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幻想水滸伝2

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幻想水滸伝2

国境に程近い駐屯地に少年はいた。休戦協定によって一時の平和がおとずれた安堵感。故郷であるキャロの街、そこに待つ義姉ナナミに久しぶりに再会できる喜び。少年はそれらをゆっくりと噛みしめていた。
テントの幌をあげてもう一人の少年が現れた。幼なじみ、気のおけない仲間、そして友…ジョウイは笑いかける。
「もう着替えたのかい?気が早いな。」
彼もまた、明日の帰郷を心待ちにしていた。未来に何の不安も、恐れも、抱いてない笑顔。
運命の歯車はゆっくりと…しかし確実に回り続ける。多くの人々の想いでさえ、それをとどめることはできない。


配信動画



登場人物

・主な登場人物
きっこ 元ハイランド王国少年兵部隊隊員でキャロの街の道場主ゲンカクの養子。
祭り上げられ新都市同盟にんじんおうこく城の将となり、本隊であるかぼちゃ軍を率いる
ジョウイ きっこの幼馴染で元少年兵部隊所属。名家アトレイド家の長男だが、父の正当な血を受け継いでいない。
戦争を早く終わらせるために王国軍につき、ルカの妹ジルを妻に迎える
ナナミ きっこの義姉。弟思いのおてんば娘
ピリカ ジョウイの命の恩人の幼女。ルカの凶行で両親が殺され、ショックに声が出なくなった
シュウ にんじんおうこく城の軍師。ビクトール等の戦友・マッシュの元弟子
ビクトールとフリック 旧都市同盟の傭兵隊長。滝壺に落ちたきっこを救い、また処刑場から連れ出してくれた命の恩人
・王国軍
ルカ・ブライト ハイランド王国の皇子、後皇王となる。大きな野望のために戦乱を望み、世を恨んでいるという
ラウド 元ハイランド王国ユニコーン少年兵部隊長で、現王国軍第四軍の将軍。きっこ達の元隊長
・重要人物
ダレル ミューズ市の前代市長で、現市長アナベルの父。
かつて王国に対して戦争をしかけ、またきっこの養父ゲンカクを嵌め国を追い出した。
ゲンカク きっことナナミの養父。かつて都市同盟の英雄だったが、ダレルに嵌められ国を追われた
ハーン・カニンガム 元王国第一軍の名将。ゲンカクと同郷の出で、仲が良かった。

地理

ハイランド王国とジョウストン都市同盟の5都市1騎士団が割拠するこの一帯は、常に国境紛争のたえない場所である。
東方、海を背にしたハイランド王国は、親密な関係をもつハルモニア神聖国を北方に持ちながら、常に領土的な危機感を持ち、軍事大国として、都市同盟と対立している。
対する都市同盟は、その中心にデュナン湖が位置することから、各都市同士の移動は、常に湖岸を迂回するか船にかたよったものとなり、一致団結して、外敵にあたることがむずかしくなっている。
ハイランド王国
(皇王アガレス、後ルカ)
皇都ルルノイエ
キャロ(きっことジョウイの故郷)
ジョウストン都市同盟
(5都市1騎士団)
×ミューズ市(×市長アナベル)
×サウスウィンドゥ市(×市長グランマイヤー)
×グリンヒル市(○代行テレーズ)
トゥーリバー市(全権大使マカイ):有翼ウィングホード(一番翼)とコボルト族(リドリー)を有する
ティント市(グスタフ)
マチルダ騎士団(ゴルドー)
トラン共和国 以前は、都市同盟と対立していた赤月帝国だった(大統領レオパルド)

お話の内容

あらすじ

  • ハイランド王国とジョウストン都市同盟は、戦争とまではいかないまでも常に国境を巡って火花を散らしていたが、さきごろ休戦協定が成り一時の平穏が訪れようとしていた。
  • ハイランド王国ユニコーン部隊に属するきっこと幼馴染のジョウイが国境警備の任を終え帰郷するその前夜、何者かの奇襲を受け全滅する。
  • 都市同盟の仕業に違いないと騒ぎになるが、なんとこれは、都市同盟かの奇襲にみせかけて休戦協定を破談にし、都市同盟とハイランド王国の間に戦を巻き起こそうとしたもので、ハイランド王国のルカ皇王の企みであるという。
  • ルカ皇子とユニコーン部隊長の会話を目撃してしまったきっことジョウイは、口封じにと崖上に追いつめられ、二人は再会の誓いを岩肌に刻んで滝壺に飛び込む。そして、きっこは都市同盟の傭兵隊に助けられ、ジョウイはトトの村の少女ピリカとその家族にそれぞれ助けられた。
  • 幸いすぐに再会することができ、共に故国ハイランド王国に戻る二人だったが、二人はルカの手によって、ユニコーン部隊に同盟都市軍を招き入れた間者として指名手配されていた。二人はきっこの姉、ナナミと共に牢に入れられる。
  • 三人がスパイとして断頭台の露と消える寸前、都市同盟の傭兵隊長が現れ三人を助け出してくれたが、もう国には居られない。再び帰る日を夢に見て、三人は故国を後にする。
  • 敵国であるはずの都市同盟の傭兵の砦で世話になるきっこ達は、トトの村でジョウイの命の恩人のピリカ一家と再会する。ピリカの頼みで外に買い物に出て戻ると村は壊滅しており、ピリカだけは生き残ったが両親は既に事切れていた。これは、都市同盟を攻めようとするハイランド王国の皇子ルカによるものであるという。
  • 泣き続ける夫婦の忘れ形見ピリカを連れひとまず傭兵の砦に戻るきっこ達は、この傭兵の砦がハイランド王国の次のターゲットであると知る。ハイランド王国で生まれ育ち、いつかは帰れると思っていたきっこ達だが、もう何を信じれば良いのか分からない。
  • 砦で王国軍を迎え撃つという傭兵隊に協力することにしたきっこ達は、準備のためのお使いのその帰り道に、村を焼き払い狂ったように凶刃を振るい続ける凶皇子ルカの姿を目撃する。そしてその剣技は鋭く、今のきっこ達ではとても敵わないだろう。
  • 唇を噛みしめ砦に戻ったきっこ達は、同盟都市の一個軍団かぼちゃ隊として王国軍を迎え撃つことを決意するが、四方から攻め入られ、傭兵の砦はあっという間に落とされてしまう。
  • 混乱の最中ルカ皇子の凶刃がピリカに迫り、間一髪助け出すことに成功するも、数々のショックからピリカは声を失ってしまった。妹のようにも思うピリカの心を守れなかったと悔いるジョウイ。
  • 王国軍から逃げる道中、きっことジョウイはトトの村の祠の奥で運命に見初められ、真の27の紋章の一つにして始まりの紋章の二つの相である、輝く盾の紋章と黒い刃の紋章をそれぞれ手に入れる。そして、きっこは皆を守って平穏にこの争いを終わらせるために都市同盟のリーダーとなり王道を歩み、ジョウイはこの争い自体を早急に終わらせるため力ある王国軍に帰り覇道をいく決意をする。
  • 運命に導かれるかのようにその袂を分かった二人は、しかしその目的は同じとする同士である。戦は激しさを増し、既に近隣諸国をも巻き込んでいる。二人は無事に平穏を取り戻すことができるだろうか。


時系列順に

プロローグ(公式HPより)
  • きっことジョウイの二人はハイランド王国の少年兵部隊ユニコーン隊の一員として、都市同盟との長くて、不毛な戦いに参加していた。
  • ミューズ市、サウスウィンドゥ市、ティント市、グリンヒル市、トゥーリバー市、マチルダ騎士団、5都市1騎士団によって構成されたジョウストン都市同盟と、軍事力で都市同盟を凌罵するハイランド王国の間には、歴史的に国境戦争が絶えなかった。
  • 今より数カ月前、この二つの勢力の盟主ハイランド王国、皇王アガレス・ブライトとミューズ市市長アナベルの間で休戦協定が結ばれた。戦いに疲れていた民衆はこれを歓迎したが、新たなる戦いの火はくすぶり続けていた…

ユニコーン少年兵部隊
  • ハイランド王国とジョウストン都市同盟の休戦協定が無事成り、ハイランド王国ユニコーン少年兵部隊の少年兵として駐屯地にあったきっこは、親友のジョウイと共に、故郷の町キャロに帰る明日を楽しみにしていた。故郷には、義姉のナナミが待っていてくれる。
  • 夜も更け床についたきっこ達は、敵襲によって目を覚ます。テントの外に出ると辺りは既に火の海と化していた。ジョウストン都市同盟がその休戦協定を裏切り、奇襲をしかけてきたというのだ。
  • 少年兵団のラウド隊長がきっこ達に東の森を通って逃げるように告げるが、唯一の退路であるそこはおそらく敵兵に囲まれているだろう。
  • そう忠言するため駐屯地に引き返すと、ラウド隊長とハイランド皇国ルカ皇子の会話が聞こえる。この奇襲はラウド隊長とルカ皇子によるもので、伏兵を忍ばせ東の森へ少年兵達を誘導したのも彼らであるというのだ。
  • 隊長たちに見つかり、口封じのため崖上に追われたきっこ達は、生きてここで再会しようと岩肌に誓いの印を刻み、滝壺へと飛び込む。

奸計
  • 下流に一人倒れていたきっこは、都市同盟の傭兵隊長ビクトールとフリックに拾われ、捕虜として砦に連行される。ジョウイとははぐれてしまったらしい。
  • 捕虜とはいえ扱いの良い砦内で、気のいい下っ端ポールに言いつけられた雑務をこなしていると、無事であったらしいジョウイがきっこを助けに砦内に侵入、脱走を提案される。言われるがまま逃走を企てるが、見つかり傭兵隊長のもとに引っ立てられる。
  • そこで改めて、駐屯地で起こった出来事を話すきっこ達。ビクトールは、休戦協定以降に都市同盟の軍が動いたことはないという。
  • ジョウイと共に再び捕虜となったきっこは、しかし砦で小火を起こし、その隙にニ階からの脱走を成功させる。
  • 危険も承知の上で故郷のキャロの街に帰ったきっこたちは、自分たちがユニコーン少年兵団を裏切り、都市同盟兵団を招き入れた裏切り者の間者として指名手配されているという事実を知る。
  • ジョウイはアトレイド家から絶縁された上で皇城に突き出され、きっこは義姉ナナミと共に逃走を決意した所で姉と共に王国軍に連行される。
  • 裁判すら行われることなく決定されるきっこたちの処刑。その前夜、少年兵隊長ラウドはきっこ達の牢を訪れ、冥土の土産にと事の顛末を語った。
  • 曰く、ルカ皇子には大きな野望があると。その達成のために戦乱を巻き起こそうとしたもので、都市同盟からの奇襲とみせかけ少年兵を襲うことによって王国民の都市同盟への怒りを煽り、都市同盟との休戦協定を破談させるのだという。
  • 翌日、処刑場へとひったてられるきっこ達。抵抗することも出来ず断頭台の露と消えるその土壇場で、なんと都市同盟の傭兵隊長ビクトールとフリックが現れ、周囲の兵士をなぎ倒しきっこ達をその凶刃から救い出す。
  • 処刑台から逃げ出せはしたものの、当然キャロの街にはもう居られない。きっこ達は再び故郷に帰る日を夢見ながら、ビクトール、フリックと共に、都市同盟の傭兵の砦に向かう。

狂皇子ルカ・ブライト
  • ビクトールやフリック達、都市同盟の傭兵部隊に世話になるきっこ達。リューベの村で行き倒れのリキマルを拾ったり、その裏山でミリーのボナパルト探しを手伝って仲間にしたり、落ちてた小鳥を巣に戻した縁からキニスンとシロを仲間にしたり、トトの村で姉ちゃんがザムザに絡み仲間に入られたりする。
  • トトの村には、滝壺に飛び込み岸に流れ着いたジョウイを見付け助けてくれた少女ピリカと、その両親が住んでいた。傷が癒え切る前にきっこの元へと飛び出していったジョウイの無事を喜び、きっこ達を親しく迎え入れてくれる一家。
  • きっこ達はピリカから、父の誕生日プレゼントのための木のお守りをミューズ市の道具屋で買ってくるよう頼まれ、必死に貯めた70ポッチを渡される。遠くて子供一人では行けないためだ。
  • ジョウイの命への恩返しとしては安いものだと、430ポッチの自腹を切ってミューズでその木彫のお守りを譲り受け、ピリカの待つトトの村に帰るきっこ達。村は焼かれ、無数の死体の折り重なる地獄絵図と化していた。
  • 両親が命を賭して守ったお陰で無事であったピリカだが、夫婦は既に事切れており、また目の前で両親を亡くしたピリカの精神的なダメージは計り知れない。ピリカを抱きしめ、あやすジョウイ。
  • そこへアップルなる丸メガネの女性が現れ、この惨劇はハイランド王国の狂皇子ルカ・ブライトによるものだと説明される。軍の士気を高めるためだけに奪えるものは全て奪い、村に火を放ったのだと。傭兵隊長ビクトールに用があるという彼女は、事は一刻を争う事態であると言い、砦への道案内をきっこ達に頼む。アップルは、フリックやビクトールの戦友、トラン共和国の軍師マッシュの弟子であるらしい。
  • 彼女より、皇子ルカのトトでの凶行を聞かされるビクトール達。先の休戦条約を破るルカは、「都市同盟によって」壊滅させられたユニコーン隊へのとむらい合戦であるとうそぶいているらしい。アップルは言う。ジョウストン都市同盟へ侵攻するために、ルカは、その中心拠点であるミューズ市を落とすのに邪魔なこの砦へ進軍してくるだろうと。
  • その夜、自身の立場を改めて考えるきっこ達。ハイランド王国で生まれ、育った。奸計にはまり追われはしたものの、それでもいつかは帰れるものだと信じていた。しかし、ユニコーン隊の全滅やラウド隊長の裏切り、狂皇子ルカの凶行に焼けたトトの村、ピリカの涙…もう何を信じれば良いのかも分からない。それでも、ただひとつだけ確かな事がある。それは、どんな時でもきっこはジョウイの、ジョウイはきっこの味方であるということだ。
  • ビクトールらはこの傭兵の砦で王国軍を迎え撃つことにしたらしい。ミューズ市に援軍を呼びかけ、砦までの道筋に罠を張り巡らせ、使える武器と人材は何でも使うと。
  • きっこ達は、長年放置されすっかり錆びてしまったドワーフの火炎槍を修繕出来るという、神槍のツァイをリューベの裏森より連れてくるよう頼まれる。
  • 道中、トトの村にて何も出来なかったと後悔する女性ハンナを新たな仲間とし、山奥にてツァイに会うきっこ達。無事に仕事の受託を取りつけた一行はその帰路で、リューベの村をも焼き払い、村人たちを次々と惨殺するハイランド王国の狂皇子、ルカのその姿を目撃する。
  • 哄笑し血に塗れ、人を人とも思わず剣を振るい続ける狂皇子ルカ。しかしその剣技は余りに鋭く、今のきっこ達では決して太刀打ちできはしないだろう。今は耐え、ツァイを砦に連れて来るべき戦に備える他に出来ることはない。
  • 唇を噛み締め砦に戻るきっこ達。そしてついに決意する。ジョウストン都市同盟傭兵部隊達と共に、故国ハイランド王国と戦うことを。

敗走
  • ハイランド王国に見切りをつけ、ジョウストン都市同盟傭兵部隊の一個軍団・かぼちゃ隊となったきっこ達。砦の傭兵たちと共に一度は王国軍を退けはしたものの、しかしミューズからの援軍が到達する前に常識破りの再速攻をしかけられ、更には続くルカの部隊に砦の四方を囲まれて、都市同盟は完全な敗北を喫する。
  • 王国軍に攻め入られる要塞。中には未だピリカが残っている。きっことジョウイがピリカを救いに隊長室に行くと、そこにはピリカとポール、そして抜身の刃を携えた狂皇子ルカの姿が。
  • ピリカの目の前でその凶刃に倒れるポール、部屋に響き渡るピリカの泣き声、少女にせまる皇子の剣。危ない!間一髪、その刃を受け止めるジョウイ。しかしもう後はない。
  • 万事休すと思われたその時、地下から爆音が鳴り響き、砦が大きく揺れ動いた。フリックとビクトールがボイラーに火炎槍を投げ入れ大爆発を引き起こしたのだ。ルカが足元を崩したその隙にジョウイとピリカを回収する隊長たち。そして告げる、無事逃げのびたらば、ミューズ市にて再会しよう。
  • 必死で森を走り抜けるきっこ達。命は助かった。しかしその余りのショックによるものか、ピリカの声が失われていた。

輝く盾と黒き刃
  • ミューズの村への道中、トトの村にてピリカが突然祠の奥へと姿消す。通常祭りの時のみ開かれるそこの守衛は、ピリカの両親の仕事であったらしい。
  • 奥の石碑に文字を見つけるジョウイ。『我と我が友の想いをここに封じる。我らはついにそれを一つにはできなかったことを深く後悔するものである。ハーン、ゲンカク』刻まれた言葉をジョウイが読み上げ、きっこが石碑の前に立ったその瞬間、白く閃光がほとばしり、気づけばキッコとジョウイの二人だけが祠の中に立っていた。
  • 顔を見合わせる二人の前にレックナードという不思議な女性が現れる。彼女は言う。運命の糸をたどる者達、宿星の集う前ぶれ、それを呼ぶ少年達よ、進みなさい。運命をつむぐには、それをその手にしなければなりません。
  • 戸惑いながらも、言われるがまま祠の奥へと歩いて行くきっことジョウイ。進むごとに温かい光が体を包み込み、出会い、初恋、二人だけの秘密、ユニコーン少年兵部隊への入隊、そして崖上の×印に誓った二人の再会、これまで共に辿ってきたその歩みを二人は白昼夢に見る。
  • 『力?ぼくらは力を求めているのか?ぼくがはじめて君に会ったあの日…ぼくはいつしか君と友達になった…君がいたから、ぼくはさびしくなかった。あの時が、永遠に続く気がしていた…ぼくらは、同じ道を歩いた。生も死もともに選んだのだから…信じていた…必ずと…。多くのものをともに…。』
  • 祠の奥へと辿り着いた時、再びレックナードが目の前に現れる。曰く、彼女は”門の紋章”の継承者であると。世界と世界をつなぎ、とじる者であり、大いなる”天秤”の代理人として運命を見届ける。そして言う。この地に、宿星の集う兆しがあります。今は運命が揺らぎ、未来が見えぬ時。”27の真の紋章”の一つがあなたたちを認めました。その運命をつむぐ者達よ、あなたたちに道を開きましょう。運命の傾きは、この奥に眠る”始まりの紋章”の力を必要としています。紋章の前で右手をかざし、運命を開く力を手に入れなさい。”力”はあなたたちに”平穏”を与えてはくれません。しかし、荒れ狂う運命は多くの人を傷つけるでしょう。それを静める方法はごくわずかしかありません。
  • 微妙に曲解し力を拒否するきっこ。しかし、大切なものを守るために力を欲するジョウイに諭され、力を手に入れることに。きっこは左側の紋章の前に、ジョウイは右側の紋章の前に立ち、共に右手をかざす。溢れる出る白き光の中、きっこには『輝く盾の紋章』が、ジョウイには『黒き刃の紋章』が、共にその右手に宿る。
  • 「これで”力”が…紋章の力が…いや、これで良かったんだ…」ジョウイが妙に不吉なことを呟く中、レックナードはきっこ達に、その二つの紋章は”始まりの紋章”の二つの相であると告げる。さぁ、行きなさい、あなたたち自身で運命をつむぐために。
  • 再び閃光がほとばしり、気付いた時には二人は皆の元に戻っていた。しかし夢ではない。二つの紋章は確かに二人の右手に宿っている。一体あれは何だったのだろうか。
  • しかし悩んでいる暇はない。ここも今にハイランド王国軍の手が回るだろう。隊長達と合流するため、ミューズ市を目指し一行はトトの村を後にする。

大切なもの
  • ミューズに到達したものの、この非常事態には通行証のない者は通れないという。ひとまず近隣の白鹿亭に宿泊し疲れを癒やすきっこ。その宿屋の主人はミューズ市の出であった。宿屋の裏にあるシンダル族の遺跡で宝探しをする彼は、宝探しを手伝えば許可証を貸してくれるという。
  • 遺跡の奥には『扉を開きし者よ、汝の望むもの、汝の願うもの、汝の大切なものはここに、されど心せよ』と書かれた石版と共に、ガーディアンらしき双頭の蛇と薬草のあるだけだった。宝を探し当て、奥さんに良い暮らしをさせてやりたいと願う旦那はショックを受けるが、突如病に倒れた妻はその薬草で事無きを得る。しかし、”大切なもの”とは何を意味するものだったのだろうか。
  • 夫婦からミューズ市への通行証を借り、再びミューズに赴くきっこ一行。通行証の名前は夫婦とその子供の物であったので、怪しまれ牢屋にぶち込まれたものの、フリックとビクトール隊長に救出される。
  • 無事本隊と合流したきっこ達は、ミューズ市市長アナベルに面会する。アナベルは、きっこ達の養父ゲンカク”老師”とジョウイの生家を知っているようだ。 いつかゲンカクに関する逸話を話すと約束するアナベルは、結局罪を償うことは出来なかったと呟く。一体どんな内容なのだろう。
  • アナベルの側近ジェスより、王国軍の兵糧の偵察を頼まれるきっことジョウイ。ミューズ市が少年兵用の王国軍服しか用意出来なかったためだ。かなり危険な任務であるが、これが分かれば王国軍への対策が立てやすくなるだろう。
  • 国境沿いの山を越え、王国軍のキャンプに忍びこむきっことジョウイ。備蓄倉庫に入るまでは良かったものの、そこにユニコーン少年兵隊隊長のラウドが現れ正体がバレてしまう。
  • 隙をついて一番大きなテントに逃げ入り、そこにいたルカ皇子の妹君、皇女ジルを脅すきっこ達。皇女に隊長の目を欺かせ、一先ずの脅威は去った。きっこ達がテントを後にしようとすると、皇女がお茶を入れてその足を引き止める。今出るよりももう暫く留まった方が、王国軍に見付かるリスクは軽減出来るだろう。
  • 皇女は言う。国民は戦に疲弊しているが、兄は血塗れの道を進もうとしている。兄を止めるために戦に同行したが、兄は妹の私すら敵と見なしている。自分では止める事が出来ないと。ルカに覇道を歩ませるその野望とは一体何なのだろうか。
  • 外が静かになったためテントを出ると、皇女を怪しんだラウド隊長がきっこ達を待ち伏せをしていた。王国軍に囲まれるきっことジョウイ。このままではまずい!自らを囮とし、きっこ一人を逃すジョウイ。必ず生きて帰るから、と。
  • その右手の黒き刃の紋章を発動するジョウイと、涙を飲んでミューズ市に逃げ帰るきっこ達。ジョウイを今すぐにでも助けに行きたいが、ジョウイのためだけにミューズ市の軍を動かすためにはいかない。
  • ミューズ市の門前でじっとジョウイの帰宅を待つきっこ、ナナミ、ピリカ。ナナミは幼き頃を思い出す。昔きっこがルードの森迷子になった時、ジョウイが泣きながらきっこの帰りを待ち続けていた事を。ミューズの牢でジョウイは言っていた。きっこやナナミ、ゲンカクは、血のつながりこそ無いが暖かな繋がりをもっている、それがとてもうらやましかったと。ピリカに「お兄ちゃん」と呼ばれた時、ジョウイははじめてそれを得た。それなのに、ピリカを守り切ることが出来なかった。ピリカのような子が幸せにまっとうに育つ、そんな暖かな静けさを再びこの地にもたらしたい。そのためにジョウイは戦うのだと。
  • かなりの時間が経った頃、きっこは向こうにジョウイのその影を見る。おかえりなさい!駆け寄る三人と、迎えてくれる人が居るのは良いものだと笑うジョウイ。良かった、約束通り、ジョウイは無事に帰って来たのだ!
  • 一週間後、都市同盟は ジョウストンの丘にてハイランド王国に対するための丘上首脳会議を開いた。
  • ミューズ北方の村の壊滅を盗賊によるものと公表しているハイランド王国は、現在都市同盟との休戦協定を結んでいる。今までにも王国軍がその軍を動かすことはあったが、攻め入ることはしていない。今回も同様のポーズではなかろうか。しかし、王国軍の指揮権は既に皇王アガレス・ブライトからその息子、皇子ルカ・ブライトに移っている。今までと同じに考えることは最早出来ない。
  • アナベルは都市同盟の盟約に従い、盟主として都市同盟全軍の出兵を命ずるが、それに異を唱える都市同盟各市。どうやら一枚岩とは言えないようだ。
  • 纏まらない会議の中、部屋に転がり込んでくるアナベルの部下。なんと王国軍がミューズ市に向かって遂に軍を差し向けてきたというのだ。王国軍は5日でこちらに到着するだろうが、ミューズ市以外の都市同盟軍がこちらに着くには7日はかかる。何としてもミューズ市軍と傭兵隊のみで2日間の時間を稼ぎ、都市同盟の中心拠点ミューズ市を守らなければならない。
  • ジョウイの希望で都市同盟ミューズ市の一個師団かぼちゃ隊として防衛戦に参加するきっこ達は、無事に帰ったならばゲンカク老師の話をしようとアナベルと約束を交わし、王国軍を一時撤退させることに成功する。しかし王国軍はこの程度では引きはしないだろう。そんな中、都市同盟のティント市がハイランド王国との戦の不参加を表明する。脅威の迫り来る中真っ二つに割れる都市同盟。
  • ゲンカク老師の話をする約束をしていたきっこ達だが、今十分な時間を取ることはできない。夜にまた話そうと、執務室を辞するきっこ。帰り際にジョウイが問う。アナベルは何のために戦っているのか、何を得るのか。アナベルは答える。戦いで得られるものは何も無い、ただ失わぬために戦うのだ。ミューズで生まれ育った私が、それを守りたいと思うのは自然な事だろう。
  • ジョウイが不自然な態度を取る中、きっこは暗がりの中で怪し気な男と密談をするジョウイの姿を目撃する。今のは誰なの?問うきっこに、今は言えないとだけ答えるジョウイ。そして、もし自分が死んだらば、その時にはピリカを頼むと。
  • その夜、ゲンカク老師の話を聞くためにきっことナナミがアナベルの自室を訪れると、そこには床に横たわった血塗れのアナベルとジョウイの姿が。これは一体…問うきっこに、すまないと呟き去るジョウイ。そんな、まさか。
  • 医者を呼びに部屋を飛び出すジェスと、王国軍が攻めて来たと叫ぶ部下。何者かが、内側からミューズ市の門を開いたのだ。
  • 王国軍を掻き分けて、ピリカの居る宿屋に走るきっことナナミ。フリックとビクトールは時間稼ぎのための部隊を集めに走り回っているらしい。サウスウィンドゥで再会しようとの伝言を聞いたきっこは、ナナミ、ピリカと共にミューズ市を去る。ジョウイ、君は今、何処で何をしているのだろう。

サウスウィンドゥ
  • サウスウィンドゥは河の向こう岸にあり、コロネの街から船で渡る必要があるという。しかし既に王国軍の支配下にあるというコロネの街は、王国軍の許可なしに船を出すことができない状態にあった。
  • きっこ達が途方に暮れていると、コロネの街の外れの小屋でタイ・ホーという名の船乗りに出会う。きっこの顔にわけありと見て、ちんちろで勝てたならきっこのために船を出すというタイ・ホー。きっこは当然受けて立ち、強運で見事タイ・ホーを負かす。
  • コロネの街の宿で再会した旅団三人組と共に船に乗り込んだきっこ達は、無事にサウスウィンドゥへと辿り着き、ビクトールとフリックとの合流に成功する。まだレオナ達は集まっていないようであった。
  • サウスウィンドゥの市長、グランマイヤーに会い資金協力を要請するのだというビクトールとフリックに付いて行くきっこたち。ミューズ市が王国軍の手に落ちた今、次に狙われるのはサウスウィンドゥであるだろう。
  • グランマイヤーもまた、市の防衛のために傭兵隊の協力を望んでいた。とにかく今は各方面から兵士を集めることであると、双方意見の一致をみてひとまず話は終わったが、グランマイヤーはもう一つ、重要な話があるという。
  • 最近、かつてノースウィンドゥであった村で女性の行方不明事件が発生しているという。調査隊の話によると、ノースウィンドゥに化物が住み着いているということで、その村の出身であるビクトールにその事件の調査と真相の解明をお願いしたいというものであった。
  • ビクトールは気が進まない様子であったがそれを引き受け、きっこ一行はグランマイヤーの側近・フリードと共にノースウィンドゥへと向かう。

吸血鬼ネクロード
  • ノースウィンドゥは廃村であった。何年も前にネクロードという吸血鬼が村を襲い、多くの村人たちが犠牲になったのだという。たまたま村を出ていて助かった唯一の生き残りであるビクトールは、その手でネクロードを打ちとったのだと話した。
  • しかしそこに、昔のまま変わらない姿でネクロードが現れる。不死身の吸血鬼がお前如きに倒されるはずがない、そう言い笑うネクロードは確かに不死身で、剣も魔法も何一つ届かない。ネクロードの持つその、27の真の紋章の内の一つ、夜の紋章の化身の力を封じることができるのは、風の洞窟に眠る星辰剣しかないという。
  • ノースウィンドゥの城で待つと笑い去るネクロードを倒すためにきっこたちは風の洞窟へと向かう。

星辰剣
  • 風の洞窟の奥深くに置かれているという星辰剣を目指して走る一行は途中でカーンと名乗るバンパイアハンターに出会う。代々バンパイアハンターであるというマリィ家出身のカーンの祖父と父もまた、ネクロードを追って命を落としたといい、ネクロードの討伐は、その背を見て育ったカーンにとって仇討ちでもあり自らの誇りでもあるという。
  • カーンはいう。数百年生き続けているネクロードは"現し身の秘法"を用いて身代わりを作っている。以前ビクトールが倒したものがそれで、ネクロード本体ではなかったのだと。しかし、夜の紋章の力でネクロードの魂をはじき出し結界に封じれば、ネクロードの魂を捕らえることができる。
  • 自分では星辰剣は手に負えないからビクトールを待っていたというカーンを仲間に入れて、洞窟の最奥へと向かうきっこたち。そこには果たして、怒り狂った星辰剣がいた。
  • こんなところに置き去りにしたといって怒髪天を衝く星辰剣。襲い掛かってくる星辰剣に平身低頭謝り倒し、何とか鎮めて再びその力を得るビクトール。星辰剣でネクロードの結界を破れば、あの吸血鬼を倒すことができるだろう。
  • 星辰剣を手に、再びノースウィンドゥへ戻るきっこたち。その城の最奥にはパイプオルガンを弾くネクロードが待っていた。そして青いドレスを着た少女ディジーを突き出すネクロード。どうやら彼女はビクトールの大事な人であったらしい。ネクロードは言う。ディジーを助けたければ星辰剣を渡せと。
  • 無言で剣を持つビクトール。渡しちゃだめだと叫ぶきっこ。苦しそうに、たすけてと呟くディジー。
  • 好きにしろという星辰剣に、ビクトールは一歩前へと踏み出すと、その手でディジーの首を刎ね飛ばした。あれから何年経ったのか、もう顔さえぼんやりとしか思い出せない古い記憶だ。一度死んだ人間を助けられるものか!くだらない感傷に騙されるほど、このビクトール様は青臭くない!
  • 星辰剣の奪取に失敗したネクロードは、手下のモンスターを身代わりに城を逃げ去る。きっこたちがモンスターの討伐に成功し、ネクロードの後を追うというカーンに別れを告げて城を後にすると、そこにフリックと旅団、ピリカが現れる。サウスウィンドゥがハイランドの手に落ちたのだと。

軍師シュウ
  • きっこ達がサウスウィンドゥを出た後に、ソロン・ジーを大将とするハイランドの一軍が市を急襲したのだという。勝ち目がないと判断したグランマイヤー市長は戦いを避け全面降伏し、次の朝には市長の首が城門に吊るされていたらしい。
  • 旅団の協力もあってフリック達はなんとか脱出に成功し、道中で再会したアップル、ツァイ、レオナと共にノースウィンドゥへ逃げ延びてきたのだという。
  • ハイランド軍は反乱を恐れて、あちこちでミューズやサウスウィンドゥの兵士を捕まえている。であれば、ハイランドの手がノースウィンドゥまで届くのも時間の問題だろう。しかし少ない手勢に砦が廃城では、王国軍には手も足も出まい。絶望的な空気が廃城を包み込んだ。
  • だが何の勝ち目もないわけではない。アップルはいう。小勢で大軍を倒すには奇策が必要である。自分にその策を打つ力はないが、自分の兄弟子であるシュウは違う。彼はマッシュ先生より破門を言い渡されているが、軍師としての能力は一級品である。彼が仲間になれば必ず勝ち目を出すと。
  • 世界の果てまで逃げられるわけではない。アップルに乗ることを決めたきっこたちは、ビクトールとフリックが兵士をかき集める間、シュウという名の男を訪ねる。シュウはラダトの街で交易商を営んでいた。
  • ルカ・ブライトを打ち破るために力を貸して欲しいと頼むアップルに、シュウはいう。ルカという男は、この世のすべてを呪っており、都市同盟をズタズタにするつもりだ。しかしどの国がそうなろうと、シュウには関係のないことだと。情報に通じ世の動向を先読みする能力があれば、交易商は儲かる。支配者が変わり国の名が変わっても、そこに大した違いはないし、戦いに乗じて更に儲けることすらもできる。
  • ルカの凶行を見過ごそうというシュウにアップルが食って掛かるが、追い返されてしまうきっこたち。シュウの力無くしてこの戦に勝つことはできないと言うアップルは、シュウと共にマッシュの元で兄妹のように育ったが、才能を誤った方向に使ってはならないというマッシュの教えに従わず破門されてしまったのだという。しかし二人ともアップルにとっては大事な人であり、シュウが仲間になれば大きな戦力となることは間違いがない。何とかしてシュウを仲間に引き入れる事はできないだろうか。
  • シュウが時折立ち寄るという酒場を訪れると、しばらく後に、シュウが現れた。まだいたのかと問うシュウに、うんというまで帰らないと食い下がるアップル。それなら土下座でもして頼むのかとシュウが言うと、アップルは言われたとおりに床に伏す。必要であれば自分の安いプライドなど投げ捨てる、それが、アップルがマッシュ先生から受けた教えであると。
  • 何も言わずに立ち去るシュウに、ナナミはもうやめようとアップルに言うが、しかしアップルは諦めない。だが、シュウは自分たちを避けもう姿を見せないだろう。
  • 途方に暮れる一行の前に、リッチモンドと名乗る男が現れる。自分に任せるならば、シュウへの手引をしてやると。リッチモンドは凄腕の探偵であるらしい。彼に1500ポッチを手渡しシュウに関する調査を依頼すると、彼は、ある情報を手に戻ってきた。なんでも、明日の夕刻に町の東の船着場で取引があり、シュウもそこに現れるという。リッチモンドに従って東の橋で待ち伏せをするきっこたち。果たしてそこにシュウは現れた。
  • シュウは言う。先の戦いで傭兵の砦が落ちた時、アップルの失策で何人の兵が死んだのか、それをお前は分かっているのか。また、もし先の戦いでお前の策が成っていたとして。それもまた多くの人の命を奪っただろう。その重さにお前は耐えられるのか。
  • 答えないアップルにシュウは言う。ここに銀貨がある。トラン共和国の南の群島諸国で流通しているものだ。川に投げたこれを拾って来れたならば仲間になろう。無茶だというナナミに、アップルはしかし水門を止めるように橋の管理者に頼み込む。必ず銀貨を見つけ出し、シュウ兄さんに仲間になってもらうと。
  • 日はとっぷりと暮れ辺りは真っ暗闇に沈んだが、銀貨は未だ見つかることはない。川の冷たい水に浸かり、一人黙々と探し続けるアップル。きっこも手伝い探し始めるが、止めるナナミ。
  • ナナミは見てしまったのだという、銀貨を投げるその時に、シュウがそれを小石にすり替えたのを。一瞬であったために確かではないが、恐らくそうなのだろう。シュウは、少しのチャンスすらもアップルに与えなかった。でも、信じたくはなかったのだ。
  • 一緒になって探すきっことナナミに、先に帰って良いと告げるアップル。その時、きっこの視界にきらりと光るものが見えた。あった。銀貨は本当に川の中に沈んでいたのだ。
  • 土手から現れるシュウ。水に浸かり続けすっかり冷えきったアップルに、シュウは言う。自分はマッシュ先生の才を継いだがその志はお前が継いだと。そして、そのお前には今、百万の軍勢にも値する才を持つシュウが味方についたのだと。
  • きっこから銀貨を受け取りその右手を見たシュウは、その紋章に勝機を見る。きっこがゲンカク老師の養子と知り、ゲンカク老師に関する逸話を戦いの後に話そうというシュウは、しかしソロン・ジー率いる王国軍の軍勢を破ることが先決だときっこたちを連れて屋敷に戻る。
  • しかしこの銀貨は一体、ときっこの見つけた銀貨に疑問を浮かべるシュウを見て、リッチモンドが橋の上でにやりと笑った。

湖の防衛戦
  • ノースウィンドゥの拠点に戻ったきっこたち。シュウは屋敷や店の整理のために後からいくという。
  • マッシュ先生から破門されたシュウの、軍師としての実力に疑問を持つビクトール。するとそこに早駆けできたシュウが到着し、それならいますぐこの場を去れという。シュウの策に従うならば、王国軍を破ることなど容易いことだが、シュウを信じることができないのであればにんじんおうこく城は敗れ去ることになるだろう。勝ちたければ以降、シュウに対して疑いをもつような発言をするな、戦いの邪魔だと。
  • そしてフリックに戦力を確認するシュウ。現在本傭兵隊には、ミューズ・サウスウィンドゥの元兵士と女子供、老人まじりの兵二千ほどしか使える戦力がない。対するハイランドは降伏したサウスウィンドゥの軍を取り込んで二万ほどの兵士を有し、桁が一つ異なっている。
  • しかし策はある。この城はかつて、赤月帝国の侵攻に対して反撃の拠点となった地で、ここに居るのは不利を承知で集まった二千の勇士である。対する的は二万の巨兵とはいえサウスウィンドゥ占領から日も浅く、反乱を抑えるために各地に兵を配さなければならない。ならば自由に動かせる兵は一万ほどにまで減り、またその内の三分の一程度は元サウスウィンドゥの兵士である。そこへ潜りこんだフリードが、この戦いの後ミューズやサウスウィンドゥの元兵士達は王国軍により処分されるとのデマを吹き、こちらに寝返らせる。そうなればこちらの軍勢は五千で相手は七千、十分に勝算はある。
  • 王国軍はこの城を包囲するように布陣するだろう、こちらは少数精鋭の三百の部隊で裏に回り込み、ソロン・ジー本隊の背後をつく。敵将を叩いて軍に動揺を起こせば、サウスウィンドゥの兵士達は必ずこちらに寝返るだろう。湖を背にしたこの城は、王国軍にとって攻めづらい。しかし水上戦の経験豊かなこちらにとって、湖は見晴らしの良い陸地と変わりない。近くの村から船を借り受ける手はずは既に整えてある。
  • 手回しの良いシュウに、にわかに活気づく城内。しかし肝心の対ソロン・ジーの部隊は誰が率いるのか。当然にビクトールとフリックが名乗り出る中、シュウはきっこに頼むという。ルカ・ブライトを獲るための鍵はきっこの手中にあると。
  • 次の戦いに備えて忙しくなる城内に、複雑な想いを抱くナナミ。何故きっこがそんな危険な役目を引き受ける必要があるのか、やはりシュウを手放しに信用することはできない。しかし今は戦わなければならない時だ。大丈夫、いざとなれば必ずお姉ちゃんがきっこを守ってあげるから……。
  • 果たして、王国軍は現れた。こちらの予測通りに城を包囲するような布陣であるという。作戦開始だ。きっこが船でソロン・ジーに忍び行くなか、ビクトール達は全力で城の防衛に回る。そして遂にかぼちゃ軍はソロン・ジーの後ろを掴んだ。背後からのふいの急襲に、体制を崩すソロン・ジー。挟み撃ちだと他の部隊にも動揺が走る。あの噂はもしや本当だったのか、崩れだす敵陣に、寝返る元同盟軍。サウスウィンドゥ、そしてグランマイヤーのために、今こそ立ち上がる時だと、そして我らの擁するあの少年・きっここそが、勝利に導く希望なのだ。

ゲンカクとハーン
  • 散り散りになる王国軍に、きっこたちは遂に勝利を収める。勝利の美酒に沸く城内。しかし都市同盟がばらばらになっている今、各々が個別撃破されていくのは目に見えている。このノースウィンドゥにもいずれ、ルカ率いる王国軍の本隊、白狼軍が攻め入ってくるだろう。そうなれば勝ち目はない。今のうちに兵力をかき集める必要がある。
  • シュウは言う。このノースウィンドゥの地をハイランド王国に対する本拠地と定め、人々を受け入れる器とする。そしてその人々を結びつけるためのリーダーは、きっこであると。きっこが新しい同盟軍のリーダーとなり、同盟軍に勝利への道を示すのだ。
  • 年端もいかない少年に軍を執らせると言うシュウに食って掛かるナナミと、その決断にはゲンカク老師の事があるのかと聞くビクトール。そうだ、三十年前、都市同盟を追われた英雄ゲンカクの子であり、またゲンカクも有していたという"輝く盾の紋章"を同じく右手に持つきっこ。王国軍ソロン・ジーを打ち破った今、多くの人びとがきっこの姿に希望を見るだろう。シュウもまた、きっこの中に輝きを見た。時代の必要とする輝きを。きっここそが、この新しい同盟軍を率いるのにふさわしい。
  • 突然のことに戸惑うきっことナナミに、決断はきっこに委ねるというビクトール達。そしてビクトールは、アナベルが伝えられなかったゲンカク老師の話をしようという。夜、酒場で養父ゲンカクの話を聞くきっことナナミ。少し長い話だと言ってビクトールは静かに話し始めた。
  • 都市同盟と王国軍のこの戦争が始まるまで、同盟と王国の間には小さな国境争い程度しか起こっていなかったが、三十年程前に、ハイランドと都市同盟の命運をかけた大きな戦いが起こった。どちらが先に仕掛けたのかも今では怪しいが、恐らく都市同盟が先に手を出したのだろう。同盟軍を率いたのはアナベルの父、ミューズ市の市長ダレルで、王国軍の将は王国第一軍の名将ハーン・カニンガムだった。
  • ダレル市長は戦いに関しては素人同然で、戦争は王国軍の勝利に終わると思われた。しかしそこに英雄が現れた。ゲンカクと名乗るその男は手勢を率いて王国軍の食料庫を叩き、時間を稼いで反撃に移った。
  • 一進一退の戦いの最中、しかしゲンカクとハーンは国境近くの同じ村の出身で、親友といってもいい仲の良さであったらしい。すこしのんびりとした昔の戦いのその中で、二人で酒を酌み交わしたりもしたらしいが、彼らは互いに知っていた、この戦いが全く意味のないものであることを。
  • ゲンカクとハーンは二人で協力して休戦条約を取り決めた。戦いに疲弊していた両国の国民は皆それを喜んで支持したが、ダレル市長はそれを良しとしなかった。ダレルは国境近くのきっこの故郷、キャロの街が都市同盟のものだとして譲ろうとせず、こじれる話し合いに再び戦争になりかねなかった。
  • そこで、ハイランドの王アガレス・ブライトがある提案をする。ゲンカクとハーンが一騎打ちをし、その勝敗で街の所有権を決してはどうかと。決戦当日、皇王アガレスが自らの剣をハーンに渡し、ミューズ市市長ダレルもまた自らの剣をゲンカクに渡しが、ゲンカクは決してその剣を構えようとはしなかった。ダレルは何度もゲンカクに戦いを命じたが、ゲンカクはついにそれに従うことをしなかった。
  • 勝負を汚すのかと怒り出す群衆に、ハーンは仕方なくゲンカクが手に持つ剣を叩き落とすと、首に刃を置いて、その勝負を決した。――こうしてキャロの街はハイランド王国のものとなり、ゲンカクは裏切り者の汚名を着せられたまま理由も語らず都市同盟を去った。
  • そしてそのまま月日は流れ、ダレスもその座を去ったあと、ゲンカクが剣を構えようとしなかったその理由が遂に明らかとなった。あの一騎打ちでゲンカクの手渡された剣には、密かに猛毒が塗られていたのだ。ダレルは、ゲンカクが敗れたならばそれでよく、もし勝利したとしても、汚い手を使ったとその積みを着せ、国から追放するつもりであった。ゲンカクはその謀計に気づき、剣を上げることができなかったのだ。
  • こうしてゲンカクの汚名は灌がれたが、ゲンカクはきっこたちと共にキャロの街で静かに過ごすことを望み、決して都市同盟に戻ろうとはしなかった。
  • だがきっこ、お前は"ゲンカクの子"ではなく"きっこという一人の人間"だ。それを忘れないように、そう言って言葉を結び、ビクトールの昔話は終わった。疲れて眠るナナミを抱え、きっこはゲンカクとジョウイに思いを馳せる。

にんじんおうこく城と天下無双のかぼちゃ軍
  • 次の日の朝、きっこは一つの決断をしていた。このノースウィンドゥの城で兵士を率い、皆を守って勝利をおさめるのだ。もしきっこに、その力があるのなら。
  • そこに光の中から女性が突然現れる。あのトトの村の洞窟できっことジョウイが遭遇した、バランスの執行者、門の紋章をその手に持つという、レックナードと名乗る女性だ。
  • 彼女は言う。時は再び回りだし、多くの宿星が再び集まろうとしています。輝く盾の紋章を受け継ぐ少年きっこ、あなたには多くの宿命が交わっている。あなたの友、"黒き刃の紋章"を受け継ぐ少年もまた、その運命の中にある。あなたに"約束の石版"を託します。ここに現われ出でる名前、仲間こそがあなたの力。あなたたちの道は時につらいものとなるでしょう。それでもあなたは前を見つめ、進みなさい。
  • レックナードは自らの弟子ルックをきっこに預けると、再び光とともに去っていった。 ビクトールとフリックは、ルックと顔なじみであるらしい。
  • こうしてきっこは、ノースウィンドゥ改め傭兵達の国にんじんおうこく城にて、天下無双のかぼちゃ軍を率いる、新たな都市同盟軍の将となったのだ。

トゥーリバー
  • きっこが人材探しに城を出ようとすると、フィッチャーと名乗る男が城を訪ねてきて、王国軍を打ち破った奇跡の英雄にお目通り願いたいという。
  • フィッチャーは以前ミューズ市にてアナベルの配下で働いていたが、ミューズ市を離れている間に市が王国軍の手に落ち、今はトゥーリバー市の世話になっているという。反ハイランド王国の新興勢力、かぼちゃ軍のきっこが王国軍に対し奇跡的な勝利を収めた今、ハイランドと戦うための新たな中心勢力を作るため、是非トゥーリバー市に来て協力体制を結んでほしいというフィッチャー。そしてこれはトゥーリバー市からの正式の申し入れではなく、フィッチャーの勝手な判断であるという。
  • フィッチャーが信頼できる男かどうかは不明だが、トゥーリバー市との協力関係を持つ事自体は、ハイランド軍に勝つために必要不可欠なことだろう。きっこはトゥーリバー市への訪問を決め、船をトゥーリバー市へと向ける。
  • きっこ一行がトゥーリバー市の門をくぐると、翼の生えた少年がどこからか走ってきてきっこの財布を奪って逃げた。中にはフィッチャーから預かった、トゥーリバーの市長に会うための紹介状が入っている。必死に追いかけはするものの、少年はすばしっこくなかなか追いつくことが出来ない。
  • 財布を諦めてトゥーリバーの広場に行くと、フィッチャーが、サウスウィンドゥへの偵察の途中で逃亡したとの罪により、百叩きの刑を言い渡されるところであった。どうやらフィッチャーは、ハイランド軍を打ち破った英雄きっこ達を連れ帰ることでその難を逃れるつもりであったようだが、きっこ達が遅いためにその言を疑われているらしい。
  • 自分たちのせいでフィッチャーが打たれては目覚めが悪いので、割って入ることにするきっこ。未だ幼い少年であるきっこの正体を疑う、トゥーリバーに属するコボルト族の元首リドリーに、きっこはその右手に宿る輝く盾の紋章を見せてそれを身分の証明とし、無事トゥーリバーの全権大使、マカイの元へと通される。
  • きっこ達を、王国軍を破った英雄として迎え入れてくれるマカイ達。どうやらきっこ達の到着早々の災難を知っているようで、翼の生えたウィングホード達について教えてくれる。彼らは以前はティントの山奥に住んでいたのだが、ちょうど80年程前にトゥーリバーに住み着き始めたという。三院会議では彼らも住民として認められているというが、どうも人間の暮らしに馴染めていないようで、マカイ達人間族との仲もあまり良くないように見受けられる。
  • ともかく詳しい話は明日にと、用意してもらった宿で旅の疲れを癒やすきっこ達。夕飯は、きっこの財布を奪っていったウィングホードのチャコに既に食べられていた。
  • 翌朝、きっこ達の部屋をフィッチャーが慌てた様子で訪ねて来た。混乱したフィッチャーには何を聞いても埒が明かず、トゥーリバーのマカイのもとを訪ねるきっこ達。その部屋ではコボルト族の族長リドリーとマカイが小競り合いの真っ最中であった。人間を信用することが出来ないために、ハイランド王国とはコボルト族の力のみで戦うと言い捨て部屋を出るリドリーに、あまりに突然のことで理由も分からないというマカイ。
  • 王国軍の差し迫るこの非常事態に、これ以上内輪で波風を立てないため、大使マカイに代わり、トゥーリバー市の先にあるウィングホードの村の奥に位置するコボルト族の里を訪ねるきっこ一行。
  • せっかく里を訪ねるきっこたちだが、門番によって門前払いをされてしまう。取り付く島もない様子に、きっこたちは取り敢えず市へと引き返すこととするが、その道中でフィッチャーの財布をもチャコに摺り取られてしまう。追いかけるきっこたちに、ウィングホードの里の地下通路に逃げ込むチャコ。フィッチャーに促されその奥へと追いかけて行くと、その先はなんとコボルトの村んの中につながっていた。どうしても会いたかったのだとうそぶくフィッチャーに、コボルト族の元首リドリーがことの顛末を語る。
  • 昨夜、夜闇の中で見張りが怪しい人影を見たのだという。追いかけると、それは文書を落としてどこかへと逃げて行った。拾ってみるとそれは王国軍の将キバとマカイの間でかわされた書簡であり、トゥーリバーがコボルト居住区の支配権を王国軍に引き渡す代わりに、トゥーリバー市と王国軍との間に休戦協定を結ぶという旨の、コボルト族には到底受け入れがたい内容の書かれた密約であった。事の真偽は定かではないが、人間に対し不信感を募らせるリドリーは、同族を守るためにそれを真実のものとして警戒する義務があるという。
  • もしこれが王国軍の策略であるとするならば、トゥーリバー市における三勢力がばらばらに分断されることとなり、王国軍の軍事的優越がより強固なものとなるだろう。
  • 危機感を募らせトゥーリバーに急ぐきっこ達。そしてその広場で、王国軍の第三軍キバの隊に出くわす。彼らはトゥーリバーとの休戦協定を結ぶためにはるばるここまで遠征にきたという。密書に関しては身に覚えのないことだというマカイだが、もしこの会見をコボルト族が見たらば、先の密書が本物であったとその疑惑を深めることになるだろう。
  • 市の分裂の危機に、しかし大使マカイは王国軍を信じているようで、役立たずのウィングホードと人間を疑い協力しようとしないコボルト族に八方塞がりの中、この休戦協定が成り少しでも時間を稼げるのならばこれ以上のことはないという。明日にもこの協定を成立させるつもりだというマカイに、焦るきっこ一行。フィッチャーが、実は既にシュウに対して援軍を頼む内容の文書を送っているのだというが、それでも到着までかなり時間がかかるだろう。
  • このままではトゥーリバーを守り切ることができないと頭を悩ませるきっこたちの前にチャコが現れ、ウィングホードの長老がきっこたちに話があると呼んでいるという。ウィングホードの村を訪れるきっこ達に、その一番翼である彼女が言った。昔、ゲンカクの右手にも、輝く運命の紋章を遠くに見たのだと。そしてウィングホードの歴史を語り始める一番翼 。
  • 昔、彼らはティントの森奥深くに住んでいたという。しかし鉱山が彼らをその地から追いやった。生きる場所を奪われたウィングホードは紋章の輝くゲンカクに導かれこの地にやってきたのだという。しかしゲンカクは先の王国軍との諍いから汚名を着せられ地を追われ、またウィングホードは厄介者としてここに残った。一番翼は言う。きっこはゲンカクと同じくその手に輝く盾の紋章を宿すもの。かつてのゲンカクのように、どうぞその手でこの地を救う道をお進みくださいと。そして、ウィングホードも今は故郷のように、この地を愛しているのだと。
  • その翌朝。想像通りにトゥーリバーの地に攻め入ってくる王国軍。しかし数で負けるトゥーリバーの兵士ではこれを抑えきることができない。かぼちゃ軍も未だ来ず、孤軍奮闘する兵士達。きっこ達は改めてコボルト族に援軍を要請する。しかし頑なにそれを受け入れようとしないリドリー。このままではトゥーリバー市が王国軍の手に落ちるのも時間の問題であるだろう。
  • 絶体絶命のきっこ達の前に、しかしマカイが役立たずと切り捨てたウィングホードの軍が現れ、数で勝る王国軍へと立ち向かう。頼もしい味方を得たトゥーリバーの兵士だが、しかし未だ数が足りない。
  • 再びリドリーに問うきっこ達。攻め入る王国軍に引き下がり、コボルト達は黙ってこの街を失うことを甘んじるのか、この地を愛する気持ちはないのか。きっこ達の言葉に奮起するコボルト族、そして覚悟を決めたリドリーは、トゥーリバーの兵士、そしてウイングホード達と共に王国軍に立ち向かう。
  • 数を得て形勢を逆転するトゥーリバー連合軍に、王国軍はその勢力を翻す。新都市同盟の連合軍は、このトゥーリバーの地を死守することに成功したのだ。
  • 王国軍のトゥーリバー侵攻から一夜明け、きっこ達がマカイの元を訪ねると、既にシュウとビクトールがトゥーリバーに着いて居た。王国軍を一時退けることには成功したが、しかしハイランドはこの都市同盟の地から手を引いたわけではない。この地を守るため、共に王国軍と戦おうというマカイ、そしてリドリーと手を結ぶことに成功するきっこ達。トゥーリバーよりフィッチャーを配下として譲り受け、きっこ達は本拠にんじんおうこく城へと帰城する。
  • 一方その頃、ハイランド王国軍の本陣営では、ノースウィンドゥへの進軍に際し失策を犯したソロン・ジーの弾劾が行われていた。絞首台へと引きずられていくソロン・ジーに、静まり返る王国軍。そしてルカは、次なるグリンヒルへの侵攻に、誰がその軍を率いるかと尋ねる。誰も名乗りでる事をしない陣に、将は居ないのかと激怒するルカ。そしてそこに、一兵士であるジョウイが名乗りを上げる。
  • ジョウイは言う。兵士を五千とミューズの捕虜を自分に預けて貰えれば、グリンヒルの一つも落とせるだろうと。そしてもしそれが叶わない暁にはこの首落としてもらっても構わないと。それを聞き、承諾するルカ。ジョウイは兵士を連れ、グリンヒルへの侵撃を開始する。

グリンヒル
  • トゥーリバーを味方に引き入れられたのは新都市同盟軍にとっては大きな前進であったが、その間に、王国軍はグリンヒルをその手中に収めたという。七千の兵力を有するグリンヒルを攻め落としたのはたったの五千の兵であったといい、その指揮官は、ソロン・ジーの後釜として第四軍を率いる男でその正体は分からないが油断できない将であるようだ。
  • 兵を派遣しグリンヒルを取り戻すだけの力を都市同盟は有しないが、長くその地を治めてきたグリンヒル市長代行、テレーズだけは今後のためにも救い出す必要があると述べるシュウ。元々大学都市として栄え、多くの学生達を受け入れ発展してきたグリンヒルの現市長のアレク・ワイズメルは長らく病に伏せており、テレーズはその代行を務めていた。市民にとっては今は彼女がグリンヒルのシンボルであり、彼女をにんじんおうこく城に連れ出すことができれば、いつかグリンヒルを取り戻そうというときに、より市民の協力を仰ぐことができるだろう。そしてもし、彼女を王国軍に捕らえらるようなことになれば、間違いなく厄介なことになる。
  • フリックを保護者役として、フィッチャーの手引の下、グリンヒルへの学校への入学を試みるきっこやナナミ、ピリカ達。現在王国軍の占領下にあるグリンヒルは、しかし目立った破壊痕もなく、きっこ達はあっさりと、学生としてその地に潜り込むことに成功する。
  • 学生寮で学生としての生活を送りながら、この地のどこかに隠れているであろうテレーズを探すきっこ達。そして、テレーズの付き人であったというシンを、テレーズの行方を知る者として当たりをつける。
  • きっこ達が手がかりを求めて街を探索していると、王国軍の集まる宿屋があった。どうやらテレーズが隠れているとのタレコミがあったようで、王国軍も、未だ見つからないテレーズを血眼になって探しているらしい。しかしその王国軍も一枚岩ではないようで、グリンヒルやテレーズへの対応をめぐり、穏健派と過激派とで二つに割れているようだ。
  • 王国軍に何が起こっているのかは分からないが、早くテレーズを見つけ出すのに越したことはないだろう。シンの跡をつけ、ついに街外れの山小屋にテレーズの姿を発見するきっこ一行。王国軍に立ち向かうため、テレーズの力を貸してもらうように要請するが、しかし、市民を見捨て一人逃れたのだと自らを蔑むテレーズは、自分ではその力になることはできないのだといい、先の王国軍との戦いの模様をきっこ達に語るテレーズ。
  • 先の戦争の前、全ての市民達は王国軍に対するためその準備に追われていた。そこに、王国軍から解放されたミューズの元兵士たちがグリンヒルへと逃げのびて来た。王国軍はミューズの兵士たちにその武器や防具を返却しており、それを疑うものも居たが、しかし王国軍にも正直な戦いを望む者がいるのだろうと納得し、多くの者は、これほど心強いものはないと、ミューズの兵士たちを喜んで受け入れた。やがて王国軍が現れ、皆は激しい戦いを覚悟したが、しかし王国軍は一向に攻め入ってくることはなかった。日を追うごとに枯渇する兵糧に、やがてグリンヒルの乏しい食料をめぐって諍いが巻き起こり、武装した元ミューズ軍の兵士とグリンヒル市民との間で内乱が起こった。そしてその結果、グリンヒルは戦わずして王国軍の前に敗れ去ることとなったのだ。
  • 内側から崩れていくグリンヒルに、しかし何もできなかったというテレーズ。無念さからきっこ達への助力を拒む、そのテレーズの頑ななその態度に、きっこたちはにんじんおうこく城への帰城を余儀なくされる。
  • そして翌日、本拠へと向かうきっこ達は、集う市民と王国軍の兵士達を広場に見る。なんと王国軍は、テレーズを捕らえた者にその褒美として、二万ポッチの金とハイランドへの居住権を与えるというのだ。そしてなんと、その真偽を巡って怒号の飛び交う広場内に、グリンヒルを落とした将としてジョウイがその場に現れる。この布告はハイライド王国皇子ルカ・ブライトによるもので、テレーズのその首が繋がっている場合に限り、この約束は守られるだろうと高らかに宣言をするジョウイ。
  • 懐かしいその姿に、思わずピリカが駆け寄り、互いに敵将として久方ぶりの再会を果たすきっことジョウイ。すぐさまきっこ達を取り囲む王国軍に、しかしフィッチャーの機転によって危うく難を逃れたが、すぐそこの山小屋に潜むテレーズが捕らえられるのも時間の問題であるだろう。
  • 街の状況を伝えに、テレーズの隠れる山小屋を訪ねるきっこ達。しかしテレーズは、これ以上一人で王国軍から身を隠し、市民に迷惑をかける気はないという。自分が王国軍に出頭することでその横暴を抑えることができるのであれば、喜んでその身を捧げるというテレーズに、王国軍の元へ行かせることはできないと叫ぶグリンヒル市民。
  • 自分たちの手で自らを敗北へと追いやることとなったあの王国軍との戦いで、グリンヒルの市民も元ミューズの兵士も十分にその心に傷をつけた。そして今、もしテレーズを王国軍に引き渡してしまうようなことになれば、この市の市民は更に傷つくことになるだろう。グリンヒルにその食料が少ない事は、テレーズも当然に承知していたことだ。しかしテレーズは最後まで元ミューズの兵士達を見捨てることはしなかった。そんな彼女をみすみす王国軍に引き渡すような真似をすることはできない。戦いに負け、その結果たとえ街を失うこととなっても、本当に失ってはいけないものがここにはある。
  • 王国軍からテレーズを守るため、改めて一致団結するグリンヒルの市民と付き人シンに、きっこたちはその場を預け、テレーズを連れ街を抜ける。いつの日か、このグリンヒルの地を王国軍から取り戻すために。
  • 急ぎグリンヒルの森を駆けるきっこ達の前に、再び現れるジョウイ。この戦の勝敗は、既に定まっている。新都市同盟軍などと無駄に足掻き、いたずらに戦争を長引かせるような真似は止め、ピリカを連れてどこかに逃げろと言うジョウイに、しかしきっこは逃げるわけにはいかないとその忠告を退ける。
  • 意見の食い合わないきっこに、ジョウイは森の奥に王国軍の気配を察し、早く逃げろとだけ告げる。あくまでもルカ・ブライトの側に就くジョウイに泣き叫ぶナナミを引きずって、グリンヒルの森を後にするきっこたち。その背中を見送って、ジョウイはさようならと呟いた。
  • 追いついてきた王国軍の小隊長ラウドは、ジョウイが黙ってきっこ達を通したのではないかとの疑いを持つが、同じく王国軍の兵士であるクルガンとシードが、ジョウイの他には誰も見ていないとしてジョウイを庇う。
  • クルガンは言う。自分たちはハイランドの国を愛している。しかしこのままルカ・ブライトの手にあっては王国はただ荒廃へと向かうのみだ。戦争の後に残るものが焼け野原であるのは、それは自分たちの本意ではない。そして言う。ハイランド王国第四軍長、ジョウイ・アトレイド様、我らはあなたの思いを知っている、我らはあなたに忠誠を誓いましょうと。
  • かぼちゃ軍におけるきっこと同様、王国軍にあって二人の忠臣を得たジョウイは、グリンヒルの攻略によってその勢いに弾みをつけて、その報いにと、ルカ皇子の妹君、ジルをルカに所望する。その首を切って落とされたいのかと聞くルカに、自分には考えがあると答えるジョウイ。一体彼は何をしようとしているのだろうか。
  • 一方、無事ににんじんおうこく城へと帰城したきっこ一行は、程なくして追いついてきたグリンヒルのシン達を城に迎え、その規模を拡大させる。

マチルダ騎士団
  • ミューズ市、サウスウィンドゥ市、グリンヒルの落ちた今、強い軍隊を持つマチルダ騎士団と同盟を結ぶことができれば、新都市同盟にとって大きな戦力となる上に、王国軍を挟み撃ちすることも可能になるだろう。きっこたちは目立たぬように少数精鋭でマチルダ騎士団へと協力を要請しに行く。
  • 怪物のはびこる森を通りマチルダ騎士団領へと辿り着くと、フィッチャーの書簡を受けた青騎士団長のマイクロトフが迎えに来てくれた。ロックアックス城にてマチルダ騎士団長ゴルドーに謁見するが、きっこを子供と侮り、それに敗れた王国軍をも軽視する彼は、ろくに話を聞こうとはしない。
  • その夜、城内にて一夜の宿を借りたきっこの元に、レックナードが現れる。彼女は言う。その右手の紋章はあなたを最後の戦いへといざなうでしょう。今しばらく辛い戦いが続き、多くの血が流され続けるでしょうが、しかしそれに背をそむけてはなりません。あなたには多くの人の想いが集まっている。運命を、未来を切り開きなさい。
  • 翌日、ロックアックス城に王国軍の進撃ありとの一報が入った。ミューズ市との国境に現れたかの軍は、元ミューズ領内で流民集めをしているらしく、マチルダ騎士団も流民救出のために出撃の準備を整える。
  • 国境沿いで相まみえる両軍であるが、しかしゴルドーは騎士団に出陣の命を出そうとはしない。曰く、騎士団の国領外のことであると。そのために騎士団は出撃する義務を有しはしない。流民たちはきっこの目の前で王国軍に捕らえられて行った。
  • 刃一つ交えることなく帰城するマチルダ騎士団。やはりルカは、騎士団とやりあう気はなかったのだろうと豪語するゴルドーに、納得のいかない青騎士団長マイクロトフは、単身旧ミューズ市へと乗り込み、そこで王国軍が何をしているのかを確かめるという。マイクロトフを追ってくれとたのむ赤騎士団長カミューに、きっこは承諾し、その後を追う。
  • 無事にマイクロトフへと追いたきっこたちは、旧ミューズ市に辿り着く。そしてそこには、銀色に光る化物の姿があった。人気のない街に倒れる流民。駆け寄るきっこ達に彼は、家族も誰も、みんな食われたのだ、そう言うとそのまま事切れた。一体王国軍は何をしているのだろうか。
  • ゴルドーに報告するため、急ぎマチルダ騎士団領へと戻るきっこたち。ミューズでは、何か儀式のために、王国軍による流民の虐殺が行われている。騎士の誇りにかけて、青騎士団だけでもミューズ市へと出撃させて欲しいと申し出るマイクロトフに、しかしゴルドーは、騎士団と争う気のない王国軍に兵を出すような真似はできないと退ける。我ら騎士団には、このマチルダの地を治める義務があるのだ。領民を危機にさらすわけにはいかない。
  • なおも食い下がるマイクロトフに、騎士のお前はその忠誠の誓いをこの騎士団長に立てたのではないのかと迫るゴルドー。たしかにマイクロトフは騎士の名にかけて忠誠の誓いをたてた。これを破るは騎士の恥である。しかし自分は騎士である前に人間だ。すべきことも成せない騎士に、その未練はない!
  • 床に転がり落ちるエンブレム。マイクロトフがその胸に輝く徽章を投げ捨てたのだ。怒る狂うゴルドーが、カミューにマイクロトフを牢に捕らえよと命を下す。しかしカミューも最早、赤騎士団長ではない。赤い絨毯の床に、二つのエンブレムが転がった。
  • 次々と寝返る、ゴルドー配下の騎士団員達。赤と青、その総数の半分の数になるという数の騎士を得たきっこは、彼らを連れてにんじんおうこく城へと帰城する。
  • 一方その頃、王国軍ではジョウイが皇子ルカにその詭謀を教示していた。王国軍は多大な兵力を有するが、その全てがルカに忠誠を誓っているわけではない。特に王国軍第三軍キバとその息子の部隊は、ルカでなく皇王アガレスに対してその手腕を奮っている。ルカがその野望を達するための、邪魔となるものがそこにある。
  • なかなか策の立つジョウイに疑問を持つルカ。ジョウイは軍師レオンの助力を得ていたのだ。誇り高きシルバーバーグの名を持つ彼は、かつて赤月帝国にてアップルの師マッシュと共に軍師であった男だ。

皇王墜つ
  • にんじんおうこく城は、にわかに殺気立っていた。ラダトの街に王国軍が現れたというのだ。一体その地をどうする気なのか、きっこたちはその情勢を探るためにかの街へと急ぐ。
  • 街では、王国軍将軍キバによる演説が行われていた。街はハイランド王国の支配下に入り、その秩序はハイランドの法の下に保たれるという。噂に聞いたミューズ市の化物に、自分たちも食われるのだと怯える市民だが、キバはそれを愚かな流言であると切り捨てる。
  • その時、キバの息子クラウスが、群衆に紛れるきっこをその目に捉えた。穏やかに声をかけるクラウスに、何か用かと応じるきっこ。見つかったと慄くビクトールをよそに、クラウスは言う。残念ながらここにジョウイはいない。彼は今、皇都ルルノイエにて皇女ジル・ブライト様との婚儀を執り行なっている。そして告げる。トゥーリバーでは敗したが、次はそうはいかない。全力で戦い、必ず勝つと。
  • 敵の将と相まみえ、城に戻るきっこ一行。近くに控える王国軍との次の戦闘において、その指揮は第三軍のキバが執るだろうが、第四軍も一部その加勢にと駆り出されるだろう。
  • 策を訊ねるビクトールに、そんなもの必要ないと切り捨てるシュウ。相手が正面から攻め入るならば、こちらも正面から迎え撃つまで。この戦い、これまでとはもはや兵の質も数も違う。きっこに、出陣の号令を要求するシュウ。その早急さに一抹の不安を覚えるきっこ。果たしてこれで、本当に大丈夫なのだろうか。
  • かくして、王国軍との戦の火蓋が切って落とされた。我らがにんじんおうこく城は、コボルト族や騎士の力を得てその勢力を拡大し続けてはいるが、しかし王国軍の方が数段、数も力も上回る。じりじりと悪化し続ける戦況に、ついにリドリーが怒鳴った。撤退だ、やはり人間どもと手を結ぶべきではなかった、このような戦いに、我が同胞の命を危うくする必要はない。
  • 次々と去るコボルトの軍勢に、総崩れとなるにんじんおうこく城。撤退を余儀なくされたにんじんおうこく軍は、トゥーリバーの時のみならず、二度までも人間を裏切るのかとコボルト達にその怒りをあわらにする。
  • 一方皇都ルルノイエでは、キバの言通り、ジョウイと皇女ジルの婚姻の儀と、またジョウイの、皇王アガレスに対する騎士としての誓いの儀式が進められていた。騎士の誓いは王と騎士、そして見届人のみで行われる。一人退室をする皇女ジル。
  • ルカが盃にワインを注ぎ入れ、その身を以て毒味をする。ジョウイはそれを受け取って、その手に刃を刺し入れた。わたし、ジョウイ・アトレイドは騎士として、ハイランド皇王アガレス・ブライトに忠誠を誓うことを我が血をもって、示します。
  • 滴る血の雫がグラスの中にボトリと落ちて、グラスを受け取ったアガレスがその液体を口に含んだ。その手のグラスが床に転がり、皇王アガレス・ブライトが床に落ちた。
  • 皇子ルカの哄笑が辺りに響く。貴様、まさか父に毒を…驚愕するアガレスに、ルカが吐き捨てる。貴様などは父ではない。妻一人も守れず、その命惜しさに薄汚い罪人どもの国と和平を結ぼうとし、母とルカが近衛隊の手で助けだされたとき、ひとり王座で震えていたのは誰だ。そして言う。お前は疑り深いので苦労した、毒味をした食事以外には手を付けず、水ですら一杯も口にはしない。しかしこれでやっと、邪魔者は消える。
  • そしてジョウイに向き直るルカ。よくやった、ジョウイ・アトレイド。お前はアガレスに忠誠を誓った最後の騎士で、誓いを破った最初の騎士だ。ぐらりと揺れるジョウイの体に、労いの言葉をかけるルカ。解毒薬を飲んでいるとはいえ、自らの血に毒を仕込むとは、そんなことをよく思いつくことだ。
  • 騒然とする城内に、異変に気づいたジルが駆け戻ってきた。父の屍を前に泣く皇女ジルに、兄ルカは問う。何故泣く、その男は貴様の父などではない。
  • こうして、ハイランド王国皇子ルカ・ブライトは皇王ルカ・ブライトとなり、名実ともにハイランド王国の支配者となったのだ。

篤厚のキバ親子
  • 一方、にんじんおうこく軍を打ち破り勢いに乗るハイランド王国第三軍は、現在サウスウィンドゥを出て追撃すべく進軍中であるらしい。
  • 前回同様、真正面から攻め入ってくるらしい王国軍に、シュウは一つの策を提示する。曰く、軍の半分をきっこ率いるかぼちゃ軍に組み入れそれを本隊とし、のこりの軍をビクトール、フリック、ツァイ、カミューの四隊に分けて左右に伏せさせ、キバが突っ込んできたところを包囲すると。
  • キバが伏兵に目もくれない場合、元々数で負ける我が軍では一層分が悪いのではないかと懸念を抱くカミューに、その可能性はないと言い切るシュウ。
  • 果たして、キバは正面から攻めてきた。息子の軍師クラウスはシュウの策に気付いているが、シュウが我らを策に気付かぬ愚か者と侮っているならば、これはむしろチャンスだろう。左右の伏兵には目もくれず一気に本隊を叩き、にんじんおうこく城を総崩れに瓦解させる。
  • 迫り来る王国の第三軍に、じっと動くことをしないきっこのかぼちゃ軍。未だ早いと制止するアップルに、シュウが号令を出した。今だ!左右に潜むにんじんおうこく城各軍が王国軍へと襲いかかるが、しかし歯牙にもかけず速攻をしかけるキバ親子。
  • 先の戦い同様に戦況を押されるにんじんおうこく軍。しかしこれはシュウのし掛けた策であった。王国軍を囲むように、突如躍り出るコボルトの軍勢。リドリー率いるトゥーリバーの兵が、王国軍を後ろから叩く。先の戦いで兵を引いたのは、仲間をも欺くシュウの策略であったのだ。
  • さすがのキバの軍勢も、四方を囲まれては為す術がなく、王国第四軍は巻き込まれたくないと遠巻きに控えている。孤軍奮闘する第三軍であったが、そこに王国より、軍を引けとの命令書が第四軍に届けられた。
  • 潮が引くように撤退する王国第四軍に、戦意を失う第三軍。降伏する王国軍兵士を受け入れるにんじんおうこく城は、ついに将軍キバを捕らえることに成功する。首を落とせと叫ぶキバだが、才を有する彼らを仲間とできれば、新都市同盟にとって大きな戦力となる。 にんじんおうこく城に寝返るよう促すシュウときっこに、しかしキバはアガレスに忠誠を誓っており、息子クラウスも母国ハイランドに刃を向けるような真似は出来ないと拒む。
  • 思案するにんじんおうこく城に、ハイランド王国第四軍軍師レオン・シルバーバーグから一通の書状が届けられた。ハイランド王国皇王、ルカ・ブライトがにんじんおうこく城の戦いぶりを賞賛しているとの内容に、青ざめるキバ親子。間違いない、皇王アガレスが、息子ルカの手によって謀殺されたのだ。
  • シュウは言う。ルカ・ブライトの望みは王国の勝利ではなく都市同盟全市民、全ての命を奪うことだ。そしてそれは、都市同盟だけでなくハイランドそのものをも食い尽くすこととなるだろう。
  • 誇り高いハイランド王国軍第三軍元将軍キバとその軍師クラウスは、その恥を忍んで、故国のためにとにんじんおうこく城の軍門に下った。

トラン共和国 
  • 現在、新都市同盟にんじんおうこく城は二万五千の兵力を有している。これは、ハイランド王国軍の一軍団に相当し、そして王国軍は現在四つの軍団を有している。先の戦いにより、キバが率いていた第三軍のその三分の二程度が失われたが、その力の差は依然、歴然としており、また、第二軍を除いた全軍が今もその兵を動かしている。
  • 同じ都市同盟であるはずのティント市はその国境を固く閉ざし、にんじんおうこく城からの使者を全て無視してその立場を示そうとしない。グリンヒルは未だ王国軍の占領下にあり、マチルダ騎士団の協力も得ることはできないだろう。このままでは、そう長くない先にあるだろうルカ・ブライトからの総攻撃に、にんじんおうこく城は太刀打ちすることが出来ない。
  • そこで、トラン共和国に協力を要請してはどうかとの声が上がった。トラン共和国は南方に位置する国で、かつては都市同盟と対立し、強大な力を有する赤月帝国であった国だ。最後の皇帝バルバロッサを倒して作られたこの国は、現在大統領レパントによって治められており、信頼の出来る男だと、見知った仲のビクトールはいう。
  • かつて赤月帝国と争った者が複雑な心境を抱える中、しかし彼の国の助力を得られれば心強いだろう。レパント大統領の息子はアップルと旧知の仲であるともいい、縁もある。きっこたちはラダトの町から川を下り、トラン共和国へと帆を向けた。
  • トラン共和国は、ラダトの川下のバナーの村から一つ山を越えた場所にあった。大統領レパントの息子シーナの推薦もあり、国境守備隊護衛の下城内に足を踏み入れるきっこ。
  • 三年前まで赤月帝国であったこの国は、過去には都市同盟との争いが絶えることがなく、またトラン共和国となった後も内乱に乗じて侵攻してきた都市同盟のサウスウィドゥ市、ティント市との戦いを経験している。それ故に、トラン共和国にとって都市同盟は未だ敵も同然である。しかしハイランド王国の皇王ルカ・ブライトが勝利を得れば、都市同盟を打ち破った後必ずトラン共和国を狙うだろう。ルカ・ブライトは都市同盟だけでなく、全ての人々を憎んでいる。
  • 因縁あるサウスウィドゥ出身のフリードの説諭に、きっこの戦う理由を問うレパント大統領。それは、この戦いを終わらせるためだ。きっこの決意を聞いて、大統領は決意を固めた。
  • 現在、トラン共和国はレパントを大統領として統治されているが、真に大統領になるべき者は他に居た。その少年はかつて、平和をもたらすためにその身を戦いに投じ、軍を率いてこの地に安寧をもたらした。レパント大統領はきっこに、彼と同じ輝きを見たのだ。それは、多くの人々の希望をのせる光だ。
  • レパントは、現在トラン共和国で動かせる兵、首都警備隊と国境警備隊を含めた五千程と、共和国六将軍の一人であり共和国軍地方部隊長である女将バレリアを同盟国としてきっこに預けてくれた。また、修行の旅と嘯き遊び歩いていたらしい息子シーナを、鍛え直して欲しいときっこに寄越す。
  • 無事トラン共和国との同盟を取り付け、心強い味方を得たきっこは、バレリアとシーナを連れバナーのまで帰り着く。村にはリドリーとアップルが迎えに来ていた。ハイランド王国ルカ・ブライトが帰還し、既に王国軍本隊がミューズを出でこちらに向かっているらしい。息を吐く間もなくにんじんおうこく城へ戻るきっこ達。
  • 皇王ルカ・ブライトが率いるのは、王国軍本隊とルカを将とする第一軍、ジョウイ率いる第三軍、キバの率いていた兵士の生き残りとハルモニア神聖国からの援軍を合わせた第四軍、合わせて五万にもなる軍勢のようだ。
  • ハルモニア神聖国はハイランド王国の友好国ではあるが、その力を借りるとなるといずれは高くつくことになるだろう。しかし、そうまでしても一気に片を付ける気なのだろう。
  • 対して、こちらの兵力はキバ将軍と共に参入した兵士や共和国からの援軍を合わせても二万に足らず、倍以上の差がある。今までも勝ち目の少ない戦いばかりであったが、今回が一番厳しいものとなりそうだ。しかしきっこもトラン共和国への長旅の後であるし、ただ雁首並べていても何も始まらない。疲れを取るためにも会議は明日行うことととして解散する。
  • 皆の寝静まった頃、部屋を出たきっこはピリカを連れたナナミに会った。ハイランドのキャロの街できっことナナミ、ゲンカクの三人で暮らしていた頃には、こんな事になると思いもしなかった。ゲンカクは都市同盟の元英雄で、きっこは都市同盟かぼちゃ軍の現リーダー。悪い夢でもみているようだとナナミは言う。その上、今度はあのジョウイと戦わなければならないのだ。
  • 不安気な顔をみせるピリカに、ナナミは自分にも言い聞かせるように何度も大丈夫、大丈夫と呟いた。そしてきっこに、あなたはみんなから必要とされているのだから暖かくして早く寝なさい、と。
  • 翌朝、きっこが広間に行くと既に皆集まっていた。王国軍は予想通りラダトの街に現れたという。現状の厳しさに皆が頭を悩ませる中、早馬が広間に飛び込んできた。なんと王国軍の兵力確認のため出陣していたリドリー部隊が待ち伏せにあい、ハイランド王国軍に包囲されてしまったというのだ。リドリーは将として優秀な武人であり、そう易々と伏兵にしてやられるとは思えない。やはり、レオン・シルバーバーグ軍師によるものだろう。
  • なにあれ、今リドリー将軍を失うわけにはいかない。急ぎ援軍を出すかぼちゃ軍は、畳み掛けようとするルカの部隊を躱しつつ、何とかリドリー部隊の救出に成功し、本陣へと撤退する。
  • 無事帰城したきっこたちは、王国軍の詳しい情報をリドリー将軍から得る。彼らはやはりラダトの街を占領し、次は定石通りサウスウィドゥを狙っているようだ。兵力は五万五千、第一軍はルカ・ブライト、第二軍はジョウイ・アトレイト、そして第四軍を率いているのは新たな武将、ハルモニア神聖軍を率いるのはハルモニアの神官将、ササライ。シュウはササライを知らないようだったが、ルックは彼を知っているようだ。ササライの事は任せろと豪語するルック。
  • クラウスは、王国軍は正攻法でくるだろうと推測した。サウスウィドゥを目指し、また兵力に差が三倍もあるとあれば、下手な小細工を打つ必要がない。シュウに策を尋ねるが、説明は明日するというシュウに従い、きっこたちは戦いの疲れを癒やすこととする。



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