「須賀君」
「和」
部室に独り、同級生が座っていた。
いつものことだけどな…誰よりも早く部室に来て、俺を待ってる。
「飯は食べたか? 飲み物は?」
「何も。いつも通り手は付けましたけど、全部戻しちゃいました」
浮かべる笑顔はいつもの綺麗な笑顔。同級生の男子一同が見惚れてる、原村和の笑顔なんだ。
「水、飲んどけ。あとこれも食べとけよ」
「はい」
言いながら手も伸ばさないのはいつものことだ。にこにこと笑みだけを浮かべて、何もしない。
「…口、開けろよ」
「はい」
まるで鳥の雛みたい…今更だな。これだって毎日繰り返してることじゃないか。
俺が食べさせないと、飲ませないと水分すら取ろうとしない。
こうやって部活の前に飲みこませて、終わるまで監視しないと後で戻すかもしれない。
「須賀君。いいんですよ…もう、私の事なんて気にしなくても」
咀嚼と嚥下。生きるのに必要なそれは和にとって、俺に言われたからしてることなんだ。
いつからだったかなんて覚えてないけど、毎日毎日言わないと、きっと和は何もしない。
ただ座ったまま、目が覚めているようで眠っているようで、何だってせずに終えていく。
「和」
「はい」
「いつもみたいに生活して、明日も学校に来いよ」
「はい」
和は笑っている。穏やかに、幸せそうに。
俺に自分の命を押し付けて、本当に幸せそうに笑っていた。