「須賀君、おはよう」
「おう、おはよう」
中学二年生のときの話だ。入学から一年半、クラス替えから半年たった秋の頃。
俺の友達のうち、一人はソイツで。
ソイツの友達は、俺一人だけだった。
「須賀君は読書感想文の本決めた?」
「いんや、メンドくせーよな。なんかいい本ある?」
「えっと…須賀君ってどういう本が好き?」
「本とか読まないから、短いやつ」
「ええー…」
困ったように眉を下げる顔は女の子みたいで、きっちりホックまで締めた学ランが無かったら間違えるほど。
声だってほとんど女の子と変わらないくらい。頑張って男子っぽい私服を選んでも、結局女の子が男の格好をしてると思われる、そんな奴。
根暗なわけじゃない。けど消極的で友達が作れなくて、そのくせ寂しがりな奴で。
「あ、それじゃああの本がいいかも」
「何でもいいから貸してくれよー」
「しょうがないなあ…それじゃ、今日うち来る?」
「おう! そういや久しぶりだなあ――」
きっとあの日、家にさえ行かなければ良かったのに。
「――宮永の家に行くのってさ」
宮永の部屋は、らしいというか…本ばっかりで他に何もない部屋だった。
「そんなにキョロキョロしなくても」
「久しぶりだけど変わってねーよな。学生服と本と勉強道具しかないじゃん。きもー」
「キモいはヒドイよ…ええと、本だよね…あれ?」
真面目一辺倒な奴で、自分の部屋なのに学ランを脱いだだけで着替えもせず、シャツをズボンに入れたまま。
俺としてはその真面目さも面白かったんだけど、他の男子にはつまらなかったらしい。
だからコイツが意外と楽しい奴だってことも、困った顔が面白いことも知らないんだろうな。
「ごめん須賀君…ちょっとここに無いみたい。お姉ちゃんの部屋にあるかも」
「お姉さんいるのか。本は別に今じゃなくていいけどな」
「ううん…取ってくるよ。ちょっと待ってて」
そのまま行っちまうあたり、宮永らしいというか。
「……悪いな宮永、部屋漁りは友達の特権だよな」
目的は、当然お宝本。だいたいそういうものはベッドの下と相場が決まってるんだが。
「お、あったあった…ん?」
あったと言っても一冊だけだけれど、気になったのはその奥の物。
綺麗に畳まれているのは――
「服? 女子のか…?」
見間違え、ということもない。手に取れば間違いなく女子用制服で、しかもしっかり着た跡がある。
「宮永のお姉さんのか? でもなんでここに……」
「お待たせ、やっぱりお姉ちゃんの部屋に」
その時の宮永の顔ときたら。
笑顔がどんどん真っ青になって、面白いほど歪んでいくのを思い出すだけで。
「う、あ…な、なにしてるのっ!?」
素直な奴だけに、完全に墓穴を掘ってるとしか言えない。適当に笑い飛ばせばいいってのに…
「これ、宮永が着てるのか?」
「……」
目を向ければ可哀想なくらい震えている。もしかしたら嫌われるとか、そんなことでも考えているんだろうか?
もしそうだとしたら――
「いいんじゃね? 宮永って女子っぽいし、似合いそうじゃん」
「……え?」
「せっかくだしさ、着替えて見せてくれよ! 誰にも言わないからさ」
――この時、こんなことさえ言わなければ。
良かったのか、悪かったのか。俺にはわからないけれど。
思わず、唾が喉へと落ちていく。
「そ、そんなに見ないでよ…恥ずかしいよぉ…」
涙目でトランクス一枚の宮永は、確かに男子で間違いない。
けど、どういうわけかスカートを付ける仕草や、セーラー服に腕を通す仕草があんまりにも、俺の目を掴んで離さなくて。
分かっているのに、男だっていうのに。
「かわいい…」
「っ、そんなこと、言わないでよぉ…」
両手で覆われた顔はきっと真っ赤になっていて。ぺたんと床に落ちた腰が誘うように左右に揺れる。
そして何よりも。
「な、なあ…触ってもいいか?」
「え? あ、やっ!」
だってしょうがないだろ。
エロ本でさえヤバいのに、こんなのが居るんだ。
柔らかい太ももも、華奢な首筋も、本なんかよりずっとずっと綺麗で。
「宮永、どうせなら下着も替えようぜ」
「っ!」
「さっき、あったもんな。服の奥に、女子のパンツ。穿いてるんだろ」
「……」
「宮永」
押し倒した宮永の目が、俺を見上げている。
でもこれは嫌だとか、そういうのじゃなくて。
「ほら、着替えろよ」
少しずつスカートを押し上げる股間が。
「……う、ん」
宮永の本心なんだろう。
咲「どうかな!」
京太郎「……」
優希「京太郎が石になってるじぇ」
和「いいですね。こういうのも嫌いじゃありません」
咲「だよね! ちなみにこの後、滅茶苦茶」
京太郎「うおおおおおお!」ビリビリ
咲「あーっ! 何するの京ちゃん!」
京太郎「おぞましいもん書いてんじゃねええええ!」