家出のどっち

京太郎「そろそろ帰ろうぜ、もうだいぶ遅いし」

 

和「ああ…こんな時間ですか。夏至だと陽が長くて感覚が信用できませんね」

 

咲「それじゃあ行こっか…あ! 本! 今日発売日だった…ごめんみんな、先に帰るね!」

 

京太郎「ん? おう…」

 

優希「おお! そういえばそうだったじぇ、私も買わなきゃならないのがあるから、お先に失礼だじぇ!」

 

和「そうでしたね。それではすみませんが須賀君、片づけを手伝ってもらえますか?」

 

京太郎「ああ、りょーかい」

 

 

京太郎「あの二人、何の本買うんだろうな。漫画か?」

 

和「いえ。咲さんは『蹴って踏みたい背中』、ゆーきは『手作りお菓子、ガラナ版』だと思います」

 

京太郎「へえー、それは是非とも読みたくないな」

 

和「そうですね…あ、ここが須賀君の家ですね」

 

京太郎「おう。んじゃまたな」

 

和「はい。それでは」

 

ガチャ…バタン

 

和「お邪魔します」

 

京太郎「うん、ナチュラルに一緒に入ったけど何故に?」

 

 

 

和「ええと…有体に言えば家出ですね」サラリ

 

京太郎「っはあ!? 何言ってんだよ…なんかあったのか?」

 

和「……」

 

京太郎「和…」

 

和「聞いて、くれますか? 馬鹿にしたりしないで、聞いてくれますか…」

 

京太郎「…絶対しないよ、約束する。何でもできる訳じゃないけど、できることなら俺に任せてくれよ」ナデナデ

 

和「はい…ありがとうございます」

 

 

京太郎「これ、お茶しかなくてゴメンな」

 

和「いえ。部屋まで押しかけてしまって…」

 

京太郎「えーと…親は居ないけど、一応ドアは開けとくから」

 

和「ふふっ、そんな、妙な気を使わないでください…それより、家出の理由なんですが」

 

京太郎「ああ…どうしたんだよ?」

 

和「……簡潔に言いますね。あまり長く言っても分かりにくいだけなので」

 

和「とどのつまり……」

 

京太郎「……」ゴクリ

 

和「母と、ゴムの色は赤か青かで争いになりまして」キリッ

 

京太郎「うーん、この空気の落差いい加減にしろ!」

 

 

 

和「それで一晩泊めさせてくれませんか?」

 

京太郎「それが男の家に泊まる理由になるとでも思っているのかなー?」

 

京太郎「だいたい、親御さんが許さないだろ…」

 

和「…もしもし? ええ、今須賀君の家にいるのですが…はい、泊まらせていただこうかと」

 

京太郎「ちょっ!」

 

和「はい? いえ、ご両親は居ないとのことで…はい、はい。それでは」

 

和「母が『全然おっけーだから既成事実でも作ってきたら? これは言わないでおいた方がいいわね、三つ指折って夜まで大人しくしときなさいねー』とのことです」

 

京太郎「ホントに喧嘩してたんかい…っつーか母親も母親だけど、和も超素直!」

 

 

 

和「お世話になります」フカブカー

 

京太郎「いや…もういいけどさ。別に俺の部屋にいなくても…リビングでテレビでも見ようぜ」

 

和「いえ、私は須賀君の部屋に居たいので…邪魔でしたらもちろん、部屋から出ますが」

 

京太郎「邪魔ってワケじゃないけど。俺の部屋だと、漫画くらいしかないぞ?」

 

和「漫画も興味がありますから。須賀君のおすすめはありませんか?」

 

京太郎「それなら…これかな」

 

和「これですか…独特な絵ですね」

 

京太郎「まあなあ…内容は、俺は好きなんだけど。もっとすっきりした絵だとこっちとか」

 

和「いえ。こちらを読ませてもらいますね。せっかくなので、須賀君が好きなものを知りたいですし」

 

京太郎「? そっか。まあくつろいでくれよ」

 

和「ありがとうございます…」チョコン

 

 

京太郎「……ん?」チラッ

 

和「……」ペローン

 

京太郎「和、スカートめくれてるぞ」

 

和「あら…すみません」ササッ

 

和「パンツを穿いてきた覚えはなかったのですが…朝は急いでましたからね」

 

京太郎「その言葉はどこかおかしいと思わないのかね、和さんや」

 

 

 

和「あのう須賀君…正座しないといけませんか?」

 

京太郎「スカートを直した直後にM字を取ろうとしたお前を、俺は信用できん」

 

和「そうですか…いえ、命令されて強制されるのもいいんですけどね」

 

京太郎「ほんっとタダでは転ばないっていうか、そもそも転ばないよな…」

 

 

京太郎「……」ペラッ

 

和「……」ペラッ

 

京太郎「あ、そうだ和。俺ちょっと薬局行ってくるわ」

 

和「そうですか。家人でない私が残るのもなんですし、一緒に行きましょうか?」

 

京太郎「別にいいって。和が変な事するとは思わないし」

 

和「ふふ、ありがとうございます。信頼に違わないよう気を付けますね」

 

京太郎「ああ。それじゃ行ってくる」スクッ

 

和「あ、それと須賀君」

 

京太郎「ん? なんか欲しいもんあるか?」

 

和「欲しいというより…赤でお願いします。青はあまり好きじゃありませんので」

 

京太郎「ワックスだよ! 言葉足らずで悪かったですぅ!」

 

 

 

和「…あら? これは洗濯物でしょうか」

 

和「畳んでありませんね。皺になってしまうでしょうか…」

 

和「ここはお礼代わりに畳んでおくのが良いかもしれませんね」

 

和「それとも、体で返すべきでしょうか…どうしましょう。初めてなんですが」ウーン

 

和「…ここで悩んでも仕方ありませんね。とりあえず畳むとして…あら?」ペローン

 

和「これはパンツ、というよりトランクスですか。大きいですね」マジマジ

 

 

京太郎「いやー…さすがに財布忘れるとか、少しビビったわ」ガチャッ

 

和「あ、須賀君」

 

京太郎「……和?」

 

和「いえ、これはトランクスの履き心地を確かめようかと思いまして。スースーしてなかなか良いですね」ハフゥ

 

京太郎「咄嗟になんも言えないのは久しぶりだなー…とりあえず脱げ、いや脱ぐな! 俺が出てくまで絶対脱ぐなよぉ!」

 

 

 

京太郎「あ…そろそろ時間ヤバイな。和、飯どうする?」

 

和「私はなんでもかまいませんが…須賀君は何かありますか?」

 

京太郎「いや何も考えてないけど。肉じゃがとか作ろうかね」

 

和「素敵ですね。お手伝いします」

 

京太郎「いや、別にいいって。人んちのキッチンって使い慣れないだろ?」

 

和「そうですが…泊めて貰う立場ですから」

 

京太郎「俺にとってはお客さんって立場なの。いいから待っててくれよ、できたら呼ぶから」

 

和「はい…ありがとうございます」

 

 

 

京太郎「うしっ、それじゃ醤油に砂糖、みりん…味の素もいってみるか。こんなもんだろ」

 

京太郎「おーい和、悪い、待たせたなーってうお!? すげえ綺麗になってる!?」

 

和「あ、須賀君。洗面所に掃除道具があったので、各所お掃除させてもらいました」

 

京太郎「お、おう…すっげ、埃の一つもないぞ…隅から隅まで綺麗になってるし」

 

和「ええ…隅々まで綺麗にしたんですが、トレジャーの一つも見つからなくて」ガックリ

 

京太郎「うーん何しとるんじゃと言いたいけど、ありがたくてなんとも言えん…!」

 

 

 

京太郎「まあいいか…とりあえず食っちまおうぜ」

 

和「そうですね…それでは、後片付けは任せてください。皿洗いから壺洗いまで」

 

京太郎「あーわりーわーマジでウチ壺とかねーからー」

 

和「ちょっとツッコミが粗雑ですよ」

 

どないせーと。

 

和「いただきます」モグモグ

 

京太郎「どうだ?」

 

和「とても美味しいです。相変わらず料理がお上手ですね…」

 

京太郎「そっか、良かったよ。こういうのって個人差っつーか好みがあるからな」

 

和「そうですね…ということは、私の好みと須賀君の好みは一致しているということでしょうか?」

 

京太郎「まあそうなるのかね」

 

和「そうですか…ふふ、相性バッチリですね」

 

京太郎「だなあ」

 

和「須賀君も露出と匂いと汗と玩具とお尻とおもちとシチュ系と素人系が好きでM体質だなんて」ポッ

 

京太郎「多い多いおおいっつーかそういうカミングアウトいらねー!」

 

 

 

京太郎「ったく…ほい、麦茶。麦茶で良かったか?」

 

和「ええ、もちろん。私も麦茶は好きですから…飽きるという人もいますが」

 

京太郎「ああ、居るな。俺は全然飽きないっつーか夏の間は麦茶でいい方かな」

 

和「私もです…それにしても、そう思うと麦茶は凄いですね」

 

京太郎「なにがだ?」

 

和「一つの味で一夏の間、飽きられないだなんて…どれだけ名器なんでしょうか」ゴクリ

 

京太郎「その扱い方は違うんじゃないかなあ」

 

和「…確かに、良く考えたら一夏のアバンチュールですから、ただのヤリマ、ごほっ!」

 

京太郎「よくムセた! グッジョブ! 大丈夫か?」

 

和「けほっ…私への気遣いは後回しですか…いえ、そういう扱いもいいんですけど…けほっ」

 

 

 

京太郎「……」ボーッ

 

和「……」ポケー

 

京太郎「暇だな」

 

和「暇ですね。こういう時は何をすればいいんでしょうか…須賀君は友人との暇つぶしは何を?」

 

京太郎「漫画とかゲームだけど、和は?」

 

和「私は麻雀か猥談ですね、特にゆーきや引っ越された先輩と。クラスメイトなどなら卒業アルバムを見たりとか」

 

京太郎「前半かんっぜんにいらねーから、今度から同じこと聞かれたら後半だけ答えろよ」

 

 

 

京太郎「っと、風呂が沸いたっぽいな」

 

和「そんな音がしましたね。どうぞ、家の方から入ってください」

 

京太郎「んー…俺は別に後でもいいんだけど」

 

和「あら…私のエキスの染み込んだお湯に飛び込みたいんですね? わかりました、しっかり出してきます」ガタッ

 

京太郎「すまん、遠慮せずに俺から先に入らせて貰おうか」

 

和「そうですか…それじゃあ私は須賀君のエキスの染み込んだお湯を堪能しますね」ハアハア

 

京太郎「どっちに転んでもダメだった!」

 

和「…だったら一緒に入ればいいのでは?」ポッ

 

京太郎「えぇー…そこで赤くなるのは予想外なんだけど…」

 

 

 

和「…それはともかく、やはり先に須賀君からどうぞ。私は髪を洗うにも時間がかかりますから」

 

京太郎「あー、そっか。そうなると大変だよなあ…じゃあ先に入るわ」

 

和「ええ、ゆっくりと入ってきてください」

 

京太郎「うーす」スタスタ

 

 

 

 

ガチャッ

 

和「あら、お早いお帰りですね」ポッ

 

京太郎「おいおいそのYes/No枕、今の間に準備したの? すげーなオイ」

 

 

 

和「けれど随分お風呂が早いですね…カラスの行水は体に悪いですよ」

 

京太郎「そーか? だいたいこんなモンだけどな…あんま長く入っても疲れるし」

 

和「難しいですね。須賀君がお風呂でどんな風にしているか、詳しくお聞きしたいところですが」

 

京太郎「そんな時間があったらさっさと風呂行ってこんか!」

 

和「ああん、押さないでください。押すならお尻かおもちを押してもらえると」

 

京太郎「背中しか押さねーよ!」

 

和「わかりました、須賀君のダシが出たお湯を堪能してきます」

 

京太郎「あ、俺シャワーしか浴びてないから。遠慮なくどーぞ」

 

和「……」

 

京太郎「和さん? なんでそんな残念そうなの?」

 

 

 

 

参ってしまいますね。

 

さりげないときもあれば、丸わかりの気の遣いようを見せてくれる須賀君ですが。

 

今回も実のところジョーク封じというよりは、私に気を遣ってお湯に入らなかったんじゃないでしょうか。

 

いい人なのですが…個人的には、少し残念なところでもあります。

 

和「私はむしろ、須賀君の入った後の湯船がいいのですが…」

 

ままならないものですね…口に出したら本当になればいいのですが、そういうわけでもなく。

 

…考えていても仕方ありません。ここは厚意に甘えて、お風呂でリラックスでもしましょう。

 

和「…………あら?」

 

お風呂に入る。

 

イコール、裸になる。

 

須賀君の家で。

 

和「次の目標は、須賀君の部屋ですね…」ヌギヌギ

 

 

 

温泉ではありませんから、タオルで隠すわけでもなく。

 

ごく当然のように、須賀君の家のお風呂で全裸になっている訳です。

 

和「……」ドキドキ

 

なんだかんだ言っても須賀君に裸を見せたことは無い、はず。

 

脱衣麻雀のときは…須賀君の独り勝ちでしたし、ちょっと賢者というか、冷めてしまいました。自分でコントロールしにくいのが難点ですね…

 

ここで須賀君が入ってきたら。そう思うとジンジンと下腹部が熱くなると同時に、恥ずかしさがこみ上げてきます。

 

今更かよ! と須賀君なら言うかもしれませんが、これでも恥じらう心は持ち合わせています。心は。

 

和「ところで…」チラッ

 

綺麗に片付けられた洗面所。洗濯機が静かに回って、指し示す終了時間がつい先ほど回し始めたばかりだと教えてくれます。

 

和「全部洗われてしましましたね」ガックリ

 

残念です。

 

 

 

お風呂場は少し濡れていて、ほのかに温かさが残っていました。

 

少しだけ家のお風呂よりコンパクトに感じましたが、微塵にも嫌な思いはなく、むしろ好ましさを覚えますね。

 

…いつまでも裸で突っ立っていても仕方ありません。軽くシャワーを浴びて溜められたお湯に足先を付けます。

 

和「あんっ」ピクンッ

 

少し、家のお湯よりも熱いみたいで。肌が低温蝋で攻められているようにピリピリします。

 

ゆっくりと、身体に馴染ませるように沈んでいくと…

 

和「んっ…ふぁ…あんっ♪」

 

なんでしょうか、ここが須賀君の家だと思うだけで、お風呂の熱が身体を蝕んでいくようで。

 

和「あ、いけませんね。他人様の家で火照りすぎるわけにはいきません」

 

忘れましょう。

 

今自分が誰の家にいるか、努めて忘れておきましょう。

 

ここで須賀君も裸になったとか、妙な事を考えるのは非常に良くないことです。

 

じゃないと…我慢、夜にできなくなったら困りますからね。

 

 

 

…正直、不思議に思っています。

 

須賀君の家に一人でお邪魔したこともそう。ここまで積極的になるつもりは無かったのですが、気が付いたら、今、ここにいる。

 

まるで夢かジョークのようですが、誘われた訳でもなく自分からお願いしたこと。

 

ここまでなのかと、私自身に対して驚きが湧いてきます。

 

和「……」ブクブク

 

嫌な気分なんて、欠片も無くて。

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

京太郎「和ー」

 

和「はい! 今すぐ出ます、ちょっと待ってください」ザバア!

 

京太郎「絶対来んじゃねーぞ!」

 

えー。

 

 

 

和「どうしたんです? 覗くのなら湯気消しましょうか?」

 

京太郎「最高にいらない気遣いありがとう。用が済んだら速攻出るから気にすんな」

 

そうですか…素敵なシチュエーションだと思ったのですが。

 

和「でしたらどうしたんです? 下着ならそこの籠に畳んでありますけど。制服の下です」

 

京太郎「知らんがな。着替え持ってきたから置いとくぞー」

 

和「ありがとうございます」

 

ポスン、と軽い物音が、お風呂の扉越しに僅かに聞こえてきます。

 

そして扉が開き、閉まる音。耳を澄ましても、物音ひとつ響いてくることは無く。

 

和「…」ドキドキ

 

下着を見られたでしょうか?

 

そう思って扉をそっと開くと――

 

和「……ですよね」

 

制服は変わらずそこにあって、手を付けた様子は微塵にもありませんでした。はい。

 

別に残念ではありませんけどね?

 

 

 

和「……そういえば」

 

ふと、気づきました。

 

なぜか偶然ですが、鞄にアレを入れていた気がします。なぜか、都合よく。

 

正直勢いで買ってしまったのですが、あまりにも普段と違いすぎて穿かなかったアレ。

 

…どうしましょうか。須賀君の前で穿くべきでしょうか?

 

いえ、見せるわけじゃありませんが。見せてもいいですが。

 

けれどあまりにも…ちょっとだけ、気後れしてしまいます。

 

いくら須賀君がアンラッキースケベと言っても、そうでない展開もあり得るでしょう。

 

…着けるべき? 着けないべき?

 

常識的な判断と、常識的でない判断。ここで選ぶべきは――

 

 

 

ガラッ

 

和「お待たせしました」

 

京太郎「おー。Tシャツとハーパンで良かったか?」

 

和「ええ…男の人のシャツだとぶかぶかかと思ったんですが、ちょうどいいです。咲さんのTシャツだと何故か窮屈で」

 

京太郎「なんか泣けてきたわ」

 

和「?」

 

京太郎「いやなんでも…つーか、なんでそんなに内股なんだ?」

 

 

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     |:..:|∧ ',: : . .: : . : i.     ..ノ|: | リ

     |:../ ヾ.\__, : : :人: : : : :,.イ〃.ノ/

     ゝ |  `ーイ:: ::::/:|:::::::::/゙_.∠.ィ゙/

      |  ::\.|_ :::/ ::! ::,ィ゙    {"

      ∧  ::::\ } : ::::: ::/    ∧

 

京太郎(なんだこの笑顔超こえー。聞かなきゃよかった)

 

 

 

和「すみません、ここでドライヤーを使わせて貰ってもいいですか?」

 

京太郎「ん? 洗面所で使わなかったのか」

 

和「ええ…普段座って乾かすので、洗面所では少し」

 

京太郎「へー。じゃあ姿見を、っと…こんなもんかな。椅子ここに置いたら大丈夫か?」

 

和「はい、ありがとうございます。少し時間がかかるかもしれませんが…」

 

京太郎「和の髪は長いからなー。別に気にしないから大丈夫だって」

 

和「すみません。それじゃあ…」ブォォォー

 

京太郎「…ん?」

 

和「どうしました?」ブォォォー

 

京太郎「いや、この匂い…うちのシャンプー使ったよな?」

 

和「ええ…もしかしてダメでしたか?」

 

京太郎「いやいや、そんなことは全然ないけど。なんか違う匂いな気がするんだよな…」

 

和「匂い…あ、もしかしたら」

 

和「ローションの匂いかもしれませんね…ジャスミンなら」ポッ

 

京太郎「ははっ、ローションだなんてスキンケアもばっちりだなぁ」

 

 

 

京太郎「…なんてゆーかさ、そういう仕草って色っぽいよな」

 

和「はい? 髪を乾かしてるだけですが…」

 

京太郎「いやそうなんだけど…なんつーか、チラチラ首が見えてさ…」

 

和「はあ…首筋コキがしたいくらいエロイ首だなグヘヘ、ですか。そんな急に言われても」ポッ

 

京太郎「言ってねえよ! ねつ造すんな!」

 

和「でも色っぽいって言いましたし」

 

京太郎「…秘書がやったことです。身に覚えがありませんー」

 

和「秘所にヤったことですか!? 私も身に覚えが無いんですが…睡○ですか!?」ガタッ

 

京太郎「俺が悪かった! 謝るから黙って!」

 

 

 

和「…須賀君、随分見てますが…女の子の身支度はあまり見たことが無いんですか?」

 

京太郎「へ? いや咲ならあるけどさ、髪の長い女の子って新鮮で。わり、嫌だったか?」

 

和「いえ、そんなことは。どうぞ存分に視姦してください」ハアハア

 

京太郎「やべー漫画って読み直すとなんでこんな面白いんだろーなー」

 

 

――夜、入眠にて――

 

京太郎「んじゃ電気消すぞ」

 

和「はい、お願いします」

 

京太郎「おやすみ和」

 

和「おやすみなさい、須賀君」

 

京太郎「……」グー

 

和「……」スー

 

 

京太郎「なんで同じ部屋なんだよ!」ガバッ!

 

和「もー須賀君、寝るときは静かにしないとダメですよ?」メッ

 

京太郎「そーゆー問題じゃねー!」

 

 

 

和「…須賀君? 起きてますか?」

 

京太郎「おう。いつもはもうちょっと遅く寝てるからなあ」

 

和「ふふ…私もです。それよりベッドを借りて良かったんですか? 床だと痛いんじゃ」

 

京太郎「ゲームやりながら床で寝ることも多いし、お前より慣れてるよ」

 

和「そうですか…あの、少しだけお話しませんか。寝てしまうまで」

 

京太郎「だな。他にすることもないし」

 

和「ふふ、ありがとうございます。それじゃあ何から…あ、一つ思いつきました」

 

京太郎「なんだよ?」

 

和「須賀君はいつも寝るとき…ど、どんな格好をしてるんです?」ハアハア

 

京太郎「真っ先にそれがくるのはチョットマズイなー」

 

 

 

京太郎「ん…」スクッ

 

和「須賀君?」

 

京太郎「ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

和「……」

 

京太郎「和? どうした?」

 

和「すみません、飲尿健康法はちょっと抵抗があって…」

 

京太郎「どーしてまた、そんな申し訳なさそうな顔になっちゃうよ」

 

 

 

京太郎「ふー…ん? リビングの方で明かりが…」

 

 

和「あ、須賀君…」

 

京太郎「何してんだ?」

 

和「いえ、どうにも眠れないので少しお水をいただこうかと」

 

京太郎「ほーん…じゃあこれにしようぜ」

 

和「牛乳、ですか」

 

京太郎「ああ。ホットミルクっつーほど熱くない程度なら飲みやすいし」

 

和「そうですね…ありがとうございます」

 

京太郎「どーいたしまして。それじゃちょっと待っててくれるか?」

 

和「はい」

 

 

和「ひと肌のミルク…」ジィーッ

 

京太郎「そこからは出ないから…ガン見しないの!」

 

 

 

京太郎「……」ズズッ

 

和「……」クピクピ

 

京太郎「なあ、一つ聞いていいか?」

 

和「はい」

 

京太郎「今日うちに来るときさ…なんか、やけに強引っつーか突然だったよな」

 

和「…はい。変ですよね…自覚はあります」

 

和「本当は…理由なんて、なんでも良かったのかもしれません」

 

和「私は須賀君の家に行きたかったんです。須賀君の部屋に行きたかった」

 

京太郎「和…?」

 

和「そして、確かめたかった」

 

京太郎「…なにを?」

 

和「……」

 

和「咲さんから聞いたんです。須賀君のトレジャーは机の裏に置いてあると」ガックシ

 

京太郎(あのポンコツ…場所変えといて良かった…)

 

 

 

京太郎「つーか、一応親御さんとすっげー下らないことで喧嘩したんじゃなかったか?」

 

和「喧嘩というよりも主義のぶつけ合いです」キリッ

 

京太郎「なんつーくだんねー主義だよ…んじゃ、喧嘩云々ってのはただの口実か」

 

和「そうですね」

 

京太郎「あのなあ…いい機会だから言っとくけど、ちょっと危機感足りてないんじゃないか?」

 

和「?」キョトン

 

京太郎「友達っつっても男の、しかも両親の居ない日に来るなんて、襲われても文句言えないぜ?」

 

和「ええ!? 須賀君、私を襲うんですか!?」

 

京太郎「襲わない襲わない。襲わないからにじり寄って来ない!」

 

 

 

和「ふふ…私はこんなですが、男の子の家に泊まるなんて以前までは考えられなかったんですよ?」

 

京太郎「へえ。そういえば、和って特別男子と話してる印象無いな…」

 

和「実のところ、隣で並んで歩く男子も須賀君が初めてです。色んな初めてを須賀君に捧げてしまいました」ポッ

 

京太郎「ヤな言い方すんな! ったく…」

 

和「ふふっ。須賀君と居るととても楽しいです…どうしてなのか、須賀君は分かりますか?」

 

京太郎「え?」

 

和「10秒以内で。じゅーう、きゅーう、はーち」

 

京太郎「ちょっ…えーとな、それはつまりだ…」

 

和「なーな、しーっくす、なーいん」

 

京太郎「戻ってる戻ってる日本人らしく日本語カウントで!」

 

和「さん、にー、いち」

 

京太郎「うぉいっ! えーと…」

 

 

京太郎「俺のことが好きだから、とか?」

 

和「……ぁ」

 

京太郎(やべー、さすがに引かれた! やっちまったぜ…)

 

 

 

京太郎(突然ですが空気が最悪…とまではいかないけど、微妙です)

 

京太郎(間違いなく俺の失言のせいだ…和、俯いちゃってるし)

 

京太郎(どうする? どうするよ俺! とにかく話題を逸らさないと)

 

京太郎「そ……そういえばさ、和って俺が部長とかに麻雀教わってる時、見てくるよな。なんでなんだ?」

 

和「……ああ。あれはですね、須賀君が私以外と話してるのが嫌なんです…なんでです? 私じゃだめなんですか…」ブツブツ

 

京太郎「唐突にヤンデレされてもなぁ」

 

和「じゃあ特に意味はないです」

 

京太郎「無いのかよっ!」

 

和「い、意味なんてないんですからねっ!」ツンツン

 

京太郎「属性固定しろよ!」

 

 

 

京太郎「はー…っと、こんな時間か。そろそろ寝ようぜ」

 

和「そうですね。明日もありますし」

 

 

京太郎「おやすみ」

 

和「おやすみなさい…」

 

京太郎(なんか変な感じだな。咲は何回か来たことあるけど、それ以外って初めてだし)

 

京太郎(…つーか、いい匂いするんだよな。俺の部屋じゃないみたいだ)

 

京太郎(はー、なんか安心するっつーか。すぐ近くに和がいるって思うと眠くなるな…)

 

和「ん…」

 

京太郎(寝息聞くのは合宿以来だっけ。こうしてると可愛い女の子だよなあ…)

 

京太郎(もし和がボケじゃなくて…うわ、やっべ…半端ねーぞ)

 

京太郎(……和、か)チラッ

 

和「すんすん、はふー…須賀君の匂いが凄いですね。こう、嬲られている気がして…」モゾモゾ

 

京太郎(そろそろツッコんで寝かさないとな)

 

 

 

――朝――

 

京太郎「ふあぁ…あー、ちょっとねみぃ…」

 

和「おはようございます、須賀君」

 

京太郎「おはよう和…顔だけ布団から出して、どうした?」

 

和「……」

 

和「昨日は激しかったですね」ポッ

 

京太郎「……」

 

和「……」

 

京太郎「それがやりたかったの?」

 

和「はい。1時間前から須賀君が起きるの待ってました…少し眠たいです」

 

京太郎「ちっさいボケに身を削りすぎだろ!」

 

 

 

須賀君の家を出て、帰路に着きます。朝日がどこか心地よく感じるのは…何故でしょうか。

 

「俺のことが好きだから…」

 

須賀君のことが、好きだから。

 

あのとき…どうして確かめてくれなかったんです?

 

あのとき、本当に俺の事好きか?って聞いてくれれば。

 

……ダメですね。それは受け身すぎ、卑怯ですよね。

 

いつか私がジョークを交えずに言えるようになったら…その時は教えてあげないとダメですね。

 

私の初恋。貴方に捧げてしまいました。

 

初めてなんです。ねえ須賀君、私は好きな人との話し方なんて分かりません。

 

だから…教えてくださいね。これからもずっと、貴方に好きな人ができるまで。

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最終更新:2014年08月08日 23:21