"ドーゼック”開発士官実地試験参加時の回顧録

帝国軍技術少佐マルトン・コヴァーチ記す
599年某日

外の世界はきな臭くなってきたが、カノッサ大湿原はいつも通りであった。
相変わらずのジメジメとした嫌な暑さ。今日の天気は晴れのちスコール。最悪だった。

「だぁー!一体どうなってんです?攻勢開始時刻を半刻も過ぎてますぜ。何か連絡があってもいいでしょう」

クソ暑いのにはうんざりですぜ。と文句を垂れていたのは砲手のエドガー曹長である。
口は汚いが、元々ダック軽戦車の砲手で榴弾を中てる腕は中々のものがある。
彼の乗っていたダックはカノッサの沼地で見事スタックしている・・・ 乗員は転属となり彼が本車に回されてきた
カノッサでは珍しくもないことだが装輪戦車を湿地帯に持ってくるほうがどうかしている。

だが我々の乗っているこいつは違う

「仕方ないでしょう。生憎のどしゃ降りだし例の件もある。 たぶん何台か戦車を引き抜かれて貴族どもがテンパってるんだと思います」

と話すのは操縦手のフランツ軍曹。
帝都出身の軍学校出でありある程度の学がある。 読み書きできるのはこの中で私とフランツだけだ
他の者とは違う発想で皆を驚かせてくれる。

「ニック、お前はどう思う?」 と私が話を振る

「例の・・・連邦が帝国本土に大艦隊戦を仕掛けようって企んでるとかいう噂ですか・・・? ぼくにはさっぱりです・・・。
  戦争はもううんざりです・・・早く故郷に帰りたい・・・」

と本車自慢の生体式赤外線連絡器官の受像ゴーグルをいじりつつ力なく呟いたのはニック上等兵
彼は徴兵されてきて司令部付の通信兵に配属されていたが、私が引っ張ってきた
オリジナルから増員された通信手が欲しかったのだ。 泣き言はいうが飲み込みは早くすぐに本車の通信器官を使いこなしてくれた。

「ニック! てめぇの話を聞いてるとこっちまで湿気ってくらぁ! ちったぁ前向きに―」

エドガーがニックに凄むのと同じくらいに、パシュッ!という音と木々の間から赤い煙がまっすぐ空に立ち昇ったのが見えた。

同時に甲高く笛の音が聞こえ、辺りから兵士の怒号が響き渡る

周りからゼクセルシエ空挺戦車が滑らかに発進し、そのすぐ後ろを泥に塗れた歩兵たちが突撃していく!

「攻勢の開始だ! フランツ!発進準備! ニック!戦車小隊各車に通達せよ!戦車発進!」

むぉぉん!と生体機関が唸る。 
私が工廠に掛け合って何とかここまでこぎつけたゼクセルシエ武装強化案「ゼクセルシエ-210」
ダック軽戦車は高火力だがネックであった装備弾数を大型砲塔の搭載で解決! 装甲はあの楔装甲で申し分ない防御力である!
そして私が考案した赤外線連絡器官!これにより夜間であっても連携して統制射撃をすることが可能となった!
敵の野営地に砲弾の雨を降らせることも出来るということだ!

これらの有用性をこのカノッサ湿地帯での戦いで証明してみせ、帝国を勝利に導いて見せる!

そして私は貴族にのし上がるのだ!

 

 

 

なんということだ
どうやら我々は攻勢から落伍してしまったらしい・・・
210ミリ砲を積んだことによる重量増加は予想以上のものだったようで、ゼクセルシエ本来の機動性はほぼ失われ、
もはやダック軽戦車に毛が生えた程度の機動力である。
車体が重みで沈み込んで下半分が泥塗れだ。 こんなことはゼクセルシエオリジナルではなかった・・・
他の車の者からは ”ドーゼック” とか渾名されている始末だ 
”のろまなゼック” ・・・・

長かった雨もやみ、あたりからは恐ろしく奇妙な原生生物の鳴き声しかしない
もう日が傾いてきているので野営地の設営を・・・
いや違う。機動性は劣悪でも、夜間一斉連携砲撃ドクトリンはまだ有用性が証明できるはずだ!
小隊各員に発進準備を急がせる。 日が暮れるまでに友軍に合流できれば、この車両の素晴らしさを知らしめることができるはずだ!

 

何とか夜までに友軍の野営地にたどりつくことができた。
だがここからが大事なのだ。隊の皆は疲弊しているが、それは敵方も同じのはずだ。
休息している所を砲撃すればいくらアーキリアンやパゼリアンといえどもひとたまりもないはずだ。

遠眼鏡で遠くにたき火と思しき光を発見。 すぐにニックに伝え、座標を赤外線連絡器官で僚機に送信する。
ニックの装備する受像ゴーグルからは照射器官にある生体眼の視界が表示され、通信手の瞬きによって
発光/消灯を切り替えることによって発光信号を送ることができるという仕組みだ。
通常の可視光なら夜間の光通信は致命的だがこの器官からは人の目からは知覚できない光が発せられるというわけである。

みておれアーキリアン貴様らが寝こけている間にも我々は粛々と攻撃準備を

 

3号車が

    

                 し

  爆炎で         目が

 

 

 

一号車操縦手 フランツ軍曹代筆す


発光信号リレーを行っている最中に何処かから・・・ おそらく敵方から砲撃を受け、3号車と4号車が大破炎上、
及び後退中に六号車が炎上、追撃を恐れ泣く泣く放棄したらしい
三号車が吹っ飛んだ時の爆炎で目をやられてしまった
あれだけの爆炎・・・おそらく弾薬満載の砲塔側面にもらったに違いない

どうなっている? どう考えてもあの照射器官を狙われたとしか考えられない
アレは不可視光を発するものだ。それを狙うとしたら我々のように不可視光をとらえる受像ゴーグルを持っており、
なおかつ我々以上の赤外線光を発して暗闇を拭える能力をもつものしか・・・

いや、聞いたことがある。超長距離から人知れず、暗闇でも狩りをやめない巨人の噂を。

そうか、ヤツは不可視光線で敵を索敵しているのか!
だからヤツには我々が見え、連絡用途でしかない我々の受像装置ではヤツが見えなかった!

これは大きな発見だ!

・・・しかし、このゼックであの化け物を倒せるとは思えない。
ヤツには我々以上の赤外線照射器官がある上、暗闇の中正確に我々の照射器官を撃ち抜いてきた
砲精度が段違いだ。 我々の210ミリ砲の直撃が運頼みの代物では撃ち合って勝てるわけはない。
おのれ共和国め、ここは下がるしかなさそうだ・・・

エドガーが榴弾を撃ちたそうだったが何とか説得する。
相手を吹っ飛ばす前に我々が吹っ飛んでは元も子もない  もう何台か吹っ飛んだが
それに応急処置を施したとはいえ目が痛む。 後方で治療を受けなければならない。

そして例の巨人戦車の夜間索敵術を司令部に報告せねば・・・

これを書き終えさせた後は木々に車体を潜ませつつゆっくりとその場を離脱することにする。

6台中2台被撃破、1台炎上放棄とは大変な失態をしてしまった
あの巨人の情報を報告すれば私も首の皮一枚繋がるだろうか・・・

 

 

 

 

 

最終更新:2017年03月22日 13:41