続々サシャ×ジャン

part1>>401


調査兵団への入団後、新兵達は訓練に明け暮れた。
ほとんどの訓練は次期調査出発地カラネス区への移動や移動先での旅団の設営と
して作戦行動に組み込まれており、新兵達は各々緊張感をもって忙しく過ごした。
各自のスリーマンセル(班長+班員+新兵の小隊)が固定する頃には、新兵が顔を合
わせるのは何日かに1度の座学の時間だけとなっていた。
ある日の夕方、ジャンの班は久しぶりにトロスト区に立ち寄った。その日はトロスト区
での外泊日として外出が許可され、先輩方は馴染みの酒場で大いに盛り上がった。
ジャンもしばらくつきあったのだが、日頃の疲労が出たのかもともと酒に強くなかった
のか、具合が悪くなって宿営地(と言っても訓練学校の校庭)に帰されてしまった。
携行用の簡易ベットと資材で一杯の狭いテントの中、ジャンは一人気持ち悪さをこら
えてまんじりともできなかった。テントの外からは時折、宿営地を出入りする他の班の
ざわめきが聞こえてきた。
やがて夜も更け、どうにか吐き気もおさまったので、水を飲みにテントを這いだした。
もちろん食糧や水は班で携行していたが、ジャンは冷たい井戸の水が飲みたかった。
勝手知ったる訓練学校の敷地で暗闇でも迷うことなく食堂の裏手の井戸に辿り着
く。


かすかな月明かりを頼りに汲み上げポンプの中に水が残っていることを確認して
アームを上下させると、キィキィという音はやがて手ごたえとともにガボガボと
いう音に代わり、注ぎ口から勢いよく水が飛び出した。
ジャンは顔を洗い、水を飲み、ようやくひと心地がついた。
ふと、背後の厨房で物音がしたような気がした。
振り返ると、消灯したままの厨房の勝手口が開き、人影が出てくるところだった。
人影はまっすぐ近づいてきて、足元のタライに屈み込んだところで初めてこちらの
存在に気づいたようだった。よほど驚いたのか後ろに飛びすさった。ごとん、と何
かが落ちる気配がした。
「あ、こんばんは」
ジャンは慌てて挨拶をした。班が学校の許可を得ているので井戸使用をとがめられ
るはずもないのだが、時間が時間なので身許を明らかにしようと気を利かす。
「夜分すみません、自分は調査兵団所属一等兵ジャン・キルシュタインであります。
軍務で宿営のお許しをいただき、ごやっかいになっております」
敬礼の姿勢で名乗ったのだが、相手の反応が鈍い。距離をおいたままこちらの様子
をうかがっているようなので、引き続き怪しいものではないと弁明を続けようとし
た時、予想外の返答が返ってきた。


「…ジャン?」
かすかな小声は、聞き覚えのある女性のものだった。同期で入団したあいつだ。
「…サシャか?お前なん…」
ジャンが驚いて声をあげると、電光石火の勢いで手が伸びてきて口をふさがれた。
「シッ、静かに」
一言ささやくと、次の瞬間サシャは足元に落ちた何かを拾い上げ、ジャンの腕を強引
に掴んで演習林に向かって走り出した。そのあまりの気迫にジャンは敵襲なのかと聞
こうとしたくらいだったが、すぐに別の可能性に気づき、黙ってサシャについて走った。
サシャのとった行程は荒っぽかった。腐葉土で足跡の残りにくい林を通り、長靴を脱
いで小さな池を歩いて渡り、最後に舗装された街道に出て完全に追跡を不可能にし
てみせた。しばらく歩き、追手の気配がないことを確かめてからジャンはサシャの背中
に声をかけた。
「…で。戦利品は…なんなんだ?」
ジャンの息はまだあがっていた。落ち着いたとはいえ、弱った体には負荷の大きい強
行軍だった。声をかけられたサシャは黒髪をぎくっと揺らし、立ち止まって振り返った。
「えへへ、お見通しでしたか~」
サシャは疲れた様子も見せずに、薫じた肉の塊りを嬉々として出して見せた。
「お前…」
「あー大丈夫ですよ~、これは私のお肉です。食堂の冷蔵庫をナイショで使わせても
らったのは悪かったですが、出してきただけですから~」


「んなわけねぇだろ、いったいどうやって入手したんだ」
「本当ですって。もう学校にいない上官のを…以前いただいたんです。誰にも咎めら
れたりしませんて」
「じゃなんでここまで逃げたんだよ、お前の班、今夜どこにいるんだ」
ジャンは宿営地のことを気にした。今歩いている街道なら、いくつかの分岐を経れば
すぐに校庭に戻ることができる。騒ぎになっていなければ、そしらぬ顔で先輩方が戻
る前にテントに帰れるだろう。
「…学校の校庭です…。ジャン達が設営した隣に後から来ました」
「…やっぱ逃げたんじゃねぇか」
口では冷たく言ったものの、サシャの目的地が同じだったことが分かり、ジャンはなに
かほっとした。
「とっさに仕方なかったんです。あそこで話すのを聞かれてもまずいと思って」
「…変なことに巻き込まないでくれよ」
「絶対大丈夫です、約束しますよ」
「はぁ~、何やってんだか…」
大げさに嫌がって見せたが、本心ではなかった。敬語の毎日が続いた後だったので、
久々の同期との気軽なやりとりはなんだか懐かしかった。相手がサシャということも大
きい。妹分、というほどではないが、謙虚さのないジャンを面倒くさがらずに接してくれ
る貴重な…ある意味変わった女の子だったから。


サシャは、超大型巨人の出現のせいで皆と食べる約束をした「この肉」を食べ損ねた
経緯、巨人襲撃の後奇跡的に壁の上から再発見できたことなどを聞かれもしないの
に説明した。
ジャンは正直な人間は好きだった。サシャにしてもコニーにしても、馬鹿だが悪いヤツ
らではないと認めていて、また、あれだけ喧嘩を重ね、散々嫉妬しているエレンに関し
ても、彼が常に本音であるからこそできる喧嘩だった。
(エレンや…ミカサはどうしているのか)
口外を禁じられた異常事態(巨人から出てきたエレンをミカサが抱え出したこと、エレ
ンが巨人になってミカサとアルミンを救い、軍の秘密兵器として扱われていること)を
思い出してしまい、ジャンはそれを振り払おうとサシャに声をかけた。今やるべきこと
に集中すれば、答えの出ない考えを頭から締め出せることをジャンは心得ていた。
「お前、こんなに長い間抜けだしてて大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、先輩方は酒場に行きましたもん。あれはオールする勢いでしたよ」
「そうか。どの班も似たり寄ったりだな」
壁外調査を控え、ハメ外しが大目に見られるのは周知の事実だった。また、トロスト区
には花街があることは新兵ですら知っていた。
「だとしても、バレないうちにさっさと帰るぞ」
「はーい」


ジャンがもう怒っていないことに安心したのか、サシャは笑顔で答えて速度を上げた。
慌ててついて行くジャンは「待ってくれ」とも言えず、校庭に着く頃には息も絶え絶えに
疲れていた。
校門の守衛をどうごまかすかという問題は、勝手知ったる訓練学校のこと、街道から
もぐりこむ秘密の出入口を使うことで解決できた。二人は難なく校庭の宿営地に戻り、
それぞれのテントの前で別れた。
「それじゃ」
「おやすみなさい」
ジャンは挨拶もそこそこにテントにもぐりこんだ。まだ誰も帰った気配のないことを確か
め、予想外の運動で汗に濡れた服を脱ぎ、体を拭いた。涼しい夜気が心地よかった。
「ジャン、入っていいかな」
突然サシャの声がしたので、ジャンは文字通りびくりと驚いた。
「や…ちょっと待ってくれ」
下着一枚でいたので、慌ててシャツとスパッツを身につける。脱ぎ散らかしてあった服
を背嚢につっこみ、「どうぞ」と出した声は少しうわずっていた。
「何度もごめん、どうせなら一緒にお肉を食べようと思って…」
入ってきたサシャも、シャツとスパッツの簡単な恰好に着替えていた。手には、先ほど
の塊りから切り取ったら肉の切り身を持っている。ランタンに照らされたサシャは瞳が
きらきらと輝いていて、なんだか初めて会う人のようだった。


「どういう風のふきまわしだよ、お前が食べ物を分けるなんて…」
「えへへー、やっぱりこのお肉は一人で食べるのはもったいなくて」
照れ笑いなのか、あまり見たことのないサシャの表情にジャンはどきっとした。また、
驚きながらも、酒のせいで食べ損ねた夕食を食べられるかと思うと、気遣いが素直に
嬉しかった。
「狭くて悪ぃけど…まぁ座って」
サシャを簡易ベッドに座らせ、自分は床に背嚢を置いてあぐらをかく。サシャが肉を半
分よこした。なかなかの分量で、持ち重りがした。
「こんなにいいのか?」
ジャンは思わず尋ねた。
「うん、大きいから大丈夫、他のみんなにも分けますよ」
「とか言って、我慢できなくて途中で喰うなよ」
「ジャン、それひどいですね。まぁ、あんまり時間がたつようなら傷む前に食べるかも
しれないですけど。…本当はパンがあればいいんですけど、今日はこのままですね。
早く食べましょう」
「そうだな。…いただきます」
しばらくの間、二人はもくもくと燻製肉-いわゆるハム-を味わった。上官の所持品だっ
ただけあってなかなか美味しく、何よりこれだけの量をじっくりと味わえることが至福
だった。
「あー美味しかった…もっと切ってきましょうか?」


自分の分を食べ終わり、まだ最後の一枚を食べているジャンを見ながらサシャが聞い
た。ジャンはそれを飲み込むと、自分の腹具合を確かめながら慎重に答えた。
「…確かに全部くっちまいたいくらい美味かったが…オレはもういいかな」
もっと食べたいのも本心だったが、夜遅くの(食べ慣れない肉の)食事が明日にたた
る気もしたし、どうやら複雑な経緯を経た肉を他の同期にも味わってもらいたいのも
本心だった。
「そうですか…ジャンがそう言うなら…そうします」
若干未練を見せつつ、サシャも同意する。満腹感と連帯感がないまぜになり、二人は
不思議な幸福感に満たされていた。
「ね、ジャン」
サシャがのんびりと口火を切った。
「その…前にキスした時のこと、覚えていますか?」
覚えているも何も、ジャンもたった今、早朝の林の中での思い出を反芻していたところ
だったのだが、ついなんでもないフリをしてしまう。
「え?…ああ、まぁな…そんなこともあったな」
サシャは追撃の手をゆるめなかった。
「ジャンは…あのキスは気に入りました?」
「気に入るっておまえ、んな勢いでやっちまったものをどう言えと…」
見上げた先にあったサシャの瞳がこちらを見つめており、ジャンはまたしても目が離
せなくなった。


記憶にあるのと同じ、かすかに甘いサシャの香りが感じられる。このまままたキス…
もしかしたらその先…に進むのだろうか?
予想に反して、サシャが近づいてくる気配はなかった。それどころか、静かに目線を
外すと下を向いて気弱な声でつぶやいた。
「ごめんなさいね…強引なことをして」
気勢を削がれたジャンはサシャの表情をうかがった。戸惑う空気に気づいたのか、
サシャは顔を上げて笑顔を作った。
「やだな、そんなに困らないでください~。ちょっと思い出がほしかっただけ…ジャンの
気持ちも考えないでごめんなさいね…えっと、そろそろ行きますね…」
サシャは立ち上がった。目の前をサシャの白い手が横切った時、ジャンはとっさにそ
れを掴んでしまった。自分の行動に慌てながらサシャを見上げると、驚きが混じった
笑顔がそこにあった。こういうのなんて言ったっけ…毒をくらわば皿まで…?
若干失礼なジャンの思考をよそに、サシャはつながれた手の温かさを全身で受け止
めていた。嬉しかった。…嬉しかったが、ジャンの目の鋭さが気になった。…そういえ
ば、ジャンて経験がないみたいだったっけ…もしかして緊張しているの…?…かわい
い…。今度はサシャが目を逸らせなくなる番だった。


ランタンに照らされたジャンのまっすぐな鼻筋、かくばった顎をまじまじとながめなが
ら、高まる心臓の鼓動が下半身のずきずきする感覚を強めているようで恥ずかしかっ
た。ジャンの顔先にはやばやと腰があるのが嫌で、手をつながれたままストンとベッド
に逆戻りする。
サシャを引き戻した格好になったことで、ジャンは遂に覚悟を決めた。手をつないだま
ま中腰になって顔を近づけ、サシャの唇に触れた。
唇は湿っていて、温かかった。覚えのあるサシャの甘い匂いがした。サシャが小さく口
を開け、舌で舌に触れてくる。ピコピコと挨拶をしているようで可笑しかった。ちょっと
顔を離してサシャを見ると、サシャも笑っていた。
多分何かのスイッチが入ったのだろう。自分でも驚くほど早く、次にすべきことが
イメージできた。ベッドに座るサシャを優しく抱きながら、一緒に横向きに倒れていく。
狭い中だが、二人とも筋力があるので周囲にぶつかるようなヘマはしない。サシャを
仰向けにさせてシャツのボタンを外し、喉、胸元、下着越しに胸にキスをする。甘い匂
いにくらくらした。サシャが手を伸ばして頭を抱いてくるのが照れくさかった。
下着の下から両手を入れ、乳房をたぷたぷと揉んだ。肌がしっとりとしていて、手のひ
らに吸いつくようだった。寒さが気になったが、下着をたくしあげて両方の乳房をあら
わにしてみる。


陽に焼けた首から上と違って乳房は白く、青白い血管が透けて見えそ
うだ。たっぷりした乳房の上にちょこんと乗った小さい乳輪とピンク色の乳首が可愛ら
しい。ジャンは躊躇なく、つんととがった乳首を吸った。
「ひゃ…」
頭に置かれたサシャの手に力が入った。気をよくしたジャンは強く弱く、乳首を吸い続
けた。また、反対側の乳房も、寒くないように片手でしっかりと覆って揉み続けた。
じわじわとサシャの体が汗ばんでくる。同時に、スパッツに阻まれた股間が痛くなって
きた。
「サシャ、いっかい脱ごう」
色気がないと分かってはいたが、この狭い場所でサシャを脱がして自分も脱ぐのが
得策とは思えず、ジャンは休戦を申し込んだ。
「…ふぁい」
身を起こしたサシャが乱れた髪の毛を顔から払うと、見たことのない潤んだ瞳が現れ
た。ぼうっと上気した頬が陶酔を物語っている。
「…大丈夫か?」
優しくたずねたつもりだったが、かすかに達成感が滲んでしまう。
「もう、はずかしいですぅ、そんなに見ないでくださいぃ」
サシャははだけた胸を隠しながら顔も隠そうとするので、いっこうに脱衣が進まない。
さっさと下着一枚になったジャンは、脱いだ衣類をまとめながらちゃちゃを入れた。
「おいおいたのむぜ、きっちりご指導ご鞭撻してくださいよ」
「なんでそんなに余裕があるんですか、ずるい」


「なんでと言われましても…」
「ずるいずるい。やだ、もう…明かりを消してくださいぃ」
そう言うなり、サシャは吊り下げてあったランタンに手を伸ばしてつまみを一気に回し
た。ランタンの芯が引っ込み、ジジジという音とともに炎が消える。明るさに慣れてい
たせいで、何も見えない真っ暗闇が訪れた。
「なんだよ、消すなよ…」
思わず抗議するジャンに、サシャは答えない。
静かな衣ずれの音だけが、黙って服を脱いでいる気配を示していた。
ランタンの煙の匂いに、かすかに甘い酸のような匂いが混じった。
「ジャン、ずるいですよ」
ベッドの横にいたジャンに、サシャの温かい裸身が正面から抱きついた。豊かな胸が
自分の胸に押しあてられ、ふわふわした陰毛が腹にあたる。どうやらサシャは簡易
ベッドの上で膝立ちしているらしく、顔がジャンの顔とほぼ同じ高さにあった。ジャンは
手探りでサシャの背中や、引き締まった、けれど男よりははるかに柔らかい尻をまさ
ぐった。
サシャの胸が離れ、今度は頬を両手で包まれた。サシャの手は…女性にしては硬い
方だろう。兵士の荒れた手だ。でもとても温かかった。サシャが遠慮がちにそっと口づ
けてくるので、ジャンはサシャを引き寄せ、こちらから舌を差し入れた。
「ん…くちゅ…ジャン……ジャン」


中で応えてくれる舌に、自分の舌を絡める。
「サシャ…」
「…はぁ…ジャン美味しい…」
以前サシャに聞いた、キスで相手の好き嫌いを判断する云々の話を思い出し、ジャン
は密かに安堵した。
サシャはジャンの頭、首、肩など場所を変えて触れてきた。やがて両手が腰まで届く
と、下着を下げて尻に触れてくる。ジャンは片手でサシャの背中を支えつつ反対の手
を下ろし、下着の中で限界まで硬くなった先端を取り出すとサシャの茂みに差し込んだ。
中は温かく潤っていた。優しく前後に擦り動かしながら、先端の花芯、中央の窪み、
後ろの窪みの位置を確認し、それぞれの反応を確かめる。前方と中央に触れる度に
潤いが増した。
「あぁぁ…ジャン…気持ちいぃです……ひゃう!」
ジャンの先端がサシャの先端に触れると、サシャはびくりと体を震わせた。この頃に
は目が暗闇に慣れていたので、白く反りかえる喉元が見えた。ジャンは一旦体を離す
と、火照ったサシャの頬に手をあてながら軽くキスをした。
「オレも…限界だ…」
サシャを再びベッドに横たえて、上からのしかかった。体液が混ざりあって滑り、勃起
はやすやすとサシャの中に入っていく。
「あ、ああぁぁっ」
サシャはジャンの腰にかけていた両手をぱたりと落とし、求めていた力強さと快感に
身を任せた。背中が弓なりにしなる。


「ジャン、すごい…すごいですぅ…」
サシャの体温が更に上がり、体内の締め付けが徐々に強まる。ジャンは完全に
サシャの中に入ると、すこしずつ前後に動き始めた。締め付けられる快感にぞくぞくし
ながら、背中の下に手を入れてサシャを引き寄せ、更に深く突き上げる。
「サシャ……」
「ジャ…ンが…奥まで…来てる…ああっ!!」
サシャは突き上げられながらとぎれとぎれに声を発した。手をジャンの背中にかけよう
とするのだが、律動と快感に翻弄されて力なく動かすばかり。目の縁には涙が光って
いた。
「サシャ…」
ジャンは目尻にキスをして涙を吸ってから、腰を動かし続けながら、サシャの充血した
突起に指を当ててそっと撫でた。
「だめ、そこは、ひゃう!あぁ!!」
ジャンの指が突起に触れるや、サシャは身悶えをした。それが快感なのか不快なの
か、やめてほしいのか続けてほしいのか自分でも分からないほどの刺激らしく、言葉
もなく苦しげに体を捩る。ジャンは動きを止めてサシャを抱きしめた。サシャを支配し
ている快楽が内側で暴れているかのように、サシャはビクビクと体を震わせた。
「ん…んん…」
身悶えしながらもジャンをさがし、キスを求めてくるサシャの様子に、ジャンは律動を
止めることができなくなった。激しく動くたびに快感で勃起が怒張し、体液が結合部か
ら溢れていく。


「サシャ…もう…」
「ジャン…きて」
サシャは快感のせいで朦朧としているようだった。ジャンは伸ばされたサシャの指を
つかみ、一層激しく突き上げ、一番深いところで動きを止めて絶頂を迎えた。
ジャンが奥深くでびくびくと放出する瞬間、それまで激しく締め付けていたサシャは
弛緩し、優しくジャンを抱きかかえた。
「…ふーっっ」
ジャンは繋がったまま大きく息をついた後、目を逸らしながらサシャと唇を重ねた。
そして目をあわせないままサシャの胸元に顔を乗せたので、サシャは優しくジャンの
汗ばんだ髪を撫でた。
「サシャ……なんて言うか…」
「照れくさいですか?」
「ん……」
ジャンは再び身を起こすと、きつい目でサシャを見つめ、
「ありがとう」
と言い、最後に目をつむってサシャにキスをした。サシャは微笑みながらキスを受け、
「こちらこそ、ですよ」
とつぶやいた。
しばらく抱き合ったあと、やがてジャンが体を離して立ち上がり、背嚢から清拭用の布
を引っ張り出してサシャに差し出した。二人は無言で湿ってしまったそこここを拭き、
使った分を油紙の袋にまとめた。ジャンがランタンを点灯すると、今度はサシャが気恥
しさを感じて訴えた。


「見ないでくださいよ~」
散らばったサシャの服をかき集めて差し出しながら、ジャンが面倒くさそうに答える。
「…お前、右側の乳の下にほくろがあるのな」
「!!見ないで下さいって言ってるのに!」
サシャは服をひったくると、後ろを向いてしまった。
ジャンはテントの中を点検しながら、マッチのリンの匂いで幕内の匂いがごまかされた
けれど、やっぱり入口を開けて空気を入れ替えよう、などと考える。悪酔いの具合の
悪さは、爽やかなけだるさに置き換わっていた。考えたくないのに考えてしまうこと
や、逆に浸り続けていたい状況があったとしても、いつだって目の前のすべきことに集
中するしかないし、それが最善なのだ。次のすべきことは…。
どうやら身支度をし終えたサシャに、ジャンは声をかける。
「サシャ…よだれの跡ついてるぞ」
怒ったサシャが顔を洗いにテントを飛び出したのは言うまでもない。
テントの換気をしながら、無様ににやけるジャンの顔を、夜半に出た下弦の月だけが
見ていた。

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最終更新:2012年08月17日 15:27
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