リューリア IF ~ダマーハン、運命を変える~

「俺達に、ボロ船のお守りをしていろだと!?」

ダマーハンは思わず叫び声をあげ、机に鉄拳をお見舞いした。その威勢に、会議室内の各戦隊長は呆れたような視線を向ける。

「われらザイリーグ管区率いる第六艦隊は、ユット・ザイリーグ以下有力な新型艦も多く優速打撃艦隊だ。それなのに後方で待機し、あまつさえ徴用商船の護衛などに甘んじろとは……第二や第四艦隊とともに前線に進出し、早急に帝国艦隊を粉砕することこそ、用兵というものであります!」

連邦艦隊随一の脳筋といわれたダマーハンは、そう断言し全員をぐるりと見渡した。文句など言おうものなら、立場なんぞ関係なく張り倒しそうな気迫だ。大本営参謀はおずおずと口を開けた。

「ダマーハン君、そうは言うが……第五艦隊の多数の航空機へ燃料補給を行う補給艦は丸腰だ。編成の後方とはいえ、帝国領内で単独行動させるのは流石にまずい。それに全力出撃とはいえ敵はかのクランダルティン。第二・第四艦隊がもしも手ひどい損害を負った時、第二梯団として前線をすぐさま引き継げる陣容を持つのは第六艦隊しかいないのだよ」

合理的な意見だ。しかし、主力のスペアとして自分からは何もできない位置に配置されるのは、長らくカノッサの最前線を守り抜いてきたダマーハンにとって屈辱以外の何物でもなかった。

「予備や護衛なんざゲテモノ第八とできそこないの第七にやらせておけばええでしょう。どちらも足だけは速い。重要なのは第一撃の突破力です。奇襲作戦ではない以上、想定内の初動で想定外の打撃をどこまで与えられるかにかかっています。前衛の二艦隊のどちらかが後退している時点で、リューリアは負けです。なんなら第六艦隊を解体して、第二艦隊と第四艦隊に吸収合併させてしまっても構わない!」

会場がざわめく。おいおい無茶苦茶言わないでくれ、とユット・ザイリーグ艦長が頭を抱える。露骨な舌打ちは第八艦隊司令官のものだろう。

「今更艦隊規模で変更することはできない……第七艦隊からの抽出は、もともとの艦隊規模が小さかったから出来たことです。それに、第二艦隊および第四艦隊ともに弾薬と資金の集積が手いっぱいでして、これ以上前衛の規模を増やすことは、文字通り駆逐艦一隻ですら、不可能なのです」

「ほう……これ以上は無理です、か。分かりました。それならば仕方ありませんな」

皆が胸をなでおろしたが、ダマーハンは不敵な笑顔を浮かべたまま、とんでもない言葉を口にした。

「我がミネルグ以下、第一カノッサ戦隊は新型精鋭の遊撃艦隊で編成されておりまする。これぐらいなら動かしても大丈夫でしょう。どうせ後方待機なら、偉大なるクンバカルナの隣で油を売りたい。そうしてくれれば、おとなしくしておりますから……」

場の空気が固まる。大本営参謀達はなんとか彼をとどめる言い訳を考えだそうとしたが、その前にダマーハンはこう言い放った。

「ああ、私は本気ですよ。未だ第五艦隊や第四艦隊での戦隊規模での編成が続いてるのに、我々だけ動けないなんてことはないでしょうね? もしこれが通らなければ、我々もそれなりの”対案”がありますゆえ……」

ダマーハンの言う”対案”。彼を士官学校時代から知っている者なら、どんな手段をとってでも彼の”対案”を実現させてはいけないと考えるだろう。彼なら、サボタージュどころか武装蜂起すらやりかねない。

そして、運の良いことに(?)、艦隊司令部には彼の同期が何人もいたのだった。

 


第一艦隊 直属護衛戦隊

”砂漠の王虎”戦隊(旧第一カノッサ戦線)
旗艦・装甲狙撃艦”ミネルグ”
重巡グオラツィオン級”アルジレオ”
軽巡メルケール級”エータカリナーエ”
第20空雷駆逐隊
軽巡ソルテガ級”クルイニェ”
セテカー級駆逐艦4隻”オルヤト””ゴレブカ””イスト””イェルナ”

通信伝達艦”サーラスヴァーティー”

 


「やはり、我らが総旗艦は美しいな」

それに比べ……流石に大勢の部下の前では言わなかったが、護衛の第八艦隊の見た目の酷さと言ったらこの上ない。もうちょっと大本営は考慮しなかったのか? いや、元の部隊を抜け出して、代わりにみっともない第七艦隊を第六艦隊に押し付けた自分が言えたことではねぇな。まぁ、いいさ。そのうち第八艦隊は陣形から離れる。そうなれば、精鋭中の精鋭第一艦隊の護衛は我々だけになる。ダマーハンは目前のミネルグ艦橋要員を見渡し、高らかに宣言した。

「さぁ楽しもうぜ、貴様ら。連邦一世一代の、大博打の始まりだ!」


そう、大博打だ。何もかもうまくいくということはないだろう。こんな巨大戦艦の隣だ、待っていれば大艦隊戦に”巻き込まれる”ことができるはずだ。敵に接近されて、よもや逃げ回るなんてことはあるまい。そんな醜態を見せつけられるぐらいなら、このミネルグを持ってクンバカルナを撃沈してやる。

……失望させてくれるなよ、女王。

 

 

「やっとるなぁ、あいつら」

前方でアーキエリン級が斉射したかと思うと、帝国の旧式戦艦は四散した。

「良いんですかい? 第一艦隊の奴らにばかり戦果を挙げさせておいて」

これまた武闘派のミネルグ副長は、ダマーハンに半ば詰め寄るように尋ねた。

「行けと言ったら衝突するまで突っ込むだろう、お前ら。我が艦にはあんなザコ共に食わせる砲弾はない」

ミネルグの主砲は36センチ連装砲が一門と狙撃砲のみだが、実際には側面に並んだ36連装ドラム式装填砲3基および同単装砲12門こそが主兵装といえる。口径こそ軽艦艇サイズだが、この圧倒的な手数により射程圏内に入った敵を問答無用で粉砕することができる。その連射力、驚くなかれ秒間10発以上! 文字通り機関銃の速度で艦砲を投射できるのだ。だがその分弾薬消費がすさまじく、2,3回会戦もすれば撃ち尽くしてしまう。前衛艦隊が制圧できる程度の敵に発砲するほどの余裕などないことを、ダマーハンは理解していた。

「それは良いが、どうした、副長。眉間にしわ寄せて」

「ああ司令艦長。クンバカルナより先ほど通信が来たのですよ。”射撃訓練”してよろしいでしょうか?」

「バカ野郎なんだってんだ。……まぁ読め」

「はあ。『田舎者のミネルグくんは弾薬を積み忘れたのかな』以上です」

ダマーハンの額に、副長と同じ位置に青筋が浮かんだのが見て取れた。


この後、弾薬はこのとおり載せていますいくら何でも失礼でありましょうと、クンバカルナの艦体に対し実弾を用いた意見具申をしたところ、ダマーハンをよく理解する士官がすぐに謝罪文をよこしたため、ミネルグ司令部は第一艦隊を許してやることにした。

 


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『敵主力級に接触!』

『第三偵察機より入電!』

『航空隊は全機発艦! 急げ!』

「なに、噂のアーキル総旗艦ですって!?」

敵捕捉で突然慌ただしくなった戦艦ナドノフ艦橋で、アナスタシアは声を上げた。

「……悪くないわ。相手にとって不足無し。麾下の全艦に通達! これより敵巨大戦艦の後背に回りこみ、突撃を敢行する!」

アナスタシアの笑いながらも断固とした命令で、視線が集まる。

「敵の中枢に殴り込みをかけるのですか!?」

「これで大戦果を挙げれば、私達の発言力も上がる。行くわよ!」

不敵に笑った彼女の耳に、友軍の通信を読み上げる声が入った。

”グレーヒェン艦隊は敵左方より突撃する。貴隊は右方よりクルメ艦隊援護のもと突入せよ”

「言われなくたって! 全艦、付いてきなさい!」

ネネツ艦隊およびクルメ艦隊は一斉回頭し、連邦の総計62艦に正対した。前方の空域では黒い花火や煙い流星がしきりに生まれる。先に発艦したグランビアとセズレによる航空撃滅戦が生起しているのだった。

 

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「やるじゃねぇか、クランダルティンの奴ら」

ミネルグの目の前でまた1機、連邦機が煙を曳きながら降下していった。敵の航空戦力は空母2隻に加えて、戦艦や巡空艦までもが直援戦闘機を搭載している。純粋な制空戦では、空母大小4隻を有する連邦側が、不利なのだ。

「まさか前線が健在なうちに、こんなところまで突っ込まれるとはな……帝国にも戦い方が分かるやつもいるんだなぁ!」

そう言ってダマーハンは、しきりに響く対空砲火の音より大きく大笑いした。後方待機の艦隊に、敵の戦艦含む大艦隊が接近したことで、我々の優位性は無くなった。それはダマーハンが主張していた、最初の一撃でどこまで想定外の打撃を与えられるか、をそのまま帝国側にやられた形になるからだ。精鋭のはずの第一艦隊が、左右から挟撃を仕掛けてくる敵戦艦隊に右往左往している。

ダマーハンは艦橋最前列の風防を拳で叩き割り、頭を出して周囲の空域を見渡す。クンバカルナは右前方から突っ込んできたグレーヒェン級戦艦に対し、重戦列戦隊に迎撃させ、自身は戦列後部で直援艦とともに、後方を迂回し追いすがるように攻撃を仕掛けてきていた未知の艦隊を迎撃していた。ミネルグ以下砂漠の王虎戦隊は、そのほぼ中央部を巡航している。

「どっちを叩きのめすか、司令艦長!」

副長も風防から頭を出していた。

「当然、強敵だ。この装填砲をぶちのめすに値する……」

ダマーハンがその言葉を言い終わる前に、突如近隣を飛行していた軽巡が炸裂した。

「砲身の暴発か!?」

「いぃや、被弾だ。あそこに戦艦から砲弾が飛んできたのが見えた」

「砲弾が見え……って、この距離からですか!」

「明らかに新型戦艦だ。射程は従来の戦艦より長い。やっこさん我々のサル真似をしてきやがったぜ。しかも初弾命中ときている。決まりだな」

ダマーハンは風防から頭を引きこめると、艦橋内に十二分に響き渡る声で怒鳴り散らした。

「行くぞ貴様ら! 帝国野郎は我々と同じ長砲身の戦艦を作りやがった! 第一艦隊の包茎どもは遠距離から当たらないションベンの引っかけあいをしたがるだろうが、我々は違うな!」

”応!”と、ダマーハンより大きな声で艦橋要員達は返した。

「全艦転舵180°! 敵新型戦艦に突撃し零距離戦闘を敢行する! ついてきやがれ!」

 

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『初段命中!』

その報告にアナスタシアは小さくこぶしを握る。

「油断しないで、敵戦艦だけを追って。敵艦の火力を制圧することさえできたら、後は空雷戦隊がケリをつけてくれる!」


クルメ艦隊の火力支援のもと、ナドノフ以下16隻はアーキエリン級1隻に狙いをつけた。集中砲火の的となった彼女はまもなく、多数の弾痕が刻まれていった。

「空雷戦隊に突撃を下令! 食ってきなさい!」

手綱を放たれた猟犬のごとく、”スレベンヌムイ””ブールヌムイ”率いる空雷戦隊が護衛艦の網を食い破り、大口径の対艦魚雷を次々叩きこむ。膨大な火力を叩きつけられたアーキエリン級の艦首はがっくりと下がり、地面に向けて高度を下げて行った。

「よし……」アナスタシアはため息をついた。「我が方の被害報告! 急ぎなさい」

『左舷装備品損傷、飛行甲板損壊なれど火力・航行に支障なし。行けます!』

その言葉に黙って頷いたアナスタシアは、前方でグレーヒェンと同航で殴りあいを演じている巨大戦艦を認識した。

「好機よ! 全艦正面の連邦総旗艦に……」

『司令官! 艦長!』

見張り員が絶叫するような声で、アナスタシアの命令が途切れた。

『前方下方より敵小艦隊、突進してきます!』

「なんですって!?」

アナスタシアは体を乗り出し、艦橋から覗きこんで言われた方角に目を凝らした。

「戦艦級1、あとは護衛艦がたった7隻……飛んで火にいる夏クルカね。自ら至近距離で我々の火力を浴びに来るなんて、破れかぶれの突撃か……全艦、殲滅してやりなさい!」

ネネツ艦隊は右方にナドノフ以下スレベンヌムイ空雷戦隊、左方にオルラン以下ブールヌムイ空雷戦隊を配置して複縦陣で迎え撃つ体制をとった。

前線で戦った経験のない南方のネネツ艦隊は、この敵について完全に無知であった。そのため、火力優勢な自らに突撃してきた王虎戦隊を、完全に見くびっていた。その警戒色を確認したクルメ艦隊が発した”連邦の稲妻部隊だ、距離をとれ!”という警告は、ミネルグの乱射した狙撃砲弾がナドノフに直撃した衝撃でついに伝わらなかった。


複縦陣のど真ん中へ真っすぐ突進してきたミネルグが装填砲を発砲する直前、あらかじめキルゾーンに向けていたナドノフの主砲が発砲する直前。


ダマーハンとアナスタシアは、お互いの顔を視認した。


「今来たぞクランダルティン! 王虎の鉄槌を、食らいやがれぇ!」

 

先頭のミネルグは、左右に展開するネネツ艦隊の中央を高速突破しながら装填砲を両舷に掃射した。至近距離のネネツ艦隊に、その圧倒的な弾幕のほとんどが突き刺さった。ネネツ艦が発射した空雷は弾幕によって発射直後に迎撃されてしまい、空雷破壊の衝撃波でフリゲート二隻が衝突してもつれ合いながら落ちていった。

驚愕しつつもミネルグに多数の有効弾を与えたナドノフは散開命令を出した。複縦陣を開きつつあるネネツ艦隊に間髪入れず突進してきた巡空艦”アルジレオ””エータカリナーエ”はミネルグの開いた突破口をこじ開けるように、反航戦でナドノフとオルランに火力を集中させた。双方ともに射程圏外に出るまでのたった数十秒で、10発以上の空雷と砲弾を直撃させ、ミネルグのあとをなぞるように真っすぐ急速離脱していった。

最後に軽巡クルイニェ率いる第20空雷戦隊が、ネネツ艦隊周囲に網を張るように突破をかけてきた。駆逐艦達は差し違えるように、遥かに優勢なネネツ空雷戦隊と空雷を撃ち合い、近距離のドックファイトで入り乱れ、次々と両陣営の駆逐艦が爆発し、横転し、地面に向かっていった。空雷戦隊の攻撃は航続のネネツ艦に集中したため、体制を立て直したナドノフが砲撃し、クルイニェに直撃して大破孔を開ける。それに激怒したのは駆逐艦ゴレブカ、上空から真っすぐナドノフを捉えると、急降下で直進し後部飛行甲板に体当たりを敢行した。


「きゃぁああーっ!」

全身に襲い掛かる衝撃にアナスタシアは耐える。視界が元に戻ると、すぐ艦橋の手すりを強く握って起き上がる。アナスタシアは目前まで空が迫っていることに気が付いて驚愕し後ずさった。破片が艦橋に直撃して大穴が開いていたのだった。

「被害……報告、急ぎなさい!」

大混乱する部下を何とかとりなすと、伝令を後部甲板に走らせた。すなわち艦内通信の神経網は破断しているため、少なくとも中破以上の損害を負っていることになる。

『後部甲板に連邦駆逐艦セテカー級が直撃』

『後部甲板に垂直に刺さった敵艦後ろ半分はまだ生きており、発砲を続けている』

『駆逐艦から躍り出た乗組員がナドノフ航空格納庫を制圧』

『艦内通路にて熾烈な銃撃戦が発生、一室一室を奪い合う白兵戦に』

『ナドノフ格納庫扉が解放され艦載機や装備が連邦兵に空中投棄されている』

『敵兵士は複数の豆戦車を投入、通路でこれを盾にして進撃し制圧域を拡大中』

アナスタシアは絶句した。常識はずれなどというレベルではない。軍艦で敵艦に乗り付けて陸戦を挑むなど、なんと血の気の多い連中か。部下にナドノフ陸戦隊の編成を命令し、生き残った友軍艦にも支援を命令する。そのままクルメ艦隊に前線交代を要請すると、全ネネツ艦に撤退命令を下した。

ナドノフ以下重巡オルラン、軽巡スレベンヌムイ、軽空母サンクトウラスノルクス、駆逐艦3隻、フリゲート4隻は、煙幕を焚いて回頭し、高度を下げながらヨダ地区泊地へと進路をとった。

陸戦部隊が編成される喧噪の中、遠方に見える連邦総旗艦を眺めながらアナスタシアはため息をついた。

「空雷戦隊は半減、主力艦も押しなべて大破損害……か。でもまぁ、大型戦艦1隻は沈めたし、まだオルランもウラスノルクスもナドノフも残ってる。ネネツ防衛戦力の再建は可能よ」

そう、このナドノフさえ無事ならば。アナスタシアは居ても立っても居られず、立ち上がると陸戦隊の指揮をすべく、兵士たちの集結している中央予備弾庫室へと足を運んだ。

 

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「指令艦長、我が方の残存戦力。アルジレオ・エータカリナーエ小破、クルイニェ大破、航行不能。同じく中破しつつも機関が無事な駆逐艦イストが曳航しています。我がミネルグは中破、主砲塔および高角砲は戦艦砲を食らい壊滅、狙撃砲は無理な乱射がたたって腔発を起こし射撃不能です」

「それだけか」

「それだけです」

「ならかまわん」ダマーハンは立ち上がり、艦橋の床をダンと踏みつけた。「このミネルグ最強の武器である装填砲は完全に無事だ。弾薬もまだ十分残っていやがる。たとえ主砲や狙撃砲が消滅していようが、ミネルグにとってはかすり傷にすぎない」

その言葉に、艦橋要員はみな声を上げて笑う。自信に満ちた笑い声だ。

「それから部下だが……まともに動けないクルイニェとイストは、同じく損傷して撤退する第一所属艦に混ぜて後退させろ。王虎戦隊の残りは我がミネルグと巡空艦2隻だけだ、身軽になって動きやすくていい。
イスト以外の駆逐艦は全滅したことになるが……彼ら乗組員には全員、戻ったらお偉方に連邦功労賞を推薦してやろう。本当によくやってくれた。特にゴレブカは敵戦艦に体当たりしたそうじゃないか。流石は我が部下たちだ、誇りに思う。連邦有翼金兜賞ものだな」

そこでダマーハンは言葉を区切り、艦橋の風防越しに夕焼け空を眺めた。ダマーハンの拳形に割れたガラスから入って来た風が、彼のひげを撫でる。


「手こずったとはいえ……奇襲を仕掛けてきた帝国主力艦隊を返り討ちにすることに成功した。我らがクンバカルナもあれだけ被弾したのにびくともしていない」

「入電。第一艦隊の方で今後の方針がまとまったようです」

「よし、読んでみろ」

『第五艦隊の連絡網により各艦隊の行動をおおむね把握。これより第一艦隊は、最前線に進出しジッカス以下第四艦隊の救援を決定。その前に、空母アルゲバルの管制のもと各地域に散らばる第三・五・六・七・八艦隊とポイント”キロン”でランデブー。全艦隊は第七艦隊が護衛に成功した徴用補給船団により弾薬と燃料の補給を行ったのち、全艦隊一丸となって帝都に進撃を開始する!』

ミネルグ艦橋内に、雄たけびが上がった。あるものは上半身裸になり上着を振り回し、あるものは近くの椅子を壁に叩きつけ粉砕し、それぞれの形で喜びを表現している。満面の笑みで風防をもう一枚叩き割ったダマーハンは、艦橋要員に腹の底から響く大声でこう命令した。


「総員傾注! 我が艦最強の武器である装填砲は、無傷で新品同様だ。アルジレオもエータカリナーエもピンピンしている。連邦艦隊にもまだまだ力が残っている。我々はこれから帝都へ向かい、皇帝に鉄拳をプレゼントしに行く! 我々は一番乗りかましてやる! さぁ、往くぞ!」


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連邦に今だ残された、総旗艦クンバカルナ、旗艦級戦艦ノイギリェ、ジッカス、ユット・ザイリーグ、ユィーラシエ、ヂットランド、巨大空母アルゲバル。これに多数の戦艦および空母、膨大な数の巡空艦・護衛艦・駆逐艦の大半が無事な姿で残存していた。彼女らはこれまでの戦闘を教訓として、ゆっくりと、だが確実に一カ所に集結しつつあった。


一方、これまでの戦闘で属領艦隊や警備艦隊および最前線戦力の過半を失った帝国軍も、国家存続の緊急事態として残存する本国の貴族艦隊や無傷の南パンノニア艦隊に加え、ラドゥクス・インペリウム級やペルガモン級のすべてを含む近衛艦隊全力に出師命令が下った。

 

パルエ史上空前絶後の大衝突が、まもなく生起しようとしていた。

最終更新:2017年12月10日 17:57