パクリ伝説

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人は知らないコトを知りたがる。

 

例えば幽霊。それの中身や発生条件を知る者は少ないが、その輪郭だけを知る人のなんと多い事か。

 

肝試し、怪談話、降霊術。知らない人はそれに触れようと、近づこうと試行錯誤する。

 

そしてそれを危険な行為だとは認識しないまま、無邪気に、欲望に塗れたまま手を伸ばすのである。

 

 

京太郎「清水谷先輩が入院?」

 

怜「せや。腕の骨が折れたんやって」

 

京太郎「っはぁ!? 大怪我じゃねーか!」

 

昼食時間ともなれば、健全な高校生はメシを食う。ご多分に漏れず京太郎も、相棒と共にもさもさとパンを頬張っていた。

 

それを襲う唐突な不意打ちは相棒お得意の下らないギャグではなく凶報。しかし焦る京太郎をよそに、仲良しの筈の相棒はと言えば、目を背けたくなるほどのパンを飲み下していた。

 

怜「んー、ここのパンは喉越しあんま良くないなー」

 

京太郎「パンと喉越しの組み合わせは聞いたことねえよ! なんで喉がゴクゴク言ってんだよ!」

 

怜「今朝からセーラとサッカー勝負しててなー、お腹すいとるんや」

 

京太郎「くっそ暑いなか、よくやるよ…」

 

怜「さすがにアディショナルタイム180分はキツイなー」

 

京太郎「試合時間超えてんじゃねーか!」

 

細い足、細い腕、細い腰。黙っていれば病弱な美少女に見えないこともない相棒が、友人の中でもトップクラスの体力バカだと京太郎は知っている。

 

それでも周りが彼女を病弱だと思うのは、単に誰もが知らないだけ。京太郎は声を大にして言いたいと常々思う、その理由。

 

怜「昼前にはお腹空きすぎて倒れたし、たくさん食べとかんとなー」

 

ひきこさんを、くねくねを、赤いマントを見た時でさえ、ここまで恐れおののくことは無かっただろう。

 

『身体の体積以上の食物を食べる大食漢』。その都市伝説の顕現が、ここに居る。

 

 

 

パンが消えていく。砂時計が上から下へ落ちていくように。

 

あまりに恐ろしい光景から全力で目を逸らしつつ、京太郎は問う。なんとかシリアスっぽい空気を出しながら。

 

京太郎「それで……清水谷先輩は、なんで骨折なんか? てか大丈夫なのかよ」

 

怜「怪我はもう心配あらへん。ぶっ叩かれて治ったわ」

 

青い顔が更に青くなる京太郎を、誰が責められるだろうか。治療とはいえ骨折した箇所へのダメージなど、全力でお断りしたいはずだ。

 

怜「さすがにSMボケもできんと泣いとったで? まあ自業自得やなー」

 

京太郎「…なんか冷たくないか? つうか自業自得って、骨折った理由は知ってるのかよ」

 

パンと共にさらりと流れる少女の言葉。いくら再生怪人もかくやと言わんばかりの治癒といえども、骨折なんてものは非日常的で恐ろしい事態の筈。

それを自業自得と言ってのける姿は、京太郎にはあまりにも異質に映る。怪我ばかりの京太郎が言えた義理ではないと、彼を知る者は呆れるかもしれないが。

 

どこか妙なものを見るような瞳にも、怜は笑顔を向ける。儚げに、優しげに。メロンパンとカツサンドを一緒に頬張りながら。

 

怜「うちはおかしくなったりしとらんよ……でも、そやね。言うだけ面倒や。自分で推理してみてや」

 

京太郎「は?」

 

怜「ええやん、最近は危ないこともあらへんし暇やろ? もしなんかあったら呼んでやー」

 

京太郎「おーい怜! ちょっ」

 

怜「あ、竜華に聞くのはナシやで。聞いたらすぐ教えてくれるやろーけど」

 

徐々に小さくなる少女の姿を、京太郎の目は捉え続ける。

拒絶は無い。声を掛ければすぐに振り向いてくれるだろう。しかしそれさえままならないほど、須賀京太郎は呆気にとられ、戸惑っていた。

 

何故、骨折という怪我にも関わらず突き放す言葉ばかりなのか。

何故、自分で考えろと言ったのか。

何故――

 

京太郎「おーい、パン残ってるぞー」

 

怜「おーっとぉ! あかんあかん、パンを食べ終わらんとな。食べ終わるまでは帰らんでー、食べ物への裏切りになってまうからなー」

 

何故、相棒はここまで食べ物に対して真摯なのか。食い意地張り過ぎだ。

 

 

 

人は考える葦である。

しかし人には足もある。色んな物を見て、色んなことを聞き、色んな場所を歩く。思考が知覚の整理であるのなら、人は間違いなく考える足である。

 

京太郎「要は調査の基本は聞き込みで、っつーことで。まずは交友関係だよな」

 

幸いにして、清水谷竜華の交友関係は広い。

そしてその交友関係の一部はしっかりと、須賀京太郎のそれとも重なっている。聞き込みと言う点ではこれ以上ないほどのアドバンテージだろう。互いが対象の情報を共有しているから話も早く、警戒心も無いから証言の信憑性も高いときているのだから。

 

京太郎「手当たり次第にはなるけど……まずは」

 

 

和「清水谷先輩、ですか」

 

京太郎「ああ。骨折したって知ってるか?」

 

和「骨折? そんな超高速で出し入れをしたんですか!? 疲労骨折だなんて……」

 

京太郎「和の辞書の『骨折』って記述が限定的すぎんだろっつーか腕だよ!」

 

和「ふぃ、フィストですか!?」

 

京太郎「もうちょっと常識に囚われて!」

 

 

大きくおもちを揺らす少女の怖れは紛い物。宥める少年の言葉も作り物。

それでいいのだろう。二人にとって、交わす言葉は信頼と親愛に相違ない。

現に、言葉と勢いとは裏腹に、瞬く間に二人の間には落ち着きが戻るのだから。

 

和「こほん……いえ、知りませんでしたね。いったい何時です?」

 

京太郎「どうも昨日らしいんだよ。それで何か知らないかと思ってさ」

 

和「昨日ですか…」

 

京太郎「和って清水谷先輩と仲いいだろ? 何か知らないか?」

 

意外、と言うべきか。竜華の交友関係で、もっとも親しい一年生は原村和である。

理由は推して測るべし。こてんと傾く首筋とぷるんと揺れるオモイモチは、ポジトロンライフルもかくやとばかりに竜華の心を射抜き、引き寄せた。

 

和「昨日は特に揉みにも来ませんでしたが……そういえば、友人が遊園地で見たと言っていました」

 

京太郎「遊園地? 誰と一緒だったんだ?」

 

和「いえ、それが一人だったと。ジェットコースターに並んでいたところまでは見たとのことです」

 

京太郎「一人? なんでまた……それって、あの100キロ出るってやつだよな?」

 

和「はい。最高で時速100キロになるという、あれです」

 

京太郎「なんでそんな……いや、ありがとな。また今度お礼するわ」

 

和「どういたしまして、お役に立てたなら幸いです。たとえ欲望の処理道具だったとしても……」

 

京太郎「人聞きの悪いこと言ってんじゃねー」

 

二人の間にあるのは、間違いなく信頼である。ちょっと質的に違ったとしても、それはそれ。

 

 

 

京太郎「次は図書室でも……お、玄さん」

 

玄「あれ、京太郎くん? どうしたの?」

 

向かうは情報源。彼が専門分野を疑うのは、職業病のようなものだ。

しかし道すがらその人を見つけたのなら、足を止めざるを得ない。なぜならその人は。

 

京太郎「玄さん、清水谷先輩の事聞いてます?」

 

玄「うん、大変だよね……おもちのためとはいえ……!」

 

京太郎「そんな真剣な顔になることじゃねー……ん?」

 

ひとつ、京太郎の心に引っ掛かる言葉の端。それを流すほど難聴系男子ではなかった。

 

京太郎「玄さん、清水谷先輩が骨折した理由知ってるんですか?」

 

まさかという思いと、もしかしてという期待。天秤が期待へと傾くように、玄の頷きに戸惑いは無い。

 

玄「昨日清水谷さんと話してたの。理想のおもちについて」

 

京太郎「……それで?」

 

玄「私は大きさにはこだわらない。形と感触って言ったら、清水谷さんは大きさだって言って……」

 

玄「それなら確かめようってことになったんだ。それで、今度報告しようってなったの」

 

京太郎「んんー……聞きたくないんすけど、何を?」

 

玄「えっとね、私が大きさについて検証して、清水谷さんが色んなおもちの質について検証してね」

 

玄「お互いの理想を追求する……そういうことだったから、たぶんおもちについて検証しに行ったんだと思う」

 

優しげに、誇らしげに少女の顔は綻んでいく。

まるで青春を謳歌するその顔に、京太郎はどっちかと言うとゲンナリ顔だが。

 

玄「だからね、清水谷さんはおもちを揉みに行ったんだよ。私も昨日からおっきい人のを揉みしだいて…あれ? 京太郎くん? どこー?」

 

 

 

ふわりと漂う古書の匂い。図書館への扉を開けば、あいにくそこに居るのは眼鏡の黒髪ロングでも、強そうな苗字の女性でもなく、独りの少女。

金の長い髪を揺らし、赤いリボンを乗せた合法ロリ。そして同じ金の髪を揺らす、厨二病が終わらない少女。

 

淡「あれ? きょーたろーじゃん。どうしたの……ククク、貴様がここまで来ることは分かっていた。何しに来たのだ」

 

衣「切り替えが下手すぎるというか、できてないぞ!」

 

京太郎「お前ら楽しそうだな……最近、なんか変わったことなかったか?」

 

淡「くくく、この世は常に変革を続けている。我がバストサイズも今日の身体測定で2ミリ増えたのだ!」

 

衣「別に何も無いぞ」

 

京太郎「そっか…わり、邪魔したな」

 

淡「あとなんか、昨日胸触られた」

 

 

京太郎「よし警察行くぞ。男の俺だけじゃなんだし、天江さんも一緒に来てくれるか?」

 

衣「承知した、衣でよければ」

 

淡「えー? でも男の人じゃないよ?」

 

京太郎「女でも危ないだろ! 清水谷先輩みたいな人だったらどうすんだ!」

 

衣「さらっと酷いぞ!?」

 

淡「んー……てゆーか誰も居なかったし。部屋に居たし」

 

京太郎「インビジブルかよ!」

 

衣「懐かしいぞ!?」

 

淡「一瞬だったし。それだけだったよ? それに――」

 

淡「あれ、多分誰かの能力だよ」

 

 

 

日暮れとなれば、街は夕闇に染まる。

それが自然の暗幕だと言うのなら、その中でさえ映える黒髪は、なお暗い色なのだろう。

 

竜華「遅いでー。待ち過ぎて乾いてもーたわ」

 

京太郎「そりゃすみません、って言いたいとこだけど何がだ…あ、言わなくていいんで」

 

零れる笑みは常と何も変わらない。

それがいいものか悪いものか、彼女に何か影響があったのか、無かったのか。

 

竜華「それで? 怜の宿題は終わったん?」

 

京太郎「ええ、まあ……ただ勘に近いんで、答え合わせいいですか?」

 

竜華「ええでー。それじゃ、聞かせてくれる?」

 

酷く優しく少女は笑う。それはある種、上から見下ろす者の色。

人を超えた、その色を少女は隠すことなく滲ませていた。

 

 

 

京太郎「まずは目撃証言から。先輩は昨日、遊園地で時速100キロのジェットコースターに乗った。合ってますか?」

 

竜華「イエスやね。一回やないで? ちなみに腕折ったんはそん時や」

 

京太郎「……そして、同じく昨日。玄さんとおもち談義をした」

 

竜華「それもイエス。ウチはおもちの大きさやのーて、触り心地の追求担当や」

 

京太郎「こっからはこの2つの情報から出した、俺の推測です」

 

竜華「ほーん…さすが男の子やね。ティンと来た?」

 

京太郎「ええまあ…俺も一応、思春期男子ですからね」

 

それは一つの下らない話。

思春期真っ只中を生きる男子の希望にして、大人になれば下らないと笑い捨てる一つの話。

それでもそれは、確かに伝説の一つ。

 

京太郎「貴方はきっと、ジェットコースターで手を伸ばした」

 

京太郎「腕を折ったのはそのとき。何かに当たったか…よく腕が千切れなくて済みましたね」

 

竜華「あはは。実は腕折ったんは止まる直前でな。余韻に浸りすぎて腕引っ込ますの遅れたんや。欲張りすぎたなー」

 

京太郎「で、感触はどうでした?」

 

竜華「おお! それがな、結構ええ感じだったんや。あながち捨てたもんやないなー」

 

京太郎「前々から馬鹿だなあと思ってましたけど、ホントに馬鹿っすね」

 

竜華「ひどっ!」

 

 

京太郎「『時速100キロで手を出すと、おもちを揉んだのと同じ感触がする』…先輩、アンタは、やり過ぎたんだ」

 

竜華「大正解! その通りやで!」

 

そして。

その時に、彼女の力は発現した。

果てない欲望の隙間を埋めるために。終わらない希望を掴み続けるために。

 

 

 

思春期男子はおもちの感触を知らないからこそ、その手段で得た感触を忘れない。

経験済み男子はおもちの感触を知っているからこそ、その手段を鼻で嗤う。

 

 

けれどそこには限りがある。

男の持つ時間。誰もが欲望を理性が上回る、そのタイム。

そのためにその伝説は、男子たちによって広がりながらも適合する者を見つけられなかった。

静かに広がり続け、力を蓄えて。

 

 

本来なら噂話のレベルを超えないはずだったそれは、しかしたった一人の少女に捕まった。

何度も何度も、賢者になることも無く伸ばされた腕に捕まった。捕まってしまった。

そしてその手が事故によって折れてしまった時。

その伝説は、彼女を認めたのだ。

 

決して休むことなく夢へと手を伸ばすその腕を。

 

 

竜華「『ハンズ・オブ・グローリー』ってとこかな。ウチの手は」

 

竜華「便利やで? どこにいても、誰のおもちでも掴めるんや。それでいて、相手に不快感を与えんときた」

 

竜華「なあ…ウチのこれ、どうする気や?」

 

変わらない笑みを一つ。先輩らしい笑顔、愛らしい笑顔、いやらしい笑顔。

その手には――見えない腕が、彼女を優しく包んでいた。

 

京太郎「命の危険はなくとも、女の子にはちょっと危ないってんなら」

 

京太郎「俺はアンタを倒す。倒さないといけない」

 

夕闇に沈む教室は暗く、黒い。

対峙する二人を包むように夜の帳が落ちていた。

 

 

 

竜華「いやーん、押し倒されてまうー」

 

京太郎「しねーよ!」

 

 

 

 

怜「――そんで?」

 

京太郎「それだけだよ。二度と能力を使わないって誓わせた」

 

怜「ほーん…よー竜華がOKしたなー。竜華にとっては夢みたいな能力やのに」

 

それはまるで昨日の巻き直しに近い。

もっとも量としては倍、京太郎が買い与えた山のようなパンが二人の間に座っている。

遠くから見れば目減りしていくのが分かって面白いだろうが、近くで見る分には恐怖でしかない。

 

京太郎「代わりに条件出したらあっさりな」

 

怜「ほーん。なんや? 竜華があっさり…」

 

パンの栄養はどこへ行くのか。背には反映されないようだ。

京太郎の目に映る中で考えられるのは、ごく一部。

 

怜「ちょ…どこ見とんねん!」

 

京太郎「いや? 清水谷先輩って怜の事ホント好きだよな」

 

怜「は…?」

 

京太郎は考える。

全ての女子と、相棒のソレ。天秤にかけて出てくる結論は、たった一つ。

 

京太郎「つっても後は本人次第。あとはお若いお二人でってとこかな」

 

怜「は? なに?」

 

京太郎「お、来た来た。清水谷先輩!」

 

竜華「お待たせ。ありがとなー、セッティングしてくれて」

 

怜「なに? 竜華? なに?」

 

京太郎「ああそれと…条件だけどな」

 

 

京太郎「怜のおもち揉み。いっつも逃げてたんだって?」

 

京太郎「ま…あとはごゆっくり」

 

怜「あ、ちょっ、竜華! アカンで…あ、でもパンが残って…きょ、きょーたろー!」

 

竜華「な? ちょーっとだけ! 一揉みだけ! ええやろ? 先っちょだけ!」

 

怜「あ、あ、あーっ!」