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地面に寝そべる獅子を見た  ◆shCEdpbZWw




A-1エリア、学校の内部。
職員室の中で蠢く一つの影があった。
黄金色のたてがみは百獣の王の名に恥じぬ輝きを放っていた。
その名はサバンナ、先刻ここでスーツを着込んだ猫男にエビフライを投げつけられたライオンである。

巨大エビフライに齧りつきながら、サバンナはその腕を器用に使いデイバッグを漁り始めた。
人語を使うだけあって、この程度のことはサバンナにとって造作もないことである。

「ん、この匂いは……」

サバンナの鼻がひくついた。
それは、肉食獣たるサバンナの心をときめかせる香りである。

「生肉? なんだこれ?」

取り出したのは肉の塊であった。
鼻に近づけて匂いを嗅いでみるが、腐っているような様子はなく、サバンナは胸をなでおろす。
肉を持ち上げた拍子に、肉にくっついていた紙がハラリと舞い落ちた。

「なになに? ぞぬの……肉? なんだそりゃ?」

落ちた紙に書かれた文字を読んでサバンナは訝しげな表情を浮かべる。
少なくとも、彼の縄張りにはそんな動物がいるなどとは聞いたことが無かったからだ。
手にした肉塊に不審げな視線を投げかけ、サバンナは紙の続きを読み始める。

「日本の四国に生息……? 後ろ足が発達していて繁殖力が高い、と……ねぇ。
 ん? 食用としても飼育されており、味は軍鶏に似ていて美味、だと……?
 くっそ、そんな美味い動物がいるなんてマジずりーわ」

ひとしきり愚痴ってから、サバンナはぞぬの肉をデイバッグに戻した。
先程の巨大エビフライで腹はそれなりに満たされていたということもあるし、わざわざ美味と書かれたからにはとっておきにしたかったのだ。

「狩りもせずにこんなに食い物にありつけるなんてありがてーわ。
 サバンナじゃこんなことありえねーもんな」

弱肉強食が絶対のルールであるサバンナでは、自分達で狩りをしない限りは食べ物にありつくなどそうそうない。
ハイエナのようなおこぼれを狙うような生き物であればそうとも限らないが、百獣の王のプライドはそれを許さない。
とはいえ、手元に肉があることでサバンナは思わず表情を緩めてしまう。
そして、他に何か役に立つものがないかとデイバッグ漁りを再開した。

自分以外にも共通で支給されているPDAや地図、コンパスには興味を持たなかった。
食糧らしきパンやおにぎりが出てきたが、肉に比べれば取るに足らないものであった。

そうして、ようやく見つけたもう一つの支給品……それは一丁の短機関銃、いわゆるサブマシンガンであった。
その名はUZI。イスラエル製であり、当時の貧弱な工業基盤という背景から部品数こそ少ないが、性能は折り紙つき。
第二次大戦後に西側諸国で多用され、サバンナの故郷であるアフリカ諸国でも多く採用されたという代物だ。

……だが、UZIを手にしたサバンナは思わず顔をしかめてしまった。



「……いや、俺の手じゃ引き金引けねーし」



当然のことながら、ライオンの手では銃の引き金をうまく引くことなど出来ない。
ご丁寧に予備マガジンも一つ付いていたが、ことサバンナにとってUZIは宝の持ち腐れとも言えよう。




         ,、,, ,、,, ,, ,,
       _,,;' '" '' ゛''" ゛' ';;,,
      (rヽ,;''"""''゛゛゛'';, ノr)
      ,;'゛ i    、_ iヽ゛';,     ったく、分かってねーな
      ,;'" ''| ー-  〈・ノ |゙゛ `';,
      ,;'' "|   ▼   |゙゛ `';,    どうせ持たせるんならマキァヴェリの『君主論』くらい持たせろよな
      ,;''  ヽ_人_ /  ,;'_
     /シ、  ヽ⌒⌒ /   リ \
    |   "r,,( `"'''゙´_) ,,ミ゛   |
    |      /  ,ィ_) ,リ    |
    |   i /  /,r,,r" i    |
    |   Y   /    ノ    |
    (ヽ  __ /--――´    /
     (_⌒ ______ ,, ィ
      丁           |
       |           |



愚痴りながらしばらくUZIを手の中でこねくり回したサバンナは、諦めてそれをデイバッグの奥深くへと突っ込んだ。
そして、おもむろにデイバッグを肩にかけて立ち上がる。

「さてと、そろそろ行くとするかな」

そう呟きながらのっしのっしと歩を進め、サバンナは職員室を出たのだった。





 *      *      *





2人の男が、冷え切った空気を肌で感じていた。
夜更けの学校は人の気配も感じられるはずもなく、ただただひっそりと静まり返っていた。

(石造り……というわけではないようだ。
 ここに来るまでも石畳とはまるで違う綺麗に均された道に、強固な建物……まったくもって面妖なものだな)

表面上は冷静を装う中華風の男、孔明ではあるが、彼の周りにあるものはいわばオーバーテクノロジーの塊。
ともすれば、それが何なのか、どう使えばいいのかという知識人の魂が疼きそうになる。

「ふむ。ソビエトの学校とはずいぶんと違った作りなのだな」

ポツリとつぶやく髭面の男、スターリンもまた孔明ほどではないが自らの生きる時代とは違う様相の建物には少なからず戸惑っていた。

「……して、スターリン殿。これからどうしましょう」
「ふむ、まずはこの建物を探索しようではないか」
「もし誰かいれば?」
「恭順の意を表させる。従わぬようであれば……その時は致し方あるまい」

そう言ってスターリンは小脇に抱えたトカレフをちらつかせた。
孔明としても、特に止める理由もなかった。

「獅子身中の虫など要りませぬからな」
「まったくだ」

そんな会話を交わしながら、二人は辺りを見渡した。
入口を入ってすぐに階段があるのが目に入った。

「この建物は3階建てだったな」

視線を階段の上に向けながらスターリンが呟いた。

「事は一刻を争いますからな……ここは手分けをして探索しましょう」
「賊が潜んでいるやもしれぬぞ?」
「その場合は、固まっていても危険性はさほど変わらぬでしょう。
 なにせ、これだけ死角だらけの建物です。どこかに隠れて背後から奇襲をかけるのは造作もないこと」

ふむ、と頷いたスターリンが自慢の髭を少しばかり撫でまわす。

「確かにそうだな。ならばここはスピード重視だ、私は3階を見よう。
 孔明よ、お前は2階を頼んだ。その後、合流して1階を見て回ろうではないか」
「分かりました。それではお気をつけて」

目を合わせ、互いにうん、と一つ頷く。
コツ、コツと2つの足音が重なり合うように夜の校舎に響き渡った。





 *      *      *





二人の男が学校へと踏み込むより数時間前。
学校の1階の一室にサバンナは佇んでいた。

「おいおい、こんなに食い物があるなんてな」

サバンナが踏み込んだ部屋……そこには「給食室」という看板が掛かっていた。
部屋に入った瞬間にサバンナの鼻を芳醇な香りがくすぐった。
肉や魚はもちろんのこと、米にパンに野菜に牛乳……ゆうに数百人分の食事が冷蔵庫に保存されていたのだ。

「いいのかねー、狩りもせずにこんなに御馳走にありつけちゃってよー」

ニヤニヤと表情がほころんでしまうのをサバンナは抑えることが出来ずにいた。
職員室を出てしばらくフラフラと校舎内を彷徨ったサバンナが、ふと足を止めたのがこの給食室の前だった。
そのまま悠然と足を踏み入れ、そして見つけたのがまさに宝の山だったのだ。

「こんだけありゃー、しばらくは食うのに困んねーだろーな。
 参ったねー、こんなんじゃ狩りの腕が鈍っちまうわ」

そう口走りながらも、サバンナはさっそく肉に手をつけ始めた。
なにせ成体のライオン、それもサバンナのようなオスは1日あたりに7キロもの肉を食するのだ。
先刻、モナーに投げつけられた巨大エビフライも相当な重量があるのだが、それでも足りないのである。

「うー、食った食った」

ひとしきり食事に没頭した後、サバンナは膨れた腹をポン、と叩く。
そして、食欲を満たしてからの行動に思いを巡らす。

「まぁ、生き残るって方針には変わりはねーけどなー。
 でも、まだそこまでシャカリキになって動かなくたってもいーだろ」

一つ欠伸を噛み殺しながら、サバンナは一人ごちた。
ライオンは夜行性であり、一日のうち実に20時間はゴロゴロと過ごす生き物なのだ。
飢えている時こそ話は変わってくるが、腹の満たされた今のサバンナの本能は動くことを選択しなかった。
おまけに、外が少しずつ白み始めたこの時間は夜行性であるライオンがその活動を停止する時間帯でもあるのだ。

「だいたい、オレ一頭じゃ狩りをするったってなー。
 獲物がヘトヘトに弱るまでは大人しく待つとするかなー。
 『果報は寝て待て』ってどっかの偉い人も言ってるらしいしなー」

狩りの苦手なサバンナは、当面の間は様子見に徹することにしたのだ。
格好よく言えば、百獣の王たる者が慌てふためくことなくどっしりと構えている、とも言えるのだが。
いかんせん、相手の疲弊を待つその姿勢は一つ間違えば卑怯者との誹りも免れないだろう。

とにもかくにも、そこまで呟いてからサバンナはもう一つ大アクビをかましてみせた。
そのままその巨体を給食室の床に横たえ……数分もしないうちに大いびきをかき始めるのだった。





 *      *      *





――学校の3階、図書室にて



「ふむ、ここは様々な分野の書物があるのだな」

適当にピックアップした本をペラペラとめくりながら、スターリンは呟く。

「とはいえ、我がソビエトのレーニン図書館とは比べ物にならぬほどちっぽけなものだがな」

フッ、と小さく笑いを零し、スターリンは手にした本を棚へと戻す。
ふと、スターリンが図書室を見渡してみると、一つの机の上に数十冊の本がこれ見よがしに鎮座しているのが目に入った。
探索をするという目的もあって、取り立てて何の警戒もせずにスターリンはその本へと近寄った。

「ふむ……『三国志』、横山光輝……とな」

手にしたのは文庫サイズの本であった。
これも先程の本のように適当にペラペラとめくってみる。

「なるほど、舞台は古代の中国、それを描いたコミック、ということだな」

一瞥してある程度の特徴を掴んだスターリンはしばらく三国志に目を通す。
そして、おもむろに開いたページの言葉に、思わずスターリンは心を奪われてしまった。



                                     ___
   許 .俺   天  背  .俺            |⌒/:::::::::::::::\          .正 成  俺  言 俺
   .さ  に   下  .こ   が            \:::::::::::rー''''''ヽ|          し  す  の  う  の
   ん  背   の  .う   天          /::::,ノリ゙V゙゙tァ  tァ |          い .こ     .事
      く   .人   と  .下          /::::/  >i    ゝ /             .と     .は
      こ   間  .も  .に          '"゛  /i jミッ` ̄ノ              も     .正
      と   が                     ./:::::二二二二ニニ\                 し
      .は                     /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::lii|                 .い
                           |二二リフi|.:.:.::::::::::::::::::::l /\
                           l      ||::::::::::://l   |
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      . ,,, ――- ..,,./           ,,,| l │  |  _/ ./  \lri./.:.:.:, /      ,/    リ〃./ ,iニ、,,゙'、.:.:.:.:l
     ,〃.:.:.:.:.:.:.:.:./             ,r'>ミ   |  ゛/  .../...rr〉〉〉〉∧./ ゛       ./     /./ー、 ヽ0-゙ /.:.:.:/
    /.:.:.:.:.:.:.:.:.:/           / '"  .l.!  . l,::::/  .,.. lX-''゙,.lミ(,゙ノ/'゙         /      .!/ヽ_.ヽ   ._./
    /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/           ,,,'、'r,,  l―'''゙'|'"_lニ_-;;,'彡'"/ミ> .._、     .゛      / ヽ__゙ヽ.lir'" _ i
   ./.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!           /  ゙゙''-二;;iy''''" ヽ/   i,'゙/  ! :|.`゙''''ー`-ニニ二ニ二二二二二ニ--゙‐'!yレ´  . l
 _,、゙.:.:.:.:.:.:.:.:/ ゙リ              !       |     .,/ !"    ', . l       ./       ./       l lヽ 、 .゙l
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    !、.ノ/             \ \,,、            ',  l            !  ノ
     l: .ヽ、                 l'''".:.: !'i、           !  l′           ヽ イ
     .l、,..ィl|''、            ゙ヽ.:.:.:.:.:〃          /   |、         ヽ !
     .゙'',..:.:.:.:.:.:l、             ̄´            l,   ゙フ          | .l
      ゙''ー--"                           `', ./          .|. |
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                                      ! .ヽ          レ'゛.:.:.:.:.:l
                                         ヽ 'リ          `'ー.:.:.:.:ノ
                                       l゙  ゙'ー、、          ̄
                                       lッ'゙´.:.:.:ヽ
                                       !)、,.:.:.:.:.:.:〉
                                          ̄´


「ほほう、なかなか面白いことを言うな……この男は……曹操、とな。気に入ったぞ」

目的の為には手段を選ばぬかつての覇者にスターリンは思いを馳せた。
時代こそ違えど、覇権を握ろうとする者としての在り方を、限られた時間で少しでも得ようと、飛ばし飛ばしにスターリンはページをめくる。
そして、適当につまみ上げた一冊の中のある人物に、スターリンは目を留めた。

「この男は……?」



            ,r'7'7'フヽ、
         / / / / ,r-、i
         _/_/_/_/ /  l|
      __/_o__o__  ̄``i
      {,、r‐'"´<||: : : : : ̄:゙、
      ,' ,,r―ヾ||:: : : : : : : :',
.     { イけフ  .||f^l: : : : : : :',
.     /   ̄   ||_リ: : : : : : : ',
    〈、      ll |:: : : : : : : : :}
      |―‐ヽ 〃 l: : : : : : : : /
        l    〃=.、ヽ、_:__:__:ノ
      ├π'"タ=-′/::::::::::::>、
      ′`ラi|   /::::::::::::/   `ヽ、
       //!l|l   /:::::::::::/      `ヽ、
    / /::ll || /:::::::::::/  /´       \
   /  /::::ll 0./:::::::::::/   l l        ヽ
   /   /:::::ll /:::::::::::/   l.l
  /  /:::::::ll /:::::::::::/     ll
  /  ,':::::::::0/:::::::::::/       l
 /   l:::::::::|/:::::::::::/       l



自らの同行者とどことなく似たような雰囲気を漂わせる男が登場したのだった。
訝しげに思いながら、周りのセリフに目を通したところでスターリンは得心した。

「ハッハ、この男が孔明、とな! こうして後世にまで称えられるほどの軍師が、あの男と!
 これは大した拾い物をしたわ!!」

思わず高笑いをしてしまいそうになるのを、スターリンはどうにか堪えた。
だが、スターリンはそれからひとしきり前後のページを見比べた後に少しばかり残念そうな表情を浮かべた。

「……なるほど、あやつはあの曹操と敵対しておったとな。
 惜しいな、ともすれば私と道を違えるかもしれぬぞ」

曹操の思想に自分を重ねかけていたスターリンが残念がるのも無理のないことであった。
もっとも、もし孔明が曹操の治める魏に生まれていれば果たしてどうなっていたであろうか。
そんな数奇な巡り合わせから敵対することになったのであろう、とスターリンは思うことにした。

それからもしばらくは適当にペラペラとページをめくり続けたスターリンだったが、別の巻ではこのようなセリフを目にした。




           r'丁´ ̄ ̄ ̄ ̄`7¬‐,-、           /
        r'| |          |  |/  >、     /
        ! | |          |  |レ'´/|       |   待 て
        | | |   /\   |  |l  /⊂う    |
        | | |__∠∠ヽ_\ |  リ /  j     ヽ   あ わ て る な
        |´ ̄   O   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`!      〉
        l'"´ ̄ ̄ヾ'"´ ̄ ̄`ヾ::幵ー{       /   こ れ は 孔 明 の 罠 だ
        ⊥,,,,,_、    ___,,,,,ヾ| l::::::|      |
         lヾ´ f}`7   ヘ´fj ̄フ  | l::i'⌒i    |    そ ん な 事 は 無 理 だ
         l ,.ゝ‐イ    `‐=ニ、i | l´ ( }    ヽ
         l     {         U | l 、_ノ    ∠ヘ
        l   / ̄  ''ヽ、   | l ヽ_       \,_________
           !  ハ´ ̄ ̄ ̄`ト、  |亅〃/\
        ,人 f ´ ̄ ̄ ̄``ヾ  j ,!// {_っ )、
      // `ト、__iiiii______,レ'‐'//  _,/ /スァ-、
    ,.イl{ { 々 !/´しllllト、 ̄`ヽ、 // /´,.-、 /彑ゝ-{スァ-、
  ,.イ彑l l > ゞ く l 〃 l|ハ.lヽ、 ハVゝヽ二ノ/ゝ-{、彑ゝ-{、彑ァ-、
,.イ彑ゝ-'l l ( (,) レシ′   !l `ソァ'´    _ノ7{、彑ゝ-{、彑ゝ-{、彑{
ュゝ-{、彑l l  ` -イヘ      !l // /⌒ヽヾ/_ゝ-{、彑ゝ-{、彑ゝ-{、
 {、彑ゝ-'l l f⌒Yハ ',    !l/ / ヽ_う ノ /-{、彑ゝ-{、彑ゝ-{、彑ゝ
彑ゝ-{、彑l l{ に!小 ヽ   /!l /   ,/ /彑ゝ-{、彑ゝ-{、彑ゝ-{、



幾度となく孔明にやり込められながらも、最後のところでは決定打を許さなかった魏の軍師、司馬懿のセリフであった。
司馬懿とて愚鈍な男ではないが、当時としては奇想天外な策を幾重にも張り巡らす孔明では相手が悪かった。
しばし、前後のページに目を通し、孔明の鮮やかな策に感心しながら、スターリンは呟いた。

「……一つ間違えば私と道を違えるかもしれぬ思想の持ち主。
 おまけに、その"罠"とやらは戦場における人間の心理を巧みに突いた狡猾なもの。
 確かに敵に回せば厄介な事この上ないが、手の内に収めさえすれば……」

そして、ひとしきり髭を撫で回してから、手にした本をパタン、と閉じる。

「この手の歴史書というものは、得てして後世の者によって誇張されて描かれるのが世の常というもの。
 だからと言って、あの男を過小評価するわけにもいかぬというもの……」

スターリンはしばらく考え込み……そしてニヤリ、と口元を歪ませた。

「……面白い。腹の内で何を考えているかは分からぬし、どんな罠をも用意しているかも分からぬが……
 この程度のじゃじゃ馬も乗りこなせぬようでは我が祖国を率いて強国とすることなど出来ぬからな!」

そこまで呟き、ふと図書室に掛かる時計を見上げる。
既に孔明と別れてから小一時間が経とうとしていた。

「ここはこのくらいでいいだろう。
 思わぬところから奴の素性を窺い知ることが出来たのは収穫であったな」

そして踵を返し、スターリンは図書室を後にした。
机には無造作にばら撒かれた三国志だけが残された。






 *      *      *





――学校の2階、理科室にて



「ここは何の部屋でしょうねぇ」

ランタンを手に孔明が佇む。
闇の中にぼぉっと照らされるホルマリン漬けや人体模型は、子供が見れば泣き叫んでもおかしくない代物だ。
もっとも、戦場を駆けて人間の生き死にを日常的に目の当たりにしている孔明からすればこの程度は驚くことではなかった。

理科室特有の薬臭さが孔明の鼻をつく。
自分の世界ではおおよそ感じたことのない感覚に戸惑いながら、何か無いかと孔明は理科室の探索を始めた。

花崗岩や橄欖岩といった岩石の標本……
自分の時代のそれとはまるで違う様相の天秤……
カエルやフナといった生物の内部を断面で表した標本の数々……

ひとしきり初めて見る物の数々に心を奪われた孔明は、おもむろに理科室の一番奥にある戸棚に手をかけた。
そこには様々な薬瓶が並んでいたが……そのうちの一つに気になる記述を見つけた孔明は思わずその瓶を手に取る。

「黒の教科書に掲載されている毒物……?」

ここまで蜀に無い技術の数々に触れ、多少の事には動揺しない孔明とて、この訳の分からない記述には首をかしげる。
そもそも、黒の教科書とはいったい何なのか……そう思いながら、孔明は薬瓶を軽く振ってみる。
が、中の薬液がチャプチャプと波を立てるだけで、これといった変化は起きない。
孔明の知る毒物にはもう少し禍々しい色合いのものが多かっただけに、この透明な液体に対する興味はさらに湧き上がる一方だった。

「どれ……」

孔明は薬瓶の蓋をスッと取り外す。
そして、そっと自身の鼻を近づけ、その匂いを嗅ごうとして……



「エンッ!!!」



鼻血を勢いよく吹き出し、その場にガクッと崩れ落ちた。



――それから、孔明が意識を取り戻すまでに数分の時を必要とした。
目が覚めたのは、ぼんやりとする意識の中で何かを鼓舞するかのような歌が聞こえたからだった。



 陽は昇り 風熱く 空燃えて
 地平を駈ける獅子を見た
 激しく 雄々しく 美しく
 たて髪 虹の尾を引いて
 アアア ライオンズ ライオンズ ライオンズ
 ミラクル元年 奇跡を呼んで
 獅子よ 吠えろよ 限りなく
 ライオンズ ウォウォウォ ライオンズ
 ウォウォウォ ライオンズ ライオンズ




「う……ん? 私は一体……?」

デイバッグから漏れ聞こえる歌声に孔明の意識は引き戻された。
どうやら、倒れ込んだ拍子に中でiPodのスイッチが押されたらしい。
イヤホンから微かに漏れるだけの音ではあったが、静まり返った理科室ではその僅かな音でもハッキリと聞き取れた。

ゆっくりと体を起こした孔明は、自分の右手に握られた薬瓶を見て何が起こったのかを思い出す。
薬瓶に鼻を近づけた瞬間に、刺すような臭いに襲われてそのまま倒れてしまったことを。
そして、ここが戦場でなくてよかったと安堵するとともに、自分の軽率さを反省したのだった。

「……これは使いようによっては面白いことになるかもしれませんな」

血に汚れた鼻を拭いながら、孔明はしげしげと薬瓶を見つめる。
倒れた拍子に少し中身が零れてしまったが、まだ瓶の中は薬液で満たされていた。

「使える物は何でも使いましょう。今までもそうしてきたのですから」

物資をはじめとした国力に乏しい蜀に生きる孔明にとっては、その行動を取ることに何の躊躇いもなかった。
ふと、窓の外を見ると少しずつ空が白み始めているのが見えた。
スターリンと別れてからそれなりの時間が経っていることを孔明は理解した。

「そろそろ戻るとしますか。こちらとしてもまずまずの収穫がありましたし」

孔明は薬瓶の蓋を厳重に閉めてデイバッグへと放り込んだ。
そして踵を返し、理科室を後にするのだった。





 *      *      *





「おぉ、ようやく戻りましたか」
「済まぬな、待たせてしまったか」
「いえ、私もつい先ほど戻ったところで」

スターリンと孔明は、小一時間前に別れた地点である1階の階段の前に再度集った。

「その分では、これと言って怪しい者はいなかったようだな」
「ええ。スターリン殿もそれは同じなのでは?」
「うむ」

二人が見回った2つのフロアには、自分たち以外の誰も見つけることが出来なかった。
それでは残る1階はどうなるか、というところである。

「では早速見て回るとするか」

スターリンが先導する形で二人の男が少しずつ朝が迫りつつある校舎を行く。
そして、途中にある職員室のドアが無造作に開け放たれているのを孔明が目ざとくとらえる。

「我々が来る前にここに誰かがいた可能性が高いようですな」
「ふむ、だが私が見た場所もお主が見た場所も取り立てて人の立ち入った雰囲気は無かったようだが?」
「なんらかの事情でここをすぐに立ち去らざるを得なかったのでは?」

二人の男が言葉を交わす。

「例えば、何者かに襲われて逃げ出した……
 例えば、己が知己の姿を認めて慌てて飛び出した……いくつか可能性は浮かぶ話でしょう」
「なるほどな」

そこまで言ってスターリンは職員室を見回す。
それぞれの机に書類の山が出来ているが、それらに全て目を通している時間は無いように思えた。
それよりも、ここにいたであろう何者かの存在の方がスターリンには気になった。

「その何者かの足取りを辿ることは出来るか?」
「さぁ……さすがに私でもそこまでは」

さしもの孔明と言えど、現状で結論を導くには情報があまりにも不足しすぎていた。
しばらくは何が起こったのかを推測しようとしたが、すぐにそれを諦めた。
物事に固執せずにすぐに切り替えるということも、状況が刻一刻と変容する戦場においては必要なスキルである。

「ともかく、ここ以外にもまだこの階層には部屋があります。そこを探ってからでも結論を出すのは遅くないでしょう」
「そのようだな」

互いに目配せをし、二人は職員室を後にした。
そして、続いて目をつけたのが玄関から見れば1階の一番反対側にある部屋。
それが給食室であった。

「この部屋で最後ですな」
「うむ。ここまではこれといった収穫もないが……ここはどうだろうな?」

そう口にしながらスターリンは引き戸の取っ手に手をかけた。
カラカラ、と引き戸が滑る音が廊下に響き渡る。
ランタンを持ち上げて辺りを探ろうとした孔明が、その床に横たわる大きな影に気づいて思わず目を丸くした。

「あれは……?」

瞬間的に孔明の脳内を様々な考察が駆け巡る。
恐らくは獣の類であろうが、あのような獣は見たことがない。
すでにこと切れているのか、あるいは単純に寝ているだけなのか……
そもそも、この獣は何故ここにいるのだろうか……

「ほう、ライオンがこんなところにいるとはな」
「ライオン……」

孔明の思考を遮るかのようにスターリンが呟いた。
その言葉に、孔明も目の前の獣がライオンであるということを把握する。
そして、そういえば先刻耳にした音楽にもライオンなる言葉が出てきたことを瞬時に思い出した。

「百獣の王の縄張りとしてはあまりに似つかわしくない場所だがな。
 しかし、何故ライオンがこのようなところに……?」

ここまでお互い以外の参加者と遭遇していない孔明とスターリン。
二人は共に、この獣が自分と同じ参加者であるという考えには至れずにいた。
それは、寝そべるサバンナの立派なたてがみが二人のしているのと同じ首輪を完全に覆い隠していたのもあったし、
さらにはサバンナが無意識のうちにデイバッグを抱える格好で寝ており、二人の視界に入らなかったこともあった。

「恐らくはあの猛獣を解き放って混乱を拡大させようとしているのでは?
 仮に殺し合いに反目する者たちによって戦況が膠着状態に陥った際には何らかのきっかけが必要でしょう」
「一理あるな。それを我々が先に発見した、というわけか」

一応の仮説を立て、それを孔明がスターリンに提示する。

「……だが、先に発見したのは僥倖であったな。ライオンなど時間があればどうとでもなる」
「どうなさるおつもりで?」

孔明の問いかけに対し、スターリンは傲慢な笑みをその顔に湛えた。

「簡単な事よ。手懐けて我が手駒の一つとする」
「言うことを聞かなければ?」
「その時は、これだ」

そう言って懐からトカレフを取り出す。
そのままスターリンは探るような言葉を孔明に投げかける。

「それとも、何かあの獣をもっと容易に我が配下に加えられるような、そんな"罠"でもあればいいのだがな」
「罠、ですか……」
「うむ。弾薬は限られておる。なれば、出来ればこんなところでは使いたくない……そうであろう?」

いわば、スターリンはここで孔明をテストしようとしていたのだった。
その頭脳は先程見たコミックのような切れ味を持っているのかどうか。
さらにはそこで自分に本当に忠誠を尽くすような男であるのかどうか。
それらを同時に見極めようとしていたのだった。

幸いにして、二人がやって来たことにも気づかずにサバンナは大いびきをかいて眠りこけていた。
むむむ、と孔明はひとしきり考えに耽る。

「……分かりました。ここは私にお任せください」

自分が試されているということを察知したうえで、孔明はニヤリとした笑みをスターリンに向けたのだった。



【A-1 学校・給食室/一日目・早朝】

【孔明@三国志・戦国】
[状態]:健康
[装備]:Pod@現実
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、黒の教科書の毒物@コピペ(現地調達)、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本:蜀に帰る
1:スターリンに従い、対主催の策を練る。
2:手始めに、目の前の猛獣を従えるべく策を練る。

※共産主義の素晴らしさを刷り込まれつつあります。


【スターリン@軍事】
[状態]:健康
[装備]:トカレフTT-33(7/8)
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本:ファシストを倒す集団のトップに立つ
1:疑わしきものは粛清する。
2:目の前のライオンを手駒に加えられるものなら加える。
3:孔明が本当に使える男であるか試したい。

※1942年初めあたりの参戦です。日本人はファシストとみなされる可能性があります。
※図書室で三国志@現実を読みました。孔明の出自をある程度把握しましたが、誇張もあるかもしれないと考えています。


【サバンナ@AA】
[状態]:健康、満腹、熟睡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ぞぬの肉@AA、UZI@現実(32/32)、UZIの予備マガジン
基本:生き残る
1:zzz......
2:ゆっくり休んでから確実に倒せそうなヤツを探す。
3:ぞぬの肉とやらは後の楽しみにとっておこう。

※巨大エビフライ@AAは、尻尾まで残らず食い尽くされました。
※学校の給食室の食材が食い荒らされています。

※学校2階の理科室に血痕(孔明の鼻血)が残されています。

【支給品・現地調達品紹介】

【ぞぬの肉@AA】

    / ̄ ̄ ̄ ̄\
  /     ●  ●、
  |Y  Y        \
  | |   |        ▼ |
  | \/      _人.|
  |       ___ノ
  \    ./
   | | |
   (__)_)

2000年4月に立てられた「コンビニの唐揚げって……」というスレが発祥。
「唐揚げの殆どは☆国から輸入している食用☆ぬの肉」というレスに対し、「四国から輸入したぞぬの肉」というレスが付いて誕生。
以後、そのスレはぞぬの詳細設定を煮詰めるスレへと発展した。
そこで決まった設定はだいたい本編でも語られている。
ぞぬを絞める時の声が聞こえる夜は怖い、という怪談めいた設定も。
一般に知られるぞぬのAAは、マンガ「あずまんが大王」に登場する忠吉さんという犬に足を付け加えたもの。


【UZI@現実】

イスラエルで誕生した短機関銃(サブマシンガン)。使用弾薬は9mmパラべラム弾。
第二次世界大戦後に作られ、当時の低い工業水準を逆手に取って少ない部品で構成され大量生産された。
その大きさ(47センチ)の割に重量は4キロ近くあるが、その分射撃で腕がブレにくいとされる。
とはいえ、それでも命中精度は高くなく、現在は少しずつ後継機に取って代わられている。
原作「バトル・ロワイヤル」でもウージーの表記で登場、灯台の惨劇を演出した武器の一つとなった。
32発装弾されており、予備マガジンも1つ付いている。


【三国志@現実】

横山光輝によって描かれた全60巻の漫画。
蜀の国にスポットを当てた「三国志演義」をもとに、氏独自の解釈も加えられた超大作。
45巻で劉備が病死して以降は、孔明が実質的な主役となっている。
現在でもその影響力は大きく、本編でも採用したような様々なAAが作られている。
学校の図書室に置いてあるところもあるとか。


【黒の教科書の毒物@コピペ】

理科室で教師の手伝いをしているうちに、自分が化学の天才と勘違いしちょっとした騒動を起こしたという厨二病的コピペが元。
毒物の正体はコピペでは明かされていないが、刺激臭のするものであるのは確かな模様。
理科室に置いてあるような物から推察するにアンモニアじゃないかなぁ、と筆者は思うのです。エンッ!!!


No.57:Knight of Nights 時系列順 No.59:意思が混ざり合う時、事件は起こる
No.57:Knight of Nights 投下順 No.59:意思が混ざり合う時、事件は起こる
No.18:バトルロワイアル?サバンナでは日常茶飯事だぜ! サバンナ No.87:試される……
No.36:同志スターリンと語らい合う軍師孔明 孔明 No.87:試される……
No.36:同志スターリンと語らい合う軍師孔明 スターリン No.87:試される……