初等部向け生命工学授業の一幕

さて、ここに卵があります。

なんの卵かわかるかな。

最後まで聞いてくれた子にはこれをあげますよ。

 

静かになったところで、今日は生き物についてのちょっと面白いお話をします。

養殖とか、家畜という言葉を聞いたことがあるかな。

聞いたことがない、結構。

じゃあ、動物を飼うって聞いてなにを思い浮かべるかな。

偉い、貴族の人、荘園を持ってる。

そうだね、確かに立派な動物を飼っているのは偉い人だね。

なんで偉い人が動物を飼っているんだろう。

手を上げてみて。

はい、そこの君。

さすが、歴史の授業を受けた子はすぐに答えが出てくるね。

そうだね、偉い人たちが周りの危ない動物を従えたからだね

私達の祖先が偉大なことを成し遂げた結果、私達は安心して帝都に住めているんだね。

 

ところで、観葉植物を育てたことのある人は。

おお、そこそこいるね。

家庭にある食物加工機とは違って、水をやったり、夜は寒いから家の中に入れることもあるだろう。

ん、葉っぱを食べるために育てているって子もいるね。

そいつはすごい。

それはつまり、植物を養殖しているってことなんだよ。

みんな驚いたかな。

偉い人たちみたいに、ちゃんとした動物を飼うことがそうだとだと思ってたかな。

養殖や家畜化というのは、案外手軽にできるものなんだよ。

その証拠に、君たちは知らず知らずのうちに、植物を育てて利用しているんだ。

そうだね、家畜を想像しちゃうと難しいよね。

でも、そこをわかってくれたなら、次の話は簡単に理解できるはずだよ。

 

ここで本題に入りましょう。

すべての生き物は熱によって動くのはわかるよね。

君たちだって、食べ物を食べると体が暖かくなって力が湧いてくるだろう。

では、突然ですが問題です。

この机と椅子はなぜ食べ物ではないのでしょうか。

ん、いや全然引っ掛け問題じゃないよ。

はい、君。

おー、食べたことがないから。

いきなり惜しい答えが出ましたよ。

もう一人いこうか。

手を上げてる君。

そうそう、当たりです。

答えは、食べても力が湧かないから。

難しい言葉でいい換えると、食べてもエネルギーにならないからなんだ。

食べたものがきちんと吸収されて熱にならないと力が沸かないんだよ。

君たちはその机や椅子を食べて力が湧くかな。

食べても体が吸収してくれないから、力が沸かないんだ。

それに、美味しくないから食べる気も起きないよね。

 

じゃあ、君たちが食べられないものを食べて力が湧く生き物がいたとしたら。

そんな生き物、君たちは知ってるかな。

おお、早かった。

食物加工機だね、よくできました。

さすがに食物加工機は家具を食べないけど、人が食べられないものを食べて、人が食べられるものを生み出す生き物といえば、まさにそうです。

それって、偉い人たちが飼っている動物と変わらないんじゃないかな。

歩きはしないし、目も耳も鼻もないけど──お、もう察してくれた子がいるね。

そう、食物加工機は家畜が最後まで進化した姿なんだね。

 

もうちょっと時間があるけど、この話もっと聞きたいかい。

勉強熱心だね、じゃあちょっと難しい話をしようか。

家畜って、食べるためだけに育てているのかな。

食べる以外にも使いみちがあると思う人。

おお、じゃあ君、どんなことに使えると思う。

動物を増やすため、当たりです。

生き物を増やすのは生き物にしかできないね。

うまく動物を増やすためには、家畜にしておくのが一番だね。

他には、君。

偉い人たちが畑で動物を使っているって聞いた。

すごい、誰に聞いたのかな。

そう、お父さんから。

君も、君のお父さんもいいところに気がついたね。

みんな、土って触ったことはあるかな。

全員あるんだね、よかったよかった。

土って、長い間放おっておくとすごく固くなるんだよ。

それを、ちゃんとした畑にするにはすごい力がいるんだ。

人の力じゃどうしても難しい時には、大きな家畜が役に立つ。

足の力が強い動物なら、土をひっくり返す器具を付けててもそのまま歩ける。

偉い人が畑を持てるのも、力強い家畜がいてこそなんだね。

 

じゃあ、今回の授業のまとめのお話をしよう。

最初のお話からいこうか。

動物を飼っているのは偉い人が多いね。

偉い人達のご先祖様が危ない動物を飼い慣らしたから、動物を育てているのはほとんど偉い人のおうちなんだね。

飼われている動物はなんていうでしょう

そう、家畜といいます。

家畜は偉い人だけが持っているものでしょうか。

いいえ、違いますね。

形は違いますが、私達の身の回りのものにありますね。

食物加工機も、姿かたちが変わった家畜の一種です。

あ、そうだ、忘れてた。

家畜、つまり飼われている動物以外にも、管理して育てているということであれば、植物もそうですね。

二番目のお話が分かる人。

そう、人と家畜が食べるものの違いだったね。

人が食べられるものと、家畜が食べるものは違うことが多いです。

それは、体の作られ方が違うからなんです。

正しい食べ物でないと熱を生み出すことができませんね。

ただ、家畜のお肉は食べられるものが多いです。

人が食べられないものを食べて作られたお肉なら、人は食べられるんです。

その特徴を使っているのが、食物加工機でしょう。

まさに食物加工機は人の食を支えているすごい家畜ですね。

三番目、これで最後です。

家畜はみんな食べるために育てている、というわけじゃないんです。

偉い人で畑を持っている人は、家畜を使って地面を掘り返して畑にしています。

人ができない力仕事をやってくれるのも家畜です。

結論として、家畜というのは人が管理して、人の役に立つ動物のことをいいます。

同じように、養殖というのは、動植物を人がきちんと管理して育てる、ということです。

 

ここからは宿題のお時間です。

先生は、食物加工機が、食べるための家畜の一番新しい姿なんだよ、といいました。

食べる以外に、力仕事を任される家畜もいるんだよ、ともいいました。

それなら、君たちの身の回りにはたくさんの家畜がいると思ったかもしれません。

今回の宿題は、みんなの身の回りで、みんなの役に立っている動物、つまり「家畜」を見つけてくることです。

次の授業で、どう使われているもので、どう役に立っているのか発表してもらいます。

ああ、食物加工機はだめです。

授業でたとえとして出しちゃったからね、それ以外で見つけてくるんだよ。

先生もこの場でもう一つ「家畜」をいったほうがいいかい。

じゃあ、そうだね。

あんまりみんなの知ってるものをいうのも悪いからね。

みんなも自由研究でやったことがあるテツ草キット。

あの台座がそうだよ。

お、みんな、いわれてみればって顔してるね。

そうです。

みんなの家で、観葉植物とか野菜とかを育てている壺の中身も、あの台座の親戚なんだよ。

はいはい、今日の小授業は終わりです。

みんなまた今度ね。

宿題を忘れないように。

 

どうしたんだい、次の授業に行かないのかい。

すぐに家畜が思いついたけど、すごく不安だからあってるのかどうか聞きたいって。

いいよ、いってご覧。

……あー、それは……。

そうだね……確かに、そう。

それも家畜だよ。

君はすごい。

こんな答え、誰も思いつかないよ。

次の授業では、堂々と発表するんだよ。

そうだ、君が最後まで聞いてくれた子になったね。

じゃあ、これをあげるよ。

これはね、先生にもよくわからない卵なんだ。

本当に卵なのかな。

調べたけど、生き物がはいっているわけじゃないみたい。

でも貴重なものだからあげる。

大切にするんだよ。

 

 

そう、あの子の言う通り、戦闘艦はスカイバードという家畜を元にしている。

スカイバードも「家畜」だ。

帝国が……我々が「家畜」となるべく従わせたのだから。

まだ隠しておけるが、スカイバードの供給を乱獲で喪失するなど、あってはならならない。

供給力の喪失は帝国戦力低下、すなわち帝国が敗北するということに直結する。

そのためには、スカイバードの繁殖方法を突き止めなければ。

だが、一部のスカイバードから採取される、あの卵さえ解明できないのに、どうすべきだろう。

ああしかし、皮肉かな。

仮にどうにかなったとしても、だ。

私が真に恐れていたことは、もう起きてしまっているというのに、まだあがこうとしているなんて。

帝国に騎士章を持つものはいても、その本当の騎士の心を持つものはとうにいなくなってしまった。

もはや、私達の子供の世代にとって、スカイバードは我々の役に立つ動物でしかないのだから。

私達にとって「彼女」の声は遠く久しく、彼らが感じ取れるは計器の動きだけ。

神話から切り離された人は、科学を伴侶として生きる以外の方法を喪失したのだ。

帝国の騎士から「彼女」が完全に消えてしまうのも、時間の問題だろう。

社会の観念が根底から変質し、人を「彼女」から遠ざけてしまったのだから。

こうしてはいられない。

なんとかしなければ、だがどうやって……。

最終更新:2019年03月31日 00:18