第1章(プロローグ-19)

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<p>20XX年。現代から少しだけ進んだ時代。<br /> アラスカに正体不明の怪物"屍"(シカバネ)が現れた。<br /> 国連はこれに対抗すべく緊急屍対策委員会を設置し、<br /> 世界中から有力なエクソシストや修験者などの"退魔師"を集め、<br /> 屍への対策にあたった。<br /> この対策は功を奏し、屍は一時的に姿を消したものの、<br /> 安息が訪れたのも束の間。屍はどこからともなく<br /> 次々と湧き出してきたのである。<br /> 継続的に屍に対抗するうち、<br /> 退魔師の地位は、たちまち向上していった。<br /> 各国は血眼で魔術を研究し、伝承を掘り起こし、退魔師を育成した。<br /> そして今や、オカルトは人々の生活に根付いた一般的な概念となり、<br /> 退魔師は医者や弁護士をも上回るほどの<br /> 社会的ステータスを手に入れたのである。<br /> 「退魔師こそ人類の救世主」「退魔師に逆らう者は、屍に食われて死あるのみ」<br /> そんな風潮が世界を覆っていた。<br /><br /> これは、運命に翻弄され退魔師となった、少年少女たちの物語・・・</p> <hr /><p><font face="メイリオ">1:SDT<br /> 都内某所に圧倒的な存在感でそびえ立つ黒塗りの校舎。俺は今、その眼前に立っている。「ここが、魔ヶ原学園……」まさか、この俺が気圧されるとは思わなかった。俺の名前は<br /> 一柳風太郎(イチヤナギカゼタロウ)。今日からこの魔ヶ原学園高等科に通い始める15歳だ。…まあ、そんなことはどうでもいい。問題なのは、入学式がどこで行われているのか皆目<br /> 見当もつかないということだ。考えたからといって答えが出るわけもなし。俺は適当な生徒に狙いをつけ、入学式の場所を聞くことにした。「すみません、入学式の場所は…</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">2:ダイヤ<br /> 」と新入生らしき一人の少女に声をかけようとしたが、腰までかかっている黒うるしを塗ったかのような黒髪の後ろ姿に少し異性として緊張をしてしまい、声を途中で弱めてしまったため相<br /> 手には聞こえなかったようだ。だが、入学式が行われる日だというのに、新入生と思われる生徒が漆黒の髪の少女以外誰一人もいない。だから、少し勇気を振りしぼり、声を再びかけてみる。<br /> 「すみません、入学式の場所はどこでしょうか」すると、少女は歩くのをやめ、こちらを振り向かず「君はなぜ屍がこの地球にやってきたと思う」と質問と関係ないことを言ってきた。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">3:カイロ<br /> 「えっ? え、ええと・・・」突然の質問に俺は戸惑いながらも質問を返すために答えを探し始めしたが、黒髪の少女はこちらの返答を待つ前に残念そうに溜息をついた。<br /> 「・・・わからないならそれも構わないさ。今はまだ、それでもいい」黒髪の少女はそれだけ言い残しそのまま歩き去って行ってしまい、質問の真意を聞く暇すらなかった。<br /> 一体今のはなんだったのだろうなどと考えながら再び式場を探すために歩き始めてすぐ、やたら顔色の悪い女に話し掛けられた「ねっ、ねえ、入学式の会場ってどこかわかるかな? 」</font><br />  </p> <hr /><p><font face="メイリオ">4.ウツケ<br /> 先ほどのことで油断していたのもあって、その風貌に思わず声をあげそうになったが持ち直す。ここは退魔師を育成する魔ヶ原学園、見た目に臆していては生徒として名折れというもの。<br /> 「……ああ、それなんだけど自分も探しているところで……」その割には間抜けな台詞を吐いてしまった。すると、元から病気のようだった顔がいっそう青ざめていく。「ええっそうなの?<br /> ど、どうしよう、資料にもくわしく書いてなかったし、こっこの辺りにもお知らせがなかったし……」今度はうっかり「えっ」と声を漏らしてしまった。もしや、会場は公表されてないのか。</font></p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">5 ゆき<br /> そのことを彼女に伝えると彼女は卒倒しそうになって、「だから誰も見当たらないんですか!!私たちが阿呆ってことですか!!?」と叫んだ。<br /> 「私たち2人だけまぬけなんだ~!まぬけがまぬけに話しかけたんだ~!!」少女は泣き叫んだ。<br /> 懸命に彼女を慰めるさなか何故だか気持ちがムカムカしたのは彼女が俺のことをそこそこストレートに"お前は阿呆だ!まぬけだ!"と叫んでいるからに違いなかった。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">6:SDT<br /> 俺はこれでも自分は温厚なほうであると認識している。妹とオモチャの取り合いになったときも、最終的には譲っていたものだ。……が、しかし、見ず知らずの他人にいきなりマヌケ呼ばわ<br /> りされたあげく、黒板を引っかくかの如く耳障りな声で泣き叫ばれたとあっては、さすがに付き合いきれない。「もういい!俺は一人で入学式の場所を探す。校舎に入れば生徒や先生がいる<br /> だろうしな」俺はそう言い残して立ち去った。立ち去る際、背中になにやら死神のような不吉な気配を感じたが、気のせいに違いない。「よし。は、入るぞ……」</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">7:ダイヤ<br /> 外装も黒塗りであった校舎は内装も暗い色で統一されており、静まりかえっているようであった。その光景に漠然としたため、一度歩くのをやめた。周りは入学式の影響で誰もいないので、も<br /> う一人で入学式に向かうしか方法はない。先ほど、気が弱そうな女と一緒に行動を取ればよかったと少し後悔をするが、どうせいつかは見つかると思い、入学式の場所を探すため再び歩くこと<br /> にする。校舎の入り口から少し移動し廊下を歩く。ふと前を見てみると同じ教室が無限に続いているように見える。いつかは違う教室、階段や入学式の場所がみえてくるはずだと考えるが、し<br /> ばらく歩いても同じ教室が見えてくる。だが、少し疲れたと思ったころに、少し広そうで理科室のような雰囲気がする教室が見えてきた。理科室にいるときの匂いが廊下からもしてくる。教室<br /> 名が書いてある表示プレートを見ると“実験室”と書かれていた。入学式に行かなければならないということは忘れてはいなかったが、つい興味本位でその実験室に入ってみることにした。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">8:カイロ<br /> ガラガラと扉を開け室内を見回してみる。途端に鼻へとツンとくる独特な香りが広がってくるが室内は思っていた以上に暗く、それ以外の情報は見た限りでは何もわからない。実のところ中<br /> に誰か先生だとか先輩あたりがいないかとも期待していたのだが流石にこんな暗い所に人がいるとは思えない。あまり道草を食いすぎて入学初日から遅刻だなんて事になっては間違い無く俺<br /> はクラスの注目の的になってしまうだろう・・・悪い意味で。そんな目立ち方は御免だ。まずは入学式場を探し出すことにしよう。式が終わった頃には絡みやすそうな奴らも見つかるだろうし、<br /> そいつらと一緒に学校探検なんてもの悪くないかもな。そういえばさっき出会った奴らも俺と同じ新入生なのだろうか?黒髪の方は後姿しか確認できなかったがその後出てきたまるでやった<br /> ら顔色の悪い方はなかなかイイ体付きだったな、グヘヘ。 ・・・いやいやそんな事よりも先に式場へ行かねば。急がないとマジで遅刻だ。</font><br />  </p> <hr /><p><font face="メイリオ">9.ウツケ<br /> ……妙だ。全く、人の気配がない。こいつぁ、本格的に迷子か。しかし、いくらなんでもこの静けさはないだろう。マズいな、こうなっては俺もいよいよ焦りが出始める。暢気な歩みは徐々に<br /> スピードを上げていく。そもそも入学式って奴は広いところでやるものだ。まずは、体育館だろ。他にもここにはプロのオーケストラも時々やってくるような音楽ホール、収容人数がハンパで<br /> ない劇場やら巨大武道場やら模擬戦闘場やらも……結構多いじゃないか。「なんで地図とか案内とかないんだよ!」思わず叫んでしまったが、声は廊下に響くのみだった。そして、改めてその<br /> 違和感に気付く。静かすぎる。何かがあったのだろうか。いや、何かが起こっているのだろうか?「ハァッハァッ……」立ち止まると、走った汗を軽く上回る量の冷や汗がどっと吹き出す。<br /> この悪寒は……音もなく近寄る……でも圧倒的な存在感……小さい頃に見た……呆気なく人を殺す……奴ら……「ハァッハッ……」背中にのしかかる重圧を振り払うように後ろを……“屍だ。”</font></p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">10:ゆき<br /> その姿に戦慄する。<br /> 身体は黒く、形はいわゆる中型犬にも近いように思えたが、全身がドロっとしており、顔、関節、胴体、全てが曖昧だった。周りに相変わらず人の気配は無く、長く続く一本の暗い廊下と教室。<br /> 相手はじっと立ち止ったままこちらを向いている。俺は息を飲み、呼吸をするのも忘れ、ゆっくり、慎重に後ろへと下がる。<br /> ぺとっ。ぺとっ。<br /> 音が聞こえ、再び背筋が凍った。後ろを振り向くと、もう一体。屍らしき黒い物体がこちらに歩いてくるのが見えた。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">11:SDT<br /> 「2体…か。大した相手じゃないが、背後をとられているとなると…」だが、生き延びるためには戦うしかない。俺は懐に忍ばせていた2丁の"刀の柄"を構え、神経を集中させる。「…大いなる闇<br /> よ、我に仇名す敵を切り裂け…!」バシュゥゥウ!!禍々しく輝く刃が、柄の先に現れた。そう、これが俺の力…これ以上、大切なものを失わないために身に着けた力だ。「グワァアアァアッ!<br /> !」飛び掛ってきた犬型の屍をいなし、その胴体を切り裂く。「ふんっっ!!!」ズバンッッッ!!!まずは一体。すぐに振り向き、もう一体の屍との距離を詰める……が、俺が屍と認識してい<br /> た黒い影は、どうやら普通の人間だったようだ。「…君、すごいねぇ~。新入生でしょ?うちの部に入らない?」「は?あぁ…」なんだこの男は。こいつも屍を見たはずなのにまったく動じてい<br /> ない。いや、それより…「部活をやっているということは先輩ですよね?入学式の場所をお聞きしたいのですが…」刀の柄をしまい、一応敬語を使って訪ねてみる。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">12:ダイヤ(一部改訂)<br /> 「今、君のやったこと自体が入学式なんだよ~。この学園での入学式っていうのは、学園に入学してやっていけるだけの力があるかどうかを見るためのものだからね~」馴れ馴れしい先輩は、そ<br /> れが当然のことであるかのように言う。「君は屍を倒して、生き延びた。だから入学できるよ~」呑気な口調で続けるが、言っている内容は恐ろしい。さすが魔ヶ原学園。弱者には何の慈悲もな<br /> いというわけか。「無事入学式を終えた君にプレゼントだよ~」と封筒のようなものを渡された。どうやら、この学園の地図のようであり、どのように歩けば自分の教室まで辿り着けるかを示し<br /> ていた。そして先輩は、その地図に書かれている手順通りに行かないと永遠に辿り着けない魔術がかけられているからね~と言い、去って行った。…地図を見ながら歩き始めると、先ほどの黒髪<br /> の少女が今まで隣にいたかのようにすっと現れ、語りかけてきた。「君はなぜ、屍を殺したか…ああ、そんなことは今はどうでもよいか。君は私と同じクラスのはずだ。なんなら一緒に行こう」</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">13:カイロ<br /> まるで霧のようにどこからとも無く現れた女に対し俺は思わず吃驚してしまう。「あ、あんたいつからそこに居たんだッ!?」俺の問いに彼女は涼しげな笑みを浮かべるばかりで答えてはくれな<br /> い。先程は後姿しか確認できず、顔すらもよくわからなかったがようやく面と面向かって言葉を交わせた。顔立ちは非常に整っていてまるで人形のように美しい。・・・が、首から下は残念ながら<br /> 俺の好みではなかった。「あー・・・なんだ、その、俺はもっとこうバインバインでナイスバディって感じの方が好みなんだよなー」言葉として発するつもりはなかったのだがつい口から滑り出て<br /> しまった。屍との戦いが終わり気が緩んでしまっていたせいだろうか。つぶやいた程度の声量だったはずだがどうやら目の前の少女には聞こえていたらしく、眉がピクリと動き口元が少し引き攣<br /> れる。「ほほう、君は私に喧嘩を売っているのかな・・・」少女の笑みが崩れる事は無かったがその表情はどこか般若の面を思わせる何かがあった。このままでは殺されると直感した俺は迅速に謝<br /> 罪を行う。「ま、待ってくれ! 今のは違うんだ! 俺は確かに巨乳の方が好きだが別に貧乳でもまあ許せるんだ! 」直後、俺の股間に衝撃が走り、父と母、そして妹の姿が河の向こうに―――<br />   ・・・目が覚めた時には既にクラスの自己紹介が始まろうとしている所であった。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">14:ウツケ<br /> 「そんじゃ、今決まった番号順に、自己紹介しよっか。ん、やあ起きたかイチヤナギ君。もう居眠りとはなかなか肝が据わってるじゃんか。私宇乃坂並紀(ウノサカナミキ)。君5番。よろピクね。」<br /> 意識がはっきりしてきた。いやこの頭に響くような小うるさい声に起こされたと言った方が正確だ。ここは、教室。そして教壇に立つ声の主が、担任。そして他に着席してる奴が、クラスメイト。<br /> こんなところか。しかし、先ほどあのド貧乳アマに気絶させられていたのに居眠りとは何事か。少しむかっ腹が立つが、まあ自分の責任も多少はあるのでここは下がっておく。モヤモヤする。<br /> 「あっあの」一人いやに顔色の悪い女が立ち上がる。さっき俺をあほまぬけ呼ばわりしてくれたあの女だった。「わっわ私は跡追さきがけ(アトオイサキガケ)。えとその、法具は、えっとこれ、<br /> 数珠。趣味は……マンガっまんが……」たどたど、ぼそぼそ喋ったと思うとニコリと笑って続ける。「みんな、よろしく」しかし笑顔は悲しいかな、いかにもヤバいそれだった。アトオイが席に着くと<br /> どんよりした空気が残った。だが構わず次に男が立ち上がった。「……編笠金次(アミガサキンジ)」そして座った。どうしてくれるこの空気。更にずっしりと重くなってしまったではないか。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">15:ゆき<br /> 重苦しい空気の中、何やら一際目を輝かせているのは自己紹介を一番に終えたアトオイであった。<br /> 紛れもない視線の先にはそのぶっきら棒男、編笠金次の姿があり、ちらりちらりと恥ずかしげに彼を見るその様はまさしく純粋無垢な乙女そのものである。<br /> 俺は驚愕した。つくづく救えない女であり、後にこの俺が直々に恋愛無用論を説いてやろうと彼女にかける言葉を考えているとまたしても甲高い声が頭に響いた。<br /> 「ほら居眠り君!ぼーっとしてないで。君の番だよ!」担任はまるで駄々をこねるように言った。<br /> 気が付くと3番と4番の自己紹介は終わっていたらしく、既に自分の順番が回ってきたようであった。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">16:SDT<br /> よし。ここは一つ、俺がこの重苦しい空気を打開してやるとするか。ガタッ!「俺は、一柳風太郎。実家は少し遠いので、今日から寮に住むことになります。特技は…妹のおしめを上手に代えることだ<br /> !!!」…シ~ン。静まり返る教室。よし、スベった。しかし俺はポジティブなので、何食わぬ顔で着席し「下ネタは受けが悪いようだな…」などと脳内反省会を開く。すると、後ろの生徒が勢いよく<br /> 立ち上がった。何気なしに後ろを振り向いた瞬間、俺はその容貌に一瞬で目を奪われる。宝石のような瞳、輝く金髪…だが…「おーっほっほっほ!!ついにわたくしの番がやってきましたわね!皆さん<br /> 、よ~くお聞きなさいっ!わたくしの名はサファリナ=マリー=ルーブルベイン!9月8日生まれのO型!栄えあるルーブルベイン家の長女ですわ!クラスメイトの皆さんは、特別に『サファリナ様』<br /> や『姫』などと呼んでくださって結構ですわよ!あら、もう2行も使ってしまいましたわ!嫌だ私ったら!ホホホ!特技はお茶とお花と…「はーい、そこまで。自己紹介は一人一分までね。じゃあ次」</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">17:ダイヤ<br /> その後の自己紹介は、皆無難でこれといって特徴のない内容であったが、胸の膨らみがあまりない黒髪の少女の自己紹介は全く別のものであった。「私の名前は黒葛小雪(ツヅラコユキ)。私がこの学<br /> 校に来た目的は富や権力を得たいためでもないし、退魔師になりたいというわけではない。私はここで屍について探求していき、最終的には人間と屍が共存し合うことのできる世界をつくることが目標<br /> だ。」と、この学校を全否定するような発言を堂々と発言。「だから、この学校が屍を殺さなければ・・・」宇乃坂先生は「え、え、えーと、そこまで。自己紹介は1人1分まで、だからね。」と慌て<br /> ながら発言するが、黒葛はそれを聞いていないかのように「入学できないと分かったときは私は悲しかった・・」この後も10分くらい屍についての内容をクラス全体をほったらかして話し、対魔師に<br /> なりたくないというのに、退魔師を育成するために設立された魔ヶ原学園に入学した黒葛小雪という存在は学校中の噂となった。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">18:カイロ<br /> ・・・が、その前に。 俺はこの女に復讐をしておかなくてはならない。 「・・・ちなみに、趣味はタマ潰しでぇーす。興味のあるコは後で私の所に来てネッ☆」俺は裏声を駆使し小雪の自己紹介に<br /> 余計な一文を加えてやる。これで俺のおいなりさんの仇は取ったぜ。「私が真面目な話をしていると言うのに、どうして君は邪魔をするのかな・・・暫く黙っていて貰えないかな、風太郎〝ちゃん〟」<br /> ちゃんの部分をやたらと強調された。まさかと思い俺は股間を触って確認する。よかった、俺の世界遺産は三つとも無事だ。「お、脅かしやがって! 俺の聖遺物が御陀仏なのかと思ったじゃねーか!」<br /> 俺と小雪の繰り広げる喧嘩を宇乃坂が止めに入ろうとする直前、下らない喧嘩を止めるかのように教室前方の扉が大きな音を立て開けられ、新入生と思しき少女が入ってきた。「うへー、こりゃ完全に<br /> 遅刻っすかねー? あ、すんませんセンセー。自分新入生の阿倍野シキコでッス。趣味は人間観察ッス」今クラスにいる奴で全員揃ったかと思っていたが、もう一人いたらしい。入学早々遅刻とは、<br /> 何とも度胸のある奴だ。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">19:ウツケ<br /> 唐突にフッと嘲笑う声が聞こえた。「入学早々ばたんきゅうな肝っ玉が何を」編笠金次の台詞だった。「んだとッ」いやちょっと待て。今度のは声に出てないはずだ。「まさかお前心を……」「さぁ、<br /> どうだか」ナメてやがる……「ぶぶふぅっ!」これまた唐突に吹き出すような笑い声が。声の方向を睨むと必死に笑いをこらえる皿井菊の姿。「ごっっごめっぐっあひゃ、さっきからコントみたいで<br /> あひゃひゃひゃ!!」こちらが真剣なのにこうもアヒアヒ笑われては誰もがイラつくであろう。だがここで落ち着き払った態度が取れる俺はやはり寛大であった。そして後から入ってきた阿倍野は若干<br /> 愉快でないといった風だった。「ちょとちょとー遅刻してヘーキな自分があんま目立ってないスよーなんで?」「そこまで!」ふてぶてしくも抗議するアベノを担任が制止しつつまくし立てる。<br /> 「もぉーツヅラ君の為に時間押してるんだから巻いて巻いて!アベノ君はそこ座って!ほら番号も変わって最後13番!」「帯刀日向(ヲビナタヒムク)」「趣味!」「散歩」「法具!」「真剣」<br /> 「ありがとう!はいHR終了!」最後の自己紹介はなんともハイテンポかつ軽快に済まされてしまった。そして、いよいよこの学級で学ぶ仲間たちが確定する。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">1番   アトオイ サキガケ                         跡追 さきがけ<br /> 2番   アベノ シキコ                               阿倍野 シキコ<br /> 3番   アミガサ キンジ                            編笠 金次<br /> 4番   イクヤマ キョウスケ                      郁山 今日亮<br /> 5番   イサキ フカビ                               井崎 深緋<br /> 6番   イチヤナギ カゼタロウ                   一柳 風太郎<br /> 7番   サファリナ=マリー=ルーブルベイン   Sapphirina=Marie=Louvrebaim<br /> 8番   サモン ライト                               左門 頼人<br /> 9番   サライ キク                                  皿井 菊<br /> 10番 ツエブチ マコト                            杖渕 誠<br /> 11番 ツキミチ カグヤ                            月道 輝夜<br /> 12番 ツヅラ コユキ                               黒葛 小雪<br /> 13番 ヲビナタ ヒムク                            帯刀 日向<br /> 以上、13名ヲ国立魔ヶ原学園第31期高等科1年生トシテ新タニ迎エル。<br /> 担任 ウノサカ ナミキ                             宇乃坂 並紀</font><br />  </p> <hr /><h2><em><strong><a href="http://www59.atwiki.jp/haohao/pages/7.html">第2章へ</a></strong></em></h2>
<hr /><p>20XX年。現代から少しだけ進んだ時代。<br /> アラスカに正体不明の怪物"屍"(シカバネ)が現れた。<br /> 国連はこれに対抗すべく緊急屍対策委員会を設置し、<br /> 世界中から有力なエクソシストや修験者などの"退魔師"を集め、<br /> 屍への対策にあたった。<br /> この対策は功を奏し、屍は一時的に姿を消したものの、<br /> 安息が訪れたのも束の間。屍はどこからともなく<br /> 次々と湧き出してきたのである。<br /> 継続的に屍に対抗するうち、<br /> 退魔師の地位は、たちまち向上していった。<br /> 各国は血眼で魔術を研究し、伝承を掘り起こし、退魔師を育成した。<br /> そして今や、オカルトは人々の生活に根付いた一般的な概念となり、<br /> 退魔師は医者や弁護士をも上回るほどの<br /> 社会的ステータスを手に入れたのである。<br /> 「退魔師こそ人類の救世主」「退魔師に逆らう者は、屍に食われて死あるのみ」<br /> そんな風潮が世界を覆っていた。<br /><br /> これは、運命に翻弄され退魔師となった、少年少女たちの物語・・・</p> <hr /><p><font face="メイリオ">1:SDT<br /> 都内某所に圧倒的な存在感でそびえ立つ黒塗りの校舎。俺は今、その眼前に立っている。「ここが、魔ヶ原学園……」まさか、この俺が気圧されるとは思わなかった。俺の名前は<br /> 一柳風太郎(イチヤナギカゼタロウ)。今日からこの魔ヶ原学園高等科に通い始める15歳だ。…まあ、そんなことはどうでもいい。問題なのは、入学式がどこで行われているのか皆目<br /> 見当もつかないということだ。考えたからといって答えが出るわけもなし。俺は適当な生徒に狙いをつけ、入学式の場所を聞くことにした。「すみません、入学式の場所は…</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">2:ダイヤ<br /> 」と新入生らしき一人の少女に声をかけようとしたが、腰までかかっている黒うるしを塗ったかのような黒髪の後ろ姿に少し異性として緊張をしてしまい、声を途中で弱めてしまったため相<br /> 手には聞こえなかったようだ。だが、入学式が行われる日だというのに、新入生と思われる生徒が漆黒の髪の少女以外誰一人もいない。だから、少し勇気を振りしぼり、声を再びかけてみる。<br /> 「すみません、入学式の場所はどこでしょうか」すると、少女は歩くのをやめ、こちらを振り向かず「君はなぜ屍がこの地球にやってきたと思う」と質問と関係ないことを言ってきた。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">3:カイロ<br /> 「えっ? え、ええと・・・」突然の質問に俺は戸惑いながらも質問を返すために答えを探し始めしたが、黒髪の少女はこちらの返答を待つ前に残念そうに溜息をついた。<br /> 「・・・わからないならそれも構わないさ。今はまだ、それでもいい」黒髪の少女はそれだけ言い残しそのまま歩き去って行ってしまい、質問の真意を聞く暇すらなかった。<br /> 一体今のはなんだったのだろうなどと考えながら再び式場を探すために歩き始めてすぐ、やたら顔色の悪い女に話し掛けられた「ねっ、ねえ、入学式の会場ってどこかわかるかな? 」</font><br />  </p> <hr /><p><font face="メイリオ">4.ウツケ<br /> 先ほどのことで油断していたのもあって、その風貌に思わず声をあげそうになったが持ち直す。ここは退魔師を育成する魔ヶ原学園、見た目に臆していては生徒として名折れというもの。<br /> 「……ああ、それなんだけど自分も探しているところで……」その割には間抜けな台詞を吐いてしまった。すると、元から病気のようだった顔がいっそう青ざめていく。「ええっそうなの?<br /> ど、どうしよう、資料にもくわしく書いてなかったし、こっこの辺りにもお知らせがなかったし……」今度はうっかり「えっ」と声を漏らしてしまった。もしや、会場は公表されてないのか。</font></p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">5 ゆき<br /> そのことを彼女に伝えると彼女は卒倒しそうになって、「だから誰も見当たらないんですか!!私たちが阿呆ってことですか!!?」と叫んだ。<br /> 「私たち2人だけまぬけなんだ~!まぬけがまぬけに話しかけたんだ~!!」少女は泣き叫んだ。<br /> 懸命に彼女を慰めるさなか何故だか気持ちがムカムカしたのは彼女が俺のことをそこそこストレートに"お前は阿呆だ!まぬけだ!"と叫んでいるからに違いなかった。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">6:SDT<br /> 俺はこれでも自分は温厚なほうであると認識している。妹とオモチャの取り合いになったときも、最終的には譲っていたものだ。……が、しかし、見ず知らずの他人にいきなりマヌケ呼ばわ<br /> りされたあげく、黒板を引っかくかの如く耳障りな声で泣き叫ばれたとあっては、さすがに付き合いきれない。「もういい!俺は一人で入学式の場所を探す。校舎に入れば生徒や先生がいる<br /> だろうしな」俺はそう言い残して立ち去った。立ち去る際、背中になにやら死神のような不吉な気配を感じたが、気のせいに違いない。「よし。は、入るぞ……」</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">7:ダイヤ<br /> 外装も黒塗りであった校舎は内装も暗い色で統一されており、静まりかえっているようであった。その光景に漠然としたため、一度歩くのをやめた。周りは入学式の影響で誰もいないので、も<br /> う一人で入学式に向かうしか方法はない。先ほど、気が弱そうな女と一緒に行動を取ればよかったと少し後悔をするが、どうせいつかは見つかると思い、入学式の場所を探すため再び歩くこと<br /> にする。校舎の入り口から少し移動し廊下を歩く。ふと前を見てみると同じ教室が無限に続いているように見える。いつかは違う教室、階段や入学式の場所がみえてくるはずだと考えるが、し<br /> ばらく歩いても同じ教室が見えてくる。だが、少し疲れたと思ったころに、少し広そうで理科室のような雰囲気がする教室が見えてきた。理科室にいるときの匂いが廊下からもしてくる。教室<br /> 名が書いてある表示プレートを見ると“実験室”と書かれていた。入学式に行かなければならないということは忘れてはいなかったが、つい興味本位でその実験室に入ってみることにした。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">8:カイロ<br /> ガラガラと扉を開け室内を見回してみる。途端に鼻へとツンとくる独特な香りが広がってくるが室内は思っていた以上に暗く、それ以外の情報は見た限りでは何もわからない。実のところ中<br /> に誰か先生だとか先輩あたりがいないかとも期待していたのだが流石にこんな暗い所に人がいるとは思えない。あまり道草を食いすぎて入学初日から遅刻だなんて事になっては間違い無く俺<br /> はクラスの注目の的になってしまうだろう・・・悪い意味で。そんな目立ち方は御免だ。まずは入学式場を探し出すことにしよう。式が終わった頃には絡みやすそうな奴らも見つかるだろうし、<br /> そいつらと一緒に学校探検なんてもの悪くないかもな。そういえばさっき出会った奴らも俺と同じ新入生なのだろうか?黒髪の方は後姿しか確認できなかったがその後出てきたまるでやった<br /> ら顔色の悪い方はなかなかイイ体付きだったな、グヘヘ。 ・・・いやいやそんな事よりも先に式場へ行かねば。急がないとマジで遅刻だ。</font><br />  </p> <hr /><p><font face="メイリオ">9.ウツケ<br /> ……妙だ。全く、人の気配がない。こいつぁ、本格的に迷子か。しかし、いくらなんでもこの静けさはないだろう。マズいな、こうなっては俺もいよいよ焦りが出始める。暢気な歩みは徐々に<br /> スピードを上げていく。そもそも入学式って奴は広いところでやるものだ。まずは、体育館だろ。他にもここにはプロのオーケストラも時々やってくるような音楽ホール、収容人数がハンパで<br /> ない劇場やら巨大武道場やら模擬戦闘場やらも……結構多いじゃないか。「なんで地図とか案内とかないんだよ!」思わず叫んでしまったが、声は廊下に響くのみだった。そして、改めてその<br /> 違和感に気付く。静かすぎる。何かがあったのだろうか。いや、何かが起こっているのだろうか?「ハァッハァッ……」立ち止まると、走った汗を軽く上回る量の冷や汗がどっと吹き出す。<br /> この悪寒は……音もなく近寄る……でも圧倒的な存在感……小さい頃に見た……呆気なく人を殺す……奴ら……「ハァッハッ……」背中にのしかかる重圧を振り払うように後ろを……“屍だ。”</font></p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">10:ゆき<br /> その姿に戦慄する。<br /> 身体は黒く、形はいわゆる中型犬にも近いように思えたが、全身がドロっとしており、顔、関節、胴体、全てが曖昧だった。周りに相変わらず人の気配は無く、長く続く一本の暗い廊下と教室。<br /> 相手はじっと立ち止ったままこちらを向いている。俺は息を飲み、呼吸をするのも忘れ、ゆっくり、慎重に後ろへと下がる。<br /> ぺとっ。ぺとっ。<br /> 音が聞こえ、再び背筋が凍った。後ろを振り向くと、もう一体。屍らしき黒い物体がこちらに歩いてくるのが見えた。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">11:SDT<br /> 「2体…か。大した相手じゃないが、背後をとられているとなると…」だが、生き延びるためには戦うしかない。俺は懐に忍ばせていた2丁の"刀の柄"を構え、神経を集中させる。「…大いなる闇<br /> よ、我に仇名す敵を切り裂け…!」バシュゥゥウ!!禍々しく輝く刃が、柄の先に現れた。そう、これが俺の力…これ以上、大切なものを失わないために身に着けた力だ。「グワァアアァアッ!<br /> !」飛び掛ってきた犬型の屍をいなし、その胴体を切り裂く。「ふんっっ!!!」ズバンッッッ!!!まずは一体。すぐに振り向き、もう一体の屍との距離を詰める……が、俺が屍と認識してい<br /> た黒い影は、どうやら普通の人間だったようだ。「…君、すごいねぇ~。新入生でしょ?うちの部に入らない?」「は?あぁ…」なんだこの男は。こいつも屍を見たはずなのにまったく動じてい<br /> ない。いや、それより…「部活をやっているということは先輩ですよね?入学式の場所をお聞きしたいのですが…」刀の柄をしまい、一応敬語を使って訪ねてみる。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">12:ダイヤ(一部改訂)<br /> 「今、君のやったこと自体が入学式なんだよ~。この学園での入学式っていうのは、学園に入学してやっていけるだけの力があるかどうかを見るためのものだからね~」馴れ馴れしい先輩は、そ<br /> れが当然のことであるかのように言う。「君は屍を倒して、生き延びた。だから入学できるよ~」呑気な口調で続けるが、言っている内容は恐ろしい。さすが魔ヶ原学園。弱者には何の慈悲もな<br /> いというわけか。「無事入学式を終えた君にプレゼントだよ~」と封筒のようなものを渡された。どうやら、この学園の地図のようであり、どのように歩けば自分の教室まで辿り着けるかを示し<br /> ていた。そして先輩は、その地図に書かれている手順通りに行かないと永遠に辿り着けない魔術がかけられているからね~と言い、去って行った。…地図を見ながら歩き始めると、先ほどの黒髪<br /> の少女が今まで隣にいたかのようにすっと現れ、語りかけてきた。「君はなぜ、屍を殺したか…ああ、そんなことは今はどうでもよいか。君は私と同じクラスのはずだ。なんなら一緒に行こう」</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">13:カイロ<br /> まるで霧のようにどこからとも無く現れた女に対し俺は思わず吃驚してしまう。「あ、あんたいつからそこに居たんだッ!?」俺の問いに彼女は涼しげな笑みを浮かべるばかりで答えてはくれな<br /> い。先程は後姿しか確認できず、顔すらもよくわからなかったがようやく面と面向かって言葉を交わせた。顔立ちは非常に整っていてまるで人形のように美しい。・・・が、首から下は残念ながら<br /> 俺の好みではなかった。「あー・・・なんだ、その、俺はもっとこうバインバインでナイスバディって感じの方が好みなんだよなー」言葉として発するつもりはなかったのだがつい口から滑り出て<br /> しまった。屍との戦いが終わり気が緩んでしまっていたせいだろうか。つぶやいた程度の声量だったはずだがどうやら目の前の少女には聞こえていたらしく、眉がピクリと動き口元が少し引き攣<br /> れる。「ほほう、君は私に喧嘩を売っているのかな・・・」少女の笑みが崩れる事は無かったがその表情はどこか般若の面を思わせる何かがあった。このままでは殺されると直感した俺は迅速に謝<br /> 罪を行う。「ま、待ってくれ! 今のは違うんだ! 俺は確かに巨乳の方が好きだが別に貧乳でもまあ許せるんだ! 」直後、俺の股間に衝撃が走り、父と母、そして妹の姿が河の向こうに―――<br />   ・・・目が覚めた時には既にクラスの自己紹介が始まろうとしている所であった。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">14:ウツケ<br /> 「そんじゃ、今決まった番号順に、自己紹介しよっか。ん、やあ起きたかイチヤナギ君。もう居眠りとはなかなか肝が据わってるじゃんか。私宇乃坂並紀(ウノサカナミキ)。君5番。よろピクね。」<br /> 意識がはっきりしてきた。いやこの頭に響くような小うるさい声に起こされたと言った方が正確だ。ここは、教室。そして教壇に立つ声の主が、担任。そして他に着席してる奴が、クラスメイト。<br /> こんなところか。しかし、先ほどあのド貧乳アマに気絶させられていたのに居眠りとは何事か。少しむかっ腹が立つが、まあ自分の責任も多少はあるのでここは下がっておく。モヤモヤする。<br /> 「あっあの」一人いやに顔色の悪い女が立ち上がる。さっき俺をあほまぬけ呼ばわりしてくれたあの女だった。「わっわ私は跡追さきがけ(アトオイサキガケ)。えとその、法具は、えっとこれ、<br /> 数珠。趣味は……マンガっまんが……」たどたど、ぼそぼそ喋ったと思うとニコリと笑って続ける。「みんな、よろしく」しかし笑顔は悲しいかな、いかにもヤバいそれだった。アトオイが席に着くと<br /> どんよりした空気が残った。だが構わず次に男が立ち上がった。「……編笠金次(アミガサキンジ)」そして座った。どうしてくれるこの空気。更にずっしりと重くなってしまったではないか。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">15:ゆき<br /> 重苦しい空気の中、何やら一際目を輝かせているのは自己紹介を一番に終えたアトオイであった。<br /> 紛れもない視線の先にはそのぶっきら棒男、編笠金次の姿があり、ちらりちらりと恥ずかしげに彼を見るその様はまさしく純粋無垢な乙女そのものである。<br /> 俺は驚愕した。つくづく救えない女であり、後にこの俺が直々に恋愛無用論を説いてやろうと彼女にかける言葉を考えているとまたしても甲高い声が頭に響いた。<br /> 「ほら居眠り君!ぼーっとしてないで。君の番だよ!」担任はまるで駄々をこねるように言った。<br /> 気が付くと3番と4番の自己紹介は終わっていたらしく、既に自分の順番が回ってきたようであった。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">16:SDT<br /> よし。ここは一つ、俺がこの重苦しい空気を打開してやるとするか。ガタッ!「俺は、一柳風太郎。実家は少し遠いので、今日から寮に住むことになります。特技は…妹のおしめを上手に代えることだ<br /> !!!」…シ~ン。静まり返る教室。よし、スベった。しかし俺はポジティブなので、何食わぬ顔で着席し「下ネタは受けが悪いようだな…」などと脳内反省会を開く。すると、後ろの生徒が勢いよく<br /> 立ち上がった。何気なしに後ろを振り向いた瞬間、俺はその容貌に一瞬で目を奪われる。宝石のような瞳、輝く金髪…だが…「おーっほっほっほ!!ついにわたくしの番がやってきましたわね!皆さん<br /> 、よ~くお聞きなさいっ!わたくしの名はサファリナ=マリー=ルーブルベイン!9月8日生まれのO型!栄えあるルーブルベイン家の長女ですわ!クラスメイトの皆さんは、特別に『サファリナ様』<br /> や『姫』などと呼んでくださって結構ですわよ!あら、もう2行も使ってしまいましたわ!嫌だ私ったら!ホホホ!特技はお茶とお花と…「はーい、そこまで。自己紹介は一人一分までね。じゃあ次」</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">17:ダイヤ<br /> その後の自己紹介は、皆無難でこれといって特徴のない内容であったが、胸の膨らみがあまりない黒髪の少女の自己紹介は全く別のものであった。「私の名前は黒葛小雪(ツヅラコユキ)。私がこの学<br /> 校に来た目的は富や権力を得たいためでもないし、退魔師になりたいというわけではない。私はここで屍について探求していき、最終的には人間と屍が共存し合うことのできる世界をつくることが目標<br /> だ。」と、この学校を全否定するような発言を堂々と発言。「だから、この学校が屍を殺さなければ・・・」宇乃坂先生は「え、え、えーと、そこまで。自己紹介は1人1分まで、だからね。」と慌て<br /> ながら発言するが、黒葛はそれを聞いていないかのように「入学できないと分かったときは私は悲しかった・・」この後も10分くらい屍についての内容をクラス全体をほったらかして話し、対魔師に<br /> なりたくないというのに、退魔師を育成するために設立された魔ヶ原学園に入学した黒葛小雪という存在は学校中の噂となった。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">18:カイロ<br /> ・・・が、その前に。 俺はこの女に復讐をしておかなくてはならない。 「・・・ちなみに、趣味はタマ潰しでぇーす。興味のあるコは後で私の所に来てネッ☆」俺は裏声を駆使し小雪の自己紹介に<br /> 余計な一文を加えてやる。これで俺のおいなりさんの仇は取ったぜ。「私が真面目な話をしていると言うのに、どうして君は邪魔をするのかな・・・暫く黙っていて貰えないかな、風太郎〝ちゃん〟」<br /> ちゃんの部分をやたらと強調された。まさかと思い俺は股間を触って確認する。よかった、俺の世界遺産は三つとも無事だ。「お、脅かしやがって! 俺の聖遺物が御陀仏なのかと思ったじゃねーか!」<br /> 俺と小雪の繰り広げる喧嘩を宇乃坂が止めに入ろうとする直前、下らない喧嘩を止めるかのように教室前方の扉が大きな音を立て開けられ、新入生と思しき少女が入ってきた。「うへー、こりゃ完全に<br /> 遅刻っすかねー? あ、すんませんセンセー。自分新入生の阿倍野シキコでッス。趣味は人間観察ッス」今クラスにいる奴で全員揃ったかと思っていたが、もう一人いたらしい。入学早々遅刻とは、<br /> 何とも度胸のある奴だ。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">19:ウツケ<br /> 唐突にフッと嘲笑う声が聞こえた。「入学早々ばたんきゅうな肝っ玉が何を」編笠金次の台詞だった。「んだとッ」いやちょっと待て。今度のは声に出てないはずだ。「まさかお前心を……」「さぁ、<br /> どうだか」ナメてやがる……「ぶぶふぅっ!」これまた唐突に吹き出すような笑い声が。声の方向を睨むと必死に笑いをこらえる皿井菊の姿。「ごっっごめっぐっあひゃ、さっきからコントみたいで<br /> あひゃひゃひゃ!!」こちらが真剣なのにこうもアヒアヒ笑われては誰もがイラつくであろう。だがここで落ち着き払った態度が取れる俺はやはり寛大であった。そして後から入ってきた阿倍野は若干<br /> 愉快でないといった風だった。「ちょとちょとー遅刻してヘーキな自分があんま目立ってないスよーなんで?」「そこまで!」ふてぶてしくも抗議するアベノを担任が制止しつつまくし立てる。<br /> 「もぉーツヅラ君の為に時間押してるんだから巻いて巻いて!アベノ君はそこ座って!ほら番号も変わって最後13番!」「帯刀日向(ヲビナタヒムク)」「趣味!」「散歩」「法具!」「真剣」<br /> 「ありがとう!はいHR終了!」最後の自己紹介はなんともハイテンポかつ軽快に済まされてしまった。そして、いよいよこの学級で学ぶ仲間たちが確定する。</font><br />  </p> <hr /><p><br /><font face="メイリオ">1番   アトオイ サキガケ                         跡追 さきがけ<br /> 2番   アベノ シキコ                               阿倍野 シキコ<br /> 3番   アミガサ キンジ                            編笠 金次<br /> 4番   イクヤマ キョウスケ                      郁山 今日亮<br /> 5番   イサキ フカビ                               井崎 深緋<br /> 6番   イチヤナギ カゼタロウ                   一柳 風太郎<br /> 7番   サファリナ=マリー=ルーブルベイン   Sapphirina=Marie=Louvrebaim<br /> 8番   サモン ライト                               左門 頼人<br /> 9番   サライ キク                                  皿井 菊<br /> 10番 ツエブチ マコト                            杖渕 誠<br /> 11番 ツキミチ カグヤ                            月道 輝夜<br /> 12番 ツヅラ コユキ                               黒葛 小雪<br /> 13番 ヲビナタ ヒムク                            帯刀 日向<br /> 以上、13名ヲ国立魔ヶ原学園第31期高等科1年生トシテ新タニ迎エル。<br /> 担任 ウノサカ ナミキ                             宇乃坂 並紀</font><br />  </p> <hr /><h2><em><strong><a href="http://www59.atwiki.jp/haohao/pages/7.html">第2章へ</a></strong></em></h2>

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