荒野のレーサー

 潤滑油と、燃料の焦げる臭い。
フルスロットルで唸りを上げるエンヂンの振動が尻を小刻みに震わす。それと同時に上下左右、車体が暴れるように飛んだり跳ねたり、急旋回、急発進を繰り返す。シートベルトに縛り付けられた体がその度にベルトが食い込み、きしむ。
機関砲の引き金にかける指の痺れをとる傍ら、隣席でハンドルを握る男がえらく楽しそうに大声を張り上げる。

「本日も快晴なり!今日も楽しいドライブだ」

真横に着弾した大口径弾の余波に車体が転がりそうになるが、ドライバーの巧みな操縦により態勢を立て直し、爆走を続ける。
銃座の覗き窓から見える絶望の光景を前にして尚、男たちを乗せたアーキル連邦陸軍兵器の代名詞、豆戦車ダッカーは砲弾の嵐にその身を投じていく。
引き返そうにも、ハンドルを握っているのは横の男。自分はただ隣席で死ぬのを待つばかりの哀れな銃手だ。

 

男が死地に飛び込む羽目になったのは半月ほど前に遡る。

 

最終更新:2017年08月04日 21:15