無題:part1 > 768(オールキャラ) 4


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バタンッ

 玄関のドアを閉めると、その脇にリヴァイ兵士長が壁にもたれ掛かって立っていた。
「どこに行くつもりだ?」
 リヴァイ兵士長がそのままの姿勢で俺に尋ねる。
「ちょっと、散歩に」
「俺も同行していいか?」
「もちろん」
 こうして俺は再びリヴァイとともに街に繰り出すことになった。

「リヴァイ兵士長は訓練には参加しないのですか?」
 俺は石畳の街路を歩きながら、リヴァイに問いかけた
「ああ、足の方は訓練程度ならもう支障ないんだがな、エルヴィンに止められてる」
「それは何故?」
「俺がいると兵団の戦術的成長を阻害するそうだ」
「そうは思いませんが」
 俺がそう言うと、リヴァイは遠い目をして答えた。
「それは建前だ。実際のところは、班を全滅させた人間の下で働きたい奴などいないということさ」
「……」
「ま、実質的に調査兵団という組織からはお払い箱にされたことになるな」
「そんなことは……。」
 俺が口を出そうとすると、リヴァイはそれを止めた。
「いいんだ。考えてみれば俺は今まで個人プレーに走りすぎていた。これをきっかけに兵団が成長するなら言うことはない」
「……」
 再び沈黙。そして、もう少しで街に差し掛かろうというところで、リヴァイが口を開いた。
「お前が要求していたクリスタ・レンズの転属の件だがな」
「……」
「ナナバからの了承を得た。明日にも辞令が出されることになるだろう」
 俺はこのことを聞いてホッとした。これで彼女を巨人との戦闘から引き離すことが出来たからだ。
「リヴァイ兵士長には感謝しています」
 リヴァイはフッと笑って答えた。
「礼などいい。お前の一人目の部下なのだから、しっかり面倒を見てやれ」
「はい」

 その後、俺はリヴァイと二人で街を見て回った。少しだが給料ももらったので日用品等を買うことも出来た。
ここへ来て驚いたのが、異常な物価の高さだ。食料は特に高い。やはり壁内にしか生活圏が無いので、資源が慢性的に
不足しているんだろう。俺はサシャの気持ちが分かったような気がした。
「そろそろ訓練が終わる頃だぞ。戻るか?」
 リヴァイが日の暮れかけてきたのを確認してそう言った。
「そうですね。そうしましょう」
 俺とリヴァイは兵舎に戻ることにした。

 兵舎に着くと、ちょうど夕食の時間が始まる頃だった。俺は自室に戻って荷物を置くと、急いで食堂へと向かった。
「それにしても日本にいたら考えられない刺激の多さだな。時間がものすごく短く感じるぜ」
 そんなことを考えながら、俺は食堂のドアを開け、配膳台のところまで行って、自分の夕食が乗ったトレーを受け取る。
そして、空いているテーブルを探して適当に腰をかけ、食事を始めた。今夜の献立は、パンが二つと、コーンスープ、
豚肉の腸詰をローストしたものと、水……、だな。
 周りの兵士達のトレーを見てみると、相変わらずパンとスープだけだ。俺はいいが、こんなんじゃ一般の兵士達はすぐに
栄養失調になっちまうぜ。こりゃ、エルヴィン団長に掛け合って、何とか兵士達の栄養管理に回す予算を増やしてもらうように
しないとな。まあ、鉄より食い物の方が値段が高い世界だから、難しいことだとは分かっちゃいるが……。
「ユウジ、ここ座っていい?」
 俺が下を向いて飯を食いながら考え込んでいたら、突然誰かに呼びかけられた。この声はもしかして……、と思いながら
上を向くと、目の前には思ったとおりクリスタちゃんが立っていた。
「あ、ああ、もちろんいいよ」
「ありがとう」
 そう言って、クリスタちゃんは俺と向かい合う席に腰掛けた。
「どうしたの? 何か真剣な顔で考え込んでたよね」
 テーブルに両手を置き、俺の顔を心配そうに見つめながら聞いてくるクリスタ。
「ああ……、いや、なんでもないんだ。それより、今朝の二人は?」
「サシャは遠征の訓練で今日は帰って来ないよ。ユミルは班長の命令で隣町まで物資を受け取りに行ってる」
「そうか。大変なんだな、二人とも」
「そうでもないよ。サシャは遠征の訓練とか好きみたいだし、ユミルは隣町を観光出来るって喜んでたし」
「そうか」
 それを聞いて俺は思わず笑ってしまった。この世界の人たちは厳しい環境の中で本当に前向きに生きている。俺の世界の
軍人で、あんな立体起動装置とブレードだけを持たされて巨人に立ち向かっていける奴はいないぜ。戦車かRPGでもあれば
別だけどな。
「クリスタちゃんはどんな訓練が好きなんだい?」
「私が一番好きなのは乗馬」
 クリスタは笑顔で即答した。
「へえ、それはどうして?」
 俺がそう聞くと、クリスタは照れくさそうにしながら答えた。
「私って背が低くってトロいでしょ? でも、そのおかげで体重が軽いから、乗馬をするといつもダントツで一番なんだ。
それで、いつの間にか乗馬が一番好きになっちゃった」
「そうか」
 俺は妙に納得してしまって、笑いを堪えながら返事をした。
「あっ、ユウジ笑ってる」
 クリスタがちょっとムッとした顔で俺をにらみつける。
「笑ってないよ」
 と、その瞬間、俺の口から空気が少し漏れ……。
「あっ、やっぱり笑ってる。ユウジ、ひどいよ」
 クリスタが椅子に座ったまま、腰に手を当てて怒り出す。その仕草がとても可愛らしい。
「ごめんごめん」
 俺は、子供をなだめるように謝った。

「もう……。あっ、そういえば!」
 クリスタがハッとした表情で言った。
「えっ?」
「班長から聞いたよ! 私って明日からユウジの部隊に配属されるんだって!」
 クリスタは大ニュースとでも言わんばかりの表情で俺にそう伝えた。
「なんだ、もう聞いてたのか」
 俺は当然驚くはずもなく、普通にそう答える。
「えっ、知ってたの?」
 クリスタは不思議そうに目を丸くして聞いてきた。
「ああ、だってそれは俺が要請したことだから」
「ええっ!」
 クリスタは今度は驚いて目を丸くした。この娘の目は大きくてクリクリしていて本当に可愛らしい。
「それじゃ、この人事はユウジがやったことなの!?」
「正確には俺がそうしてもらうようにリヴァイ兵士長に頼んだんだけど。まあ……、そういうことになるのか?」
「ええ~っ! ユウジってすごーい!」
 クリスタは興奮しながらそう言った。
「すごい……、のかな……?」
 まあ、確かにすごいのかもしれない。軍隊の人事を変えてしまったんだからな。俺はただクリスタちゃんを守りたい一心で
やっただけなんだけど。
「それじゃ、ユウジ。明日は私、どうしたらいいの?」
 クリスタは俺に指示を仰いできた。当然だ。明日から俺が彼女の上司なんだから。これから彼女のスケジュールは俺が決める
ことになる。
「ああ、そうだな……」
「……」
「辞令が下りるのは明日の昼頃だろうから、午前中は今まで通りナナバの班で訓練をすればいいんじゃないか。午後からは俺の
ところに来て……、訓練だな」
「それで、何の訓練をするの?」
「そうだな……。何の訓練……か」
「選択肢
   乗馬の訓練をする
  →相撲の訓練をする
   プロレスの訓練をする」
 ……おい、またかよ。あのな、どこから俺に指示を出してるのか知らないが、ここは俺がクリスタちゃんをモノに出来るか
出来ないかの正念場なんだぞ。ふざけた選択肢を選んでる余裕は無いんだ……って、もう相撲の訓練をするにカーソルが付いてる
じゃねーか。こうなってしまうと俺はどう足掻いても他の選択肢を選べない……ってことか?
 わかったよ。そこまで相撲の訓練を選ばせたいんだな。そりゃあ俺だって、クリスタちゃんと相撲の訓練したいさ。それじゃ、
言うぞ。どうなっても知らないからな。

「それじゃ、相撲の訓練をしよう」
「スモウ……? 何それ?」
「相撲ってのは太った裸の男たちが土俵という円形の区域の中でぶつかり合う神事のことさ」
「神事?」
「神事ってのは……、簡単に言えば神聖な儀式のことさ」
「それを……するの? でも、それって男の人がすることなんだよね?」
「そりゃあ、神聖な土俵に女性は上がれないからね」
「それじゃあ、出来ないよね」
「そうだね、出来ないね」
「他のことをやろうよ」
「ああ、そうだな……」
 ほら、クリスタちゃん、すごいジトーッとした目で俺を見てるぜ。どうやら軽蔑されたみたいだ。こんなこと、言う前から分かってる
じゃねえか。ううっ、◯学館の某探偵漫画じゃないんだから、そんな目で見ないでくれよ。トラウマになっちまう。今度こそ真面目に選ぼうぜ。な?
「選択肢
   乗馬の訓練をする

  →プロレスの訓練をする」
 やると思ってたぜ……。いいさ、もう何も言わない。お前がそれでいいなら、俺もいいさ。こうなったら一蓮托生だ。行くとこまで行こうぜ。
二人でな。
「それじゃ、プロレスの訓練をしよう」
「プロレス……? 何それ?」
「プロレスってのは特別な衣装を着てリング上で行う、打撃や投げや関節技を用いた格闘技のことさ」
「へえ、格闘技なんだ。面白そうだね」
「やるかい?」
「でも、特別な衣装なんて持ってないよ」
「ま、レオタードとかでもいいんだが……」
「レオタード? そんなの持ってないよ?」
「それじゃ出来ないな」
「そう? 残念だね……」
「しょうがない、他のことをしよう」
 そりゃそうだろう? 衣装もレオタードも無いのにプロレスなんて出来るはずがない。俺も衣装なんて持ってないから、普通のパンツでやるしかない。
想像してみろよ。男がパンツ姿で下着の女性にプロレス技なんてかけてたら、そんなの格闘技じゃない。ただの変質者だろ。やらないぜ俺は、そんな事。
 ほら、やっぱりこれしか残ってないだろ。

「それじゃ、乗馬の訓練をしよう」
「えっ? でも乗馬なら、私得意だよ?」
「俺が出来ないんだ」
「えっ……?」
 クリスタは、信じられないとでも言いたげな顔をした。
「本当に出来ないの?」
 そして、念を押すように聞いてきた。
「本当に出来ないんだ」
 俺がそう答えると、クリスタは本当に理解出来ないという様子で、重ねて俺に聞く。
「でも、ユウジも軍人なんだよね? 本当はちょっとぐらい出来るんでしょ?」
「いや、全く出来ない。馬に乗ったこともない」
 この言葉は、クリスタには少し衝撃的だったようだ。この世界では、軍の人間が馬に乗れないなんて、よほどおかしいことらしい。しばらくポカーンと
俺の顔を見ていたクリスタだったが、そのうちハッと正気に返って、微笑みながら俺に言った。
「ま、そういう人もいるよね。それじゃ、これからは私がユウジに乗馬を教えてあげるね」
「ああ、頼むよ」
「任せて!」
 彼女は快諾すると、食器を片付けるために、食堂の奥に入っていってしまった。その時、俺の食器も一緒に持って行ってくれた。俺は自分でやるから
と断ったんだが、彼女に「いいから」と言われて、ここで座って待っていることにした。

「ねえ」
 すると、座っている俺の肩を何者かが叩いた。俺が顔を上げて見ると、そこにはミカサが立っていた。
「うわっ、ミカサ!」
 俺は驚いて、椅子に座ったまま後ろにぶっ倒れそうになった。
「何、その反応……?」
 ミカサは怪訝な顔で俺に尋ねてきた。
「いや、何でもないんだ。それより、何の用だ?」
 俺がそう言うと、ミカサはそれ以上気にしなかった様子で、
「後でちょっと時間とれない?」
と聞いてきた。
「それはいいが……。どうかしたのか?」
「ううん、どうもしない。ただちょっと話したいことがあるだけ」
「分かった。じゃあ、後で部屋まで呼びに行くよ」
「うん」
 そう言って、ミカサは軽く微笑むと、食堂から出ていった。そこに、ちょうどクリスタちゃんが戻ってきた。
「さっきのって、ミカサ……だよね。ユウジ、仲良いの?」
 クリスタが、ミカサが出ていった食堂のドアを眺めながら、俺にそう聞いてきた。
「ああ。まあ、同じ東洋人だしな」
「あっ……、そう言えばそうだよね。それで、ミカサが何か言ってたの?」
「なんか、俺に話があるんだと」
「そうなんだ。それじゃ、早く行かないとね」
 そう言うクリスタの表情が心なしか暗くなったような気がするが、ヤキモチ……、じゃないよなあ。いくらなんでも。
「うん。じゃ、ちょっと行ってくるよ」
「じゃあまた明日ね」
 そう言って、俺達は手を振ってその場で別れた。俺はその足で、ミカサの部屋に向かった。

 ミカサの部屋の前に来た。

コンコンコン

 俺はノックをして、ミカサからの返事を待つ。
「はい」
「あ、俺。ユウジだ」
「ああ、早かったのね。今出るからちょっと待ってて」
 しばらくすると、ミカサが出てきた。
「お待たせ」
 そう言って出てきたミカサは、いつもの軍服姿とは違い、白シャツ白ズボンのリラックスした格好で、首にはいつもの
マフラーを巻いていた。
「それじゃ屋上に行きましょう」
 ミカサはそう言って、屋上に行こうとする。俺はなぜ屋上に行くのかと疑問を持ったが、ここは黙って従うことにした。
「ごめんね。さっきは邪魔したかしら」
「何の話だ?」
「彼女とのこと」
 ここでいう彼女とは言うまでもなくクリスタちゃんのことだろう。
「いや、そんなことはないさ。別に彼女は俺の恋人でもなんでもない」
「でも、恋人にしたいんでしょう?」
 ミカサは俺を横目で見ながら、確信を持った笑顔でそう聞いてきた。
「他人のことに関してはえらく鋭い奴だな」
「ふふ、見てれば誰でも分かるわよ。彼女といる時のあなた、顔の表情が全然違うもの」
「そ……、そうか?」
 俺はそれを聞いて、何だか気恥ずかしい気持ちになった。もしかしてクリスタちゃんも気付いているんだろうか。
「自分で気付かなかった?」
「いや、全く……」
「そう」
 こんなことを話しながら、ミカサと俺は屋上へと続く階段を登る。俺はミカサの雰囲気が何だかいつもと違うことに気付いていた。
今まではピリピリしていた物腰が、今日は何だか柔らかく感じる。女らしくなった……というか、暖かくなった……というか……。
やっぱり彼氏が出来ると変わるものなんだろうか。
「なあ、ミカサ」
「何?」
「その、エレンって奴とはどうなったんだ?」
 俺はその答えを既に知っていたが、わざとらしく聞いてみた。
「知りたい?」
「まあ……な」
 ミカサはもったいぶってから俺に言う。
「上手くいってるわ。あなたのおかげよ」
 ミカサは小声で囁くように言った。それを聞いた時、急に俺の頭の中にあの時のミカサのあられもない姿が浮かんできた。俺は赤面
して、暗い屋上に出るまで顔を上げられなくなった。

「屋上に着いたわ」
 ミカサは屋上へと出るドアを開け、俺を外へと導いた。そして、
「今日は夜風が心地良いわね」
と言って、美しい黒髪をたなびかせ、
「ねえ、星でも見てみない?」
と促した。
「どうしたんだよ、突然」
 突然のミカサからのロマンチックな申し出に戸惑いながら、俺は夜空を見上げてみた。そこへちょうど吹くそよ風。今夜は確かに
風が気持ち良い。
「星が……綺麗だな。俺がいた世界ではこんなに綺麗に見えなかったぜ」
「そう」
 ミカサはそう言って相槌を打ってくれた。
「あれは……いて座の南斗六星だな。ってことは、こっちが南か。するってーと、こっちを向くとはくちょう座があって、あの星がデネヴ、
その上にこと座のベガ、右にいくとわし座のアルタイル、これが夏の大三角だな」
「へえ……」
 俺の博学に感心したかのように、ミカサは俺の話に聞き入っている。
「夏から秋にかけては、この夏の大三角の各辺を延長して、色々な星座を探すんだ」
「そう……。詳しいのね」
「まあな。こう見えても昔は動く星座盤と呼ばれて、夜になると友達やその親御さんによく呼び出されたりしたものさ」
「便利に使われていたわけね」
「まあ、そうとも言うけどな……」
 アレ?
 今、俺は何か重大なことを忘れてないか……? そうだよ。どうして俺がこの世界の星座を知ってるんだ? いや、違う。どうして、この世界
の星座が、俺の世界の星座と同じなんだ?
「やっぱり……、思ったとおりね」
 ミカサが狼狽える俺の様子を見て、静かにそう言った。
「どういうことだ?」
 俺はミカサに説明を求めた。
「ずっと思っていたんだけど……、あなたがいた世界と、この世界は、実は同じ世界で、時間だけが異なるんじゃないかしら」
「……」
「つまり……、ここはあなたがいた世界の遥か未来の姿で、あなたは何かの原理で、時間だけ飛ばされて来たということ」
「……」
「考えて見れば、あなたと私たちは姿形が似すぎているし、私たち二人なんて同じ東洋人同士、それに……同じ言葉を喋ってる……。
こんなこと、完全な異世界だったらありえないわ」
「……」

 その後、俺はミカサと別れて自室に戻ってきた。ベッドに仰向けになりながら、さっきのミカサの話を何度も反復し、考える。
「確かに……、ミカサの言うとおりだ……」
 だとしたら、ここは俺がいた世界から何年後の世界なんだ? 数百年とか、数千年か……?
 だとしたら……、俺は……元いた世界に戻れるのか……?
 そんなことを考えながら、うとうとと眠りに着こうとしていたら……、

ドンドンドンドン!!

 部屋のドアが激しく叩かれ、俺は何事かと思い飛び起きた。すぐさまドアに向かい、
「誰だ、どうした!?」
と呼びかける。
「俺だ、大変なことになった」
 ドアの向こうから聞こえたのは、リヴァイの声だった。
「リヴァイ兵士長……、一体どうしたんです?」
 俺はドアを開け、リヴァイに問いかけた。
「ここではまずい。とりあえず、部屋に入れろ」
 そう言って、リヴァイは強引に部屋の中に入ってきた。そして険しい顔のまま、小声で俺に言う。
「サシャ・ブラウスという娘のことは知っているな?」
 サシャ・ブラウス……。クリスタちゃんの友達の、あの娘のことだな。
「はい」
「その娘の班が、遠征の訓練中に巨人の襲撃を受けて壊滅した。壁内でだ」
「……!!!」
「知らせを受けた付近の住人が早馬を飛ばして兵団に知らせて来た」
 俺はかなり大きなショックを受けたが、努めて冷静になり状況把握を優先することにした。
「それで被害の方は!?」
「分からん、だがこれから救出に行くつもりだ」
「しかし外は真っ暗ですよ! これじゃ馬も走らせられない!」
「分かっている。だからお前に話しているんだ」
「と言いますと……」
「……お前、あのトラックとやらを運転して救出に行けるか? もちろん俺も同行する」
「場所はどこなんです!?」
「ここだ。そう遠くない」
 リヴァイはポケットから地図を取り出し、それを広げて俺に見せた。リヴァイらしからぬ精巧な地図だ。おそらく
専門家が作ったものだろう。
「ここから、10マイルぐらいか。余裕で行けますね」
「時間はどれぐらいかかる?」
 俺は地図を詳しく見ながら答えた。
「道が良ければ10分かかりません」
 それを聞いてリヴァイは驚愕した表情で言った。
「な……、そんなに速いのか……!?」
「とにかく、準備を」

 俺は急いで準備を開始した。リヴァイからトラックの鍵を受け取ると、すぐさま倉庫に向かい、トラックのカバーを外し、
中に乗り込む。限り有る燃料のことを考えると、後ろに搭載してあるミサイルは下ろしてから行きたかったが、そんなことを
している時間は無い。俺はサシャがまだ生きていることを祈って、キーを回してエンジンをかけ、ヘッドライトを点灯すると
強くアクセルを踏んで急加速で外に飛び出した。
 思ったより、道は良かった。駐屯兵団が豊富な予算を使ってしっかりと整備しているようだ。そのおかげで、俺達は現場に
急行することが出来る。
 走っていて感じたことだが、ある意味、事件が起きたのが夜で良かったかもしれない。昼だったらこの街道に、旅行者や
馬車、軍の騎馬などが大勢いて辿り着くのに余計な時間がかかったことだろう。いや、それ以前に、このトラックを走らせること
自体不可能だっただろう。
 案の定、こんな真っ暗闇の街道には誰もおらず、俺達は100km近い速度で走り、10分以内に現場に到着することが出来た。
「すごい機械だな……、これは」
 リヴァイはトラックの性能に驚いているが、俺はそれどころではない。
「そんなことより、まずはサシャを……!」
 俺とリヴァイはドアを開け、トラックから下りた。現場は凄惨な状況だった。巨人が戯れに食い荒らし、後に吐き出しのだと
思われる四肢がグチャグチャになった粘液まみれの遺体がそこかしこに転がっている。
「クッ……」
 俺はその異臭と異様な光景に頭がやられ、卒倒しそうになった。しかしサシャの顔を思い浮かべ、膝に力を込め、何とか
踏みとどまった。
「酷いな……」
 リヴァイはそう呟きながら、冷静に一体一体死体を確認している。こういうところはさすが本物の軍人だ。
 これが巨人との戦闘か……。俺は今までの甘かった認識を反省し、転がる死体を見回してみた。俺の場合は、リヴァイと違って、
死体を詳細に確認する必要はない。サシャだけを探せばいいのだから、女性の死体があるかどうかだけを見ればいい。
「頼むから見つからないでくれよ」
 祈るような気持ちで周囲を歩き回る。……無い。一体どういうことだ? サシャはいないし、死体もない……。

ガサッ ガサッ

 探し回ったり、頭を使って落ち着いてきたのか、周囲の音が耳に入ってくるようになった。

ガサッ ガサガサッ

 なんだこの音は……? 風で木々がざわめいているんだと思ってたが、何か違うな……。これは何か巨大な生物的な……。
(巨人だ……! 暗闇の中に巨人がいる……!)
 俺は、そう直感すると、武器を取りにトラックに戻った。

 これは、5.56mm機関銃……ミニミか。これじゃ巨人の身体を貫通することは無理かもしれないな……。うわっ、これはRPG-7じゃないか!
なんでこんなものが積まれているんだ? 防衛省が研究用に少数を購入したとは聞いてはいたが……。とりあえず、これとこれは持っていか
ないとな。
 俺は武器を装備し、懐中電灯を手にとると、さっきの音がした場所に向かった。そこへ、俺に気付いたリヴァイが合流して来た。
「どうした?」
 異様な雰囲気を感じ取ったリヴァイが俺に聞く。
「どうやらあの辺りに巨人がいるみたいだ」
「何?」
 それを聞いてリヴァイは少し驚いた顔をしたが、覚悟はしていたのだろう、すぐに元の顔に戻って、
「それで、どうするつもりだ?」
と聞く。
「まずは状況を確認する。この暗闇の中だ。戦う必要が無ければさっさと撤退したい」
「だが、あの娘はまだ見つかっていないぞ」
「……」
 サシャのことだ。それは俺も気になっている。しかし、巨人が本能的に近くの人間を襲う特性があるのなら、その巨人の近くにサシャが
いる可能性が高い。

ガサッ ガサッ

 ……近い。俺は決死の覚悟で、物音のする方に向けて、懐中電灯のスイッチを入れた。
「で……、でかい……」
 目の前には、15メートル程はあろうかという巨人が、大きな岩が並ぶ岩壁に身体をくっつけてガサゴソと何かをしている姿が映った。
「15メートル級か……。この暗闇の中でこんなに活発に動いているとは……奇行種か?」
 リヴァイはそれを見ながら、冷静に分析している。こういうところは、さすがプロだ。常人ならパニックで腰が抜けそうなこの状況で、
すぐ側でこれだけ冷静にいてくれるのは、本当に頼りになる。
「だ……、誰かそこにいるんですか!?」
 そこへ、突然女性の叫び声が聞こえた。聞き覚えがある……。この声は……サシャだ!!
「た、助けてください!! 巨人に襲われているんです!!」
 声は巨人が何かをしている岩陰の方から聞こえる。そうか、この巨人は岩の隙間に手を突っ込んで、岩陰に隠れているサシャを捕まえようと
しているんだな。
「サシャ!! 大丈夫か!? 待ってろ、今助ける!!」
 俺は、サシャに向かって叫んだ。
「部隊長さん!? 部隊長さんですか!?」
「そうだ!! 安心しろ!! もう大丈夫だからな!!」
 とはいえ……。状況はかなり悪いな。巨人はもうこっちに気付いてしまって、こっちを向いているし、サシャと巨人の距離も近すぎる。
これじゃ、ミニミを撃ってもうなじにダメージを与えられないし、RPGをぶっ放せば巨人は粉々になるだろうが、サシャも一緒に粉々だ。

「おい、何をしている。巨人の動きは速いぞ」
 すぐ横でリヴァイが呟く。
「分かってる、分かってるが、うなじが見えないと撃てないんだ」
「なんだ、それなら敵に後ろを向かせれば良い訳だな。お安い御用だ」
 そう言うと、リヴァイは立体起動装置のアンカーを発射して、暗闇の中に消えていった。俺は間髪入れずリヴァイに呼びかけた。
「後ろを向かせたらすぐにそこから離れてくれ!」
「分かった!」
 リヴァイは巨人の後ろに回って、巨人の後頭部から背中にかけてデタラメに切りつけた。
「クッ、明るければうなじに一撃なんだが、さすがに暗すぎるな……」
 リヴァイの攻撃は急所を掴めないが、しかしそれを喰らった巨人は、暗闇の中、俺に背後を向けて必死でリヴァイを捕まえようとする。
その様子を確認すると、リヴァイは立体起動装置のアンカーを遠くの大木に撃ち込み、すばやくその場から離れた。俺はその瞬間を狙って、
ミニミの5.56mm弾を毎分1000発の速さで巨人のうなじに向けて連射する。

ドターン!!

 と大きな音を立てて、その場に前のめりに倒れこむ巨人。どうやらやったようだ。

ザッ

 同時に、リヴァイが立体起動装置を使って俺の隣に戻って来た。
「倒したようだな」
「ああ……」
 俺はなおも倒した巨人に懐中電灯の光を当てて動きを観察する。サシャを救出しようと近づいた瞬間起き上がってグワーッと襲いかかって
こられたら一巻の終わりだからだ。
「俺はあの巨人の生死を確認してくる。お前は娘の救出に行け」
 そう言って、リヴァイは持参していた松明に火を灯した。
「分かった。頼んだぜ」
 承諾した俺は、懐中電灯を携えサシャが隠れている岩陰へと走った。
「サシャ!! どこだ!? サシャ!!」
 俺は彼女の名を叫びながら、懐中電灯の小さな光だけを頼りに必死で探しまわる。クソッ、どうして返事が返ってこないんだ。まさか
彼女の身に何かあったのか? そんな不安を感じつつ、俺は目に付く岩の隙間に片っ端からライトを当てる。……いた!!
「サシャ!!」
 俺は、岩の隙間の中で、よほど怖かったのだろう、頭を抱えてうずくまって震えているサシャに大声で呼びかけた。
「あっ、ぶ、部隊長さん!?」
 ようやく俺の声が届いたのか、彼女は顔を上げ俺の方を見た。

「大丈夫か!? 出れるか!?」
「は……、はい!!」
 そう言って、まだ助かったという実感が沸かないのだろう、蒼白な顔をして岩の隙間から外にでようとするサシャ。
「あっ!」
 しかし、両手両足に力が入らないのだろう。岩のくぼみに手足がかからず、何度もズルズルと滑り落ちてしまう。
「待ってろ、手をかしてやる」
 見かねた俺は、岩の隙間に手を突っ込んで、サシャの右手を握ると、全身の力で一気に彼女を引っ張りあげた。

ズルッ

 出てきた瞬間、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまうサシャ。そんなサシャの背中をさすりながら、
「怖かっただろう。もう大丈夫だ」
と安心させるべく呼びかける俺。
「ありがとうございます……。もう大丈夫です……」
 じきにサシャは安心してきたようで、呼吸を整えてゆっくりと立ち上がった。
「お……、おい、本当に大丈夫か?」
 まだふらつく彼女を心配して声をかける。
「は……、はい」
 その時、彼女の膝が力なく折れ曲がり、俺に向かって倒れかかってきた。
「わっ!」
 俺は彼女を転ばせまいと全身を使って支えたが、その姿勢が恋人同士が抱きあうような形になってしまった。びっくりして、思わず声を出す俺。
「す、すみません! 部隊長さん……!」
 サシャは慌てて離れようとする。が、俺は彼女の腕をぐっと掴んで離さない。
「いや……、いいんだ。このままで」
 そう言って、俺はその姿勢のまま反転し、彼女に背中を向けると、未だガクガクと震えている彼女のひざの裏に手を回し、そのまま背中にしょって
おんぶしてやった。
「あ……ありがとうございます……」
 割と長身な彼女は、恥ずかしそうに俺の後ろでそう呟くと、自分から身体を密着させてきた。

ドキッ

 彼女の息や、柔らかい身体の感触が俺の背中に伝わり、心臓が鼓動を上げる。
(確かに……、このほうがおんぶしやすいっちゃーしやすいんだけど……)
 俺の血流が下半身の一部分に集中し、ちょっと歩きにくくなった。

 サシャがいた岩場から出ると、リヴァイが暗闇の中さっき倒した巨人のうなじ部分をまじまじと観察しているのが見えた。
「リヴァイ兵士長!」
 俺が呼ぶと、リヴァイはこちらに気付き、俺の背中にいるサシャを見つけて言った。
「良かった。その娘は無事だったんだな」
「行きましょう、リヴァイ兵士長」
 この巨人は倒したとはいえ、他にもまだいるかもしれない。サシャの班を襲った巨人が一体だとは限らないのだ。それにこの暗闇だ、もし戦闘に
なったら次も勝てるという保証は無い。俺はリヴァイを促し、早くこの場から離脱することにした。

「こ……、これは……?」
 トラックを初めて見るサシャは、目を見開いて驚いていた。
「兵団が極秘に開発している最新式の馬車だ。極秘だから絶対に誰にも言うなよ。人に話すならお前を消さなきゃならん」
 リヴァイが心にも無いことを言って、サシャに脅しをかけた。
「ところで、これからどうするんです?」
 俺はトラックを運転しながらリヴァイに尋ねた。
「この近くに俺の縁者が経営している宿がある。今日のところはそこに泊まる」
「トラックはどうするんです?」
「その宿にでかい馬小屋がある。今夜はそこに隠して、明日エルヴィンにでもカバーを持って来てもらうさ」
「分かりました」
 俺はリヴァイの指示に従って、その宿に向かった。

 宿に着くと、リヴァイの縁者という男が俺達を出迎えてくれた。この男も元軍人なのだろうか。ただ者ではない気配を感じる。
「よく来たなリヴァイ。言われたとおり馬小屋は空けといた。中も見えないようにしてある。自由に使うがいい」
「すまんな、恩に着る」
 リヴァイは男にそう言って、俺にトラックを馬小屋に入れるように指示を出した。
「また何か怪しげな兵器でも開発しているのか?」
「まあな。そんなところだ」
 どうやらこういうことは初めてではないらしい。ま、そのほうが俺達にとっては都合が良いが。
「部屋は何部屋必要だ? 二部屋か? 三部屋か?」
 男がそうリヴァイに聞いた時、リヴァイが俺の方を見た。
「な……、なんです?」
「どうなんだ? 二部屋か? 三部屋か?」
 慌てる俺に、なぜかそんなことを聞くリヴァイ。おいおいおい、これってセクハラじゃねーのかよ。俺は反射的にサシャの顔を見た。
サシャは真剣な顔で俺の方を見ていた。その後、俺は気付いた。あ……、これこそセクハラじゃねーか……。
「あの……、三部屋で……」
 俺は慌てて顔の向きを戻し、小声でそう答えた。
「ということなんで、三部屋だ」
 リヴァイは口元に笑みを浮かべながら、宿の経営者の男にそう答えた。俺はその時思ったが、意外とこの人、リヴァイ兵士長は結構
お茶目な人なのかもしれない。

「ふう」
 俺は割り当てられた部屋に入ると、さっさとシャワーを浴び、歯を磨き、パジャマに着替え、ベッドに横になった。
「今日は色々あって疲れちまったよ。とっとと寝よう」
 そう独りごちながら、ランプの火を吹き消し、部屋を真っ暗にする。
 ……。
 ……。
 ……寝れない。
 当然だな。あんなスリリングなことがあった後だ。実はまだ心臓がバクバクしてるんだぜ。

トントントン

 その時、俺の部屋のドアが3回軽くノックされた。
 誰かな……? まいった。今日に限ってランプの火を消しちまったから、暗くて何も見えない。ベッドからドアまで歩くのも一苦労だ。
「誰? 何か用?」
 俺は何とかドアまで辿り着き、ドア越しに外にいる人間に呼びかけた。
「私です……。ちょっといいですか?」
「ああ、サシャか」
 俺はドアを開けた。サシャは薄暗い廊下の中でカンテラを持って立っていた。
「どうしたの? 何かあった?」
 俺は心配してサシャに尋ねる。
「すみません、ちょっと入っていいですか?」
「あ……、ああ、どうぞ」
 そう言って、俺は部屋にサシャを招き入れる。サシャが持っているカンテラのおかげで、部屋の中がぼんやりと明るくなった。とりあえず、
サシャのカンテラから火を借り、部屋のランプにも火を点けた。これで大分明るくなった。それでもまだ暗いが、この世界では夜はこんなもんだ。
 サシャが椅子に座ったので、俺はベッドに腰をかけた。
「……」
 そして、しばしの沈黙。とりあえず俺は、こういう時、何を言っていいのか分からない。
「あの……寂しくて、なんだか震えが止まらないんです……。今夜は一緒に寝てもらえませんか……?」

「……」
「……」
「……」
「……」
 ……えっ? 今、何て言ったの? 寂しくて、震えが止まらなくて、一緒に寝て欲しいって?
「あの……、サシャ?」
「駄目ですか……?」
 今さら気付いたが、サシャはパジャマ姿で、自分の枕まで持って来ていた。この部屋で俺と一緒に寝る気満々だ。
「そ……そりゃあ、駄目だよ……」
「どうしてですか……?」
 こういうことを意識すると、どうしても目線が、サシャの胸とか、あそことかに行ってしまう。

ごくっ

 サシャのパジャマの襟から胸の谷間が見える。いや、見えるだけじゃない。そこから、芳しい匂いというか、女性フェロモンが漂って
いることさえ感じられる。パジャマのズボンの下にはパンツを穿いているんだろうか。穿いているんだとしたら、どんなパンツを穿いて
いるんだろうか。そのパンツの中はどんなふうになっているんだろうか。匂いや女性フェロモンがかなり充満しているんだろうか……。
そんなあらぬ妄想まで抱いてしまう。
「だ……だめだめ、女性フェロモンにやられて、エッチしたくなっちまうから、本当に駄目なんだ」
 俺は冗談めかしてそう言った。これで彼女も諦めるだろう。と思ったのだが……。
「エッチしたくなるんですか? それなら……、エッチしましょうよ……」
 え……ええっ!?
「据え膳食わぬは男の恥ですよ」
 そう言って、彼女は椅子から立ち上がり、俺にキスをして、そのまま俺をベッドに押し倒した。


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