第2章(20-98)


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

戻る

20:ゆき
 学園への入学を終え、俺は学園寮で寝食を共にすることとなった。担任の宇乃坂に連れられ案内された寮であったが、寮とは名ばかりのリアル幽霊屋敷であった。
床には埃が積もり、天井にはクモの巣が張り巡らされ、日が暮れると決まってカラス達が賑やかに集会を始める。ここを住まいとするにはあまりにも不気味であり、ひとたび夜になれば
百鬼夜行御一行も喜んで一泊すること請け合いであろう。


21:SDT
「こ、こんなところに住むのか…」と俺が途方に暮れていると、「じゃ、後は若い人たちでよろピク☆」と言って宇乃坂は去ってしまった。なんて薄情な…あいつの給料が国税から支払われていると思
うと、真面目に納税する気も失せるというものだ。だがしかし、どんな恨み言を言っても目の前の状況が変わるわけではない。まずはこの"寮のような何か"をどうやって住める形にするかが重要だろう
。幸いなことに、ここで暮らすことになったのは俺一人というわけではない。「あっ、あの…」「…なるほどな」「あひゃひゃひゃ!クモが、クモが…笑」「ブタ小屋ですの?」「いや~キツいっス…
」この学園は寮に入ることが義務づけられているわけではないが、実際のところはほとんどの生徒が寮に入るのだ。朝は早くから夜は遅くまで過酷な訓練を強いられるというのに、移動に時間を割いて
などいられないからな。さて、ザッと見たところ、このクラスメイトたちには"協調性"というものが存在しない。ここは一つ、俺がリーダーシップを発揮するしかないだろう。「おーい、聞いてくれ!」


22:ダイヤ
「まずは、学園寮の構造がどうなっているか見て行く。構造を確認した後、部屋割りをしていこうと思う。」グヘヘ・・その後は言いくるめて、アトオイやサファリナと一緒の部屋にして、「よからぬ
ことをしようじゃないか・・グヘヘ。俺もついに童貞じゃあなくなるのか・・ヘヘ」と俺はリーダーらしい発言をするのだが、クラスメイトの様子がおかしい。「ぶぶふぅっ!風太郎君…笑」「いや~
その発言はナイッス…」「君は本当にダメな奴だよ…」「不潔ですわ」となぜか協調性のなかったクラスメイトが全員俺の方を見ていて、こりゃダメだという顔をしている。一体何をしたんだというん
だ。すると、金次が急に変な動きをしてくる。自分の頭にひとさし指を指したり、ひとさし指を唇に触れた後、はなしたりしていり、触れたりしている。これはきっとジェスチャーだ。一体何を伝えた
いのだろうか。


23:カイロ
ああ、そうか。こいつは人の心を読めるんだったか。そこから察するにジェスチャーの意味はあまり考えずとも理解できるな。「悪いな、金次」「・・・いや、気にするな」金次はぶっきらぼうに返して
くる。「俺、男はちょっとな・・・」手をお嬢様笑いの如く口元に当てながら俺は申し訳無さそうな表情をする。一部の女子達から残念そうな声が聞こえた気がした。「いや、そうじゃない」ハハハ、
隠すな隠すな。「さて、お喋りはこれくらいにして、まずは保健室と体育館倉庫の位置を確認しに行くとしようか、皆」 いつの間にやらさっきまで協調性ゼロだったクラスの皆が同じような視線を俺
に向けてくれている。とても冷たい視線を。「ホホホ、やはりこのようなお馬鹿さんに団体の指揮など任せて置くべきではありませんね! ここはこの私が皆様を先導して差し上げますわ! 」
さあ、ついていらっしゃいと叫び、寮の中へと入っていく。他のみんなもそれに続いていく。ああもう、なんだよ、クソッ。大事だろ、保健室も体育館倉庫も。


24:ウツケ
しかし、早くも絆の輪っかから切り離されそうな俺はやはりしぶしぶオヒメサマによるカリスマの船に乗っかっていく。遅刻だどうだで慌てていた意味が皆無の悪目立ちっぷりだ。こんなはずでは……。
「おう、元気ねぇな。まーな、ドンマイだ。」何者かに肩を叩かれ、うなだれていた顔を上げると厳つい顔つきの大男が眼前に現れる。「え……と、」「左門だ。左門頼人(サモンライト)。てめーに
正直なのはいーが、やっぱ言うところは気ィ付けねーとな。何。こっから取り返しゃいーんだ。」顔は怖いがどうやら良い奴らしい。「あぁ、悪い……」一方、ルーブルベイン一行は目に入った扉を
次々とハデに開けていく。「ここは……ゴミ捨て場ですわね!」「物置だな」「またゴミ捨て場!」「リネン室よ」「豚小屋ですわ!」「ここが寮か」「鶏小屋!」「トイレ」「ここが寮室ですわ!」
「食堂だね」「ぶっひゃひゃ!マリー様っヒヒヒ!」ことごとく突っ込まれる姫。しかし、次の部屋で少しだけ空気が変わる。「ん、こちらは」「……模擬戦闘場。」


25:SDT
俺はゲーム好きなので、部屋のド真ん中に置かれている機械が何なのか知っている。要するに、安全に殺し合いのシミュレーションをするためのものだ。「ちょうどいい…おい、まな板!」俺が声を張
り上げると、全員が黒葛の方を見る。しかし、肝心の黒葛は知らんぷりだ。「おい、黒葛!お前だよ!」「なんだ、私のことを言っていたのか。あいにくサル語には疎くてな…」よく言うよ。まな板っ
て言われたとき、ピクッて反応したくせに。「…俺とこいつで勝負しろ。どっちが猿かハッキリさせてやるぜ」俺は機械をバシバシと叩きながら、黒葛を挑発する。すると、黒葛も「断る。君の実力は
既に見切った。私の相手ではない」と挑発し返してきた。これは面白くなりそうだと思ったが…「はいはい、痴話喧嘩は後にしてくださいな!それともお二人はホコリの布団でお眠りになりたいんです
の?」いいところで姫が止めに入ってきてしまった。確かに、黒葛とじゃれあうのは後でも出来る。それより、今は探索や掃除を行うべきだという姫の主張はもっともだ。俺はその意見を尊重すること
にした。「…命拾いしたな、黒葛」「………」


26:ダイヤ
黒葛に対して挑発をしたというのに、黒葛がだんまりしていたのは気になった。だが、今はそんなことを考えるより探検の方が優先だ。「もうすぐ、日がくれてしまいますわ!」と姫が言う。確かに、
窓を見てみると、太陽が沈んでいるのかもう外は暗くなりかけていており、学園寮全体がさらに暗くなっている。本当に鬼や妖怪の大部隊に遭遇してしまいそうだ。それを利用してなのか皿井は、さき
がけや黒葛のこっそりと後ろに近づいてから、まるでお化けと言ってもいい声を出して驚かしていて、あひゃひゃと笑っている。さきがけはきゃあああ!と女らしくない声をあげ、あらゆる方向にパニ
ック状態になって走っている。胸がたゆんたゆんと揺れているので、もう最高である。だが、凝視してしまうと、全員から冷たい目で見られるので、そのようなことはできない。黒葛はビクビクと震え
上がってしまって、それを見た皿井は流石に、ごめんね小雪ちゃんと謝っていた。


27:カイロ
探索で思い出したが入学式の前に気になる部屋を見つけていた事を思い出す。そう、実験室だ。あの時は急いでいた事もあってあまり中をよく確認できなかったが今になってあの部屋が気になりだして
しまった。あの部屋はそもそも何の"実験"をするための部屋だったのか、今更ながらに考え出してしまう。だが窓の外の暗さから察するにもうすぐ夕飯の時間と言ったところだろうか。今更学校へ戻る
と言うわけにもいかないか。 まあ、別に今すぐ行かなくちゃならん訳でも無し、明日の休み時間にでもその辺の奴らを誘って行けばいい話か。「・・・でさー、ソイツがいきなりご飯にザバーッっと
かけちゃったのよ、ソレ」「ええっ、わっ、私、それはちょっと、変だと、思うっ・・・」「えー? 自分は全然アリだと思うッスよー? 」 どうやら女子の内一部は既に探索よりもおしゃべりと
言った感じになり始めている。明日からは屍共と戦う為の訓練も始まる事だろう。探索は一旦ここらでやめて、明日に備えて今日は早い内に体を休ませておくべきなのかもしれない。


28:ウツケ
「おーい、とりあえず空き部屋も把握したし、食堂で飯でも食おうぜ。それからみんなで部屋わり、を……」よもやリーダーシップなど欠片も発揮し得ないことを確信した瞬間だった。
「親睦を深めるためにも、な?」「う、うん。そうだね。」「腹も減ったしな……」完全な同意を得るまでに少し時間がかかってしまった。何がそんなにイヤだって言うんだ。
そしてこの後はきっと大欲情タイム、もとい大浴場タイムが待っている……うむ我ながら上手いぞ。することは当然……「ククッ」思わず笑みがこぼれてしまった。これはキモい。自分でもわかる。
ますます辛い空気が俺を襲う。どうして……どうしてこうなった……。


29:SDT
い、いやいやいや!さすがにこれ以上俺の信用を落とすわけにはいかない。大欲情タイムはいつかのお楽しみにとっておこう。それより、何か名誉を挽回する手立てはないか…と考えていると、「…み
んなで飯はいいんスけど、食堂に行っても何もないんじゃないっスか?」阿倍野がそう言い放った。場の空気が一気に凍る。確かに、この寮はほんの数時間前までただのゴミ屋敷だった。食べ物がある
としても、せいぜい缶詰くらいだろう。…これは俺にとってピンチではない。それどころか、チャンスですらあった。「よし、俺が飯を作ろう!」ここぞとばかりに宣言すると、全員が「は?」と言っ
た面持ちでこちらを見る。くそ、つくづく信用がないな。しかし、「料理だけは本当に自信があるんだ!頼む!」……と必死に頼み込むと、ひとまず俺が飯を作ることには皆が同意してくれた。そもそ
も、クラスメイトの中でマトモに料理が出来るのは俺と月道と黒葛くらいだったので、その3人が食事当番ということになる。俺たちは適当に買出しをすませ、3人で仲良く(?)飯を作ることにした。


30:ダイヤ(やり直し)(2回目)
料理をする三人以外は食堂の掃除をすることになり、掃除をしていない三人は今すぐにもスーパーで買い出しをしてからここに戻り、料理を作らなければならない。だが、買い出しに行く前に一応する
べきことが一つある。それは食材の確認だ。先ほどは食堂には食べ物がないと考えていたが、よく考えると我が家はいつだって、冷凍の飯が保存されていたから、この大規模な生徒数の料理を作らなけ
ればならないこの食堂には冷凍の飯くらいはあるだろう。今回は俺が一番得意なチャーハンを作ることになったのだから、ご飯は必ず必要だ。なので、食堂の冷蔵庫や冷凍庫があるキッチンに入った。
中に入ると、薄暗くて、キッチンの銀メッキが目立って見えている。誰もいる様子はない。ここに女子でもいたら、またよからぬことをしていると勘違いをしてしまいそうだからよかった。安心して冷
蔵庫や冷凍庫の所に行き、まず冷凍庫を開けようとしたら、冷凍庫の影から、人影が見える。「ここは誰にも見えないところだからって不純異性交遊をしようっていうのはないッスよー」と阿倍野はわ
ざと声を大きめにして言った。


31:カイロ
俺はすかさず阿倍野の言葉に軽い冗談で返してやる。「悪いな子猫ちゃん。今は君の相手をしてる時間は無いんだ、また今度な? 」人差し指を1文字に立て、ウインクもキメる。阿倍野は犬の糞でも
踏みつけてしまったかの如く不快そうな表情を見せてくる。「うえー、食後に聞いてたら吐いてるとこッスよ」酷い言われ様だ。だがしかしさっきまでの俺の言動を顧みると言葉を返してくれる分
いくらかマシかもしれない。「おっとっと、こんな無駄話をしてる時間は無いんだった」俺はあくまでチャーハンの材料を探しているだけなのだ。冷蔵庫の扉に手をかけさっと開ける。米と油と卵、
それから肉さえあればそれらを鍋にぶちまけて焼いてやれば簡単かつ手軽に美味い食事ができる。そんなチャーハンは学生の味方と呼ぶに相応しいと俺は思う。なお、ネギは俺が嫌いなので入れる
つもりは無い。「・・・駄目だこりゃ。なんもねーや」残念な事に冷蔵庫の中には何も無かった。・・・正確に言うと大量のカビらしき物が付着した謎のタッパーがいくつか入ってはいたが数には入れず
ともいいだろう。


32:ウツケ
「お、おおっおおおーっ。あったっスね!食べられそうなの!」「うおい待て待て!」阿倍野がすかさず玉手箱に手を掛けるのだから冷や汗をかいた。「えーっ良いじゃないスかー冷蔵庫に入ってる物
はいつになっても食べられるんスよー」「それは冷凍庫の話だ!」今まで生きてこれたのが不思議なくらい恐ろしい感覚の持ち主だ。こんなもん食ったら腹壊す……どころか絶対命に関わるだろう。
「どうだった。カゼエロウ」「風太郎だ。」月道輝夜(ツキミチカグヤ)は潔癖症らしく、どこで出したかマスクやゴーグルはもちろんゴム手袋にエプロン、左に洗剤、右に雑巾の完全武装だ。
「こりゃ全部ダメだ。冷凍庫もゲテモノしか入ってない。」「全く酷い寮に入れられた物ね。もう帰りたい。」喋りながらも雑巾がけの手を全く止めていない。凄まじい徹底ぶりだ。
「帰るっつっても、寮に来てるんだから通うのは厳しいんだろ?」「そりゃあね。通学時間だけでもやることなさすぎて死にたくなるもの。……食器も調理器具もダメね。間に合わせでも揃えないと」


33:SDT
…というわけで、3人で調理器具も含めての買出しということになった。月道は俺の半径3m以内には絶対に入りたがらないものの、普通に話してはくれる。しかし、黒葛のほうは取り付く島もない。「
黒葛、料理なんて出来るのか~?カップ麺は料理じゃないぞ!ははは!」などと軽い調子で話しかけてみても、ぷい、と顔を背けたままだ。「…はぁ。とんだ貧乏クジを引かされたわね」月道も、ケン
カ中の二人の間に放り込まれて辟易している。「巻き込んで悪かった」「あら?謝る相手が違うんじゃないの?」「…そうだな」今にして思えば、黒葛との仲が険悪になった原因はすべて俺にあった。
初対面でコンプレックスを指摘してしまったこともそうだし、黒葛の趣味をタマ潰しにしてしまったこともそう。あいつは何も悪くなかった。「………………謝ろう」俺の口から、自然に言葉が流れ出
る。冗談や欺瞞ではない。心からの、本当の気持ちだ。「ん、なかなかいい顔になったじゃない。ほら、行きなさいな」「ありがとう、月道」俺は月道に背中を押され、意を決して黒葛に話しかける。


34ダイヤ
「黒葛、俺が悪かった」開口一番にそう言うが、「・・・・・・・」黒葛は沈黙を保ったままである。おそらく、俺が本気で謝っているとは思っていないのだろう。そもそも黒葛は何に対して怒って
いるのか・・ああ、そうか。黒葛はコンプレックスについて怒っているのではなくて、俺が悪口のように言ったことに対して怒っているんだ。黒葛は早歩きで淡々とスーパーに向っていて、
話しかけてもこちらを見てくれない。……だが、こんなことで諦めてたまるか!この機会を逃したら、きっと俺はいつまで経っても黒葛に謝罪できないままだ。「黒葛!!」俺は黒葛の肩を掴むと、
強引にこちらを向かせる。黒葛は少しムッとした様子だったが、俺の目を見ると、どうやら"本気"であることを悟ったらしい。「…何だ?」と、俺と話す意思を見せてくれた。「黒葛、本当に
悪かった。黒葛がそこまで胸について悩んでいるとも知らず、俺は何回も胸が小さいとバカにしてしまった。これからは黒葛に対しては胸が小さいということは絶対に言わないようにする。黒葛は
“胸”が小さくても可愛いからな」"胸"という単語が聞こえるたびに何かしらの反応をしていた黒葛は、俺の話を聞き終えると、もはや唖然として「君が本気で謝っているのは分かるが、その発言
だと君は私に対して謝っているのか、またけなしているのかわからない。」と言う。?…なにが言いたいんだ、こいつは。後ろを振り返ってみると、月道は「なんでそんなこと言うのよ…」とでも
言いたそうな表情をしていた。


35:カイロ
あー、そうか。胸が小さい胸が小さい連呼してるからか。そりゃ確かにいかんよな。だが俺は紳士なのですぐさま訂正する。「悪い悪い。お前のおっぱいは全然小さくないさ。むしろFカップくらいは
絶対あるもんな」うん、我ながら完璧なフォローだと褒めたくなる。実際のところ黒葛の胸は平坦であったがこちらは現在謝罪している立場なのだから、やはり多少のお世辞は必要であろう。俺なりに
気を利かせたつもりだったのだが。「・・・なるほどな。つまり、君は、謝るつもりなど毛頭無かったわけかな? 」黒葛の表情がみるみるうちに鬼ないし般若のような表情へと変わっていく。しまった、
これじゃあ今朝と何ら変わらない展開じゃないか。「ま、待てつづおうふ」今の言葉を取り消そうと口を開いた途端に顔を殴られた。黒葛の拳は以外にも重く、すぐさま口の中に鉄の臭いが広がって
くる。「ふふ、いい気味だ」黒葛はいじめっ子のような笑みを浮かべながらこちらを睨んでくる。だがその黒葛のすぐ後ろに、奴がいた。 そう、屍が。


36:ウツケ
「つ、ツヅラァ!うしろぉー!!」"入学式"の時みたいなザコとは違う人型の大物だった。どろりとした全身を震わせ、何かしようとする素振りが手に取るようにわかる。だがわずか手が届かない。
すかさず一歩踏み込んでツヅラの手を思い切り引っ張ったが――間に合わない!「……?」屍の動きは思ったよりも緩慢だった。いや違う。それ以上動けなかったんだ。「網引き(あびき)の相……
間に合ったっ!」何をしたのかはわからなかった。しかしどうやらツキミチの仕業らしい。「でかしたツキミチ!」体勢を立て直し俺は刀の柄を構えるが「まっ待つんだ!殺すのはっ」柄にもなく焦る
ツヅラが横やりを入れてくる。「ハァ!?今そんなこと言って、どうすんだよ!」「……逃げる。」「お前っ」やってる場合じゃないケンカが始まると思ったのかツキミチは「だったらこれなら……」
無数の細い棒をばらまき内1本を選び取る。「発衝き(たづき)の相!どうよ!」突如屍の脇腹がべこんとへこんだかと思えば彼方へと吹っ飛んでしまった。「ハァ、上手くいったわぁ」


37:SDT
チャンスだ。俺は瞬時にそう判断した。今ならば、あの大物をこの手で屠れるかも知れない。「おい、何をしてる!早く逃げるぞ!」。「………」「おい!」「…でもな、あいつを野放しにしといた
ら、一体どれだけの人が死ぬ?あの生きてるんだか死んでるんだかわからない"何か"は、人の命よりも大切なのか?」「それは…」黒葛が問いに困窮する。だが、答えを待っている時間はない。こう
している間にも、奴は必死に体制を立て直そうとしているのだ。「…すまん、黒葛」俺は黒葛にそう告げ、全力で走り出す。あーあ、これでもう、仲直りは無理だな。「!?待てっ…ダメだ!」目標
まで、残り10歩、9歩、8歩、7歩…刀を抜く。6歩、5歩、4歩…3歩!両脚に魔力を込め、跳躍する。刀を振り下ろし、屍の首に切りかかろうとした、その瞬間!「死ね。」ザシュウウゥウッ!!
俺ではない。何者かが、屍を一刀のもとに切り捨てる。ザシュ、ザシュザシュザシュザシュザシュウゥゥウッ!!シュウウゥウ……巨大だった屍は見る見るうちに解体され、消失した。
―――名人芸を披露したその人物に、俺は見覚えがある。「お前、帯刀…」


38:ダイヤ(ウツケによりちょっと手直し)
なんで、こんなところに……」「黒葛小雪の監視をしていた。」とトーンの低い声でヲビナタは言う。すると、屍はもう消え去ったというのになぜか日本刀を抜いて構える。彼が持つ日本刀の刀身に
彫られた溝はとても美しく弓なりに曲がっており、その部分は夕暮れを反射した光で華やかに輝いている。「屍との共存、そんな世迷い言は――肯定できない」ヲビナタが話していくにつれて、刀の
発する橙色をした妖しい輝きがゆっくりとツヅラの方へ向く。「忠告だ。黒葛」ヲビナタの表情を見ると、とても冗談で言っているとは思えない冷静な感情が分かった。このまま、ツヅラが屍との共存
という考えを改めなければ、場合によって始末をするということだ。ツヅラは遠くにいるが、ヲビナタの意図を理解したらしく、少し怯えつつも構えを取る。「何言ってんだ帯刀!お前にとっても、
黒葛はクラスメイトの一員だろ!?」とヲビナタに訴えたが、黙ったまま去ってしまった。


39:カイロ
黒葛はまだ震えている。月道が駆け寄り、手を貸そうとするが黒葛はそれを拒否し自分の力で立ち上がりはしたものの、顔は俯きがちになり足はまだ少し震えが収まらないようだ。てっきりこいつは、
こういう事になるのはある程度わかっていて、あえてあのような自己紹介をしたのかと思ったが、この反応を見るとそうでもないようだ。「・・・すまない。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。・・・
買出しの途中だったな。必要な物を買ってすぐ帰らないとだな」心配しなくていいとは言うがその声は震え、見せた笑顔もどこかぎこちない。「あ、ああ、そうだよな!帯刀も腹減ってイライラしてた
だけだろうし、気にする事ないよな! 」俺もひとまず黒葛に合わせる。月道も俺に続く。「・・・うん、そーだね。お腹減ってるとヤな事ばっか考えちゃうもんね」今さっき起きた出来事を忘れよう
とするかのように俺達はスーパーへ急ぐ。「ほら行くぞ黒葛!元気出せって!」黒葛の背中をバシバシと叩いて元気付けてやる。さりげなくケツも触ってやると、無言で即座に足を踏みにじられた。


40:ウツケ
――「うっひゃひ!得意とか言ってチャーハンって!」「でも確かに美味いな。七百円までなら店で出せる」「ちゃあはん、って言うんスか?これすっごいウマイっスよぉ」
「君チャーハン知らないんです?サファリナとかならわかりますケド……」「どういう意味ですの?」「うめえ!やるじゃあねーか風太郎!おかわり!スープもな!」
「あっあっ、私もこの杏仁豆腐、おかわり!」急ごしらえの割には好評なようで何よりだ。献立はメインにチャーハン、そして野菜たっぷりなあっさりスープとデザートの杏仁豆腐を用意した。
体裁はせいぜい大衆食堂ってところだが、その取っ付きやすさが幸いしたか朗らかな笑顔で溢れ返っている。「ごちそーさん。」あのぶっきらぼうなアミガサでも少し満足げな顔をして席を立つ。
ただ、ヲビナタ……奴だけはあの冷徹な顔を被ったままだ。あれから無事買い出しは済ませたものの、奴の敵意を目の当たりにしてから気が気でならなかった。


41:SDT
まあ、俺がそんなことを気にしていても仕方ないか。片付けも終わったことだし、今日のところは何も考えず自室でゆっくり休むとしよう。幸い、この寮は部屋数だけは多いので、全員が自分の個室
を持てたのである。プライベートなスペースがあるのはいいことだ。もし左門のようなムサ苦しい男と相部屋になってしまったら…想像するだけでゾッとする。 「ふ~~」俺は申し訳程度に掃除さ
れた自室に入ると、真っ先にベッドへ体を投げ出す。それにしても、今日は色々なことがあったな。たった一日のはずなのに、まるで何週間も経ったかのようだ。さすがの俺も、今日は女どもの風呂
を覗きに行く気分にはなれないぞ。「9時か………」ボーッと時計を眺めていると、凄まじい眠気が襲ってくる。いや、まだ寝るつもりは無い…無いのだが……「ぐぅ…」………
――――「…おい、起きろ!何時だと思ってる!」…あぁ?何時かって…9時ぐらいだろ?……「おい!7時だぞ!」……7時?……「起~き~、ろって!」 バッ!!誰かが、俺の布団をひっぺがし
た。


42:ダイヤ(ウツケがちょい手入れ)
それにより、すってんころりんとおにぎりのように床に落ちる。これを見たのか、「君は情けないな…」と誰かが発言する。起きた間もないので、視界はぼやけてみえるが、胸の部分が平べったいの
が分かるので黒葛だとすぐに分かる。袴の中を見たかったが、同じ事を繰り返したくなかったのですぐに立ち上がり、「それは、勢いよく引っ張るのが悪いんだろう」と言うが、「私が何回も起
こしても、君が起きようとしなかったからだ。私がここまで大きな声で言っても起きないから私自身が恥ずかしかったじゃないか」と言い返される。今思うと、黒葛にしては鋭い声であった。こちら
としては何も口答えすることはできない。「それよりも、早く行かないと宇乃坂先生は遅刻した生徒にはお仕置きするといっていたからな……」と少し遠い目をしながら洩らす。ケンカ中である黒葛
までもが、心配してここに来るということはどのようなお仕置きをさせられるのかが心配になってきた。


43:カイロ
お仕置きかぁ、お仕置きと言えばやはりアレだよな、おしりペンペン。パンツをおろされて直接ケツを叩かれる訳だな?「わかった。それじゃ俺は先に行くから黒葛はちょっと遅刻してくれ」「ああ、
また君は下らない事を考えているのかな」黒葛は呆れたとでも言いたげな表情でこちらを見ている。ジョークはこれくらいにして教室へ行く準備をしないとな。「悪い悪い、冗談だよ。俺、朝の一発が
あるから、ちょっと部屋の外で待っててくれ」「・・・一発?」少し間を空けて黒葛が意味が解らないと言いたげに聞き返してくる。「・・・いや、着替えるって意味だよ。見たけりゃ見せてやるけど」
流石に寝巻きで学校は行けんし、ちょっとした冗談を交えつつ一旦退出してもらおうと思ったが、やはり女子にはあまり通じないネタだったか。いや、通じられても困るしむしろ助かったのだが。
「あ、ああ、すまない。気が利かなかったな・・・」少し顔を赤らめ、黒葛は部屋の外へと出て行く。それを確認し俺は素早く寝巻き姿から制服へ着替え、トイレに向かった。


44:ウツケ
――――「遅かったな。」「時間掛かるのが女だけと思うなよ?」うーむ、跡追の豊満なバスト・ヒップがありながらくびれた腰のその肢体は素晴らしいのに、如何せん妄想するには顔が厳しいか。
10分もかかってしまったぞ……「全く……ほらこれを食べろ。」呆れ顔のツヅラの手にある風呂敷から、1個のパンが差し出された。「かたじけねぇ」手のひら大のそれを頬張ると焼きたての温もり
が残っていて、口中には餡の濃い甘みが広がる。「うまい。あんぱんか。」「それじゃあ、調理場の皿洗いは任せたよ。」何、学舎へ行くのではないのか。「君がいないから私と月道だけで朝ごはん
を作ったんだ。文句は言わせないぞ。もちろん、遅刻もなしだ。」しまった。俺達3人に調理と給仕全て任されたのをすっぱり忘れていた。まだ7時だったというのに遅刻だどうだと騒いで何事か
と思えば、そういうことだったか。始業時間は、7時40分。現在は、7時20分。うんピンチだ。「ちょ、ちょーっと待て!」「寝坊した君が悪いんだよ。それじゃあ私は急ぐから。」


45:SDT
それだけ言うと、黒葛は足早に去ってしまった。くそ、薄情な奴め。もっとも、口を聞いてくれなかった時期のことを考えれば、これでも十分優しいとは言える。「さて…」遅刻したらおしおきだ。
急いで皿を片付けるとしよう。「うおおおおお!!!」シャカシャカシャカシャカシャカ!!俺は、もはや音速に到達するかのごとき速さで、一瞬の内に皿洗いを終わらせた!時刻は7時半。よし、
余裕で間に合うぞ!―――――「ハァ、ハァ…お、オハヨウゴザイマス……」だが結局、俺が教室に着いたのは8時。既に1限の授業が始まっている。地図も持たずに寮を出た俺は、初日のように
学園内を彷徨うことになってしまったのだった。「…一柳クン。チミはそんなにお仕置きが好きなのかな?」「ハァ、ハァ、す、す、すびません…」「う~ん。まあ、いいよ。座りなさい」ラッキー。
なんだかんだ言っても、宇乃坂は甘い。もしかしたら俺に惚れているのかも知れないな。そんなことを考えていると、編笠が「ぶっ!!」と吹き出していた。…あいつ、やっぱり心が読めてるんじゃな
いか。


46:ダイヤ(やり直し)
しかし、気にせずに着席する。宇乃坂は教壇の上に立ち、教育方針や授業について長ったらしい説明を始めた。そんな説明に時間をつぶすより、宇乃坂でも見ながら妄想でもしよう。年齢は多分20代
だと思うのだが、学校から無料で配布されている制服のようなものを改造して着ているので、高校生のように見える。ついでに、クラスメイトが制服を着ていない理由は、着用は自由でかっこ悪いから
着ていない。容姿はきれいというよりもかわいらしい。そして一番大事なことだが、黒葛ほどではないが胸が小さい。だが、別に貧乳だったらダメだなとは思わないな。だって、それはそれで需要はあ
るからだ。俺は女性を見るだけで何カップなのかが分かる特技があるが……宇乃坂のために測るのはやめておこう。「ところで一柳クン…私をじろじろと見てどうしたのかな?」と宇乃坂が唐突に聞い
てきた。しまった!もう学校では変なことはばれないようにするって決めたのに!


47:カイロ
だがバレてしまっては仕方が無い。ここは素直に謝るとしよう。「ヘヘヘすいません。先生の胸とケツに見とれてました」後頭部に右手を当てながら謝る。・・・だがこんな台詞を放っては折角俺が昨日
築き上げた皆との信頼が崩れ去ってしまうのではないか?とも思ったのだが、思いの外皆の反応は薄かった。もしかして、俺はこういうキャラだと定着してしまったのか?「・・・まあ、うん。程々に」
宇乃坂はなんとも微妙な反応を返してくる。しまったな、俺は本来学級委員とかみたいなクラスのリーダー的ポジションが似合うってのによもやこんなド下野郎扱いとは・・・トホホだ。顔が俯き、
自然と溜息が出てしまう。・・・ふと横に視線をやると、皿井が必死に笑いを堪えながら俺に小さく折り畳まれた紙を渡そうとしてくる。皿井の身振り手振りから察するに俺宛てらしい。まったく、
小学生かよと思いつつ紙を広げて中を読む。シンプルに一文、『ホモ?』とだけ書き記されていた。―――このままだと、駄目だ。 授業くらいは真面目に受けねば・・・


48:ウツケ
しかし、そんなことよりも宇乃坂が男だったのは何よりもショックだ。確かに男か女かわからんような見た目と声をしているがそれがまさかこの俺に見破れんとは……!
「それじゃっ今日は一日目ってことで特別編成授業だ!体力測定、やるよー!次は皆、体育館にィ、シュー・GO!!」なんだこの痛すぎる台詞は。しかし、これはチャンスかもしれない!昔っから
体力だけは自信がある。ここで他の奴らと差を付ければ少しは皆も見直してくれるはず……!と思うとツキミチが手を上げて立ち上がる。「あのう、先生。私たち、まだ着替えがないんですけど……」
はっ!そうだ体育と言えばお着替えタイムが……いやよそう。「んーいや、着替えはいらないよん。」「えっでも体操服とかないと動きづらそうだし、汗とかかいちゃうし……」
「その制服は戦闘服も兼ねててねっ。しかも汗かいてもすぐ乾くハイスペック制服なんだよー?」「そ、そうなんですか……わかりました。」ほら見ろ、くだらん野望はすぐさま砕け散った。


49:るんこ
しかしそんな失望などなんてことはない。俺には体力測定がある!期待に胸を踊らせ、走ったり、跳ねたりしながら、学園の敷地の一角にある体育館へと向かった。昨日の探索では時間がなくて、外観
しか確認できなかった。一番乗りして、なかを見て回ろう。――そう思っていたところへ、全速力で後ろから走ってきて、俺を追い抜いた奴がいた。左門頼人だ。その上「おせえな、一柳!」などと言
って煽ってきた。・・・コノ野郎!これが俺の全力だとでも思ってんのか?―――「いいだろう!全力を出してやる!!」と叫び、こちらも全速力で左門を追いかける。じりじりと距離が縮まる。が、
なかなか相手も速い。このままでは体育館に着くまでに追いつけない。焦る俺。「仕方ねえ、限界の更に上をm――と、独り言をつぶやいた瞬間、迂闊にも段差に躓いてしまった。「 あっ 」 激し
く後悔したが、遅かった。凄まじい勢いで宙をすっ飛び、上半身を、嫌というほど地面に打ち付け、8mほど転がって壁に激突した。


50:SDT
「い、いっってぇ~~!!!」痛みに耐えかね、叫び声を上げる。なんて堅い壁なんだ。俺が全力で体当たりしても壊れなかった壁は、お前が始めてだぜ。…などと壁の健闘を称える余裕があったはず
もなく、俺はその場で、ただただ悶え苦しむのみ。「大丈夫か!?」左門が慌てて駆け寄ってくる。「だ、大丈夫じゃねぇ…骨が折れたかも…」嘘ではない。本当に脚に違和感がある。「あぁ!?見せ
てみろ!…ふ~む、まったくわからん」「おいィ!?」「何事ですの~?」俺と左門が小芝居をしていると、姫をはじめとした何人かの女子が様子を見に来てくれた。俺の叫び声を聞きつけたのだろう。
「いやな、骨が折れたらしいんだが」「見せてごらんなさい。カゼタロー、少し触りますわよ」そう言うと、姫が俺の脚を触診し始める。ナデナデ…い、いかん。さすがに今勃起するのはマズイ。耐え
ろ俺、耐えろ俺…「ふんっ!!!」バキャ!!「ぎゃあああ!!」またもや、声を上げるほどの痛み。「骨折ではなくて、脱臼ですわね。治してさしあげましたわ。さ、体育館に向かいますわよ」


51:カイロ
サファリナはそのまま様子見の女子達と共に去ってしまう。「だ、大丈夫かよほんとに」左門は俺を心配して声をかけてくれるが俺は度重なる激痛に悶えしばらく返事が返せない。治療自体には感謝
してはいるのだがいくらなんでも力技すぎやしないか? 「し、心配するなって。平気だよ。つい最近もっと辛いの経験してっからな」立ち上がる。さっきの痛みはまだ残っているものの脚部の違和感は
消えているし、特に問題も無く動く。「・・・はたから見ててもかなり痛そうだったが。あれより辛いってどんくらいだよ」「ははは、泣いてはいないさ」冗談を返しつつ進み始める。またどこかに
ぶつかりでもして姫の治療を受るハメになっても困るので気持ちゆっくりと歩いていく。 ―――「えー、それでは、第一回体力測定テストを始めまーす。どんどんぱふぱふー」全員が体育館に集まった
所で宇乃坂が告げる。「第一回って事は二回三回もあるのか・・・?」「あー、ノリで付けてみただけだかんね。そんな気にしなくていいよ」宇乃坂が素早く俺の独り言に反応してくる。


52:ウツケ
「それじゃーまず、100メートル"とう"から行ってみようかーっ!」「100メートル……」「……とう?」……やはり魔ヶ原学園の体力測定、タダでは済まないようだ。「みんなーっ位置に
ツイてぇーー」位置って何処だ。何やら宇乃坂は巻物のような物を懐から取り出した。ロクな説明もなく始まった謎の競技に皆も困惑しつつ、警戒しつつ、それぞれ身構えていく。「よーーーーいっ」
巻物は紐解かれ、腕いっぱいに広げられた。一瞬の静寂が体育館の天井を低くしたかのように重圧としてのしかかってくる。……くる!「ドン!」「グルルゥオアアアアアアアアアアア!!!!」
「うわああああああああああああああああ!!!!」その場にいた全員の視線が宇乃坂に集中していた。だがしかし、誰もがその瞬間何が起きたかわからない。そう、現れたのは巨大な"屍"。
にも関わらず、真下の宇乃坂はにこやかに佇んでいる。俺も腰を抜かしそうになるが持ち堪え、大きく息を吸い込んだ。100メートル"逃"。やることは決まっている。「みんな、逃げろォ!!!」


53:るんこ
「逃げろって、お前はどうすんだよ?その足じゃ無理だろ。」左門の言う事はもっともだ。幸い、屍はまず女子たちの方へ狙いを定めたようだ。俺は足を引きずりながら屍からはなれるようにして
目立たない壁際へ移動した。「そうだ。だから俺は戦うよ。」左門は驚愕と猜疑の混ざった表情を浮かべた。「なに!?本気か?あんな規格外の化け物に太刀打ちできるのか?」「正直自信は無い。
でも、逃げてもどうせ、すぐにやられるだろ。それなら特大の一発をお見舞いして派手に散る(笑)」奴はすこし躊躇っていたが、やがて諦めたような微笑みを湛え言った。「ふふん、お前面白いな。
その賭け、俺も乗った!」その申し出は嬉しかったが受け取るわけにはいかない。「やめておけよ。あいつの一撃、間違いなくキツイぜ。お前は逃げられるんだから・・・」説得を試みるも左門の
意思は固いようで、折れる気配がなかった。俺はあきれながら、諦めて渋々承諾した。そうと決まればちんたらしてはいられない。すぐに作戦会議だ。「いいか、俺が最強のルーン魔術をぶっ放す。
こいつは発動までにすこし時間がかかる。そこらへんの草や木、動物たちから少しづつエネルギーを集めなきゃいけないからな。そんで俺の攻撃でひるんだところを、お前が追撃してくれ。」


54:SDT
「わかった!よ~し、やってやろうじゃねぇか!」左門は拳と手の平をバチンと合わせ、気合いを入れた。案外、こいつとは仲良くやっていけるかも知れないな。もっとも、それはこの場を生きて
切り抜けられたら、の話だが。「さて…始めるか。邪魔するなよ」「おう!!」幸い、屍はまだ俺たちの存在に気づいておらず、女子たちと追いかけっこをしている。魔術を発動するまでの時間は
十分にありそうだ。「すぅーーーー………」俺は目を閉じて、大きく息を吐く。何も考えるな。心を、ただ無に保つ。……しばらくすると、俺の体に足りない酸素を補うために、エーテルの風が

吹いてくる。森羅万象と一体になったかのような感覚。いや、現実にそうなっているのだ。今だけは、俺の体は宇宙と同義。息を吐けば吐くほど、魔力が体に満ち満ちていく…
「マズい、気づかれた!?」左門の言葉は、俺には届かない。屍がドシン、ドシンと近づいてきているのも構わず、無言で集中を続ける。「クソッ!戦うしかねぇな」攻撃に備え、左門がバットを
構えた。次の瞬間――


55:カイロ
「ウオオアアァァ―――ッ!!」咆哮し、俺のカラダ全体へと魔力がチャージされる。数分間だけではあるが、俺の体の強靭度は修羅さえ軽く超え、神の領域とほぼ同一の物となることが出来るのだ。
体から溢れ出る魔力の一部が空気に触れるたびバチバチと音を鳴らしている。「待たせたな、左門!」本当はこの大技、あまり使いたくは無かった。序盤から本気でかかるのは噛ませ犬みたいで嫌だ
というのもあるが、タイムリミットが過ぎると体全体が砕けそうな激痛に襲われるのだ。だから、決着は迅速に付けたい。俺は素早く巨大屍の背面へと回り込む。巨大な背中が視界をいっぱいにする。
その巨大な背中へと俺は両腕を突っ込み、体内の何か硬い物―――多分骨だろうか―――をがっしり掴み思い切り踏ん張る。そのまま逆エビの如く反り帰りブリッジの体勢へと移る!「落ちろぉッ!」
俺の魔術を駆使した強烈なジャーマンスープレックスだ!巨大屍はそのまま床へと叩きつけられる!「・・・一柳」左門がこっちへ駆け寄ってくる。「おう、どうした左門」「・・・刀は使わないのか?」


56:ウツケ
俺はフッと笑ってみせた。「なぁに、こいつはそれだけじゃあないってだけだよ。」「ヤベェーッス!カゼタロー!!見損なったッス!!」「うおあ!」
突然アベノが抱きついてくるものだから危うくバランスを崩しかけた。とりあえず見直した、と言いたかったのはわかる。ふと見回すと大勢の呆然とした視線を確認できた。
そして数人が駆け寄ってくる。「凄い凄い!今のどうやったの!?」「なかなか美しいスープレックスでしたわ!わたくしの覇道にカゼタローも」「ね、ねぇ!風太郎君も変身できるの!?」
はっはっはよせよせ――計 画 通 り――「で、こいつはどうするんだ。まだ息があるぞ。」編笠の声だ。彼の目はピクピクと痙攣した屍の頭の方へ向けられている。
やはり足の怪我が響いたか。道理で手応えはイマイチだった。「それホント!やー良かったねぇペクレルぅ。よーしよしよし」ひょこっと現れた宇乃坂に編笠は仰天している……。


57:るんこ(ウツケアレンジ)
その時、術が解け、激痛が全身を駆け抜けていく。「ぐあ!!ああぁうっ……」「おい、どうした?大丈夫か?先生!」左門が声をかけてくれたが答える事すら出来ない。ウノサカは落着きはらって
「ああ、さっきの技の反動かな。無茶はいけないよ。」と言うと、なにやら呪文を唱え始めた。すると、あれほど激しかった傷みが、すっと和らいでいく。俺は感激し、初めて彼に感謝と尊敬の念を
覚えた……。「この屍……先生が飼い慣らしてるんですか!」詠唱が終わるや否やキャラ崩壊も厭わぬツヅラが先生に詰め寄る。「まぁーそんなとこ。まだ元気に動けそうだねぇ」「そいつぁ、

一体何のために」病み上がりながら浮かんだ疑問が口を衝いて出てしまった。「主に、研究のためかな。さあー次の種目いってみよー!」
ウノサカが屍を巻物に封じ込めながらいつものペースで答えを返した。


58:SDT
「さーて、次の種目に移るとしようか!あ、一柳クンは見学してていいよ」「はぁ…」宇乃坂は相変わらず軽い調子で、この剣呑な雰囲気をものともしていない。「ん~、1人抜けるとなると、12人!
だったらこれでキマりっっ!」そう言うや否や、懐から取り出した巻物を次々に広げ始める。シュル、シュル、シュルル…すると、色も形も多種多様な屍が続々と現れ出した!「フシュー…」
「グァアアアア!!!」「キシキシキシ…」どうやら、人間をベースに何かしらの動物の要素を組み合わせた屍らしい。その数、12体。「ドッ"死"ボールの始まりだよ~~!!!」大量の屍を見て、
ザワザワとどよめきだすクラスメイトたち。臨戦体勢に入った者もいるが、宇乃坂はあくまでもマイペースだ。「ルールは簡単。だいたいドッジボールと同じ!ただし、ボールはこれを使ってね。
以上っ!!!」…ボール?あの、どう見ても鉄球にしか見えない物体がか?いやいや、まさか。第一、宇乃坂はアレを軽々と持ち上げているじゃないか。そんなに重くは……「一柳クン、試しに
持ってみるー?よいしょ!」ドスン!!!!……………。こうして、体力測定テストの二種目目。ドッ"死"ボールが始まったのだった
―――――


59:カイロ
この競技自体はどうやら通常のドッジボールとは大差は無いようだ。そこに加えて術や道具などを利用したボールのキャッチ、投げ返しもOKなルールだかんね~と宇乃坂からの説明。「それからココ
重要なんだけどね、相手の屍チャン達は殺しちゃヤだからね~。なんせ学園長に頼み込んでつく・・・いやいや、生態調査の為に捕獲した屍を拝借してるからさぁ」 今、とんでもない事が聞こえた
気がしたのだが・・・ が、その疑問が言葉となる前に宇乃坂は無理矢理ドッ"死"ボールの開始を告げる。「はいはい!このボール上に投げたら試合開始だからねーハイスタートッ!」間髪入れず
鉄球が、いやボールが垂直に空へ舞う。先程俺が持ってみた感じから考えるに、持ち上げる事すら一苦労な重量だったのだが。あんなものを投げ飛ばせるのはよほどの怪力人間か、あるいは屍くらい
なのでは無いだろうか? 屍は防御に関してはあまり得意でない固体が多いが、攻撃に関してはかするだけでも危険な種は多いと聞く。そんな奴らの投げる球。直撃すれば人間など豆腐の用に弾ける
だろう。


60:ウツケ
ジャンプボールは一番背の高い左門。だがしかし屍チームの二番……のゼッケンを着ている屍の跳躍は更に高い!取られたかと思いきや銃声が鳴り響くと共にボールは生徒チームの内野へと弾かれた!
「術や道具はOK、だったな」ニヒルな笑みを浮かべる編笠の手には一丁の拳銃が握られている!ボールはズシィンと音を立てて地面に少しめり込んだ。「屍とやるんだ……手加減はナシだぞ。」

* * *

さて、まずは誰がこの球を投げるかだが……「すまねぇ、アミガサ。」左門、こいつはどうだ。「持てるか。」「む、ボールだな!任せな。ってなんじゃこりゃ!ちょっと沈んでねえか!」どうも
この鉄のような球体、単純な代物ではなさそうだな。「~ふん!なんつー重さだ!だが見てろよォ~でぇりゃあ!」成る程体格に見合う豪快な投球だ。放たれた球は真っ直ぐ高速で白線を越えていく。
しかしそれもむなしく屍どもは軽々躱してみせた。「クソっ案外素早い奴らだ!」丁度外野の範囲に重低音を鳴らして落ちたが、あの球、全く跳ねない……。元外野は井崎、皿井、杖渕だったか。


61:るんこ
杖渕が球を取りに行き、拾おうとするも、よほど重いらしい。水が満杯に入った馬穴を持つような格好になって、すぐに置いてしまった。「おい、こんな重いものどうやって持つんだよ。」
「そんなに重くないはずだぞ?」と左門が首をかしげる。「あひゃひゃひゃ、アンタどんだけ非力なの!」皿井がおかしそうに笑いながら寄ってきて、球を拾い上げようとした。
球は造作もなく持ち上がった。「軽いじゃん!あんた何言ってんの!あひゃひゃひゃ」「えっ、どうなってるんだ?」杖渕が球を受け取る。確かに球は軽かった。そして、少し球を弄ぶなり
すぐに答えを見つけた。「このボール、重さが思い通りになる!」「へー!」「なるほど・・・」一同に納得したようなざわめきが広がる。―――「よし、いくぞ」そういって、杖渕は皆の体制が
整うのを待った。それから一番手前の一匹の屍に狙いをつけ、渾身の力を込めて球を投げ込んだ。しかし、球速は意外と速かったものの、狙いをつけた屍の遥か上に逸れ、ふわあっと力なく
伸びて壁の上の方に当たり、跳ね返った。「しまった、軽くしすぎたな・・・」そして跳ね返った球は外野の屍のもとへ・・・。


62:SDT
外野の連中によれば、どうやらあの球は所有者の認識によって重さが変わるようだ。しかし、だとすれば。屍が持った場合にはどうなるんだ?そもそも、奴らに思考能力は備わっているのか?
…そんなことを考えていると、十二番の屍が地面に落ちている球を「ひょいっ」と軽く持ち上げた。「な~んだ、軽そうっスね」「軽そうだな。」その様子を見て、級友たちは少しだけ安堵する。
だが、その刹那。俺の脳裏に、ある情報が流れ込んできて―――「…!?避けろ、黒葛っ!!」「え?…」めきっ、という鈍い音が体育館に響く。遅かった。あの屍は、黒葛が横を向いた一瞬の隙を
つき、球を投げてきたのだった。それも、命中したら一撃で致命傷になるほどの"重い球"を。「あ、あ、あ、あ…」「きゃああああああ!!!」「お、おい…冗談だろ…」「あ~あ、ダミだねこりゃ。
油断しちゃうんだもんな~、ツヅラ君は私が責任持って治療しとくから、他の生徒は体力測定を続けなさい」…やられた。あの屍、とんだ食わせ者だ。黒葛が骨を砕かれたことで、"あの球は重い"
という絶対的な印象が俺たちを支配する。もはや、あの球を軽いものと認識するのは難しいだろう。


63:カイロ
油断が過ぎた。俺は自らの迂闊な思考を悔いていた。黒葛の呻き声が体育館に響き、それに加えて痛い、苦しい等の思考が編笠の頭に流れ込む。それと同時に他の学友達の思考も聞こえて
くる。『おい、冗談だろ・・・』『黒葛さん、し、死んじゃってないよ、ね・・・』『あれ、もしかして今ならパンツ覗き放題じゃね? 』・・・大半は黒葛へ向けられた思考だ。しかし、このまま
一人また一人と怪我人が増えていけばもはや他人の心配所では無くなるだろう。この流れは、よくない。何とかして流れを変えたいものだが、どうすれば・・・「んー?皆どうしたッスか?たかが顔
に当たっただけッスよ?そんな心配することでもないッスよー」阿倍野が普段と変わらぬ様子で口を開く。なぜ皆がそうも不安そうな顔をしているのかわからないと言った表情だ。いや、表情だけで
なく、本当にそう思っている。「お前、本当にアレ見てそんな事言ってるのか!?顔に直撃だ!運が悪けりゃ死ぬぞ!?」左門が信じられないと言いたげに叫ぶ。「だからッスねぇー・・・」


64:ウツケ
「はーいはい、ツヅラ君の命に別状はないから、私にかかればすぐ元通りさ。だから続けてていーよ!」黒葛を運びつつ宇乃坂は呼子笛を鳴らした。動きを止めていた屍たちはまた活発に動き出す。
しかし、明らかに競技に使える物ではないその球は線より内側にある。黒葛を行動不能にした危険物は、そのまま垂直に落下していたからだ。ここからは、俺達が反撃する番だ。だがしかし、一つ、
確認しておかなくてはならないだろう。「……先生」「ん?」「“これ”は、あの屍が勝手にやったことなんですね。」ここに少々の沈黙があった。「ああ、勿論!うちの子たちはちょっと荒っぽい
性格してるから気をつけてねみんな~」問いに対し帰ってきたのはいつも見る笑顔だった。「なるほど、わかりました。」黒く"軽い"球をゆっくり手に取り、静まりかえった学友達の注目を集める。
こんな妙な球は初めて見るが、見かけ倒しには慣れている。もうこれ以上犠牲を増やすわけにはいかない。「やるぞお前ら。完封だ。」


65:るんこ
「完封って簡単に言いますけど、なにかいい策でもあるんですの?」「まあな。まずは作戦会議だ。先生、ちょっと待っててくれ。」俺たちは小さく固まって話し合い、
個々の能力の把握し戦略を立てた。―――まずは皿井と井崎の能力で妨害工作だ。皿井が尺八で演奏すると、屍たちは苦しみだした。同時に、井崎が法具のでんでん太鼓を祈祷師のように振ると
相手陣内に竜巻が発生した。まさに地獄絵図。そこで俺は球を羽毛のように軽くして、屍の群れに投げ込んだ。そして銃撃で球を操作し、相手に捕られないように注意しつつ一気に外野送りにする
ことに成功した。「やりますわね」「すげえじゃん!」自陣の士気は高まった。さらに外野からの送球を受け、同じく繰り返す。余裕で勝利かと思われたが、ここで銃撃をはずしてしまい、
相手の内野ボールになってしまった。しかし、相手はもう残り2匹。このまま行けば余裕だろう。みんなも勝利を確信してにやにや笑っている。月道を除いては。


66:SDT(一部修正)
「妙ね…」今まで黙っていた月道が口を開いた。「どういうことだ?」「ん、なんかさ…上手く行きすぎてるっていうか?あいつら、ワザと当たってるみたいじゃない?」確かに、言われて見れば奴
らの動きは不自然だ。さっきの騙し討ちのような"罠"が仕掛けられているのかも知れない。こんなとき、奴らの心が読めたら便利なんだがな…そこまで考えかけて、はっと気づく。黒葛に球が当たる
直前。一瞬だけ、球を放る屍の心が読めた…気がする。「うぅむ…」「何やってんの?」もう一度読めないかと試みるが、無理だった。読めたのは気のせいかもな。「ま、何でもいいけどさ。あと二
匹、ちゃっちゃと片付けちゃってよ」「ああ。任せておけ」敵陣の内野が球を拾い上げたので、俺たちは話を切り上げ臨戦態勢に入る。球を持っているのは、狐のような屍。黒葛に致命傷を負わせた
十二番だ。「よし、来い!!!」…ひゅぅっ。銃弾と見紛うほど速い球だが、逃げに徹すれば避けられないことはない。全員が球をかわす。しかし、その瞬間!ちょうど俺たちの背後にいた外野が球を
受け流し、さらに加速させて撃ち出してきた!!避けきることが出来ず―――「きゃぁっ!?」圧倒的な密度の球が、跡追の腹を抉る。「…!?跡追っ!…」


67:カイロ(一部修正)
夥しい量の血液がまるで滝のように跡追の口から流れ落ち、ぐちゃぐちゃな呻き声を漏らす。「あ、あ、あ…ゲホッ、いだい、痛い痛い痛い痛い…」しかも絶望的なことに、
跡追の内臓を破壊した球は尚も勢いを失わず、屍たちの手元へと戻ってしまった。くそっ!誰もが意気消沈している中…突然、阿倍野が笑い出す。
「あははは、サキちゃん大げさすぎッスよーみんなビックリしてるじゃないッスかー」…大げさ?あの球の速度、間違いなく高速道路を走る車のそれと同等かそれ以上のはずだ。
とても大げさだとは思えないし退魔師でなければ即死だっただろう。だが阿倍野の言葉に嘘は無い。心の中でもそう思っていると俺にはわかるからだ。「お前ッ!さっきからいい加減に―――」左門が
阿倍野の方へと近付いた瞬間、阿倍野の脚へ球が直撃し、本来曲がらぬ筈の箇所が嫌な音を立てながら湾曲する。「あいたーッス」・・・が、特に痛がる様子も無い。口で痛いと言いはしたが心の中では
あまりそうは思っていないようだ。と、言うよりも脚が折れているはずだと言うのに平然と立っている。「あーやっぱ大して痛くないじゃないッスか。みんな怖がりすぎッスよー」


68:ウツケ(一部修正)
「お前っ……今明らかに脚が折れたよな?何で立てるんだよ!?」左門は青ざめた顔で阿倍野に食って掛かる。確かに異常だ。俺も袴越しに不自然な方向へ折れ曲がる脚と、その音を認識している。
「このくらいヘーキッスよぅ。」「んなわけあるかっ!お前も宇乃坂に看てもらって……」「んー、ホントに大丈夫っぽいねー。」唐突に割り込んだ宇乃坂に左門が妙な声をあげた。「でしょー?
あんまり大騒ぎしないでほしいッスよ。自分そういうの苦手ッス……」阿倍野は依然けろりとしている。心中も変わっていない。「とにかくアトオイ君は私に任せて、アベノ君は外野で頑張ってね。」
「えー?これもアウトッスか?」そう言って阿倍野は折れたはずの足を持ち上げると、彼女の足の甲には先ほどの球が乗っていた。こいつ……何者なんだ。さっきから思考も何故か他の奴ほど鮮明に
読めないぞ。「んー、地面に落ちてないからセーフだね。じゃあ頑張ってねー。」宇乃坂は呼び出した屍と共に跡追の体を運びつつ、そそくさと線の外にはけていった。今、細かいことは置いておく

としよう。


69:るんこ(一部修正)
さて、相手の内野は3匹か…。しかし、さっきと同じ攻撃は通用しない予感がする。2,3攻撃の着想はあるが、どれも決定的ではない…。しきりに悩んで
いたところへ後ろから阿部野に声をかけられる。「ちょっと、ボールかしてくださいッス。」「えっ?どうするんだ?」驚いて間抜けな質問をしてしまった。「ちんたらしてるから、あたしが投げてあ
げるんスよ」そういって阿部野は球を取り上げ、俺に足は平気なのかと問うすきも与えず、屍に向かって投げてしまった。ふわりと軽く、当てる気などさらさら無い球を。虚をつかれ「おいっ・・・」
といった直後、さらに虚をつかれることがおきた。球は、とろうとした屍を弾き飛ばし、外野へ転がっていったのだ。皆、事態を飲み込めず呆気にとられた。「ど、どういうこと
ですの・・・?」阿部野はにやりと笑って答えた。「あべこべなんっスよねー。」阿部野がいうには簡単な魔法らしい。―簡単な魔法?こいつはどうやらかなりの使い手のようだ。「まだまだ力を
隠してるんだろうな?」と左門が問う。「当たり前っス。」味方にも能力を隠すのは気にいらないが、俺も人のことは言えないな。ともあれこいつはかなり役に立ちそうだ。


70:SDT
ただ…球が外野に行ってしまったのはまずい。黒葛たちの惨状を見ても俺や阿倍野が球を持てたのは、ある意味で精神が"壊れて"いるからだ。外野の連中をざっと見た限り、俺たちの同類は居そうに
ない。おそらく、球を持ち上げるのは無理だろう。井崎が必死に球を持ち上げようとするも、やはり無理。杖渕に至っては、球に触ろうとすらせず自らの保身だけを考えている。―――結局、外野の
連中は誰も球を持つことが出来なかったため、規則により球は敵の内野に渡ってしまった。「さて、どうするか…」「へ?さっきみたいに体でキャッチすればいいんじゃないッスか?」「…阿倍野。
お前は少し黙っていてくれ」球を捕ろうとしたら、体を貫かれる。球を避けることに専念しても、さっきのように球が加速していけばいずれは避けきれなくなってしまう。八方塞がりかと思われたが、
そのとき左門が手を挙げた。「…俺がやろう。この中で一番ガタイがいいのは俺だからな。捕れるとしたら、俺しかいねぇだろう」「ライト、あなたよりもわたくしのほうが、体の強度は…」「おい!
…ちったぁ、男に格好つけさせてくれよ」悟ったような左門の表情。心を読めなくとも、その表情から左門の決意が伝わってくる。「…!すみません、本当に…すみません。」「ガハハハ!
気にすんなって。いよっし、やるか!!」


71:カイロ
とは言え内野の数ではこちらが俄然有利だが、全体の数ではこちらが不利。本来攻撃が当たれば外野に回り支援攻撃を行うはずの仲間が即戦闘不能に追い込まれてしまったのは非常に痛い。このまま
やられていけば屍達と戦う事に対して巨大な恐怖を植え付けられてしまう事にも繋がりかねない。決着は最速最短が望ましい。頼むぞ、左門。「おうお前ら! そんな心配そうな顔してくれんじゃぁ
ねぇよッ! あんな軽い球、止められねぇわきゃ無ぇんだからよ」球を投げるのはやはり十二番。「止めてやる、止めてやる・・・」振りかぶる。「軽い、軽い軽いんだ・・・」放たれた。「オラオラ
来いやァ! こんなピンポン球、余裕で止めてやるぜッ!! 」左門へと直撃。勢いの殺しきれなかった鉄球が、いやピンポン球が左門の体を食い破らんとばかりにめり込んで行く。「うッ、ぐ、あ、
だああああぁあぁッ!!! 」室内全体を振動させるかの様な咆哮と共に、左門の両手に球が収まる。「どっ、どーよ。まあ、俺にかかりゃこんなもんよ」まだ呼吸は荒いものの、左門はしてやったり
といった表情だ。奴の顔から察するに、自己暗示か何かであの球への恐怖を一時的に克服したのかもしれない。


72:ウツケ(一部修正)
「待っててくれ左門、少し考える。」実際、あいつの手助けがなければ左門でさえ腹に風穴を開けていたかもしれない。『はぁ、今度は間に合った……また小雪ちゃんやさきがけちゃんみたいになっ
たらと思うと……あぁギリギリの駆け引き、ゾクゾクするぅっ』どうもこの学級に一柳の他にも変態がいたことはわかったが、これが誰なのかは球の勢いを殺してくれた功績と名誉を考慮した上で
伏せておく。どういう仕掛けかよくわからないが、あの占いに使うような無数の細い棒が関わっているようだな。「おい。」「ん、何?」「球に何か細工したろう。」さっき決意したばかりだと言う
のに被害者を出してしまった。この不甲斐なさを払拭するためにも……「……まぁね。」「よし、頼みがある。」できることは全てやっておかなくちゃあな。俺はこっそりと彼女に耳打ちした。
「……えぇ、やってみるわ。」「よし左門、"打て"。」「あぁ?このバットでか?おーしっかっ飛ばしてやらぁ!」左門は即座に釘の刺さった金属棒を振るい「ぐぬおぉぉおおおラッ!!!!」
耳をつんざく轟音と共に打球は屍のそれと見紛う速度で、二番の手に――「あぁっまた!」――その瞬間、屍の手は砕け散った。炎を纏い始めた球は依然直進している。「井崎!」「承知ですッ!」


73:るんこ
屍を打ち砕いた球は、力を失い床に落ちた。瞬時に、井崎は突風を操り、屍を退けつつ、球を俺たちの内野陣内へ運んだ。「おーい!人がいるところでそんな風をつかうなよ!」突風に巻き込まれた
杖渕が文句を言ってきたので、俺は「お前たちいる意味ないから、隅っこに避けてろ!」と言い返した。ともかく、左門の打撃と井崎の風は威力、精度ともに優れており、これを繰り返すだけで完封
できるかもしれない・・・。皆もこれに同意したので、すぐさま実行にうつした。「よし。準備はいいぞ。」「いくぞ!!」一発目、かわされる、二発目、おしい、三発目、はずれる・・・。屍は
さほど苦もなさそうに左門の打った球をかわしてしまう。7発目をはずしたところで落胆した表情で「だめだ。やめだ。」と左門はあきらめの言葉を口にした。


74:SDT
相手の内野は一匹。あと一押しではあるのだが、いかんせん球が当たらない。左門や阿倍野の球は既に見切られてしまった。俺の球は、圧倒的に力不足。帯刀は…駄目だ。最初からこの体力測定を
茶番としか考えていない。おそらく、現状で球を持つことが出来るのはこの四人のみ。…まずい状況だ。いつ死ぬかも知れないという恐怖に晒されて、俺たちの精神はじわじわと蝕まれている。
この状況が続けば、いずれは誰も球を持てなくなってしまうだろう。ここで勝負に出るしかない、か。「左門、さっきの球…まだ打てるか?」「あぁ?打てるっちゃ打てるが、あと一発が限度だな。」
「ちょうどいい。全員聞いてくれ!俺は、次の一発にすべてを賭けようと思う。井崎の風、皿井の音、俺の銃…すべてを攻撃に総動員して、試合を終わらせる。何か異論のある奴はいるか?」
………。しばしの沈黙。それはすなわち、俺の提案が可決されたということだ。「よし、左門…頼む。」「おうよ!うおおぉおおおぉお!!!」ガッキィイイイイィイイン!!
俺たちの命運を賭けた球が、屍に向かって飛んでいく。ドッ"死"ボール、最終章の始まりだ。


75:カイロ
左門の打ち出した剛速球はもはや弾丸と呼ぶに相応しい程の勢いで最後に残った敵組の内野、十二番へと襲い掛かる。だが、これではまだ足りない。もっと速く、捉える事の不可能なほどの更なる
加速を付けなくてはいけない。「井崎ッ! 」「おうです! 」井崎の発生させる風が球の速度を更に増す為の追い風を作り出し、目で追うことすらも困難な速度へと到達する。普通の人間なら、掠る
だけでも危険な速度となりはしたが、あの十二番相手ではまだ不安を感じる。「フヒヒヒヒ、暴れないでよぉ」皿井の奏でる尺八の不快な音色は屍の脳を直接震動させ、聴いた屍の行動をほぼ確実に
封じる事が可能なのは先程の屍達が証明済み。十二番も例外ではなく、その行動を停止させている。そこへ加えて井崎の風が左右から十二番を押さえつけ、回避行動の一切を封印する事に成功。
「・・・詰み、だな」そして俺の銃に込められた全装弾を、球へと向けて一斉に発射。回避など不可能。正に必中必殺の連携。避けられるものなら避けてみせろ、屍。


76:ウツケ
「クォオオ……!クォオォルォルォォオオオ!!!」ふっと、何か強大な感情がよぎった――憎悪。刹那――深海に叩き込まれたような――宇宙に放り込まれたような――なんもかも"かき消される"
感覚に"押し潰された"。悲鳴だ。音波はあらゆる物体に共振し、体育館そのものががたがたと震えている。皿井の笛の音も、井崎の起こす風も、左門の打ち込む球も全て吹っ飛ばす……。十二番め、
こいつが本気か……俺は確信した。俺たちは、こんなどうしようもない化物と戦わされているのだと。その場全員の体勢は崩れ落ち、視界は歪み、音壁に弾かれた球は一直線に俺の眉間めがけ……
あ……流石に俺、死ぬか……「長い。」空気振動の渦入り乱れるも、その声だけがやけに通った。鋭い黒金の音が通った。その斬、空間ごと引き裂き、音波すらも、断つ。球は俺の左右後方で時同じく
二つ音を打ち鳴らした。「さっさと済ませろ。」気がつくとまた声。「お前、帯刀……」彼は黙って剣をしまう。振り返ると姫と郁山の元に、それぞれ半球状の黒い球。いくら重くとも半分ならば――


77:るんこ
咆哮の後に生じたわずかな隙。今しかない。俺が言うまでもなく、二人もそれを理解していた。屍めがけて、姫が渾身の力を込め投げたのと、郁山が槌を生成し、床に転がった半球を打ち込んだのは
ほとんど同時だった。これが最後!!頼む、終わってくれ!!二つの半球は、おおむね正確に、無防備な屍めがけて疾走し―――片方が、避けようと試みた屍の足元を捉えた。そして、床へ落ちた。
「よおおおおっしゃあ!!」やっと終わった。俺たちは勝ち、恐怖の重圧から開放された。皆は握手をするなり、抱き合うなり、喜び方は様々だった。月道などはへたり込んで泣いている。
無理もないだろう、これは死と背中合わせの遊戯だったのだから。

* * *


78:SDT
ここはどこだ?暗い。何も見えない。それに…ひどく寒い。こんなところ、早く去ってしまおうと思ったが、身体が言うことを聞かない。…そもそも、私の身体はどこだ?……私は誰だ?嫌だ、怖い、
助けて――――「黒葛っっ!!!」馬鹿でかい声に脳を揺さぶられ、現実に引き戻される。すると、そこには…「良かった、本当に良かった…」ボロボロと涙を流す、一柳風太郎の姿があった。
「…離れろ。涙が顔にかかる」「ははは、照れんなって!」辺りを軽く見回すと、クラスメイトのほぼ全員が集合している。そうか。私はあの時ボールを当てられ、試合が終わるまで気絶していたの
だな。なんとも情けないことだ。「あー、感動の再会をジャマしちゃって悪いんだけどねぇ。ちょっと連絡させてもらっていいかな?」「は?なんだよ、今…」「黒葛君と跡追君は、本日をもって
退学。今までお疲れ様でした~」…やはりな。そう来るだろうと思った。さっきのが実戦ならば死んでいる。だから実戦に出すことはできない。級友たちは「何故だ」「ふざけるな」と大騒ぎして
いるが、単純な理屈だ。「…先生。私たちに、もう一度だけチャンスを下さい。それで駄目なら…大人しく国に帰ります」静かに、だが、はっきりと。強い意志を込めた口調で、私はそう言った。
「………ふ~ん。いいよ。黒葛君、跡追君、それから一柳君。この三人で補習を行います。他の生徒は速やかに出て行きなさい」


79:カイロ
何人か納得のいかないといった表情の者達が宇乃坂へ抗議しようとするも、先程までとはどこか違う、彼の放つ無言の威圧感に気圧されてしまったのか皆無言のまま外へと出て行ってしまう。後に残っ
たのは私と跡追、それから・・・「ちょっ、センセー!俺は課題クリアだったんじゃないの!?完全に巻き添え食らっちゃってるけど俺無関係でしょ!」コイツ。一度は危ない所を助けられはしたし、
過去の無礼も少しは許したが、それでもまだ十全に信頼を置ける相手とは言い難い。「ははは、一柳クンはこの子らと仲良さそうだし、いわばオトモダチでしょ?なら友人のピンチには助け合わ
なきゃねっ」などと宇乃坂は言う。少なくとも私はコイツと友人になった覚えは無いのだが。一方で一柳は邪な考えが透けて見えるような笑顔を作っている。「へっ、しょうがねぇな。まだちょっと
本調子じゃないんだが友人達の危機とあっちゃあな。それじゃ助けてやるからお前らには後で俺の言う事何でも聞いて貰おうかな~」一柳の口の端から涎が零れ落ちそうになる。・・・やはりこの阿呆
は無視する方がいいのかもしれない


80:ウツケ
「ううぅ……私たち、ど、どうしたらいいのぉ、かな。わわわ」跡追は見ていると不安になる。彼女には悪いけれど、あまり長く近づきたくない。「なに、心配しなくても俺たちが一つになれば恐い物
なんてないさ。だからあとでトイレでだなぼごふ」とりあえず握り拳をくれてやることにした。さっきからチラチラ私と跡追の胸元を見比べて、悉く馬鹿にしよって。こちらはこちらで視界に入れる
のもおぞましい。……しかししょっちゅう乱暴をしているというのに未だに謝っていないのは……ちょっとだけ、きまりが悪い……かな。「イッテテぇ、何すんだ!このクラスで、今最も慕われている
この俺様だぞ!」やっぱり、こいつに頭を下げるのは嫌だ。「そーれじゃあ補習の内容を発表するけどーお?良いかな?」宇乃坂先生は区切りがついたところで話し始めた。3人とも軽く同意の仕草を
すると大人である筈の先生に似付かわしくない無邪気な笑顔で喋繰りだす。「よっしぃ皆にやってもらうことはひとぉつ!」いよいよ緊張が高まってきた。「あ、その前にトイレ休憩大丈夫?」


81:るんこ
苛立ちを噛み殺しつつ「はい。」と答える。皆の意思を確認した宇乃坂先生は説明を始めた。「皆には旧校舎に出没する、ある屍を始末してもらう。前に私は、そいつを始末しようとして後一歩という
ところで、逃げられちゃったんだ。それ以来、私やほかの先生が退治しようとしても、校舎に近づくだけで危険を察知してか、雲隠れしてしまうんだ。それで、追いかけるのも面倒くさくてね・・。」
先生が取り逃がすというのは、意外だった。その後、捕まえられないというのも不思議な話に聞こえる。もしかして先生は私が思っているより、弱いのかしら?「へええ!先生がそんな
失敗をねえ!」一柳は面白がるように言った。「ふふふ。私にも失敗はあるよ。そこで君たちになら、その子も油断するとおもってね!期限は本日中!それまでに始末できなければ、君達は今度こそ
退学だ!」「え!俺も!?俺は違うでしょう!?」「無論君もだよ。」一柳は何故か巻き込まれたけど、なんだか心強い感じがする。「じゃあ健闘を祈るよ。」そういって先生はさっさと立ち去った。


82:SDT
「さて、善は急げだな。さっそく旧校舎へ向かうとしよう」「おいおいおい、ちょっと待てよ。大丈夫なのか?」「そうだよ、黒葛ちゃん…始末するって…」「何がだ?怪我のことなら既に完治してい
る。」「そうじゃなくてさ!屍を殺さなきゃならないんだぜ?」「そうだな。」「そうだな、って…お前は、屍と共存できる世界を作りたいんじゃなかったのか?それとも、実際に自分が殴られてみた
ら気が変わったってか?お前の意志はその程度だったのかよ!!」…よくもまあ、他人事にここまで熱くなれるものだ。跡追は完全に萎縮している。「おい、どうなんだよ!!」「共存を諦めたわけで
はないさ。ただ…帯刀を見ていて気付いたんだ。私には、"覚悟"がまるで足りなかった。どんな手を用いてでも目的を達成する。そういう覚悟がな」「………」「いや…帯刀だけではない。彼も、
彼女も…覚悟が足りないのは、私だけだったのかもな」「黒葛さん…」「…私は、もう立ち止まらない。屍を殺してでも先へ進む。それだけだ。他に聞きたいことはあるか?」「いや、ねぇよ。お前の
覚悟とやら、見せてもらおうじゃねぇか」「あっ、あの…何が正しいのかとか、わかんないけど…みんなが仲良く暮らしていけるなら、それが一番だと思う…」「ありがとう。優しいな…跡追は」
心なしか、本音をぶつけあったことで3人の間に絆のようなものが芽生えた気がする。この3人なら、何者にだって勝てる。そんな気さえした。


83:カイロ
「こっ、ここが、旧校舎なんですね・・・」私達三人の前に立ちはだかる校舎は、そこら中に草が生え、壁はボロボロに朽ち、見るからに旧校舎と言った佇まいだ。「こりゃまた見るからにって感じの
ボロさだな」「ここまで来たはいいが、さて。どうやって退治したものか」先程の話では校舎に近付くだけでどこかへ隠れてしまうのとの事だが、まだあまり具体的な作戦を立ててはいない。「えぇ~
オイオイユキちゃ~ん何の考えも無しってマジかよぉ~? しょうがねえなぁ、俺の考えた作戦でヤッちゃいますかぁ~?」「下の名前で呼ぶな。・・・まあ、その、一応作戦は聞いておこうか」苛立つ
喋りではあるし下の名前で呼ばれたのも納得はいかないが作戦とやらは聞いておくべきだろう。「おうよ。まずはだな、旧校舎の周辺に爆弾を仕掛ける」「ふむ。・・・で、次は? 」
「俺らが安全な位置まで離れたら、ドカン」 ・・・ 数秒の沈黙。「以上だ。どうよ?完璧な作戦だろ?」「ああそうだね。それではあまり時間も無いが作戦会議をしようか」


84:ウツケ
先刻、一柳にかなりの力があることはわかったが、如何せん頭の悪さは相当だ。跡追もこの様子だし、今回は私がしっかりしないとな。「跡追さきがけ。君は数珠で戦うと言っていたと思うけれど、
具体的に何ができる。」「ふぇえ!?うぇえ?」ちょっと問うただけでこのオーバーリアクションだ。人に慣れてなさ過ぎる。オドオドしながらも跡追は持ち直した。「えぇ、ええっと、この数珠は、
私の……ね、願いに……」「え?アンダッテ?」「ひぃい!」無意識下に私の手刀が邪魔者を切った。まともに喰らった阿呆は悲鳴をあげてのたうち回っている。「え、えと願いに合わせて、好きに
伸びたり、分かれたり、戻ったりしま……するよ?」「ふむ、限界はないか。」質問すればまた狼狽えるかと思ったが一呼吸してから話してくれた。「こ、これは本連数珠と言って、108珠あるんだ
けどそれが……えとえと、半分とか、三分の一とか、四半とか、六分の一とか……だよ?」少し面倒な喋りだがなんとなくわかった。しかし彼女は本当に大丈夫なのだろうか。つくづく心配になる。


85:るんこ
「まあとりあえず中、入ろうぜ。屍たった一匹じゃねえか。見つけたらみんなでボコればいいんだよ」そういって、一柳は玄関の扉を開け、中へ入るよう促した。「一柳、君は楽観的過ぎる・・。
もう少し緊張感を持ってくれないか?」「へえ、わかりやした。」何だその言い方は・・。腹立たしいがここで揉めるのはよくない。一柳もいざとなったらやってくれるだろう。そう自分に言い聞かせ
て校舎の中へ入った。校内は木造で、なんだか懐かしい匂いがする。「うわ~っお化けとか出そうだな!」「屍がいるんだが・・・。」ひとつの階には5部屋ある。教室の札には、校長室、職員室、
科学室・・・あとの二つは文字が判然としなくて読めない。職員室を除いてみると、机や椅子や大きな棚、壁掛けの絵などがあったが、使われている形跡はない。時計も止まっている。「使われていな
いみたいだな・・」「そういえば、今は何時くらいだろう?」「に、2時くらいだと思うよぉ・・?」時間はたっぷりあるが、悠長にはしていられない。「そうか、じゃあまずは校内を探索しよう。」


86:SDT
―――2階。「ダメだ。おもしろそうなもんは何もねぇ」「面白いものを探しているわけではないのだが」3階。「…い、いないね」「ああ」旧校舎は狭く、すべての部屋を見て回るのにそれほど時間
はかからなかった。しかし、肝心の標的がどこにもいない。これは少し、頭を使わなければならないかもな…と考えていると、およそ頭を使うこととは無縁の男がとんでもないことを言い出した。
「跡追。お前………漏らしたか?」……………。「えぇっ!?も、も、も…やだっ!!」とりあえず一発殴っておいたほうがいいだろうか?「いや、別にそういうのじゃねえから!ちょっとこの辺に
来てみろよ」ピチャッ。む。確かに…床が濡れている。雨はここ数日降っていないから、雨漏りという可能性は無いだろう。となると、屍の痕跡か。「よし、一柳。その液体を触ったり舐めたりして
みてくれ」「はぁ!?やだよ、汚ぇだろ」「それは跡追の………ではない。おそらく屍の痕跡だ。」「わかってるよ、んなこたぁ!お前がやればいいじゃん」「では明日、一柳に謎の液体を舐めさせ
られたという話を…」「……はいはいはい、やりゃいいんだろ、やりゃあ!」


87:カイロ
一柳が人差し指を謎の液体へと擦りつけ、ゆっくりと指を液体から離す。粘性が高いらしく一本の糸が伸びる。「うわ、マジかよ。・・・おい黒葛、これマジで舐めなきゃ駄目か」「良い成果を期待
しているよ」一柳は嫌そうな顔をしながらも指を顔へと近づけていく。どうやら臭いも酷いらしく顔付きがさらに歪むが、意を決して指を口の中へと突っ込む。「・・・ふむふむ、なるほど」口の中に
入れていた指を再び謎の液体へと運んで行き、もう一度舐める。「うんうん」更にまた舐める。もう一度、更に更にもう一度。「よし、わかったぞ」ようやく舐めるのをやめた一柳は何かを理解したと
見える。「ほう。で、何が解ったのかな」「ああ、これは毒だな」そう言って前のめりに一柳がふらりと崩れる。が、床に倒れこむ前に思わず私が抱きとめてしまった。「阿呆か君は!」「し、心配は
いらないぜ。毒っつっても死にはしない」「ほっ、ほんとぉ?大丈夫、なの・・・?」跡追も心配そうに一柳を見る。「平気だよ。毒とは少し縁もあるからな。ただ、ちょっト、ハッピーな気分にナルだ
けサ」


88:ウツケ
一柳は口調が徐々にヘンになり、ただでさえお間抜けな面がさらにどろどろとろけていく。流石にこれはマズかったか。「ひィーッ!いちやなぎクンがもっとバカんなっちゃったよォーッ!!」
唐突にキーンとくる悲鳴を轟かす跡追。顔に手を当て彼女はずりずりと引き下がり、何かにぶつかる。「わっ!?」とまた声をあげたのも無理はない。そこにはまだ廊下が広がっていた筈なのだから。
――そう、彼が屍。うじゅるうじゅると謎の液がしたたる屍は、静かにうめき声を漏らしている。一柳が戦えるようには見えない。「跡追!こっちへ!」今はすぐに……「き……きゃあああああ!!」
離れなければ!跡追の伸ばした手を掴み、一柳を引っ張って手近な教室に入り込む。勢いのまま物陰に隠れたが、彼は、追ってこない?敵意はない?「ハァーッ、ハァーッ、汁が……背中に汁がぁあ」
「これはダメだなぁ、うん。終わったよ。うん」跡追は完全に取り乱し、今度の一柳は妙にシャキッとした顔で鬱みたいなうわ言を吐いている。……やむを得ない。二人を少しだけ、"巻き戻す。"
――目の前の二人は、委細無事だ。


89:るんこ
「え?あれ?」と、混乱する二人に、たった今屍が現れたと告げた。「なに!どこだ?」「すぐ隣の教室に・・」一柳はそれを聞くが早いか、いくぞ!と小さく叫んで刀を抜き、廊下へでた。
私たちもすぐ後に続き、先刻の教室へ向かった。「・・・いないぞ?」隈無く確認したが、室内のどこにも屍の姿はなかった。しかし、彼が立っていた場所に溜まっている薄い緑の粘液が
さっきまでそこにいたことを示していた。謎だ・・あれは何故追ってこなかったのだろう。そのときだった。「キャア!!」跡追がいきなり甲高い声で叫んだ。心臓が飛び出しそうな思いをして
すぐに後ろを振り向くと、彼女が窓から外へ消える瞬間を目撃した。「跡追!!」気が動転して、大急ぎでその窓へ駆け寄って、下を見下ろした。しかし彼女はいなかった。


90:SDT
それもそのはず。跡追は、緑色の霧のようなものに胴体を締められ、中空に浮いていたのだった。「ひぃぃいいん、たすけてぇ~」「どうやら、屍サンもあのカラダが気に入ったみたいだな。」
「冗談を言ってる場合か!」…先の屍が気体状に形態変化したのか。それとも別の屍や、屍とは無関係な要因により引き起こされた現象なのか。現時点では断定できないが、いずれにせよまずい状況
だ。下手に手出しすれば、跡追は3階の高さから地面へ叩きつけられてしまう。そもそも、あの霧のようなものに物理的干渉が可能なのかどうか…「なあなあ黒葛」「うるさいな。少し黙っていてくれ
ないか」またくだらないことを言い始めるのだろう。そう思って黙らせたが……何やら雰囲気が違う。「今度は真面目だ。聞いてくれ」「…何だ?」「確かに、お前は頭がいい。お前と比べたら俺は
バカかも知れねぇ。でもさ、バカだって、バカだからこそ…出来る発想もある。一人で考えるより、二人で考えたほうが絶対にいいぜ?」―――その瞬間。ハッと、あることを思い出す。最初から気に
なっていた。宇乃坂が、なぜ…こいつを同伴させたのか。今なら、その答えがわかる。きっと、こいつの力が必要になるからだ。「……すまない。知恵を貸してくれるか、一柳」「おう!当たり前
だろ」


91:カイロ
「まずは奴の正体を探る。その為には多少危険だが奴の体液の摂取が一番手っ取り早いはずだ」そう言って一柳は屍の体液に指を突っ込んで口の中へと・・・「いや、それはいい!それはもうさっき
やった!やらんでいい!」「え?ああ、そうだっけ」間一髪の所で一柳を制止させる。元通りな以上、こういった行動を取っても仕方はないのだが、これではまるでコントではないか。
「そうだな・・・ 一応、もう一つ考えはあるんだが、そっちでいくか」と言いながら一柳は自分のズボンのポケットをまさぐりだす。「あーやっぱり持って来てなかったな・・・ おい黒葛、なんか
カメラとか持ってないか?」「すまん、持ち合わせていない。・・・何に使うのだい?」撮影機能がこれから行う作戦に必要という事か。「ああ、俺のカンが正しければあの屍は服だけを溶かすタイプ
の奴に違いない」……は?「だからな、素っ裸になって屍にあんなことやこんなことされる跡追の写真を撮ってセンセーに渡しゃあ退学取り消し待った無しってわけよ!」退学確定待った無し
の間違いではないのか。


92:ウツケ
「もう良い。ほんのちょっとだけでも期待した私がバカだったっ!」「だーっ!待ってくれって!」ふざけてる場合じゃあないのだ。現の跡追だって「うへ、へへへいまなあなんれもれき……はぅ?」
この通り、霧を吸ってか既に正気を失いかけている。どうすれば良い?私にできることは……「だったら、体力の方は期待しな!」「え」反応する間もなく、一柳は開け放した窓の縁に足を掛ける。
「おい、何を……」強く縁を踏みしめてからの高跳びは宙を舞うに充分。素早く放たれた光の刃が緑のもやを一挙に裂いていった。取り巻く緑腕から開放された跡追を奴が抱きかかえ、続いてもう一方
の柄から光を噴き出して戻ってくる。しかし奴の手が、窓まで届かない……「あっ!?ヤベェ!」この一連の無茶苦茶さに呆けていた私はみるみる青くなる。咄嗟に、私も手を伸ばした!っ届かない!
「あっ」と声を漏らしたが、これは私がしてやられた。一柳は再び浮上し、難なく廊下に降り立ったのだ。「なんちって。」このどや顔が過去類を見ない程不快であったことは想像に難くないだろう。
すると突然、地鳴りが起こる。「うおっ!?」「屍の仕業か」「なるほど、怒らせちまったかな」「跡追は無事のようだ」「さしずめ『オモチャを取られた』ってとこか。」「そのようだな。けれど
お陰で場所が割れる。」「わわわな、何が起きてるの~」救助された跡追は正気を取り戻すも戸惑うばかりだった。


93:SDT
グラグラグラグラ…。霧散していた毒霧が校舎を揺らしながら集い、私たちの眼前で一つの大きな塊となっていく。「あ、あわわわわ…」…いや。"大きな塊"などではない。そこに現れたのは、もはや
筆舌に尽くしがたいほど巨大なもの。圧倒的な質量を持つスライム型の屍だった。「ていうか、廊下に入りきってないじゃねぇか!」一柳の指摘通り、屍は廊下に体を収め切れておらず、体の一部を窓
からポタポタとこぼしている。「まさかこれほどまでとはな…」さすがに、ここまでの大きさは想定していなかった。しかも、奴の形状を見るに、物理的な攻撃はほとんど効きそうにない。…これは骨
が折れそうだ。「跡追。君はバックアップに徹してくれ」「ふぇっ!?わわわ、私も戦う、よぉ…」「無理すんなって。前線に立つのは男の仕事だぜ?」「誰が男だ!…いいか、跡追。"敵"は、おそら
く君を狙っている。君が前に出るのは危険だ。下がっていてくれ」「ふみゅぅ…わかったぁ…」なぜ、あの屍が跡追を狙っているのかはわからないが…敵の思い通りにしてやる必要などない。ひとまず
は、私が手の内を暴いてやるとしよう。


94:カイロ
物理的な攻撃が効かない、それはつまり一柳が先刻見せたあの身体強化も意味を成さないという事。切ろうが叩こうがまさに雲を切るようなもの。「だが、どこかに必ず弱点はある筈・・・!」そう、
この世に完全な物など存在しない。奴もどこかに必ず弱点があるに違いないのだ。この手の輩は魔法に弱いと相場が決まっている。魔術的な攻撃が使えるなら確実なのだが、一柳と跡追も今までを
顧みるに物理的攻撃が主である。そして私の力でも、効果は薄そうだ。となると・・・「敵のどこかに自身を形成する核のようなものがあるはず。そこへ攻撃を集中させる」そう言い放ち、
屍の体内を注意深く観察するが・・・「・・・それっぽいのは見えねえけど」半透明で緑色の屍の体内には弱点と思しき物体は見受けられなかった。「・・・い、今のは忘れてくれ」見当違いな発言を
してしまったせいか急に顔が熱くなってきた。「だが、どこかに弱点はある筈・・・!」「う、うるさい!やめんか!」一柳のモノマネで顔が更に熱くなる。「もういっそ建物ごと焼いて倒すか?」


95:ウツケ
「なるほど。やってみてくれ。」「ナニィ!」二つ返事を返したら言った本人が目を丸くしている。変な奴。「む、できるから言ったんじゃないのか。」「オイオイ、ムキになってんじゃねえのか?」
なんだ、わかりづらい冗談を言う。「そんなことはない。策も思いつかないし、思いつく限りはやってみても良いというだけ。できないなら言わないでくれ。」ここまで言って一柳はばつの悪そうな顔
をしてきた。「いや……できるにはできるが、要するに焼き討ちだぜ。いいのか?」「……ああ。足止めは私がやる。」私は平和な目標の為、将来その対極にある犠牲を多く払わなければならないだろ
う。だがずっといたいけなままでもいられない。この学校は、いや世界は、そのくらいシビアなのだ。だが救ってみせる。屍を、人々を。その一歩を、私はここで踏み出す。「覚悟は良いんだったな。
信用してるぜ!来いアトオイ!」「うぇえ!?ででっでも学校の建物壊しちゃって良いの?」「良いから!必ず迎えに来るぞ、ツヅラ!」「ヒィィーーっつづらチャン死んじゃヤだよーーっ!」


96:SDT
――「さて…二人きりになってしまったな。」私は、じっ…と屍の方を見つめる。もちろん警戒のためだが、それ以上に"彼"の生態には興味があった。状況に応じて気体と液体の形態を使い分けられる
生物など、聞いたことがない。「君は一体、どういうメカニズムで成り立っているんだ?」「ウゴゴゴゴゴ……」ううむ。やはり話は通じないのか?しかしながら、反応はある。もう少し話を続けてみ
ることにしよう。「君は、何を考えている?朝も昼も夜も、ずっと一人きりで………君は…何のために生きている?」「ウ、ウゴ、ウゴゴ…」気のせいだろうか。私が問いを投げかけたことで、屍が困
惑しているように見える。巨体をよじらせ、まるで大きな赤ん坊のようだ。「君は…「ウゴアアアア!!」それ以上言わせまいとばかりに、屍は私の言葉を遮って腕を伸ばしてきた。液状の両手に、体
を強く握り締められる。「ぐっ…君も、本当は……」「……ウウ……」その瞬間。「どぉおりゃあああ!!」ズバアアァアッ!!一陣の『風』が、屍の両腕を切断し…私は勢いよく地に落ちた。「い、
痛ぁ~…」「ピンチになってんじゃねーよ!放火、もう終わったぞ。後は逃げるだけだ」「…そうか。」尻をさすりながら答える。出来る限りの、平静を装って。「ん?……黒葛、お前…やっぱり…」
「無駄口を叩くな。逃げるんだろう」「…ああ。」


97:カイロ
彼の犠牲を無駄にはしたくない。いずれ、いつかは、必ず、私の理想を実現してみせる。「・・・許せ」その一言だけを残し私は後ろを振り返る事無く走り去っていく。後方から聞こえてくる屍の呻き声
の様な咆哮は追いかけて来ることも無く、しだいに遠ざかっていった・・・   ―――場面は変わり、私達三人は今宇乃坂の目の前にいる。「キミらねぇ・・・」更に精確に言うと私達三人は正座
させられている。私と跡追は申し訳無さそうな、一柳はなぜかやたら自慢げな顔で。「確かにボクは始末してくれとしか言わなかったし、周囲に被害を出すな、とも言わなんだけどもさぁ」宇乃坂の
方もどうしたものか、と言いたげな表情でいる。「えー、イイじゃんかよセンセー。旧校舎ってんだから別に使ってもないんだろ?」「いやいや、あそこは」宇乃坂は一柳に反論しようとするもなぜか
すぐに言葉を切ってしまう。「オホン。まぁ、全焼とまではいかなかったし、今回は多めに見ようかな。・・・じゃ、君らの退学もひとまずは取り消しね」それだけ言って宇乃坂は逃げるように去って
しまった。


98:ウツケ
「……くぁーっ……!今日はくたびれたなぁ。」「えっ……と、授業はこれで終わりで良いのか?」「じっ……時間は酉の刻に入ったぐらいかな?」午後五時ほどか……道理で夕焼けが染みる。
帰って良いのなら何かしら言って欲しいものだが、全くそそっかしい先生だ。「でもっ私たちっこの学校にいて良いんだよねっ。」「ああ……もう帰ろうぜ。寮に。」そうだ。帰ってしまおう。
たった一晩泊まっただけなのに、やけに恋しいオンボロ寮棟へ。「そんな落ち込むなってアトオイ。」「うぅ、でもでも、私、全然役に立ってないし、あ足引っ張って、ばかりで……」
「そんなことはない。君のお陰で、どんな相手なのかがわかったし、何より……」「そうだぜ。お前の素晴らしい身体はしかと堪能させてもらったし、それでもって言うなら後で俺の部屋にぐあ」
腹パンは痛かろう。「てめぇ……」ケダモノに追いかけられながら、寮に向かう夕日の影は薄く伸びる。「あのっあの……昨日の杏仁豆腐美味しかったから……また食べられるから、嬉しいなぁ」
……さて、今夜は何を振る舞おうかな。


第3章へ