番外編 その4

番外編
☆風よりも早く☆


これはまたしても私と提督の話。
ということは相変わらず……無い。


今回の話も結局あれは一体……という話。



提督「オラァァァ!! てめえら! お縄につきねい!」



私が犯行グループを壊滅にまで追い込み、
一人ずつ気絶させたあと、楽しそうに犯人達を縄で縛る提督。
それを後ろで見守る私。


まあだいたいこんな感じで横須賀近辺の平和は守っているのであった訳だったが、
提督の尋問は波乱を生むのだった。


提督「お前たちぃ~、一体何が目的なんだい~?」(注:にしおかすみこ風)

提督「そしてぇ~お前達を逮捕したのはどこのどいつだい~?」(注:にしおかすみこ風)

提督「あたしだよ!」

加賀「ほとんど私なんですが」

提督「で、君ら何? 犯罪者のゴロツキ共の中でも横須賀だけは
   取引場所にしちゃだめだってお母さんに習わなかったの?」

提督「ここは俺と加賀がいる限りそういうことはできない仕組みになっているのよ」


そうして一人の犯罪者が口を開いた。


今回取り締まった犯罪組織は麻薬密輸の常習グループ。
何度も色々な場所で繰り返し行ってきた麻薬取引だったが、
どこからかその情報が漏れてしまい、逮捕に及んだそうだ。


「あんた達こそどこで俺達の情報を聞いたんだ」

提督「あぁ、優秀な後輩から情報を入れてね。
   近々こっちに来るかもしれないというんで」


提督「まあ来てみたらビンゴだったわけだ」


相変わらず謎の直感力。
まあ私からすればもう慣れてきたものだったけれど。


加賀「ご苦労様でした。あとは上の方たちが引取に来るのを待つだけですね」

提督「そうだなぁ。あいつら遅いからなぁ」

提督「それにしても俺の目下で麻薬取引か……」


そう言いながら何の気無しに
コンテナに手をかけて1つこじ開けるのだった。


加賀「提督そういうことは……」


止める間もなく開けられたコンテナから勢いよく飛び出てきたのは
麻薬なんてものではなく、それよりももっと厄介なものだった。



島風「ヲウっ!?」

提督「な、なんだ……こいつ」

加賀「薬じゃ……なかった」

提督「くっそ、やべえな。人身売買かよ」

島風「……じゃ、私はこれで」

提督「お、おう、お疲れさん。……じゃなくて!! おい! 待て!」


コンテナの中から飛び出てきた謎の生き物は提督の横をすり抜けて
そのまま飛び出していった。


提督「不味い、加賀! 追うぞ!」

加賀「はいっ」



すばしっこいその生き物。あとで我々はそいつが島風という艦娘だと知るのだけど。
その時の島風はやはり捕まえるのに非常に苦労をしました。


提督「ハァッ……ハァッ。くっそー、全然捕まえられない」

加賀「提督、爆撃許可を」

提督「……少し手傷を追わせるぐらいでいいからな」

加賀「了解。この一航戦にお任せください」


という許可を頂いたので私は全力で爆撃した。
元より苛ついていたためにあまり細かい制御が効かなかったのです。
私も島風程度に乱されるとは……まだまだ精進が必要なようです。


島風「ヲウッ!?」


すっかり大破して動けなくなった島風の元に近寄る提督と私。



提督「あの、加賀。大破してるじゃないですか。誰が治すんだよ」

島風「私のこと匿ってくれるの?」

提督「嫌だ。お前はすぐにでも上の連中に引き渡す」

島風「お願いっっ! 私のこと少しの時間だけでいいから匿って!」

提督「嫌だ」

島風「お願いしますっ!」


島風はすぐに私達に向かって土下座をするのだった。
しかしそれでも提督は。

提督「嫌だ。お前みたいな生意気そうな餓鬼は嫌いなんだ」


とまるで子供みたいな理由で断り始めたのだった。



島風「えぇ~。いいでしょ~? お願い~。うっふ~ん♪」


そしてこちらも子供みたいなお色気攻撃を始めるのだった。
元々の格好がすでに露出の多めの格好だったために
履いている必要のあるんだかないのだかわからないスカートをめくってみせる。


提督「え、あぁ~。うーん、嫌……いやー? んん?」


そして情けなないことに揺らいでいる。
提督の脚を踵で踏みつける。


加賀「匿うにしたってこの娘は重要な事件の参考人になりますよ」

島風「そこを何とか……私、身寄りがなくって」

提督「しょうがない。幸いまだこの事件に関わってるのは俺達とあの犯人くらいだ」

加賀「まさかこの娘の存在自体を事件から消すつもりですか?」

提督「だってそれ以外にないだろー?」

加賀「あとでボロが出ても知らないですよ。私は一応反対しておきますからね」

提督「ああ! 何それズルい! そうやってあとで
   バレた時に上のお叱りを回避するつもりだな!」



加賀「嫌ならやめてください」

提督「……困ってるみたいだし、事情はどうであれ見逃す訳にもいかんだろう」

島風「ほんとに!? やったー!」

加賀「はあ……。では手配しておきますね」


こうして身元不明の艦娘を一人、引き取るのだった。
これが実のところの私達の横須賀鎮守府で初めての仲間だった。


このあと島風と私は先に鎮守府に帰り、島風は入渠。
私は島風を匿うための準備に取り掛かっていました。

また提督も事件の真相を有耶無耶にするために色々としてくれていたはず。



数週間が過ぎて……。


島風「お外出たいーー!」

提督「だめ」

加賀「だめです」

島風「ふたりともひっどーい! 
   私が外に出ないと死んじゃう病気だったらどうするの!?」

提督「そりゃあ悲しんで墓くらいは作る」

加賀「そうですね。泣いてしまうかもしれません」

島風「絶対嘘なんですけど。マジ嘘の臭いしかしないんですけど」



提督「なんでそんな外行きたいんだよ」

島風「だってみんな外歩いてるしー。私だって外行きたいよー」

提督「だめ」

島風「お願~い。うっふ~ん♪ チラッチラッ」

提督「ぐふふふ、しょうがないなぁ~」

加賀「馬鹿なんですかあなたは」


そんなこんなで島風のお願いを聞いて3人でピクニックに行くことに。
あまり人のいない広い公園まで遊びにきたのでした。



島風「ひろーい! ねえねえ! 提督! あっちまで競争しようよ!」

提督「嫌だよ。だってお前早いんだもん。疲れるし無理」

島風「意気地なし! 雑魚! 童貞! 早漏!」

提督「どどど童貞ちゃうわ! 早漏も関係ねえし! 違うし!
   なんでお前とあっちまで競争なんかしなくちゃよーいドン!!」

島風「あぁぁあ!!ズルい!!」

加賀「二人共あまりはしゃぐと転んで怪我しますよ」


ちなみにこの競争、
提督はズルまでして先に走りだしたのに負けてました。



提督「くっそー……ハァ、マジあいつ……あいつ何なん」

島風「提督遅かったんだ。遅漏くんだったんだー♪」

提督「あまり大人をからかうもんじゃ有りませんよ!
   ふっ、ならばこのバドミントンで勝負だ!」

島風「何それやる!」

提督「お前をコテンパンにしてやる!」

島風「ふふん、提督になんて負けないんだから!」

提督「ならば一点取られる事に服を一枚脱ぐのはどうだ」

加賀「如何わしいルールを追加しないでください。
    相手はまだ子供なんですから……」



ひとしきり公園で遊んだあと、
3人でお昼ご飯にすることに。


加賀「あの私提督に何も用意しなくていいって言われたので
   何も持ってきてないんですが……」

提督「心配するな。俺がちゃんとこのサンドウィッチを持ってきている」

島風「おおーーー! 美味しそうーー! 食べていい!?」

提督「残さず食いな!」

島風「それにしても量多くない?」

提督「余ったら加賀が全部食うから大丈夫」

加賀「……。いただきます」


島風「むっ、提督のくせに美味しい」

提督「くせにってなんだ。お前俺がこの幸せな時間を作ってるんだぞ。
   もし仮にこれが俺の作品じゃなかった場合……嫌なんでもない」

島風「もぐもぐもぐ。んッ!? けほっけほっ」

加賀「ほら焦って食べるから。お茶飲みなさい」

島風「ぷはーっ。助かった。ありがとう!」

加賀「いえ」


島風「何かこうしていると本当の家族みたいだよねー」

提督「家族?」

島風「提督がーお父さんでー。私がお母さんでー、加賀さんが……わんこ?」

加賀「……そう。島風は偉いわね。言い直してみましょうか」

島風「何っ!? 頭の撫で撫でが強い! 痛い痛い!」

島風「嘘です! 加賀さんみたいなお母さんが良かったです!」

加賀「そう。ならいいけれど」


私達の平和な時はゆっくりと流れる。


島風「提督ーー!」

加賀「今度は何を隠蔽して呼び出されたんですか」

提督「そんな理由で呼び出されたことは一度もないだろう」

島風「ねえ遊ぼうよー!」

提督「今日は上の厄介な連中の説教を受けたんでもう疲れたんだよ」

島風「ふふん、今日こそ提督をレインボーロードで10回は突き落とすんだから」

提督「じゃあ尚更嫌だよ。勝敗を決めるレースをしろよ」

加賀「……」


提督の様子がこの時が少しおかしい、と思ったものの。
私もまだまだ精進が足りないようで、なぜこの時見ぬくことが出来なかったのか。


しかし、それを見ぬいたとしても今回のこの件については何も
私達自信がどうすることも出来ない……そういう結末が待っているのだった。



私達の平和な時間はゆっくりと流れていく。


島風「うっわー! エロ本見つけた!」

提督「おいおい、そんなものがこの清い鎮守府に置かれている訳が……あ」

加賀「なるほど。では提督。お聞きしますが指紋を調べて誰のものか調べますか?
   それとも一刻も早く焼き払いますか? 清い鎮守府のためにも」

島風「わわわっ、ねえなんでこのパンツヒモなの。えっろーい」


提督・加賀(お前が言うな)


提督「うむ、焼き払おう。我が清い城のためにも平和のためにも」

加賀「涙目なのは今回は問うことはしないとしますね」



私達の平和な時間はゆっくりと流れていく。


島風「きゃーー!」

加賀「待ちなさい。まだ髪の毛乾かしてないでしょう」

島風「えへへ、ほらこうやって走ってれば風で乾くかもしれないよ!」

加賀「だったらまずは湯冷めする前に服を」

提督「何をどたどた騒いでいるんだお前たちは……あ」

島風「あ」


加賀「……提督」

提督「……はい」

加賀「……いつまで見てるつもりですか」

提督「……目に焼き付けようと思って」

加賀「歯、くいしばって下さい」


提督は私に顔面を殴られその勢いで浴室の壁に突き刺さり10分ほど動きませんでした。




私達の平和な時間は突然として終わりを告げた。
それは私達が平和に過ごしていたことで忘れていた事件のこと。


島風「ふああ~。もう眠いかも」

加賀「寝るなら布団に行ってください」

島風「おんぶ」

加賀「はあ。仕方ないですね」

提督「随分島風には甘いんだな」

加賀「そんなことはないですよ。これでも十分厳しくしつけているつもりです」


提督「将来子供が出来たら親バカになるのが目に見えているな」

加賀「そうですか? 提督がもし欲しいというなら私も頑張りますが」

提督「……? 何を言ってるんだ?」

島風「おんぶー」

加賀「はいはい」


そう言って島風の前に中腰になった時。
私達の鎮守府の扉を叩く音が聞こえた。


ドンドンドンドン。


提督「っ! 誰か来た。加賀、島風を奥に運べ」

加賀「はい」


私達はこの時、久しぶりに島風を拾ってきた子だということを思い出すのだった。
急いで私は島風をおぶり奥の寝室に運んでいった。


提督「誰だこの時間に」

舞鶴「やあ後輩くん」

提督「げぇっ。舞鶴先輩……。何ですか急にっていうかまだ扉開けてないんですけど」

舞鶴「細かいことは気にしない気にしない」

提督「……。今、お茶を淹れますね」


舞鶴「ああ、気にしないでいいよ。すぐに終わるから。
   私は今回の件にはあまり口を出したくはなくってね」

提督「……?」

舞鶴「後輩くんが何を考えてどう行動しようが私自信は止めるつもりは何もない。
   と言いたいのだけども上の命令だしそういうわけにも行かなくて」

提督「何の話をしているんですか」


ここでようやく戻ってきた私も会話に参加するのだった。
私と舞鶴さんはここで初対面でした。
舞鶴さんの着ている制服を見たところすぐにわかったことは1つ。
軍の上層部の人間であること。



加賀「上の方がこんな夜更けに一介の鎮守府にどうなさったんですか」

舞鶴「やあ、君が噂に聞く一航戦か。終戦時に惜しい相方を亡くしたね……」

加賀「はあ」


私は生返事をする。
しかし彼女の幼気な容姿(とても提督の先輩だとは思えない)からは
想像もつかないような鋭い眼光が私に突き刺さる。


舞鶴「ところで君は今……何をしていたのかな」


ギクリとした。
無意識に提督とアイコンタクトを取る。



加賀「いえ、とくに何も。扉を叩く音が聞こえたのでこちらに」

舞鶴「そう。……ならいいんだ、別に」

提督「あの、要件は」

舞鶴「うん、じゃあ話をしようか。
   私が来たのは少し面倒なごとでね」

舞鶴「君達がこの横須賀で活躍しているのは知っている。
   十分に知っている。それは終戦時にも耳に入ったことだし」

舞鶴「君達の実力が呉よりも本当はすごいということくらい
   私にはわかっているつもりだよ」



この時、提督は「……誰?」と言わんばかりの顔をしていたが
私はあえて突っ込まずにいた。


舞鶴「うーん、まどろっこしい言い方は私も好きじゃないな」

舞鶴「単刀直入に言おう。そのほうが早いからね」





舞鶴「君達、今犯罪者を匿っていないかい?」




提督「な……にを仰ってるんですか」


舞鶴さんの鋭い視線に提督は明らかに動揺をしている。
全く……嘘が下手な人。


舞鶴「……以前、君らが解決した事件、
   捕まえた犯人の中に、麻薬取引の集団グループがいたことはなかったかい?」

提督「……はい。あります」

舞鶴「その後、犯行グループは捕まったのは6人」

加賀「確かそれくらいいました」

舞鶴「しかし、実際には犯行現場には7人いた」

提督「 !? 」

舞鶴「この情報は極秘裏ではあるが、我々上層部の決定と命令に基づき
    犯行グループのリーダーと思われる人物を拷問した結果割り出せたものだ」

提督「拷問って……何をやっているんですかあなた達は」



舞鶴「今はそのことに対する問いは一切受け付けないよ。
   無論、外部に漏らせば君らも例え終戦の立役者だとしても
   何が起きるかは保証できないからね」

舞鶴「何でそんなことをしているのかと、まあ理由はちゃんとあるんだよ」

提督「理由……。それは話していただけるんですか?」

舞鶴「もちろん。理由は簡単だ。君らも知っているんだろう?」

舞鶴「あの犯行グループが取引しようとしていたものが、
   麻薬なんかではなく、兵器だったと」


……兵器?
島風は確かに艦娘ではあるけれど……。
何かニュアンスが違う。艦娘よりももっと一段階上の存在のような言い方をしている。


提督「……」

舞鶴「彼らが奪取し、取引に使用していたのは
    新たに開発された艦娘とは全く別の人造人型戦闘兵器」


舞鶴「そのコードネームは”島風”」



提督の横顔に汗が見えた。
無論私も動揺している。
心臓がばくばくいっている。


舞鶴「彼らが取引して売り飛ばそうとしていたのは
    我々上層部の連中が秘密裏に作り上げた新しい兵器」



舞鶴「そいつを外部に持ちだされてしまっては困るんだ」

舞鶴「我々に逆らおうとする自我をも持ってしまった失敗作」


舞鶴「……あれには”核”が搭載されている」


汗が止まらない。
私達が核兵器と楽しそうに遊んでいたという事実よりも
そんなものを今まで隠して開発していたのが
自分たちの上官だということに寒気を感じている。


提督は爆弾搭載してるとか人造人間16号じゃねえんだから、
と呑気なツッコミを冗談交じりに言っていたが
さすがに空気を読んだのかすぐに黙ってしまった。



舞鶴「あれを実際に作ったのは戦中なんだよ」

舞鶴「君達が終戦に持ち込んでくれたおかげで……アレは必要ではなくなった」

舞鶴「謂わば、君達のせいであの子の存在意義はなくなったんだよ」

舞鶴「……だから拷問までして早く回収しなければならない」

提督「回収……」

舞鶴「うん。確かに君達の報告書は完璧に作られたものだった」


舞鶴さんは懐から提督が殴り書きした紙ペラ一枚の適当な報告書を取り出した。



舞鶴「麻薬らしきものは見当たらず……なんたらかんたら」


誰かさんの字が汚くて読めなかったのだろう。


舞鶴「見当たる訳もないさ。彼らが取引していたのは島風なんだから」

舞鶴「ちなみに売り飛ばそうとしていたのは米国だが、
    もちろんそんなこと認める訳にもいかないだろう」

舞鶴「国の関係性が乱れるだけだからな。向こうは一切関与していないと言い張るばかり」

舞鶴「こちらとしてもその情報さえ外部に漏れなければ何も問題はないんだよ」

舞鶴「しかし私達も君達には謝らなくちゃいけないこともあるんだ」



提督「何ですかそれは」

舞鶴「……犯人達があその港にいるという情報。
   聞いたのは佐世保だろう?」

提督「……はい」

舞鶴「彼に情報を流したのは私だ」

提督「……」

舞鶴「だけど安心してくれ。佐世保はこの件に関しては深い所まで知ってはいない」

舞鶴「あくまで私が個人的に噂程度に流した情報だったのだが、
    ものの見事に流れていてくれて安心したよ」


舞鶴「島風を取引しようとするグループが
   現れる可能性があったのは横須賀近辺だけではなく、
   佐世保の方の近辺にもあったんだ」

舞鶴「つまり、当たりくじを引いたどちらかが今回の事件に関わりを持つ羽目になる」

舞鶴「島風を君か佐世保のどちらかが手に入れ、
   私達上層部に引き渡すか、私達が引き取りに行くか」

舞鶴「いずれにしろ我々は島風が回収できればよかったんだ」

舞鶴「そのために君達を利用させてもらった。そのことはすまないと思っているよ」

舞鶴「面倒事に巻き込んでしまったね」

提督「……全部先輩の手の中だったってことですか」



舞鶴「まあ……そうなるね。本当はこんなやり方はしたくはないんだけど。
    仕方ないだろう? 上の連中の決め事なんだから」

提督「……納得はできないですけど」

舞鶴「君が納得できるかできないは私達上の人間は知らないけれど。
    さて、ようやく本題に戻ってきた」

舞鶴「今すぐ引き渡してくれないか」

提督「先に聞きますが、回収してどうするつもりなんですか」

舞鶴「さっきも言ったけど失敗なんだ。残された道は1つ。


舞鶴「解体するしかない」



提督「だったら答えは決まっています。
    俺達は島風なんて知らない。
    ここにはそいつはいない。何の話だかさっぱり分からない」



舞鶴「あくまで隠蔽するつもりか」

提督「だから何の話か分かりませんね」


舞鶴さんは腰掛けていたソファからゆっくり立ち上がる。
提督もその動きに合わせて座ったままではあるが臨戦態勢に入っていた。


舞鶴「その軍刀を抜き給え。なるべくならこういう手段は取りたくはなかったのだが」

提督「……あなたこそ軍刀持ってきておいて話し合いだけで終わると思ってなかったんじゃ?」

加賀「提督」


提督が軍刀に手をかける前に私はサッと二人の間に入る。


舞鶴「どきなさい。一航戦。命令違反につき厳重注意では済まされないよ」

加賀「提督を護るのは私の使命です。
   提督の前で如何なる人であろうと武器を構える行為を私は良しとはしません」

舞鶴「一度そうやって呉にも同じ目をされて歯向かわれたことがあったが……」

加賀「……」

舞鶴「ははは、自慢じゃないが、私はあの呉に土下座で詫びをさせたことがある」


誰だかは分かっていないけどご愁傷様ですと言わんばかりに
顔を青くする提督だった。本当にご愁傷様です、色々と。



舞鶴「さて、退く意思が見られない以上、やむを得ない」

舞鶴「先に言うが恨まないでくれよ?」

舞鶴「私は上の命令で動いてるだけなんだから」


私と舞鶴さんの間には重い空気が流れる。
そんな中。


提督「加賀、プランαを発動する」

舞鶴「は?」

加賀「え?」



そして次の瞬間には提督の座っていた椅子から物凄い勢いで煙が噴射された。
このうちに島風を連れて脱出をしろということでしょうか。


舞鶴「あああ! コラー! 煙幕とか反則だぞ後輩くん!!」

提督「行くぞ加賀!」

加賀「行くってどこへですか」

提督「とにかく島風を連れてここから出るぞ!」

加賀「そんなことをすれば提督の地位が危うく……」

提督「地位なんかどうでもいい! 今はあいつの……」


そう言って私と提督が島風が寝ているだろう部屋に突撃した時には
すでに島風は舞鶴の部下だと思われる黒尽くめの特殊部隊が連れ去ろうとしていた。
島風は寝ているというより気絶している様子でぐったりしていた。



提督「加賀ァ!」

加賀「はっ」



私はまず島風を抱きかかえている部隊員を一人殴り飛ばし、
島風を提督に預ける。提督は島風を抱き寄せ部屋の隅に移動。


次々と襲いかかる特殊部隊を相手に私は次々と薙ぎ払っていく。


提督「構わん、加賀。全機発艦!!」

加賀「了解。彩雲、周囲の索敵。彗星、烈風、天山、一人残らず蹴散らしなさい」


次々に特殊部隊をブチのめしていく艦載機。
やはり素手で戦うよりもこちらのほうがいい。


しかし私はよくても提督は……。
振り返ると舞鶴さんと本気の斬り合いをしていた。



舞鶴「これで……上官に逆らったことにもなるね」

提督「この俺の城で先に剣を抜いたのはあなたですよ」


提督は既に何箇所も斬られた痕があり血が出ているが
それでも舞鶴さんに立ち向かっている。


後ろの島風を気にしているのか、その場からは一歩も退かず。


舞鶴「まだまだ甘いなぁ。所詮は運だけどの実力ってことかい?」


舞鶴さんは剣を振った提督のちょうど手首のあたりを
片手で掴み剣の動きをあっさり封じた。
そして、提督の横っ面を反対の手で殴り飛ばした。


提督は吹っ飛び、鎮守府の壁を突き抜け鎮守府の外まで吹っ飛んでいった。



加賀「提督っっ!!」

舞鶴「追いたいならあとを追うといいよ」


提督の行方を心配したその一瞬の判断ミスの隙をつかれた。


私は舞鶴さんの蹴りをまともに受け、
外の提督が倒れている近くまで地面を転がった。


壊れた壁からは島風を担いだ舞鶴さんが出てきて動けなくなった私達の前に立つ。



舞鶴「島風は解体する。これは決定事項だ」

舞鶴「本当は分かっていたんだろう?」

舞鶴「いつかこうなることくらい」

舞鶴「君は一度上に呼び出された時にそんなような
   話をされていたはずだが? 加賀には何も相談しなかったのか?」

舞鶴「どうしてこんなことになるまで、そんな感情移入してしまったんだ」

舞鶴「……私だって後輩にそんな悲しい思いをさせるのは嫌だ」

舞鶴「君が望むように私も平和な日常を望んでいる」

舞鶴「だけど、こいつはそれを脅かすものなんだ」

舞鶴「それは分かるな?」


提督「……」


提督はよろよろとした身体でもなお、舞鶴さんに向かったかと思いきや、
提督は地面に頭を付けてお願いしたのだった。


提督「お願いします。彼女を解体しないでください」

提督「そいつは生意気だけど、本当に優しくて良い奴なんです」

提督「そいつは何も悪くないんだ。そいつの面倒は俺が見ます」

提督「だからどうか彼女の解体処分だけは……やめてください」


舞鶴「良い奴だろうが優しい奴だろうが知ったことではないよ。
    彼女の解体処分は決定している……」

舞鶴「後輩くんに預けるという方針。それは悪くはないかもしれない。
    だがだめだ。君はこの私が来るまでの間に現実から目を背けることしかしなかった」



舞鶴「それが敗因だろう」

舞鶴「君が演じた平和の水面下は……深く濁っていた」

提督「……何でも出来る舞鶴さんにお願いがあります」

舞鶴「……」

提督「彼女の核だけを取り除くことはできないでしょうか」

舞鶴「……」

舞鶴「……」

舞鶴「無理だ」


舞鶴「1つ教えておいてやろう。いいか。
   彼女の解体処分は今から約5日後」

舞鶴「大本営の特殊施設の地下で行われる」

舞鶴「時刻はヒトサンマルマル時」


舞鶴「今回の君達は反省して次に活かせるべきことが増えたようだな」

舞鶴「よく考えて行動するんだ。いいね?」


そう言って私と提督の前から島風を抱えて舞鶴さんは去っていった。



提督「くそ……待て」

加賀「提督……その体では無理です。私ももう動けませんし」

提督「だからなんだ。あいつを解体するなんて絶対に許さん」

加賀「ですが、核がある以上、本当に平和なのはどれか、
    選択肢を見誤ってはいけません。もっと慎重に考えるべきです」

提督「慎重になんて考えていられるものか。ふざけるな。
    俺はあいつの気持ちを何一つも聞いていないのに
    それを黙って見過ごすのか……」

提督「邪魔する奴がいるならばその場で一人残らず

加賀「殺すんですか?」

提督「そうだ」


私は力を振り絞り立ち上がり提督の前に立ちはだかる。



加賀「なら尚更行かせられません」

加賀「あなたがもたらした平和で……
    その代償なら他にも見てきたはずです」

加賀「それなのに次はあなた自信が平和を脅かす存在になってどうするんです!!」

加賀「そんなこと……私は認めない。
    あの日、死んだ赤城さんに誓ったんです」

加賀「必ず平和のもとであなたを守ってみせることを」

加賀「多くの平和を脅かす存在になるのか。
    たった一人の犠牲でこの平和を維持するのか」

加賀「その天秤の答えはもうとっくに出ているはずです」

加賀「もしあなたが平和を脅かす存在になることをここで許せば、
    私は赤城さんに顔向けできません……」

加賀「お願いです。もう一度考えなおして下さい。
    私も考えますから、まだ何かあるはずです」


提督「……すまん。少し考える時間をくれ」



その後、提督は手当の時以外は口を聞いてくれませんでした。
その期間が私にとってどれほど辛い期間だったか。
傷ついたのは提督だけではない……のに。

まあそれは今となってはどうでもいい。


5日が過ぎた朝。
まだ提督の傷も癒えない頃。


提督「何してるんだ。早く準備しろよ」

加賀「……はい?」

提督「取り戻しに行くぞ」

加賀「……提督本気で言っているんですか」


提督の意見には私も全面的に同意していたので
私もフル装備で乗り込むことに。


向かうは大本営。


加賀「いざ目的地に来てみたものの何か作戦はあるんですか」

提督「もちろんある。この数日間俺が何もしていないわけがないだろう」

加賀「はあ」

提督「というわけでこれをかぶりたまえ」


そう言って渡してきたものは目出し帽。
……。どうやら本気で乗り込むつもりでいるらしい。




提督「作戦概要は非常にシンプルで簡単。
   見つからずに島風を取り戻せ」

加賀「了解」


こうして私と提督はこそこそと動き、
本来、真っ直ぐ行けば5分もかからない場所に30分以上もかけて
ゆっくり慎重に移動したのだった。


途中、提督のせいで見つかりそうになったり
提督のせいで見つかりそうになったり
提督のせいで見つかりそうになったりはしたけれど。


提督「島風、おい。島風……!」


島風が収容されている扉は重く厳重になっているようではあるが、
私が事前に覚えてきた施錠技術をもってすれば開けるのは容易いこと。

中にいた島風はがっくりとうなだれていた。



島風が私達を見ると絶望の淵に立たされたかのような顔をした。
この時30分以上も常に目出し帽を装着していたせいで
すっかり目出し帽のことを忘れていたのだった。

島風からしたら突然目出し帽の二人組が声なんかかけてくるはずない場所から
現れたというある意味恐怖でしかない状況だった。



加賀「助けに来ましたよ」

島風「もしかして提督と加賀さん……?」

提督「ああ、こっから逃げるぞ。ついてこい。静かにだぞ」

島風「!」


島風の顔は明るくなり無言で何度も頷いた。



しかし、逃がしたことはすぐにバレて、大本営中に警報が響き渡る。
元来た道を急いで戻っていき、もうすぐ外に出るといったところで……。


舞鶴「待っていたよ。遅いじゃないか」

提督「出やがったな……」

舞鶴「失礼だなぁ。これでも私は君達のためを思ってやったんだけどなぁ」


私達は身構えたが、舞鶴さんがきたのは
私達をとめるためではなかった。




舞鶴「この住所に逃がし屋を手配している」

提督「は?」

舞鶴「急いで。全く、なんでもできるお姉さんを頼りすぎだよ君は」

提督「舞鶴さん……」


舞鶴さんのその言葉は私達はあとで理解する羽目になる。
本当にこの人は何から何まで……。


そんな舞鶴さんに話を聞こうなど悠長な時間はなく
どこからともなく色んな人間がこちらに向かって走ってくる。



提督は舞鶴さんの思惑をその時全て悟ったようだった。
そして数秒だけ立ち止まると
覚悟を決めたように顔を上げて舞鶴さんにお礼を言った。


提督「ありがとうございます……」

舞鶴「急いで。ここはお姉さんに任せなさい」

加賀「そんなことをすればあなたは……」

舞鶴「何心配ない。なんでも出来るからね、私は」

提督「無茶しやがって……」

舞鶴「可愛い後輩くんが土下座までしてんだからね。当たり前さ」


こうして俺達は舞鶴さんの足止めのおかげで上手く逃げることができた。



島風「ね、ねえ! 逃がし屋って何のこと……!?」

島風「私提督とまた一緒にいれるんじゃないの!?」

提督「……」

提督「もういれない」

島風「なんで!?」

提督「……。その理由はお前がとっくに知っているはずだ」

島風「……」

提督「いいか。この荷物を持って遠くに逃げなさい」

島風「やだ!! 私提督といたい」



提督「わがままを言うな!」

島風「なんで……提督は一緒にいたくないの!?」

提督「……」

提督「……」

提督「ああ、そうだ!!」

島風「えっ」



提督は島風に背を向けると強くそう言い放ちました。



提督「お前といると……うるさいし邪魔だし仕事は手に付かないし
   面倒ばっかりかけるし心配ばっかりさせるし……」

提督「まったく……うんざりなんだよ……」

提督「早く行け。俺はもうお前に会うことはない」

島風「そんな……ねえ!! ぐ、グレてやる!」

提督「……勝手にしろ。早く行け!!」


加賀「提督。本当にそれで、その別れ方でよろしいんですね」


私は提督にだけ聞こえるようにそう呟く。
提督はいまにも泣き出しそうなくらい辛そうにしていた。
私がこうやって押してあげないとまともに動けない情けない提督。


だけど提督の気持ちを全て読み取った上で先に動いたのは島風だった。
島風はあっという間に背を向ける提督に抱きついた。


提督「島風……」

島風「……」

提督「これしかなかったんだ。
   お前を俺の元に置いておけば狙われる」

提督「だが、放っておけばお前は解体される」

提督「だったら解体もされない場所まで逃せばいい」

提督「一緒にはついていくことはできない。
    その代わり……俺の元にあったありったけの資材を積みこんである」



提督「力なき俺を許せ……」

提督「……許してくれ」

島風「うん。ありがとう」

島風「提督、私のこと……好き?」

提督「……嫌いなわけ……ないだろ」


提督は静かに泣いていた。
島風はそれだけ聞くとすぐに逃がし屋の車に乗り込んでいった。



窓から顔を出した島風は


島風「私強くなる。もっともっと。
   新しい仲間も見つけて……一生懸命生き抜いてみせるから!!」

島風「提督!! 加賀さん!! 大好きだよ!!」


そう叫んで車ごと夜の闇に消えていった。


こうして私と提督と島風が過ごした期間はあっという間に終わったのだった。
それから彼女とは会えていない。
彼女が未だに生きているのかも分からない。

どこかで野垂れ死んだのか、それとも元気にしているのか。
無責任にも放り出した私達はいつだって彼女の心配をしている。

島風の噂が何よりも早く届くことを祈っていながら。


今回の後日談。



島風を逃がすのに加担した舞鶴さんは左遷。
そして現在の、鎮守府に勤務する身となっていた。


恐るべきは彼女のやった功績。
あのあと、もう一度舞鶴さんにあった時、衝撃の事実を聞かされた。


舞鶴「君達が無茶苦茶を言うおかげで私は挑戦したくなったんだ。
    だからあの島風からは核を取り除いておいた」


提督「なんで説明しないんですか!?」

舞鶴「そんなこと言ったって結局は解体される運命だったと思うよ。
    あの上層部じゃ一応念のためにとかって理由で解体しかねない」

提督「……俺達と島風の感動の別れは一体」

舞鶴「ははは、いいじゃないか。たまには心を動かされるのはいいことだと思うよ?」

提督「はあ……」


結局のところこの人は敵、なんかではなく、
ただの後輩思いのなんでもできるすごい先輩だったのだ。




舞鶴「ああ、それとこれ」


そう見せてきたのはどこぞの地方の新聞紙。
開かれた新聞の記事に買う書かれていた。

”ぜかまし団と名乗る露出狂集団が〇〇城、城壁に落書き”


記事の写真にはサングラスをつけた島風がカメラの目の前にダブルピースで写り込んでいて
その後ろの壁にはスプレーか何かで書いたであろう”ぜかまし参上!”の文字が。


提督「……あいつグレたのかよ」

加賀「ぜかまし団は全員で4人。リーダーの島風。それに付き添うレン、ソー、ホウ……」

提督「まあ元気にやってんなら別にいいか」

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最終更新:2014年05月03日 18:21