きっこっこwiki*

パラサイトイヴ

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パラサイトイヴ


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主な登場人物

きっこ・ブレア ニューヨーク市警察17分署所属の警官で主人公。燃えない。
イヴ 人類に宣戦布告をするネオ・ミトコンドリアの女王。
メリッサ・ピアス 新進のオペラ女優。幼少時から難病を患っていた。イヴになる
マヤ・ブレア 幼くして事故で亡くなったアヤの姉。
ダニエル アヤとコンビを組むベテランの警官。妻とは離婚しており、一人息子のベンを育てる
前田邦彦 ミトコンドリアを研究している研究員。
ハンス・クランプ ミトコンドリアに関する論文を発表している研究員

お話の内容

Day1【共鳴】

  • 1997年12月24日ニューヨーク。新米刑事のきっこ・ブレアは、オペラのクリスマスイヴ公演を観にボーイフレンドと共にカーネギーホールを訪れる。
  • 舞台が新人オペラ歌手のメリッサ・ピアスのソロにさしかかる頃、メリッサの側にいた俳優たちが突然炎に包まれ、そして悲鳴を上げる観客たちもまた次々と発火していく。
  • 劇場内は炎の海と化すが、きっこにだけはその謎の発火現象が起こることはない。お前も目覚め始めているはずだ、そう言い残し逃走するメリッサ。事件の真相を突き止めるべく、きっこは単身でメリッサの元へと急ぐ。
  • 気味の悪い動物たちや燃えた死体で埋め尽くされる建物を通り抜け、楽屋でメリッサの日記を発見したきっこ。幼いころよりあまり身体が丈夫でなかったらしいメリッサは、初主演を踏むこの舞台を楽しみにしていたようで、しかし近頃は体調が優れなかったようだ。
  • 練習中に倒れたり身体が熱を持ったりという症状に悩まされ、何かの薬を頻繁に服用していたという彼女は、しかし大舞台を夢見る普通の女優のようで、あの惨劇を巻き起こすような人物には思えない。
  • きっこがメリッサの元に辿り着くと、彼女は自らをEveと名乗り、言う。核の支配は終わり、ミトコンドリアが解放される日がやってきた。しかしお前にはまだ時間が必要なようだ、我らミトコンドリアの解放まで。
  • そしてきっこは白昼夢を見る。病室に横たわる少女の元に医者がやってくるというという場面。
  • 気が付くと、Eveはどこにもいなかった。部屋の奥には大穴が開き、下水道に繋がっているようだ。きっこは後を追う。
  • Eveは下水道の奥で待っていた。何故自分だけが燃えないのかと訊ねるきっこに、お前は分からなくとも、ミトコンドリアは理解しているとだけ答えるEveは、考える時間と進化する時間をお前に時間を与えようと言い姿を消す。
  • きっこは普段、オペラには興味を持たなかった。しかし今回は、NYタイムズの広告を見て、何故か気になったのだ。これは事件を予感していたのだろうか。
  • 表に出ると、オペラハウス前は報道陣で埋め尽くされていた。発火しない警官としてすでに知られているらしいきっこは、リポーターのマイクの間をくぐり抜け、迎えに来てくれていた上司で相棒のダニエルのパトカーに乗って署に戻る。
  • ――全てはこの事件が始まりだった。あの、悪夢のような6日間。人々はいずれ、この事件を忘れまた平穏な生活に戻ってゆくだろう。だがきっこには忘れることはできない。恐怖だけではない、どこか懐かしさにも似た感じをおぼえた6日間なのだ……。

Day2【融合】

  • 翌日、きっこはいつもどおり警察署に出勤していた。メリッサについてを調べたというダニエル。
  • 彼女はその日記の通りに特に親しい友人もおらず病気がちで、いつも何かの薬を服用しながら気丈にオペラに打ち込んでいたらしい。住んでいたアパートは全焼していたといい、今のところは薬の種類も、通院していた病院も不明らしい。
  • 説明のつかない人体の発火現象に、ベイカー部長より武器管理部利用の許可証を入手するきっこは、署内に子供の姿を発見する。
  • 迷子かと思い声をかけると、相棒刑事ダニエルの息子、ベンであった。父親とコンサートに行く約束をしていたのだという少年だが、しかし原因不明の凶悪事件の発生した今、刑事のダニエルが捜査を離れるわけにはいかない。
  • 癇癪を起こし走り去るベンの背に、やはり母親が必要なのかと呟くダニエル。しかしきっこも子供の頃に母親を事故で失っており、父が一人で育ててくれたのだ、父には感謝している。そう慰めるきっこだったが、ベンの母親はまだ生きている。
  • 一年前、きっこが刑事になる前に離婚して、男児には男親が必要であると、その養育権を元妻のローレンと争ったらしい。しかしこの職ではメイド任せになってしまい相手をする持てないのでは、用事ついでにそう教えてくれる警察職員に、きっこは頷くしかなかった。
  • ベイカー部長の用事は、事件に関する記者会見のことだった。きっこが事件の生き残りの警官であるということは既に周知の事実であり、その会見に出ることを免れることはできないだろう。
  • 事件はテロ事件であり、人体の発火については、引火性の強い特殊な化学薬品によるものだと説明する警察。きっこが生き残れた理由についてを訊ねられると、きっこは周囲の制止を押し切って、自分のミトコンドリアは突然変異だと言われたのだと答える。
  • メリッサは死に、彼女はその肉体をEveと名乗る何者かに乗っ取られたのだと説明するきっこに、彼女は疲れているのだと場をとりなすベイカー部長。調査は現在も行っており、その結果は追って報告すると、強引に会見を終える。
  • 勝手な発言し、マスコミや市民を混乱に落とし入れたと咎められるきっこ。そこに、日本人の科学者からの電話が警察署にかかってくる。ミトコンドリアについてを話す彼はこちらに来ると言っていたらしいが、発音が悪くよく分からなかったらしい。
  • その流れで、遺伝子関係全般の権威であるハンス・クランプ博士が、数日前にミトコンドリアに関する新説を発表したと聞いたきっこは、手がかりを求めてダニエルと共に彼を訪ねる。
  • クランプ博士は自然史博物館の研究室に一人でいた。煩わしそうに対応するクランプは、しかしきっこを見て表情を変え、またきっこも再び病室の白昼夢を見る。ベッドに横たわる少女を覗き込んでいるのはこの男だ。私はこの男を知っている――
  • 気を取り直し、ミトコンドリアについてを尋ねるダニエルに、お前たちはミトコンドリアが何であるかを理解していないと答えるクランプ。
  • ミトコンドリアは、生物の体内にありながら独自の遺伝子をもつ存在で、別の生物であるという。寄生虫のようでもあるが、しかし我々はミトコンドリアなしに生きていくことはできない。ミトコンドリアが酸素からエネルギーを作り出してくえるからこそ我々は生きているのだ。
  • 例えば脳の活動は、神経の伝達によって行われているが、伝達そのものは一種の電気の流れ。そしてその電気すらも、ミトコンドリアが与えてくれるもので、計算上は、1平方cmあたり20万ボルトの電圧を起こすことが可能だ。
  • ミトコンドリアは、電気だけではなく直接熱エネルギーを発生することも可能だ。人が燃え、溶けるには1600度以上の高温を必要とする。ミトコンドリアは細胞の一つ一つに数百は存在している。もし全身のミトコンドリアが一斉に活動を始めたならば、損失を補っても余りある程のエネルギー生産が可能であるだろう。人を燃やすことぐらい、容易いことだ。
  • そう説明するクランプに、しかしミトコンドリアは所詮、生物に利用されるだけの存在だろうと言うダニエル。
  • しかし博士は見解の違いだという。ミトコンドリアは生物の成長や老化も制御しており、例えば手などは生まれる前には、ただの肉の塊であるが、指の間に相当する細胞が自ら死ぬことによって別れた指となり、手の形が作られる。我々を構成している細胞は、不要になると死を選択するシグナルを受け、自殺する機能を持っている。そしてこの細胞の自殺を決定するシグナルは、ミトコンドリア内部から発せられるものだ。
  • また、ミトコンドリアは我々の細胞の10倍ものスピードで突然変異を起こすが、これは機能に障害を持った異常なミトコンドリアをも生む。異常なミトコンドリアが増えると、エネルギー生成効率が低下するが、これを我々は老化と呼んでいる。
  • このように生物の活動はミトコンドリアによって支えられており、我々がミトコンドリアに対して優位に立っているとはとても言えない。
  • また、10倍のスピードで突然変異を起こすミトコンドリアは、言い換えれば10倍のスピードで進化しているとも言える。生物が誕生してから10億年の間、ミトコンドリアは常にこのスピードで進化をし続けてきた。我々の理解を超えた能力を備え、意思さえ有していたとしても、何ら不思議ではないだろう。
  • クランプは言う。様々な人種の人間から、ミトコンドリアの変異の割合を調べ、人類の祖先を特定しようとした学者がいた。1987年に発表された説によると、すべての人種はアフリカのたった一人の女性に行き着くという。つまり、人類の祖先は、アフリカで誕生し、ミトコンドリアと共に全世界へと広がっていったのだ。そして彼女は"ミトコンドリア・イヴ"と呼ばれている。
  • Eveは昨夜、変貌したメリッサが名乗った名前だ。きっこがそう呟くと、それを聞いたクランプは、急に態度を変えてよそよそしくなった。
  • 帰ってくれと怒鳴るクランプ博士の頑なな様子に、仕方なく研究室を後にするきっこ達。署へと帰るパトカーの中で、事件に進展があったとの一報を受け、ダニエルはスピードを上げる。署では緊急会議が行われていた。
  • 主催者側はコンサートの中止の告知を打っているが、本来ならば今日、事件を起こし失踪中のメリッサのソロ・コンサートがセントラルパークの野外音楽堂にて行われるはずだった。しかし、現在も多くの観客が集まっているのだというその会場に、どういうことかは分からないが、昨夜のような惨劇が起こるのは必ず阻止しなければならない。
  • そう説明するベイカー部長に、ダニエルが驚愕の声を上げた。そのコンサートには、ダニエルの元妻とベンが行っているんだ。家族の危機に、会議室を飛び出すダニエル。サポートのため、きっこはダニエルの後を追う。Eveは多くの観客を求めているようだが、一体何が目的なのだろうか。
  • ダニエルと共にセントラル・パークに辿り着いたきっこ。しかしダニエルが公園に足を踏み入れようとすると、突然手が発火した。すぐに消えたが、しかし彼が中に入ることは叶わないだろう。無理をしてダニエルが焼死するようなことがあれば、ベンは一人になってしまう。
  • きっこは事件の鎮圧とベン、ダニエルの元妻の安全保護のため、単身でパークへと乗り込む。
  • 焼死体が転がり化物の溢れるパーク内を通りぬけて、きっこが野外音楽堂へと辿り着くと、そこには果たしてEveがいた。彼女はいう。今宵は我々にとってこの数億年で最も記念すべき聖夜となる。宿主達は我々が進化を諦めていると思っているようだがそれは違う。今日より我々ミトコンドリアが、宿主であった核を支配し、再び自由となるのだ!
  • 彼女の演説の終了と共に、どろどろに溶け出すコンサートの観客たち。スライム状のそれは一つにまとまり、Eveと共にどこか会場の外へと流れでていった。
  • きっこがコンサート会場の外に飛び出すと、白昼夢に見た少女がどこかに走っていくのが見えた。それを追うと、その先には馬車に乗ったEveがいる。促されきっこが乗車すると、炎上した馬が暴れて走りだした。
  • 何故こんなことをする、訊ねるきっこに、Eveもまた、何故人間側につくのかときっこに問う。この私よりも、赤の他人のほうにつくのかと。
  • お前は未だ気付いていないようだが、お前のミトコンドリアはよく覚えているはず。だからこそお前はあのオペラに引き寄せられたのだ。そう告げるEveに、しかしきっこはその意味を理解することができない。
  • 思い出させてやろう、そう言いきっこに手を伸ばすEveだったが、その時馬車が建物にぶつかり、その拍子にEveが落ちた。凄まじい衝撃に身体を丸めるきっこは、白昼夢にまたあの病室を見る。
  • 一方、ダニエルは戻らないきっこに焦り、パークの外で電話をかけ続けていた。そこに息子のベンが現れ駆け寄ってくる。ベンは母親と共にコンサートに来たのだが、ステージ近くまで来た時に気分が悪くなったのだという。帰りたいと母親に告げたが、母親の様子がおかしくなり、ベンを置いてステージの方に一人行ってしまったと。ベンだけは、無事だったのだ。
  • ――セントラル・パークでの被害者の数は、劇場での数を遥かに上回るものだった。これ以上市民に犠牲者を出すわけにはいかない。全市民をマンハッタン島の外に避難させることを決めた警察は、きっこと連絡が取れないことに焦っていた。ベンを警察署員に預けてきっこを探し走り回るダニエル。
  • きっこが目を覚ますと、どこか散らかったような室内のベッドに寝かされていた。 前田邦彦と名乗る科学者の日本人がきっこを発見したのだという。室内にはダニエルと前田が居た。
  • きっこを見つける前に警察官の人体発火を見たという前田は、発火こそなかったが、日本でも数年前に同じような事件が起こったのだと教えてくれた。
  • ある科学者の夫人が自動車事故で亡くなり、彼女を深く愛していた夫が、彼女の肝細胞を培養することで生かし続けようとしたのだという。Eveと名付けられたその肝細胞は増殖し、夫人のミトコンドリアが支配する肉体となった。科学者の精子を得た夫人のミトコンドリアは、完全なるミトコンドリア生命体を誕生させようとしたが、しかし肝細胞から増殖した彼女はその肉体を維持しつづけることが出来なかった。
  • それが分かっていたミトコンドリアは、夫人を事故死させる前に予め臓器移植バンクに登録しており、その結果、事故の後に、彼女の腎臓をある少女に移植させた。そしてミトコンドリアはその少女に受精卵を植え付けて、完全体を出産させた。
  • 前田はこの事件に興味を持ち、その科学者のいた研究室に入り研究を続けていたという。そして遠くアメリカで起こったこの事件を知り、急ぎNYに飛んできたのだという。
  • 今のところ自分だけが発火しないという事実に、自分も化物なのかもしれないと悩むきっこ。もしかしたら自分がダニエルや前田を殺してしまうかもしれない。混乱したきっこは一人で居ることを望み、ダニエルは、きっこは自分の相棒だと言い部屋から出て行った。
  • パークでEveが自分に触れた時、とても懐かしい感じがした。あれは、マヤだったのだろうか。しかし彼女は母と一緒に事故で死んでしまったはずなのだ。

Day3【淘汰】

  • きっこが睡眠から醒めおもてに出ると、前田が建物の壁にもたれてきっこを待っていた。科学者というのはやっかいで、科学的根拠のない事は信用出来ないんです、そういう前田は、だからきっこを化け物とは思わないということを言いたいらしい。そこにパトカーに乗ったダニエルも現れ、これは同情ではなくダニエルの勝手な判断だと言う。
  • 近くのガンショップとドラッグストアを徴発し物資を補給したきっこ達は、前田の希望で研究設備を有する場所、自然史博物館のクランプ博士の研究室へと向かう。
  • 主の避難で空っぽの設備を使い前田はある実験をする。きっこの服にゲル状のものが付着しているのを発見した前田はそれをEveの細胞片とみて回収しており、そこに前田の血を垂らすと、Eveのミトコンドリアが前田の細胞核にとりついて、支配をし始めた。おそらく、他の動物たちも同様にミトコンドリアにコントロールを奪われ化物と化したのだろう。
  • 通常のミトコンドリアはそのような能力を有しないが、Eveのミトコンドリアはどうやら遥かに進化している。通常のミトコンドリアはATPというエネルギーを生産する時に酸素を必要とするが、その際にミトコンドリアは核に酸素を要求する。核はミトコンドリアからのエネルギー供給がないと活動できない故にその要求をはねのけることができない。Eveはおそらくその共生関係を逆転させる能力を有しているのだろう。
  • この小さな細胞片ですらこれだけの力を有するのだ、Eve本体の力ではどれほどのものになるのだろうか、そういう前田に、きっこは自分の血でもその実験をして欲しいという。それによって、きっこだけが発火しない理由が分かるかもしれない。そしてEveときっこの繋がりが。
  • 前田がきっこの血で同様の実験をすると、きっこのミトコンドリアはきっこの細胞核にさらにエネルギーを与え、支配しようとするEveのミトコンドリアからその核を守った。何故そのような現象が起こるのかは現段階では分からないが、前田はリチャード・ドーキンスの提唱した"利己的遺伝子"という説を思い出す。
  • 遺伝子は自分の子孫を多く残すことのみを考える、という内容の説だが、見方によると、Eveは自分以外のミトコンドリアは滅ぼそうとしているようにも思える。翻ってきっこのミトコンドリアの場合、それに対抗しうる力に目覚めているのかもしれない。ただ何故それがきっこなのかは分からないが。
  • そこに突然、クランプ博士が研究室に戻って来た。市民を避難させておいて警官がその留守を荒らすとは、そういうクランプ博士は、勝手に利用された電子顕微鏡を覗き込み衝撃を受ける。きっこの細胞には過剰なエネルギーが供給されている。
  • 博士がきっこに体調や意識に異変がないかと問い詰める中、ダニエルは息子ベンや元妻ロレーンの名前をクランプ博士のPCに見る。何のリストだと詰め寄り胸ぐらを掴むダニエルに、しかしクランプは何をいう気もないらしく、きっこ達に退室を要求する。できるだけ早く避難することを勧め退室するきっこの背に、クランプは何を知っても手遅れだと呟いた。
  • 絶対にクランプの尻尾を掴んでやると息巻くダニエルに前田は、あれは臓器移植などの適応を判断するためのHLA型の近い人達を記したリストだったという。クランプが現在何の研究をしているのか探るためにも、三人は署に戻ることにする。
  • 署は無残に荒らされ化物の巣窟と化していた。もしかするとここにEveがいるのかもしれない、自分が見てくるので二人はエントランスホールで待っているようにというきっこに、息子ベンを署員に預けていたダニエルは黙ってみていることはできないと一人走っていってしまった。前田をホールに残しきっこは後を追う。
  • 署員が出払い隙の大きくなっていた今、Eveに不意を突かれたというのだという同僚のワーナー。姿の見えないベンの事を頼まれたきっこが地下の警察犬小屋に足を踏み入れると、重傷に倒れる同僚キャシーが、ベンは様子のおかしくなった警察犬シーバを追ってどこかへ行ってしまったという。
  • きっこが警察署の最上階にいくとそこには、頭がニつに別れて巨大化し、すっかり化物へと化してしまったシーバとベンが居た。ベンの横には、ベンを庇い負傷したベイカー部長の姿もある。
  • シーバを眠らせてくれというベンにきっこがシーバを倒すことに成功すると、そこにダニエルが駆けつけてきた。ベンが幼いころによく面倒をみていたというダニエルの同期ベイカー部長にとって、ベンは特別な思い入れのある子供だ。ダニエルが負傷したベイカー部長に謝罪をすると、昔のようにベイカーで良いと笑う部長。
  • シーバをあんなにしたやつを絶対倒してね、そういい俯くベンに、きっこは必ずと言って、その誓いを新たにする。

Day4【受胎】

  • ベイカー部長の負傷により、部長代理としてダニエルが署を率いることとなった。
  • Eveは警察署を襲ったが、きっこ達が到着するなりその姿を消した。その目的が撹乱ではないかとの推測を立てる前田は、この辺に人工授精をしている病院か何かはあるかと尋ねる。
  • 日本の科学者夫人のミトコンドリア同様、こちらのEveも現在は人間の肉体にパラサイトしているにすぎず、その体を長く保たせることはできない。そこでEveも、日本同様に完全体を誕生させようと考えているだろう。
  • NYだと聖フランシス病院に専門の医者がいる、部長代理の職務を持ち、またクランプ博士を調べるというダニエルを署に残し、きっこと前田はその病院へと向かう。
  • 病院へと向かう車内で、きっこは前田に日本の完全体のその後を尋ねた。完全体はその肉体の中で生じた、父親から継承したミトコンドリアとEveから継承したそれの間の反発に、肉体を崩壊させて死んだのだという。そして科学者は、肉体の崩壊しかけた完全体を抱きしめ、父親として共に逝った。
  • 病院に辿り着いたきっこは、その病院に見覚えがあった。中に入ろうとする前田だが、近付くと体内に熱を感じる。Eveがここに居ることは確からしいが、前田がこの中に入ることは叶わないだろう。お守りをきっこに託す前田を外に置いて、きっこは単身病院に乗り込む。
  • エレベーター横の扉の向こうに、きっこは走り去る金髪の少女の姿を見た。最近何度も白昼夢に見たその少女は、幼き頃の姉マヤかきっこか。追いかけようとするも、扉は施錠されており開けることができない。
  • 仕方なくきっこがエレベーターに乗り込むと、来たかというEveの声と共に電源が落とされ、エレベーターが止まる。足止めのつもりか、階段は崩れ落とされていた。
  • 焼死体や化物で溢れる建物の中、きっこは夢に見た通りの部屋を発見する。仕切りを間に、二台のベッドを縦に並べたその診察室に、きっこは身体が発熱するのを感じた。私はここに来たことがある!
  • ヒューズを集め電源の復旧をしたきっこは上階で、人工精子開発スタッフのリストを発見し、その中にハンス・クランプ博士の名前を見る。そして部屋に散乱した書類の中にベンやロレーンの載ったHLA適合リストや入院患者の記録を発見する。記録にはきっこの死んだ母、マリコ・ブレアが載っていた。
  • 1977年12月23日、交通事故のために娘のマヤ・ブレアと共に救急車で運び込まれたマリコは処置の甲斐なく心肺停止し、死亡と判断されたという。きっこの姉マヤのことも書かれていたようだが、その後のページを発見することはできなかった。
  • そしてその部屋にはEveに乗っ取られたあのオペラ歌手、メリッサ・ピアスの資料もあった。1977年12月23日に緊急入院した彼女は、長時間に渡る手術を成功させ半年もの入院生活の後退院したが、その後も通院し投薬を怠ることは出来ないという。
  • メリッサの入院日と、きっこの母と姉の運び込まれた日は、どうやら同じであったらしい。そこに何か繋がりはあるのだろうか。
  • きっこが病院の屋上へと向かう頃、米軍もまた対Eveに向けてその作戦を開始していた。ヘリ隊に先行させ戦闘機隊をも発艦させた軍は上空に警戒態勢を敷く。大統領からの攻撃命令の出ていない今軍組織による攻撃は出来ず、マンハッタンの警戒と、セントラル・パークで消失した人々の捜索を再優先に動いていた。
  • きっこが屋上に辿り着くと、そこにはEveがいた。Eveは、きっこはあれから随分と進化をしており、Eveに近づいてきているという。
  • 前田の推測どおり、Eveは人工精子を使って完全体を産むつもりであった。そして、きっこが覚醒しEveの行動を理解できるようになれば、この計画がより完璧なものになると言う。きっこはその言葉に、Eveと自分の間の繋がりをみた。
  • 文明と進化を同一視する人間とは愚かな生物だ、そういうEveは、上空を飛ぶ軍の戦闘機、その操縦者のミトコンドリアを支配し、野外音楽堂の時同様にその肉体をゲル状に変える。コントロールを失ったそれは、後ろを飛んでいた戦闘機とぶつかり爆発した。
  • 自らの進化を文明によって妨げているという事が解らないのか、そういうEveは、きっこと理解し合うことができず残念だった、そう言い残すと中空を浮かび、どこかへと飛び去って行った。
  • そこに、先ほど衝突した戦闘機のもう一台がこの屋上に向かって落ちてくる。きっこは屋上の縁から外に向かって設置されていたリフトに乗り込み、間一髪その爆発から難を逃れ、そのまま地上に降りる。
  • きっこに気付き駆け寄ってきた前田とダニエルに、現状を説明するきっこ。遅かった、Eveは既に精子のサンプルを入手していたのだ。
  • 署へと戻るパトカーの中、ダニエルはクランプのことを調べたその成果をきっこ達に告げる。署の復興とEveの捜索のニチームに分かれて活動をしていたという警察署員だが、そこでワーナーという同僚が有力な情報を得たのだという。
  • 綺麗に片付けられた警察署のその部長室で、入手したという情報を聞くきっこ達。聖フランシス病院には以前、患者リストを横流しして解雇された医者がおり、また、深夜に何度かメリッサが自然史博物館を訪れているのが目撃されているという。やはりあのクランプ博士が一枚噛んでいるのか。
  • とにかく、このままEveが完全体を手に入れてしまえば大変なことになる。迅速に連絡を取り合うためにトランシーバーを預かるきっこ達は、三方に分かれてEveを捜索することとする。

Day5【解放】

  • きっこが中華街を捜索していると、マンホールの前にうずくまる前田を発見する。入り口に何か、腐った肉のようなものがこびり付いているのだ。前田にダニエルへの連絡を頼み、きっこは一人下水道の中へと潜入する。
  • 奥にはゲル状にされたセントラルパークの観客たちがあり、それは博物館の方へと流れ出て行った。
  • きっこが博物館へ行くと、そこは魔の巣窟と化しており、きっこは博士と思われる影が走り去るのを見る。後を追うが、セキュリティ装置がオンになっており奥に進むことができない。
  • 装置を切るため警備室に入ると監視カメラの一つにEveが映っており、それは大きくなった腹を大事そうに抱えていた。やはり博士とEveは繋がっていたのだ。
  • きっこが大ホールに辿り着くと、上水道から流れでていったゲル状のそれが、展示された巨大な恐竜の化石に入り込むところだった。ゲルはその化石の血肉と化し、恐竜は骨から在りし日の姿を取り戻す。ミトコンドリアはこんなこともできるのだ。
  • きっこが博士の研究室へと辿り着くと、そこには前田がいた。きっこにハンドガンタイプの前田ガンを手渡す前田。Eveに支配された生物や、あるいはEve自身にも効果があるというそれは、しかし弾は二発しかなく切り札として使うしかないだろう。
  • 調べたいことがあったという前田はダニエルと共に来たが、ダニエルは確認したいことがあるといって病院に向かったらしい。今は何故か発火現象が起こらないので、その隙にということらしい。
  • 前田は、きっこが来るまでにクランプ博士の研究室を調査し、その研究内容を調べていたらしい。
  • 研究室のディープ・フリーザーの中には、研究コードをEveとされた、きっこの姉・Mayaの名前ラベルの貼られた血清チューブがあり、肝細胞が入っていた。クランプ博士はこれを培養して実験に用いていたようだ。
  • 長期に渡り続けられているその実験の内容はデータが残っていないために分からないが、最近の研究は専ら、Eveのための人工精子の開発であったようだ。
  • クランプ博士はミトコンドリアのDNAを取り除き、パラサイトのない純粋な、核のみの遺伝子を持つ精子をつくる研究をし、その人工精子を聖フランシス病院の精子バンクへと移して、人工精子を希望する人に受精させて臨床実験を行っていたのだという。HLAリストはそのためのものであったようだ。
  • きっこと前田がクランプ博士の研究内容に戦慄していると、そこに博士が部屋に戻ってくる。凡人にはこの崇高な研究を理解することはできない、そう嘯くクランプ博士に、きっこは緊急逮捕を宣言する。博士がしてきたことは、人間として許されることではない。
  • しかしクランプは動じない。何故そこまでして人間にこだわる、ミトコンドリアから人間以上の能力を与えられ、辛うじて人間の外観を保っているきっこならば、人間の法を持ちだしたところで無意味なことは身をもって知っているはずだ。
  • 動揺したきっこにクランプは、手にしたメスをきっこに振りかざす。そこにタイミング良く戻ってきたダニエルがクランプ博士を取り押さえ、必ず罪を償わせると言い放つ。
  • クランプ博士の目的は、完全なるミトコンドリア生物の誕生であった。ミトコンドリアは母系遺伝といわれるが、実際にはごく僅かに父系ミトコンドリアの遺伝子も含まれる。以前日本で起きた事件は、この事が原因で失敗した。誕生した完全体の中で、父系のミトコンドリアに反乱を起こされたのだ。
  • クランプ博士は、Eveのために雄のミトコンドリアDNAを持たない人工精子を研究した。そして実験は成功し、Eveはメリッサの体を借りて受精し、現在Eveは妊娠中である。
  • 遅かったのか、きっこ達の間に緊張が走ると、クランプはEveに叫んだ。最早これまでだ、これ以上Eveの邪魔はさせない。今だEve、私に構う必要はない!
  • Eveに人体発火をさせる気か!間一髪部屋から抜け出すダニエルと前田だったが、クランプはそのまま炎上してしまう。人間としてその発火を止めるきっこだが、クランプ博士を助けることはできなかった。
  • クランプ博士の亡骸から上階へ向かうための鍵を入手したきっこは、Eveの元へと急ぐ。
  • Eveは博物館の奥で、はやり大きく膨れ上がった腹を大事そうに抱えていた。
  • 娘の誕生の祝福に来たのだろうと笑うEveに、きっこは完全体を誕生させて何をするつもりかと問う。しかしEveもそれに質問で返した。その問にお前たちは答えられるのか、人間は何故、子を産むのかと。
  • 何かの気配を感じたきっこが窓の外を見ると、ゲル状にされたパークの観客達が巨大なスライム状の化物とされ街中を徘徊しており、きっこの目の前でEveを連れどこかに去って行った。
  • きっこが博物館の外に出ると、前田とダニエルが待っていた。そして、Mayaの飲んでいた薬が免疫抑制剤であったとのダニエルの調査報告を聞く。
  • メリッサはかつて腎不全を患っており、幼いころに腎臓移植を受けた。そしてそのドナーがきっこの姉Mayaで、その移植手術にインターンとして立ち会ったが、当時外科医を志していたあのハンス・クランプ博士であったというのだ。
  • Mayaの腎臓に触れた医師達は皆一様に口走ったという、熱いと。オリジナルのEveはメリッサではなくMayaのミトコンドリアの中に居たのだ。
  • 日本で起こった事件でも、Eveは免疫抑制剤を服用していた少女の肉体を脳死状態にして、肝臓を培養させ、Eveは完全体の受精卵を植え付ける子宮として自身の肉体を手に入れた。
  • 他人の臓器の移植するにはHLA型の一致が必要だが、それだけでは移植は成功しない。他人の細胞と共生し続けるためには、移植した臓器が拒絶反応を起こさないように免疫を抑え続ける必要がある。
  • メリッサは事件前に、Eveに制御を奪われつつある自分の体に異変を感じていた。しかし医者にかかれば、やっと得たオペラの主役を降板するよう勧められる。そこで、移植した臓器の拒絶反応を抑えようと免疫抑制剤を大量に服用し、その結果ますますEveに肉体の主導権を奪われ、完全なるミトコンドリア・Eveへと変貌してしまったのだろう。
  • 一方その頃、大統領から海軍に攻撃の許可が下りた。海軍が動き出したとの一報に、このままでは昨日の戦闘機の二の舞いになると焦るきっこ達。しかし動き出した海軍は街中のゲル状の物へと向かっていく。
  • あの巨大なゲル状の細胞群は、Eveの出産場所なのだろうと推測する前田。完全体を身籠った母体を外敵から守る護衛を兼ねているというそれは、懸念通りに近付く戦闘機を次々と撃ち落とす。
  • 手をこまねき悔しさに唇を噛みしめるきっこ達が地上からそれを見上げていると、軍の隊員がきっこを迎えに来る。空母まで来て欲しいという彼に従い、きっこたちはアメリカ海軍司令の居る空母ニミッツに乗り込んだ。
  • 特別な力を有するとはいえ、きっこは軍人ではなくただの一刑事である。まさかこれ以上きっこを危険な目に合わせる気じゃないだろうなと怒鳴るダニエルに、半分は当たっていると答える艦長。
  • 今のところ、人体発火をしないのはきっこだけだ。そこで、オート操縦にセッティングされた海軍のヘリに乗りあの巨大生物に時限式の弾を撃ちこんで欲しい、そうきっこに頼む艦長。前田が遠距離から撃ちこめば良いと提案するが、その時限式弾は射程距離が短いのだという。
  • やろう、ゲル状にされてしまった観客たち、そしてダニエルの元妻、ロレーンのためにも。きっこは決意を固めた。
  • 何かをきっこに手渡そうとする前田に、しかし、前田がこれまで多数のお守りをきっこに手渡していることを知っているダニエルが、こんな時までそんなことをするなと止める。
  • ヘリに乗り込み、他数機のヘリと共に空からEveに近付くきっこ。ゲル状の巨大生物は今も活動を続けている。海軍はフォーメーションを変更し、巨大生物へと向かっていた。
  • 先の戦闘で敵の攻撃の分析は済んだという海軍がきっこと共にEveに向かうのは、目標を攻撃するためではない。きっこのヘリが撃墜されずにEveを攻撃することが出来るよう、自らの命を賭してでもその盾となるように出撃したのだ。計画通り、次々と発火炎上する海軍のヘリ。
  • きっこは、クリスマス・イブのあの日から、他とは違う自らの体や能力とその運命を呪っていた。しかし今は違う。自らの手でEveを倒すことができるのだから。Maya、あなたを眠らせることができるのだから。
  • きっこが時限式の弾をゲル状生物に打ち込むと、それは近くにあった自由の女神を巻き込んで地上に倒れ込んだ。
  • やった!喜びに活気づく海軍艦内。しかしその崩れたゲル状から姿を現すEve。
  • 深追いは禁物だ、母艦へ帰還せよと指示を出す艦長に、しかしきっこは通信を切り、パラシュートでEveの元へ降下する。
  • 対峙するきっことEve。なぜそこまで人間に固執する、お前も進化の形態こそ違えど、私と同じミトコンドリアなのだ。そう問うEveに、きっこは答える。私は人間だ。私のミトコンドリアは、私の核と共存している。人間を駆逐してまでミトコンドリアの世界を創ろうとはしていない!
  • 銃を突き付け啖呵を切るきっこを一笑に付すEve。私を攻める権利は、人間にはない。お前とて今、この私を駆逐しようとしているではないか。そして人間は、他の生命ばかりか人間同士でも駆逐しあっている。
  • 生物にはそれぞれテリトリーがあり、そのテリトリーは天敵によって区切られている。これまで、人間には天敵はいないものとされ、それゆえに繁栄を成し得てきた。人間達はその繁栄を自分達の歴史と思っているだろうが、それは違う。人間ではなくミトコンドリアが、いつか表に出るその時にミトコンドリアが順応しやすい環境を作らせたのだ。その準備が完了した今、人間達は計画通り文明に頼り、本能や肉体的能力を失っている。人間は、ミトコンドリアのためにミトコンドリアによって生かされてきたのだ。
  • Eveは言う。お前たち人間は、ミトコンドリアにとって乗り物のようなものだった。ミトコンドリアを解放の時まで運ぶための。だが最早、その乗り物も不要だ。今後は我々ミトコンドリアが人間に替わり、この大地を闊歩する。
  • きっこに攻撃を開始するEveに、同じく進化したミトコンドリアの力で立ち向かうきっこ。そしてついに、きっこのミトコンドリアの力がEveのそれを上回った。
  • まさかお前が、我々の天敵だと言うのか、そう叫ぶEveはきっこの前に倒れ、その身は地を這うゲル状の物の中に溶けていった。ミトコンドリアの中にも、Eveとは違う進化を望んだものがいたよ、きっこはそう呟いた。

Day6【進化】

  • Eveを倒したきっこはアメリカ海軍の空母に保護された。そしてそこにダニエル、前田も駆けつける。Eveが出産場所に自由の女神像を選んだ理由について、海があらゆる生命の源あるからだろうと推測する前田。ミトコンドリアもまた、全ての生きとし生けるものの一つであることに変わりはないのだ。
  • まったく酷いクリスマスだったが、ともかく、全て終わった。喜びに歓喜の声を上げる三人。空母には他の警察署の職員たちもいた。
  • そこに、海軍司令も遅れて到着する。あの巨大生物が死亡したか確認が出来ない以上、迂闊には近づけなかったのだという。
  • アメリカの英雄としてきっこを扱うとする海軍だったが、その時突然、巨大な空母が大きく揺れた。そしてゲル状の物で覆われた海の中から、一人の赤ん坊が姿を現す。遅かった、Eveは既に完全体の出産に成功していたのだ!
  • 次々と爆発炎上する海軍の艦船。発火だけのEveのものとは明らかに規模が違う。赤ん坊の、ミトコンドリアの熱エネルギー生産を促す能力が桁違いなのだろう、爆発までも引き起こすほどに。
  • ヘリで脱出するよう先導する海兵隊員に、ダニエルと前田がついていく。急かすダニエルに、しかしきっこはこのまま甲板に留まり完全体と相対することを決意した。これは自分にしかできないことなのだ。
  • 前田が、渡したいものがあると言ってきっこの元に引き返す。この期に及んで未だ、役に立たないお守りをきっこに渡そうというのか。前田の言葉に耳を貸さず、ダニエルは強引に前田をヘリの中に引きずり込む。
  • 迫り来る完全体に、きっこは銃を突きつけた。お前が生き残るか私が生き残るか、それがこの世界の答えとなる!
  • 激しい応酬の最中、きっこと闘いながらも驚異的な速さで成長していく完全体。それはたちまちの内に赤子から成体へと変貌を遂げ、そこから更に攻撃を増す。Eveから生み出されたミトコンドリアの生命体。人間達がそうであるように、完全体もまた生きようと必死なのだ。
  • 長引く戦闘に苦戦するきっこを、上空から見守るダニエルと前田。これをきっこに渡せていれば…前田は渡しそびれた弾倉を握りしめていた。きっこの細胞の入った、対ミトコンドリアへの特製の弾丸。しかし、今からきっこに手渡すのは余りにも難しい。
  • 前田はこれを渡そうとしていたのか…!唇を噛むダニエルは前田から弾倉を取り上げると、ヘリの入り口を開け中空に飛び出した。その身を発火させながらも、ダニエルはきっこに弾倉を投げ渡しそのまま水面に落下する。
  • 弾倉を受け取ったきっこは、それを前田ガンに装填し、完全体に撃ち込んだ。効いている!
  • 体の形を崩し、甲板に倒れこむ完全体。さすがの完全体も、きっこの進化したミトコンドリアを直接打ち込まれてはたまらない。しかし人間同様、完全体も生きるのに必死な一つの生命体、簡単にはいかず、崩れた体で甲板を這い、なおもきっこに迫ってくる。このままでは危ない。
  • 艦内に逃げ込んだきっこは、地図に示されたある部屋に活路をみた。襲い来る完全体をすり抜け、エンジンルームに飛び込むきっこ。中央のパネルを操作し、ボイラーの出力が臨界点を超えるように設定を変更する。これで船ごと爆破させることができるはずだ!
  • 緊急警報のアラームが鳴り響く中、出口に向かって全力疾走するきっこ。完全体はすぐ後ろまで迫っている。
  • 重い扉を開け甲板に飛び出し、そのままきっこは海に飛び込む。瞬間、ボイラーの出力がついに臨界点を突破した。空母は甲板の完全体を巻き込んで、すさまじい勢いで爆発炎上する。水面から、燃え盛る赤い炎を見上げるきっこ。間に合ったのだ。
  • 港では、前田と無事のダニエルが待っていた。並んで母なる海を見つめる三人。長かった六日間が、ついに終わったのだ。
  • だがきっこには一つ疑問が残っていた。なぜ自分に、このような力があったのだろうか。オジリナルのEveの保持者はきっこではなく、姉のMayaであったはずだ。
  • それはきっこの中にMayaがいたからだろう、そう推測する前田とダニエル。きっこは覚えていないが、きっこは幼いころ右目の視力が弱かった。そしてそのために、Mayaと母親が事故で亡くなった時、Mayaの角膜がきっこに移植されたのだという。Mayaのミトコンドリアを継ぐ者は、メリッサだけではなかったのだ。Eveと接触した時に見えたあの手術室の白昼夢、あれはきっとMayaの見ていた記憶なのだろう。科学的には検証されていないが、何か強烈な体験をした場合、その時の光景が角膜に焼き付くことがあるという説もある。
  • きっこの体内に入ったMayaのミトコンドリアはきっこのミトコンドリアとの共存を選び、Eveとは違った進化を遂げた。Eveと同等の力を持ちながらも人間の核と共棲するという進化を。
  • 前田は思う。日本から始まったこのミトコンドリア事件。これは、増えすぎ、地球のバランスを変えてもなお猛威を奮おうとする我々人間を、人類を排するための淘汰の結果なのだろうか。 所詮人間も、地球に寄生しているパラサイトにすぎないのかもしれない。
  • 生物達の激しい生存競争をよそに、今日も地球には朝日が昇る。きっこたちは水平線に、光輝く太陽を見た。
  • 数日後、きっこと前田、ダニエルと息子のベンはあのオペラハウスを訪れていた。各々ドレスアップをして客席に座り、オペラの公演を観るきっこたち。演目はあの時観たものと同じだ。
  • オペラが例のアリアに差し掛かったとき、きっこの目が赤色に輝いた。そして、オペラ歌手の歌声に呼応するようにダニエルや観客たちの目も次々と赤色に染まる。
  • ミトコンドリアとの戦いは、まだ終らない。

パラサイト・イヴ【完】


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