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ラケットと握手するようにして握るのが『イースタングリップ』。
例えば、ラケットを地面に向かって垂直に立ててみよう。
その状態で、ラケットの面に利き手を当てる。
その角度のまま、スルスルと利き手をグリップに滑らせていき、グリップの下まできたところでキュッと握る。
この握り方だと、手を伸ばした延長にラケットの面があるので、ボールを打った感触がダイレクトに伝わりやすい。
そういったことや、握りやすさなんかもあって、初心者の握り方としては推奨される。
ちなみに、同じく初心者の握り方として教わることが多いのが、ラケットを『包丁を握るようにして』つかむ『コンチネンタルグリップ』。
さらに言えば、ラケットを上から掴むように持つのが『ウエスタングリップ』。
このイースタンとウエスタンを逆に覚えているにわかプレイヤーは多い。

「どうして、握り方に『東』と『西』があるの?」

レティと名乗った少女は、教えられたての『イースタングリップ(東の握り方)』で握り締めたラケットをぎこちなく上下に動かしている。
水平に構えられたラケットの面では、テニスボールが30センチほどの高さでポーンポーンと弾んでいた。

「アメリカの東の方で流行った打ち方と、西の方で流行った打ち方だったから」

そうなんだー、といたく納得したような返事が帰ってきた。
長い銀色の髪が、少女の肩が上下するのに合わせてふわふわと揺れている。
多くのテニス経験者が手すさびにこなすような単調なリフティング練習でさえも楽しそうに、ごく新鮮そうにボールと戯れる。
教える側としては、なかなか悪くない光景だった。
もう少しボールが高く上がるようになれば、もっとちゃんとしたフォームを教えてみて、壁打ちをさせてもいいかもしれない。

「じゃあ……『コンチネンタル(大陸)』も、アメリカのこと?」

じゅうご、じゅうろく……と記録を数えるのを中断して、また質問してきた。

「ヨーロッパ大陸のこと。テニスがアメリカに伝わる前からの握り方だったから」
「そうなんだー。リョーマって物知りね!」
「別に、なんでもは知らない。テニスのことだけ」

いちいち変なことを聞くんだなと思って、そうでもないかと考え直した。
どこの国出身かは知らないけれど見たところ欧米系のようだし、『コンチネンタル(大陸の)』と聞けば、興味を引かれるのかもしれない。
そこらへんは、日本人との感覚の違いか……

……いや、ちょっと待て。

「レティ……日本のことはよく知らないのに、日本語が話せるの?」

二十数回までいったところでボールを取りこぼした少女が、小首をかしげる。

「ううん。わたし、勉強は苦手だもの。外国語なんてしゃべれないよ」
「しゃべってんじゃん」
「しゃべってないよ? それよりリョーマこそ、日本人なのに外国語上手ね」

噛み合っていない。
おかしなことは言ってないよね、とこれまでを思い返す。
ずっとここまで、日本語で話しかけていた。
彼女の欧米人じみた容姿をはっきり視認する前から『おーい』と呼びかけていたから、それは間違いない。
しかし、レティには日本語で会話をした自覚がないらしい。
だったら……と、脳内の言語スイッチを英語に切り替える。

「”You still have lots more to work on. Nobody beats me in tennis.”
……今、何語でなんて言ったかわかる?」
「『まだまだだね。テニスでは誰にも負けない』。
何語って言われても、ずっと同じ言葉で話してるよ?」
「前半は英語で、後半は日本語だったんだけど」

ワケ分かんない。
本日二度目となる感想だった。

つまりどういうことか。
リョーマが何語を話そうと、レティの耳にはそれが母国語らしき言語で聞こえると、そうなってしまうのか。

「そっか。きっとユメの中だから言葉が通じるのね!」
「結論をどーも」

突拍子もないことを簡単そうに、しかしこれ以上ないほどきれいにまとめられてしまった。
もしかするとこの不思議少女は、リョーマよりずっとよっぽど適応力が高いのかもしれない。

「だって、言葉がつうじないよりつうじた方がいいでしょ?」
「……そーかもね」

そうなると、『無我の境地』になっても言葉は通訳されるのかな。
そんなことに思いを馳せていると、レティのにこにこ笑顔がすぐ近くまで寄っていた。

「…………何?」

やはりこういう人懐っこさには、慣れないものがある。
知り合いの中では、先輩の菊丸英二だとか他校の遠山金太郎がこれに近いだろうか。
彼らと違うのは、世間ずれしていないような、不思議少女めいたところだった。

「えっとね。リックとはこんなふうに、ボール遊びとかおにごっこみたいな遊び、したことなかったから。だから、なんだか嬉しいの」
「そのリックって友達とは、一緒に遊んだりとかしないの?」

そう言えば、結局リックとやらが戻ってくる様子は無い。
最初は周囲の安全確認にでも出かけたのかと思ったが、それにしては遅い。
まず思い浮かんだのは、薄情にもレティを見捨ててどこかに行ってしまったという可能性。
しかしレティにその可能性をずばり指摘するのは、いくら言動に遠慮のないリョーマでもさすがに憚られた。

「うーんとね。リックは友達とは、違うと思うの……」

歯切れを悪くして、言葉を探すように悩みはじめる。
そこにリックの面影があるかのように、自らの銀髪の端を軽くつまんだ。

「リックは、家族で……それから、お兄ちゃんみたいな人」
「みたい?」
「どこからきたのかよく分からないの。
でも、わたしが小さい時から、ずっと一緒にいる子なの。
寂しい時に、よくお話をしてくれたり、さびしくないよって慰めてくれたりするの」
「お兄ちゃん、ね……」

どこからきたのかよく分からないとは、もしかして『フクザツなご家庭』ってヤツか。
よけいに謎が増えたような話だけれど、その『お兄ちゃん』をとても慕っていることは伝わった。
それに、リョーマ自身だって最近は『よく分からない』になりそうで、人のことをとやかく言えない。
いきなり『兄貴』を名乗って現れた、あの青年とか。
……ともかく、『兄弟』という関係の重さぐらいなら、一人っ子を自認するリョーマにも理解できる。
少なくとも、誰かにとっての『お兄ちゃん』が、弟妹を冷たく見捨ててどこかに行ってしまうものだとは、決めてかかりたくなかった。
少年のその願望が、無意識にあった『兄』への感傷なのかどうかまでは定かではない。

だったら、リックが一人でどこかに行ったのは、彼なりに妹の安全を考えた結果かもしれない。
まさか、きょうだいをユメから脱出させるために、他の”アリス”を皆殺しにして来ようという計画だったりして。
いくらなんでも、それは無いか。

「だったらさ、遊びながらでも探しに行く? そのお兄さんのこと」


それでも、ただ待つよりはと思って提案する。
”カギ”を探しに行くついでだと思えば、人探しぐらい……





……体育館入口から、気配。

「誰?」

硬い声をだして、問いかけた。
レティの時とは違う、明確な『潜んでいる』という感触。
U17の合宿所で番犬や警備員の目をかいくぐって動いた時にも似た、ピリピリする視線が刺さっている。
問いかけに答えるように姿を現したのは、高校生ぐらいの青年だった。
すらりとした立ち姿。
隙のない身のこなしによる歩法。
愛想よく貼り付けた、にっこりと柔和な笑顔。
歩くたびにさらりと揺れる、うなじまで垂らされた茶色の髪。
どうもミステリアスというか、含みがありそうな雰囲気。

(……なんか、不二先輩に似てる)

外見から受けた印象はそんなものだ。
しかし感じ取れる空気は、外見ほど穏やかじゃない。
強い人間とは、そこにいるだけで場の空気が変わったりするものだ。
『皇帝』だとか『神の子』だとか、あるいは一部の人間離れした高校生プレイヤーだとか。
隠そうとしても隠しきれない緊張感を、実力ある人間は持っている。
自らの観察力を総動員して導かれた認識は、『油断してはならない』というもの。

「こんばんは。君たちも“アリス”なんだね?」

ごく穏やかな声で、その強者は第一声を放った。




カノン・ヒルベルトは無類の猫好きだった。
だから、珍しくも愛らしい二足歩行の猫に銃口を向けるのは、いささか胸が痛んだけれど。
それでも、そう動いた。
地面に落ちていた小型拳銃を認識してから一秒に満たない時間で、それを拾い上げて猫のせまい額に銃口を当てる。
”皆殺しにしなければ帰れない”という事実に対して、より詳しい説明を求めるために。

しかし猫は、そろそろ行く時間だとはぐらかして消失した。
瞬間移動のように、中空にかき消えて。
だから、残された材料から判断するしかなくなった。
それは、言い残した言葉。

――殺る気満々のようだが、“殺さない”って約束した奴らが“ユメ”にいたらどうするんだ?

どう動くかを、思案する。

まず、目覚めないという選択肢は無い。
約束を、させられた。
”神の弟”に敗北した代償として、彼に従うことを。
もう、自分を含めたブレード・チルドレンを殺さないこと。
最後の希望が潰えるその時まで、決して命を捨てないこと。
そして、“兄”として、“弟”を殺せなかった責任をとることを。

だから、生きなければいけない。
ユメの中にいるという話が真実ならば、現実のカノン・ヒルベルトは昏睡状態のまま施設の緊急治療室にいるかもしれず。
そのまま彼が目覚めなければ、“弟たち”に対して何も残せなくなってしまう。
だから、目覚めた現実が“ユメ”より残酷な世界だったとしても、帰らないわけにいかない。

殺せる武器は(できれば拳銃よりサブマシンガンの類が欲しかったけれど)用意された。
殺す能力も持っている。
とはいえ、殺した結果に不可解はある。
この拳銃で他の“アリス”を抹殺すれば、死体が“カギ”にでも化けるとでも言うのか。
ただし、仮に猫の話が真実であれば、少なくとも一人殺すごとに、カギを見つけられる確率が高くなるシステムだった。
猫を信用するならば、出会った相手を片っ端から殺していくのが効率的になる。
あくまで猫の証言を安易に受け入れるとすれば、の仮定だけれど。

正直なところ、殺しをするのは気が進まない。
“ブレード・チルドレン”という一部の子どもたち以外は殺さないという制約を、課している。
今はその”ブレード・チルドレン”さえも殺せない約束をしている。
目覚めたら忘れるような“ユメ”の中とはいえ、人を殺す感触は手に残るだろう。
それは、カノンを“殺人狂”へと変貌させるトリガーとなるかもしれない。
人間としての一線を超えないための“殺さない”という制約は断じて軽くない。

しかし、“約束相手”がユメに迷っているかもしれないと、示唆された。
この“ユメ”に囚われている中に、“彼ら”がいたとすれば話は別だ。

(信じるとはいかないまでも……彼らなら、僕にできないことを、できるかもしれない)

カノン・ヒルベルトの“弟”である、アイズ・ラザフォード。
あるいは“神の弟”である、鳴海歩。
仲間のために命を捨てる覚悟はあるけれど、優先順位はその二人が最も高い。
彼らを生かすためなら、カノンは進んで自らを犠牲にするだろう。
それこそ、自分も含めた全ての“アリス”を皆殺しにすることになっても。
たとえ、文字通りの意味で『悪魔』に魂を売り渡すことになっても。
兄は、汚れ役を背負って道を切り開く。

(まだ、迷いはある。でも、まずは動こう)

拳銃を制服のベルトに差し込み、歩くことを選択する。
まずは、他の“アリスたち”を見てから、判断するために。
“狩人(ハンター)”だった時の嗅覚を頼りに、迷える“アリス”たちのいる場所へ。

見つけたのは、とうてい害があるように見えない、少年と少女。
テニスラケットとテニスボールを手に、仲良く遊んでいるかのような二人。
少年はいち早くカノンの存在を察知して、庇うように少女の前に立った。

「こんばんは。君たちも“アリス”なんだね?」

歩み寄る。
もしかすると、誰かの兄や姉かもしれず、あるいは弟と妹かもしれない、少年と少女の前に。


【F-4/鳴神学園・体育館/一日目/深夜】

【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:健康
[装備]:テニスラケット@現実
[道具]:不明1、テニスボール@現実
[思考-状況]
基本:誰も殺さずに、生きてここを出る
1:現れた男への警戒?
2:レティにテニスを教えてみる。
3:あの猫には一泡吹かせてやりたい。
[備考]
『新テニスの王子様』時点からの参戦です

【レティ(リック)@Alice mare】
[状態]:健康、ご機嫌、〝レティ〟
[装備]:なし
[道具]:不明1
[思考-状況]
基本:ユメからさめたい。
1:だぁれ?
2:リョーマとあそぶ。にほんじんはすごい。
3:アレンたちもいるのかな?
[備考]
クローゼットを開ける前からの参戦です

【カノン・ヒルベルト@スパイラル ~推理の絆~】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)@GTO
[道具]:予備弾薬の入った箱(20弾)@現実
[思考-状況]
基本:どんな手段を使っても目覚める。
1:二人にどう対処する?
2:もし鳴海歩かアイズ・ラザフォードがいれば、皆殺しをしてでも帰す。
[備考]
カノン編終了後からの参戦です。
チェシャ猫が示唆した知り合いは、いるかもしれないしいないかもしれません。


006:不味 時系列順 008:空っぽの穹
003:ふたりぼっちの出会い 越前リョーマ :[[]]
003:ふたりぼっちの出会い レティ(リック) :[[]]
Open the Nightmare カノン・ヒルベルト :[[]]
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