翼よ、舞い上がれ

 惑星パルエにおいて、今日ほど、大陸の歴史に華々しく刻まれるべき『お祭り』は、恐らく、もう二度とおとずれることはないでしょう。
 

 第一回パルエ大陸横断レース。
 国家の垣根が、まったく全て取り払われておこなわれる、有史以来──旧時代は勿論抜きです。記録ありませんし──最大規模の国家間レースで間違いないでしょう。
 その中で実際にレースに参加する機体は、実に多岐に及んでいます。
 いずれの機体も、現パルエ上に存在する国家最高の技術が注がれている模様です。
 最高の技術が戦争ではなく、健全的な競技のためだけに注ぎ込まれるなど、今までの大陸大戦では考えられなかったことであります。
 
 壮観なのは、何も人類の英知が結集された、選ばれし機体と操縦士だけではありません。
 今日のために、各国の主力飛行艦隊が一同に会しているのです。
 やはり、飛行艦隊の目玉と言えば、クランダルト帝国の近衛艦隊、アーキル連邦の首都防衛艦隊でしょう。
 両艦隊が史上最大にして最後の大艦隊戦、リューリア決戦で砲口を向けあったのは、まだ記憶に新しいはずです。
 それが今では、共に肩を並べています。
 大陸の両雄の肩書きに相応しく、他に並び立つことの許されない戦道具としての美しさを放っています。
 他にも、有力な国家の艦隊や航空隊もいます。
 
 あっ、あそこにいるのは、百年以上の昔に、クランダルト帝国に併合された国家の旗です。
 帝国自治区としての新しい歴史を進む中、テクノクラートからの支援を受け、ささやかな空中隊で、参加しているようです。

 ではこの辺で、さっそく、各国の機体と操縦士を見てみましょう。
 最新であり自慢の技術、そしてそれぞれの国の英雄が、平和的な目的の為に集まっています。
 上空には沢山のスカイバードと、旧兵器たちが集まってきました。
 クルカ人形も空に解き放たれます。
 きっと、今日という平和な記念日に、古の時代から命脈をつないできたものたちも祝福してくれているのでしょう。

 アーキル連邦シクモダン社の参戦機体、ラブチャーシュネック号。
 操縦士は、メリア・メモラ特務准佐。
 正気とは思えないほど機体の限界性能を引き出す、メリアの荒っぽくも繊細な操縦センスは、大陸レースでも生かされるのでしょうか?ラブチャーシュネック号は、流石はシクモダン社の作り上げた機体だけあって、『普通』ではありません。
 三十二基もの浮遊機関をくっつけ、その姿形はすでに『艦』と呼べるほど巨大です。
 一昔前なら、浮遊機関がバララに動き、機体が解体されていたでしょう。
 しかし、サイゼイリゼイなる人物の協力で解決した模様です。
 
 またしてもアーキル連邦所属、バテンガイトス社機です。
 謎しかない不思議操縦士、アレドア・スロスキー大佐が乗り込むのは、セズレ・ミクス。
 絶対この機体はセズレなどではありません。
 セズレのお尻から先には、本体の数倍は大きい、『魚の骨』のようなプロペラが伸びています。
 どうやら四重反転プロペラのようです。
 浮遊機関もありますが、そちらのほうが補助エンジンに見えます。

 パルエ大陸の超大国の片割れ、クランダルト帝国からは、帝人重工が機体を用意しています。
 帝人重工は、同帝国が北半球侵攻時に主力兵器を数多く受け持っていましたが、現在は影が薄い模様。
 大陸横断レースで挽回を狙っています。
 参加機体グランバーラ・ザイオンは、伝統ある近代帝国の主力戦闘機の名の一部を引き継ぐ、高性能を秘めているでしょう。
 生体器官の後ろには、触手のような、六本のヘ式機関が蠢いています。
 瞬間的な加速力ではパルエ最速かもしれません。
 操縦士は『皆殺しの鳥』と敵対国に恐れられた、ガニア・イビ少将騎士です

 クランダルト帝国からはさらにもう一機、グレーヒェン工廠からの参加です。
 長い歴史の中では新参ながら、近年は帝国主力艦の受注を請け負う大手です。
 参加機体はグライール・ナイーダですが、操縦士は無人機とあると同時に、チュチュミ・グレーヒェンとあるのはどういうことなので

しょうか?
 限界まで生体器官を鍛え上げ、操縦士と『一体化』している模様です。

 最古参のフォウ王国と言えば、高速機。
 高速機と言えばフォウ王国の図式がなりたつ、直線番長機の北方の大国は、パルエ最速を目指しているようです。
 操縦士はエギリ・ノドア空尉です。
 愛機パラネクト・フォウの噴進エンジンは、わざわざ最高の状態であるものを、北方の凍てつく湖の底から引き上げたようです。
 ただ、これら噴進エンジンを多連装型にして搭載しているのは、大陸横断レースの規定では、かなりギリギリですが、ここにいるということは問題なかったのでしょう。

 サン=テルスタリ皇国は、神秘的な中立国です。
 大陸戦争にも不参加だった同国が、パルエの表舞台にでてきたのは、大陸横断レースが初めてではないでしょうか。
 奇妙な、いえ、個性的な三葉三角翼の機体ナルナコータは、同国の特殊な防衛事情から進化してきた結果でしょう。
 操縦士のフクカ戦士については、まったく情報がありません。

 パンノニアが段階的平和統一の中、南北共同開発での参加です。
 グロリアーレ・パンノニーアは、両国の意地が垣間見られます。
 どうやら浮遊磁力発生装置から発展させた、磁力機関を主機に据えているようです。
 操縦士は両国の血を引くフォルオーレ大令騎士です。

 メル=パゼル共和国は、創設以来からの技術大国の地位に有り、参加機体にも最高技術水準で、『凝った』機能がたくさんあるのでしょう。
 機体の名はメルパゼン・トゥオーイ。
 操縦士はオサシ・サットン空中機甲大佐です。
 珍しいことに、プロペラとエンジンが『前』に付いた牽引式のようです。
 押し出し式ではありません。
 メル=パゼル機の正統進化の末裔として、最高の能力を見せてくれるでしょう。  

 水上機と船の故郷、ワリウネクル諸島連合からは、スマウコロ・マコラの参戦です。
 飛行艇スマウコロを改造した機体のはずですが、もはや原型はありません。
 これを改造機と呼んで良いのかは、悩ましいところです。
 操縦士は、バズ・マッコール。
 どうやら民間人のようですが、操縦技術はずば抜けているようです。

 恐らく異色中の異色の参加機体でしょう。
 旧文明の代表として、ラ号が参加しています。 
 この機体は、アーキル連邦のパンドーラ隊からは、サマルテの鞭と呼んでいたそうです。
 数千年前に文明が消滅した、旧文明の兵器のはずですが、見た目は新品そのものです。 
 大陸横断レースの優勝候補でしょう。

 他にも数々の参加機体が、国の大小を問わず、沢山参加しています。
 しかし、ここでは全てを説明する時間もないようです。
 大陸横断レースの秒読みが始りました。
 今、まさに全機が飛び立とうとしています。
 
 これは、これはパルエ大陸の新時代の始まりになるでしょう。

 今!
 まさに今!
 パルエ大陸の新しい風と翼が、大空に舞い上がりました!

最終更新:2015年04月01日 01:42