【サシャEND】
「う……」
全身が痛い……。
どこだ……。ここは……。
「くっ……」
身体が……、動かない。
そうだ……、俺は確か……、ミサイルの爆発に巻き込まれて……。
でも……、なんとか、生きてるみたいだな……。いや、もしかしたらこれが「あの世」ってやつかも……。
「そ、そうだ、サシャは!!」
ガバッ
サシャのことを考えて、俺は飛び起きた。全身の痛みももう忘れていた。
「って……、なんだこれ? 俺の部屋じゃないか」
気付けば、そこは日本にある俺の部屋だった。
「なんだ……、全部……、夢だったのか……?」
俺は落胆して言った。
いや……。
そんなはずはない……。
あの世界の匂い、あの感覚、ミカサの……あの痛み……。あれが夢だったはずは無い。ほら、俺の服を見ろよ。あの時着てた服じゃないか。
「ん……」
ん? 誰かいるのか?
声がした方を見ると、俺がいつも使っていたベッドがあった。そして、そのベッドをよく見ると……、誰か眠っている。
これは……、この髪型は、この後ろ姿は……、このシルエットは……。
「サシャ!! サシャじゃないのか!! サシャなんだろ!?」
俺は思わず歓喜の叫び声を上げた。そして、彼女の体を強く揺さぶる。
「なんですかもう……。うるさいですねぇ……」
彼女はとぼけた声を出しながら、こちらを振り返る。
やっぱりサシャだ!!
「サシャ!! 良かった!! 良かった……」
俺はそう言って、嬉し涙を流しながら、サシャを抱きしめる。
そんな俺の様子を見て、何かがおかしいと感じたのか、起き上がって周囲の様子を見回すサシャ。
「あれ……? ユウジさん……、ここ……、どこですか?」
俺はサシャの肩を抱き、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、彼女の顔をしっかりと見て言った。
「俺の部屋だよ。日本の俺の部屋だ。いつか言ってた……、俺の故郷だよ……!」
「……!?」
サシャはあまりにも驚きすぎて、現実がしっかりと把握出来ない様子だ。夢だとでも思っているのかも知れない。
ピンポーン
そこへ、部屋のインターホンが鳴った。ドアの覗き窓から外を見る。……親父だ!
「サシャ、親父が来たんだ。ちょっと起きてくれ」
俺はサシャのところに戻って言った。
「えっ、お父さんが……?」
サシャはちょっと驚いて慌てていたが、ベッドから起き上がって、服や髪型を整えた。
俺はドアを開けて、親父を招き入れる。親父が玄関に入ってきて言う。
「ユウジ、最近調子はどうだ? どうやら、また自衛隊の軍事演習に入り込んで悪さをしたらしいな。宇都宮駐屯地の師団長がカンカンだったぞ」
「はは……、それで、どうしたんだい?」
「俺の息子とは言え、学生ごときに重要な銃火器を奪われるとは何事か! と逆に、喝を入れてやったさ」
「はは、親父らしいや」
「ところで、この可愛い娘さんは誰かな?」
親父が、サシャの方を指して言う。
「初めまして。お父様、私は……」
「ああ、この娘はサシャ。サシャ・ブラウスって言うんだ。俺の大事な女性さ」
俺が話に割り込んだ。
「そうか、可愛らしい娘さんだな。こんな娘さんがお前のお嫁さんになってくれたら、私はとても嬉しいよ」
「ははは……」
親父にそう言われて、俺とサシャは照れ笑いを浮かべた。
「それでは、元気そうだから、私はもう行くよ」
親父はそう言って、部屋から出ようとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「ん?」
親父は立ち止まって、俺の話に耳を傾ける。
「彼女……、サシャ・ブラウスは、国籍が無いんだ。戸籍も……。親父の力で、なんとかならないか……?」
それを聞いて、親父は呆れた顔をして肩を竦めた。
「なんだそりゃ。お前、人さらいに遭った子でも可哀想だと思って連れて来たんじゃないだろうな。まあいい。お父さんも若い頃はムチャを
やったものだよ。国籍と戸籍のことは私に任せておきなさい」
そう言って、親父は退室していった。
さてと……、とりあえずはこれで一安心だ。今まで言わなかったが、俺の親父は防衛省のお偉いさんなんでな。こんなことも出来るんだ。
「それじゃ、サシャ。俺の世界でも散歩しに行くか?」
「はい!」
そして、三年の月日が経った……。
俺とサシャは、日本を離れ、カナダのバンクーバーにいた。理由は、サシャが日本の生活に合わなかったからだ。
二人は今、カナダのバンクーバー大学で学生をしている。二人とも専攻は動物学だ。
時々、二人で山に登っては、珍しい動物を観察する。灰色熊が出るような所もあるが、サシャが立体起動装置と超硬質ブレードを持参していく
から平気だ。
俺とサシャは、幸せに暮らしている。
そして、また、三年が経った……。
今日は俺とサシャの結婚式の日だ。
ウェディングドレス姿のサシャとバージンロードを歩き、誓いの言葉を述べたその直後……。
バリバリバリッ
と地を切り裂くような大きな音がして、教会の上に雷が落ちた。
場内が騒然とする。それもそのはず、いつの間にかバージンロードに、二人の男女が寝転がっていたのだ。
「あ……、あれは」
サシャが驚いて口を開く。俺も倒れている二人を見て、驚いていた。あれは……、あの二人は……。
「エレン! ミカサ!」
おしまい
最終更新:2012年11月25日 15:16