『――ッ!――ッ!・・・―――――!』
鳴り響く警報、飛び廻る怒号、それは非常事態を差すものだろう。
それが鳴り響いた直後から人々は歩くのをやめ、走り出す。
ただし狭い空間なので早歩きが主なようだ。
ここは「帝国軍戦闘艦」の艦内、その部屋の一つ。
「あーったく、何だってんだ。」
一人の男がベッドから起き上がり、大きくあくびをしながらぼやく。
「連邦かどっかが警戒区域に入ってきたんだろ、いつものことだ。」
と二段ベッドの上から声が降り注ぐ。
「んなこたわぁってるよ。」
頭を掻きながらベッドから降りた瞬間、思わぬ衝撃に男はよろめいて転んだ。
「おいおい大丈夫か?」
上から青年が降ってくる。
「平気だ、転んだだけだぜ。」
男は強がりを言って見せたが、机に手を打ち付けたのか、手の甲に血が滲んでいた。
青年は男に手を貸しながらぼやくように、
「やけに荒い発進だな、なんかヤバそうなんだが。」
と言ったが、男は滲んだ血を吸いながら、
「いつものことさ、どうせ慌てたブリッジが緊急発進でもさせたんだろ。」
そう呟いてパイロットスーツにゆっくり着替え始める。
「おい、お前の機体の整備兵やってしばらく経つがもっと早く着替えられんのか?」
あまりの着替えの遅さに青年が苛立つが、男はそれを無視して意地でもゆっくり着替えるようだ。
『――!―ッ――――!』
「おい、艦内放送じゃローテーションを解除して全機発進しろと言ってるが?」
「まじかよ、相当やべえじゃねえか!」
すると男は5分はかかるだろう着替えを30秒で終わらせ始めた。
「最初からその速さで出来ないかね?」
既に着替え終えた青年は鏡で身なりを整えながら投げかける。
「うるせぇ、早くしやがれ!」
「早くするのはあんただろうに・・・まぁいつものことか。」
散らかる部屋を片付けながら青年はぼやく。
そして男が30秒を使って着替え終えた時、青年は部屋のドアを開けていた。
そこを男が駆け抜け、青年は部屋の中央にぶら下がる電球の紐を引いて消してから部屋を出て行った。
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「クククク・・・楽しいねぇ・・・」
男の物とも女の物とも言える中性的な声が暗い一室から響く。
「ぁあ、【気にしない】でよ・・・」
暗闇の中で何かがぼんやりと動き出す。
それは一見踊っているようだった。
「・・・あれぇ?君には見えてるのかな?」
挑発するような口の利き方だが、子供のあどけなさを残す声で何かは問いかける。
そして何かは踊りのような行動をやめ、近付いてくる。
「あっそっかぁ、君はカミサマなんだねぇ?」
口の端を持ち上げているのだろう、そんな雰囲気が伝わってくる。
「君は見るカミサマなのかな?それとも干渉するカミサマ?」
何かがゆっくり、だがさらに近づいてくる。
「あれ?そんなことも知らないの?じゃあ特別に教えてあげる」
鼻先まで来た何かは向きを変えて元居た場所に戻った。
「キミが見てるこの世界がねぇ、実はキミが見た部分以外何も無いって、信じられる?」
何かは振り返り、また踊り始めた。
「簡単に言うとね、キミが見た【艦内の様子とこの部屋とドアの外の一部】以外は何もない、って」
「普通は信じられないよねぇ?まさか一部が塗られただけの白紙のキャンパスだってねぇ?」
「キミが普通に見てくれたら白紙の部分は見えないんだよ?知ってた?」
何かは踊りをやめて向き直るとまた話し出した。
「ボクの事が気になる?気になるよねぇ?」
また近づいてくる。
「ボクはね、カミサマに作ってもらったんだ」
「カミサマが、他のカミサマを楽しませるために一度だけ与えてくれたイノチなんだぁ」
鼻先まで来て止まる。
「見るカミサマは本来ここに来ちゃいけないのにー」
だって・・・と言いながら後ろに回り、
「ここは舞台裏だよぉ?観客は大人しく座って貰わなきゃねぇ」
「え?こっちに来るにはどうしたらいいって?」
「簡単さぁ、演劇のシナリオを変える・・・いや、増やすといった方が正しいかな?」
後ろから抱き着くように、首に両腕を回し、
「キミが描けば良いんだよ、このセカイの行く末、その一部をねぇ」
「なんたってこのセカイはほとんど白紙なんだよぉ、キミの色をぶちまけても構わないんだぁ」
「そうすればキミも干渉するカミサマの仲間入りさ!」
「想像は創造され、創造は宗像になるかもしれないよ?」
何かは組み付いた腕を解き、回り込んで正面に立つ。
「まぁそれは良いとして・・・おっと、もうボクの役目が終わる時が来たみたいだよぉ?」
「カミサマが与えた一度のイノチだからね、カミサマの意向には逆らえないさぁ」
「じゃあ、またどこかで」
バイバイ、と手を振る。
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次の瞬間、部屋が爆ぜた。
いや、正確には深く食い込んだ徹甲榴弾が爆発し、部屋を巻き込んだと言った方が正しいだろう。
さらに艦の内部から連続して爆発音が響く。
内装が至る所に破片として食い込み、艦がギリギリと音を立てる。
続いて火災が起きた。
徹甲焼夷弾が至る所に撃ちこまれたのだろう、アラームが激しく鳴り響く。
そして艦は傾いていく。
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「お話はここでおしまいだよぉ」
「この話の続きは無いんだよねぇ、あるにはあるんだけどね・・・」
でもねぇ・・・
「別の視点から描かれる話はあるんだなぁこれが」
「まだ無いけど、きっとカミサマが描いてくれるよ」
「じゃあ、本当にさよなら~」
「次回の公演は未定、でもタイトルはもう決まってるよ」
「次回、『空戦偵察章』お楽しみに~」
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