第3章(99-150)

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99:SDT
―――それから数日が経った。日々の訓練はあの体力測定や補修と同等以上にキツいが、苦痛ではない。みんなで一緒に強くなれることが、俺は何よりも嬉しかったからだ。そして…今日は日曜日。
ようやく安心して休めるな。「さて、有意義な休日にするとしよう」そう言ってゲーム機の電源を入れようとすると…コンコンコン。誰かが部屋の扉をノックした。「? はーい。」「カゼタロー、
入りますわよ!うっ…ご、ごほっ!なんて汚い部屋ですの!?」…うるさいのが来たな。「なんだ、お前か。悪いが俺はこれから二次元の女の子と「早く来てくださいまし!」「い、いたたたた!!
折れる折れる!」俺は馬鹿力で腕を引っ張られ、無理やり廊下に引きずり出されてしまった。「一体なんなんだ?」「recreationですわ!」はぁ?「ほら、このクラスの皆さん…まだあまり打ち解け
られていないでしょう。自分の部屋に閉じこもってばかりで。」まあ、確かに。一週間足らずで打ち解けられる奴のほうが異常だとは思うが。「いけませんわ、そんなことでは!戦場で背中を預けら
れませんことよ!」「…だから、休日くらいはみんなで一緒に遊んで仲良くなろうと?別にいいけどよ。何をするんだ?」「ふっふっふ…驚きなさい!コレですわ!」姫君がドヤ顔で取り出したるは
………ピコピコハンマーとヘルメット。う~む、冗談なのか何なのか。


100:カイロ
「さあさあ、他の方々も既に下の広間でお待ちですわ!あなたも準備できたらすぐにいらっしゃいな!」そう言ってお嬢様笑いを残してサファリナは部屋から出て行った。「・・・やれやれ、しょうが
ないな」特に断るような理由も無いし、折角交友を深める場を設けてくれたのだ。参加しないと言うのは無いだろう。俺はすぐに着替えて、サファリナの後へと続く事にする。
「遅いですわよイチタロー!」「カゼタローな」サファリナのボケかマジかわからんものに華麗にツッコミを返しながら広間に到着。どうやら既に俺以外は揃っているようだ。・・・帯刀を除いて。
まあ、これまでから察するにあいつはこのテの事は好かんタイプだろうし、仕方ないか。「不参加の方を除いて、これで全員集まりましたわね。―――さて、それでは皆様!今日は思う存分、コレで
友好を深めて参りましょう!」そう言いながら、人数分のハンマーとヘルメットを・・・って、今日一日アレだけで遊べってのか!? テイのいい拷問だろ!? 子供も泣いて叫ぶわ!!


101:ウツケ
他の者も同じ考えだろう。一様に中途半端な顔を見せている。い、いや、なんであれ全力で遊べば楽しいはずだ。ひとたびこの御令嬢にくれてやった時間だが、ムダにしたくはないぞ。「お、お前ら!
そんな顔すんなよ!赤信号みんなで渡れば恐くない、だ!い、いや違うか。クソゲーも笑い飛ばせば楽しめる!か!」やや失言。姫はぐぬぬ顔だ。「……フー」ため息のような声を漏らしたのは彼。
「体力測定の時に全くの役立たずだったツエブチか、どうした?」「ううるせぇよ!やるならなぁ、なんか賞品でもあんだろぉ?くだんねぇモンなら、俺ぁ帰るぞ。」「うーわ予感はしてたがアレか。
ゲンキンな奴かお前」「ううるせぇよ!」まぁまぁとなだめつつも、サファリナが言う。「ご心配なく、とびきりをご用意してますわ!」「ふーーん」ウザい奴だこいつ。杖渕誠、ウザい奴だぞ。
「おいおい考えても見ろ、お姫様のトビキリだぞ。つったらやっぱ胸元の」「ではルールを説明しますわ!まずヘルメットとハンマーを卓に置き、1対1で簡単な勝負を始めますわ。」下ネタに間髪
入れず身振り手振り交えた説明が始まった。「その勝負の敗者はヘルメットで防御、勝者がハンマーで攻撃!攻撃に成功した者は得点、防御に成功すればやり直し、そして防御に失敗するか、間違った
アイテムを取った者は罰として失点しますわ!」説明を終えると得意気なお姫様の顔。「いかがかしら?たたいてかぶってジャンケンポンとは違うのですわ!たたいてかぶってジャンケンポンとは!」


102:SDT
「で、"簡単な勝負"ってのは?」「それはですわね、例えば井戸と石と鋏を…」結局ジャンケンかよ!―――ひとしきりルール説明が終わり、さっそく対戦を始めることとなった。順番はくじ引きで
決める。結果、最初のカードは跡追VS編笠だ。「ふ、ふふふ、ふふ…」「…やり辛ぇな」跡追はこのゲームを嫌がるかと思ったが…。向かいの席に座った編笠をチラチラと覗き見て、
とても楽しそうにしている。ああそう言えばあったな。そんな設定も。「なぁ黒葛。あの二人って、入学式?の日に何かあったのか?」「私も知らん。ただ、推測はできる。編笠が跡追を助けたとか、
跡追が編笠に命を救われたとか、そういう類の話ではないのか」まあ、普通に考えればそうだろうな。しかし、屍を代わりに倒してもらって入学…?「お二人とも、試合に関係のない私語は謹んで
くださいまし!」「へいへい」…少し引っかかるが、こんなのは本人に聞けば済む話だ。今は試合を見るとしよう。「第一回戦、始めますわよ!レディーーーー…ゴー!!」「「最初は、グー、
ジャンケンポン!」」「…はぁっ!」ポカッ!「ひゃいっ!!」「ふっ!」ポカッ!ポカッ!…やはりというか、なんというか…。あっという間に編笠が三本先取し、第一回戦は終わりを告げた。
「ふふ、ふひゅぅ…。」試合の敗者は、心の底から満足げな顔で床に寝転がっている。間違いない。跡追、お前は変態だ。


103:カイロ
・・・さて、次は阿部野VS郁山か。阿部野の方はこの前の体力測定で何か技のようなものを使っていたようにも見えたが、あまり近くもなかったのでイマイチどんな奴かよくわからん。郁山の方は
槌を使うという事以外はよくわからん。「…なるほど、よくわからん」改めて俺はこのクラスの奴らの事を良く知らないという事を認識する。共に命を賭けて戦う仲間の事を知るためにも、こいつら
の実力を見せて貰おう。…内容はお遊びではあるが。「お二方、準備はよろしくて? いきますわよ、じゃんけん、ポンッ!」阿部野はグー、郁山はチョキを出した。郁山が素早くヘルメットを被り、
阿部野の攻撃から身を守る―――! が。「そりゃーッス」阿倍野はお構い無しに拳で郁山の頭部めがけて拳を振り下ろし、ヘルメットは粉砕した。「よっしゃ、倒したッスよ」阿倍野はガッツポーズ
を決めている。「いやいや!そういうゲームじゃねえよコレ!!」思わずヤジを飛ばしてしまう。「でも、ちゃんとグーでやったッスよ?」握り拳をこちらに翳す。「いやだからソコじゃねえって!」


104:ウツケ
「いだだだ……ほいで、どないしたらええねん、コレ。」砕け散ったヘルメットのアゴひもを持ったイクヤマが言う。というかイクヤマ、お前関西弁だったのか。「勿論ヘルメットが使えなくなった者
は、次負ければ敗退、ですわ。」「え、なんやそれ、むちゃくちゃや~」ほう、案外シビアなルールだな。まぁ半分とは言えあのクソ重い球を発泡スチロールのごとく持ち上げる女がこのお姫様だ。
これからの対戦でヘルメット如きが耐えられるはずがないし、あらかじめ考えてやがったな。「ちょっと待て」「む、どうしたアミガサ」「お前じゃねぇ」ははは辛辣じゃないか。わかってるさ……。
「阿倍野が道具を使ってないが?」「そうですわね。しかしアイテムを使わなくてはならないとは言ってませんわ!」場が一瞬凍り付いた。「……わかったよ。」「よろしい。では第二回戦再か」
「終わったッスよー。」「ぐあああああああ目ぇがああああああああ」そこには両目をおさえ転げ回るイクヤマと真顔でピースしているアベノがいた。次は……やれやれ、俺の出番か。


105:SDT
阿倍野・郁山に代わり、俺とその対戦相手が向かい合って座る。井崎深緋。こいつも読めないな、今のところ。「よろしくです」「お、おう」…しかし、近くで見ると意外に可愛い。体つきもなかなか
のものだし、赤みを帯びた髪もセクシーだ。う~む…「…何見てるんです?」「はっ!ああ、悪い悪い。ちょっとお宝の鑑定をな」「別にいいですケド。減るもんじゃないですし」愛嬌はイマイチ、と
。「それでは始めますわよ!じゃ~んけ~ん…」「「ポン!!」」試合開始のゴングが鳴った。初手は俺がグー、井崎がチョキ。すぐさまハンマーに手を伸ばし、井崎の頭を叩く。「ピコッ!」攻撃成
功だ!「悪いな、井崎。俺は平等主義者だからな。女でも手加減はしねぇ」「……………」井崎は相変わらずポーカーフェイスを保っているが、体がワナワナと震えている。そんなに悔しいのか…。仕
方ない、一発ぐらいは殴られてやるとしよう。「じゃんけん、ポンッ!!」俺の手はグー。井崎はパー。さぁかかってこい!「バチーーーン!!」…バチーン?おいおい…道具を扱えない原始人が、阿
倍野以外にもいやがった…


106:カイロ
「よくもやってくれやがったですね・・・ 私は、負けるのだけは御免なんですよ」さっきまでの可愛げがどこかへ吹き飛んでしまったのか。井崎の放つオーラはまるで修羅のものかと見紛う程だ。
「死んでもらうですよ、次こそ」な、何故だ。なんで楽しい楽しいゲームパーティーだったはずなのにどうして俺は初戦からこんな殺意をぶつけられねばならんのだ。「く、クソッ!こうなった以上は
やってやろうじゃねえかっ!」本当に殺される事は無いと思うが、負けたら何をされるかわからん。どんな手を使ってでも勝たねば…!「じゃんけん、ポンッ!」俺はパー、井崎はチョキだ!井崎の
チョキがそのまま目潰し攻撃として突っ込んでくる!俺は素早くヘルメットを盾の如く持ち、迫り来る井崎の指を盾で弾く!パリィ!大きく井崎の体制が崩れ胴ががら空きになる!すかさず俺は井崎の
胸部へとタッチする!「きゃー!」「どうだ姫!これは俺のカウンター扱いで一本くれてもいいだろ!」サファリナは呆れたような顔で溜息をつく。「ダメですわ。今のはノーカウントでもう一試合
なさってください」


107:ウツケ
ちっダメか……いわば姫自体がルールなこの現状、彼女を味方に付ければ決着、とも思ったが、今は勝負に集中だ。「~~~!!」ぐっ目を合わせられない!凄まじい殺気の視線!どうやらうら若き
乙女を本気で怒らせてしまったようだ。体力測定のときの、あのキツネみたいな屍を思わせる重圧が今俺一点に集中している。「やるですよ、じゃんけん!」手首から先が緊張する!このままでは!
気圧されて何も出せず、負ける!「……では、いきますわ!」姫のかけ声と共に、互いに構えを取る。「じゃん!」一層、気迫が鋭くなる!「けん!」何を出せば良い!?考えなければこの手は握り拳
のまま、グーを突き出すだろう。ならば……そうだこの手なら……圧し勝てる!「「ホイ!!」」……静寂。「なんです?コレ。」皆きょとんとしている。俺はにやっと笑ってみせた。「これは……
”グッチョッパ”だ……」ご存知だろうか。じゃんけんにおける無敵の一手。親指人差し指中指だけを伸ばす簡単な一手ぇっ!?「反則負けです。これはペナルティコミコミです。」強烈にこちらを
見下す井崎による強烈な金的……「がっ……ふあっ!き、効いた、ぜ……!」だが、「立てるんですね。」ツヅラ程じゃ、ねぇな……「わ、悪かったよ……!」俺はピコハンを力なく握りしめた。
こらえろ……こらえろ!「こっここ、からは……正々堂々、やって、やる……!!」


108:SDT
今の反則負けにより戦績は1勝2敗。王手をかけられてしまった。しかし、反射神経は井崎よりも俺のほうが上のはず。集中すれば勝てない相手ではない。「ふー………」俺は大きく息を吐き、神経を研
ぎ澄ます。集中だ、集中…「早くしてくれないですかー?」「…よし!!」しばしの瞑想により雑念は消えうせ、急所の痛みもだいぶ治まってきた。これなら…勝てる!「「じゃ~んけ~ん……」」大
丈夫だ、勝てる勝てる勝てる…「「ポン!!」」グー対チョキ。俺の勝ちだ。「うらぁあっ!!」ピコッ!頭を叩かれた井崎の髪が乱れる。「………チッ」おぉーい、怖いな!「これで2勝2敗ですわね
!わたくしもどちらが勝つのか、ドキドキしてきましたわ!」よし。あと一勝、あと一勝…「「じゃんけん……」」「「ポンッ!!」」俺の手はチョキ。井崎はグー。俺は例のごとくヘルメットを構え
、井崎のゲンコツを防ごうとした、のだが。"ビュオォオオォ!!"「うおっ!?」「私の勝ちです」井崎がテーブルの下で操っていた法具の力により、ヘルメットを吹き飛ばされ…
ボカッ!!――――こうして、たたいてかぶってジャンケンポン大会、第三回戦は…俺の敗北により幕を閉じたのだった。


109:カイロ
「いい勝負でした。なかなかやるですね」井崎が俺へ握手を求め手を差し伸べてくる。当然俺もそれに答え握り返す。「・・・ああ。お前も、なかなかやるじゃないか」この一戦を通じて俺と井崎の
仲が深まったような気がする。まるで河原で殴りあった後に互いを理解し友情を深める不良と不良のようだ。「・・・古くないか? その表現」編笠が俺の思考にツッコミを入れてくる。うるせえ、
別にいいじゃねえか。「いやはや、とてもお遊びとは思えないような真剣勝負、見事でしたわ。次の勝負にも今のような熱い戦いを期待しております。さて、次の選手は・・・」「次は、俺とアンタの
試合だな」左門が手の指をパキパキと鳴らしながら歩み出てくる。「あら、もうわたくしの出番でしたか。ではわたくしのかわりにどなたかチンパンを…」「審判な」「ええ。ではカゼタローに審判を
お願いしますわ」ちょっと間違いを指摘してやっただけなのに面倒事を押し付けられるとは。いやいやもしかしたら審判を任せてもらえる程に信頼してくれてるって事か?


110:ウツケ
「フフ……任せな!」胸をドン、と叩いてやると二人は戦闘体勢に入る。ん?戦闘体勢だと?「ハンマーなんかでやれんのか?」「威力なんて必要ありませんわ。私が道具で攻撃するのは手加減する
ときのみ……。」「ヘェ、舐められたもんだな。いいぜ、俺もこいつでやる。」とてもお遊び中の会話とは思えないが……まぁいいか。「い、いくぞ!最初は、」「「グー!」」「じゃん」「けん」
「ホ」手が出たと思われた瞬間、爆音が巻き起こり、衝撃が室内を駆け巡った。そう。俺がゴングを鳴らしたのはたたいてかぶってジャンケンポンなどではない。もはや殺し合いだ。「……いや、
じゃんけんだ。見ろ。」アミガサが解説に入った!?「「ホイホイホイホイホイホイホイホイホイ!!」」「あ、あいこだわ!あいこを何度も続けている!空間が歪んでよく見えないけど、拳を何度も
ぶつけ合ってるわ!」ツキミチまで入ってきた!一体全体どこの世界の天下一武道会だ。「そろそろ一戦目が終わる。」アミガサの予告通り、一際大きな音の後、刹那の静寂を生む。今、俺も確か
に見えた!サモンの拳が手のひらで止められている!「もらい!」ハンマーがサモンの顔面に振り「ましたわァ!」抜かれた!!サモンは吹っ飛び、後ろにいたイクヤマに直撃した!「ぐえぁっ!!」


111:SDT
シーンと静まり返る広間。しまった、というような表情の二人。状況を理解すると、その場にいた全員が慌てて郁山の元へと駆け寄った。「…大丈夫か郁山!!」「お気を確かに!」「早く救急車を!
」「いや、霊柩車だろ!」「まだ死んどらんわ!あいててて…」ボケに突っ込む元気はあるようだな。特に外傷なども無いようだし、ひとまず安心だ。「本当に申し訳ないですわ…」待て待て待て。謝
れば済むという問題じゃない。ここは審判からひとこと言わせてもらうぞ。「お前ら、普通にジャンケンをしろ!普通に!」「だって…」「だってじゃない!死人が出たらどうすんだ!」左門の体格や
吹っ飛んだときの勢いを見るに、激突の衝撃は相当なものだったはず。死人が出るというのもあながち冗談ではない。「とにかく!次からは普通にやれよ。暴れたきゃ模擬戦闘場を使え」「は~い…」
「仕方ねぇな…」両名ともかなり不服そうだ。しかしまあ、次からは安全な勝負になるだろう。――――「それじゃあ始めるぞ!」皆が元の席に戻り、試合を再開する。


112:カイロ
「じゃーんけん」今度はお互いゆっくりだ。幸い軽傷で済んだとは言え、怪我人を出してしまったのでは楽しいゲームとは呼べなくなってしまう。それを二人とも理解してくれたという事だろう。そう
だ、あくまでこれは交流を深めるのが目的であって真剣と書いてマジと読むような勝負をするための試合ではないのだから。「ぽん!」今度も姫の勝ち。姫がチョキで左門がパーだ。「ヘッ、遅いぜ!」
姫が前方へと手を伸ばすが左門は既にヘルメットを装着している。…が、そんな事をお構い無しに姫の手が左門の方へと伸びていく。しかも両手。そしてそのまま、左門の腹の辺りに両手を回し、抱き
締める形になっている。…ん? これって、まさか。「おっ? オイオイ何だよ何だよ、やけに情熱的じゃねーか。もしかして俺に惚れちまったか?」「左門!今すぐ抜け出せ!もしくは歯を食いしばれ!!」
咄嗟に叫ぶ。が、間に合わない!そのまま姫が左門を抱き上げ、ブリッジの体勢へと持ち込み、床へと叩きつける!凄まじい衝撃と共にヘルメットが砕け散る音が響き渡った―――!


113:ウツケ
「カゼタロー、技をお借りしましたわ。」やっぱりか……あの時しっかり観察されてたようだ。「くそ……やっぱりやるな……」サモンは必殺のスープレックスを喰らいながらも両手を床に付けている
……受け身か!素早く飛び起き、首をコキコキと鳴らす。「メットがなかったらトンでたぜ。」「なかなか頑丈ですこと。」「こちとらタフさだけが自慢でな。」「でも、次で終わりにしますわ。」
姫が再び構えた。「させるかよ。」それに続いてサモンも構える。しかしこうして見ても姫の身体能力はずば抜けている。今の流れるような動きは実に素晴らしかった。俺もあのあふれんばかりの
プロポーションに抱きつかれたら思考停止してしまうだろうし「早くしろよ」「あだっ」アミガサのチョップに俺の思考を遮られた。「くっ、じゃあいくぞ!最初はグー!」「「ジャンケンほい!」」
サモンはチョキ、姫がパー!「きたな!はぁあ!」迫るピコハンをヘルメットでかわそうとする姫。しかし!「そらよ!」フェイント攻撃!そのときピコッという平和な音がとても懐かしく思えた。


114:SDT
これで左門は1勝。俺の試合ほどじゃないが、なかなかの名勝負だな。「さあ、勝負は次で決まってしまうのか!それとも左門が怒涛の逆転劇を見せるのか!!」実況にも自然と熱が入る。「暑苦しい
ッスよ…」「盛り上げたほうが楽しいだろ!」シラけている阿倍野は放っておいて、次の勝負を始めよう。「「じゃん、けん…」」まるで剣豪の立会いのように、周囲の空気が張り詰めていく。
そして…「「ポンッ!!」」…お互いの手は、チョキ対パー。姫の勝ちだ。ヘルメットが残されていない以上、左門に姫の攻撃を防ぐすべはない。「楽しかったですわ。」「ああ、俺もだ…」ゆっくり
とピコハンを振り上げ―――ピコッ!第四試合は、姫の勝利に終わった。やはり主催者は強しといったところか。「おーっほっほっほ!!まあ、当然ですわね!」「そりゃヘルメットを壊せば誰でも…」
「何か言いまして!?」「いや、別に?」誰かが試合内容に異議を申し立てたようだったが、恐怖政治によってその異議はかき消された。次の試合は…杖渕VS皿井だな。言っちゃ悪いが、地味な試合
になりそうだ。


115:カイロ
「はっ、こりゃまた随分と楽に勝てそうだな」杖渕と皿井が向き合うやいなや、早速互いに挑発を始める。「くっ、クククっ、やたら余裕そうじゃないの。そんな事言っといて、あっさりと負けたら
さぞ面白いだろうねぇ、クヒヒヒッ」「調子づいて貰っちゃ困るなぁ。俺って実はこういうゲーム、凄い強いんだよねぇ。ま、目立つのって好きじゃねえから自分から見せびらかしたりはしないんだ
けどさぁぁ」互いの煽り合いが激しさを増してくる。相手を怒らせて冷静な判断力を失わせ、自分に有利な試合を作ろうという作戦か。勝負の前から試合が始まっている、とでも言えば聞こえはいいが
やはり予想通り地味だ。「あーだめだめ無理笑うってこんなの・・・くくっ、…そ、そんな自信あるならやっぱりストレートに3勝するつもり?」「フン、お前くらいの相手なら当然完全勝利で決着に
決まってるだろ? …まあ当然俺が勝つわけだから、なんだったらそっちが一本でも取れたらお前の勝ちって事でもいいけどぉ?」それを聞き、皿井の口元が三日月の如く歪む。「男に二言は無いね?」


116:ウツケ
すこしだけ、雰囲気の変わった声色にツエブチは戸惑っている。「ヘイヘーイ!怖じ気づいたか!?」「ううるせぇよ!」こいつのことはとにかくいじってやろう。「では参りますわ。いざ尋常に!」
「じゃんけんぽん!」「ぶぁ!っひゃはひゃひゃひゃひゃ」ピコッ!「じゃんけんぽん!」「ブフゥおっはふふふひーっ!」ピコッ!「じゃんけんぽん!」「ぐっ……うひーッヒヒヒヒ!!」ピコッ!
「勝者!杖渕誠!」なんだったんださっきのやり取りは。「うぅっはひひ……変顔は卑怯だょうひひひひ」「沸点低すぎんだよォお前はよォーハハハハ!」「うわぁ、なんて大人げない奴。」おっと
口が滑ってしまった。「ううるせぇよ!」しかし出番が来るまで皿井の勝つビジョンが見えなかったのも事実。にらめっこで完封なんて俺でも思いついたことだ。「ではお次に……コユキとカグヤ、
前にいらっしゃい。」「その前に良いかしら?」手を挙げたのはツキミチ。「なんですの?」「さっき説明で、例えば……って言ってたわよね。これってじゃんけんを例えてるんじゃなくて、”簡単な
勝負”の一例としてじゃんけんを出したんじゃないかしら。」観衆がざわつき始める。「何が言いたいんだ?」俺は真意がわからず、つい口を挟んだ。「このままじゃマンネリだから提案するのよ、
新しい”簡単な勝負”をね。」「何、そんなのありかよ!」「仰るとおりですわ。相手がよければ、ですが。」ありだったのか!「私は別に構わないが……」「じゃあこの新品のトランプを使うわね。
まずこれをお互いにシャッフルして2つに分ける。それから二人は自分の山札から一枚ずつ引く。表返してその数の大きい方が勝ち。最後にハンマーで叩けば一本。以上よ。」なるほど、簡単だ。


117:SDT
「それじゃあ、さっそく始めましょうか。」「ああ。」月道はトランプを箱から開け、慣れた手つきでザザーッと机に並べてみせた。「このとおり、正真正銘の新品トランプよ。」確かに、何も無さそ
うだが…「待て。念のため、私が一枚ずつ確認してもいいだろうか?」「ええ、どうぞどうぞ♪」…黒葛の奴、意外にガチだな。遊びとは言え、負けず嫌いの血が騒ぐようだ。――――…パチ、パチ、
パチ。「特におかしなところはない。」「でしょう?」さすがの月道も、未開封トランプに細工をすることは出来ないか。しかし、この勝負は月道が自ら申し出てきたもの。どんな罠が隠されているか
わからない。「黒葛ーー!、気ぃつけろよー!!」「集中しているんだ!大声を出すな!」せっかく応援してやったのに、なんだその態度は。「うるさいのは放っておいて、ゲームを始めましょう」「
同感だ」…俺が放っておかれたところで、ゲームは始まった。「では、いっせーのせ!でカードをめくってくださいまし。」「カッコ悪くないか?」「うるさいですわよ、カゼタロー!」はいはい。黙
ればいいんだろ、黙れば。「「いっ、せーの…」」バッ!!山札の一番上のカードを、素早く表返す。黒葛のカードは4。月道は7。即座に月道がピコハンを構えるが、黒葛のほうがわずかに早く、ピコ
ハンはヘルメットにピコッと命中した。「ふ。残念だったな」「なかなかやるわね~、小雪ちゃん」この二人…反射神経は、ほとんど互角と言ったところか。


118:カイロ
と言う事は勝負が長引く事になるに違いない。互いに常人ならば見切る事のできないほどの速度から繰り出される攻撃と防御が幾度と無く両者の間を迸る。流石は俺達と同じように対屍用の戦闘訓練を
受けているだけあってか互いに一歩も譲らぬ攻防が続く。だが当然、この世に永遠なんてものが無いように、勝負にもいずれ決着は着く。「頂いたッ!」十数回目辺りの勝負で、黒葛の一閃が月道の
頭部へとハンマーを直撃させる。「フ、まず一本だ」「・・・ちょっと油断してたよ。ホントはやるつもりなかったけど、こっちも全力でやらせて貰おうかな」そう月道は言い放ち、それが本気の証と
言う事なのか、両手に女の子らしい可愛い文字で「必勝」とプリントされたリストバンドを装着する。…逆じゃないのか。普通なら最初からリストバンドはめといて取るもんなんじゃ無いのか、等と
どうでもいい事につっこんでしまった。そんな俺の考えを知ってか知らずか編笠の口から溜息が漏れる。「小雪ちゃんにゃ悪いけど、こっから先はわたしのパーフェクトよっ!」自信満々に月道が叫ぶ


119:ウツケ
「な、何を言ってるかわからんな……」ツキミチの発言はそれまでの空気をがらりと変えた。「じゃあ、いくわよ~」緊張が伝染する。次々に観衆が固唾を呑むその最中、その中心に立つツヅラへの
プレッシャーは計り知れない。更に幾何度も続くこの闘いで互いに集中力は切れかけの筈なのに、今の宣言でツヅラは動揺してしまっている。このままでは勝てない!「おいツヅラ!」「いっせっ……
えっ?」「それっ!」可愛らしいハンマーの音がツヅラの頭頂で破裂した。オープンしたカードはそれぞれツキミチがK、ツヅラが8。「一柳貴様……」「あ、あのーあのー、ごめんちゃいっ☆」
カワイコぶって謝っても怒りの視線は止まらない。というか一層強まった。「ふふふ、油断は禁物よ。」しかし、今のが功を奏したかツヅラの緊張はほぐれた様子ように見える!一本は取られたが!
「ちょっとカゼタロー、妨害はやめてくださいまし。」「す、すまん。タイミングが悪かったのだ」そうこうしている内に次が始まった。「「いっせーの!」」ツヅラのカードは、J!ツキミチは……


120:SDT
クイーン!「頂きっ!!」「なんの!」パコッ!今度は黒葛も防いだ。よーし、いいぞ!勝負はまだ五分五分。どちらが勝つかはわからない。もっとも、さっきのような心理攻撃がなければ…の話だが
。「ねぇ、小雪ちゃん……」ほら。また始まった。「黒葛ーー!ムダ話に付き合ってやることはないぞー!!」「……………」黒葛は、『言われなくともわかっている』とばかりに沈黙を保っている。
しかし、月道の次の一言を聞いた瞬間。どうやら黒葛は、黙っていられなくなったようだ。「…一柳君とは、"どこまでいった"の?」………は?俺?「…何の話だ?」「またまた、とぼけちゃって~。
毎朝部屋まで起こしに行ってあげてるくせに~!」「毎朝などではない!」「へぇ~、じゃあ一回は行ったんだ?」「……っ!!」今のやり取りを聞いて、ギャラリーがざわつき出す。みるみる赤くな
っていく黒葛。お、おいおい…これは…「見ちゃったのよねぇ。あなたが嬉しそう~に一柳君の部屋に入っていくところ」―――その後の試合内容は、もはや語るまでもないだろう。宣言どおり月道は
パーフェクトに勝利した。しかも、俺と黒葛にすさまじい辱めを受けさせて。


121:カイロ
俺の方にはそこまで傷は無い。だが、黒葛の方は朱に染まった顔を俯けて、瞳はうるうるとしており今にも涙が零れ落ちてしまいそうだ。ここはなんとかして俺が元気付けてやらねば。「心配するな
黒葛。お前のカタキは俺が取ってやるさ」自分の胸に大きく広げた手を当て、心配するなと言った感じのジェスチャーを交えつつ励ます。「一柳・・・」俺の言葉に慰められたのか黒葛が瞳の涙を拭い
こちらに微笑を向ける。「・・・キミはさっき負けたはずでは?」「あっ・・・」忘れてた。「し、心配するな黒葛!お前のカタキは俺以外の誰かが必ず取ってくれる!」とりあえず適当に励まして
おく。別に俺達が何もしなくとも誰かがきっと一矢報いてくれるかもしれないという可能性に賭けて―――! 「うん、まあ、元気付けられはしたよ。ありがとう」どうやら黒葛も多少は元気になって
くれたようで安心。「さて。それではお次は編笠と阿倍野ですわね。お二方、前へ」サファリナに呼ばれ、編笠と阿倍野が前へ出てくる。「よろしくッス」「あぁ…


122:ウツケ
俺もこいつを使いたいが構わないか?」そう言うとアミガサは先ほど使われたトランプを手に取った。「え、えぇ良いわよ。」「自分も構わないッス。」なるほど……ジャンケンをすればまたそのまま
手が飛んでくるかもしれん。だからさっきのようなゲームなら安全にコトが進む、と……。「俺のは違うゲームだ。」ざわ・・・という擬音のような音が周囲を取り巻く。「道化を抜いたこいつを一枚
ずつ、審判役に引いてもらう。赤なら阿倍野が、黒なら俺が叩く。良いな」「オーケッス」む?待てよ。こいつ人の心を読めるんだから不公平じゃ……「了承しましたわ。では私にデッキを……」
そして姫の差し伸べる手を「いや……一柳に頼みたい。」止めた!なんと畏れ多いことか!って言うか、「はっ?何で俺が?」「見せ方は自由だ。嫌ならサファリナでいい。」こいつ何考えてんだ?
確実に読心のことがバレてるであろう俺に頼むなんて……「……まぁ、信頼って奴だ」「……わかったよ。」こうして第3のゲームと共にアベノとアミガサの闘いが始まった。


123:SDT
「始める前に、一応確認しておきたいんだが」「何だ?」「まず俺がカードを引く。引いたカードは"自分では見ないようにして"、編笠と阿倍野の二人に同時に見せる。…そういうことでいいんだよな
?」編笠との付き合いは短いが、それでもこいつが自分の力を悪用するような奴じゃないことくらいはわかる。ならば。この見せ方で納得してくれるはずだ。「…ああ。それでいい」うーん。もしかし
て、俺に審判を頼んだのは試合をフェアなものにするためか?「よし。じゃあ始めるぞ。阿倍野もいいな?」「いーッスよ。早くしてほしいッス」双方の準備が整い、後は俺がカードを引くのみとなっ
た。俺も気合を入れないとな…。ゆっくりと、一枚目のカードを引く。カードの絵柄が誰にも見えないよう気をつけながら、胸の前に持っていき…裏返す!即座にハンマーを手にとる編笠。ヘルメット
に手を伸ばす阿倍野。編笠のほうが速い!「貰ったっ!!」ピコッ!!「うわぁ~、やられたッス」一回目の攻防は、見事に編笠が勝利した。「速いですわね…」ポツリ、と姫が呟く。確かに、編笠の
攻撃は速い。下手したら、このままストレート勝ちということもありえるんじゃないか?「一柳クン、それはないッスよ~」「なんでお前まで心を読めるんだよ!!」「適当に言ってみただけッス。そ
れよりも、早くカードを引くッスよ」


124:カイロ
阿倍野に促され、先ほどと同じ要領でカードを引く。そして裏返すとすぐさま編笠の手がハンマーへと伸び、振りかぶる!阿倍野はヘルメットへとを伸ばすがやはり編笠の速度が上だ!防御は間に合い
そうも無い! と、誰もが思ったはずだった、しかし。「二本目・・・何っ!?」誰の目からも阿倍野の防御は間に合わないと判断できた程、編笠の反応は早かった。実際、阿倍野の頭部スレスレまで
ハンマーが迫っていた筈だったのに、"編笠の攻撃は阿倍野に届かなかった"。「あ、あれ?おい今何があったんだ」思わず俺も困惑する。そこに黒葛も続き驚愕。「・・・まさか、時間を・・・?」他の
クラスメイト達も目の前で起きた現象に驚きを隠せないようだ。一番驚いているのは編笠のようだが。「読めない・・・? 阿倍野、何をした」「なんもしてないッスよ。いやあアタシも間に
合わないと思ったッスけど、やっぱ気合でなんとかできるもんッスねぇ」偶然だと言いへらへら笑う阿倍野。しかし当然編笠は納得いかない様子だ。「まあ、いいさ。すぐ種明かしをしてやる」


125:ウツケ
頭の中はクエスチョンマークで広がっているが、これは恐らく他の皆もそうだ。しかし、俺はこの試合の審判だ。気を取り直して進なければ。「じゃ、じゃあ次、行くぞ。」「はいッス!」アミガサも
静かに頷く。カードを引き、裏返す!「赤ッス!」すかさずアベノがテーブルの物に手を掛け、攻撃を仕掛ける。「こいつで先手必勝ッスー!」使い方がおかしい。そして、遅い。この程度、アミガサ
は余裕で……何故だ。奴は微動だにしない!このままでは攻撃を喰らってしまう!「そやぁぁぁぁ、あり?」また、アベノの攻撃はアミガサの目と鼻の先まで来ていたのに。スカしたアイツの鼻血ブー
をひょっとしたら見れるかもと思ったのに、まただ。今度は逆に"アベノの攻撃がアミガサに届かなかった"。今なんとなくアミガサに睨まれている気がするが置いておこう。そして、すぐにそれとは
別の違和感に全員が気付いた。「なんでアベノの奴、ヘルメットを持ってるんだ?」「……あーっ!し、しまったッスー!」これで2対0、しかめ面で何か考えているアミガサのリーチとなった。


126:SDT
「む~…おかしいッスねぇ。あそこがああなって…ぶつぶつ…」おいおい、編笠だけじゃなく阿倍野まで考え込んじまったぞ。一体どうなってんだ?「この闘いに、何かしらの力が働いてることは確か
でしょうね。」「月道!お前、よくもぬけぬけと…」「まあ落ち着きなさいな。頭に血が上ると余計バカになるわよ」誰のせいだ、誰の。「…お前には、さっきの現象が説明できるっていうのか?」「
できないわぁ」「できないのかよ!」「想像はつくけどね。言っちゃったら面白くないでしょう?それじゃあね~」それだけ言うと、月道は自分の席に戻って行った。何がしたいんだあいつは。「もう
いいッスかぁ~?」「………」ああ。俺が月道と話している間に、編笠と阿倍野の考えはまとまったようだ。「よし。じゃあ次のカードを引くぞ…」スッ。引いたカードを、胸の前で裏返す。カードの
絵柄は…スペードのK!編笠が圧倒的な速さでピコハンを取り、阿倍野の頭に振り下ろす…かと思いきや?「はぁっ!」ピコッ!!ハンマーの破裂音は、なぜか"編笠の頭の上で"鳴った。要するに。編
笠が自分で自分の頭を殴ったのだ。し~ん。間抜けすぎる光景に誰もが押し黙る中、編笠がゆっくりと口を開く。その弁明の言葉は…「……ちょっとした冗談だ。忘れてくれ」いやいやいや!本当にお
かしいだろ、この試合!「今のはペナルティですわね。」「む…」そういうわけで、阿倍野に1点が入ることとなった。


127:カイロ
間抜けな姿を見せた編笠だったが、当の本人はあまり気にせず落ち着いている。そして、腕を組みながら目を細め、阿倍野へと視線を集中させた。「…今ので、お前の手の内は大体読めた」編笠は更に
言葉を続ける。「物事の結果を逆転させる…そういう術か何かだろうな。防げないはずの攻撃を防いだのも、それだろう」「そんな難しい話されてもよくわかんないッスよぉ。ジュツとかも使った覚え
無いッスしぃ」とぼけているような本気で困惑しているようなどちらとも言えるような微妙な口調で阿倍野は答える。確かに編笠の言う通りだとすると、先程のおかしな攻防もその術の力と考える事も
できそうだ。「ま、いかさま自体は気にしないさ。タネさえ割れれば怖くない。お前もそう思うだろう?」イカサマ、と言う部分を強調し、阿倍野以外の誰かに編笠は問いかけた。返答はない。あの
口振りから考えると他の誰かも何かやっているという事か?「…之も、中身が解れば後は簡単だ。"成ってほしい状態と逆の事"をすればいい。…さて。話はここらで切って、続けるとするか」


128:ウツケ
「よーし、勢いで逆転勝ちッスよ~」「お、おう。じゃあ行くぞ。」よくわからんがひとまずやることはやらんとな。カードを見えないように胸元へ持って行き……ひっくり返す。すぐにアベノが動く。
赤か!「ほぁぁぁあ……っ!」だが今度は仁王立ちのアミガサ。対してアベノは何故か立ち止まる。「どうした?」「うーん……ダメッス。」アベノの攻撃は終了してしまった。何の勝負だこれは。
次の回、カードを返すと……「終わりだ」静かな宣告。黒だな。「ふふ、それはどうッスかね~」するとアベノはアミガサを真似してか仁王立ちでドヤ顔を見せている。おいおい堂々巡りじゃねぇか?
「例えば、こうする。」アミガサがおもむろにピコハンを放った。軌道はアベノ……から少し逸れている。何かを悟ったかアベノがニヤリ。アミガサもニヤリ。
「楽しかったッス」「ああ、俺もだ……。」おいこらパクりだぞ。床に落ちるかと思われたハンマーはアベノの頭上で音を立て、摩訶不思議空間バトルに終止符を打たれた。


129:SDT
――阿倍野の力について色々と聞きたいことはあるが、ひとまず俺たちはトーナメントを進めることにした。阿倍野の試合はもう無い。あのことについては、後でじっくり話せばいいだろう。「それで
はカゼタロー、頼みましたわ。」「ああ、任せとけ」俺の審判役もだいぶ板についてきたな。次の試合の対戦カード。井崎と姫が、向かい合ってテーブルに座る。「よろしくお願いしますわ」「…よろ
しくです」「勝負の方法はどうする?ここにトランプもあるが」そう言ってトランプをチラつかせると、井崎が待ってましたとばかりに食いついてきた。「トランプを使った、新しい勝負の方法を提案
するです」「そ、そうですの…まあ構いませんことよ」ジャンケンという勝負の方法が不評で、姫はしょんぼりしたようだ。まさかこれが狙いとかないよな?「まず、ジョーカーを抜いたトランプ一組
を裏返した状態で並べるです。そして、試合が始まったらお互いにそれを二枚ずつ表にして、掛け算した数字の大きいほうが勝ち。ハンマーで攻撃できるです。それでどうです?」なるほど。純粋な反
射神経では姫に敵わないので、少し頭を使う勝負…というわけか。「じょ…上等ですわ!わたくしの頭脳をご覧に入れて…」「すごい汗だぞ」「うるさいですわね!え~と、11かける12は…」落ち込ん
だり、焦ったり怒ったり考え込んだり忙しい奴だな。まあ、さすがにトランプで使う程度の数字の掛け算なら、頭の良し悪しはそう関係ないと思うが。どうなることやら。


130:カイロ
よくシャッフルし、カードを並べていく。井崎と姫はそれを真剣そうに見つめてくる。別に、そんなことしたってカードの数字が読み取れるわけでも無いと思うんだけどなあ。「よし、並べ終わった
ぞ」俺のその言葉と同時に二人はすぐさま二つのカードを裏返す。井崎の引き当てたカードは4と2、姫の方は…「…えっと、いちかけるさん、は…」「いやいやいや!」思わず声を上げて突っ込んで
しまう。流石にそこは考える必要は無いだろ。「じょ、冗談ですわ! むしろ簡単すぎて逆に考え込んでしまっただけで」「そいやーです」顔を真っ赤に染めて弁解する姫を気の抜けた掛け声と共に
ハンマーで殴りつける井崎。ピコリと可愛らしい音が響き、少し遅れて姫の目が点になる。「勝負の最中に背を向けるなんて、だめですよ」「くっ…!おのれ…!」不意打ちを仕掛けたのは井崎なのだ
からその怒りの矛先は井崎に向かうのが正しいはずなのに姫は俺を睨みつけてくる。確かに俺が話しかけて姫の気を散らしてしまったせいかもしれないが。「…でも理不尽だ、理不尽を感じるぞ」


131:ウツケ
「まだまだいくですヨ〜。ふっふっふ」イサキの小悪魔のような微笑みがなんとも嫌らしい。「使ったカードは除けておくですよ。」「ふ、ふん!見てらっしゃい!こ、ここから一気に勝ち上がって
みせますわ!いざ!」「はーいはい。」ふーむ。見栄を張る姫はらしくなくてなかなか……いやこれは後で楽しむとして、「2本目、はじめ!」俺の合図とともに二人は2枚ずつトランプを裏返す
……イサキのカードは9と10。姫は……QとQ!「うわっ」数の差と姫の気迫にイサキは怯んだ!「今ですわ!」流石に速い!瞬く間にイサキから1本取り返してしまった!「オーッホッホッホ!!
クイーンこそが私の切り札!崇めよ!畏れよ!信を捧げ!私こそ栄を極めしルーブルベイン家が次期当主!サファリナ=マリー=ルーブルベイン!!」一回の勝ちでどれだけ嬉しいんだこのご令嬢。
そんな刺激したらイサキがまた……「ふ……見えたです、サファリナ嬢。」おっと冷静?「なんですって?」「調子に乗れば余裕がないアピールも同然。腹の内を見せたお嬢の黒星見たり!です。」


132:SDT
「ハ、ハッタリですわ!大体、わたくしとあなたとでは身体能力に雲泥の差があります。一本目のような不意打ちがなければ、あなたがわたくしに勝つことは不可能ですのよ」「……そう思いたければ
、勝手に思ってるといいです。くっくっく……」何を企んでるんだ、こいつは。さっきからテーブルの下でゴソゴソやってるし…「井崎、始めるぞー」「もう少し待つです!」「早く始めてくださいま
し!何か小細工をされる前に、早く!!」二人とも、よくもまあここまで必死になれるな。ただの遊びに。俺が負けたのも必然というわけか。「よし。井崎には悪いが、次の勝負を始める」「ちっ」ま
た舌打ちかよ。こいつにはスポーツマンシップというものがないらしい。「用意!…………始め!!」俺の合図と同時に、両者がカードをめくる。その数字は、井崎が5とK!姫が7と9!これは……微妙
な数字だ!「えっ!?え~と…」「むっ?」一瞬、二人はお互いのカードの数字を見て硬直する。そして、先に硬直を解いたのは……「貰ったです!!」井崎だ!無防備な姫の頭上目がけて、ハンマー
を振り下ろす!


133:カイロ
だが井崎の攻撃は当たる事無くそのまま空を切る!音速にも近い速度をもってギリギリでかわしたのだ!「…マジですか」井崎の攻撃も決して遅くは無かった。力に自信が無いとはいっても訓練で皆
常人よりも強く逞しく育っているのだから当然ではあるが。例え同じ訓練を受けている仲間であってもそれをかわされれば自然と驚愕するものだろう。「マジですわ。先の不意打ちとは違う、来ると
予め解っている攻撃ならばかわせないなどという事はありませんわ」両腕を組み、その見事なまでの巨乳を強調しながら姫は自慢げに語り出す。「このわたくしとの一対一の近距離ガチ勝負において
不意打ち以外の攻撃は全て通らないと、断言してもよろしいですわ!」そう言って高らかにお嬢様笑いをキメる姫。…こいつもしかして自分で開いた大会なのに自分で優勝する気なのか?「正面からの
攻撃は無効、ってわけですか」姫の高笑いを聞き、井崎が不敵な笑みを浮かべる。「でもそれ教えていいんです?編笠くんがさっき言ってたですよ?…タネがわかれば怖く無いって」


134:ウツケ
「おい、もうやるぞ!」話し合いはそこそこだ。むっとした井崎だが大人しくカードを取る。イサキは6と8。姫は9と9。イサキはすぐさまヘルメットを被った。あごひもも付けた。「それにぃ、
九九ができないなら私は負けないですよ~」メット頭を抑えて上機嫌のイサキが言う。姫の算数能力を考えてこのゲームにしたってのか……むむ、不公平だがちょっと可愛い。「ぐぐ……次ですわ!」
姫が5と4のカードを引く。そしてイサキは4と6。イサキの攻撃だ!「たりゃーっ」「~~っ!さ、させませんわ!」イサキの行動に反応しなくてはならず、後手に回る姫。しかし、姫の方が速……
「あ!あっちにボブ・サップ!」「え!?」ピコッと音が鳴る。流石に、こんな策に引っかかるやつがいるとは。ボブ・サップって誰だ。2対1、いよいよ追い詰められた姫だが……
「おいサファリナー!俺に勝った癖に、何負けそうになってんだよ!」サモンがヤジを入れ始めた!俺に勝ったイサキは負けてもいいというのか。「そんなこと、言われましても……」「勝てよ」


135:SDT
「……はぁ。仕方ないですわね。わたくしも負けたくありませんので、次からは50%の力でお相手いたしますわ」なんじゃそりゃ。「いいぞー!!」左門は「50%」の部分がよく聞こえなかったらしく
、のんきに囃したてている。「次が50パーなら、今までは何%だったんだ?」「2、3%というところかしら」「それはさすがに嘘だろ!」「…言い訳しようが何しようが、あなたが負けたという事実は
変わらないですよ。」あまりにも不遜すぎる対戦相手に耐えかねて、井崎が口を挟んできた。「あら、もう勝ったおつもり?ずいぶんと気が早いこと」「こいつだけは、こいつだけは絶対に負かす…
!」さっきの発言が相当気に障ったみたいだな…。「よ、よし!盛り上がってきたところで始めるか!」早いところ始めないと、怒りの矛先がこっちに向きかねない。「……始め!!」バッ!裏返さ
れる4枚のカード。絵柄は、井崎がAと2。対する姫はQとK。計算するまでもない、圧倒的な差だ。…しかし、姫は動かない。何故か井崎の防御行動を黙って見ている。「………?」どうしたんだ?と
思った、その次の瞬間。「ふっ!!」目にも止まらぬ速さで、姫のハンマーがヘルメットを叩く!パカッ!!すると、ヘルメットは瞬時にその形を失って砂粒のようになり…パラパラと散ってしまっ
た。「ひ、ひえっ!」どんがらがっしゃーん!!…そりゃビックリするわな。まさか二重の極みとは。「う、うぅ…」「井崎、大丈夫か……ん?」椅子から転げ落ちた井崎の側に、紙切れのようなも
のが落ちている。「えーと、11×11=121、11×12=142…」これは要するに、カンペか?ルール上は問題ないがここまでして勝ちに拘るとは…「井崎、お前は大した奴だ」「う、うるさいです!返せ
!」ともあれ、これで2対2。どちらが勝ってもおかしくない状況となった。


136:カイロ
「さて、次で終わりになりますけれども……辞世の句、お読みになります?」挑発なのか脅し文句なのかよくわからん台詞と共に姫が井崎に問いかける。おいおい何するつもりだ。「句はいいです」
「そうですか。では……!」互いにカードに手をかけ、ひっくり返す、その直前。「でも、その前に。 話を聞いて欲しいです。私が負けるのが嫌な理由を」姫が、俺が、他のクラスメイト達が聞く
体勢に入る。井崎が負けるのを極端に嫌う理由に皆も興味があるのだろう。皆のその視線を合意とみなし、井崎は語り出す。「私、昔っから勝負事に負ける度に大事な物を失くしてるんです。かけっこ
で負けたら母が家からいなくなってて、ケンカで負けたら今度は大事な友達が」話ながら、徐々に視線が下へと下がっていく。「あ、偶然だとはわかってるですよ? ……でも、次負けたら私、もっと
もっと大事な物を失う気がして。 だからもう負けたくないです」顔を上げ、涙声で姫に向き直る。「お願いです、サファリナ。私に勝たせてくださいです。……負けて、ください、です」


137:ウツケ
「……っ」サファリナは動揺している。普段の俺ならハッタリだ、なんて脊椎反射していたろうが、このイサキの表情はあまりにも真に迫っている。「おい、今更そんなハッタリが通用するかよぉ!」
などと言う輩など当然……いたわ。「泣き落としなんてそれこそ古典的なの!そんな無茶な話、誰が信用するってんだよぉーっ。姑息な手ぇ使って勝てると思ってんなよぉ!」ツエブチ、お前も人の
ことを言えた物ではないのだが……。トランプにかかったイサキの手はがたがたと震えている。「……初めてくれ。」「っ!お待ちなさい!考える時間を……」「考えてどうするんだよ?時間があれば
試合がどんどん不公平になっていくだけ。審判役を務める俺には、これを見過ごすわけにはいかない……」考えれば考えるほどわからない。イサキの言っていることが嘘でも本当でも、後味のいい結果
にはならないだろう。二人のカードはめくられ……その数字は無慈悲であった。「……ごめんなさい……!」「ウソですヨ。」「え?」「ひと思いに、やっちゃって下さい」ビニールの破裂音。決着。
「こちらこそ、空気を悪くしてごめんなさいです。」井﨑深緋は、笑っていた。


138:SDT
―――「やれやれ、ようやく終わった。どうして女ってもんは、こう、無駄なお喋りが好きなのか…」次の試合の対戦者。杖渕誠は、試合席に着くや否や悪態を突き始めた。途中で口を挟んでくるくら
いだから、よっぽど前の試合が退屈だったのだろう。……だが。いくらそうだったとしても、言っていいことと悪いことがある。ここは俺がビシッと注意しておくとしよう。「杖渕、お前なぁ…」「無
駄なのはあなたの存在じゃないかしら」…割り込まれてしまった。「はぁ~?そんなんで挑発のつもりか?」「だってそうでしょう。あなたって、人を不快にさせる以外に何ができるの?」「そんな挑
発効かないよ~ベロベロベェ~~」もはや会話が成り立っていない。「サファリナ、早く始めてくれ。そいつらに喋らせたら駄目だ」「そのようですわね。では、お二方。試合形式はいかがなさいます
か?」その言葉を聞き、杖渕が口を開いた。「さっきの試合と同じ形式で、一度に使うカードを増やす。それでどうだぁ?」つまり…「三枚のカードで掛け算するってことか」「簡単だよなぁ~?んん
~??」杖渕は、数字に関してはあからさまに強そうだ。自分の計算能力に自信があるからこそ、こういった勝負を持ちかけたに違いない。「カグヤ、よろしいかしら?この勝負の方法に異論は?」


139:カイロ
「異論ないけど……むしろいいの? この勝負で。私アンタみたいなのに負ける気無いけど」「気だけじゃあ勝てないと思うんだけどねぇ~アハハ」両者の煽り合いが激しくなっていく。杖渕も杖渕
だが月道もなんでわざわざ挑発を返すのか。「ほら、早く始めちゃって。こんなサンシタ、ストレートでKOよ」「……弱い犬程ぉ、なんとやらぁだっけねぇ~?」いい加減殴り合いにでも発展するん
じゃないかと言う所で姫が強引にゲームを開始する。「はいではお二方!カードを引いてくださいな!」姫の言葉を聞くや否や二人は素早くカードをめくる。月道は2と3と8を引き当て、杖渕は
「ゲッ」杖渕の引いたカードは全て1。月道はそれを確認するとまさに光速といった表現が似合うような速度でハンマーを杖渕の頭部へ叩きつけた。まるで、最初からそれを引くのを知っていたのでは
ないかと思うほどの速さ。「……なんだっけなぁ、こういうのファンブルって言うんだっけ」「おやおや、一回目から随分とツイてない事でいらっしゃいますねぇ対戦相手の杖渕さぁん」にやつきなが
ら月道が煽る


140:ウツケ
「ケッ!こんなこた、そうそうねーだろ……」そういって次のカードを既に選んでいる。「じゃあ私はこれとこれと、これ。」ツキミチも無作為にカードを3枚選び取る。「いっせーの!」「「せ!」」
並んだカードの数字は3,4,3,9,7,4。前がツエブチ、後がツキミチ……またも間髪入れずハンマーの音が鳴る!「おめー……なんかしてねーよなぁ?」「ん、なんの話よ?」おもちゃを
頭に乗せたツエブチはツキミチを睨んでいる。「イカサマしてんじゃねぇーかって話だよ。」そのセリフで、急に雰囲気がぎこちないものになった。「はぁ?何言ってんのよ。」「つべこべ言うな。
懐と袖ん中見せてみろよ。」「なっ、やめてよこのスケベっ。」「ちげぇよ!やってねんだったら証明できんだろうが!」とびかかるツエブチ……それを姫の鉄拳が殴り止める!「へぶっ!」
「手荒なことはなさらずにマコト。私が調べますわ。いいですわね?」審判である姫が出てきては二人とも引き下がらざるを得ない。「仕方ないわねぇ。」「チ……さっさとしろよ。俺は残りのカード
を並べ直してやる。」コブを作ったツエブチがカードをまとめ、シャッフルを始める。「フン、運が悪いだけのくせに人のせいにして。」――結局何も怪しいところは見つからず、試合続行となった。


141:SDT
「それでは三本目。始め!」姫の合図と同時にカードがめくられる。その数字は、杖渕2、8、10。月道1、11、13。パッと見ではどちらが上かわかりづらいが……「へへっ」カードを見た途端、杖渕が
嬉々とした表情でピコハンを手に取った。ということは、杖渕の数字が上なのだろう。「オラッ、食らえ!!」ポコッ。………しかし。杖渕がピコハンを振り下ろすよりも、遥かに速く。月道はヘル
メットを被っていたのであった。「あら~残念だったわねぇ」「糞アマが…絶対にシッポを掴んでやる…」あいつら計算速ぇなぁ。俺も頭の回転は悪くない方だと思うが、あいつらにはまったく敵わ
ない。特に月道。ほとんどカードを見ると同時…いや、下手したら"カードを見るよりも先に"計算が終わってるくらいの速さだ。この試合はあいつの勝ちだろうな。――――「はぁっ!」ピコッ!「
そこまで!勝者、カグヤ・ツキミチ!」3-0。俺の予想通り、試合は月道の完封勝利となった。「ま、こんなもんね。」「ブツブツブツ……」勝利の余韻に浸る月道。敗者は、何やら恨み言を呟きなが
ら去っていった。「ではカゼタロー、審判を頼みますわよ」「ああ、任せとけ」次の審判を任された俺は、後片付けのため、テーブルに散らばったカードをまとめていく。「ほいほいほい………ん?
」散らばったカードの中に、スペードのA。……Aって、4枚とも墓地になかったか?「なにボーッとしてるんですの?」「あ、ああ。すまん」……何かの見間違いだろう。大体、カードは黒葛がちゃん
と確認してたじゃないか。審判の仕事に集中、集中っと。


142:カイロ
「――さて。 次の勝負の内容ですが、そちらで決めていただいて構いませんわ。わたくし、主催者ですので」互いに向き合った所で、姫がそう告げる。それを聞き、編笠は少し考えポケットに手を
突っ込む。「そうだな。 なら、これでどうだ」編笠が取り出したのは銀色のコイン。表に美しい女性の横顔、裏に死神と言う表現が似合う骸骨の横顔が彫られた物。「こいつを投げて、女神の方が
上ならお前の攻撃、死神ならこちらの攻撃だ」「解りやすくてよろしいですわ。では、始めましょうか」さっきの少し頭を使うルールとは打って変わって今度はわかりやすく単純だ。これはかなり早い
スピードで勝負が着きそうだな。「カゼタロー、コイントスをお願いします」「おうよ!」コインを受け取り、ピンッと親指ではじく。コインは美しい放物線を描き、テーブルへ着地。表になったのは、
死神。編笠はそれを確認し光速の一閃を見舞う!だが、姫の防御はそれを上回る速度で攻撃を防ぐ!「……速いな」「そちらこそ。ですが速いだけではわたくしに届きませんことよ?」


143:ウツケ
確かに、スピードだけで姫を凌ぐのは難しい。できるだけフェアな闘いがしたいのはわかるが……勝てるのか?アミガサ……。いやなんでアミガサの心配をしてるんだ俺は。審判なら公平でなくては。
「よし、いくぞ。」コインを拾い上げ、もう一度コインを弾いた。キィィィンと回転するコインが風を切り、テーブルで回転を止める。瞬間身体が吹き飛ばされるかような風圧が周囲に襲いかかる!
なんたる速さだ。コインを見ると女神の柄。姫のふわりと重みを全く感じさせない胸元、もとい攻撃所作に魅せられてしまった。だがしかし、ピコハンは音を鳴らすことはなくアミガサを避けていく!
いや、アミガサがヘルメットの丸みで角度を逸らしたんだ!「へぇ、なかなか」「また壊す気満々だったろう……やめていただきたいのだが……」口角を上げ睨み合う二人。ここにきて実力は互角か!
いい加減このパートの尺も長くなってきている。これ以上展開を引っ張るのも良くないと思うのだが……さっさと決着を付ける術はないものか「何考えてんだお前は。」「でっ」ピコハンによる
ツッコミを受けてしまった。「んなこと言ったって、勝算はあるんだろうな?」「どうだかな。」「私を無視してもらっては困りますわ!さっさとコイントスを始めなさいな!」「わーかりゃしたよ」


144:SDT
指に力を込め、コインを弾く。ピーン!三度目のコイントス。「はぁっ!」「ふっ!」また引き分けかよ。……ピーン!「せいっ!!」「効きませんわ!」引き分け。……ピーン!「とりゃ!」「なん
の!」……………どれくらいの時間が経っただろう。その間に幾度と無く攻防が交わされたのだが、まだお互いに無傷。すなわち、0勝0敗。「おいぃ、いつまでやってんだよ!」「そんなこと言われま
しても」「どうしようも無いが」「どうしようも無くない!いいか、俺の指は硬貨との激突を何十回も繰り返してそろそろ限界だ。今回だけは三本勝負じゃなくて、先に一本取ったほうが勝ち。それで
いいよな?」俺が試合を早く終わらせるための提案をすると、姫は露骨に嫌そうな顔になった。しかしながら、ギャラリーが飽きていたということもあり、渋々ながら一本勝負の条件を呑んでくれたの
だった。「では、これがLast Battleですわね。」「ああ。全力で行かせてもらう」何がラストバトルだよ!どうせまだまだ続くんだろ。「行くぞ!」もうこうなったらヤケだ。思いっきり打ち上げて
やる。「ピーーン!!」コインが高く空中を舞った。落ちてくるまでには、しばしの時間がかかりそうだ。……ふと、姫のほうを見やる。激しく動いたせいか上着がズレており、白いブラの紐が……
「……!!?」「いただきですわっ!!」ポコーン!獲物に生じた、一瞬の動揺。それを狩人は見逃さなかった。「……おい」「もしかして俺のせいか?」「…………ああ。」


145:カイロ
まあ、そんなこんなで決着はついた。俺に対する編笠の恨めしそうな視線は置いておくとして、ようやく次の試合だ。「さて、それでは次はようやく決勝戦ですわね。ツキミチ、いらっしゃいな」姫の
言葉に従い月道が前に出てくる、その直前。「ちょーっと待ったーっ!」静止の声。それと共に俺が二人の間に割って入る。「決勝の前に俺と戦ってもらおうか、姫!」「……なんでですの?」
「決まってるだろ、こういうトーナメントには乱入者がツキモノなんだよ。俺もあんなにアッサリ負けたんじゃ正直不完全燃焼だからさ。やろうぜ、決勝を賭けた真剣勝負を!」そこから先は描写する
までも無かった。どんどんあらわになってゆく姫のブラ紐に目が釘付けとなった俺は神速でストレート負けを喫したのだった。「――さて。それではようやく決勝を始められますわね」明らかに邪魔が
入ったとでも言いたげな口調だ。「勝負の方法ですが、ツキミチが決めて構いませんわ」「へぇ、いいの?」「ええ。自分に不利な状況から、如何にして逆転するかが勝負の醍醐味ですもの」


146:ウツケ
「そう、でも、う~~ん……」少し考えたツキミチがようやく口を開いたかと思いきや、「ゴメン、じゃんけんで良いわ。」なんだそりゃ。いきなりトランプを使い出したと思いきやここにきて……
「良いんですの?」「うん、姫様には悪いけど、ちょっと飽きちゃったし」「飽きっ!……くっ、そうでしたの……で、では、そちらでいきましょうか……」姫の声が完全にうわずってしまっている。
しかし、気の毒ながら俺もツキミチには同意だ。恐らく他の皆もそうだろう。「だから、さっさと終わらせましょう。私チョキしか出さないから」「んなっ!そんなこと!」「さーいしょーはぐー!」
――だからってこんな終わり方はどうかと思うのだが……「いやった-!優勝よ-!」突然始まった上、やはり女狐に宣告を破ってパーを出された姫。その動揺は試合を決着させるに充分だった。
いや、その前の「飽きちゃった」も効いているだろうか。「こ、こ、こ、こんなのって……こんなのって……」余程ショックだったらしい。むしろ、これまでの自信が凄すぎたのだが。


147:SDT
ともあれ、"たたいてかぶってジャンケンポン大会"の優勝者は、こうして月道輝夜に決定した。「当然よね。この手の勝負で私が負けるなんて有りえないわ」確かに、月道は強かった。身体能力はそれ
ほどでもないが、駆け引きの上手さと勝負強さは、間違いなくクラス一だろう。「…認めますわ。カグヤ、あなたがナンバーワンです」姫も、ようやく現実を認めることが出来たようだ。「わかったな
らいいわよ。で、何くれんの?」「…………?」ああ……賞品の話か。まったくそんな素振りは見せなかったというのに、なんだかんだ気になっていたらしい。現金な奴め。「おい、賞品をよこせって
言ってるみたいだぞ」「…は?賞品ですの?それなら、そこにありますわ」そう言って姫は、ハンマーとヘルメットを指差す。「……え、これが賞品?冗談でしょ?」「冗談ではありませんわ。ほら」
姫がハンマーの取っ手を爪で削ると、中から金色に光る物体が姿を現した。まさか……「このハンマーとヘルメットの中身は純金ですの」…道理で重いわけだよ!!「成る程。これなら文句ないわね」
いくらするんだ…?これ。杖渕には絶対に内緒にしておこう。


148:カイロ
「さてさて、途中少しばかり険悪な空気が流れはしましたが、無事ゲームを終える事ができましたわ。ご協力下さった皆様に感謝いたします」シメの挨拶と言ったところだろうか。姫が皆に謝辞を述
べる。「皆様、互いの事を少しは好きになれましたでしょうか?」好きになれたかと言われると微妙な所だが、少しはこれから共に戦う仲間たちの腹の内を知ることはできたと思う。互いの能力、得
意分野を知る事で戦闘でもそれらの穴を埋めあえるようになったに違いないと俺は考える。……まあ、全員の全部を知れたと言う訳では無いが。「では、すっかり日も暮れて参りました。今回のパー
ティーはこのあたりでお開きに……」バタン! と、姫のシメの挨拶を遮るように勢いよくドアを開け唐突に宇乃坂が現れた。「やあやあみんな、互いの親睦を深め合ってるかい」「あら、先生。ど
うしてこちらに?」「その理由とも関係してくるんだけどね。実は、今すぐみんなに来てもらいたい」一呼吸置いて宇乃坂が告げる。「屍の大群が街に接近しているんだよ」


149:ウツケ
「ええっ!」「そ、そんな!」生徒達は一様に騒ぎ出す。無理もない。ここ数年、屍による大きな侵攻なんてそうそうなかったのだから。でも、俺だってそのくらい覚悟してここ魔ヶ原にやって来た。
「よーし、やってやるぜ先生!」「うん、良い返事だ!」「お前らも!やってやろうぜ!皆出会ってから間もないけど、お互いの力は把握できてる。皆、日々強くなってることだってよくわかる!」
フフ、決まった!魔ヶ原高等学科1年は一斉に奮い立つ!そうだ、屍なんて恐くない!そんな雰囲気が俺たちの自信を沸き立たせる。「いいねいいね!これぞ青春だ!」宇乃坂先生も感極まっている。
「そうと決まれば先生、早く戦場へ!」「ん?何言ってるの?君たちの仕事は地域住民の避難だよ。」「なっ!」拍子抜けである。「あのねぇ、君たちは人類の未来を担う大切な生徒たちなんだ、私と
しても君たちはなかなかいい才能に恵まれてると思う、だからこそ今は命を大切にしないと、それに被害はなるべく抑えなくちゃいけない、だからそのためにも信頼ある君たちにお願いしてるんだよ」


150:SDT
ま、それもそうか。奴らに一泡吹かせてやれないのは残念だが…避難誘導だって、重要な任務だ。「よ、よし!やるぜ避難誘導!目指すは、犠牲者0人だ!!」「ええ!」「よっしゃ!!」気合いを入
れ直して戦場へ向かうことにしよう。と、その前に。「帯刀と杖渕を呼んでこないとな…」「ああ、帯刀君だったらここには居ないよ。」「……?」居ない、というのはともかく。なぜ宇乃坂がそれ
を知ってる?まさか…「彼には最前線で戦ってもらってるからね」…なんとなく、そんな予感はしていた。認めたくない。そう思っていても、帯刀と俺たちとの圧倒的な力量の差は……そのまま宇乃
坂の態度の違いとなって、現れる。「一応、聞いておきたいのですが。彼が戦っているのは…わたくしたちよりも、"強い"から。そういうことでよろしいんですわよね?」「うん、その通り。じゃあ
頼んだよ。避難誘導をね」バタン。それだけ言い残して、宇乃坂は去っていった。…俺たちは、重要な任務を任されたんだろ?なのに…なんだ、このモヤモヤした気持ちは。これじゃまるで、親から
信頼してもらえなかった子供みたいじゃないか。「…仕方ねぇさ。先生だって、背中を預ける相手は選びたいだろうよ」「編笠……」「…強くなりましょう。今よりも、もっともっと」「姫……」「
落ち込むのは後だ。私たちの助けを必要としてる人たちがいる」「黒葛……」「は?何?何があったんだよ?」「杖渕……」なんか余計な奴が混じっていた気はするが、こいつらの言う通りだ。無力
さを嘆いている暇があるなら、強くなればいい。助けを待つ人たちのために。そして、自分自身のために。強くならなきゃな。「よし、じゃあ行くか!」「行くってどこにだよ?教えろ、おい!」


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最終更新:2014年03月13日 01:00