無題:part2 > 513(エレン×ミカサ)

part2>>513


投下します。エレン×ミカサです。
時系列としては女型戦敗北後の夜で、8巻の回想で女型捕縛作戦を練ってるあたりです。
強引系といえなくもないですがラブラブだと思います。エロ度は抑え目です。


――アニが女型の巨人かもしれない。
いくら常に冷静で、状況を正確に分析できる自分の親友が割り出した答えだとはいっても、
その「仮定」は今のエレンにとってはあまりに過酷なものであった。
一月もの時間をかけてようやく信頼を得ることができた、と実感したまさにその直後の先輩兵士達の無惨な死に様は、
エレンの心の奥底に鉄の塊のように重くのしかかっていた。
もう引き返せない、戦わなければならない。そうすべきだということは明らかだ。
とはいえ、苦汁の三年間をともに過ごした同期の仲間を相手にするなど、エレンには考えられなかった。
何度も何度も彼女独特の格闘術を真正面からくらい、悶絶した日々がエレンの頭の中でフラッシュバックする。
しかし、それらの日常は確実にエレンを成長に導いていた。
共に技を磨き合い、兵士としての自覚を共有しあった日々を、簡単になかったことにはできそうにない。
「なのに、どうして、あいつらは…」
なぜ、同じく同期であるはずの自分の幼なじみ二人は、平気な顔で作戦を実行することができるのだろうか。
仲間であるはずのアニに対する彼らの冷徹ともいえる判断は、無性にエレンを苛立たせていた。
それとも、多くの兵と敬愛していた先輩を失ってなおここまで葛藤する自分が女々しいのか。
自分の部屋として与えられたいつもの地下室のベッドに横たわり、エレンは天井を見上げた。ふう、と勝手にため息が漏れ出る。
たった一日の間で、エレンの心を乱すには充分なほど色々なことが起こりすぎた。
作戦が実行に移されるのは明後日だ。あと二晩寝た後は嫌でも決意しなければならない。
そう考えると全く眠りにつける気がしなかった。


眠気が少しも襲ってこないまま、薄汚れた居城の天井のシミを湿ったベッドの上でぼんやりと眺めていると、
コンコン、と扉をノックする音がした。
のそのそと身体を起こし、部屋の入り口へ向かう。
(リヴァイ兵長か?エルヴィン団長達はもう帰ったはずなのに…)
エレンは不審に思いながら扉を開けた。
掲げられたランプの薄暗い光の中に、思いもよらない人物の姿が映し出され、思わずエレンは目を見開いた。
「ミカサ!お前、団長やアルミン達と宿舎に戻ったんじゃ…」
予想外の来訪者に驚きを露わにするエレンをよそに、ミカサは無言のままつかつかと室内に足を踏み入れた。
何がなんだかよく分からないが、神経質なリヴァイに見つかれば確実に青筋を立てられる。エレンは慌てて錠をかけた。
「お、おいなんでここにいるんだよ?勝手な行動したら厳罰が…」
「大丈夫。なにかあればアルミンが上手くごまかしてくれるから」
「…なんだよそれ…」
幼なじみの意味不明な言動にエレンは頭を抱える。
ミカサは何事もなかったかのようにランプを机に置き、椅子に腰掛けた。仕方なくエレンも自分のベッドの上に戻る。
エレンは、幽かな光に照らされるミカサの顔をまじまじと見つめた。
リヴァイ班に監視される立場となり、この古城で暮らすようになってからは、
彼女とまともに向き合って会話を交わすのはかなり久しぶりだ。


「…で、結局お前は何しにここに来たんだよ」
「私は…」
ミカサは一旦言葉を区切り、目をそらした。
「エレンが…心配だったから」
(心配?)
ミカサの言葉を心の中で反芻してみると、かすかな反抗心がエレンの中で沸き起こった。
確かに自分はこの日さまざまな不幸に立ち合った。
悲しみ、悔しさ、怒り、戸惑い。
あらゆる種類の感情が複雑に混ざり合って胸のうちをぐるぐるとしつこく巡回し、
自分でもどうすればいいのか判らないほどの混乱がエレンを支配しているのは事実であった。
しかし、だからといって――
(ミカサ…お前に何が判るってんだ?)
『アニが女型の巨人である可能性がある』という衝撃的な仮説を聞かされた際の彼女の、
まるで他人事と言わんばかりの冷静な表情と態度は、あまりにエレンの心情とは相反するものであり、
それが余計にエレンの苛立ちを促進させていたのだった。
ミカサの言動を理解できない。
エレンは怒りを抑えきれずにミカサに言い放った。
「一緒に血反吐を吐いて苦労してきた仲間が疑われているんだぞ!それなのに、お前は…何も感じないっていうのかよ!?」
「……」
ミカサは表情一つ変えずに口を開いた。
「私は…ただあなたを守りたいだけ。あなたを守るためなら誰が相手だろうと容赦はしない」
「また守る守るってなぁ…」
耳にタコのできそうなくらい聞いた相変わらずの台詞にエレンは心底うんざりした。
頭の中がグラグラ煮えたぎるのを抑えきれない。エレンは激昂していた。
「いっつもいつもそうやって偉そうな顔して上から目線でよぉ…いい加減ムカつくんだよ!!」
「!」
エレンは鬱憤を発散するかのように勢いよくベッドの上から跳ね上がり、つかつかとミカサの元に近づく。
激情に任せ、ミカサのジャケットの襟元を強い力で掴みあげた。
「ぐッ!!」
そのまま今さっきまで自分がいたベッドの上に女を力いっぱい投げ飛ばし、上に乗り上げてギリギリと組み伏せる。
突然の狼藉に驚いたのか、ミカサは何が起こったのかわからないと言わんばかりの顔でぽかんとエレンの顔を見上げた。
普段ならば、自分以上に対人格闘術に長ける彼女の強烈な巴投げを喰らって終わりだろう。
しかし、意外なことにミカサは何の動きも見せることはなかった。
ミカサはただひたすら、驚きを隠す気配もないままエレンの凶暴な目を見つめている。
「――っ…!?」
無防備な表情のミカサと目が合った瞬間、エレンの心臓が、ドクン、と激しい音を立てて隆起した。
激しい衝動に体中が燃え滾り、股間に勢いよく血が巡っていくのを感じる。
自分の中のミカサに対する怒りの感情が、劣情と嗜虐心へと無意識に昇華された。
エレンは、初めて抱いた残忍な衝動に身を任せられずにはいられなかった。


「っ!?エ、エレン!?」
さすがにミカサも尋常でないエレンの様子を悟り、わずかばかりの抵抗を試みたが、もう遅かった。
そんな彼女の腕を今にも千切れそうなほどの力で握り締め、ベッドに縫い止める。
そのまま、歯がぶつかるのも気にせず無理やり唇を合わせた。
「ぅんッ」
まだ青く経験もないエレンは、手加減の仕方など知らない。優しさなど微塵も感じられない口付けだった。
抵抗する余裕もなく、すぐにミカサの咥内にエレンの燃えるように熱い舌が進入してくる。
鉄の味がした。おそらく強引すぎるキスの衝撃で歯が当たり、どちらかの唇が切れてしまったのだろう。
激しく舌を絡ませる度に、かすかに血の味が混じった唾液がエレンの口内を潤す。
この鉄臭い味が、エレンにとっては非常に甘美な媚薬のように感じられ、さらに興奮を掻き立てていた。
ぴちゃ、ぴちゃと敏感な粘膜が接触するいやらしい水音が聞こえると、ミカサの身体は羞恥で身がすくんだ。
「……ッ…、んむぅ、…はッ……」
ミカサの吐息が徐々に熱を帯びてきているのをエレンは感じていた。それでもなお執拗に舌と舌を擦り合わせる。
長い時間をかけてミカサの甘い唇を堪能し、ようやくエレンは唇を離した。
はあっ、はあっと、両者共に目いっぱい息を吸い込む。
慣れない口付けに熱中するあまり満足に息継ぎもできず、
一方的に蹂躙されたミカサと同様エレンも、きつい訓練を終えた後のごとく息が激しく乱れていた。
呼吸を適当に整えたあと、改めて身体の下に組み伏せるミカサの表情を眺めた。
ミカサの顔は耳まですっかり紅潮し、はぁはぁと息を短く弾ませながら潤んだ目でエレンを見上げている。
見たことのない彼女の艶かしい表情に、ごくり、とエレンは生唾を飲み込んだ。
人間の常識にあてはまらないほどの強さを誇るこの少女にこんな表情をさせたのは、おそらく自分一人だけだろう。
その事実は、エレンの苛虐心を満たすには充分だった。ますます彼の身体は熱くなった。
しかし、それと同時にかすかな違和感のようなものが頭のどこかの部分をちくりと刺す。
どうして――
(どうしてこいつは、抵抗してこねえんだよ…)
いざとなれば、ライナーのような屈強な大男すら失神させるほどの強烈な格闘術を披露するミカサが、
ここまで従順な態度を見せるのはエレンにとって想定外の出来事であった。
ミカサの考えがまるでわからない。そして、自分の気持ちにもさらなる混乱が生じてきた。
ミカサと自分の同期に対する思いの相反による苛立ち、突然沸き起こった肉欲、そして現在のミカサのしおらしい態度への戸惑い。
(なんなんだよこれは…)
ちっ、と心の中で舌打ちする。
面倒くさい。エレンは考えることを放棄し、目の前の幼なじみを陵辱するのに集中することにした。


彼女のトレードマークでもある、かつては自分の所有物だったマフラーに乱雑に手を掛けて、ミカサの首元から無理やり剥ぎ取る。
「…あ……」
ミカサは酷く寂しそうな顔をして、ただの長い布と化したそれが空中に流れるのを必死に目で追った。
彼女の珍しく見せたその痛ましげな表情に、またしてもエレンの心はちくりとした痛みに苛まれた。
(もう、どうでもいい)
自分の中でかすかに叫ぶ違和感を払拭するかのように、乱暴な手つきでミカサの両腕を頭上に一纏めにし、
今取り払ったマフラーで両手首を縛って拘束する。
ミカサの顎に流れる、先刻の激しいキスで飲み込みきれなかったらしい唾液をペロリと舐め取って、
そのまま曝け出された首筋に舌を這わせた。
「あ、やっ」
得体の知れないくすぐったさにミカサが身を捩った。ギシ、とベッドが音を立てる。
「……、ん…、くぅッ、……ふ…」
首筋を舐る間に時折ぴく、とミカサの身体がわずかに跳ねる。
そんな彼女の様子を面白がって、エレンはミカサが反応を見せた部分に執拗に舌を動かした。
ねっとりとした動きでひたすら敏感な箇所を舐められ、ミカサは熱を帯びたような声で何度も呻いた。
勝手に変な声が漏れる。とにかく恥ずかしい。必死に顔を片方の二の腕に埋め、唇を当てて声が出ないように耐える。
大人以上の働きができるといえども、まだたった15歳の少女でしかないミカサは、
こういう時どんな声を出せばいいのか知らなかった。
そして、そんなミカサの一挙一動が、エレンの劣情をさらに掻き立てていることも知るよしもなかった。
エレンは衝動に身を任せるまま、自由の翼のエンブレムが縫われたミカサの上着をぐいっと大きく肌蹴させ、
胸元の立体機動用固定ベルトをガチャガチャと音を立てて乱雑に外した。
そして、高まる興奮にはぁはぁと息を弾ませながら、思いきり力をこめてミカサのシャツの前合わせを横に引っ張った。
「――っ!!」
カツン、カツンと、下の方から乾いた音が聞こえる。
おそらくちぎれたボタンが床に散らばった音だろうが、エレンの耳にはそれがだいぶ遠くで聞こえた感じがした。
それと同時にエレンの目の前に、ミカサの胸元が露わになった。
ミカサの身体は先ほどの愛撫で昂ぶり、首から胸に掛けてほんのりと紅が差している。
肌蹴たシャツからちらりとのぞく、ツンと上を向いた赤く染まった乳首に、エレンの視線は釘付けになった。
ごくり、と思わず唾を飲み込んで、初めて目にする美しい女の肉体をじっくりと見つめる。
ミカサは男の熱い視線に耐えられず、目を瞑って顔をそらした。
子供の頃は家族として一緒に風呂に入ったり着替えたりで、当たり前のようにこの少女の裸を見てきた。
でももうそんな遠い昔とは違う。ずっと近くにいたはずの幼なじみの身体は、気づかぬうちに女のそれへと変化を遂げていた。
エレンは衝動的に手を伸ばし、ふいにガシッと片方の胸の膨らみを掴んだ。


「痛ッ!」
突然の痛みにミカサはびくりと身体を強張らせ、思わず鋭い抗議の声を上げた。
「!」
いきなり発せられた少女の叫びは、エレンに突如正気を呼び戻させた。
美しい形ながらも初々しい乳房はまだ硬さが残っている。
いくら女としてある程度の成長を終えたとはいえ、まだ成熟しきれていないミカサの肉体は少女の名残を隠しきれていなかった。
今のところ抵抗らしい抵抗はないものの、ミカサの身体はカタカタと小さく震えていた。
初めて冷静な視点を取り戻したエレンは、酷く怯えたような彼女の表情にようやく気づいた。胸がズキリと痛む。
「―――…」
(何やってんだ、オレは)
突然、今まで自分を支配していた凶暴な感情がすうっと覚めていくのをエレンは感じた。
組み敷いていたミカサの肢体からそっと身を起こす。
ミカサはそれを見て、またビクッと肩を跳ねさせた。
まだ自分が何かするのを恐れているのだろう。彼女のその様子を見て、エレンは思わずふっと苦笑した。
先刻とは違う相手を気遣うような手つきで腕の拘束を解き、肌蹴させた軍服ジャケットを胸元で掻き合わせてやる。
ミカサはぽかんとした表情でエレンの動向を眺めたまま動かない。ギシ、とベッドが軋む音がした。エレンが移動したらしい。
エレンは戸惑うミカサに背を向ける形でベッドの端に腰を掛けて、静かに呟いた。
「ミカサ……」
「……」
「ごめん、オレ、どうかしてた」
「……」
ミカサは無言のまま、エレンの背中の方へゆっくりと顔を向けた。
「オレ、本気でお前にムカついてたよ。いくらオレの命が引き換えになるっつっても、
 平気で仲間を陥れようとするなんて…はっきり言って理解できねえと思った。
 でも、だからといって…その…こんなことするなんて…最低だな、オレ」
エレンは頭をぐしゃぐしゃと掻き毟り、俯いた。沈黙が流れる。
しかし、後ろで再びギシ、という音が聞こえ、静寂が破られた。
「…エレン」
「……?」
ふいに、温かい感触で背中が覆われる。頬に滑らかな黒髪が触れた。すぐに、ミカサが身体を寄せてきたのだと気づいた。
それと同時にエレンは重大な事実にも気づいた。
自分がボタンを引きちぎったせいでミカサのシャツの前合わせが全開になっているため、
露わになった彼女の二つの膨らみが直にエレンの背中に触れている。
それに気づいたエレンはつい再び股間を熱くしそうになり、いくら自業自得とはいえ顔を真赤にして慌てふためいた。
「お…おい何してんだよ!今そんなことしたらオレはまたお前を酷い目に――」
「別に構わない」
エレンの身体から離れようともせず、ミカサはきっぱりと言い放った。
「な、何言って…」
「私の身体も心も…エレンがいなかったら存在し得なかったから。エレンが望むなら、好きなようにしていい」
エレンはあんぐりと口を開けた。そして頭を抱え、ぐにゃりと俯いた。
「…そんな言い方すんなよ。お前の身体はお前のモンだ。もっと大事にしろよ」
「……」
「それともオレを、あんときの強盗魔とか奴等が売っ払おうとしてた地下街の変態野郎共と同レベルにしたいのかよ?」
「…別に、そんなつもりじゃ」
ミカサは曖昧に首を振った。再び会話が途切れる。
「……」
「……」


ふう、とため息がこぼれる。重い空気を振り切るように、エレンはミカサに促した。
「さ、お前は大事にならないうちに宿舎に帰れ。明後日には重大任務も控えてんだからな」
「帰らない。ここで寝る」
ミカサの即答にエレンはぎょっと目を見張った。
「な…馬鹿かお前は!?そんなに独房にぶち込まれたいのかよ…?」
「さっきも言ったけどその点についてはアルミンに任せたから大丈夫だって」
「そういう問題じゃねえだろ!…そもそも、あんなことした相手と同じ部屋で寝るなんて、狂気の沙汰もいいとこ…」
「エレンはこんな状態の私に向かって平気で外に出ろなんて言えるの?」
「……」
エレンは、ミカサの上半身に目をやって思わず押し黙った。
彼女が今羽織っている、ボタンが吹っ飛んでただの布切れと化したシャツの残骸は、間違いなく自分の過ちの証だ。
そのミカサの姿は妙に艶かしく、否が応にも先ほどの行為を思い出させ、エレンは思わず火照る顔を逸らした。
いくら兵士として逸材と言わしめる実力を持つ者とはいえ、ミカサが女性であることに変わりはない。
こんな姿のまま外に放り出すのが確かに危険だということは、回転の鈍くなった今のエレンの頭でも判断できた。
エレンはおもむろに立ち上がった。箪笥を開けて適当に中を物色し、比較的ミカサのものに似たYシャツを探し出す。
そしてミカサと目も合わせないまま、彼女に向かってそれをぞんざいに投げつけた。
「…オレの代えのシャツを貸してやる。それ着て帰れ。
 なんでオレの服着てんのかバレたら、馬に小便ひっかけられたとかなんとか言ってごまかしとけ」
エレンは赤い顔のまま背を向けた。
「とっとと着替えろ…」
「……」
数秒の沈黙ののち、背後でカチャカチャと固定ベルトをはずす音が聞こえてきたのを認めた。
ミカサが自分の提案を受け入れてくれたのだろうと、エレンはひとまず安心する。
女が着替える間、エレンは無機質な壁を凝視しながら、まだ完全に治まりきれない昂ぶりをなんとか宥めようと努力した。
自分のすぐ後ろでは、先刻目に焼き付けた綺麗な身体がまた曝け出されているのだろう。
着替えるミカサが立てている衣擦れの音を聞かぬ振りして、エレンはともすれば火照りそうになる顔と身体を必死に諌めた。


「終わった。エレン、こっち向いていい」
ミカサが声をかける。エレンはおそるおそる背後を振り返った。
「ハッ!?」
彼女の姿を見て、エレンは思わず情けない喚き声を発した。
確かに自分のシャツに着替えてくれてはいる。しかし、予想外なことにミカサは兵士の装備を全てはずしていた。
エレンは慌てた声で抗議する。
「オイ、なんで立体機動の装備まで脱いでんだよ!ほぼ私服で夜道を帰るとか、自殺行為だぞ!」
「ここで寝るってさっきから言ってる」
「ハァ!?話が違うだろ!」
「寝る」
「…だからよぉ……」
当然のように言い張るミカサに反論する気力もなく、再びエレンは頭を抱えた。
ミカサが頑固なのは昔からの長い付き合いでよく知っている。
自分自身もその部類のなかではトップクラスに入ると自負しているが、彼女の頑固さには今までほぼ勝ったためしがなかった。
(こっちの気も知らないで…)
額に手を当て、呆れたようにため息をつく。
エレンはこれ以上の説得は無理だと早々に諦め、幼なじみのわがままを少々戸惑いながらも聞き入れることにした。
「…わかったよ。オレが床で寝る。お前はベッドで寝ろ」
「ダメ。エレンがベッドで寝て。今日のあなたはたくさん力を使ってすごく疲れてる」
「女を床に寝せられるかよ」
「絶対ダメ」
「……」
相変わらずの頑固さにエレンは閉口した。


「…わかった。毛布貸してやるからお前が下で寝ろ。椅子とかも自由に使っていいから」
床にバサッと毛布と枕を投げ捨て、エレンは自分のベッドの上に身を投げ出した。
そしてミカサの姿ができるだけ目に入らないように、すぐに壁の方を向いて頭からシーツを被った。
エレンの脳裏にはまだ、先刻のミカサの痴態と初めて目にした瑞々しい女の肉体が焼きついている。
その姿を見せた張本人が同じ部屋のすぐ後ろにいるという事実に、エレンの心臓が強く脈打っていた。
未だ落ち着かず高鳴る胸をどうにかして無視しながら、ぎゅっと硬く目を瞑って無理やり眠りにつこうと試みた。
しかし、そんなエレンの努力も虚しい徒労に終わった。
「…ッ!?」
ベッドの端でうずくまっているエレンのシーツが突然めくり上げられた。
それと同時に、湿っぽいシーツの中が温かなぬくもりで満たされる。びくりとエレンの身体が驚きで跳ね上がった。
床で寝るということで話がついたはずのミカサが、何故かエレンのベッドに侵入してきたのだ。
ミカサは男の背中にぴたりと密着し、心地よさそうにすうっと息を吸い込んだ。
エレンは思わず身体を反転させて、彼にとって言えば暴挙ともとれるミカサの行動に強く異議を唱えた。
「な、なんでベッドに入ってきてんだよ!話が違うだろ!」
激しくうろたえるエレンの表情とは対照的に、ミカサは静かにじっとエレンの目を見つめている。
ミカサの穏やかな視線を受けたエレンは、少したじろいだ。
「いいでしょう、たまには。子供の頃はよくこうやって、一緒の布団で寝てた」
「ガキの頃と今じゃ全然状況が違うんだよ!…だいたいさっきオレが何したか、忘れたわけじゃ…」
「…もう、そんなのいいから。…私は…ただ、エレンの…そ…ばに……」
「……」
言い終わらないうちに、ミカサの目蓋がゆっくりと閉じていく。
「…寝たのか」
すう、と寝息が限りなく近くで聞こえた。
(そんなに疲れてたのか…)
すやすやと子供のように安心した表情で眠る幼なじみの顔をぼんやりと眺める。
そうしていると、ついさっきの自分の激情も肉欲も、すべてどうでもいいことのように感じられた。
考えてみれば、ミカサにとっても今日は大変な一日だったはずだ。
暴走して女型巨人に喰われた自分を助けるために、必死に死闘を繰り広げたと聞いた。
その時、自らの失態でリヴァイを負傷させたことも、彼女にとっては大きなショックだったに違いない。
自分のことでいっぱいで、その場の感情に身を委ねて大事な少女を傷つけかけたことをエレンは猛省した。
ふと無意識に腕を伸ばし、ミカサの頬に掌を当てる。
「…ん…、エレン…」
(夢の中でもオレのことか)
ミカサの寝言を聞いて、エレンはふっと苦笑いした。子供のときからいつもこうだ。
――まあいい。幸せだった少年時代に戻って眠るのも悪くはない。
何よりも、いつもほとんど笑わない幼なじみの眠る表情があまりにも幸せそうで、楽しかったあの頃を思い出させた。
泣いても笑っても、明後日は運命の作戦決行の日だ。
眠れぬ夜、すぐ隣にいる思わぬ来訪者が運んできてくれた穏やかな眠りに、エレンは久方ぶりに身を任せた。

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最終更新:2013年07月01日 11:35
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