『街路の郡狼』

『街路の群狼』 著 mo56

 

 白と灰色が混在する街路の上を一台の車両がゆっくりと走っている。
   周囲にはまだ溶けきらない雪が僅かに点在しており、その中から這い出した瓦礫の灰色が混ざり合い、春の訪れを僅かに感じさせるが、周囲の様相はそんな呑気な考えを押し潰すかのように凄惨なものであった。
   春の訪れを連想させるような仄かな香りの代わりに、硝煙と何か肉の焼ける匂いが、車両の搭乗者達へ流れ込み、その香りの発生源達であろう焼け焦げた屍や、大破しつくされた戦闘車両の残骸が街路の脇に取り残されている。
   疾走する車両の傍らには随伴歩兵らしき姿が10人程見えるが、彼等は大凡正規軍らしい装いではなかった。
   皆示し合わせたようにして緑色の装飾物を布やマスクで顔や腕に覆って、色を統一しているものの、手にしている得物はどれも歪な小銃や拳銃ばかりで、挙句の果てには簡易的な投石器か火炎瓶を手にしている者までいる。
   軍服すらなく、彼等は一概に私服を着込んでおり、中にはアーキル軍の軍服を着ている者もいるにはいたが、それは上着だけであったり、ズボンだけであったりと余りにもちぐはぐな様であった。
   彼等は所謂民兵というものであり、正規軍の支援は受けてはいるが、その装備は平均的に貧弱であり唯一のアーキル正規軍から支給された車両というのも、本来なら警備任務に従事するための装甲車とは名ばかりである『ディスガイア』と呼ばれるソレであった。
   車両の上部には制圧力にだけは長けた7.7mm機銃が円形の機銃砲座に3つずつ備えられてはいるが、その三つのうち、一つだけが忙しなく周囲を警戒するように回っている。
   装甲車両『ディスガイア』はただでさえその貧弱な様相を、周囲に知らしめている具合であった。

 「…少尉殿? ご気分が悪いので?」

 そう狼狽した様な具合に回り続ける銃座に対し、運転手が間延びした声で聞いた。
   既に運転席を覆う窓硝子も無く、露出した柱の様に並ぶピラーの合間から、運転席へ冷たい風が吹き、運転手はせめてもの防護にゴーグルを装着してはいるものの、さほどの効果は期待出来なかった。
   だが、車両の周りの民兵達も寒風を直に受けつつ、少々たじろいでいるような節も見える為、寒さの愚痴も言えそうにない。

 「黙っていろっ、軍曹」

 運転兵の頭上から、叱咤する車長の声が響くが、その声は緊張と恐怖に若干上ずったものであった。

 「しかしですねぇ、少尉殿。 無理をする必要はないと思うんですがねぇ」

 声音を震わせる車長に対し、運転兵の声は何処までも呑気な調子であった。
   現状に対しまるで恐怖も緊張をも示さず、まるで遠出のドライブを嫌がるかのような、そんな間の抜けた雰囲気すらある。
   それどころか、運転兵はハンドルを握る片手には指の間に煙草を挟んでは、時折それをゆっくりと口に咥え、紫煙を車長の銃座へ当てつけがましく吐き出してくる始末である。

 「貴様の意見など聞いていないっ! それになんだ、任務中だっ! 煙草を消せっ! ニヂリスカ人め…」

 運転兵の態度に車長は恨めしげに宣いつつ、吹きつけられた紫煙に噎せ返ったのか、少々苦しそうに喘いでみせる。
   そんな仕草を見てとってから、ようやく運転兵は吸っていた煙草を車内の運転席から外へ捨てると、車両の脇を歩いていた民兵の一人がそれを拾い上げては吸い直している。

 「…生きて戻ったら、絶対に不敬罪で本隊の憲兵に突き出してやるぞ…『ダウ軍曹』」

 ようやく咳が落ち着くと、車長が恨めしげに運転兵の名を口にした。
   対帝国連合のニヂリスカからの派遣兵士であるダウ軍曹当人は、恨めしげに自身を呼ぶ車長に対し卑屈な視線を少し返してから

 「そういう話は、生還出来てからにしてくださいなぁ」

 そう口角を釣り上げ、暗い声音ながら何処か愉快そうに呟いてみせた。

 

 

 「話が違うじゃねぇかっ!」

 市街地の崩れかけた建物の中にて、その声量は建物を揺り動かす程の勢いがあった。
   そう怒鳴り声上げたのは民兵部隊の隊長格であり、少々赤みが濃い顔をした恰幅の良い男であった。
   男の周囲を取り囲む民兵達は皆一様に怒りと狼狽を混在させた表情で、その中央には男と対峙するようにアーキル軍将校が立っている。
   将校はまだ成人が済んだばかりの女性であり、若く澄んだ瞳を宙に泳がせながら、他の民兵達と同じように狼狽とやり場のない怒りを混じり合わせていた。

 「…しかし、これは上層部の決定であり、我々はこれに従う他は…」

 そう男の勢いに押され、弱々しく口を開いて反論しかけた彼女へ対して、男は顔をより一層赤くさせ怒鳴って返す。

 「巫山戯るんじゃねぇっ! 一体、今まで何人の同胞が血を流したと思ってやがるんだ?! あんた等、正規軍はいつも口だけだっ! 肝心な作戦の時はトンズラかまして、今度もそうだっ! そりゃ、アンタには世話になった…世話にはなったが、こんな手のひら返しが許されるのかっ!?」

 男の怒りは決して将校個人に対して向けられているものではなかったが、あまりの激しい怒りを叫ばない事にはどうしようもない事は、この場にいる者全てが暗黙の了解を持っていた。
   アーキル連邦と帝国との最前線の北方部に位置する要衝『ダウニ市』にて、市民有志を募り民兵組織を結成し、帝国軍部隊に対しての抗戦活動を始めたのが約一年前になる。
   最前線の一端に位置するダウニ市には2年前から帝国軍が占領しており、この市街地を前哨基地としてアーキル軍への重要拠点として使用していた。
   街を占領した帝国軍はダウニ市民たちに対し重税と搾取を課し、時には市街地全体の防衛のために市民総出でトーチカ等の大規模な防衛施設の建設に当たらせた事例もある、それを拒否する権利は市民達になく、逆らう者…時には従う者も拘束された後に銃殺か帝国領へ奴隷として徴収されてしまった。
   アーキル軍としてはダウニ市奪還の為、大部隊を何度も投入したが、皮肉なことに度重なる奪還作戦は、奪還を望む市民達が作らされた防衛施設によって幾度も阻まれた。
   正攻法が通じないと、多数の被害を出してようやく理解することができたアーキル上層部は、その後ダウニ市を外部からではなく、内部から攻める作戦へと移行することになり、それがダウニ市民兵部隊創設の要因であった。
   少数の特殊部隊を空挺降下によって市内へ投入し、市民有志達から民兵部隊を結成し、市内内部から防衛施設を破壊し、外部からのアーキル部隊の侵攻を支援するのが任務であった。
   しかし、ダッカーの様な重量のある戦車などの兵器は空挺降下で市内に投入することができず、その為軽量なディスガイア装甲車が数両作戦へ投入され、その車両の運転兵及び、民兵部隊を指揮するための軍事顧問団がそれに追随した。
   そして、軍事顧問達の熱烈な勧誘及び扇動によりダウニ市民兵部隊が組織され、市街地防衛施設への破壊活動が幾度も行われた。
   帝国軍に対して、本来なら真っ向と撃ち合っても適うはずのないディスガイア装甲車も市街地という幾らか整地された路面と、破壊工作の任務上、市街地において一撃離脱戦法が優先され、7.7mm機銃とその速力を大いに活かす事が出来た。
   しかし、元々軍事訓練を積んだ訳でもない民兵部隊の消耗は激しく、民兵の数は当初は300人以上を越える程であったが、一ヶ月、二ヶ月と月日を重ねるごとに消耗していき、現在には3分の1程度の人数でしかない。
   それでも多大な犠牲を払いつつも軍事顧問団と民兵部隊の活躍により、市街地の防衛施設の40%は破壊され、外部からのアーキル正規軍の増援部隊が市街地へ侵攻するには十分な地域を解放することが出来た。
   だが民兵達が多くの血を流し、ようやくダウニ市奪還が実現すると思った矢先に、外部のアーキル軍から発せられた命令はあまりにも酷な内容であった。
   前線の帝国軍の大攻勢により、急遽ダウニ市奪還作戦が中止となってしまったのである。
   外部から増援は来ないどころか、逆にダウニ市にいる軍事顧問団と民兵部隊は本隊へ合流しろとの命令であった。
   確かに帝国軍と戦う事も民兵部隊の任務ではあったが、それはあくまで建前であり、実際は自身らの故郷であるダウニ市の奪還が急務であった筈だ。それが反故にされ、挙句の果てには故郷を捨てて本隊と共に別前線へ異動しろという話なぞ到底受け入れられるものではなく、その命令を将校の口から読み上げられた場で、民兵達は激怒したのである。

 「…ラゲルさん。 しかし、本隊からの増援がない限りは我々だけでは、駐留部隊と戦うにはあまりにも…ここは、市を脱出して再起を…」

 将校は怒鳴り散らす『ラゲル』と呼んだ民兵部隊長へできる限り宥めるような調子にそう言いはしたが、彼の腹の虫は収まる訳もなく、彼女の面へ唾を飛ばす程の勢いで叫びだした。

 「再起だとっ!? その本隊と合流して、前線で戦って何人ここへ戻ってくる事が出来るっていうんだっ! そんな話は呑めんっ、俺達はここで街を取り戻すまで戦うっ! そう誓ったんだ! ここを離れちまったら、死んでいった仲間達にすまねぇだろうがっ!!」

 ラゲルは大声でそう締めくくると、拳を高く振り上げながら、他の民兵達に対し攻撃部隊の徴集を大声で呼びかけた。
   しかし、彼の呼びかけに対し答える者は極僅かしかいなかった。
   臆病風に吹かれた等と言う問題ではない。
   ラゲルが徴集し行おうとしている作戦とは、所謂撤退の為の殿であり、増援も戦闘の継続も出来なくなった故の撤退作戦に必要不可欠な任ではあったが、生還は不可能とも言える。
   今まで凄惨な戦いに身を投じ続けた、勇ましい兵士達数十人程の手は固く重力に囚われたかのように挙がらず、唯一その呼応に反応し高く手を挙げた者はたったの10人程である。

 「…わかった。 俺達だけ残る。 他の者は街を出ろ、俺達が殿だ」

 挙手した者を前に集め、ラゲルはそう怒りが収まったのか、静かではあるが厳かにそう言った。
   その様子を見て傍らに立っていた将校は何も言えずに、ただ目を伏せた。

 
  「…私もいいですかねぇ?」

 ふと、静まり返った中において、何処からか薮から棒に間延びした声を出す者がいた。
   ラゲルと将校、そして殿として残った者達はその声のした方へ一斉に振り向いた。
   間延びした声の主は、広間の壁にもたれ掛かり、呑気に紫煙を吹かし、薄汚れたアーキル軍服をしっかりと上と下で着込み、ディスガイアから発せられる排気ガスと硝煙に顔を黒く化粧したニヂリスカ人兵士、ダウ軍曹であった。

 「ダウ軍曹、あんたは正規軍の本隊に合流すべきなんじゃねぇのか」

 「…ラゲルさん。 私はディスガイアの運転兵ですよ? あれで正規軍からの支給車両は最後ですがぁ…一台ぐらい残っていないと、示しが付きませんのでぇ…」

 多少困惑した様子でラゲルがダウへ問うと、彼女は剣呑な表情のままに煙草を咥えたまま徐に敬礼をしてみせた。

 

 ダウ軍曹は運転という行為と車を愛していた。
   幼少より貧しいニヂリスカで育った彼女にとって、車両というものは好奇心を擽られる数少ない存在であり、常にその傍らにいようと彼女は努めていた。
   集落の道を日に一度か二度だけ通り過ぎるような、騒音が酷いオンボロな輸送トラックの後ろを常に追いかけ、時にはその荷台に飛び乗っては無賃乗車よろしく遠方の村等へ行き交いしている始末だった。
   這いつくばりながら荷台に乗り込んでは、這うようにして運転席の方へ目を凝らすと、常に運転手が何処か不器用な手つきでハンドルやシフトを動かしている様が目に入ってくる。
   一体何処をどうしたらそこまで汚くなったのか、見当も付かない運転席の汚さと、横の窓を開けていようとも運転手の蒸す紫煙に充満している車内、そんな運転手が悪戦苦闘する様を見て、自分ならもっと上手く操れると、根底の無い自信を常に持っていた。
   挙句の果てにはいつかこの車を自分の者にしてやると、荷台の縁へナイフで深く彫りを入れて印を付ける程だった。
   そして、成長する頃には家業も恋愛も村特有の確執すらとっぱらっては、駆け込むように軍隊へ飛び込んでいた。
   だが、全体的に貧しいニヂリスカ軍には車両部隊など多くは存在せず、歩兵科しか配属される希望が無いことに彼女は絶望してしまった。
   しかし、その時節に運命の悪戯か飛び込んできたのが、対帝国連合の派遣兵徴収であり、当時からそれに行った者が生きて帰ってこられるのかわからないと、同期達は戦戦恐恐としていたものの彼女はアーキルに行けば車両を扱えるという漠然とした目的を胸に率先して志願してしまい、今日に至る。
   確かに車両を扱う運転兵になることにはなったが、それなりに整備された道路を走る輸送車両とは訳が違う、戦闘車両の運転兵になってしまっていた。
   視界も悪く、車内の空気は最悪でそれを味わい尽くした挙句に、運が悪ければその鉄の棺桶の中で四肢を飛び散らせるか、骨まで焦がす業火に身を窶すことになる様な現実であったものの、彼女は狂ったように運転兵であることに対し誇りと興奮を常に持っていた。
   その姿勢を憎たらしいオデッタ人の小男に何度も詰られたものだが、そんなこと気にするほど彼女の情熱に揺らぎは無かった。
   そのオデッタ人とは長い付き合いであったが、つい彼に荷物を預かっていろと言われ、その通りに預かっていたのだが、うっかり彼の軍隊手帳まで預かってしまい、運悪く憲兵に問いただされた時に手帳が手元になかった彼は脱走兵扱いで何処かに連行されてしまった。
   彼には悪い事をしたという罪悪感が沸かない訳でもないが、一々それを気にしているほど彼女は情け深くなく、今はほとんど忘れきっている。      己の失態よりも、現状に与えられた任務の荒唐無稽ぶりに呆れているのだ。
   ダウニ市への空挺部隊への編入である。
   部隊は特殊部隊というだけあって、それなりの精鋭が集められていたが、ディスガイアの運転兵の調達だけには何故か苦労しており、たまたま本隊へ合流して適切な部隊への編入も決まっていなかったダウ軍曹が急遽配属されることとなり、様々な戦場を放浪した果てに彼女は、この市街地へと送り込まれていた。
   以前にはダッカーの運転兵をしていたのだが、経験があるということで現在は『ディスガイア装甲車』の運転兵を務めている。
   本来、この車両は銃座も含め4人で運用するのが基本であるのだが、人員の不足により車長である少尉と二人きりになってしまっている。
   この少尉の人柄がよろしければ、例え地獄に向かうことになろうとも幾らか気が楽であったのだが、少尉は生憎、大の外人兵士が嫌いな口と見えた。
   まず、軍曹のひょろりと細長い体躯と薄ら笑いを常に浮かべている様が気に入らなかったらしく、顔を合わせた際には、最初に舌打ちをしてきたので、軍曹は憲兵が周囲にいないことをいい事に少尉の頬を引っぱたいた。
   お陰で少尉が外人兵士の嫌いな理由を一つ追加することが出来た。
   兎に角、少尉との初対面は最悪な出会い方をし、それに続けて最悪な任務が与えられた。

 

 撤退部隊の民兵達は車両に装備や物資を乗せ、荷台に鮨詰めになりながらも乗り込んでは、殿部隊へ別れの挨拶とばかりに静かな視線を向けていた。
   どの車両も民間車両を元に、荷台に機銃及び、破壊した防衛施設から鹵獲した対空砲などを積んでおり、即席の戦闘車両として長い期間戦い続けた。
   かくいうディスガイア装甲車も元を正せば民間車両の改造車両であり、性能的には撤退部隊の車両とそれほど大差ない。
   しかし、唯一の即席戦闘車両との違いは、明確に車体側面に記されたアーキルの紋章であり、この印があるからにはこの市街地から逃げる訳には行かないという、決然とした意志の表れが強く殿部隊の民兵達の胸中に渦巻いていた。
   そのディスガイア装甲車に駆るダウ軍曹は、撤退部隊の連中を軽く手を振りながら見送っていた。皆良き者達であり、ダウ軍曹自身はアーキル人ですらないのだが、彼女を心強い同志と慕い、共に戦い抜いた戦友であると彼等は認めていた。
   軍曹自身、この様な共闘関係を持ったのは初めてであり、対帝国連合という漠然とした思想の塊に追従するよりは故郷の奪還という現実的な目標の下に、この数ヶ月は何か熱い物が体内を駆け巡る感覚を覚えていた。

 「ダウ軍曹、そろそろ行こうや」

 撤退部隊を粗方見送ると、脇からラゲル隊長が歩み寄ってきた。
   先ほどの怒りは既に顔になく、ただ様々なものを冷め切って受け入れたような平静な面持ちで、彼女ほど呑気そうではなかったが、彼も何処か間が抜けた色があった。

 「えぇ、それは構いませんがぁ…少尉殿は?」

 返事をしながら、軍曹はあの若い将校について聞いてみる。
   長期の作戦において、民兵部隊の損失も図りしれないが、それは軍事顧問団も同じであり、空挺降下した部隊の内アーキル正規兵は、ニヂリスカ人の派遣兵士である軍曹を除けばもう彼女一人しかいない。頼れる先輩士官達もこの街で戦死していった。

 「既にディスガイアの銃座に乗ってるが…運転兵だけ残して逃げる訳にはいかないらしい。 プライドが高いんだな」

 そうラゲル隊長はそう言いながら、肩を竦めて見せた。
   その言葉を聞いて、軍曹が脇目にディスガイアを見やると、確かに銃座の縁から彼女の軍帽がはみ出ている。

 「道連れは多い方が、死ぬのも楽しいですかね?」

 皮肉げに軍曹も彼と同様に肩を竦めてみせると、二人共微笑を浮かべながら任務に戻ることにした。

 

 暫くそのままに民兵達と共に街路を進むと、扇状に広がった形をした広場に出た。
   左右にある道は市街地の南部と北部に、そして正面の街路は市街地中央部へ繋がっており、車両は東部へ繋がる街路の入口で停車する。
   広場の中央部にはアーキル様式らしい彫像が鎮座していた。
   それは何かの寓話の神か何かは知らないが、巨大な人型の体をして腕にはクルカを抱き抱えている姿勢だった。
   兎に角、東部へ繋がりそれなりの部隊が移動に適しているルートでは、帝国部隊は必ずこの広場を通過することを地の利から理解している民兵達は、慣れた動きでディスガイアから離れ広場を取り囲む2回建ての煉瓦式建築物へ潜り込んでいく。
   以前は小さな商店であった建物や、民家は長期に渡る戦闘により、大部分が瓦礫と化しており、その住民達も帝国兵によって拘束されたか、銃殺されたかのどちらかしかいない。
   建物へ潜り込んだ民兵達は素早く、それぞれの建物の2階から遮蔽を取りながら各街路の動向に注視している。
   正規兵の様に訓練された素早い動きとは言えなかったが、ある程度の要領とやり方を体で熟知し実践している節は垣間見える。
   しかし、広場正面三方向の何処から敵が湧いて出てくるかなど、幾ら注視しても全く予想が付かない。
   敵が車両部隊であれば、数分も生き残ることは出来ないし、歩兵部隊だけであっても、それがもう数分ほど伸びる結果にしかならないだろう。

 「なんで…なんで、こんな事に…」

 周囲を見回しながら、口の中に僅かに残る紫煙の感触を舌で舐め回しては確かめている軍曹の耳へ、少尉の泣き言が耳に入ってきた。
   少し首を背後へ回し、銃座に居座る少尉を見上げると、彼女は幼子の様に涙を流しては体を恐怖に震わせていた。
   先ほどまではニヂリスカ人である軍曹に無様な姿を見せまいと必死だったが、取り繕った虚勢はいい加減に剥げ落ち、本来であればとっくの昔に胸中へ襲いかかる筈であった絶望と恐怖を、今更になって味わっているようであった。
   少尉と顔を合わせてから、この市街地戦において長い付き合いであった為に、彼女の身の上について少しは知っている。
   アーキルの貧乏貴族の長女であり、お家の名誉の為に軍学校に通い、晴れて士官にはなれたものの、実戦経験もないままに地獄に飛ばされたよくある悲劇のヒロインという雰囲気が、彼女の小奇麗な軍服とその貴族独特の紋章が織り込まれた腕章が告げている。
   どうにも見るに堪えない姿に軍曹は溜息を吐いた。
   それは深く呆れかえるようであり、または同情を示すような趣を持ち、その長い溜息が彼女の気を引いて此方と視線が合う頃には、軍曹は目を細くさせ落ち着いた表情で口を開いた。

 「少尉殿、降車お願い致します」

 その言葉に対して、軍曹が何を言っているのか少尉は理解できなかった。
   そんな思考が凍りついたところへ続けざまに軍曹は言葉を紡ぐ。

 「二人で残ろうと、一人で残ろうと生き残れないでしょうし、少尉だけでも撤退部隊と合流してくださいな。 今ならまだ間に合うやもしれません」

 そう言い終えた軍曹に対し、少尉は一瞬怒った様な色を顔に浮かべたが、軍曹の冷たく悟りきった表情を見ていると、大きく開きかけた口を横一文字に結んで、徐に何処か悔しそうにディスガイアの銃座から降りて行く。
   そして、降車すると運転席の軍曹へ振り向くことなく一目散に、撤退部隊の進行方向である東方へ走り去っていった。
   その様を車両の傍らにいた民兵達も見ていたが、誰も彼女を制止する者はなく、ただそれを静かに見送った。少尉の思い切りの良さに軍曹だけは口笛を軽く吹いて見送った。
   だが、一人だけ心配そうにディスガイアに走り寄ってきたのはラゲル隊長だった。
   しかし、彼も少尉の事については全く口にせず、自分たちの配置について確認したいだけの様である。

 「それで軍曹、何か策はあるのか?」

 「策も何も、我々は時間を稼ぐだけでありますからぁ…兎に角、頑張ってとしか言えませんねぇ」

 少尉が降車して、運転席に取り残された軍曹はそれでも剣呑な調子を崩さずに、ラゲル隊長を見やりながら、もう一本煙草を取り出してはそれを口に咥える。

 「まぁ、せいぜいディスガイアが囮になりますので、こっちが敵部隊の気を引いている間に2階から敵部隊の将校各だけを狙ってくださいな」

 「…銃座へこっちから誰か回すか?」

 軍曹の説明と言えるほど内容も無い適当な話を聞きながら、ラゲル隊長は不安げに誰もいなくなったディスガイアの銃座を眺める。
   3門の7.7mm機銃の制圧力は重要であるが、これが使えないのでは宝の持ち腐れである。

 「いえ、2階に残る人は出来るだけ多い方が助かりますので、いいです…少なくとも銃座二つは私が使いますので、余る一丁を外して2階へ据え付けてください…」

 煙草の先端にマッチで火を点けながら言葉をモゴモゴと少し不明瞭に紡ぐ軍曹に対して、ラゲル隊長はどうにも腑に落ちない様子をありありと見せる。

 「待てよ、軍曹。 あんたはディスガイアの運転をしなくちゃならんだろうが、それに機銃を二つ使うとはどういう事だ? ニヂリスカ人は危なくなると腕が生えてくるのか?」

 理解に苦しんでいる彼に対して、軍曹は何処か怪しげで悪戯をこれからする子供の様な調子でこう言ってみせた。

 「…まぁ、似た様な物です。 きっと驚きますよ?」

 

 民兵達の手によってディスガイアの7.7mm機銃一丁が取り外され、建物の方へ運ばれるのを見終えると、吸い終えた煙草を足元で念入りに踏み消してから、軍曹は素早く運転席の座席下へ押し込んであった雑嚢を素早く取り出した。
   何故、少尉を逃したかについては、同情や哀れみを軍曹が感じた訳ではない。
   寧ろこんな死地に叩きつけられても尚、覚悟が出来ない輩と死ぬのは軍曹自身、御免被る話であり、なら腹の据わった連中と共に戦い死んだ方が幾らか形になるように彼女は思ったからである。
   だが、むざむざ死ぬのも御免であり、何とかして迫り来る敵を追い返してやろうと軍曹は意気込み始める。
   あのオデッタ人の小男なら、喩え首だけになっても敵へ食らいつく程の闘志は持っている、己はそれほどではないが片腕を失う程度なら戦い続ける意思はある。
   そして、その失うやもしれない片腕に雑嚢から取り出したるワイヤーを巻きつけ固定し、その途中を運転席下部側面に備えられた簡易消化器の溝へ屈折させながら通し、先端をアクセルペダルに固く結びつける。
   これでクラッチ伝達だけを失敗しなければ、腕を引っ張ったままディスガイアは走行し続ける。
   アクセルへの装置を付け終えると、今度はハンドルへワイヤーを何重にも巻き、進行方向を固定する、上手く動く事ができればディスガイアは広場中央の彫像の周囲を、軍曹が死なない限り永遠に回り続ける。
   簡易的な半自走装置を設置し終えると、軍曹は己の考え出した間抜けなアイディアに自虐的に笑い始めた。
   自然と幼少の頃の風景が脳裏を掠め、あの時もオンボロトラックの荷台に這いつくばりながら、この様にすればいいのにと間抜けな考えに自惚れていた自分を思い出していた。
   そして、その狂人地味た笑いが甲高く広場に響き始めた時、中央彫像の向こう側の街路より何か黒い影が蠢くのが見えた。
   軍曹は笑いを収められないまま、アクセルを強く踏み、ディスガイア装甲車が自身の思惑通りクラッチを外した後、予定通りに走り始めるとその成功により一層甲高い笑い声を上げるのだった。

 

 市街地中央から民兵部隊の動向は手に取るのように把握出来ており、敵の撤退行動を見て取って追撃に出撃した歩兵部隊は市街地の広場にて不思議な物と会敵した。
   ダウニ市を象徴する彫像の周囲を何度も旋回し続けている、アーキル軍の装甲車『ディスガイア』を確認したのである。
   当初、部隊の先頭に立っていた歩兵達は、その光景に直面して呆然とした。
   まるで螺子巻き式の玩具の様に、同じ軌道を繰り返しながら広場の彫像の回りを旋回している装甲車の姿が異様であった点に含め、何より奇妙な事は螺子巻き式のオルゴールの様に装甲車の内部より響き渡る甲高い笑い声である。
   その異様な光景は誇り高き帝国歩兵達の足を止めるには十二分な効果があり、誰しもが攻撃を加えることが出来ず、中には思わず数歩後退る者さえいた。
   戦場とは常に非現実的な形相を持って、兵士達を地獄へ向かい入れるが、この光景ばかりはその多数の光景の中でも常軌を逸した物と言える。     そんな歩兵達を尻目に彫像の周りを回り続ける装甲車は、暫くの間奇妙な旋律を奏で続けたが、不意に車両上部の銃座が僅かに動いたかと思うと呆然と街路に突っ立っていた歩兵達へ向けて掃射を始めだした。
   狙い自体は正確なものではなかったが、側面銃座と上部銃座が連動して、周囲に弾丸を滅茶苦茶にばら撒き始めた。
   だが、それに加えて広場を取り囲んでいる建物2階部分からも発砲される。
   咄嗟の出来事に、歩兵達は素早く地面に伏せるなり、遮蔽を取るなりしてその不意打ちから逃れようとしたが、何人かは掃射をまともに喰らい次々に地面に突っ伏し、2階からの射撃によって部隊の士官達が数名倒れ、現場の指揮は崩れ始める。
   耳を劈くような連続する銃声と悪魔地味た笑い声が入り乱れ、歩兵達の正気を失い欠けるのは時間の問題であった。
   しかし、狂気に抗うかのようにして、勇気を奮い起こした歩兵の何人かが狂ったように走り回る敵装甲車の隙を突いて、小銃を構えながら勇ましい雄叫びを上げて飛びかかった。
   ディスガイアの軌道自体は彫像の周りを回り続ける単純なものであっただけに、彫像付近で身を伏せた歩兵の数人かは、此方へ装甲車が巡回してきたのを見て取ると高く跳躍し、車両後部に飛び移る。
   それでも飛び乗ってきた歩兵を意に返さず旋回し続ける装甲車の上部へ、歩兵が手榴弾を片手に回転銃座へ攀じ登ろうとする。
   そして、やっとの思いで車両内部へ手榴弾を投げ入れようとした時、銃座の中へ手榴弾を投げ入れようとする兵士の腕を、何かが掴んだ。
   思わず投げ入れようとした歩兵が銃座の中へ視線を咄嗟に向けると、そこには不気味なまでの笑みを浮かべた女がいて、その女がか細い腕で兵士の鍛え上げられた腕を弱い力で掴んでいた。
   本来ならそんな腕など振り払って、装甲車の中へ手榴弾を放り込んでいるところであったが、何分突如として、まるで此方の動きを読んでいたかのように素早く添えられた細腕は、人の物と思えぬ程に冷たく感じられ、それにも増して突如として顔を出した女の顔があまりにも不気味であった為に、歩兵の勇気はそこで無残に砕けた。

 女が悲鳴を挙げる兵士の顔面へ、軍刀の切先を突き出したのである。

 余りの勢いに、兵士も顔を突き刺されるのを回避しようと咄嗟に身を捻ったが、鋭い切っ先は肩を鋭く突き、押し倒すように兵士を路上へ突き落とした。
   車両後部にしがみついていた他の兵士は、銃座から身を乗り出してきた女を見て、まるで傍らに鎮座している魔人の彫像が現世に現れたかのような錯覚を覚えた。
   女の体躯は細長く、伸ばしきった髪は旋回し続ける車両の風圧に棚引いては激しく舞い上がり、表情を覆い隠している。
   片腕に幾重にも巻いたワイヤーは血管を強く圧迫したために、その腕は何処までも青白く痙攣するかのように震える指先が何かを暗示していた。
   そして、片腕には軽く鋒から血が滴る軍刀を引っさげて、車両後部へしがみつく歩兵を戦慄させた。
   ただでさえ狂ったように一人でに動き続ける装甲車に加え、その中から狂人が現れ出たとあっては、攻撃を加えようとした兵士達の正気を完全に失わせた。
   途端に広場周辺の歩兵たちにも強烈な恐怖心が伝染し、彼等は我先にと逃走を始めた。
   だが、それでも、その様な狂人を仕留めようと抵抗する兵士が一人だけ車両後部にしがみつき、闘志に燃える目を女へ向けていた。
   未だに戦意が喪失することを知らない兵士は、腰に差した軍刀を片手で引き抜くと、それを大きく振りかぶりながら、上体を銃座目掛けて迫り出しては、女へ向けて軍刀を振り下ろしてきた。
   それに対して女は動じる気配もなく、血流が疎かとなり痙攣し始めたワイヤーを巻いた腕を素早く横に払って斬撃を躱そうとする。
   縦に伸びきったワイヤーは金属が擦れる耳障りな音を立てながら、振り下ろされた斬撃を見事に受け止める。元より、切れ味よりも軽量さと手数を活かすための帝国軍刀ではワイヤーの切断は、ましてや片手などで出来る芸当ではない。
   兎に角斬撃を躱され、向かうべき力が逸れてしまいバランスを崩した兵士へ、女は容赦なく刺突を放ち、この兵士を車両より突き落とした。
   
   だが、これ以上ディスガイアが無傷のまま走り続ける事は出来なかった。
   敵歩兵の狙い澄ました射撃によって、ディスガイアの前後エンジン部が見事に打ち抜かれてしまった。それによって喧しいまで鳴り響いていたエンジン音は急に鳴りを潜め、呆気なく彫像の正面で車両は動かなくなってしまった。
   そして、路面に転がり落ち、なんとか起き上がった兵士は、銃座より身を乗り出している動きの止まった狂人を仕留めようと小銃を構えはしたが、それと同時に兵士達の背後で激しい砲声が鳴り響いた。
   中央部より急遽増援として出撃した帝国軍の『ダック軽戦車』が合流したのである。
   広場の中央部街路へ到着したダックは、歩兵部隊が敵民兵部隊と交戦している様を見て、すぐさま援護に入り、一発目は牽制とばかりに広場中央の彫像を見事に吹き飛ばした。

 

 「…真打は遅れて登場するって訳ですかねぇ…」

 中央街路からのダック出現に対して、銃座から未だに不敵な笑みを浮かべている軍曹は、表情とは裏腹に悲しそうに呟いてみせた。
   過度な戦闘興奮とワイヤーによる血管圧迫に表情が引き攣り、暫くはこの笑顔のままであろう。
   初撃はなんとかディスガイアに被弾することはなかったが、次はしっかりと狙いを定めているのかゆっくりとダックが蠢いている様がしっかりと見える。
   敵歩兵部隊も戦車の合流に士気が戻ったのか、逃走しようとした歩兵達は再び銃を構え、遮蔽を取りながら此方へ前進してくる様が目に入った。
   2階からの民兵達の援護射撃はまるで虚しい効果音のようで、敵の進撃を止める勢いは既に無い。
   この狂った芝居もいい加減に幕を下ろされてしまいそうな気配に、軍曹はただそれを傍観しながら、己の体へダックの砲弾か歩兵の銃弾、どちらが先に命中するのだろうかと呑気に考える他なかった。
   脱出しようと思っても、自ら固く巻いたワイヤーがそれを許さない。
   ディスガイア上の狂人は、その場において賢者の様に深く目を閉じた。
   最後に見る光景は瞼の裏に映る、己の人生の回想だけにしておきたいと思ったからだ。

 この様な土壇場においては耳障りな戦闘音も、正面から迫る圧倒的な殺意からも軍曹は遮断され、目の前には幼少の頃の記憶が渦巻いていた。
   あのオンボロトラックの荷台に飛び乗って、荷台の縁に自分の物とナイフで印を彫っていた記憶であり、その印は現在の己が乗っているディスガイアの銃座下部にまだ残っていたのだ。
   一体、何故この様な数奇な巡り合わせが実現したのか、軍曹には皆目見当も付かないし、運命の悪戯と言ってしまえばそれだけであろう。
   だが、様々な戦場を彷徨った果てに、幼少の自分と関わりがあった車に再会出来た事はとてつもない幸運である。
   始まりと終わりが様々な屈折を経て繋がり、輪廻の様な物を成した事に軍曹は酷く満足していた。このまま自分の人生が終わることにも満足出来る気がしていた。

 

 しかし、彼女の一風変わった死を運命は許さなかった。
   砲声が何故か自分のいる位置の背後より轟き、咄嗟に瞼を開けてみると、次には此方へ照準していたダックが轟音と共に爆発した。
   一体何が起きたのか、軍曹はおろか、まだ辛うじて建物二階で生き残っていたラゲルや民兵達も理解出来なかった。
   だが、疑問の答えは自ら此方へ走り寄ってきた。
   聴き慣れた民間車両のエンジン音が背後より近づき、広場に飛び出した際に一旦音が収まったかと思えば、今度はエンジン音とは明らかに違う砲声が再び轟き、正面の歩兵部隊を蹴散らしていく。

 「…軍曹っ。 まだ終わっていない!」

 近くで鳴り響いた爆音の為に、軍曹の耳には鬱陶しいまでの耳鳴りが起きていたが、それでも聴き慣れた声が鋭く彼女の脳を揺さぶった。
   声のした方へ銃座より首を向けると、ディスガイアの傍らにはアーキル民間車両へ改造を施し、荷台に対空砲を装備した戦闘車両があった。
   そして、その前部の補助席より顔を出しているのは、先ほどに無言で逃げ出した筈の少尉であった。
   彼女は誇らしげで力強い表情をしている。
   先刻のような怯えは顔の何処を探しても見当たらず、全身に情熱を迸らせながら、運転手と荷台の砲手へ指示を飛ばす。

 「次弾は距離を詰めろっ! 以降は連続射撃っ! 帝国人共を帰郷させてやれっ」

 彼女はそう叫び立てながら、補助席から素早く降車するとディスガイアへ飛び移り、軍曹の肩を持った。
   その間に続けざまに砲撃が起こり、勢いを取り戻した民兵達が2階からの攻撃を集中させているのが脇目に確認できる。

 「…少尉殿、戻ってきたんですかぁ?」

 強い力で引っ張られつつ、もうすでに用を為さなくなったワイヤーを解かれながら、軍曹は彼女へ素っ頓狂な声音で問いかけた。

 「…ニヂリスカ人に、アーキルの民を先導されたとあっては笑い者だ」

 少尉はそう何処か憎々しげに小さく呟いて、軍曹を銃座よりなんとか引きずり下ろして、ディスガイアの脇へ置いた。

 「なんとしても、我々だけで戦い抜くんだ…そして、街を奪還する…我々だけでもな…」

 そう彼女は繰り返すように宣っては、中央街路の方へ顔を向けた。
   合流した軽戦車も破壊され、再び浮き足立った敵部隊は遂に逃走を始めている。
   どうやら、この場において民兵部隊は勝利を収めることが出来たらしい。
   しかし、あくまでこの場だけである。
   いずれ、市街地の外部からアーキル軍の増援が送られる日が、いずれ来る筈だが、それが何ヶ月先か何年先かはわからない。

 だが、それでもこの市街地で戦い抜くことを決めた、正規軍の首輪から抜け出した狼達は、それを強く誓う為に銃声と砲声から成る、咆哮を天高く発したのである。

最終更新:2017年02月23日 12:38