パンドーラの剣

 連邦陸軍に在籍していた頃、乾いた空気と殺風景な茶色の世界に辟易していた。いつかこの変わり映えのない世界からおさらばしてやろうと砂嵐と敵弾の雨を搔い潜り、飯に混ざる砂も我慢した。照りつける日の下の行軍はまさに生き地獄といっていい。敵弾に倒れる前に暑さでおかしくなりそうな恐怖に押しつぶされそうにもなった。

いつか抜け出すんだ・・・。

いつか・・・。

いつか・・・・・・。

 

ズリュッとぬかるみにはまった音が、思い出に浸る俺を現実に引き戻す。視界を覆う色とりどりの緑、じめっと湿気を含んだ空気、水分を含みすぎた土は行軍の列のせいで泥となって俺の足を掴んで離さない。おうベイベー、こんな女に出会いたかったぜ。

ぐっと足に力を入れ、引き抜く。ズッポンと間抜けな音とともに泥で化粧されたブーツがお目見えだ。足の甲まで泥が乗って地味に重い。ため息を吐きつつ、額に浮かぶ汗をぬぐう。ここはサン=テルスタリ皇国国境付近の熱帯雨林。俺が望んだ世界、乾いた大地のない世界がここだ。おお神よ、極端だぜ。乾いてない代わりに湿気のせいで肌に張り付く汗が気持ち悪いのをどうにかしてくれ。本音は半袖で動き回りたいがここは未開の地、ちょっとした切り傷、虫刺されが伝染病の原因となる。特に虫は危険だ。あいつらのせいで何人の隊員が葬られたことか・・・。

 

俺たちはパンドーラ隊。連邦のため、戦争勝利のため、遺跡よりテクノロジーを掘り出すのがお役目だ。名目上、遺跡発掘局傘下とはいえほとんど彼らの指示を受けていない。半ば独立した組織というわけだ。とくに俺が配属された隊はパンドーラ隊の中でさらに分類化された戦闘特化部隊だ。元々パンドーラ隊は発掘品を見定める頭脳を持ち、なおかつ危険に対処できる戦闘力を持ち合わせた特殊部隊だったが、その損耗率を減らすため先陣を切って安全を確保し、本隊の発掘作業をスムーズに行うために組織されたのが俺たちの隊だ。この隊は帝国亡命兵、元犯罪者、退役軍人などが集まった、いわば烏合の衆だ。

個々の戦闘力と優秀な隊長殿によって成り立つ荒くれ者の集まり、なんてパンドーラ本隊からも言われちまった過去もある。仕事はしっかりしてるのにさ。隊列の先頭をゆくトサ自走砲に牽引されるという情けない制圧戦車ヤグラ(正直制圧戦車なんて名前負けも甚だしい)にタンクデサントしているビーデス隊長曰く「評判が悪いから補充要員を酒場から拉致ってくることになるんだよ」

隊長、それはいったいどこの自分でありましょうか。

そのビーデス隊長はパンドーラ隊随一の実力者であり、命を預けられる頼れる存在だ。パンドーラに来る前は「アンチタンク」の異名を持つ戦車殺しのスペシャリストとして戦場を駆け回っていたらしい。隊長殿が担いでいる馬鹿でかい対戦車ライフルはサーツェル・ホッツディスカ技師が設計した機関砲「ホッツディスカ」を魔改造したものらしい。それに俺は拉致られたわけではない。ちょうど不満を漏らした場所が酒場であってたまたま隣席に隊長がいただけで・・・あ、あれを拉致というのか。

隊長が拳をあげ、進軍停止の合図を出す。ヤグラから降り、後続の俺たちのほうへ歩み寄ってくる。

「ザザ、ジジ!偵察へ出ろ。残りは警戒態勢を維持しろ」

隊長の指示が飛ぶと軽装の女兵士が二人飛び出し、前方の樹林へと消える。ザザとジジは辺境の狩猟部族出身らしく、その身軽さと狩猟スキルを買われて偵察役を任されている。小麦色の健康そうな肌が似合う双子の姉妹はよく部族に伝わる踊りを披露してくれる。その腰使いは酒場の踊り子なんてかなわないと確信している!
元々荒くれ者しかいないこの隊には彼女たちを手籠めにしようとする者もいたが、そいつらは顎を砕かれて初めて相手を間違えた事を悟るのだ。辺境の田舎者と侮ってはいけない。彼女たちの部族は生まれた時から戦士なのだ。パンドーラに配属された理由も、「悪戯」をしようとした上官の喉笛を噛み千切ったせいだという。真偽を確かめるため、俺は思い切って彼女たちに尋ねたこともあったが、屈託ない笑顔を向けられただけで答えてくれなかった。笑顔はばっちり記憶に焼き付けておいた。こんな可愛い娘になら噛まれても一向に構わんな。
おっと、相棒がこっちを睨んでいる。

「なにボーッとしてル、こち来い」

このカタコトな連邦語を操るのは俺の相棒、帝国亡命兵のカラスノだ。優秀な奴なんだが、感情が高まったりすると帝国語で喚いたりするのが玉にキズ。
早口でまくし立ててくるんだが、正直何を言っているのかサッパリ分からん。帝国語を理解しようと勉強を頼んだ事もあったが、どうもカラスノは人に教えるのは下手らしい。一向に上達の兆しが見えないのは俺のせいではない。堅物っぽい奴と思われがちだが俺の覗き仲間だ。奴が覗きポイントを割り出し、俺が絶好の角度を見つけ出す、完璧なコンビなのだ。毎度ザザとジジに成敗されるのが恒例になっているが・・・。最近は彼女たちも面白くなってきたのか張り合ってくるようになった。プロの狩人を相手に敵うはずもない・・・覗きは引退しようかな。
しかもどうもカラスノはジジに好意を寄せているようだ。相棒をこのまま覗き魔にしておいては流石に申し訳ない。もっとも、このむっつり君が覗きを辞めるかは本人次第だが。

そんなむっつり君に怒られながら俺は銃を構えながら警戒位置を探る。テクノロジーがあるところには必ずと言っていいほど旧兵器が周囲を巡回している。旧兵器なんて名前にだまされてはいけない。奴らはこちらの体を焼き切る光線を撃ち、素早い上に硬く、何度も弾をぶち込まないとくたばらない。そんな奴らがこちらの処理能力を上回る数量戦で襲ってくるというのだから笑えない話だ。

感情のない奴らに容赦も、油断も、慈悲もなく、侵入者を排除する。俺たちパンドーラ隊は何度も戦っているうちに奴らの特徴を掴んでいった。地上を徘徊する旧兵器、特に斥候役のノルというタイプが厄介だがテリトリーから一定の距離を巡回している。見つかると増援がゾロゾロやってくるが、奴の位置から旧兵器の巣を測定できる。だからこうやって定期的に止まっては辺りにノルがいないかを探すのだ。

そんなわけで背の高い草をかき分けてゆっくり進んでいると、少し拓けた所にポツンと一本だけ真っ白な針葉樹を見つけた。なんて珍しい!緑ばかりでちょうど辟易していたところだ。

「髭殿ー、あれは何でありますかー」

知らないことは素直に聞くのが手っ取り早い。ということで隊の中でも頭のいい奴に尋ねてみた。

なんだぁ若いの。と言いながらやってきたのは虎髭の似合う隻眼のおっさん。荒々しい風貌だが、どこから仕入れてくるのか情報通な上に頭もキレる。この隊には様々な事情で入隊してくる奴はそう珍しくないが、このおっさんもその一人だ。「名前は戦友の墓に捧げてきた」と言っていたような気がする。前に所属していたのは独立歩兵隊第33大隊だったというが・・・本部に帰還出来たら調べてみよう。

「髭殿!あの木でありまーす」

「俺は自然博士じゃなんだがな・・・ちと遠いな。どれどれ」

髭殿が首から下げている双眼鏡を取り、覗き込む。

「木にしちゃあ周りに溶け込んでないな・・・・・・あ?ああ、クソッタレ!」

どうしたんだろうか。妙に焦ってるじゃないか。

その時、白い枝がベロンと二股に木から剥がれ落ちた。
肉質で小さな足が無数に見えた。黒光りした頭部はその全てが目。枝と思ったものはその身を覆う毛のように細い棘。

あれは・・・

「シャイセ!グースィニツァ!(くそったれ!毛虫だ!)」

カラスノが帝国語で叫んだ。
なんて言ったか?分からないがわかる!でけえ毛虫だ!しかもこっちに向かってきてやがる!

「そいつらは肉食だ!殺せ!発砲許可!」

ビーデス隊長の号令と同時に一斉に銃口が突進してくる毛虫に向けられ、発砲。
だが虫の無駄に強い生命力は、小銃程度の火力でその歩みを止める事を拒んだ。成虫となるための糧、子孫を残すための野性、自然の摂理が俺たちの戦列を食い潰す。無慈悲にも、二匹の肉塊は突進の勢いそのままに戦列を分断した。

跳ね飛ばされた隊員が宙を舞い、落下した先で巨体にすり潰される。突進をかろうじて避けた隊員もいたが、毛虫の毛のように細い棘に引き裂かれ、斬り飛ばされる。何人もの隊員が銃弾を撃ち込むも、その巨体を小さく穿つにとどまる。

くそっ!くそっ!化け物め!
待ってろ、そのツラ吹っ飛ばしてやる!

足をとらえる泥を苛立ちと共に蹴り飛ばし、機銃で応戦している制圧戦車ヤグラによじ登る。味方と毛虫の距離が近すぎて主砲が撃てないんだろう・・・。とことん使えんな!
俺はヤグラが載せていた貨物ユニットをこじ開ける。中に積載されていたもの、それは虎の子の対旧兵器兵装、愛称を「プファール(杭)」。
強力な炸薬の力によって質量弾を撃ち出し、旧兵器を文字通り粉砕するために生まれた。が、その炸薬量のせいでアンカーを打ち込んで固定してから砲撃しなければ砲手が死ぬ。旧兵器を前にして、動きを制限した中でプファールを撃ち込まなければならない、まさに命がけの一撃はハイリスクながらも一定の成果を上げている。

よいしょ・・・相変わらず重いなこの野郎。腰にくるぞ。
炸薬量もさることながら質量弾もかなりの重量だ。持ち運ぶのも一苦労。そのせいで持って行ける数も少ない。虎の子とはいえ、どうにかならないのか。
ん・・・?ビーデス隊長が血相変えて何か叫んでいる。

隊長が指さす方向を見る。
神よ・・・何の冗談だ。毛虫がヤグラに肉薄してるじゃないか!

プファールを抱えたままでは逃げられない。
背に腹は代えられない。投げ捨ててヤグラの背を蹴って体を宙に投げる。背後で避けられないと覚悟したのか最後の足掻きとばかりにヤグラの主砲の発砲音が響いた。次の瞬間、速度の付いた肉塊が巻き起こす風の音と鉄塊が踏みつぶされる音が全身を貫いた。

いまだ宙にいる俺は受け身を取ろうとした、が急に後ろに引っ張られる。
首がしまる音がする。一瞬息が詰まった。何かに引っかかった俺は無茶苦茶な動きをさせられる操り人形のように体を躍らせた。状況が飲み込めないが、視界の端に躍動する肉の波を認める。なんてこった、毛虫の毛に引っかかっちまった!

毛虫はヤグラの砲撃音に驚いたのか足掻きの一発が堪えたのか、逃げるようにパンドーラ隊から離れていく。どんどん小さくなっていく隊を尻目に、草を蹴散らし木を押し倒し、毛虫は無我夢中で道なき道をこじ開けながら闇雲な突進を続ける。
と、止まれこの毛虫!揺れで吐きそう・・・。

どれほど経ったろうか。
俺をぶら下げたまま、休むことなく逃走路を切り開いていく毛虫はついに熱帯雨林を抜けた。と、次の瞬間、強い衝撃が襲ったかと思ったら俺は宙に放り投げられていた。ゆっくりと視界が一回転する。風に舞う葉も、風の音も、蠢く毛虫の動作も、その全てがスローモーションに感じた。永遠に宙を漂うのかという妄想は、体が重力に引っ張られて地面に吸い込まれるような錯覚と共に落下が始まった事で霧散した。
とっさに頭を庇い、受け身の態勢をとる。刹那、グシャリと地面に叩き付けられた。顔面を激痛と共にキーンという音が駆け巡る。立ち上がろうとするも方向感覚が狂ったのかうまく立てない。

焦る気を落ち着かせ、呼吸を整え恐る恐る再び立つことを試みる。
フラフラするが、なんとか立てた。

くそぅ・・・鼻が折れた。
左指も落ちた際に体の下にあったせいかピクリとも動かない。両足は動く。

ボタボタと垂れる鼻血を拭いつつ、毛虫の様子を窺う。
緑とも白ともみえる体液を噴き上げながら、ピクピクと痙攣している。あの不気味な頭部がブヨブヨの胴体から少し離れたところに転がっていた。顎をカチカチ鳴らしているあたり、やはり虫の生命力は恐ろしい。

何がどうなったのか全く分からん。

辺りを探索しようと一歩踏み出す。

ゴツッと靴越しに伝わる硬い感覚。
泥でも腐葉土でもない、人工的な硬さ。
慌てて首を巡らし見渡す。

ここは、そうだここだ。
解析班が一カ月かけて探し出した「ファブリカ」・・・!
旧兵器、浮遊機関、未知の道具、ありとあらゆる旧文明の遺産が残る工場を俺たちはファブリカと呼ぶ。思いがけず、俺は宝の宝庫にたどり着いたのだ。

よし、よし!
隊長たちも俺を探しているはず。その希望に縋ろう!俺はついてるんだ!

鼻血で汚れた右手で腰にあるガンホルスターを触る。
よかった、信号銃は無事だ。これを打ち上げて助けを呼ぼう。

帰還したら俺は隊の英雄だ。本隊も見直してくれるかもしれない。表彰も夢じゃない!
今なら何でもできそうな気分だ。興奮で鼻の痛みも吹き飛ぶ。感情の高まりは最高の鎮痛剤とはよく言ったものだ。

だが空も飛べそうな気分は、急降下して地面に突き刺さった。
待てよ、毛虫はなぜ死んだ?そもそもここをどこだと思っている。遺跡あるところに旧兵器あり。その鉄則をなんで忘れていた!
毛虫を殺したのは確実に旧兵器だ。奴らはテリトリー内に入ったものは差別なく殺す。毛虫も、そして俺も。

足音。

見たくない。という感情より先に体に染み込んだ軍人の動作が先に動いた。音がした先を確認するという行動をこれほど恨んだことはないだろう。
彼岸の距離およそ200メートル。栗色の髪、不思議な光を湛えた緑の瞳、だがそれに感情の影はない。肘から先がない左腕からは何本ものコードが揺れていた。身体の至る所が剥げ、抉れ、そして光っていた。人の形をしているが人ではない。そんなことくらい俺でもわかった。

旧兵器。
それも人型だ。身長は俺より頭一つ分小さいとみた。体の丸み、胸部の膨らみから女を形造っているというのを理解した。
なんて悪趣味な。無機質なファルムで一目で旧兵器とわかったほうがまだありがたい。
「彼女」はこちらを向いたまま微動だにしない。人なら死んでいるような恰好だが、一体どうやってあの毛虫を葬ったというのだろうか。油断は、できない。

ここで戦うか?いや、他の旧兵器がいないとも限らない。
手元の武器は拳銃一丁、マガジンは三つ。それと信号銃。
凄腕のガンマンなら早撃ちなんて芸当が出来るだろうが、生憎俺の腕前は普通だ。
何発ぶち込んだら殺せる?そもそも拳銃弾で倒せるのか?ここは助けを待つか?それまで奴は待ってくれるか?一旦逃げるか?

「彼女」から目が離せない。
気持ちの悪い汗が背中を伝う。鼻血が止めどなく垂れ、熱い液体は口に溜り鉄の味がジワリと広がる。
「彼女」はまばたきをしない。そりゃ当然か、兵器に無駄機能なんざいらないからな。だが俺はまばたきがしたい。でももし、まばたきをしたら、もう目が開かないような、そんな恐怖が俺の体を硬直させる。

恐い。
得体のしれない恐怖と、確実に迫る死に体を舐められている。
信号弾を上げて、パンドーラ隊に後を託して死ぬか。
信号弾を上げずに徹底抗戦して死ぬか。もしかしたら運よく生き残るかもしれない。

「は、はは・・・」

ふざけるな。

パシュゥゥゥウ・・・と天高く信号弾を打ち上げる。

俺を誰だと、パンドーラ隊をなんだと思っている!
すべては連邦勝利のために。この身を犠牲にしてでもパンドーラの目的を達成させよ。それが俺の存在意義、俺たちパンドーラ隊の価値なのだ。

さあ来いよ!
信号銃を投げ捨て、懐のガンホルスターから拳銃を抜く。

その時、「彼女」がまばたきを、した。

「ジ、じウを・・・んン・・・」

調子のずれた「声」が、「彼女」から聞こえてきた。

「ジうヲ・・・ジュ、じゅう、ヲ・・・スゥウーテナー」

「は?」

「じゅぅうーを、ステなーぁあ」

発音を確かめるように、「彼女」は何度か同じフレーズを連呼する。
それは段々と流暢になり、意味が分かるようになった。

「じゅうを、すてな」

「・・・ずいぶん口が汚い旧兵器だな」

拳銃を構えたままの俺を見て、言葉の効果がないと判断したのかブツブツと練習した後、俺に向き直る。

「いな、カ・・・の?ははおぉやがないてるゾ。じゅうをすてな」

状況が飲み込めない。
俺はいま、人型の発声練習に付き合っているのか?
とりあえずさっきから奴が同じフレーズを再生し続けて五月蠅いので銃を下げる。

大きくまばたきを二回した「彼女」は、クルリと背を向けると何事もなかったかのように歩き出す。まるで、もうここに用はないと言っているようだ。

「ま、待て!貴様、ほかの奴とは違うな!?お前たちは何なんだ!答えれるんだろう!?教えてくれ!」

「いなかの・・・」

「わかった!銃はもう向けないから!」

銃をガンホルスターに戻したのを見て、「彼女」は再び口を開いた。

「わかラ、ない」

「な・・・に?」

「わからない。さがす」

抑揚のない機械的な声に、何故か哀愁を感じた。俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。
それ以上答えることもなく、「彼女」は去ってしまった。
その後、信号弾を頼りに駆けつけてきたビーデス隊長率いる隊に保護された。
「彼女」のことは、言えなかった。

野営拠点を構築し、ようやく一息つく余裕ができた。
ファブリカ発見の功労者として、ビーデス隊長からは昇給の通達とお褒めの言葉を頂戴した。相棒のカラスノは救護テントに入ってくるなり大声で何か喚きながら抱きついてきた。鼻水がベットリついたので殴っておいた。虎髭殿からはチョコを授与された。いらない。ザザとジジは・・・「毛虫を倒した狩猟神様」とかいってお供えを置いて行った。

それから数週間後、本隊と合流しファブリカの本格調査が行われた。
怪我人の俺は参加できなかったが、カラスノが報告してくれた。ファブリカ内に旧兵器はなく、浮遊機関も何もなかったという。印刷工場だったのではないかという結論に達したのは、工場内から旧文明の書物が見つかったと耳にしたが定かではない。
結局は空振りに終わったという事だ。本隊を見返すことはできなかったが、俺の昇給は変わらない。やったぜ。

 

熱帯雨林からおさらばしてしばらく経った。病室からみる世界は乾燥した空気と茶色い世界。
あれから時々考える。「彼女」はあそこで何を探していたのだろうか。
もしかしたら、自分探しの旅の途中だったのかもしれない。いつか、会える日がくるかもしれない。そんな呑気なことを考えながら、お供え物の果実を頬張る。

彼女たちの信仰はしばらく続きそうだ。

<Fin>

最終更新:2015年09月13日 18:39