絹を裂く音

絹恵「おねーちゃん、京太郎君と遊んだんやって?」

 

洋榎「おー! USJのハリポタ行ってなー。一日かかったわー」

 

クシャリと二つ、チケットが折れる。大事に大事に見つめていたはずのソレを、握りしめて。

妹の表情をうかがい知ることは、背後に立つ姉にはできず、妹も激情に歪む顔を見せることは無い。

 

洋榎「あのアホなーんも調べとらんから、結局ウチが引っ張ってな? 絹とデートに行く時にはきちんと調べなアカンって釘さしといたわ!」

 

絹恵「……そう。おねーちゃん、うちらが今度、それ行くって知っとった?」

 

祈るように、耐えるような色を滲ませた言葉。

けれどそれに気付くにはあまりにも、姉は色恋を知らず。

 

洋榎「へっ!? そーやったんか…いやー、ごめんっ! 堪忍な…でも今度行く時は須賀がリードするさかい、楽しめると思うで?」

 

絹恵「…………うん」

 

洋榎「お! そうそう、こないだ須賀と飯食いに行った時な。嫌いなもん分かったで! あのアホ――」

 

絹恵「おねーちゃん」

 

洋榎「え? あ、どしたん?」

 

強く、強く。赤色が滲む手の平と、四本の爪のあと。

立ち上がろうと床を踏みしめる足を押さえつけ、振りかぶろうとする腕を押さえつけ。

出てきた言葉は。

 

絹恵「――アホやなー、おねーちゃんは。彼女のうちより二人っきりで行ってどうすんねん! あはは…」

 

洋榎「あー! しまった! ほんま堪忍な、絹…きっちりウチみたいにガサツやない絹の良さを教えとくさかい、安心してや!」

 

絹恵「そーゆー問題ちゃうんやけどなー……あ、お風呂わいとるし入ってきてな」

 

洋榎「おお、ほんま? そんなら入ってくるわ! おっふろー、おっふろー」

 

姉の姿は消え、音は消え。代わりに水を打つシャワーの音がリビングまで響く。

妹の指は白く固く、手の平を抉るように。二枚のチケットは引き裂かれ、ゴミとなって床へと叩きつけられる。

 

絹恵「……」

 

絹恵「ふっざ、けんなや!」

 

絹恵「なんで! うちに言わんと二人っきりで行くんや! おかしいやろ!?」

 

絹恵「ああ…クソッ! くそ、あのアマ…ふざけんなやぁ!」

 

冷たいガラスの割れる音。熱いシャワーの叩く音。

二人の心の温度の差が、音となって響きあう。

ギシリギシリと軋みながら。崩れ、割れて、傷つけ合う時を待ちながら。

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最終更新:2014年08月08日 22:19