番外編 その2

☆提督と加賀☆



――私は、あの男が嫌いだった。
というよりかは信用していなかった、が正しい。


この話は私、加賀の視点から見た私と提督の出会いの話。
先に言っておくとこの話はとてもシリアスな内容……ということは全くない。


結局私達の話はどこまでも日和っていて、
どうしようもなくくだらない話にすぎない。


どこまでも馬鹿な話でしかなかった。




そして提督という男が以下に適当で阿呆で間抜けで馬鹿な奴だということが分かる話で。
それにまんまと騙された私は赤面しながらこの話をする。


そして同じようにシリアスな雰囲気に飲み込まれてしまった人は
同じように「なんだったんだ」と思うだろう。
結局人間は提督とまではいかないものの適当だということが分かる話。




加賀「あなたが私達の司令官?」

赤城「よろしくお願いしますね、司令」

提督「ああ、よろしく。まあ出撃までの間にブリーフィングを行うように言われているし」

加賀「はあ、ではすぐに始めましょう」

提督「え? なんで?」

加賀「なんでって……あなたも軍人の端くれならば知っているはずです」

赤城「ちょ、ちょっと加賀さん」

提督「もちろん知ってるさ。今が休憩時間なことくらいね。ふぁ~、眠い」



提督「えーっと、出撃の合図がかかったら起こしてよ。そのあとすぐに
   作戦指示を出すから。あとついでに言うが俺はまだ学生だ。
   卒業していないよ、学業も童貞も」

加賀「何を言って……」

提督「気になるならそこの紙の束を見ておいてくれ」

赤城「これは指令書……本来これは司令官であるあなたが我々に読み上げるものですよ」

加賀「くっ……。まさか、士官学校の首席が……こんな愚か者だったなんて」



提督「なんとでも言えばいいよ。実績は全て出している。
    俺と組むのが嫌なら参加しなくてもいいんだぞ」

赤城「加賀さん、私達だけでもこれを読んでおきましょう」

加賀「え、ええ……」






私と赤城さんは幼い頃から艦娘として共に成長してきた。
二人で互いを支えあい助けあってきた。
その甲斐あってか代表に選ばれたのだった。



艦娘とは深海棲艦との戦争に備えて育てられた日本の秘密兵器。
しかし、その秘密兵器を扱える者が当時の日本の軍には存在していなかった。


士官学校に全く新しいコースを作り艦娘専用の司令官を育てることにした日本。
その第一回の卒業見込み生徒の成績トップの人間に試験的に扱わせることとなった。



それが提督だった。





提督に聞いたら
『これを決める時の試験は本気出してトップになった。
 おかげで今まで手を抜いていたことがバレたけど』と言っていた。


何やらそのことで大々的に抗議してきた生徒がいたそうだが……。
成績は少しだけ奴の方が上で私のほうが絶対にいい被験体になると。
もちろんそれは却下された。


とにかくそんな優秀な二人だった私達の所にこんな男がきたということに
不満を持った私は彼の指示を全て無視するようにしていた。


――この日、出撃した時も。


提督「加賀、10時の方向に爆撃を開始しろ」

加賀「……ッ」


全く音沙汰もない10時の方角。
しかし、私の命令を赤城さんは代わりに遂行し爆撃を始める。


海に向かってただ爆弾を無駄に投下したかのように見えた。
着水寸前に敵潜水艦が浮上し海面に顔を出し見事撃破してみせた。



赤城「大丈夫、加賀さん?」

加賀「え、ええ……」

提督「二人共無事か?」

加賀「……」

赤城「加賀さん!」

提督「気にするな。俺のことが信用ならないんだろう?」


提督「俺も君達二人とはまだ会ったばかりだから分からないことが多い」

提督「だから信用できない部分があって……上手く指示が出せないかもしれない」

提督「だが……生き残らなければ平和への道はない」



それだけ言うと提督は背を向けて帰還準備を始める。
潜っていた潜水艦を……ソナー無しで全くの勘で当ててみせた。


これが偶然得られた学年首席の実力なのだろうか。
たまたま勘が当たっただけなんじゃないか。
そんな疑いは結局晴れないまま……。


またとある海域で。

提督はいつものように私達に指示を出して進軍していた。
この海域に攻め込んでいたのは
私達のような学校を卒業していない司令官がついてる分隊ばかり。


私達の分隊は多少苦戦していた。
それは私が命令をちゃんと聞いていなかったせいだった。


まるで予言をするかのように次々と敵の動きを予測し、私達に指示を出す。
私はそれが癪で全て無視をする。
そのせいで上手くいかず、作戦が上手く進まなかった。


赤城「加賀さん……司令の命令はかなり的中しているわ。
   このまま命令違反を続けるのであれば
   司令に軍法会議にかけられても文句は言えないわよ?」

加賀「赤城さんまで、あの人の肩を持つのですか」

赤城「そうじゃないけど……私だって提督のことはまだ信用できたわけじゃないわ」

加賀「……」


その割には楽しそうにお喋りするようになってる。
この前も作戦会議室に入ったら一緒によく分からない機械で
ピコピコピコピコ遊んでいたし……。


普段あんなだらしがなく本部の作戦会議もちゃんと聞いていない人に
何であんな風に指示を出されなくてはいけないのだろう。
無論そんなのは上司であり、私の司令官だから。だけど……。



…………
……


提督「眠い……あー!帰りたい!ゲームしたい!」

赤城「大丈夫ですか?」

提督「ああ、気にするな……今のでちょっと気はすんだから」

加賀「……」

赤城「えっと、今日の作戦を確認しますね」

提督「ああ! 今日の作戦に必要かもしれない発煙筒忘れた!」

赤城「今日はいらないって書いてありますよ」

提督「あ、まじ? だと思ったー」




普段だらしないからそうやって忘れ物したとかしてないとか分からなくなる。
そんなことを毎回聞かされて冷や冷やする身にもなってもらいたい。


学生指揮官だから前線ではないにしろ戦場に出るのに変わりはない。
もう少し自覚を持ってもらいたい。


提督「お腹すいたんだなぁー」

赤城「そうですねー」

提督「お、おにぎりが食べたいんだんぁ」

赤城「ふふ、誰のモノマネですか?」

提督「裸の大将」


赤城さんはすっかりこの人の毒が回っているし……。
作戦前だというのに何でそんなふざけていられるのか。



加賀「何故……」

提督「んあ?」

加賀「何故、あなたは軍人になったのですか」

提督「え? 俺か?」


しばらく考えたあと。


提督「えっと……なんでだろね。気がついたらなってたって感じ?」


とても学年首席を取って私達の指揮官になった人間の答えとは思えない。


加賀「それでも首席の発言ですか」

提督「首席? ああ、あんなものは飾りでしかないよ」

赤城「か、飾りって……」

提督「それにまだ卒業していないし、首席で卒業できるかなんて分からないし」

提督「自称俺のライバルがとにかくうるせえんだよ……」

提督「でもなんでそんなこと聞くんだ?」


加賀「いえ別に」

提督「じゃあ逆に聞くけど二人はどうして戦っているんだい?」

赤城「私は……平和になればいいなって」

加賀「私も国のために。平和のために戦っています」

加賀「私達が育てられた意味がその平和を求めた戦いにあるからです」

提督「なら聞くけど我々の目指す平和って何よ」


加賀「愚問ですね。この深海棲艦との戦いを終わらせた世のことです」

提督「……今は俺たちは生き残らなければならない時期だからそれは半分正解といえる」

赤城「司令官の目指す平和とは……」

提督「二人は深海棲艦に知能や意識が存在すると思ったことはあるか?」

赤城「……いえ」

提督「奴らには人と同様な意識がある。
    奴らは無差別に人を殺している訳じゃない」


加賀「まさか……そんな馬鹿な。奴らが我々と意思疎通を
   取ったという報告は聞いたことがありません」

提督「仮に人と同様に意識があり意思疎通できるのであれば、
   奴らを根絶やしにして得た安息の日々を俺は平和とは呼べない」


私の提督への考えが少し改まった日だった。


何も考えずにのらりくらりと生きて何となく軍に入り何となくでトップになり
そんな適当な人だと思っていた。(結局根本はそうだったのだけど)



提督「信じないかもしれないけれど、昔、小さなガキの頃に
   深海棲艦の小さな奴と一緒に遊んだことがあるんだ」

赤城「え?」

提督「まあそういう顔をするだろうな、とは思っていたけど……。
   実際にやられるとショックだなぁ。でも本当のことなんだ」

提督「家族で旅行に海に遊びに来ていた日のことで、
   親は浜辺でゆったりくつろいでいる中、俺は海で泳いで遊んでいた」

提督「そこで幼少の頃の俺と同じ大きさくらいの深海棲艦と一緒に遊んだんだ」



提督「次の日も俺は海に来て一緒に遊んだ。だが、それが最後の日だった」

提督「たった二日間のことだが、友達のいなかった俺には最高の友達だった」

提督「俺の話は何でも真剣に聞いてくれて、すごく良い奴だったんだ」

提督「だけど奴は深海棲艦で俺はそのことなんて全然分からなかった」

提督「子供だったからな。親が来て……一緒に遊んでいた奴を見るなりに
   大声で叫びすぐに憲兵を呼んだ」

赤城「……まさか」


提督「俺と一緒に遊んだそいつはその場で殺された」



提督はその後、何度も健診を受けさせられて大変だったと笑っていた。
深海棲艦の小さいのを殺したことでその海水浴場は閉鎖となり、
その近辺はすぐに恨みを買った深海棲艦が攻めてくるだろうとされて
軍の基地が建てられることになった。


提督は言っていた。
俺は今もそいつと喋って泳いで楽しく笑った日を忘れない。
そして痛みに涙を流して助けを求めて俺のことを見ていたあの目を忘れない。

そう言っていた。



その事件のせいで近辺が戦闘区域になり、死者が多数出て……。
提督はそのことを自分の罪だとして、軍に入ったと言った。


誓ったのだと、必ずこの世界を平和にして、誰にも同じような思いをさせないと。


普段眠い眠いと口癖のように言っていたのは
夜中にこっそり訓練や勉強を行っていたからだったともこの時話してくれた。
まあそれぐらいは私だってしているし、
このタイミングで何故苦労自慢したのかは不明だった。



加賀「……少し勘違いしていたようです」

提督「いやいいよ。俺が適当な男でだらしないのは事実だし」

赤城「そんな話のあとだと謙遜にしか聞こえませんよ」

提督「いやほんとなんだって……」


その日の出撃は私が提督の命令を初めてちゃんと聞いた日だった。
赤城さんだけでも十分なのにそこに私の攻撃力が加わり
圧倒的力で次々と敵をねじ伏せた。



提督がいつも戦闘中に難しい顔をしていたのは、
敵の命をも尊んでいたからだった。
戦争に情けは無用だというのに……そんなことも分かっているはずなのに。


この人は本当は……本当に弱い人だ。
そしてそんな弱い人の一途な平和への思いを無駄にはしたくない。
結局平和を思うのは私達だって同じなのだし。


平和を一途に思うこの人を
私と赤城さんで守ってあげないと。


目指すべき平和を別の視点から見据えていたこの人の
真っ直ぐ平和を語る目に見惚れていたのは
私と赤城さんの二人共だった。


…………
……


ある戦闘区域を抜けた所で。


赤城「はあ、お腹すいた……」

提督「ほらおにぎり」

赤城「いいんですか? 加賀さんも食べる?」

加賀「私は別に」ぐぅ~

赤城「はい、どうぞ。半分こしましょう?」


提督「加賀も食べていいよ」

加賀「……いただきます」

提督「二人が強力してくれるようになってすごく助かっているよ」

提督「本当にありがとう」

赤城「いえいえもぐもぐ。これくらい平気ですよ」

加賀「ええ、何も問題ありません。赤城さん、ほっぺについてますよ」

赤城「えへへ、司令、とって~」


提督「何甘えてるんだ……。加賀みたいにお行儀よく食べないから」

赤城「またそうやって加賀さんばっかり贔屓して」

提督「してないよ!」

呉「呑気なもんね……あんた達」

提督「呉……なんでここに」

呉「なんでって当たり前じゃない。優秀な人材が戦場に駆り出されないで
  温存されている状況のほうがおかしいわよ」

加賀「初めまして。一航戦、加賀です」

赤城「初めまして。同じく一航戦、赤城です」


呉「一航戦……噂には聞いているわ。ねえあなた、もし私が将校になったら
  私の下についてみる気はない?」

赤城「ありがとうございます。でも私も加賀さんももう決めてますから」

加賀「えっ? ええ、はい」

呉「……何だと」

提督「あ、不味い……二人共下がれ」

呉「どきなさい首席」

提督「落ち着け呉」


呉「はんっ、学年首席にのみ実験的に艦娘が預けられているだけだってのに」

呉「この私の誘いを断るとはいい度胸ね」

提督「やめろ、呉」

呉「だいたいあの試験だっておかしいのよ。
  常にトップだった私がたまたま二番に落ちただけで!」

呉「あんた達もこいつの馬鹿げた幻想に取り込まれて夢見てんじゃないでしょうね」

呉「奴らが私達と同じ知恵を持っている訳がないじゃない」

赤城「いいえ。司令がそう言うのであればそれはそうなんだと思います」

提督「や、やめろ二人共。ここで騒ぎを起こすのは……」




「おい、そこ! 何を騒いでいる」


呉「チッ。いい? 私はあんたが死ぬほど嫌い」

呉「そうやって私よりも実力がある癖に謙遜した態度で
  場を丸く収めようとするのが気に食わないのよ」

呉「でももうあんたは偶然の首席だからと優遇されることもなくなるわ」

呉「努力しているのはあんただけだなんて思わないことね」


提督はその時、
「そんなこと思ってないし、
 気に食わないとか言われてもお前怖いんだからしょうがねえだろ」
と言いたげな顔をしていました。


呉「次の次の出撃あたりに沖ノ島海域の大規模な奪還作戦があるわ」

呉「それが終われば延期していた私達の卒業試験がある。
  そこで私とあんたの最後の決着をつけましょう。どっちが上かハッキリさせてやるわ」


呉「あの時の試験は全て間違いでやはり私の方が上だったと」


この時いつも提督ならば「じゃあ面倒だしお前が上でいいよ」
と言わなかったのは本当に自分の所から二人を取られかねないかららしい。
自分の平和への願望のために提督は私達を必要としていた。



呉「もし逃げたら地の果てまで追いかけて必ず殺す」



そう言って去って行きました。
赤城さんは呉さんの姿見えなくなった途端に私に泣きついてきました。


赤城「うわーん、怖かったよー!!」

加賀「あの、あの方は一体……」

提督「ああ、あいつのことは気にするな。
    触れるもの皆傷つける億万の地雷原を持つ女だから」

提督「何がきっかけでキレるか分かったもんじゃねえよ」

加賀「どう見ても提督にだけな気がするんですが」

提督「まさかそんなはずはないだろ~」



…………
……


赤城「今回の作戦はこの島を奪還する作戦です」

提督「この島を取り戻すことが我々追い込まれた人類の
    逆転する大きな一歩になるはずなんだ」

提督「だが、俺達にはそれ意外の逆転の方法がある」

赤城「それが意思疎通をとること」

提督「その通りだ」


提督「今回、上から伝えられている作戦はの目的は島を取り返し、
    今後そこを拠点とし、深海棲艦を迎え撃つことにある」

提督「もしそれが本当に成功した時、多くの深海棲艦は人類に殺される」

提督「そのために俺たち3人は上層部の命令を全て無視し、
    深海棲艦を1隻でもいい。捕獲するぞ」

提督「俺のやることは作戦無視の命令違反だ。
    断ってくれても構わないが……」

加賀「何を今更……」

赤城「ついていきますよ」



この時、提督の仕掛けたまるで馬鹿みたいな罠に引っかかったのがいた。


提督「こいつ……バナナで連れたぞ」

赤城「冗談でしょう?」

加賀「と、とにかく、捕獲するのは想像以上に余裕だったということで」


罠は最も簡単な仕掛けで檻の中のバナナに触れると檻の戸が降りてくるという。
それに引っかかっているのがいた。


釈然としない中で私達は実験を開始した。


提督「だめだ。やはり言葉は通じないみたいだ」

提督「私達は停戦を求めている」

提督「君達のトップ、ボス、リーダー?に会いたい」

提督「わーたーしーたーちーはー」

提督がゆっくりと喋るが何も反応を示さない。
ゆっくりと喋る提督は阿呆みたいだった。


加賀「この深海棲艦……恐らく上の資料に寄れば空母ヲ級です」

赤城さんもそこに加わり


赤城「私達はあなたには危害を加えません」

赤城「戦うのをやめませんか?」


しかし、それは私達を見つめるだけで何も喋らなかった。

一方本作戦の方もボロクソだった。
救援、援護の要請が飛び交い断末魔が通信機から聞こえ続ける。


そしてついに
「全隊に通達する。全隊帰投せよ。作戦は失敗」

「ただちに帰投せよ。行きに使った小型船を使い母船へ帰投せよ」



提督「だめだ。……これ以上島にいるのは危険かもしれない」


赤城「どうします? 一度戦闘区域外にある艦船に捕虜としてむぐぅ!?」


提督が咄嗟に赤城の口を手で塞いだのも遅く、
私達が捕まえていた深海棲艦は先ほどまでとは代わり有り得ない程大きな音を出した。


ヲ級「ヲオオオオオオオオオオオオオオ」


提督「まずい……敵に艦船の位置を知らせた可能性がある……ッ」

加賀「やはり平和への道など困難だったと……」

提督「待て、殺すな! だめだ……何か方法があるはずだ」


このまま行けば生き残った隊も帰投した母船で待ち受ける敵に殺される。
そう思った赤城さんは動揺を隠せなかった。


赤城「す、すみません……わ、私なんてことを」

提督「落ち着け赤城! 母船に連絡するんだ!」

提督「聞こえますか、応答してください。こちら第1班」

提督「繰り返す。聞こえますか、応答願います。こちら第1班!」


赤城「私……母船を助けにいかないと……!!」

加賀「赤城さん……待ってください! 指示を」


赤城さんは私と提督を置いて走りだした。
その行動に動揺した二人を、
深海棲艦の空母ヲ級が見逃すはずがなく檻をぶち壊した。


提督「しまった……! 加賀、お前は赤城を追え!」

加賀「提督は!?」

提督「俺は逃げた奴を追いかける!」

提督「赤城を追って、母船の援護をしろ!」


この命令のあと、赤城さんを追った。
遠くの海で黒い煙が上がるのを見ている赤城さんにやっと追いついた。


これは提督からあとで聞いた話ではある。


提督はヲ級のあとを追いかけ島の中のとある洞窟に侵入した。
そこは深海棲艦が拠点としてる住処であり、その本拠地だった。


提督は深追いして敵本陣まで来てしまったのである。
さすがに不味いと思ったのか岩陰に隠れること4時間弱……。
張り詰めた緊張感と疲労と空腹がピークに来た時、
近くを巡回する深海棲艦にビビってこそこそと移動を開始。


だんだんとその本陣奥深くまで進んで行く
提督の目の前にあったのは一本のバナナだったそうだ。


提督がこのあとどうなったかは言うまでもない。


一方私と赤城さんは小型船で母船に行っていた。


赤城「私のせいで……みんなが」

赤城「あの船が落ちたら作戦本部の偉い人達も死んでしまって……」

赤城「司令の目指す平和がまた遠ざかってしまう……」

加賀「落ち着いてください。大丈夫ですから。私と赤城さんが戦えば
    必ずあの船も救えますよ」


母船に戻るとそこはもう戦場となっていた。
深海棲艦がかなり乗り込んできていて、多くの乗員が血を流していた。


船上は大混戦となり次から次へと向かってくる敵を薙ぎ払った。


呉「危ないッッ!」

加賀「はっ!?」

呉「戦場でぼーっとするな。どうした一航戦。貴様の力はそんなものじゃないんだろう」

加賀「ありがとうございます……」

呉「礼なら生き残ったあとよ。生意気なあんたの相方とあの馬鹿ははぐれたの!?」


加賀「赤城さんは……。司令は島に残ってます」

呉「はあ!? 死にたいのあいつは……撤退命令が出ていたはずよ!」

呉「あんたは生意気なあんたの相方を探しに行きなさい!ここは私に任せなさい」

加賀「ありがとうございます!」


赤城さん……無茶をしていなければいいのだけど。
それにさっきから気になっているこの船のエンジン音……。
どうもおかしい。




赤城さんも気になるけれど、
この船がさっきから動いていない気がする。
海の上だし、爆発だのの揺れで動いているって言われればそうも感じるし……。


兎にも角にも私は動力室に入った。
そこには深海棲艦と戦う赤城さんがいた。


加賀「赤城さんから……離れてっ!」

赤城「ハァ……た、助かったわ。ありがと……また来るわ」

加賀「私に任せて。少し休んでください。だいぶ傷をおったようですし」

70 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2013/12/26(木) 02:16:40.08 ID:D50QNS1To

赤城「加賀さんもやっぱり気になって来たんですよね……」

赤城「この船、動いてないんですよ……。もう部品がだめみたいで」

赤城「壊れた箇所を直さないと……」


私は迫り来る深海棲艦と対峙するのに精一杯で赤城さんの
言っていることをまともに聞けなかった。


赤城「この海域から脱出して、生きて帰ることができれば……
    また戻ってこられるのだから……」

赤城「早く直さないと最悪この船は沈められる」


あんなに動揺していた赤城さんは少し血を流したせいか
この頃には冷静になっていた。
その赤城さんがした判断は……。



赤城「この船ね……」


赤城「ちょうど私、一人分で直るの」


加賀「……は? 何を言って……」


赤城「加賀さん……今までありがとうね」

加賀「赤城さん!? 何を馬鹿なこと!!」


次から次へと立ち向かってくる深海棲艦のせいで
私は私の後ろにいる赤城さんの方も振り向けない。


赤城「4歳だっけ? あの時一緒に行ったピクニックのお弁当の
    ミートボール私が加賀さんの食べちゃって……それで喧嘩したよね」

加賀「何言ってるんですか!!こんな時に!!」


赤城「司令に……平和を取り戻してねって伝えてね」

赤城「あと、加賀さんには約束してほしいことがあるの。
    私も加賀さんも大好きなあの人を……最後までよろしくね」

赤城「私の分まであの人の側にいてあげて守ってあげて」

加賀「私が!私が代わりになりますから!待ってください!今こいつらを片付けて!」

赤城「だーめ。加賀さん、司令のこと好きなら素直になんなくちゃだめだからね」

加賀「待って!!赤城さん!!行かないで!」


早く平和になるといいなぁ……。


そう最後に呟いて赤城さんはその場から消え去りました。


それとほぼ同時に船は動き出し、あっという間に戦闘区域から脱出した。
作戦は多くの負傷者、死者、行方不明者を出し……失敗した。


船の中に残った深海棲艦も全て撃破し、
生き残って船に乗っていたものは無事に本土にまで帰ってきた。


私はそれから……何もやる気が起きずぼーっとすごしていた。


しかし、ここからが私達の国は驚きの連続だった。


あの作戦から一ヶ月後……。
行方不明者扱いになっていた提督が帰ってきたのだった。


その提督が一緒に連れていたのは戦艦棲姫とその通訳のヲ級だった。
提督は本部にその二隻を連れて行き……

日本と深海棲艦達の和平の協定を結びつけることに成功した。


本人に聞くと
提督「……俺もなんでそんなうまく行ったのは全然分からない」


提督はあのあとバナナによってあっさり捕まり、
生贄として深海棲艦の姫の前まで引きずり出された。


しかし、その姫こそが幼少の頃、一緒に海で遊んだという深海棲艦だったのだ。


提督はその姫が生きていたことに喜び捕虜であることも忘れ、
同じように姫も提督が捕虜であることを忘れ抱き合ったという。





一体何故殺されたはずの姫が生きていたのか……
事実確認をすると。


あの海での事件。
両親は憲兵を呼んで提督と共に一目散に避難したそうで
実を言うとその姫の最後をきちっと見ていなかったのである。

何が「俺は――忘れない」だ。本っっ当に適当な人間であることがこの時判明した。
提督が自分のことを適当だとかだらしないとか言っていたのは
嘘でも謙遜でもなく紛れも無く自分を客観視して事実だった。

それにしても自覚があるだけ余計に厄介なのである。
話を盛りすぎにも程があったのだ。


その時の提督の証言がこれである。

提督「いやー、なんかシリアスな雰囲気だったからついつい話を盛ってしまった」

私が初めて提督の顔面をグーで殴った日のことである。


提督曰く、幼少の頃の記憶などそんなものだし、
俺にとってその別れはそれくらいの絶望だったんだ。と逆ギレした。


事実確認をすると、
提督が両親と共に逃げていったあと呼ばれた憲兵達は姫を攻撃するも殺せなかったという。

そして殺せなかった上に逃してしまい、
姫が自分の住処に帰り父親あたりが傷ついた姫を見て怒り狂った挙句、
私達の住むこの土地に攻撃をしてきたのだと。


さらに深海棲艦の姫のほうも言葉が通じないなりに提督との記憶はあり楽しかったらしく
その提督といきなり別れさせられたという絶望は同じだったとか。


姫も姫の方で提督が異種である私と関わったせいで殺されたんじゃないかと思っていた。
そのせいで酷く人間に恨みを買っていたらしい。


そこから戦争を今までずっとしてきてたのだが。
その提督が生きていたとあって……もう戦う気も起きなくなったとのことだった。




結局の所この深海棲艦との数年に渡る戦争は
あの阿呆と書いて”ていとく”と読む人で始まり
阿呆と書いて”ていとく”と読む人で終わるのだった。


だけどこの戦いで赤城さんがいなくなったのは事実であり、
そしてその犠牲の上でなりたったとても残念な平和だったのだ。

私自身は赤城さんとの約束もあるし、
今更この人を放って置くわけにはいかない。
もうこの人から離れるのはとっくに遅く、入れ込み過ぎていたのだった。


それにもしこの戦争の真実が明かされたのであれば
戦争で家族を失った人から命を狙われる可能性がある。


何より私が提督の側から離れないでいるのは私自身が提督のことを大好きだからで、
こんな適当で馬鹿で阿呆でくだらないことが大好きな提督が大好きで
そんな人と一緒にいたいと思ったからで。

そう思った経緯はこんな感じ。
結局私自身も適当でなんとなくでいつの間にか……といった感じ。




私と提督は最後の、卒業試験の日、
あの沖ノ島までやってきて墓を建てた。


提督に試験を受けに行かなくていいのですか?と尋ねたが
前日もそうだったがこの後の日もかなり遠くまで提督の予定は縛られていた。


それもそのはずで提督みたいな司令官レベルの人間が停戦にまで持ち込んだのだから
軍の上層部に引っ張りだこで勲章だの表彰だの昇格だのなんだって大忙しだった。
だから墓をたてに来られるとしたら日が経っていない今日しかないとか。


この沖ノ島は深海棲艦の唯一の領土として献上することも含めての
和平の条約だったので本来ならばもう私達は入ることはできないのだが、
特別に許可をもらったそうだ。


提督「……赤城、お前の犠牲は無駄にはしなかった」

加賀「赤城さん……ありがとう」

提督「赤城、見ているのかな。どっかで。俺が話した平和には見事にしてやった」

提督「これから俺はあの忌まわしい事件のあった元海水浴場である横須賀の海を
   護るためにその近くにできた鎮守府で勤務することになる」

提督「だが、もう平和になってしまったから護るというか維持するだけなんだけどな」

提督「これから……お前の分まで加賀と一緒に平和という奴をたっぷり満喫してやるさ」



加賀「赤城さん、あなたとした約束。守り続けてみせます」

加賀「全ては私に任せてください」


加賀「提督、今日は平和ですね」

提督「……。違うな。今日ももちろんそうだが明日もきっとそうさ。

提督「なんてったって戦争は終わっちまったんだからな。だからこう言うんだ」

提督「今日も平和だ」



☆後日談☆


卒業式の日。
提督は呉さんと再会したのだそうだけれどそれはそれは大変だったそうで。


呉「よくも……私との勝負を投げ出してくれたわね……」

提督「ち、ちがっ、しょうがないんだって! あの日しか空いてなくって」

呉「私は逃げるなと言ったはず。逃げたら殺すと言ったはず」

提督「お、おい落ち着けってマジで」

呉「その軍刀を抜け!」


提督「いやまじでやめろって!首席はお前なんだからもういいだろ!?
   今までのは全部まぐれだよ!偶然! 俺なんかよりもお前のがよっぽど優秀だから」

呉「そのムカつく謙遜をやめろって言ってるのよ私はぁぁぁ!!!」


ちなみにこの会話が行われているのは卒業式の壇上である。
その場にいたほとんどがこの二人の入学以来の因縁を知っていて、
「あーはいはい。また夫婦漫才か」という空気になったという。


その空気に耐え切れなかった、というかそういう風に見られていたことを
その時知った呉さんは大人しく刀を鞘に納めたという。



呉「あんたが次席になったおかげで私は首席になり
  英国生まれの大戦艦を預かって呉鎮守府に勤務することが決まったわ」

提督「へえ~、そうなんだ。俺も加賀と一緒に横須賀に行くことになったよ」

呉「……本当に最後まで嫌なやつね」

提督「えっ……あ、行っちゃったよ」


こうして提督は呉さんを怒らせたまんま別れてしまったという。
結局ここから全く会わずに再会したのがつい最近のことである。



後日談おしまい。

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最終更新:2014年04月29日 21:38