アニの両の手のひらがエレンの腹筋を這い回る。
エレンはあまりのことに身じろぎも出来ないが、白く冷たいアニの手の感触は熱くなった身体にここちよい。
白い手はエレンのへその下に無遠慮に侵入してくる。
片方がシャツの裾を引きぬきめくり上げ胸に這い登る。もう一方はためらいなく下に伸びた。
「そ、そこは、おい!アニっ」
アニの指先が肉棒に触れた。ズボンの上端でちょっぴり先端を覗かせ、苦しそうにしていたそれは柔らかいものにふれてぴくぴくと震えた。
たちまちエレンの腰が引ける――膝をわずかに立てて尻を持ち上げた形になった。
首筋にかかる少女の荒い吐息が、背中を押す柔肉の感触が、エレンの脳をあぶる。
「う…く…」
「興奮…してたんだ」
ささやくようなアニの声も、どこかうわずっている。
手の中の、初めて触れた異性の性器の反応に驚きと好奇心がないまぜになっていた。
食堂でたまに耳に入る同性異性のひそひそ話から仕込んだ乏しい知識を思い出しながら、好きになった男の体に触れたい衝動をありったけ発揮する。
まずは手を思い切り突っ込んで、手のひら全体で肉棒の形をさぐってみる。アニの手には余る大きさだ。
――…こんなに大きいのか?それに熱くて…脈打っていて…。
実のところエレンの肉棒は体格に比して少々大きめ程度のサイズで、単にアニの手が小さいための錯覚だったのだが―。
――私の身体が、エレンの、これ…をおおきく、した。
そんな事を考えたアニはますます昂ぶった。
以外に華奢な手指でその熱い幹をいっぱいに掴むと、するするとしごき始めた。
軽く浮いたエレンの腰が、ぶるぶるとふるえて跳ねた。
「うあっ!や、やめろ、アニ…っ」
呼吸だけを荒らげたアニは無言だ。草を掴んで快感に耐えるエレンの背のうねりが密着するアニの身体を揺らす。
アニはその背に体重を預けながら、胸を撫で回していた腕もエレンの下腹部に伸ばした。
手のひらで亀頭をくるむ。にじんでいたねっとりとした液体を手のひらに塗り広げ、肉竿をしごく動きにあわせてこねまわした。
湿った粘着くような音と手が布と擦れる音が、次第に激しくなっていく。
耳まで真っ赤にしたエレンは草に額を押し付けて耐えている。
「…エレン…気持ち…いいか?」
小刻みに息を吐くばかりのエレンの反応に、アニはぞくぞくとした。
――気持ち、いいんだ。こんなにぴくぴくして…エレン…可愛い―。
しごいて、撫でまわして、転がして――だらだらとよだれをたらす先端をくりくりとさすって――アニは思いつくままエレンの肉棒をもてあそんだ。
「あ、アニ、アニっ…!」
エレンのなにか切羽詰った声がした。アニはぴんと来る――エレンはもう達しそうなのだ、とすぐに理解した。
そう思うとアニも腹の底がきゅんきゅんと疼いてくる。自分がエレンを射精させる、そう考えたとたん体の奥が燃えるように熱くなった。
からだをさらにエレンに押し付け、エレンの裏ももに下腹部をこすりあわせたとき、それは来た。
アニの手の中のエレンの温度が上がり、ふくれあがった。
「う、くっ…ああぁっ!」
少年のくぐもった呻きと共にびしゃりと草に白濁液が叩きつけられた。
同時に、アニも手の中に二度三度とエレンの痙攣を感じながら、腰を震わせて達していたのだった。
二人は横倒しに転がっている。
エレンは放心状態だ。異性に後ろから抱きつかれ、そのまま手指で射精させられるなど当然人生で初めての事だった。
むきだしになった肉棒にはまだ少女の手が絡みつきゆっくり刺激を与えてくる。若さのせいもあるが、萎える気配はいっこうに無い。
エレンの背中に張り付いたアニは、何か赤子のおしめを替えてやった母親のような、そんな妙な心持ちを味わっていた。
同時にまだまだ物足りなかった。もっとエレンに触れたい――これが最後だから。
アニは身体を起こすと、エレンの肩と腰を引いてその身体をあお向けにひっくり返す。
ようやく闇に慣れたアニの眼にうっすらとエレンの肉棒が映った。まだ大きいままだ。
アニは今度は身体を横たえると、エレンの腰に頭を寄せた。根っこを掴んで肉棒を起こす。
吐息がかかるほど眼前で、アニはそれをまじまじと眺めた。
エレンはもうわけがわからなかった。
ただ自分が何か後ろめたいような後暗いようなことをしている、そんな気が一瞬頭をよぎったが、下腹部に与えられる刺激に思考を中断させられてしまう。
顔を起こすと、自分の肉棒越しにアニの眼が見えた。何をしようとしているのか、エレンがその意図を測りかねたとき、アニの頭が持ち上がった。
――まだ…熱い…変なにおい…エレンのにおい…。
アニは鼻を鳴らすと少しためらった後、濡れ光る肉棒の先端にくちづけていた。
「くぅっ!お、おい…」
射精直後の敏感な肉棒にやわらかなキスを捧げられて、エレンはたまらず呻いた。
それを聞くなり、アニは舌を差し伸ばす。亀頭の裏をそろそろと舐めまわし、吸い付いた。
何度も跡が付くほど強く吸いついて、舌の先でくすぐる。先端から垂れる残滓も迷わず舐めとりながら、エレンの顔を見つめた。
「うっ…」
エレンは思わず息を飲んだ。
普段は怖いほど張り詰めた凛としたアニの顔が、耳まで真っ赤にして瞳を潤ませている――それが、自分の肉棒の向こうに見えるのだ。
その濡れたくちびると赤い舌がうねるたび、頭が真っ白になりそうな快感がのぼってくる。
アニは霞がかかったようなエレンの顔を見て、少し得意な気分になった。
――感じてる、エレン。いつも必死な顔で訓練しているのに…。
エレンの反応から、アニはコツが分かってきた。肉棒の先端、亀頭の周辺が、エレンは気持ちいいらしい。
――ここが弱いんだ。だったら…。
アニはくちびるをひらくと、エレンの先端をぱっくりとくわえ込んでしまう。
「あ、アニっ!それはっ…」
エレンはたちまち情けない悲鳴をあげた。
舌が裏筋で暴れまわっていた。同時に吸いつきながら、アニはゆっくり頭を上下させ始める。
さすがに恥ずかしいのか、アニの瞳は閉じられている。
エレンはもう気が気ではない。
興奮と混乱で頭がどうにかなりそうになっている。草を掴んでいた手も宙をさまよっているような有様だった。
ふと視線を動かすと、頭が動くたびに小刻みにうねっているアニの腰のあたりが目についた。
上着の裾がめくれて、白い腹筋が覗いている。エレンはそこに手を突っ込んだ。
「ぷあっ…!エレン?」
驚くアニを無視して、エレンの手はアニのズボンの中をかきわける。
「エレン…や、やめ…ろ…」
アニは一応かぼそい抗議をしてみるが、もう自分もたまらなくなっていたところだ。
エレンが手を出さなければ自分で手を伸ばしていたかも知れない。恥ずかしさよりも嬉しさのほうが先にたった。
言葉とは裏腹に、アニは腰をエレンの方に僅かに寄せると閉じられていた膝を僅かに持ち上げていた。
エレンの手が、すぐに手触りの良い布地にあたる。それは下着だったが、両足の付け根の方を目指してその中に潜り込んだ。
すでにしっとりと湿ったそのあたりを、文字通り手探りで這い回る。
うすい茂みのようなものをかき分けると、指の腹になにかぷっくりした芽のようなものが当たった。
「んぅっ!」
もっとも敏感な所をまさぐられて、アニが喉をならした。
――触っている。エレンが私に触っている。ぐちゃぐちゃになっている、私…。私がこんなになるなんて――。
エレンの手はアニの肉の芽をひとしきり転がすと、その下の割れ目に這いよってゆく。
ぷるぷるとした肉をかきわけて、すでに潤っている入口のあたりをこねまわした。
少年の手指の動きは利き腕ではないせいか荒っぽくぎこちない。それでもアニは気が遠くなりそうになった。
肉棒を咥えているため声こそ上げないが、まるで猫みたいに切なげに喉をならし、身をくねらせた。
「へ…なんて顔、してやがる…泣く子も黙るアニ姐さんが、よ…」
エレンの減らず口も語尾が震えている。恥じらうアニの顔に恐ろしいほどドキドキして、逆に肉棒に感じる官能が高まってしまう。
アニはその台詞に少しむっとしたのか、ちょっぴり歯を立てて口中の肉棒を甘噛みした。
――う…うるさい、そっちだって馬鹿みたいな顔になっているくせに――。
アニは心のなかでそう毒づくと、亀頭に強く吸いつくき先端に舌先をねじ込み暴れさせた。
「うぁっ!あぁっ…!」
エレンの脚がばたつき、草を蹴った。跳ねた草がそよぎ始めた夜風にのって散ってゆく。
少年の顔も少女の顔も、もうお互いが与え合う快感でとろけきっていた。
ずっとその快感を味わっていたいくせに、二人の絶頂へと必死に手指と舌を働かすその動きはまるで遅くならない。
もっと激しく、もっと気持よく――アニが吸い上げ、エレンが指を食い込ませた。
「あ、あああああっ!」
こらえかねたエレンの腰がはねあがった。
いきなり喉奥を突かれたアニは、反射的に肉棒をちゅぽんと吐き出していた。
同時に大きく脈打った肉棒から二度目とは思えない量の粘液がほとばしる――。
それはアニの頬に跳ね飛び、朱に染まった肌を白濁色に汚してゆく。
アニもエレンの温度を感じながら、腰を震わせてのぼりつめていった。
二人の荒い吐息が風にまぎれている。
アニは大の字のエレンの腿を枕に転がっていた。
口の端に垂れたエレンの絶頂のあかしを、赤い舌で舐めとった。
――変な味。でも…不思議な味。エレンの味。…もっと。もっとだ。もっと欲しい――。
アニは靴を蹴り出すように抛り出した。
横になったまま自分のズボンに手をかけ、ゆっくりと引き下ろしてゆく。自らの粘液で重く湿った部分が肌から離れ、風が白い尻肉をなでた。
驚いたエレンはがばりと上体を起こしていた。
「お、おいアニ!何してんだよ」
無視したアニは膝立つとエレンの腰をまたぎ、腿の上に座った。
エレンの肩に手を置いて、じっと見つめる。多少落ち着いてはいるが、いぜん白磁の肌は赤く染まったままだ。
濡れた瞳を向けられて、エレンはまた狼狽した。
あらわになったアニの白い脚がエレンの腰に当たっていた。そしてさっきエレンの指がかき回したアニの秘部が、反り返った肉棒の付け根に触れている。
「お…お前…」
「…」
無言のアニの手が下に伸びて、まだ勃ったままのエレンの肉棒をそっと掴んだ。
もうアニが何をしようとしているかは鈍いエレンにも明白だ。
エレンの額に汗が浮かんだ。
「い、いや、いやいやいや!こ、混乱つうか流されちまったけど!…こ、コレって…セックス…だよな。いいのかよ、お前」
「…さい」
アニの唇がわずかに動く。
「あ?」
「…うるさい。わ、私は好きにするって言っただろう。さっき、負けたくせに…言うとおりにしなよ」
言い訳がましいアニの顔は、まるで駄々をこねる子供のようだ。普段の氷のように落ち着いた印象はもうどこにもない。
あるいはこれが、彼女が抑えつけてきた「年頃の少女」の顔なのかも知れなかった。
「負けって…。…で、でもいいのかよ、普通こういうことは好きな奴と」
もごもごとそこまで言ったエレンの唇が、いきなり塞がれた。
アニのうす紅の唇が押し当てられていた。
眼をとじたアニの、何か必死な表情が、エレンの胸をついた。
「エレン」
唇を触れさせたまま、アニが名を呼んだ。それは自分の心を顧みるためのつぶやきだった。
――さっき授業料なんて言葉を使ったのも、照れ隠しの言い訳だ。詭弁だ。欺瞞なのだ。
本当は、…本当に本当の所はエレンの心も欲しい。
だが、どっちみちそれは手に入らない。どうせ望んでも無駄なものなのだ。
エレンにはミカサがいるし…それにこの男は調査兵団に進んで壁外に出る。
少なくとも巨人を殺すという目的、その一点だけはこの男の中では絶対に変わらない。
そしていつか、そう遠くない未来のいずれかの時点で死ぬだろう。
同じ時間は過ごせない。
だから、今。今しかないから――
アニは唇を離すと、濡れた声をエレンの唇に注ぎ込んだ。
「…今だけだから。今ぐらい…私のものになりなよ」
いつのまにか、風に流れた雲間から月光がもれていた。
漆黒の闇をほんのり薄く照らす明かりが、地上の人影を浮かび上がらせていた。
エレンの頭は真っ白になっている。
少女の言葉を聞いた時から、なにか物語の中にでも放りこまれたような、そんな心地になっていた。
アニはゆっくり膝立ちになった。
その手がエレンの肉棒を導いて、先端をみずからのやわらぎの入り口へあてがう。
そしてゆっくり、ゆっくり腰を降ろしていった。
アニの押し広げられた肉がエレンの先端を飲み込んでいた。
初めての経験に引き伸ばされた時空感覚が、1ミリごとに襞をかきわけるエレンの肉棒の感触をアニの脳裏に刻みつけてゆく。
――入って来た。エレンの、これ。…私の中に。
熱い。熱い。熱い。熱い。エレンの温度。私のもの。今は、私のもの――。
アニの体の奥底で何かが開いてゆく。同時に、エレンに挿入されている側の自分が、何故かエレンの身体の中に沈み込んでゆくような感じもした。
エレンは先端にうっすらと抵抗を感じた。
それが何かもよくわからないまま、眼前のまぶたを閉じた少女の目尻に浮かんだ光る粒を、とても綺麗だと思って無心に見ていた。
抵抗は何かぷちん、という感覚と共に消え失せた。いつの間にか――膝を折ったアニがエレンを根本まで飲み込んで、腰の上に座っていた。
「…っは…あ…ぁ…エレンん…」
アニは呼吸するのも億劫そうにおとがいをそらしていた。
ひょっとしたらエレンを奥まで迎え入れて、軽く達してしまったのかも知れない。
切なげなその顔を見て、エレンは初めて、この少女を可愛いと思った。
同時に腹の底から吸い込まれてゆくような快感が駆け上ってきた。いままさに、自分は異性の体内に入っているのだと思いだした。
少女の手がそっと持ち上がる。
エレンの上着の裾を掻き上げると、そろりと腹から胸を撫で上げる。
「エレン…動く、よ…」
鎖骨の下でそれが止まると同時に――少女のからだが波打った。
膝を使って腰を持ち上げ――脱力したようにエレンの腰の上に尻を落下させる。
破瓜の余韻など、アニは一瞬で消化してしまったらしい。
その動きは貪欲にエレンを貪ろうとする昂ぶりそのものだった。
「うぉっ、い、いきなり、アニ!」
「エレン…熱い、よ…。熱くて…痺れ、る…!」
肉棒で自分の中をかきまわすようにアニは震えながら腰をひねくる。
鍛えられた体幹の肉が尻肉を自在に捻転させ、エレンの肉棒を食い締め、しぼりあげていた。
「ふぅっ…あぁっ…!んぅぅ…!」
アニの喘ぎは動いているせいもあるが、恥らいもあって押し殺すようだ。
「うぁ…アニ、やば…い…」
アニの汗が跳ね飛び、エレンの頬に当たる。
エレンは腰から下がまるで溶けてしまったような快感にさらされていた。
アニが上下するたび揺れるたび、肉棒がアニの奥へ吸い込まれそうになる。腹の底をしっかり締めておかないと、たちまち搾り取られてしまいそうだった。
一度だから。これっきりだから。
そんな自分に課した制約がむしろアニの欲情をあおっていた。
自分の腰のひとうねりごとにぴくぴく痙攣するエレンの反応がたまらない。
吹きこぼれる愛液がエレンの衣服に染みとなってもまるで気にしない。
むしろ乱れる己のさまをエレンに見せつけるようにただむちゃくちゃに腰を振りたくる。
アニはエレンの中に、この時間を刻みつけておきたかったのだった。
いずれやってくる訣別の時を過ぎても、そう、この男が息絶えるその時まで、自分の事を忘れないように、と。
「エレン…いいか…?私のなか、気持ちいいか…?」
「そ、そんなこと…」
いたずらを見つかった小僧みたいなエレンの表情が可愛かった。
アニは喘ぎながら、エレンの胸を爪を立てて掻きむしる。背中にも手を回し、爪を立てた。
「なんと言おうと、わかる。つながって、いるんだから。イイんだろ…?エレン…?」
無言でこくりとうなずいたエレンの動作がアニをさらに興奮させた。
エレンの上着の襟をはだけるとあらわになった首筋にむしゃぶりつく。エレンの汗の匂いをかぎながら、歯を立て甘噛みし、吸い付いた。
いっとき自分のものになった男に自分のしるしを残しておく、それはマーキングだった。
「うおっ」
エレンは下腹から湧き上がる快感に意識が飛びそうになっていたが、首筋の痛みで我に返る。
そしてその痛みすら、じんわりと甘い官能に変わってくるのが不思議だった。
エレンに抱きついたアニはさすがに疲れたのか、腰を押し付けてうねらせるだけになっていた。
――もっと。エレン、もっと。
少年の背に立てた爪を食い込ませ、血が出るほど抱きしめる。
「…エレン、動いて」
アニはエレンの耳元でささやいた。そしてゆっくり膝を立て、脚を持ち上げるとエレンの腰の後ろで組み合わせた。
エレンは全身ですがりついてくるアニの身体の小ささに驚いていた。
先程の立合いでそれを感じなかったのはアニの持っている技術とそれからくる畏怖めいた感覚もあったのだろう。
肉と肉をつなげた今では、アニのからだはさほど体格に恵まれていないエレンよりさらに小柄な、やわらかくてあたたかい「女の子」と感じられる――。
「…うごいて」
その「女の子」が、もう一度同じ言葉をあげた。そのとたん、エレンの胸に何かが燃え上がった。
犯したい。貫きたい。気持よくしてあげたい。気持ちよくなって欲しい――征服欲と献身がないまぜになった、それは奇妙な感覚だった。
エレンはアニを抱きつかせたまま前に押し倒した。
草の上に背を押し付ける。
エレンはそのまま腰を思い切り引くと、アニの奥底へ思い切り突き込んだ。
入り口のきつさも、その奥の広がりと襞の変化も、そして最奥の門のすぼまりも――全てが初めてで、新鮮な快感だった。
何度も何度も、それを繰り返すうち――
「ふぁあっ!」
アニのくちびるから、聞いたこともない声が上がった。エレンは耳を疑った。
思わず顔を上げ、アニの表情を覗き込む。アニは真っ赤になって眼を伏せた。
「ばか。…なんだよ…み、見るなよ…」
同時に奥底へ引きこむかのように肉棒をつつむ襞がぞわりとうねる。
それがあまりに気持ち良くて、エレンはたまらずそのまま腰をぐるぐるとねじこんでゆく。たちまち悲鳴のような喘ぎが上がった。
「あぁぁあああっ…あばれ、てる…エレン、が…」
間違え用もないアニの声が、もう濡れて溶け落ちそうになっていた。威のこもった兵士の面影はもう見当たらない。
「エレン、それ、いいから…もっと…もっと…!」
「くそ…アニっ…!なんでお前、こんなに可愛いんだよ…!」
エレンはいわれるままアニの奥底をかきまわしてやる。
背中をまた引っかかれたようだが、そんな事はお構いなしだ。
今はミカサのこともアルミンのことも、巨人のことも忘れていた――そう、今だけは。
アニは解放されていた――獅子の心を持つ、兵士の自分から。父の残影に苦しむ、影のある少女の自分から。
他者を容れず交わらない、孤高の個人としての自分から。
アニの純粋な感情がエレンに入っていって、もう境目がわからない。
たぶん、エレンが感じている快感を官能を、アニも同じく味わっていた。
大きな波の上で、剥き出しの二人が揺れている。
そんな中、終りが近いという予感が、身を絡める二人の動きを激しくした。
エレンの腰が動く。アニの入り口をこねまわし、肉の芽の裏側を突き上げ、半ばほどのあたりを左右にえぐり――
エレンの一動作ごとに、すすりなくような切なげな嬌声がアニのくちびるから漏れでた。
アニは身をよじり喉をふるわせ、闇夜に憚りもなく喘ぎをひびかせる。
――いっぱい。私の中、エレンでいっぱいだ。…もう気が遠くなりそう。…力が入らない――
望んでも求めても、もっともっとと渇いていたアニの何かが、いっぱいに満たされつつあった。
同時に消えかかる意識が、絶頂への予感を知らせていた。
そしてそれはエレンも同じだった。出すものがある男のほうがそれは切実だったかもしれない。
いつの間にか限界はすぐそこに近づいていたのだ。
「アニ、俺…もう…」
「…いい…よ…このまま」
アニはそう言うと、脚をしっかり組んでエレンの腰をロックしていた。
「おい、おまっ…!」
くすり。一瞬の抗議をやわらかく笑うと、アニは少年の耳にそっとささやいた。そう、幾度もこの男に投げかけた言葉を――。
「…遠慮なんて…しなくていい…から…」
「…っ!あ、アニっ…!」
その刹那、エレンの身体がひきつった。
低い呻きと共に、アニの奥底にエレンの精が叩きつけられる。
二度、三度、長い長い射精の脈動がアニの脳髄を灼き、闇を真っ白にそめあげてゆく。
心臓の鼓動だけが白い闇に満ちていった。
…心臓には人の心が宿るという。その一刻に、アニは己の獅子の心臓に宿った心を解き放っていた。
「エレン…あんたが、好き…」
たぶん一生で二度と無い、まごころを――「心臓を捧げた」瞬間だった。
アニはエレンの背を抱きしめたまま、そっと眼を閉じていった。涙がひと粒、草の葉に跳ねて散った。
数日が過ぎた。
エレンはその後アニと何度か顔を合わせたが、彼女はいつもと別段変わりもないように見えた。
いつものごとく冷静で、冷淡で、刃のような眼をしている。
あの一夜の交わりは、まるで夢か幻だったかのようだった。
エレンの方は大変だった。気がついたらアニは消えていたし、兵舎に戻ったら戻ったで汗と草と土にまみれた格好は目立った。
ズボンの股ぐらのあたりにはうっすら血のようなものも付着していた。
風呂に入れば何箇所ものひっかき傷に湯がしみる。それになにより首筋のアニの噛み跡を隠すのに一苦労だったのだ。
ライナーやアルミンに突っ込まれたら、そしてそれがミカサに伝わったとしたら?
何が起きるか想像もできないし、したくもない――。
エレンは戦々恐々として日を重ねていたのだった。
今日は訓練課程の終了を控えた能力評価試験の初日に当たっていた。
数日にわたって続くこの試験で評価された上位10名までが、卒業後兵科を選択するさいに憲兵団を選択することができる特権が与えられる。
巨人の殲滅や帰郷を志すエレンやライナーなどの若干の異端者をのぞき、
アニやその他同期の仲間達は内地に行ける憲兵団入りを目標に厳しい訓練に耐えてきたのだ。
初日は午前に座学の数科目と、午後から対人格闘術の試験となっていた。
午後、対人格闘術の試験。
訓練兵は何人かづつグループ分けされ、そのグループ内で総当りで試合を行う。
その試合を、眼を光らせる試験官――教官が審判し、評価をつけるのだ。
試験は訓練をしていた広場と同じ芝生の上で行われた。
エレンはライナーやベルトルトなど、強豪が揃ったグループで勝利を重ねた。
身体が軽くしなやかに動き、技はその局面で必要なものが適切に繰り出される。
体格に勝る相手には打撃に付き合わず、引きこんでの寝技で末端を極めあるいは締める。
同程度の体格の相手は打撃で圧倒した。
エレンはこの対人格闘術の試験評価で全訓練兵で2位の評価を受けることになる。
最後の試合を終えたエレンが控えの場所に戻ってゆくと、革袋が飛んできた。
受け止めたエレンの視線の先には、アニが立っていた。
「お疲れ」
「あ、ああ…」
革袋の水がちゃぷんと音を立てた。エレンの首筋に血が上る。まともにアニの顔を見ることが出来ない。
脳裏には先日、闇夜に明滅した白磁の肢体がちらついている。
アニの表情はだから、エレンにはよく見えなかった。
「…何?」
しかしアニの方はというと、どうやら普段と変りない。
エレンは気をとりなおして顔を上げると、何とか会話をつなごうとした。
「い、いや…まぁ…。見てたんだろ?…ど、どうだ?俺の蹴り技は」
――どうせいつものようにダメ出しがくるんだろうけどな。
エレンがそう思ったとき、アニはうっすら微笑んだ。
そう、それは見間違えようもない、確かに笑顔だった。
「…まあ、いいんじゃない?」
「…あ?…え?!」
振り返って行ってしまった少女を見て、エレンは絶句したままその背を見送っていた。
芝を踏んでゆくアニのそばに、ミーナが寄ってきた。
「アニは試合、これからでしょ?」
「ええ」
ミーナのお下げがぴょこんと跳ねる。
「アニ、何か機嫌いい?…んー、またちょっと変わった?」
ぴたり、アニは歩みをとめた。微かに口の端をほころばせる。
「おかげさまで」
それだけ言うと、またすたすたと歩き出してゆく。
一瞬きょとんとしたミーナは、友人の言葉を反芻すると、思わず声を上げていた。
「…ん?えっ!えええええ?!」
試合の場へ歩んでいくアニの背中が、それを聞いてまるで含み笑いをするようにちいさく揺れた。
このときは誰もが、未来を疑わずに笑っていられた。
エレンもアニも、誰であろうとも、この試験の終了からほんの幾日か後に起こることを、いまだ当然知る由もない。
運命は運んでくる。大きな絶望と幾多の死と、そして小さな希望を――。
そう、これから始まる物語を――まだ誰も、知らない。
『獅子ノ乙女宵闇情歌』(ししのおとめよやみのこいうた) 了
最終更新:2012年08月17日 15:02