じゃなくて、アンタの声。

名前も顔も知らなくて。ホントに高校生かすら知らないけど。

 

『そっか。そうそう、昨日ソイツと映画見に行ったんだけどな』

 

思わず力が入って、指が沈む。自分の指なのに突然分け入ってくるソレが、電話相手の指に思えて。

 

「ひっ! あ、ぅ…」

 

ゾクゾク背中を走る感覚に、ぎゅうっと締め付けてしまう。漏れてしまった声は、きっと濡れきっていたけれど。

 

『? おいおい大丈夫か? 調子悪いならもう切った方がいいか?』

「まっ! 待って、大丈夫だから…」

『そーか? それならいいけど…少しでも体調悪くなってきたら言ってくれよ』

 

荒くなる息を押さえ込むように、携帯をそっと口から離す。でも私を心配してくれる声を遠ざけたくない。

奥へ奥へ、入りたがる指と頭に響く声に泣きたくなるくらい。

 

「うん…あ、りがと…映画だっけ。私も行きたいな…」

 

アンタと。

言葉にしては言えないから、心の中で思うだけ。

 

『おー、いいんじゃないか? 今やってるアレ、ほんと面白かったぜ。行ってみろよ』

 

ああ……一緒には行ってくれないんだな、って。当たり前の事なのに、やっぱり泣きたくなった。

 

「うん…そうする。それじゃまた、明日ね」

『おう。また明日』

 

こんな約束、ただの口約束。電話の相手なんていつ面倒になられてもおかしくないのに。

たったこれだけの約束が嬉しくて、昂ぶってしまう。

…うん、電話はちゃんと切ってある。もう…いいよね。

 

「う、あああっ! ひっ、ん…うぅああああ!」

 

どんな顔をしてるのかは分からないけど、見られたら幻滅されちゃうんだろうな…

それでも止められない。

一番大きい波が来て、終わってからベトベトの手を見ても、私の口端は嬉しそうに歪んだままで。

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最終更新:2014年08月08日 21:50