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「餞別」(2013/07/03 (水) 21:01:44) の最新版変更点
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part2>>448
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階下からどよめきと笑い声が聞こえた。
皆がまだ食堂にいると仮定して、一番離れたこの部屋まで聞こえるのだからかなりもりあがっているのだろう。
オルオが例の似てない物真似でも披露したのか、それとも天然の気があるエレンが空気を読まずに爆弾発言をかましたのか、そんな事を考えているペトラの思考を遮る様に「チッ」と舌打ちが響いた。
「五月蝿いな。あいつら何を騒いでやがる」
「様子を見てきましょうか?」
「いい、放っておけ。明日は壁外だからな、外泊許可はやれんがここで騒ぐ位なら大目に見てやる」
リヴァイは立体機動装置のベルトを外し終えるとそれを束ねてペトラに手渡した。
制服を着てようが着てまいがペトラがリヴァイの部下である事はかわらないが、今ペトラの目の前で人類最強の兵士が小柄で口と目つきの悪いだけの男に戻った。
この光景を目に焼き付ける事が出来るのは何もペトラだけに許された行為ではない。人類最強の兵士と一夜を過ごした過去の女性達も共有する記憶だ。
そうとわかっているものの自分の目の前で装備を解くリヴァイを見ていると、ペトラは世界で唯一自分だけが人類最強の兵士を屈服させたかの様な錯覚に陥ってしまうのだ。
「どうした?お前も早く脱げ。奴らが騒いでいるうちに済ませた方がいいだろう。それとも、」
リヴァイはベッドから立ち上がると素足でペトラの前に立った。
元々二人に大した身長差は無いが、ブーツを脱いだリヴァイはブーツを履いたままのペトラと視線の高さがいよいよ変わらなくなる。
灰色の双眸からは何の感情も読み取れない。
高く舞い上がった空中で獲物を捉える時も。
地上で死に行く仲間を看取る時も。
リヴァイ班としてこの古城に移って十日目の夜、意を決したペトラがリヴァイの部屋を訪れ、その目的を告げた時も。
リヴァイがペトラのうなじに手を伸ばし、二本の指を刃に見立て、削ぐ様に指を滑らせた。
耳元に顔を寄せ、ペトラだけに聞こえる小さな声で囁く。
「脱がして欲しいのか?」
ぞくり。背中が震えた。
出会ったばかりの頃は常に怒っている様なこの目つきも、不機嫌な度に鳴らされる舌打ちも、何もかもが恐かった。
けれど今は違う。
ペトラは知っている。
かつての自分が思い描いていた完全無欠の英雄リヴァイは空想の産物に過ぎなかった。
真実のリヴァイは戦地では圧倒的な強さを誇っても一度壁の中に戻れば潔癖で口も態度も粗暴で側にいる人間を緊張させる事はあれ和ませる事は無い。
長所より欠点ばかりが目につく、そんな男だ。
それでもペトラはリヴァイに惹かれている。
正直なところペトラ自身にもリヴァイに向ける感情が恋愛なのか敬愛なのか区別がつかいない。
訳あり新兵のエレンはともかく、少なくともリヴァイ班の人間は人類最強の兵士の人となりを知った上で皆リヴァイを慕っている。
公衆の面前で躾けられたエレンに嫉妬しているオルオに至ってはリヴァイを盲信していると言っても過言ではない。
力の差、経験の差、それはオルオの様に外見や口調だけ(共通点は全く感じられないとはいえ)リヴァイを真似てみたところで埋められるものではない。
たとえ討伐数だけ追いついたところで団長や分隊長達の様にリヴァイと肩を並べて皮肉や冗談を言いあえる仲にはなれないだろう。
だからこそ、ペトラは自分が女で良かったと思う。
巨人でも民でも王でもなく、この身の全てをリヴァイに捧げる事ができる。
今ペトラが立っているのは他の班員達には抜け駆け出来ない、女に生まれたペトラだけが踏み入る事を許された領域だ。
訓練兵の頃から立体機動装置づけの日々で、ペトラの体は女性にしては脂肪が少ない。実戦では胸など邪魔なだけであるよりは無い方が楽だし、調査兵団の中にはさらしをまいている女性兵も珍しく無い。
髪や化粧を工夫したところで巨人を魅了する事は出来ないし、どうせ巨人の唾や返り血を浴びてしまうのだから時間をかけるだけ無駄だ。
普段はそう割り切っているものの、憲兵団や駐屯兵団といった立体機動の出番の少ない兵団を選んだ同期と顔をあわせると、自分と違って女性らしさを持つ彼女達に引け目を感じてしまう。
それは今も同じだ。
女性にしては胸筋はついているものの男性の様な厚い胸板ではない。
けれど豊満とも言えない。
膨らみかけの少女の様な小振りな乳房の上にリヴァイの手が重ねられる。
揉むだけの肉が無いのだから、ゆっくりとした手の動きは捏ねるのに近い。
「兵長は、やっぱ大きい胸の方が好きですよね?」
ペトラの質問に対し、リヴァイは「完全な板で無ければどうでも良い」と素っ気ない答えを返した。
「俺が気になるのは乳のでかさよりむしろ尻だな。腕や足はともかく尻まで硬えと野郎に突っ込んでる気分になる」
「はは……」
手足も尻も筋肉質となるとリヴァイが至極嫌そうな顔で語っているのは十中八九調査兵団の女性兵の事だろう。
(その人は兵長の恋人だったのか、それとも私みたいに迫られた上での関係か、今も生きているのか、喰われて死んだのか)
ペトラの頭に立て続けに浮かんだ疑問は、リヴァイが裸の胸に口づけた途端吹き飛んだ。
小さい事にコンプレックスがある癖に、ペトラは胸を愛撫されるのに弱い。
リヴァイもそれをわかってか、前戯の際は胸に時間をかける。
ぺちゃぺちゃと音を立てて桃色の果実を舐め回し、強く吸い立て、執拗に舌で嬲る。充血しつんと尖った果実にカリッと歯を立てられると、痛みより先に甘美な快感が走った。
「あっ」
咄嗟に口を押さえたペトラだが、リヴァイは胸に顔を寄せたまま目線だけ上げ、ペトラの手を剥がした。
「我慢しなくていい。せっかく奴らが騒いでるんだ」
ペトラが声を聞かれて恥ずかしいのは階下の班員達だけじゃない。リヴァイもその対象に含まれる。
「でも…」
「お前は俺に全てを捧げたんだろう?」
抱いて欲しいと頼んだあの夜。
直属の部下には手を出したく無いと渋るリヴァイにペトラが告げた、「兵長に全てを捧げる」という言葉に嘘偽りは無い。
けれど自分だけ顔を、体を紅く染め、延々と与えられる快楽に酔い、言葉にならない嬌声をあげ、痴態をさらし続けるというのは思った以上に恥ずかしい。
リヴァイは眉一つ動かさずにペトラを攻め続けるから、余計に。
「お前には躾が必要だな」
まだ十分に濡れていない秘部に指を突っ込まれ、ペトラは苦痛に顔を歪めた。
だがリヴァイはペトラの反応など構い無しで、秘唇を指で開くと指の腹で陰核をぐっと押した。
「ひゃっ、あぁん!」
舌で乳首を嬲られ、指で陰核を捏ねられ、二点からもたらされる刺激に体の奥から何かが沸き上がる。頭の中で理性が弾け飛ぶ。
声を押さえるなと言われたものの流石に声が大きかったのか、階下のざわめきがぴたりと止んだ気がした。
リヴァイもそれに気付いたか、手が止まった。
「なあペトラ。俺達のしている事に誰も気付いてないと思っているのか?」
「えっ??」
「エレンでさえ知っている」
「そんな、だってみんな普通に……」
自分たち二人の関係は、どちらかが口を割らない限り他の班員にはばれていない。そう思っていたのはペトラだけだったのか。
すっかり固まってしまったペトラだが、階下からは何事も無かったかの様に再び笑い声が響いた。
「冗談だ」
真顔でそう言われても全く笑えない。
すっかり騙されたペトラは、ぽかぽかとリヴァイの胸を叩いた。
「兵長!明日からどうやってみんなの顔を見れば良いか、本気で悩んだんですからね!」
「お前は普段が真面目だから、ベッドの中では馬鹿になる位で丁度いい」
リヴァイの指がくすぐるように陰核の上で円を描く。
やがて包皮からぷっくりと膨らんだ紅い果実が顔を出し、リヴァイは滲み始めた愛液を指に絡ませ、さらに陰核に擦りつけた。
涼しい顔をしたままのリヴァイに対し、涙目のペトラは息も絶え絶えだ。
そしてペトラはとっくに全裸なのに、リヴァイはスカーフを解いてボタンをいくつか外している以外はほとんど着衣のままだった。
リヴァイは素肌を曝すのも触れられるのも極端に嫌う。
ゴロツキ時代にださい墨でも入れたのか、或いは醜い古傷でもあるのかとペトラは予想していたが、そうではなく単に彼の性分らしい。
性分と言えばもう一つ、ペトラはリヴァイが潔癖と知っていたから最初に夜這いに及んだ日は普段の倍以上時間をかけて垢など微塵もないよう念入りに体を磨いた。
それなのに一通りの事が済んだ後、リヴァイは開口一番、
「汚いのも臭えのも我慢ならないが、お前は洗い過ぎだ。何処もかしこも石鹸臭いのも気色悪ぃ」
と咎める始末。
かと思えば訓練後に急に呼び出され、汗をかいた戦闘服のまま部屋に行けば
「風呂に入って出直して来い」
と即座に追い返されるし、また別の日は全身土ぼこりに塗れていたのにろくに愛撫も受けずに抱かれた。
部屋の掃除なら徹底的に綺麗にすればいいのだが、抱かれる時に求められる衛生基準はいまだつかめない。
リヴァイは体を起こし、愛液に濡れた指をぺろりと舐めた。
「そろそろ挿れるぞ?」
ペトラはリヴァイの下腹部に視線を落とした。
リヴァイはいつの間にかズボンの前を開いており、空気にさらされた雄の象徴は天を向いてそそり立っている。
ペトラは本人よりも表情豊かなリヴァイの分身にそっと手を伸ばした。
皮膚よりも熱い。竿に沿って手を動かせばリヴァイは少しだけ目を細め、僅かに濡れた鬼頭の尖端を指の腹で撫でれば何かを押し殺した様な息が聞こえる。
涼しい顔をしても、自分の体で興奮していたのかと思うとペトラはこの一回りは年上の上司を可愛らしく思えた。
だがそれも一瞬の事で、愛液に濡れた花弁を割って、興奮した雄の昂りがペトラの領域を侵し始めれば優劣は再び逆転する。
リヴァイが一思いに突き上げればペトラは背を仰け反らせて切ない吐息を漏らした。
何度体を繫いでもリヴァイの過去も、本心も、何も教えられないまま。
リヴァイの部屋にいる間、ペトラは恋人でも部下でもなく、ただ雄の欲求を満たす為の女として扱われる。
道具でもいい。
人類最強の兵士にとって一部下に過ぎなかったペトラが自分から一歩踏み出したから、今一番近くでこの男を感じられるのだから。
ぐったりと力を失ったペトラの体を翻して腰を支えると、リヴァイは後ろから昂った自身を挿入し直した。
体位を変えてまた容赦なく突かれる。膣の更に奥、子宮口まで。
ペトラが何度絶頂を迎えるか、そんな事はどうでもいい。
これはペトラの為に営まれる行為ではなく、リヴァイが満足出来なければ、こうやって班員達の目を盗んで抱かれに来た意味が無いのだから。
ペトラはリヴァイが絶頂を迎える際の顔を見た事が無い。
行為そのものは後背位で締める事が多いし、口を使う時も終わりが近付くと顔を押さえ込まれてしまうので目にする機会が無いのだ。
最強の兵士が見せる恍惚の顔というのはどういうものか。
今日も見損ねてしまったと心の何処かで残念に思いながら、ペトラ自身も何度目かの絶頂を迎える。
数回乱暴な突き上げがあって、小さな震えと同時に胎内の最奥に今まで感じた事の無い熱を感じた。
深く、長いため息の後リヴァイが体を離すと、支えを失ったペトラはベッドに崩れ込む。
もう繋がっていないのに体の奥がまだ熱い。まるで胎内を内から灼き尽くされた様だ。
起き上がろうとしたペトラは胎内から逆流してきたものが自身の内股を伝うのを感じた。白く濁ったそれが愛液ではないと一目でわかった。
いつもは体を離してから射精するリヴァイが今夜はペトラの中で果てた。
余裕が無かったのか。
それとも意図的にそうしたのか。
「兵長、どうして?」
「明日にはお互い壁の外だ。今夜位いいだろう」
「でも…兵長、子供は欲しく無いんじゃ」
自身の後始末をしているリヴァイはペトラに背を向けたまま、気怠気にため息をついた。
「上の連中は俺がうっかりガス欠でも起こして死んじまう前にガキの一人でも残しておけと五月蝿いからな」
「兵長……」
「俺の子だとアピールしとけばお前じゃなくても誰かが育てるだろうよ」
「そんな、兵長の子供なら私が責任持って育てます!」
鼻息の荒いペトラに対し、平然と着衣の乱れを直し始めたリヴァイは床に落ちていたペトラのジャケットを拾い上げ、ふわりと放った。
「俺はともかくお前が死んでも今の話は何の意味も持たない。ガキがどうとか気にするのは明日を生き延びてからで十分だ」
ペトラはぎゅっとジャケットを握りしめた。
心は繋がっているとは言い難く、男女の本能に任せて繋がっていただけの体も離れてしまった。
けれど今を悲観する必要なんてない。明日、壁外調査を終えればまた同じ道を辿ってこの城に帰って来る。
それはもう決まっている未来。
「兵長。私、明日もここに来ても良いですか?」
「お互い死んでなかったらな。わかったらさっさとクソして自分の部屋に戻って寝ろ」
「はい!兵長」
班員全員、撤退命令に安堵を覚えたのは確かだが、油断したつもりは無かった。
家に帰るまでが壁外遠征。
オルオに言われるまでもなく、ペトラも新兵の頃良く聞かされた台詞だ。
エルドに初陣での失態を曝され、エレンに笑われた。
それでも仲間の死を嘆きながら帰還するよりずっといい。
そんな事を考えていた時、グンタが逝った。
エレンを逃がし、三人で報復戦に挑んだ時点で判断を誤ったのか。
目潰しをした後の一分で全ての決着がつく筈だった。
そしてついさっき、エルドが逝った。
「ペトラ!早く体勢を直せ」
ちっともリヴァイに似ていない。
普段はそう思っていたのに、オルオの台詞はペトラの脳内でリヴァイの声で再生される。それだけ混乱していた。
「ペトラ、早くしろ」
なびくスカーフも、焦った声も、真似でなくて本人であれば良かったのにとペトラは思う。
この巨人に知性がある事は一度目の遭遇でわかっていた筈だ。
けれど経験の導き出した答えと現実は大きく違った。
アンカーの位置が悪かったか。
それとも女型巨人のスピードが早すぎるのか。
このままだと踏みつぶされる。
状況を理解する余裕はあるのに、体勢を立て直す猶予は与えられていない。
英雄は、今ここにいない。
目の前が、心が、暗闇に覆われる。
その瞬間、ペトラの胎内で何かがこぽりと水音をたてた気がした。
昨夜受けた精は朝にはあらかた体外に出てしまったと思っていたが、まだ残っていたのか。
(ああ、そうか。昨日のあれは気まぐれなんかじゃなかったんだ)
ペトラは唐突に理解した。
今回の壁外調査も互いに生きて戻れるか。
子供を、血を繋ぐ事は出来るのか。
リヴァイが昨夜だけペトラの中で果てたのはそんなありきたりな理由からでは無い。
昨夜までは彼の一部だったものが、今も私の中に残っている。
側にいなくても、看取ってもらえなくても、私は彼とーー
その瞬間、ペトラが感じたのは痛みではなかった。
餞別 end
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