手錠につながれた人

光をさえぎる灰雲の中を

車の吊革にもたれて揺すられる

駅を降りて、人に押されて流れていく

ついにはじき出されていつもの扉へ

コートを脱いで、サァハジメヨウ

そう言ったのは私だったか

錠につながれたヒトのもとへ向かう

私を認めて、ヤメテヤメテと叫びだ

腹を打つたび震えだす

吐いてもだえてうなりだす

ゆれてギチギチ鳴きだす鎖と

その先のつながれた肉が

首をもたげて音を鳴らす

いずれ動かなくなる肉、落ちてまかれる血

抜ける肩の骨、揺れ動く心

そしてついに動かなくなる

降ろされる肉の手首に呪いのように

錠の食いこんだアザが黒々と残っている

明日もまた錠につながれる呪い

それを見て満足したのだろう私は

コートを取ってもと来た道へ

薄汚れた暗がりから、灰雲のただよう暗がりへ戻る

輝いた夜ははるか遠く、いつぞ昔

そんなことを考えながらまた吊革へ

ふらふら向かって、もたれて安心する

いつもの場所、いつも吊革

そしていつもある右手首のアザ

手を通してもたれかかった吊革は錠のよう

アア、オナジダナ

最終更新:2015年10月04日 10:49