ノスゴスの歴史 概論

ここからネタバレのオンパレードになります。このページではノスゴスの歴史に関する理論的前提や全体像を説明します。ややこしい話は抜きに具体的な歴史のみを知りたい人は飛ばしてもらってかまいません。


理論的前提

ノスゴスの歴史の全体像


理論的前提


決定論的世界

  最初にノスゴスにおける歴史や時の一般的本性を解説しておこう。一言で言えば、ノスゴスは厳格な決定論的世界である。そこに住むあらゆる生物は本当の意味で自由意志を持たない。つまり、自分の意志で何事かを為しているつもりであっても、結局は予め定められた運命に沿って行動しているだけなのである。さらにその運命は死をも超えて続いている。生物が死ぬとその魂は浄化され、新たな生を受ける。この生と死のサイクル全体が予定通りに進行しているのである。ゲーム中ではこの秩序のことを「運命の車輪(Wheel of Fate; 運命の輪)」と呼んでいる。

  そして、このように完全に予定された運命の集積である歴史は、時が経つにつれてその都度新たに生み出され伸長していくものではない。むしろ最初から、その全体がごろんと存在するものである。過去も未来も最初から確定しているのだから、歴史全体が常に同じように「ある」。ケインは歴史を川に例えているが、より適切には、人工的な「用水路」のようなものだろう。そして生物(魂)はそこを流れる「水」である。

  このことは二つの帰結を含意している。第一に、タイムトラベルによって過去へ行き、単に何事かをなしたとしても、歴史など全く改変されないということだ。例えば、Aという人物が過去のある時点へと旅し、Bという人物を殺害したとする。決定論的世界においてこのようなことが起こったということは、Aのタイムトラベルも、Bの殺害も、予め定められていたということを意味するだけである。Bは最初からその時点で未来からやってくるAに殺される運命なのだ。決して「一番最初の歴史ではBはもっと長生きしていたが、時が経ち、Aが生まれ、タイムトラベルしたことによって、それ以降の改変された歴史ではBが短命になった」というわけではない。ノスゴスの歴史は最初から全体として存在している。それゆえ、未来からAが過去へとやってくるとすれば、その過去の時点には最初からAが存在しているのである。

  第二に、歴史は無限に繰り返されているということも含意する。歴史全体が最初から存在するということは、過去が消え去り未来が生まれ、それがまた過去となって次の未来へ、という普通のイメージは通用しない。何も消えないし、何も生まれないのである。歴史上の各時点は不滅であり、そこでは常に同じことが永遠に繰り返されている。たとえばCがある時点で死んだとしよう。しかしそれで歴史からCの存在が消え去るわけではない。1時間前のCはまだ生きており、彼は1時間後に予定通り死ぬ。歴史が生成消滅しないのなら、こういうことになるわけだ。

 

パラドクスと歴史改変

  ノスゴスはタイムトラベルをも見越した決定論的世界であるが、それでも歴史改変が絶対に不可能なわけではない。その条件は、ケインが発見した「ソウルリーバー・パラドクス(Soul Reaver Paradox)」である。ここでは理屈は省くが、タイムトラベルを通して二つのソウルリーバーが出会った時(ソウルリーバーは同じ時代に一本しか存在しない)、そこには強力な時の歪み(temporal distortion)が発生する。その時こそ、従来の歴史とは異なる出来事を生じさせる可能性がある。

  あくまで可能性に留まる。というのは二つの障害があるからだ。(1) 歴史自身の同一性を保とうとする力は極めて強く、定められた道から外れたことをしようとする者には頑強に抵抗する(それこそ物理的な力さえ及ぼしてくる)。(2) さらに言えば、そもそもその時に、本人がもともと歴史に反抗する意志を持つよう運命付けられている必要がある。実に奇妙な話だが、自由意志など存在しない以上、運命から外れた道を選ぼうとすることすら運命に左右されざるをえないのである。

  ただし (2) については一人だけ例外がいる。ラジエルである。彼だけはノスゴスで唯一自由意志を持つとされている(これも理由は今は措く)。それゆえ、2つのソウルリーバーさえ揃っていれば、原理的にはいつでも好きな時に歴史に反抗することができる。もちろん (1) の歴史の力に打ち勝つのはやはり大変なのであるが。

  そしてもし成功すれば、予定されていた出来事とは矛盾した結果が生じたことになりパラドクスとなる。いわゆるタイムパラドクスでは、「自分を生む前の親を殺せば、親から生まれる自分も消滅するため、未来からやってきて親を殺すこともできなくなる」といった特殊な状況が設定されるのが普通である。しかし、ノスゴスのような決定論的世界、つまり、歴史全体が最初から存在している世界においては、予定からの逸脱は全てパラドクスとなる。本来生きながらえるはずの人物D(自分とは無関係)を運命に逆らって殺害したとすれば、既に存在しているDの未来が成り立たなくなるからである。「歴史はパラドクスを嫌う(SR2, ケイン)」。それゆえ、歴史はパラドクスを解消するため、既に生じてしまった逸脱を許容する形で自らを改変せざるをえなくなる。結果、Dがその時点で消滅する歴史が再形成される。これが、ソウルリーバー・パラドクスを引き起こすことで、歴史が改変されるメカニズムである。

  ただし、歴史は無節操な改変を行うわけではない。「最も抵抗の少ない道を選び、最も少ない変更のみを許容する(SR2, ケイン)」。つまり、改変前の歴史とできる限り同一性を保ちつつ、最小限の変更のみでパラドクスを解消しようとするのだ。それゆえ、パラドクスがあまりに些細な逸脱でしかない場合、歴史はほとんど改変されないということになる。

  このように、パラドクスを引き起こすのも確かに大変だが、たとえ引き起こせたとしても、それによって十分な改変が生じるかは運否天賦である。ノスゴスにおいて意図的に歴史改変を引き起こすことは、まさに「(投げた)コインが地面立つ(SR2, ケイン)」ほどの奇跡なのである。

 

歴史改変の注意点

  歴史改変に関する注意点を3つ挙げておこう。

  (1) ノスゴスにおいては、改変のたびに歴史が枝分かれしていくような多世界説は当てはまらない。歴史改変によって、新たな歴史が生み出されるのは確かであるが、その瞬間に、改変前の歴史全体は消滅する。従って、一度改変してしまえば、もう二度と前の世界に戻ることは出来ない。平行して存在する世界間を越境するということは原理的にありえないのである。

  (2) ただし、改変前の歴史がどのようなものだったかを想像することは可能である。まずパラドクスを直接引き起こした出来事に関しては、その逆を想定すればよい。例えば、ある人物Eが別の人物Fを殺さなかった時、パラドクスと歴史改変が発生したとする。これは、改変前の歴史において「その時点でEがFを殺すこと」は確定事項だったということを意味する。

  また、パラドクスとはおよそ関わりのない部分の歴史については、改変前の歴史と改変後の歴史はほとんどないし全く同じだと想定できる。というのも、歴史はその本性上、無意味な変更を好まないからだ。それゆえ、ゲーム中、改変後(前)の歴史においてしか描写されていない出来事であっても、それが改変前(後)の歴史においても発生することが可能な(矛盾をもたらさない)出来事であれば、やはり同じように発生していたということになる。

  (3) 最後に記憶について。歴史の改変は通常、その影響を被る人々の記憶も改変することになる。つまり、改変前の記憶は消滅し、改変後の記憶へと置き換えられる。ただし、例外がある。歴史改変の現場に立ち会わせた者は、改変前の記憶を保持しつつ、新たな記憶も獲得することになる。例えば、Gという人物がある時点で過去へ行き、歴史改変を行う。その結果、タイムトラベル前のGの人生に変更が生じたとする。すると、歴史改変を引き起こしたGは、従来の記憶に加え、変更された人生についての新たな記憶も獲得するのである。またゲーム中では、時間を自由に行き来できる時の守護者モビウスだけは、現場に居合わせなくとも歴史改変に関わる記憶を全て保持できるようだ。


ノスゴスの歴史の全体像


ノスゴスの簡易年表

  詳細な年表も別途用意するが、まずはシリーズの各作品が年表上どこに位置づけられるかを把握してもらうため、大雑把な年表を提示しておく。年表を作成する上でのルールを列挙しておく。

  • 時代区分:
    時代区分とその通称には、
    Legacy of Kain Wikiのものを採用する。過去から順に「先史時代(3000年以上)」「サラファン時代(450年間)」「前BO時代(50年間)」「BO時代(1年以内)」「後BO時代(500年間)」「SR時代(1500年間)」である。それゆえノスゴスの歴史には、合計約5500年以上のスパンがある。
  • 紀年法:
    便宜上、BO時代(BO1本編)を基準とした紀年法を採用する。BO1を象徴し、ノスゴス史上最も重要な出来事は「柱の崩壊(Collapse of Pillars)」である。それゆえ、この年を崩壊紀元=0 B/ACとし、その前後をそれぞれ、?? BC(崩壊前??年)、?? AC(崩壊後??年)として年代を計算する。
  • 年表の数:
    シリーズ中、歴史改変が3度発生しているため、年表は4つ存在する。

以上を加味して年表を作成し、各作品の出来事を配置すると以下のようになる。

 

年代

通称

年表1

年表2

年表3

年表4

~500 BC

先史時代

 

 

 

 

500~50 BC

サラファン時代

 

 

SR2 (4)

SR2 (5)

Defiance

50~0 BC

BO時代

BO1 (2)

BO1 (3)

SR2 (1)

 

SR2 (2)

 

0 B/AC

BO時代

BO1 (1)

BO1 (4)

 

Defiance

0~500 AC

BO時代

 

 

SR2 (3)

BO2

500~2000 AC

SR時代

 

SR1

 

 

 

※表の見方:各作品名に付した ( ) 内の数字は物語の進行順を示している。同一年表内での上下移動はタイムトラベルを意味し、年表を超えた右移動は歴史改変を意味している(太字で強調)。例えばBO1であれば、年表1のBO時代に始まり、前BO時代へとタイムトラベルし、そこで歴史改変を起こして年表2へ移り、タイムトラベルによってBO時代へと戻っている。なお、Defianceが同時に二つ存在しているのは、主人公2人が異なる時代で活動を開始するからである。

 

歴史の整理

  当サイトでは、ノスゴスの歴史を第一部から第四部までに分割している。これは、「SR2における二度の歴史改変」を基準にした整理である。つまり、最初に当該改変以前の通史を確認し、次にその通史に加えられるSR2の歴史改変に焦点を当て、その後、当該改変の直接的結果およびその余波を描くことになる。以下それぞれの内容を説明する。

 

  1. 第一部では、SR2における改変が発生する前の、5500年以上に及ぶノスゴスの通史を概観する。従って、先史時代に始まり、SR時代の最後で終わる。シリーズ作品からはBO1とSR1の出来事を含む。BO1における一度の歴史改変を含むため、必然的に年表1と2を追うことになるが、年表3や4を手掛かりに「SR2の歴史改変が起こらなかった場合に生じるはずの出来事」もある程度補っていく。
  2. 第二部では、SR1のラストでケインとラジエルがタイムトラベルをした後、つまりSR2における出来事を描く。その舞台は、前BO時代と、さらに2回のタイムトラベルで訪れられる後BO時代およびサラファン時代である。そして、二度の歴史改変が発生する。この歴史改変こそが第二部のテーマである。年表は2~4を断片的に追う形になる。
  3. 第三部では、SR2で発生した歴史改変の直接的結果、つまりDefianceの出来事を描く。その舞台は、年表4のサラファン時代BO時代である。なお第二部と第三部は連続している。
  4. 第四部では、SR2で発生した歴史改変とDefianceの出来事の余波、つまりBO2の出来事を描く。その舞台は年表4の後BO時代である。ただし、第三部と第四部は別に連続しているわけではない。第三部で活躍するのは、未来(SR時代)からやってきたケインだが、第四部の主人公は後BO時代に生きるまだ若いケインだからだ。

 

ノスゴスの主要勢力

  ノスゴスの歴史には、高々4つの勢力しか登場しない。エルダーゴッドヴァンパイア種族ヒルデン種族人間種族である。同一種族内の分裂はほとんど無いに等しく、歴史上のあらゆる紛争は、これら勢力間の対立・同盟関係から説明することができる。それゆえノスゴスの主要勢力について予め押さえておくだけでも、歴史の流れが把握しやすくなるだろう。

 

  • エルダーゴッド (Elder God)

(画像:Defianceより)

  ノスゴスの地下に瀰漫する神を名乗る存在。地上の種族に姿無き声で語りかけ、「定められた運命に従い、生と死による魂の浄化サイクルを繰り返すこと(運命の車輪)」を絶対的秩序として受け入れさせようとする。全歴史を通じて、この秩序を拒絶する者は、別の者を使役してノスゴスから排除しようとする姿勢で一貫している。地上で発生するほとんどの紛争や混乱は、エルダーゴッドの暗躍による。

  その真の姿は、巨大なタコやイカのような形状をした、魂を貪り食らう怪物。本人は自分こそ運命の車輪を回転させている中心(hub)だと主張している。しかし、その姿を知るラジエルは、後にエルダーゴッドを車輪の回転に巣くう「寄生虫」だと罵る。真相は不明だが、魂に対して食欲旺盛なのは間違いない。
 

  • ヴァンパイア種族 (Vampire)

(画像:Defianceより)

  ノスゴスには生来の「吸血鬼」は存在しない。ヴァンパイア化は先史時代の戦争でもたらされた一種の呪いである。最初は、古代の「青き翼の種族」がこの呪いにかかり、その種族全体がヴァンパイア化した(古代ヴァンパイアと呼ぶ)。後にこの呪いは必要性から人間に伝えられ、人間の一部もヴァンパイア種族となった。

  青き翼の種族は、歴史上エルダーゴッドに最も翻弄された種族と言える。彼らはエルダーゴッドを崇拝しており、運命の車輪を拒絶するヒルデン種族(後述)と大戦争を起こした。しかし、ヒルデンの呪いによってヴァンパイア化(=不死化)するや、エルダーゴッドは運命の車輪から逸脱した彼らを見捨て、沈黙する。青き翼の種族は絶望し、自殺に走りはじめる。さらに、エルダーゴッドに使役された人間たちに反乱を起こされ、凋落の一途を辿り、歴史から姿を消す。

  元人間のヴァンパイアたちも、エルダーゴッドに淵源のある陰謀により、大規模な粛正を被っている。しかし、主人公であるヴァンパイア・ケインの行動により、結果的に再興する(ケインはヴァンパイアの帝国すら築くことになる)。
 

  • ヒルデン種族 (Hylden)

(画像:BO2より)

  古代の鶏冠(とさか)を持つ種族。機械技術に優れた種族で、怪しげな兵器を作ったりしている。彼らには二つの世代が存在する。第一が、ヴァンパイアとの戦争で悪魔界に追放される前の世代であり、本来のヒルデン種族と言える。第二が追放後の世代であり、悪魔界で長らく暮らしたせいで身体と精神を歪められている。目が緑色に輝いているのが顕著な特徴で、条件さえ整えば、悪魔界から物質界の生物に憑依して操り、さらに憑依した生物をより戦闘的な形に変態させることができる。また強力な悪魔たちを従属させている。

  主人公達にとっては敵でしかないのだが、その歴史上の立ち位置は実に微妙である。彼らはエルダーゴッドの秩序を拒否したために、古代ヴァンパイアに戦争をふっかけられ、追放の憂き目に遭うことになる。主人公達は基本的に古代ヴァンパイアの立場で行動するのだが、運命の車輪に反抗しようとするため、真の敵はエルダーゴッドだということになる。この点で、実は主人公達とヒルデン種族は一致している。しかしながらヒルデンにとってヴァンパイアはやはり宿敵であり、やがて覇権を求めケインと壮絶な戦いを繰り広げることになる。
 

  • 人間種族 (Human)

(画像:SR2より)

  元々、3種族の中で最も文明化の遅れた種族であり、ヒルデンに知恵を与えられたり、古代ヴァンパイアを崇拝したりする従属的な立場にあった。しかし歴史は、非力な彼らを支配的な種族へと押し上げた。その淵源はやはりエルダーゴッドにある。古代の二種族は共に不死なる存在になってしまい、運命の車輪から外れた。魂を貪るエルダーゴッドとしては、死すべき人間を繁栄させるほうが好都合だったわけである。

  エルダーゴッドは、古代ヴァンパイアを見捨てた後、初めて人間に語りかけた。そして自らを崇拝させ、使役し、古代ヴァンパイアに反乱を起こさせたのである。人間はそれ以来、ノスゴスの覇権を握ることになる。さらに、人間はサラファン教団(Sarafan brotherhood)というアンチ・ヴァンパイア組織を結成し、粛正活動を展開。青き翼の一族を歴史から抹消し、ヴァンパイア種族を追い詰めていく。

  しかし彼らの心身の脆弱さは、隙をうかがっていたヒルデン種族の介入もあって、やがてノスゴスを荒廃させることになる。主人公ケインはまさにそのような時代に活動を開始する。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

最終更新:2012年10月07日 08:32