うっかりの怪我
[user]: 次の授業が始まっちゃう、急がないと――きゃっ!?
若桜 郁人: わっ……大丈夫? ごめん、あまり前を見ていなくて。
[user]: あ、若桜先生……。私こそ、すみません……。
若桜 郁人: 今、俺にぶつかったせいで、足を踏み外したよね……?
若桜 郁人: 大丈夫だった? [名]ちゃん、怪我してない……?
[user]: は、はい。先生が支えてくださったので…………。
[user]: (あれ……。なんだか足が痛い、かも)
若桜 郁人: [名]ちゃん。どこか痛いなら、正直に言うんだよ。
[user]: あ……。足首が少し……。で、でも、少しですから!
若桜 郁人: 全然、大丈夫じゃないよ。すぐに手当てしないと……。
[user]: えっ……きゃあっ!? わ、若桜先生!?
[user]: (い、いきなりお姫様抱っこされちゃった……!?)
若桜 郁人: 「こら、じっとしてなさい。暴れると危ないよ……?」
若桜 郁人: 「保健室に連れていくから、しっかり俺につかまって。」
[user]: そ、そんな! 私はひとりで歩けますからー!?
[user]: わ、若桜先生、恥ずかしいです……!
若桜 郁人: え? どうして? すごく注目されているから?
[user]: はい! そうです!!
若桜 郁人: うーん……。俺は結構、いい気分なんだけどね……?
若桜 郁人: って、ごめんね。君は怪我しているのに……。
若桜 郁人: 顔を見られたくないなら、俺に抱きついてみるとか。
[user]: いえ、それは遠慮します……。
若桜 郁人: シャイなんだね、[名]ちゃん。照れることないのに。
若桜 郁人: まあ、後でいろいろ言われそうではあるね、野次馬に。
若桜 郁人: 俺が君に、いけないことしたんじゃないか、とか。
若桜 郁人: 白昼堂々、どこかに連れ込もうとしてる、とか。
[user]: さ、さすがにそこまでは……大丈夫だと思います。
[user]: それより、先生。あの……。重たくありませんか?
若桜 郁人: 「君は軽くて柔らかくて、最高の抱き心地だけど……?」
若桜 郁人: 「ずっとこうして、腕の中に閉じ込めていたくなる……。」
若桜 郁人: ベッドにおろすよ? ……じっとしていてね?
[user]: は、はい……。すみません……。
若桜 郁人: 「君が謝ることじゃないよ。俺がしたくてしたんだから。」
[user]: (ここに来るまで、ずっと先生に抱えられていて――)
[user]: (なんだか、ものすごく緊張しちゃった……)
若桜 郁人: とりあえず、ひねった足のほうを見せてもらえる?
若桜 郁人: ……少し、腫れているみたいだね。触ると痛いかな?
[user]: っ……。は、はい、少し……。
若桜 郁人: ごめんね、ありがとう。……軽い捻挫、みたいだね。
若桜 郁人: テーピングして、しばらく冷やしておこうか。
若桜 郁人: 「しばらく激しい運動は避けるように。……いいね?」
[user]: わかりました。ありがとうございます、若桜先生。
若桜 郁人: ……あれ、そっちの手は? 血がにじんでいるけど。
[user]: あ。いつの間に……。さっき、擦ったのかな……。
若桜 郁人: ……それも手当てしないとね。菌が入ると大変だ。
[user]: これくらいの傷なら別に手当てしなくても……。
若桜 郁人: だーめ。君は、もっと自分を大事にしないと。
若桜 郁人: [名]ちゃんは、女の子なんだから……ね?
若桜 郁人: 君は強い子だけれど、もっと甘えることも覚えていい。
若桜 郁人: こんなときは、人の厚意に頼ったって、いいんだよ?
若桜 郁人: 「だから、俺の我儘を聞いて、手当てさせて……?」
[user]: (わ、先生の顔が、また近づいてきて……!)
若桜 郁人: 「痛くしないから……って駄目だよ、動いちゃ。」
[user]: は、はい……。ありがとうございます、先生。
若桜 郁人: ん。いいお返事、だね。……じゃあ、消毒するよ?
[user]: っ……!
若桜 郁人: 少し、傷に染みちゃったかな……。ごめんね。
若桜 郁人: 痛くしないって言ったの、嘘になっちゃったね……。
[user]: こ、これくらい大丈夫です。
若桜 郁人: ……健気だね、[名]ちゃん。かわいいよ。
芳屋 直景: 失礼します――って、先輩! どうしてここに……?
[user]: ちょっと、足をひねっちゃって……芳屋くんは?
芳屋 直景: そ、その……。体育の授業で、転んでしまって……。
[user]: 大変! 先生、私は大丈夫なので、芳屋くんを――
若桜 郁人: ……この程度の怪我なら、舐めておけば治るよ?
若桜 郁人: ほら、傷は男の勲章って言うから、ね……?
[user]: で、でも、すごく痛そうな怪我ですよ……!?
若桜 郁人: はいはい。じゃあ、さっさと消毒しちゃおうか。
芳屋 直景: あ、ありがとうございます。先輩、足をお大事に――
若桜 郁人: 「君の手当てはこれで終わり。ほら、早く戻る。」
[user]: (芳屋くん、かなり強引に追い出されちゃった……)
若桜 郁人: 「……ごめんね、手当ての途中なのに待たせて。」
[user]: い、いえ、それより、あの……。
若桜 郁人: 何? 彼のことが気になるの? 心配いらないよ。
若桜 郁人: ほら、男の子は傷の数だけ強くなるとか、言わない?
若桜 郁人: 君は他人のことより、自分の怪我の心配をしよう?
[user]: ……でも……。
若桜 郁人: 何? まだ、芳屋くんのことが気になるのかな……?
[user]: もちろん彼の怪我の具合は気になります、けど……。
[user]: 今は若桜先生のほうが、気になります。
若桜 郁人: 「……俺のことが気になるの?」
[user]: はい。さっきの先生、素っ気なかったですから……。
若桜 郁人: なるほど。でも、彼は男の子だからね……。
若桜 郁人: 俺としては、通常営業だったんだけど。
[user]: 男の子だから、素っ気ないんですか……?
若桜 郁人: 男に優しくしても、俺は幸せになれないし……ね?
若桜 郁人: まあ、君がどうしてもって言うから、消毒はしたけど。
若桜 郁人: 本当は、俺の傍に怪我をした女の子がいるときは――
若桜 郁人: その子を徹底的に優先してあげたかったんだけど、ね。
若桜 郁人: 「しかも、怪我をしたのが君なら……なおさら、だよ。」
若桜 郁人: ……これで手のほうも終わり。お大事にね。
[user]: はい。いろいろご迷惑おかけして、ごめんなさい。
若桜 郁人: 怪我した子の手当てをするのは、俺の仕事だからね。
若桜 郁人: それに、謝らなくちゃいけないのは俺のほうだよ。
若桜 郁人: そもそも、君が怪我をしてしまったのは――
若桜 郁人: 俺が前を見ていなかったのが最大の原因だからね。
[user]: そんな……。若桜先生は何も悪くないです。
[user]: きちんと前を見ていなかったのは私も同じですから。
[user]: それに、先生は階段から落ちそうな私を助けてくれて。
若桜 郁人: でも結局、君は怪我をした。それじゃ、意味ないよ。
[user]: そんなことありません。……私はうれしかったです。
若桜先生、助けてくれてありがとうございました。
若桜 郁人: 「まったく……君は。本当に優しい子だね……。」
[user]: (あ……。先生が、私の頭を撫でてくれる……)
若桜 郁人: 「ぶつかったのが君で良かった……なんて、ね。」
若桜 郁人: ねえ。君にお願いがあるんだけど、聞いてくれる?
[user]: どんなことですか?
若桜 郁人: 君の怪我が、完全に治るまでの間でいいから――
若桜 郁人: 「これから毎日、俺のところに来てほしいな……?」
若桜 郁人: 傷が残ることはないと思うけど、気になっちゃって。
[user]: (先生……。そんなに心配してくれているんだ……)
若桜 郁人: ……とは言え、俺は医者じゃあないからね。
若桜 郁人: 消毒して、湿布を貼ることくらいしかできないけど。
[user]: はい……。わかりました。
[user]: 毎日、若桜先生に怪我の様子を見てもらいに来ます。
若桜 郁人: ありがとう、[名]ちゃん。俺の我儘を聞いてくれて。
[user]: いいえ。たくさん心配してくれて、うれしいです。
若桜 郁人: 「君はいつもそうやって、欲しい言葉をくれるんだね。」
若桜 郁人: 「……もし、歩くのがつらくなったら、俺を呼んで?」
若桜 郁人: 「いつでも、お姫様抱っこで運んであげるよ。」
|