地獄温泉

玄「京太郎くーん、入るねー?」

 

京太郎「いやいや入るねじゃなくて…もう隣に来てるじゃねーか!」

 

早い。早すぎる。

脱衣所から声が聞こえたと思ったら隣に居た…まるでホラーではなかろうか?

 

玄「むふー、旅館の娘として脱衣はお手の物なのです!」

 

玄「京太郎君も後で帯回してみる? くるくるーって」

 

京太郎「それって旅館じゃ当たり前なんすか?」

 

しかし…風呂で水着ってのはなんか違和感がある。着といて正解だったけど、正直不思議な抵抗感を感じてしまう。

追い出すのもなんだし…こういう雑談も必要だよな。

 

玄「そうかなあ…私たちはたまに水着で入るよ? お父さんとか…前は旅館の人とか一緒に入るときに」

 

京太郎「へえー、それは楽しそうっすねー」

 

身体が沈む。男は黙って熱湯みたいな風潮は良くないと思う。

ぬるま湯に体を沈めてこそ癒しだろ…はぁー…いい。家族風呂、実に良い。

 

玄「……むー」プクー

 

京太郎「なんですかぁー玄さん、フグの真似ですかぁー」

 

玄「…気にならないのかなぁ。それって男の人? とか…」

 

京太郎「? なにがです?」

 

質問の意図が理解できん。主語、大事です。

 

玄「……いいもん、ばかちん」

 

あ、玄さんも沈んだ。口元沈めてフグみてえ。

 

 

 

京太郎「そういえば宥さんは?」

 

確か、なんかあの人も一緒に入る的なことを言ってた気がする。意味がわからないけど。

 

玄「おねーちゃんは家族風呂はぬるいから…入ると寒いんだって」

 

マジであの人、どんな環境に適応してんだ。

 

玄「……そーっと」ススス

 

京太郎「……」ススス

 

玄「…何で逃げるの?」

 

京太郎「嫌な予感しかしないんで」

 

少なくとも目線が下を向いてる内は近寄らせない。自己防衛ってやつだな。

 

玄「じゃあ、何もしないなら隣に行ってもいい?」

 

京太郎「まあ何もしないなら、いいですよ」

 

玄「それじゃ…よいしょっ」

 

なかなか可愛らしい掛け声である。立ち上がれば胸元から溢れるお湯が、滝のように落ちて行った。

やっぱり大きいよな、この人。思わず目が行くのは男のサガ…仕方ないしかたない。

 

玄「えへへ、お邪魔しますっ」

 

何がそこまで嬉しいやら。にこにこと笑みを浮かべて寄ってくる玄さんは、少しだけ隙間をあけて腰を下ろした。

 

玄「ねえ見て? あっちのほう、凄い景色なんだよ」

 

京太郎「へえー。それなら家族連れにもいいですよね」

 

玄「そうかな? 女湯なんだけど」

 

京太郎「一番見えちゃいけない奴!……う」

 

玄「えへー」ポヤー

 

京太郎「…嘘つきは良くないっすよ」

 

玄「目を逸らしちゃだめー。こっち見ててね?」

 

なら、それを隠してほしい。

黒髪を上げて、少し赤みを帯びたそれを。

 

玄「京太郎君は、首筋がダメなんだもんねー…えへへ」

 

京太郎「…近すぎませんか」

 

玄「うりうりー、くびすじー、どうだー」

 

地獄温泉、ここに極まれり。

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最終更新:2014年08月08日 23:03