番外編 その6

番外編
☆サバイバルアイランド☆



天龍が仲間に加わったことにより私と提督の二人きりの空間はもうなくなってしまったのでした。
でも別にそれが嫌だというわけではない。
仲間が増えたことで仕事の効率もあがるし、
何より天龍は覚えも早いし訓練も真面目に行ってくれている。
どこかの誰かさんと違って。


そんな私達の平凡が終わりを告げるのは早く
天龍が仲間に加わってから一ヶ月ほど過ぎた頃。


一通の手紙が届いたのがきっかけだった。


加賀「提督。提督宛に手紙が届いていますよ」

提督「提督は留守です。って書いて送り返せ」

加賀「そういうワケには行きません。
   提督にはこれは中々嬉しいお知らせですよ?」

提督「なるほど。とうとう俺のハーレムウハウハランドが建国される訳だな」

加賀「そんなのここにあるじゃないですか」

提督「ここ、仕事、強要。それ、良くない」

加賀「何故、片言なのかは分かりませんが」



天龍「何やってんだよ。ほら、貸しな」


そう言って私の手から手紙を引ったくる天龍は
雑な手つきで封を破り中から綺麗な便箋を取り出しました。


天龍「なになに? えーっと、二週間後に行われる
    式典へ参加されたし……とのことだ」

提督「式典? やはりハーレムウハウハランドが」

天龍「そうじゃなくて……まあ何の式典なのかはさっぱりだな」

提督「ん? 待てよ。おいそれどこで開催されるんだ」

天龍「この招待状には豪華客船って書いて――

提督「行く!!」


加賀「……はぁ。また突然ですね」

提督「だってお前考えても見ろよ。
    豪華客船と言ったらついてくるのは確実に豪華なディナー!」

提督「飯! 飯! 飯! 食い放題が相場だろ!!」

加賀「そ、そんなので釣られる訳がないじゃないですか」

天龍「顔ニヤけてんぞ」


失礼な。そんなことありません。
でもさすがに気分が高揚しますね。


提督「他にどんな奴が来るんだ」

天龍「えーっと、他の司令官も来るみたいだぞ」


天龍「あとは……ああ、ここ最近有名になった名探偵が……」

提督「やっぱり行かない!! 絶対行かない!!」

加賀「なんですか今度は」

提督「ばっか、お前考えても見ろよ! 豪華客船に名探偵!?
    もうやだよ~~! 事件の匂いしかしないよ~~」

提督「完全に劇場版の舞台設定だよ~~~」

天龍「でも飯は食い放題なんだろ?」

加賀「行くしかないですね。決してご飯が食べたい訳ではないですが」



それから私達は提督の猛反対を押し切り
式典が行われる豪華客船に乗り込むことに。



提督の身柄を引きずるように私達は船に乗り込むことに。


提督「んん゛~~!」


提督の口はテープで塞がれているために何を喋ってるのかは分かりませんでした。
私達の他にも色々な人が乗っているこの客船。
各業界の著名人達が集まっているようでしたが、
皆一様に私達のことを怪しげに見ていました。

それもこれも提督が簀巻き状態で引きずられているせいです。
全く、無駄な注目を浴びたくはないのですが。

船への搭乗手続きの際にその提督のせいで怪しまれたので手こずりました。
提督は「お前らが拘束してるせいだろ!」と言っていました。
はて、なんのことやら。

私達は部屋へ案内されました。
部屋は2つ、一人用と二人用。



加賀「じゃ、天龍、ドレスに着替えてから集合よ」

天龍「待てコラ。何で俺が一人部屋なんだよ」

提督「ハッ、確かに!」

加賀「何でって……それが普通だと」

天龍「そんな訳ないだろ、アホか。
   普通は男子と女子で別の部屋なの! ほらこっち来い」

加賀「待っ、あっ、て、提督!」

提督「おうじゃあまたあとでな」


そのまま私は天龍に引きずられ二人部屋に。
私はこの時のことを思い出しては何故か少し悔しい思いをします。
正しいことを言われたのに何故か納得できない。そんな気分です。


その後、三人揃ってパーティ会場へ。
会場に入った時には既に船は沖に出ていて
誰か知らないけれど、偉そうな髭面のおじさんが壇上で話をしている時でした。
まあ、十中八九、今回の会の主催者であることは確かでした。


隣には金髪の胸元が大胆に空いたドレスを纏った女性が。


おじさんは壇上から退いてその女性にマイクを手渡しする。
どうやらその女性が乾杯の音頭を取るようでした。



提督「ほら、なんか乾杯するみたいだぞ」


そう言ってどこかから引ったくってきただろうグラスを
私と天龍に渡してきました。
中身は……綺麗な色をした葡萄酒。


提督「お、見ろよ。あれ、すんげえおっぱいだな」

加賀「……」

提督「痛っっ!!」


提督の足を踵で踏みつけた時、それとほぼ同時に壇上の女性は
可愛らしい声で乾杯の音頭を取りました。


愛宕「ぱんぱかぱーん! それじゃあ平和の祭典を開催しまーす♪」

愛宕「乾杯~♪」


提督は足を踏みつけられた痛みで体制を崩し、
葡萄酒を服に溢していました。


この時の女性こそが愛宕でした。
この瞬間私達は彼女のことを
”あぁ、なんか派手な女がいるな……”程度にしか思っていませんでした。


それから……。


私達は心ゆくままに食事を楽しみ……たかったのですが、
各方面の方が次から次へと挨拶に来て
提督は落ち着かない様子でした。


提督「お前も食ってばかりいないで相手してくれよ」

加賀「ここは譲れません」

天龍「なあ、何で俺は用心棒みたいな扱いなんだ?」

提督「な、何だろうな。俺の半歩後ろに常に控えてるせいじゃないか?」

天龍「いやなんて言うか、人見知りじゃないんだけどよ。
    俺だって偉そうな連中ばかり来て怖いんだよ」


などと話している時、提督の元へ一人の女性が……。
それは壇上で挨拶をしていた愛宕でした。


愛宕「こんばんは~。どうですか? 楽しんでます?」

提督「ああ、君のような綺麗な娘が来てくれたおかげで
    私は今とてもいい気分だよ」


提督を睨みつけると咄嗟に目線を逸しました。
提督が目線を動かした先は愛宕の胸でした。


愛宕「あ、あの……提督さんが深海棲艦との戦争を止めてくださったんですよね?」


提督「ああ。そのことかい。なんて事はないよ。
    至極当然のことをしたまでさ」

愛宕「まあ、素敵ですね。そういうのとても格好いいなって私思っちゃいます」

提督「だが、私は今も自分のしたことが正しいのかは分かっていない」

愛宕「そんな……」

提督「戦争が止まるまで、一体いくらの人間が犠牲になったか……」

愛宕「きっと間違っていないと思いますよ」


そう言いながらそっと提督の肩に触れる愛宕。
さすがにそれは見逃せません。
提督の服の裾を引き愛宕から距離を取らせる。


しかしそれでも近づく愛宕。

愛宕「……あの、もう少しだけお話聞かせていただけませんか?
   すごく……興味があるんです。英雄という人に」


加賀「あのいい加減に――


その時。


大きな揺れが会場を襲う。


天龍「な、なんだ!? 地震か!?」

加賀「ここは海の上ですよ……っ!」


愛宕「きゃあっ!」

悲鳴と同時にさりげなく抱きついて……この雌狐。
許すまじ。


天龍「おい! こっちだ!」

提督「失礼!」

愛宕「何!? 何なの!?」


私も提督のあとを追い、海の外が見える場所まで走る。
そこには客船を囲うように大量の船が……。


天龍「こいつはぁ……」

提督「海賊だ……。囲まれてやがる」

加賀「狙いはこの船の著名人の財産か何かでしょうか」

愛宕「な、何が起きたの!?」

提督「おひょっ!?」

この雌狐……着いてきた上に提督の腕に絡みついて……。
つい強めに愛宕の肩を引き提督から引き離す。


加賀「ここは危険です。中に入っていて下さい!」

提督「お嬢さんも頼むから安全な所にいてくれよ!?」


天龍「行くぜ! 一人残らずお縄につきな!!」


叫びながら天龍が一番近くの船に飛び込んでいく。
同じように提督が別の近づいてきた船に飛び降りる。


二人が降りて行った船からすぐに阿鼻叫喚の声が上がる。
一方私は客船にいる人達へ向けての安全確認と非難誘導を済ませることに。


しかし、いくら二人が出迎えたとしても相手は何隻もの船で囲ってきてる。
その船に敵が一体どれほどの数が乗っているのかも不明。


ゆえに客船にはすぐに乗り込まれてしまった。


乗り込まれた敵の方は次から次へと私がなぎ倒していく。
全く、さきほど食べたというのにいきなり運動してしまっては
消化されてしまうじゃないですか。
でもいざとなれば燃料補給はいくらでも……。


いや、今は目の前の敵を誰一人奥に通さないことを考えなくては。


しかし結局私の抵抗も虚しく私が守っていた入り口とは
全くの反対側から侵入を許すという不測の事態。
さすがに一人きりでは侵入してくる全ての敵を排除するのは不可能……。

客船は大混乱に。



この感じ……どこかで。
あの最後の戦闘の時、確か深海棲艦が母艦へ乗り込んできて
船が戦場となっていたのを思い出す。


あの時、私がもっと強ければ赤城さんは死なずに済んだ。
私がもっと強ければ……。


提督「加賀ッ! 侵入されちまったか……仕方ない!」

加賀「天龍は!?」

提督「今、包囲網を突破するのに十分なだけの船を潰してきた。
    残りは天龍に任せてあるからすぐに合流できるだろう」


提督は海に出たせいで折角の一張羅がびしょ濡れになっている。
まあ元々その前に葡萄酒こぼしていたし……まあいいか。

そんな大混乱の中、提督の耳に飛び込んだSOS。


愛宕「た、助けっ……」

   「おらこっち来い!!」


提督「チッ。加賀、天龍ここは任せたぞ!」

加賀「はい! ……提督!?」


この時私はまさかあの女を助けに行くとは思っても居ませんでした。


そしてここからは提督とは別行動をしたので
後から愛宕や提督から聞き出した情報をまとめていきます。


愛宕は甲板まで連れられていき人質に。
提督はそれを追っていくが愛宕の首元に突きつけられたナイフで動けなくなる。


提督「その娘を離せっ」


提督はこの時既に勝ちを確信していたようですが
酒が入っていたせいもあってかいつもよりも勘が鈍っていたそうです。


提督「お前は運が悪かったな。海の男を相手にしたのが海だったなんて」

提督「お前は嫌でも10秒後そのナイフを嫌でも離すことになる」



10秒後。突然の高い波しぶきが愛宕を人質にしている海賊を襲う。
水が目眩ましになったと同時に走りだし提督がナイフを奪い取る。


ここまでは全て提督の計算通り。
だが、ここからは予想外だったそうだ。


第二波の高い波しぶきが予想外に高さで提督と愛宕を襲う。
さらに海賊が愛宕を海に向かって突き飛ばす。


波しぶきによってバランスや視界を奪われた愛宕は夜の海に転落。
そして、提督はそのあとを追い海へ。


一方私達は船の上にいた、海賊や上がってきた輩を全て制圧していた頃でした。


加賀「ふぅ、これれで全部ですね」

天龍「……ったく手間取らせやがって」

加賀「提督、終わりましたよ……。ってそういえば」

天龍「どっかに行ったっきりだったな」


その後、船内をくまなく捜索するも提督の姿は見当たらない。
私はだんだん足の震えが止まらなくなって……。


こ、今度は船の上の戦闘で赤城さんではなく提督までも失ったのかと。


そんな混乱状態の私にさらに悲報が飛び込んでくるのでした。


「さっき誰か二人海に落ちたらしいぞ!」

「軍服の奴と金髪の人らしい」


天龍「お、おいおいまさか……」

加賀「提督……そんな」


あの人が海賊ごときとの戦闘でやられる訳がないし、
何かのアクシデントで海に転落した……だとしたら。


生きている可能性は……。
と引き伸ばした所で今現在ぴんぴんしているあの人。
確かにここで死ぬような人ではないのです。


後日、提督は謎の浜辺で目を覚ました。


提督「……嘘でしょ。ここどこよ」


提督はとりあえずびしょ濡れの服を脱ぎ、
日差しの下で全裸に。


辺りを見渡すとそこには同じように脱ぎ捨てられた服が。
このドレスどこかで……そう思った提督はすぐに辺りを捜索することに。


どうやらこの静けさが無人島であることに何となく予想がついていた提督は
とりあえず自分たちの住居を確保するために色々と動きまわるのでした。



燃やせる木の枝を集めている時、
川の流れの音を聞いた提督はすぐにそちらに向かいました。

そこでは金髪の女性が水浴びをしていたそうです。


このあとのことは私は不快なので省きます。


提督と愛宕が合流し、寝床、食料、暖を確保した頃。
日はすっかり落ちてしまっていました。


愛宕は昼間にあったことで提督を警戒し全く話してくれなくなっていました。
ざまあありませんね。
何があったってそんなの私は知りませんけれど。


無人島生活二日目。
愛宕が起きてくる頃には提督はすっかりお目覚めで
朝食である食料も確保済み。


食べられる木の実を中心にした食事だったそうです。


提督は一人で食料を確保しに。愛宕は海岸を見張ることに。
それは愛宕が提督が話しかけてもその場からじっと動かなかったもんだから
そういう役割分担に自然となったんだとか。


その日は救助は来ず……。
日が暮れるまで提督は愛宕に食べられる木の実を運んでくるだけだったそう。



無人島生活三日目。
火が消えて夜明け前の寒さに愛宕が目を覚ますと
既に提督はいなかった。


ちなみに夜は愛宕は徹底的に提督を避け、
もし仮に襲ってきたら再起不能になるまで太い流木で叩きつけると宣言。
さすがの提督も「こんな状態でそんなことしてる余裕なんかない」と言ったそう。


それから……。
日中の出来事。
提督がどこへ行ったのか分からないまま
愛宕は浜辺に座り込んで海岸を見張ることに。


愛宕「どこ行ったのよあの馬鹿……」

愛宕「はぁ……。お腹空いた」

愛宕「……」


空腹と寂しさからイライラしてきた愛宕。
そのもとに


提督「ういーっす。あら、起きてた?」

愛宕「……こんな日が登ってればだれでも起きるわよ」



提督「ほい、ご飯ですよ。まあごはんですよって言っても
    桃屋の海苔のあれじゃないんだけどね」

愛宕「うるさい。 だいたいどこ行ってたわけ!?」

提督「ご飯取ってきてたんだけど」

愛宕「不味い。何なのこの木の実。硬いし不味いし」

提督「じゃあいらないの?」

愛宕「いる!!」



結局この日も救助は来ない。
何故こんなにも救助が遅れたのか。
提督はすぐに島の調査を始めていたようでしたが依然として不明。



そして4日目。


愛宕は海岸沿いの救助隊の到着を待ちながらぼうっとしてる所に……。
またしても呑気なあの男は……。


提督「おい愛宕! こっち来いよ! 変な洞窟あった!」

愛宕「……」

提督「おい一緒に行ってみようぜ!」

愛宕「……そんなんで体力使うなんて馬鹿みたい」

提督「そんな所で待ってても気が滅入るだけだぞ。
    幸い食料も確保できるし、水だって川のが何とか飲める」

愛宕「だからってここで暮らせっていうの?
    馬鹿言わないでよ。……ほんと最悪」


提督「会場の時よりだいぶキャラぶれてるけどいいのか?」

愛宕「もう死ぬかもしれないってのに
    こんな所までキャラなんて作ってらんないわよ」

提督「じゃあ人生最後に俺と洞窟に探検しようぜ!」

愛宕「聞いてたの?」

提督「頼むよ~、来てくれよ~」

愛宕「……」

提督「おい無視かよ。なぁ~なぁ~」

愛宕「……」


提督「チッ、今日のご飯はムカデ、蟻、バッタ、蜘蛛」

愛宕「ぐっ……あー!! もう! 行けばいいんでしょう!?」

愛宕「そんなんで行ってその間に救助船見逃したりして
    体力付きて死んだりしたら一生恨むから!」

提督「いやっっほう! こっちこっち!」


それから提督に嫌々ながら着いて行くことにした愛宕。
着いて行くと島の奥の方の密林になっているようなところに洞窟が見えた。

それは提督が言うほど変な洞窟というわけではなかったらしいけれど。


暗いし、じめじめしてるし、変な虫とか居そうで
入るのを躊躇っていると。


提督「ほら」

愛宕「……」


着いて行くとは言ったもののこんな気味の悪いところに入らされる羽目になって
そこで頼りになるのがこんな奴だったことに愛宕は非常に悔しい思いをしたとか。


提督の手を取り洞窟に入ることに。
しばらく暗い中を提督の持った松明の明かりだけを頼りに歩く。


ボトッ。
と愛宕の頭に何か落ちてきた。
ガサガサと違和感のある感触に鳥肌がたつ。


愛宕「ぎゃあああああああ!!」

提督「お、落ち着け! 虫が落ちてきただけだろ。
    取ってやるから動くなっての」

愛宕「早く! 早くぅぅう!」

提督「取ったぞ」

愛宕「殺した?」

提督「いや殺してはないけど……」

愛宕「……馬鹿! 死ね!」

提督「俺が!? なんでじゃ……」


提督「ほら、見えた」

愛宕「……何が」

提督「見ろってほら」


提督が見せたのは洞窟の中で光り輝く水だった。


青の洞窟と同じ原理で出来たその場所はとても幻想的で
虫のことや空腹のこと、救助がいつまでもこないことに
イライラしてばかりいた愛宕の心を一瞬にして救ったのだった。


愛宕「……綺麗」

提督「だろ?」

愛宕「まさかこれ見せるためにしつこく……」


提督「まあ、イライラしてばっかりいてもしょうがないだろ?」

愛宕「そう……。ごめんなさい。少し辛く当たってたかもしれない」

提督「命あるだけまだいいさ」

愛宕「でも……」

提督「心配するな。今頃、必死になって探してくれているだろう連中がいるから」

愛宕「あの会場で提督と一緒にいた人達?」

提督「ああ。奴らは信用できる連中さ」

愛宕「ねえ……」

提督「なんだ?」


愛宕「いつも……どんなことしてるのか教えて。
    会場で聞いたでしょう? もっと詳しく知りたいって」

提督「え、でもあれはお前作ってたんじゃ」

愛宕「あの時はね。今は別よ」

提督「普段……ねえ。普段何してんのかなぁ?」

愛宕「あの……あの人達の役目って私にも出来る?」

提督「お前に? あー無理だな」

愛宕「どうして!?」

提督「だって一応軍人だし、訓練とかたくさんするぞ?」

愛宕「そ、そんなの平気だもん」

提督「どうかなぁ~? こうやって今みたいな
   サバイバル訓練もするかもしれないんだぞ?」

愛宕「それは……」

提督「やめておいたほうがいいさ。
   あんたには戦う理由がない」

提督「あの会場の時みたいに綺麗なドレスでも着ていた方がお似合いさ」

愛宕「……提督には戦う理由があるの?」

提督「約束したからね」

愛宕「理由なら今出来たわ」

提督「……?」

愛宕「守りたいものが私にもあるもの」

提督「……俺は止めたぞ?」

愛宕「私ね……。本当はあなたみたいな人全然興味ないの」

提督「何となくは分かってたよ」

愛宕「えー、本当?」

提督「本当だよ」

愛宕「本当はあの会って……私のお見合いのための会だったの」

提督「へえ……」


二人は光り輝く水に足だけ入れるように座った。


愛宕「両親が跡取りのために結婚を急かしてくるのよ。
    それで用意された場所があれ……」

愛宕「1つ上のお姉ちゃんは頭がいいから
    両親に跡取り云々言われる前に家を出て行っちゃったし」

愛宕「下の妹はいい子なんだけど不器用で、そういうの向いてないって」


これは皆もご存知の通り、摩耶のこと。


愛宕「もう一人の下の妹は学業に専念したいって……頭のいい子だから」

提督「姉妹思いなんだな」

愛宕「そうでもないわよ? 意外だった? 私こう見えてお嬢様なのよ?」

提督「全然意外じゃない」

愛宕「なんかそういう跡取りがどうとかって疲れちゃってね……」

愛宕「親の敷いたレールの上をずーっと走り続けてるの」

愛宕「私も少し前はお姉ちゃんみたいにこの家を出て、
    そこからが私の本当の人生が始まるんだって……そう思ってた」

愛宕「さすがにお姉ちゃんを一人逃がしてるだけあって今度はそう簡単にいかなくて」

提督「そこまで馬鹿じゃないってことだろ。
    そんなに嫌なのか?」

愛宕「嫌よ。自由にやりたことしたい」

提督「やりたいことって」

愛宕「護りたいものなら……たくさん」

提督「……。だったら護るための力が必要だな」

愛宕「え? うん、そうなんだけど」




提督「お前……しばらく俺の所に来い」





愛宕「うん! 行く! 行きたい! いいの?」

提督「まあいいよ。一から鍛え直してやるよ、俺じゃないけど」

愛宕「そっかー、そんな近くで……」

提督「近くで?」

愛宕「ううん、何でもない」

提督「だが、気をつけて欲しいのが、奴は鬼教官だからな」


愛宕「私結構根性あるし大丈夫っ!」

提督「根性ね。それを聞いて安心したよ」

愛宕「……?」

提督「いや、何この綺麗な場所から元の海岸に戻るのに
    道は一本しかないのよ。君がさっき泣き叫んだ虫のいる道をもう一度通ることに」

愛宕「うぅ……、が、頑張る……」

提督「さて、じゃあ行くか」

愛宕「う、うん……あっ!」


立ち上がった拍子に愛宕は何かを
綺麗な光る水の中に落としてしまいました。


提督「何落としたんだ?」

愛宕「指輪……。お母さんの古いのを貰ってて
    これを大事に取っておいていつか好きな人に渡しなさいって」

提督「マジかよ結構大事なもんじゃねえか」

提督「待ってろ、今取ってくるか……ら?」


そう言いかけて提督が水を覗きこんだ時、
謎の生物が水面下を泳いでいるのを見つけたそうです。


うようよと漂うその生物は段々と浮上してきました。
そして――。


ヲ級「……ヲッ?」


ザバァーッと勢いよく水から出てきたのは
いつかバナナで捕まったことのある深海棲艦でした。


提督「お、お前は! ヲ級じゃねえか」

ヲ級「貴方ノ 落トシタ ノ バターチキン?
    ソレトモ コノ Vジャンプ?」

提督「選択肢おかしいだろうが。ってかだいぶ日本語上達してんな」

愛宕「あ、あの……私が落としたのは指輪なんですけど……」

ヲ級「ロード・オブ・ザ・リング?」

提督「普通の奴だよ」

ヲ級「指輪? 正直者ニハ 全部贈呈」

提督「いやこのしわくちゃのVジャンプもどきはいらねえよ」

ヲ級「残念。……サラバ」

愛宕「あっ、ちょっと!」


愛宕の静止の声も無視してヲ級は水に沈んでいきました。
が……とても綺麗な場所だったために下で待機しているのが丸わかりだったので。

提督は水の中にVジャンプを落としました。

するとすぐにヲ級は浮上してきて


ヲ級「ポイ捨テ ダメ」


提督「お前がここにいるってことは……もしかしてこの島って」

ヲ級「正解。ココ 深海棲艦 ノ 領海。
    貴様等 不法新入社……新入社員?」

提督「いや確かに不法侵入はしちまったけど、お前らの島は株式か何かなのかよ」

ヲ級「マサカ…… 駆ケ落チ? ドラマティック! 否、リア充溶解シロ」

提督「怖いわ! ってか人の話を聞け!
    お前の力で本島まで送ってくれないか?」

ヲ級「浦島太郎 ノ 亀 デハ 無い。無理」

愛宕「この人? 大丈夫なの?」

提督「まあ昔馴染みって奴だ。色々あってな。
    じゃあ何かこの島で一番美味いものってなんか無い?」

ヲ級「美味イ? トカゲ 一番!」

提督「木の実系で頼む」

ヲ級「品種改良マルーラ 有リ。度数高メ」

提督「マルーラ!? なんでこんな所にあんだよ」

ヲ級「趣味」

提督「あぁ、そうかい。ありがとうな。あと、救助船来ても沈めないように言っとけよ!?」

ヲ級「ヲイ」

提督「ん? なんだ?」

ヲ級「姫 ニ タマニハ 会イ ニ 行ク OK?」

提督「分かった。今は忙しいからまた今度な。じゃあありがとうな!」

ヲ級「感謝感激雨嵐~」


そう言いながら水に沈んでいき今度は見えなくなっていった。
それから提督達は海岸に戻り、提督の謎の早業で火を起こし、
いつものように提督は食料、愛宕は見張りにつくのだった。


しばらくして提督が戻ってきて嬉しそうに愛宕に見せたのは
今まで取ってきたことのない木の実だった。


愛宕「なにこれ」

提督「さっきあの妖怪が言ってた木の実だ」


愛宕「なにそれ?」

提督「本来こんな所じゃ育たないはずなんだが……。
    深海棲艦の謎の技術で育ったんだろう。それを拝借してきた」

愛宕「だから何なのよ」

提督「天然のアルコール入りの果実」

愛宕「……ほんとに?」

提督「一杯やろうぜ! 焚き火もつけて今夜は二人のキャンプファイヤーだ!」

愛宕「……馬鹿じゃないの」

提督「うっっひょー! テンション上がってきたぁぁあ!」

愛宕「もう食べてるし!」

提督「多分ヲ級が連絡してくれただろうからもうすぐ救助が来るぞ!」

愛宕「もうすぐって言ったってもう夜になるのよ!?」

提督「夜だから船が出せないとでも? 加賀がそんなに待つ訳ないし!」

愛宕「そうなの……?」

提督「だから今夜はここで踊ってれば朝には来るさ!
    さあ食え! そして踊ろう! レッツパーリィー!」

愛宕「……」



この時のことを愛宕本人はこう語る。
愛宕「あの時何故乗せられたのか今ではさっぱり分からないわ。
    ホント、吊り橋効果ってどうにでもなるのね……」


翌日。
朝になる頃、私達はようやく例の島を発見し近づいていくのでした。
深海棲艦の領域なのだから人がいない無人島なのは当たり前だった。


私達は島の海岸から上がる煙の近くをぐるぐる回る2つの影を発見。


加賀「提督ーーーーー!!」

天龍「おーーーーーい!」




提督「違う違う! いいかもう一回見てろよ? この次はこうで~~~」

愛宕「あはははははは! 分かんないってば! もう一回! ね!」




加賀「提督ーーー……」

天龍「おーー……い」


提督「おいおい、見ろよ! 練習した俺達の最高のダンスを披露する時がさっそく来たぜ?」

愛宕「あははははは! やだ本当~? しちゃう?」



加賀「……」

天龍「……」



救助船が到着した浜辺には
お手製の葉っぱで作られた腰巻き一枚の阿呆と
ボロボロになったドレスだったであろう布切れをまとう露出狂が


二人仲良くハルヒダンスを披露しているところだった。



提督「あれ? なんかあいつ加賀に似て ぐぼぁっっ!!!」


提督は横っ面を殴られ砂浜に綺麗な一本線を残し遠くで倒れる。


加賀「私がどれだけ心配したと思ってるんですか」


愛宕はその様子を見て半分くらい正気に戻ったらしい。
目は若干とろーんとしていたけれど。


加賀「本当に……無事で良かった」


提督は起き上がることなくそのまんな救助船に乗せることに。
私が本島に着くまでずっと泣いていたのは提督は知らない。




そうして後日。
鎮守府にけたたましくチャイムの音が鳴る。
そして出迎えた先にいたのが愛宕だった。


提督「……何だその荷物」


巨大なボストンバッグを2つ下げて
手には大きめのスーツケースを。


提督「一体何ヶ月単位の旅行に行くんだよ」

愛宕「何言ってるの? 永住よ~自分で言ったことの責任取ってくれるんでしょ?」

提督「えっと、まあ……そうだけど永住とは誰も……」

愛宕「責任、取ってくれるでしょう?」

加賀「責任ってなんですか」

天龍「おいおいどうなってんだよこりゃ」

愛宕「あ、今日から私もここに住むからよろしくねっ」

天龍「お、おう俺は構わないけど」

加賀「提督……」

提督「いやーその……まあそういう訳だよ」

加賀「どういう訳ですか!」


こうして愛宕が私達の鎮守府に仲間になるのでした。


今回の後日談。


愛宕「加賀さん、はいこれ使って」

加賀「……指輪?」

愛宕「私のお母さんからのお下がりなんだけどね」

加賀「お母さんの? にしてはこれは男性用じゃ」

愛宕「ふふ、これは女の子から女性に渡す用の奴なんだって」

加賀「でしたらお母さんは渡してしまって持っていないのでは……」

愛宕「お母さんも実はお父さん渡さなかった秘蔵の一品らしいの」

加賀「……私は今猛烈にあなたの家庭を心配しています」

愛宕「これ使ってね。あのお馬鹿さんのことだから
    どう受け取るかはわからないけれど……」

愛宕「加賀さんの頑張り次第だから」

加賀「いいんですか?」

愛宕「いいのよ。私は。ほんっとズルいわよね。
    あんな誘い方しといて自分は加賀さんみたいな人がいてさ」

加賀「何か言葉に刺を感じますね」

愛宕「ふふ、冗談よ冗談。私は本当に二人に幸せになって欲しいの」

加賀「私はあなたみたいな人にそう思われるだけでも幸せです。
    ありがとうございます」


愛宕「ほんと……ずるいわよね」





今回のさらなる後日談。



4人に増えた私達は資材不足に悩まされながらも
上からの命令により艦隊を結成させることになった。


なんでも英雄の艦隊がちゃんと揃ってると箔がつくとか
何だか曖昧な表現をされそのまま受け入れることに。


……とは言っても誰をどう加えていいのか分からずにとりあえず
面接を始めることに。


提督「えー、君がうちを志望した理由はなんですか」

鈴谷「面白そうだからです!」

提督「どうして海軍なの?」

鈴谷「カレーが美味し……じゃなくて!
   とっても素敵で格好いい提督さんがいるって聞いたからです!!」

提督「ほほう。えー、ちなみに脱げと言われたらどれくらい脱げますか痛っっ!!」

加賀「何聞いてんですか」

鈴谷「脱げば合格?」

提督「本当に入りたいならね」

鈴谷「おっけー任せて! じゃあ提督さんは後ろ向いててね」

提督「え?」

加賀「……これは一本取られたんじゃないですか?」

提督「い、嫌だ」

鈴谷「じゃあ脱げないよ?」

提督「鏡は?」

鈴谷「無し。使っちゃだめ」


その後、提督は壁と向き合い、その後ろで鈴谷は全裸に。
提督の首には天龍が刀を添え少しでも動いたらサクッといくように。

これが鈴谷が鎮守府に来た時の話でした。
そして摩耶は……。
鈴谷ので面接に懲りた提督はどうしようか迷っていた所に。


愛宕「だったら私の妹をここに入れて欲しいの」

提督「なるほど。愛宕の妹か。だったらまだいい子が来そうだな」



そうして蓋を開けてみたら……。



摩耶「慣れ慣れしく触んじゃねえよ! 糞が!」

提督「えっ、やだ何この娘、怖い」

摩耶「アタシは摩耶ってんだ。まあ愛宕姉が
   世話になってるらしいしよろしく頼むよ」

鈴谷「おお~~、同期の子だね!?」

摩耶「な、なんだお前! 近寄んな!」

愛宕「ごめんね~ちょっと口が悪いんだけどいい子なのよ?」

提督「俺の威厳はどうなっちまうんだよ」

天龍「……ど、どんまい」


そうして最後。
最終的に提督がたどり着いた結論は……。


提督「摩耶や鈴谷みたいなちょっとお年を召した奴はだめだ!」

摩耶「ばあさんみたいに言うんじゃねえよ」

鈴谷「そうだよー。まだピチピチだよ?」

提督「ええい、うるさい! 最近では艦娘も小等部コースがあるようだし」

提督「そこの子から抜粋していこう」

天龍「いいのか? そんな子供が来たら大変だぞ?」

愛宕「まあでも優秀な子を取ればきっと素直でいい子よ」


そして、小等部のトップクラスにいた電の技量、
才能を見ぬいた提督はすぐに呼びつけ合格通知を無償で渡す。


電には最初から最後まで優しく接した提督だった。


電「今日からお世話になるのですっ!」

提督「ああ、よろしくな。こっちが秘書艦の加賀だ」

加賀「よろしく」

天龍「俺が天龍だ」

愛宕「愛宕よ~」

鈴谷「鈴谷だよ! 可愛いねえ、抱っこしてもいい?」

摩耶「やめとけってアホか。アタシは摩耶。よろしくな」

加賀「では早速ですが、まずは館内の案内をするんですが……
    なんでみんな着いてくるんですか」

提督「いや可愛いから」

鈴谷「高い高ーーい!!」

電「ほに゛ゃぁあ!」


提督(純白か……うむ、最高だ)

愛宕「どこ見てんのよスケベ」

提督「どこも見てない」

加賀「いいから電以外は仕事に戻って下さい」


電「び、びっくりしたのですっ」

加賀「ごめんなさいね。うちはいつもこうなの」

電「とても賑やかで楽しいのです」

加賀「ふふ、そうね。うちはいつだって賑やかで
   とっても平和だから」


……こうして私達横須賀鎮守府は全員が終結することになったのだった。

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最終更新:2014年06月08日 21:14